【SS】翔る魔女と支える使い魔

  • 1二次元好きの匿名さん22/11/16(水) 08:39:35

    「はっ、はっ、はっ…よし、これでこのメニューは終了ね!」
    「お疲れ様!ドリンク用意してるから飲んでね」

     晩秋に差し掛かった頃の11月暮、スイープは年末のグランプリレースに向けて始動していた。エリザベス女王杯での激闘後、つかの間の休息を挟んでの始動は彼女がこのレースに賭ける想いが強い証左でもある。

     ならば、こちらもその想いに応えるべくスイープのコンディションにあったメニューを作って徐々に身体を仕上げていこうと彼女のトレーニング風景をつぶさに確認し、変わった点や改善点を見つけて指示を送る。

    「はあ〜もう、さっむい!使い魔、コート!」
    「おう!…もう12月になるからね、お互い体調管理が大事になるね」

     昼なら、秋の陽気が漂う心地いい時期なのだがグラウンド内のナイターの明かりが灯りだす頃は一転して冷たい風が吹き出して熱を帯びた身体を容赦なく冷やしてくるので適度に汗をかいた状態でトレーニングに臨むのが鉄則である。冷えた身体は怪我のリスクも上がる為、尚更だ。

    「よし、そろそろ次のトレーニングの時間だからコート脱ごうか」
    「うぅ〜、さむさむさむ…次何だったかしら!?」
    「次はポイント走だな。1500mを全力で走った後に1分レストを空けて最後1000mをまた全力で走ってその時の合計タイムと昨日2500mを通しで走った時の差と確認しよう。一応3セットを予定しているので負荷も強いだろうが気合い入れていこう!」
    「ようは短距離2本×3ってことね!やってやるんだから!」

     スタート位置に駆けていく頼もしい後ろ姿を見送る。正直、このメニューは一般的に追い込みメニューなので今やる必要はないが、今の限界と自分が実現可能な可能性を知った上で目標設定をするという点ではむしろポイント走を始動後最序盤に実施するのはスイープにおいて好都合に当たる。

     彼女は、目標が高ければ高いほど燃える少女だ。そして、彼女の脚なら短距離は適外と言えどギアの入った走りをすることも可能だ。己を知って、可能性の先にいる自分をも超える。そうやって彼女は結果を残してきたのだ、そんな彼女には一番ハマったトレーニングだろう。気合の入った彼女の走りを見ていると、俺も手を抜いたメニューは出せないなと頑張ろうと奮起する力を与えてくれる。

    「はああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

     何故ならそれが彼女の魔法なのだから。

  • 2二次元好きの匿名さん22/11/16(水) 08:39:58

    「はあ…はあ…ふうっ」
    「お疲れ様!これで今日のメニューはダウンだけだから息整ったら行こうか。はい、ドリンクとジャージ」
    「んく、んく…ぷはー!はー走った走った!もう脚パンパン…」

     最後の一本を終わらせ、ゴール板後ろで息切れしているスイープを労う。相当汗をかいたのか、彼女の周囲からは湯気が上がっておりトレーニングの濃密さを語るようだ。額を輝かせる汗を拭いつつ、息が整うのを待ってダウンに付き合いながら今日の反省を話し合う。

    「で?アンタから見てアタシの走りはどうだったの?」
    「タイム自体は昨日測定した2500mの記録よりかは全て速いけど1000mの通過タイムが前回と今日でそこまで差がなかったのは無意識?それとも意図的だった?」
    「基準にするタイムは速すぎても遅すぎてもペースを乱しそうな原因になるから狙ってやったわ。だいたい59秒から60秒の間を狙ったつもりだけどどうだったかしら?」
    「うん、大まかにそんなもんだったし意図的か、ならいいや」

     こっちとしては全力想定ではあったが、彼女の中ではいかなる時も刻んだペースで走ってレース中の動揺を少なくしようという実際に走る選手だからこその狙いもある。こういう認識の差は次のメニューを作る時の参考になるのでありがたい。

     ダウンとアイシングを終えて、トレーナー室に戻る。スイープが着替えている間にさっき彼女と話した事を踏まえて明日のメニューに微調整を加える。ペースランも取り入れるべきかと思案していると、彼女が戻ってきたので脚のマッサージをしながら雑談に花を咲かせる。

    「あーお腹空いた。夜何食うかなあ」
    「うっ…そういえば今日の晩ごはん、回鍋肉じゃない」
    「?いいじゃん回鍋肉。おいしいしご飯すすむし」
    「だってだって、ピーマンがゴロゴロ入ってんのよ!?フジさんが食べきるまで目光らせてるし…」
    「…どっか食いに行く?」
    「!ふふん、使い魔がどうしてもって言うなら行ってあげなくもないわよ?」
    「ああいや、別にいいなら今日は解散ってことで」
    「や、ヤダヤダヤダ!使い魔と一緒にご飯行くもん!」
    「うお、分かったから暴れないで!押すとこ間違え────」
    「〜〜!!いったあい!」
     
     だから言わんこっちゃないと、プリプリ怒るスイープをなだめる。多分、何年経っても俺達はこんな感じなんだろうなと心の底で苦笑いするのだった。

  • 3二次元好きの匿名さん22/11/16(水) 08:44:00

    仕事休みになって暇になったので短めのやつを書きました
    やっぱり題材がスポ根ものですし普段の部分や練習風景に焦点を当てたものも書いてみたいなとなりやってみましたが存外楽しかったのでまたやってみるかもわからないです。
    メニューはスレ主が陸上競技部出身なので想像しながら組んだのでなんか違うんじゃない?と解釈違いが発生しそうな気はしますがそこはどうか補完してあげてください許し亭

  • 4二次元好きの匿名さん22/11/16(水) 09:34:45

    いちゃつくスイープSSは良い…

  • 5二次元好きの匿名さん22/11/16(水) 10:14:44

    いいね
    指導者の思い描く理想と選手自身が考える理想ってどうしても食い違うし時たまそれが原因で対立しがちだけど使い魔はちゃんと意図を聞いて理解を示してるからその描写で指導者と選手としてもいい関係だなって思いました

  • 6二次元好きの匿名さん22/11/16(水) 10:54:38

    使い魔って振り回されてるようで意外とスイープを振り回す事も多いのよね、福引の一等のイベント見るに

    そういう意味でなんかお似合いだよなあこの2人って微笑ましく思うよ

  • 7二次元好きの匿名さん22/11/16(水) 11:56:24

    前後の落差すき
    真剣に練習してる場面もいいね

  • 8二次元好きの匿名さん22/11/16(水) 12:06:02

    こういうトレーナー業の細かい描写難しそうだけど
    あればあるだけ脳内で補完されていいよね

  • 9二次元好きの匿名さん22/11/16(水) 12:31:07

    スイープは可愛いですね でも野菜は食べよ?

  • 10二次元好きの匿名さん22/11/16(水) 13:11:01

    回鍋肉のピーマンはガチ
    騙されたと思って食べて♡

    こういうSS大好物だからもっと書いてほしいな♤

  • 11二次元好きの匿名さん22/11/16(水) 17:05:18

    練習中もそうだけど、ダウンに付き添ってたり終わった後マッサージしてたり献身的でいいなって思いました

    向こうの世界のトレーナーも皆こんな感じなのかな

  • 12二次元好きの匿名さん22/11/16(水) 22:09:39

    SS紹介スレから来ました。
    アプリでもトレーニングメニューとかはあるけどそれをトレーナーがどう思って実施させて、またウマ娘もこのSSのように自分の中で目標設定を決めて行って…みたいな筋書きのお話を作るのも面白そうだなと思いました。

    甘い訳でもなくスポ根してるの大好物です!ご馳走様でした😋

  • 13二次元好きの匿名さん22/11/17(木) 08:23:58

    レスするのも今更な気もしますが面白かった、いつもありがとうございます😊

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