【SS】膝枕の熱に包まれて

  • 1二次元好きの匿名さん22/11/13(日) 18:58:43

    ある日のことです。秋川理事長は夢を見ていました。
    不気味な程に静かで、寒い暗闇の中を彷徨う夢でした。
    周りを見渡しても、歩き回ってみても、真っ暗闇しかありません。
    手足の先から寒さが染み込みます。小さな体がぶるぶると震え始めてきました。
    寒くなると人肌恋しくなるのは人間の性です。
    ましてや、まだまだ理事長は子供の身。
    寂しさに耐え切れず、目尻に涙が溜まってきます。

    『叫喚ッ!誰か居ないだろうかッ!!』

    小さな体で精一杯叫んでみますが、なんの言葉も帰ってきません。
    普段は幼いながらも立派にトレセン理事長を勤めています。
    ですが、一人ぼっちだと年相応の面が出てしまうようです。

    『寂しいよ……お母様に会いたいよ……』

    とうとう耐え切れずに泣き出してしまいます。
    こぼれ落ちる涙に混じり、多忙で会えずじまいの大好きな母親を求める声まで漏れていました。もう嫌だ、と思ったその時です。

    頭部に感じる温かい感触と、包み込むような優しい声がしたのです。
    寒さと寂寥の涙でかじかむ体に、じんわりと染み込む熱。
    その熱に引き寄せられるようにして、理事長の意識は少しずつ浮上しました。

  • 2二次元好きの匿名さん22/11/13(日) 18:59:04

    横になり眠っていたみたいだ、と感じます。
    なにか柔らかいものを枕にしている気がしました。
    それと同時に、誰かが理事長の頭を優しく撫でているようでした。

    重い瞼を開けてみると。

    「あら?理事長、お目覚めになられたのですね」

    優しい声が理事長の頭上から聞こえました。
    来客用のソファの上でたづなさんが膝枕をしてくれていたのです。
    ふんわりと頭を包む枕が、柔らく撫ぜる手が。
    先程まで感じていた寂しさを和らげてくれました。

    寝てしまった前後の記憶が曖昧です。
    理事長室の外をみると、茜色に染まった空模様が見えました。

    「不覚ッ!仕事の途中に寝てしまうとはッ!!」

    山ほどの書類仕事が残っていた筈だ、と朧げに思い出しました。
    理事長は焦ってデスクの方を見ます。ですが、あんなに山積みだったはずの書類は綺麗さっぱり片付いていたのでした。

    「驚愕ッ!まさか、書類はたづなが……」

    「ええ。理事長は最近働き詰めでお疲れのようでしたから。一度しっかり休んで頂こうと思いまして」

    「それに、以前私を休ませるためと言って仕事を替わってくれたじゃありませんか」

    「ですから。今回はそのお返しということで♪」

  • 3二次元好きの匿名さん22/11/13(日) 18:59:32

    たづなさんが穏やかに理事長へ語りかけます。
    膝枕越しに見える、夕焼けの赤に照らされた優しげな緑の眼。愛おしげに頭を撫でてくれる姿が、理事長には逢いたくてたまらない母親の姿と重なって見えました。

    では帰りましょうか、とたづなさんが膝枕を止めようとします。
    ずっと頭を撫でてくれていた熱が遠ざかりました。

    外の空模様は茜色から宵闇へと変わりつつあります。
    なぜだか急に寒くなったような心地がしました。
    寒くなると、先程までの寂しさが蘇ってきます。
    堪えきれずに、たづなさんの――大好きな手を取って言いました。

    「よ、要望ッ……!あの、その……たづなさえ良ければ。もう少しこのまま頭を撫でていてくれないだろうか……?」

    たづなさんは、少しだけ驚いた顔をしました。
    ですが、すぐに母親に似た眼を再び理事長に向けると――

    「ええ♪理事長の気が済むまで。このままでいましょうね」

    理事長は再び、たづなさんに膝枕をしてもらいました。
    目を閉じると心地よい子守唄が聞こえてきます。温かい手が理事長の頭を撫でます。
    熱に誘われて、安心感と幸福感が心を満たします。
    あんなに感じていた寂しさはもうなくなっていました。
    これで明日からの仕事も頑張ることができそうです。
    頭を撫でる熱と子守唄に包まれながら、理事長はもう少しだけ眠ることにしたのでした。

  • 4二次元好きの匿名さん22/11/13(日) 19:01:30

    お読み頂いた方々、誠にありがとうございました。

    たづなさんへ年相応に甘える理事長が居ても良いと思いまして書いてみました。

    たづなさんのサポートおでかけイベント5以降の時系列を想定しております。


    前作

    【SS】Mの追想/魂の声援を君たちに|あにまん掲示板この世界では人間とウマ娘の間に生まれる不思議な絆の力が広く信じられている。一説には、人間のトレーナーがウマ娘を指導し、深い信頼関係を築くことによってウマ娘はレースにおいて超常の力を発揮できるとも言われ…bbs.animanch.com
  • 5二次元好きの匿名さん22/11/13(日) 19:19:03

    優しいお話でしたね〜

  • 6二次元好きの匿名さん22/11/13(日) 19:27:59

    理事長SSとはまた珍しい
    穏やかな雰囲気のSSで良かったです

  • 7二次元好きの匿名さん22/11/13(日) 19:30:35

    ァ...ァ...ァ...

  • 8二次元好きの匿名さん22/11/13(日) 20:01:49

    え…すき…

  • 9二次元好きの匿名さん22/11/13(日) 20:16:02

    ああ~

オススメ

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