【SS】御御御付け……?

  • 1二次元好きの匿名さん22/11/13(日) 21:35:28

    「あたし、何げ朝は和食派なんだよね。味噌汁めっちゃ美味いじゃん」

    そんななにげない一言に、あたしのトレーナーはびびっと反応してきた。

    「そうなのか?これは意外だった」

    「実家がそーだったんよね。毎朝味噌汁とご飯食ってたわ。パンと目玉焼きばっかくってそーって思ってたっしょ?」

    「うん……偏見で決めつけてしまってたね、すまない。それで、自分で作ったりもするのか?」

    「ううん、インスタントばっか。でも最近のインスタント味噌汁めっちゃ美味いかんね!?」

    種類も多いし、具材もゴロゴロの食べ応えバツグンなのが増えてきて、寮ぐらしになった時からずっと買いだめしてんの。コスパ良くてマジ助かるー!

    「ふむ……」

    トレーナーの方はなんか黙って考え込んじゃった。
    何考えてんのかゼンゼンわからんけど、どーせまたトレーニングのこと思いついたとかなんかな。

    「……それなら、自分で味噌汁を作ってみようか」

    「……は?急にどしたん?」

  • 2二次元好きの匿名さん22/11/13(日) 21:36:19

    ━━━ってな訳で、トレーナーの行動はめちゃ早だった。調理室の予約も取って、いきなり明日のトレーニング後、夕ご飯を作ることになったわけだけど……ちょい急ぎすぎじゃん?

    「自炊のスキルは身につけておいて損は無いからね。それに食事を自分で作ることで、レースに向けての身体作りも分かりやすくなるんじゃないかと思ったんだ」

    スーパーへの道すがら、トレーナーはそう話してくれた。食事の栄養素がレースの結果にどーこーみたいな話は授業で聞いたことがあったけど、確かに全くわからんかった気がする。

    「メシうめーでいいじゃん?毎日3食くうのにいちいち気にしてらんなくね?」

    「ははは……プロの栄養士さん程しっかり考えなくてもいいんだ。ただ、楽しみながら少しでも得るものを見つけて欲しいと思ってね」

    スーパーの野菜コーナーでトレーナーは目を光らせ始める。どれも一緒な気がするけど、こだわりって奴?
    それにしても、あんまマジに見たこと無かったけど……けっこー色んな野菜が置いてあるんだ。

    「あ、見て見て!このニンジンめっちゃ足じゃん、まじウケる」

    「規格外の野菜を安売りしてるのか。せっかくだし買ってみる?」

    「いいの?よっしゃ!後でウマスタあげっから写真撮らせてね〜」

    「いいよ。こう見ると野菜もそれぞれに違う顔があって面白いね」

    トレーナーの見よう見まねで野菜を観察してみると……思ったより色も形もバラバラで、けれどそれがバリエーションになってて鮮やかだ。
    イビツだけどカワイくて映える、それってネイルみてーかも?
    最初は正直つまんねーかもって思ってたけど、トレーナーと二人でスーパーを見て回るのは思ったより楽しかった。
    こっちの方が安いよって見つけたげたり、関係ない駄菓子をねだってみたり。
    こーいうのってさ。あれじゃね?まるで同棲したてのこい、び…………。
    …………いやいや、何考えてんのあたし。

  • 3二次元好きの匿名さん22/11/13(日) 21:36:55

    「では、これより楽しいクッキングの時間にはいります!」

    「うえーい☆ ぱちぱちぱち〜!3分クッキングやっちゃう?」

    「残念ながら、そう簡単に味噌汁は出来上がらないんだ。今からやれば分かるよ」

    エプロンもつけて準備はばっちし。よっしゃ、ジョーダンさんのプロっぷり、見せてやろーじゃん。

    「ではジョーダンに質問だ。味噌汁の『汁』の部分は、どうやって作るのかな?」

    「は?バカにすんなし。流石にあたしでも分かるよ。お味噌溶かすんでしょ?」

    正解だ、と満足そうに呟いたトレーナーは、ケトルと味噌のパックを目の前に置いてきた。味噌をお椀にすくってお湯をかけて溶かす。これってインスタントと同じじゃん?どーいうこと?

    「試しに飲んでみてくれ」

    「う、うん……いただきます」

    お椀に口をつけてすする━━━うえっ。

    「なんこれ……びみょい」

    味噌の味はするけど……それだけ。全然美味しくない。インスタントのパックに入ってる味噌とは、完全に何かが違うことはわかった。

  • 4二次元好きの匿名さん22/11/13(日) 21:36:59

    ごごご... おみおつけ

  • 5二次元好きの匿名さん22/11/13(日) 21:37:33

    「だろう?インスタントみたいに溶かすだけでは味噌汁はできないんだ」

    「へえ〜……要はさ、他になんか入れんと美味くならねーってこと?」

    「その通り!今から作るのは味の決め手とも言える『出汁』だ」

    トレーナーが指さした鍋の中身を覗くと、底には昆布が沈んでいた。ゆらゆらと重そうに沈みこんでいる。

    「……なんかシュールじゃね。火かけんの?」

    「うん、じゃあやってみようか」

    コンロのツマミを回す……あれ、なんか音はすんのに火がつかない。
    もう1回えいやっと回し直すと、ようやくぼうっと火が灯った。いきなりの熱に思わず仰け反る。

    「うえっ!小さくしてと……こんな感じでいー?」

    「そうだね、弱火で10分くらい煮込むんだ」

    「……料理ってさー。『少々』とか『きつね色になるまで』とか、そんなん人によりけりじゃん?そこんとこどーなん?」

    分量にはキビシークセに、肝心なとこはぼかしてくんの。ずるじゃん!
    トレーナーは困ったように笑って、一言。『経験、かな』

    「え〜!アンタもずるかよ〜!」

  • 6二次元好きの匿名さん22/11/13(日) 21:38:23

    小言もほどほどにして、今のうちに具材を切る事に。
    包丁を握ってニンジンを1口サイズに……あれ、持ち方ってこんなだっけ?犬の手?

    「猫の手、ほらこうやって……」

    真後ろにトレーナーの気配を感じる。あたしよりふた周りも広くて、包み込まれるみたいな。手が重なり、あたしは身を任せるままになっちゃう。

    「ん……こ、こんな?」

    「そうそう、上手」

    まな板を叩く音と、いつもよりもっと近くに感じる息遣い。な、なんこれ。ムズムズすんだけど。
    手が滑って指を切ったりしないか、それだけが心配だった。

    「こ、これくずれそーなんだけど!?」

    「頑張れジョーダン!」

    その後絹ごし豆腐をボロボロにしたりもしたけど……なんとか何事も無く具材を切り終えることが出来た。お湯が沸騰するまでの少しの時間だったのに、何時間にも長く感じた。
    変な汗かいたわ……におってないかな。食材の香りでごまかせてるから大丈夫……なハズ?
    なにはともあれ……イビツな人参と豆腐とあぶらあげ、それとネギ。これがあたしの初めての具材だ。

  • 7二次元好きの匿名さん22/11/13(日) 21:39:06

    「火をを止めて……この昆布は取っちゃっていー?」

    「うん。試しに1口かじってみて?しっかり出汁が出てると思うよ」

    言われるままに昆布の端をちょっとだけ……。

    「味まっったくねーじゃん!これスゴくない?」

    なんこれウケる。食材を口に入れて味が全くしないなんて、変な感覚じゃん?

    「上手く出汁が取れたみたいでよかった。次はこれに鰹節を入れよう」

    サラサラとしたかつお節が水に溶けて小さくなってく。お湯の色は金色に輝いてて、まだまだなのにお腹が空いてきそう。
    4分くらい経ったところで火を止め出汁を『こす』作業。
    ざるを通してきらきらの出汁がボウルにたまってく。湯気からもうまそーな香りが鼻を通って、いよいよそれっぽくなってきたかも?

    「あつっ……めっちゃ湯気出てんね」

    「火傷に気をつけて……うん、よくできたね。お疲れ様」

    「ありがと……って、でもこれでよーやくスタートラインって感じじゃね?長いって〜!」

    まだ出汁がとれただけ。これとお味噌を混ぜてよーやく味噌汁になるらしい。インスタントのお手軽さとは真逆の苦労っぷり。
    それでも、完成したモノはきっとサイコーの出来なんだって予感がした。

  • 8二次元好きの匿名さん22/11/13(日) 21:39:47

    「よし!今切った具材を出汁と一緒に加熱してみよう」

    鍋に苦労の結晶を流し込んで、点火。
    ぐるぐると具材たちが鍋の中で踊ってる。あたしのテンションも完成が近づくにつれアガッてくのを感じる。

    「お待ちかね、味噌を溶かしてみよう」

    「それママがやってんの見たことあるし!お玉でカチャカチャするやつっしょ!」

    箸とお玉をトレーナーの手から引ったくり、早速やってみる。おぼろげな記憶を頼りに、味噌を溶かしてく。ママもこうやって、あたしにご飯を作ってくれてたんだ。

    「……なんかさ、ママになった気分」

    「うん……いいお母さんに見えるよ」

    「マジ!それじゃアンタは……いや、なんでもねー」

    そこまで言って、やっぱり口を閉じる。ジョーダンのつもりで軽口を叩こうとしたのに、できなかった。
    どうしてか、ココロの中に照れがでてしまったから。

  • 9二次元好きの匿名さん22/11/13(日) 21:40:50

    味噌を溶かしたら沸騰しない程度に温める。香りがとんでしまわないようにするためらしい。最後にネギをさらっと投入して……

    「できたー!!」

    「やったなジョーダン!」

    トレーナーとハイタッチを交わす。味噌汁1品作るのにこんな疲れるとは思わなかった。でも、

    「めっちゃうまそーじゃん!早くくお!」

    やりがいっての?目の前のお味噌汁は今までで1番美味しそうに見えた。お椀に味噌汁を注いで、トレーナーが炊いててくれたご飯と、スーパーで一緒に買ってたパックの煮魚を開ける。

    「いただきます!」

    手を合わせて早速お味を確かめる。恐る恐る、お椀の端に口をつけて、湯気と一緒に1口目。

    「━━━おいし」

    ポロッとこぼれてしまった感想。ハンバーガー食った時みたいなハジける美味しさじゃなくて、優しくゆったりと染み込んでくるうまみ。
    ああ、ママが作ってくれた味だ。こんなに手間暇かけて、毎日作ってくれてたんだってはっきりわかる。

    「うん……風味が良い、最高だ」

    トレーナーも気持ちは一緒みたいだった。しみじみと呟いて、また1口。

    「なんか……あったかくていいね」

    「そうだね」

    途端に口数は少なくなったけど、この空気感が心地いい。家族みたいな安心感を、トレーナーとの間に感じたひとときだった。

  • 10二次元好きの匿名さん22/11/13(日) 21:41:30

    「━━━いやマジで美味すぎじゃね?あたし才能あるかも?」

    「うんうん、自炊に興味が出てくれたみたいで良かった」

    2杯目をおかわりしながら思う。この食事が美味しいのは、料理の出来だけじゃなくて……一緒に食べる誰かがいてくれてるってことなんかな。
    それは子供の頃、パパとママと囲んだご飯の美味しさのことで。
    そしてあたしは大きくなって、今度はあたしがそんな食卓を作ってく番なんかな。
    ……よくわからんけど。分かることは、いつかの未来もこーだったらいいなっていう想い。

  • 11二次元好きの匿名さん22/11/13(日) 21:42:00

    「……あのさ。あたしこれから料理めっちゃ頑張るからさ」

    「お、それは素敵な心がけだね」

    「上手くなったそんときはさ……またあたしの味噌汁、食べてよ」

    「ああ……いつでも待ってる」

    「1度じゃないかんね。何度でもずっと……新しいレシピ覚える度に、くってもらうから」

    「……それは」

    それ以上は言わせない。しっかりと瞳を見つめて告げる。想いが伝わるように、思いっきりいっちゃえ。

    「賢いアンタなら分かるっしょ?家族になってご飯を囲むなら……アンタが、いいの━━━━

  • 12二次元好きの匿名さん22/11/13(日) 21:44:47
  • 13二次元好きの匿名さん22/11/13(日) 21:49:47

    味噌汁だけでお腹いっぱいになっちゃったよ

  • 14二次元好きの匿名さん22/11/13(日) 21:51:04

    先生助けて! さっきまで転げ回ってた心のデジたんが息をしてないの!

  • 15二次元好きの匿名さん22/11/13(日) 22:01:53

    料理の描写凝ってて好き
    ちゃんこ伊達じゃねえ

  • 16二次元好きの匿名さん22/11/13(日) 23:09:28

    この時期は豚汁とか食べたくなるねえ

  • 17二次元好きの匿名さん22/11/13(日) 23:12:44

    そうだ、味噌汁飲もう

  • 18二次元好きの匿名さん22/11/13(日) 23:26:28

    味噌汁なのにシロップ飲んでるような甘さだよ

  • 19二次元好きの匿名さん22/11/13(日) 23:28:51

    この味噌汁うめーなジョーダン!

  • 20二次元好きの匿名さん22/11/13(日) 23:30:31

    なんか知らんが泣けてきた
    すごく良かった

  • 21二次元好きの匿名さん22/11/14(月) 00:14:24

    これから寒くなってくるこの時期に丁度いい温かさ

オススメ

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