- 1二次元好きの匿名さん22/11/15(火) 23:31:34
「寒いなあ、もう息もこんなに白いや」
ある日の帰り道、あなたは言葉通りに白い息を吐きながら、唐突にそんなことを言い出した。
もう11月も半ば。暦も秋から冬へと移り変わる。部屋に眠っているカシミヤのセーターも、そろそろ日の目を浴びる頃かもしれない。
「こうやって息が白いのに気づくとさ、今年も冬が来たんだなって感じるよ。今年はトレーナー室に炬燵なんか出そうかと思っててさ、アヤベはどう思う?」
「別に、炬燵で寝ないのならいいんじゃないかしら」
この人はまた変なことを言い出して。務めて淡白な返答をすると、それでもあなたは嬉しそうに笑っている。
「……何よ」
「いや、大したことじゃないんだ。ただ、こういうなんでもない会話が珍しいなって思って。……あんまり、季節の話なんてしなかったもんな?」
「……そうね。今まで季節の移ろいなんて考えることもなかったわ。あったとしても星の移ろいと、着る服がどうとか、それくらい」
そう。季節が変わったからといって、それを転機に何かを楽しもうと思ったことは今までなかった。
クリスマスや夏祭りに浮かれている暇があったらトレーニングをしたかったし、あの子を想って見上げる星空が少しづつ表情を変えてくれるだけで十分だったから。
そう言うと、あなたは露骨に困ったような顔をして。
「……人生は楽しいよ。そりゃ時々辛いこともあるけどさ、世界は毎日変わり続けていて、同じように自分も変わってるんだ。たまには周りに目を向けるのもいいことだよ」
「言われなくても人生を楽しむ気概くらいはあるわ。……ようやく、うまくいきはじめた頃だもの」
去年のクリスマス。思えばこんな風に息が白かったときのこと。誰かのためにプレゼントを選んだのなんて初めてだった。そして、家族以外の誰かから改まってプレゼントをされたのも。
そんな地に足がついたようで、それでいてどこかふわふわとした生き方をするようになったのが誰のせいかといえば、それはきっと目の前のあなた。
「来年もこうやって話ができていたらいいな」
「そう────ね」
私の息が色を失って、かわりに汗をかくようになって────それから、また白ばみはじめても。
きっと隣には同じようにあなたがいるんでしょう。新しい発見をした子供のような顔をして。 - 2二次元好きの匿名さん22/11/15(火) 23:32:08
帰り道で息が白くなってて冬の音ズレを感じました。おやすみなさい。
- 3二次元好きの匿名さん22/11/16(水) 00:17:31
良い空気感だ
好き