ライドウの「安倍星命」が好きって前言ってた人に勝手に捧ぐ

  • 1図書委員◆1NwnY0XjPs22/11/17(木) 22:22:58

    以前、このカテで「昔のマイナージャンルに今さらハマったけど供給なくてツラい」みたいなスレがアップけど。
    そこで「葛葉ライドウ」シリーズの「安倍星命」が好きって方がいたけど。
    私もライドウシリーズ好きなので、せっかくだからSSを書いた。
    もしその方がこれ見てたら読んでくれると嬉しい(必ずしも星命メインではなく、ライドウと鬼滅クロスに星命も出てる感じですが)

  • 2図書委員◆1NwnY0XjPs22/11/17(木) 22:26:20
  • 3図書委員◆1NwnY0XjPs22/11/17(木) 22:28:47
  • 4二次元好きの匿名さん22/11/17(木) 22:32:54

    マイナーキャラの創作を書いてくれるとか神じゃん…

  • 5図書委員◆1NwnY0XjPs22/11/17(木) 22:50:18

      【葛葉ライドウ×鬼滅の刃SS】【安倍星命、凪、不死川玄弥】
    デビルサマナー・十四代目葛葉ライドウ 対 鬼殺隊岩柱・悲鳴嶼行冥


     じゃりん、じゃりんと音が響く。闇に鎖の音が響く。明かりも無いまま男は歩く。けれど男の足取りは、辺りが真昼であるかのように、欠片の迷いも遅れもなかった。穴のような闇の中で。

     もっとも男にとって、闇も真昼も変わりはなかった。暗いかそれとも仄《ほの》白いか、それだけの違いだった。巨体を包む衣に『南無阿弥陀仏』の六字を散らした屈強の男。悲鳴嶼《ひめじま》 行冥《ぎょうめい》の目は光を映さず。

     だがその事実は、彼の足取りを些《いささ》かも遅めるには足らず。そしてまた、彼の地位を貶《おとし》めるにも足りなかった。鬼殺隊――闇に紛れ人を喰う者、人にとっての天敵、厄災とすらいえる『鬼』。それらを狩る者ら『鬼殺隊』――最強の隊士としての。

  • 6図書委員◆1NwnY0XjPs22/11/17(木) 22:52:31

      【第一章】悲鳴嶼行冥、悪魔召喚師《デビルサマナー》と相見《あいまみ》える

    「――舎利弗《しゃりほつ》、若有善男子善女人《にゃくうぜんなんしぜんにょにん》、聞説阿弥陀仏《もんせつあみだぶつ》――」
     悲鳴嶼《ひめじま》行冥《ぎょうめい》は経を唱える。歩みを止めず経を唱える。その音声《おんじょう》と手の内で鳴らす数珠《じゅず》、その音響が彼の目だった。

     ――放る、肺から空間に声、宙に消えかけたそれがわずかに返る。弱い、声のかなりの部分は当たった物に吸収されている、二十と三歩先に襖《ふすま》、襖紙は破れ幾つも穴が開いている様子、周囲は板壁。
    しかし広大に過ぎる、壁も天井も、声の返りがあまりに遠い。一部屋一部屋がまるで大広間。家屋として明らかに不自然、あるいは何らかの血鬼術によるものか――。

     ――踏み締める、足から返る感触は畳、毛羽立《けばだ》ち|苔生《こけむ》してさえいる、ただしさしたる凹凸《おうとつ》は無し、直径三十歩程の空間も、敷居がある他は同じ。
    ただ五歩前四歩左の畳の下、床板が腐っている様子で反響が柔《やわ》い、無論真っ直ぐ歩めば問題はない――。

     ――かき鳴らす、手にした数珠と背にした鎖斧。鋭く空間をまさぐるその音が襖の向こう、何かを捉えた。柔らかく返るそれは生き物の感触。跳ね返る位置を変えるそれは動くものの感触。
     だがそれは、敵か味方か――? 

    「ア……アアア……ア」
     それは呻《うめ》くような声を上げた。酷《ひど》く弱った人のような。だが、何よりそれは。その纏《まと》う衣服の、衣擦れの音は。
     がずがずと細かく妙に耳障りなその音は。独自の製法で編み出された防刃布、それを全体に使用した――陸軍服、あるいはそれを基調とする男子学生服にも似た形の――隊士服。
     悲鳴嶼が属する『鬼殺隊』、その戦闘要員の制服だった。その衣擦れがいくつか、動いて聴こえた。

    「そこの者。無事か」
     経を読むのと同じ大きさの声で言う――大声を出すことはなかった、自ら音を発しその反響を聴く、彼の闘法には隠密性が無いという明確な弱点がある。これ以上、所在の分からない敵に居場所を教える必要はない――、ただし。今は、声を抑えるのにやや苦労を要した。

    「ア……アアア……ア」
    「アア……ア」
     同じような声が複数返る、同じ衣擦れの音も。だがそれらはまともな言葉を返さず。

  • 7図書委員◆1NwnY0XjPs22/11/17(木) 22:53:58

     目の前の襖に手をかけた、悲鳴嶼の手に思わず力がこもり、開け放ったそれが高く音を立てた。
    「無事か、と聞いている。無事なら構わない、すぐにここを退避しろ。麓《ふもと》の町に待機中の隠《カクシ》に接触、報告を」

     一呼吸置き、尋ねる。
    「その前に一つ聞く。見なかったか、先日ここへ派遣された隊士だ、名は――」

     返答が返ることはなかった。それより先に彼らはこと切れていた。

     その死を認識する、一瞬前に聴こえた。彼らの背後から何者かが跳びかかり、胴斬りに刀を一閃する風切り音が。
    直後、まとめて真二つにされた彼らが、声も無く畳に崩れ落ちた音。

    「……!」
     だがしかし、敵はいったいどこにいたのか。声も無く音も無く、悲鳴嶼の耳にも届かぬ、遠くにいたとでもいうのか? 

     否。敵は最初からそこにいた。思えばそう、聴こえた隊士服の衣擦れ。いくつか、というだけで聴くのをやめていた。隊士が――この任務、先に派遣されていた隊士、音沙汰のない彼らの生き残りが――複数いる、そう認識しただけで。

     思えば。聴こえなかったか、その背後にわずかな異音が。隊士服と似通った形、しかし違う繊維の衣擦れが。

     今、その衣擦れを起こす者が。革靴の音を立てて畳を踏み締め、空を斬る音を立てて武器の血を払う。これも形は日輪刀と同じ、|
    定寸《じょうすん》――標準的な長さ――の日本刀。そしてその者の背には、体を覆うようなマントの靡《なび》く音がした。

     悲鳴嶼は背にした手斧と、鎖でつながった鉄球を構える――経の一つも唱えてやりたいが、後だ――。
    「一つ聞く。……鬼だな、お前は。土地の人間が、派遣された隊士が次々行方知れずとなるこの古屋敷……そこに巣食う鬼。隊士の姿に擬態し、鬼を狩る者を狩る……それがお前の手口か」

     その者は――畳を踏む軋みの重さと悲鳴嶼からの声の返り、それからして男、背は中背、頭には学帽――答えず、ただ刀を片手に提げる。構えもせず、敵対するか否か決めかねているかのように。

  • 8図書委員◆1NwnY0XjPs22/11/17(木) 22:54:56

     棘《とげ》の突き出た鉄球のつながる、鎖を振り回し始めながら。悲鳴嶼はさらに問う。
    「もう一つ聞く。お前が殺した中にいたか。黒い鶏冠《とさか》のような髪をした少年。……不死川《しなずがわ》、玄弥《げんや》は」

     対した男は答えず、身じろぎすらしない。

     振るう鎖を速めながらさらに問う。
    「あと一つだけ聞いておこう……鬼よ、お前の名は」

     そこで初めて、その男は口を開いた。涼やかな声で答えが返る。
    「鬼ではない。悪魔召喚師《デビルサマナー》、十四代目葛葉《くずのは》ライドウ……それが自分の名だ」

     鬼ではない、と名乗る鬼。しかしその者は確かに、隊士服を着た者を斬った。ならば、聞く耳持つまでも無い。

     無言で悲鳴嶼は鉄球を放つ。それは鬼のいた位置、畳に鈍い音を立ててめり込み。しかし当の鬼は跳びすさり、疾《と》うにその身をかわしている。

     それで良かった。悲鳴嶼の狙いはその先にあった。
     鎖を鳴らす、めり込んだままの鉄球につながる鎖を。鋭いその音で空間をまさぐるように。

  • 9図書委員◆1NwnY0XjPs22/11/17(木) 22:55:36

    「! 捉えた――」
     放つ、鎖のもう一端、そこにつながった手斧を。しかしそれは、敵にかわされて後方へそれた。
     が。さらに振るうその鎖が波打つように敵の体を襲い、もぎ取った。体ではなく、その脇に吊られていたもの。拳銃を納めたホルスターを。

     人型の敵と対する場合、悲鳴嶼が最も警戒していたのが銃だった。柱級の隊士なら、敵の動きと筒先を見て射線から身をかわす、その程度は朝飯前だったが。盲目の悲鳴嶼にそれはできない。そして銃撃の速度で飛来する一つまみ程の弾丸を、空を切る音を聴いてから回避することは困難。

     幸い、銃の手入れに使われる機械油、そのにおいはよく知っていた――弟子に銃を扱う者がいる――。故に今回、相対した敵がどこかに銃を持っている、それは分かった――弟子の同期の一人ほど超人的な嗅覚はないにせよ、視覚を補うように他の感覚は鋭くなる――。

     故に、優先して音で探った、鬼の体から銃の位置を。無論、ホルスターごとその体をもぎ取るのが理想ではあったが。身をひねってかわされ、そこまでは至らなかった。

    「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏……」
     手斧を引き寄せ、めり込んだ鉄球を引っこ抜き。悲鳴嶼は再び鎖を振り回す。何も映さぬ目で、目の前の敵を見据えながら。

  • 10図書委員◆1NwnY0XjPs22/11/17(木) 22:56:35

      【二章  葛葉ライドウ、鬼を殺す者と相対《あいたい》す】

    「……!」
     畳に落ちたホルスターと、鉄球を振るう男の位置を目で測るが。男の鎖が動き、手早く銃を跳ね飛ばす。どこか分からぬ闇の中へ。

    そこで、葛葉ライドウはようやく刀を構えた。
     正直、事を構えたくはなかった。相手の事情は知らないが、訪れたこの異世界の者と。

     思う間にも男の鉄球が飛ぶ。風圧にマントが学帽が、靡《なび》くのを感じつつ身をかわす。
     が。
    「【岩の呼吸・壱ノ型――蛇紋岩・双極】」
     男はわずかな時間差を置いて、ライドウが身をかわしたそこへ。同じく鎖で一つなぎとなった、手斧の方をも放っていた。

     ライドウは刀を横たえた形に構えつつ、その名を呼んだ。
    「擬態せよ、『赤口《しゃっこう》葛葉』――【斧】!」

     途端《とたん》。防御の形に構えた刀、その刀身から。溢れ出た緑の光が、巨大な形を取った。それはまるで『斧』。巨人が振るうものかとすら見える大斧。それが横様《よこざま》に、光の壁となって手斧を阻んだ。

     葛葉一族より授けられし退魔刀『赤口葛葉』、その真髄はある種の秘儀により、それ自体が悪魔と一体化することにある。
     悪魔化したそれは生体マグネタイト――ある種のエネルギー――を使い、自らを擬態させる性質があった。あるいは切り裂く刀、あるいは閃く槍。あるいは打ち砕く大斧に。

  • 11図書委員◆1NwnY0XjPs22/11/17(木) 22:58:13

    「何……!」
     真正面から受けられるとは計算していなかったのだろう、男の動きが一瞬止まった。

    「ぐぅ……!」
     一方、ライドウもまた歯を食いしばる。分厚い光の壁は一撃でひび割れ、崩れた。殺し切れなかった衝撃を受け、踏ん張った足下で革靴が黴《かび》た畳の上を擦る。

     だが。その衝撃を予想していた分、次の行動はわずかにライドウが早かった。男が鎖を振るい上げる前に、懐から――銃と一緒に叩き落とされなかったのは僥倖《ぎょうこう》だ――、管を抜いた。万年筆ほどの太さもない、鈍い銀色の金属の管。

     低く息を吐くと同時、力を込めると――筋力ではない、魔力霊力の類。自らの生体マグネタイトを絞り出し、管に込める――ねじ式の蓋《ふた》がひとりでに回り、開いた中から緑の光が溢れた。

    「召喚――放て、『ミシャグジさま』!」
    人魂のように揺らめきながら、孤を描いて畳の上へ飛んだ光は。塵《ちり》のように細かな光の粒子を辺りに散らしつつ、一つの形を取った。
    それはライドウの背を越えて、ひょろりと長い体の蛇神。ただし蛇頭人身、白蛇の頭と尻尾を具《そな》えた怪《あやか》しの人。

    「生唾モンの活躍じゃああ!」
     老爺《ろうや》のようにしわがれた声で叫び、ミシャグジさまは首を震わせた。その口から弾ける赤紫の雷電が、闇を照らし板壁を畳を焦がし、そして鉄球の男を打った。

    「が……!」
     手にした武器の上を体を電撃が走り、男がわずかに体勢を崩す。

  • 12図書委員◆1NwnY0XjPs22/11/17(木) 22:59:15

     ライドウは別の管を抜き、新たな仲魔《なかま》をそこへ放つ。
    「猛《たけ》よ――『ゴズキ』!」
     光が形を取ったそれは、ミシャグジさまほどの背丈だったが。幅も厚みも比べものにならない、巌《いわお》の如き筋肉そのもの。二本の角を頭に突き出させた、牛頭人身のまさに鬼。

    「応よおお!」
     ゴズキはその太い腕で――女の腰回り程の太さがあろうか――男をつかみ、鎖を握るその腕ごと、ぎりり、と体を締め上げる。

     ライドウが指示を飛ばす。
    「そのまま遠くへ投げ捨てろ。後は構わない、追う必要は――」

     その言葉が終わらぬ間に。何か異様な音が聞こえた。
     それはゴズキの締め上げる男から。こおおおお、と長く、呼吸音のような――それにしては、こおおおお、おおお、と異様に深く強く、長い――。

  • 13図書委員◆1NwnY0XjPs22/11/17(木) 23:01:18

     そして男は唱え出した。
    「――執時名號《しゅうじみょうごう》、若一日《にゃくいちにち》、若二日《にゃくににち》、若三日《にゃくさんにち》、若四日《にゃくよんにち》、若五日《にゃくごにち》、若六日《にゃくろくにち》、若七日《にゃくしちにち》、一心不乱――」
     男が経を唱えるその一言ごとにその腕が震え、筋肉が張り。やがては手を上げ、ゴズキの腕をゆっくりとほどき。そればかりか、つかみ返し。

    「何いいい!?」
     悲鳴のようなゴズキの声にも構わず、その腰に腕を回し。自らの腰を落とし、両足を踏ん張ると。
    「喝《か》ぁっ!」
     一息に抱え上げ、その勢いのままに体を、腕を振り。ゴズキの巨体を宙へと投げた。

    「なああああああぶべっ!?」
     宙を舞ったゴズキの体は程なく畳に落ち、引きずる跡を残しながら滑り。板壁を頭でぶち破ったところで動きを止めた。その指だけがぴくぴくと動く。

    「何だと!」
     声を上げたのはライドウではない。その傍らに姿を見せた黒猫。ライドウの供、業斗《ゴウト》童子。
    「ゴズキの蛮力を真正面から跳ね返すとは……あの男の力、もはや人間のそれではない」

     鎖を構え直す男から目を離さず、ライドウは言う。
    「では悪魔だと?」
    「いや、魔力の類は感じ取れぬ……一帯が異界化しているせいで、悪魔の存在は奴の五感でも感知されているようだがな。あの怪力、あるいは独特の呼吸に関係しているのかもしれんが……それにしても」

     鉄球を振り回す男を見据えて言う。
    「我らの道を阻むというなら。厄介極まりない相手よ」

  • 14図書委員◆1NwnY0XjPs22/11/17(木) 23:02:07

     ライドウは小さくうなずき、刀を構え直す。その刃が再び緑の燐光を放ち出した。
    そのとき。

     割って入るように、別の声が二人の間に降ってきた。やや高い、声変わりしたかどうかの少年の声。
    「ちょーっと、ちょっと待ったお二人さん!」

     二人の上、その空間を薄く照らしながら。白くか細い光の中に浮かぶ少年がいた。
     身につけた服はライドウと同じ学生服。男子としてはやや長い、襟にかからぬ程度で整えられた髪。優秀さをうかがわせるような整った顔立ちだが、眼鏡の下の眼差しはむしろ、人懐《なつ》こい子供のそれを思わせた。

    「いや、お一人様と一匹? かな? でもやっぱりお二人さんの方が合ってる?」
     小首を傾げる少年は、その輪郭をおぼろげに揺らす。体も身につけた衣服も。

    「……」
     ライドウは何も言わず、視線だけで少年を促す。

     少年は手を一つ叩き――その手の輪郭がまた、波紋のように揺らめく――言った。
    「そう、それよりだよ! 何やってるんだい、こんなことやってる場合じゃないよ!  ライドウくんともあろう者がとんだ道草を食うじゃないか」

     胸に手を当てて少年は言う。
    「忘れないで欲しいな、この異世界に来た目的……『僕を探して、倒しに来てもらった』こと」

     そう言った。ライドウの友であり、敵であった存在、安倍《あべ》 星命《せいめい》――彼が残した思念の、霊《アストラル》体は。

  • 15図書委員◆1NwnY0XjPs22/11/17(木) 23:03:53

      【三章  友の残り香、遠方より|来《きた》る】

     ――その一刻ほど前。

     帝都郊外、人の気配のない草原《くさはら》で。月明かりの下、ライドウは少女と向き合っていた。

     少女、凪は手にした小太刀程の短い木刀を、体の前に片手で構え。大きく踏み込むと同時、ライドウへと真っ直ぐに突き出す。
    「はっ!」

     ライドウは片手に木刀を提げたまま、無言で小さく身をかわす。
     そこへ凪は、矢継ぎ早に木刀を繰り出す。突き、逆袈裟《ぎゃくげさ》の斬り上げ、そこからの斬り返し。その動きの度に、緩く縦に巻いた彼女の黒髪が顔の両側で揺れる。

     ライドウは構えることなく、わずかな動きで身をかわし続ける。だがやがて木刀を上げ、凪の突きを片手で横から弾いた。
     かと思うと。凪の木刀を、自らの木刀の中ほどで押さえたまま身を寄せる。そのまま、空いた左手を自らの切先に添わせて、凪の喉を横からかき斬る――その手前でぴたり、と止めた。

    「……!」
     びくり、と動きを止めた凪から、ゆっくりと身を離す。木刀を下ろした。
    「……甘い。突くよりもむしろ、引きを意識するべきだ。さもなくば、こうなる」

     木刀を弾かれたままの姿勢で固まっていた凪は、そこで大きく息をついた。木刀を下ろし、深く頭を下げた。
    「恐縮する、プロセスです」

     表情を変えずライドウは言う。
    「だが、良くなってきた。続けよう」

     凪は、ぱ、と青い目を見開き、表情を緩めた。額の汗を、濃緑のジャケットの袖で拭おうとして。思い直したように、ズボンから出したハンカチで拭く。

  • 16図書委員◆1NwnY0XjPs22/11/17(木) 23:06:12

     ライドウは片手で木刀を握り、構えてみせる。
    「それと片手剣、威力が劣るのは仕方がないが。重心の移動で体重を乗せることができれば違ってくるだろう。正中線を意識して、腰を――」
    「そうそう、腰だよ腰! 剣は腰! うどんと同じだね」
     言ったのは凪ではない、離れた場所に座るゴウトでも。

     白くか細い光をまとって宙に浮かぶ亡霊の如き姿。
    それは友。悪魔とそれを悪用するものの手から、この国を護る『超国家機関・ヤタガラス』の仲間だった少年。
    先頃『秘密結社・コドクノマレビト』との戦いで、ライドウ自身がその手にかけた、それは敵。
     |霊《アストラル》体の姿を取って、安倍《あべ》 星命《せいめい》がそこにいた。

     口を開けていた、ライドウは。
    「…………、っ……!」
     それでも、奥歯を噛み締めて。手にした木刀を振るった――明らかに重心の乱れた、力まかせの剣を。

     星命は身をのけ反らせて宙を滑る。
    「うわあああ危なっ! ……すまない、ライドウくん。先に言っておくよ」

     表情を消して――いや、どこか申し訳なさげに眉を下げ――星命は言う。
    「僕は安倍星命じゃない、彼の霊でも魂でもない。彼は死んで、この世に無い。……彼の残した思念、それが彼の姿でここにいる。そう理解して欲しい」

  • 17図書委員◆1NwnY0XjPs22/11/17(木) 23:08:09

    「……」
     身じろぎもせず、ライドウは構えたままでいる。

     傍らで凪が息を呑んだ。
    「安倍、星命……コドクノマレビトの首領……!」
     弾かれたように跳びすさり、木刀を捨てて。近くに置いた自らの小太刀とライドウの刀を拾う。
    「先輩!」

     凪から放られた刀をつかもうとして、明らかに動作が遅れ。刀は不様に足下に落ちた。

     刀を拾い、剣帯に挿すライドウを見やってから。星命は目を伏せた。
    「……すまない、急に。けれど、星命の記憶を持つ僕からすれば……少し、嬉しいよ」
     表情を消し、強くライドウの目を見て続けた。
    「けど、僕も旧交を温めに――星命の代わりに――来たわけじゃない。頼みたいことと、伝えるべきことがある」

     いわく。安倍星命を依代《よりしろ》として寄生していた、異星存在『向こう側に在る者《クラリオン》』――星命の意思にすら干渉していた、コドクノマレビト真の黒幕――。倒したはずの、その欠片が生きていると。
     星命の腹心、倉橋黄幡《おうはん》。一命を取りとめた彼がその肉片を回収し、所持していた――おそらくは再起の時を待つため――が。それは黄幡《おうはん》自身を喰らい殺し、再び蠢《うごめ》き始めた、と。

    「ただ、黄幡《おうはん》は思慮深い男。暴走の危険性を考慮して、自分以外決して出入り出来ない場所にクラリオンの欠片を封じていた……物理的にも魔術的にもね」

     ゴウトが口を挟む。
    「ならば、取りあえずは猶予があるということか。ヤタガラスに手配し、組織的対処を――」

     星命は首を横に振る。
    「それがとんでもないことになってね。いや……ある意味では、放置しても影響はないんだけど。この世界には、ね」

  • 18図書委員◆1NwnY0XjPs22/11/18(金) 10:15:11

    (スレ主です)

    連投規制にかかってしまい、内容が半端なところで止まってしまいすみません。

    前編でここまでということで続きは後日に!

    >>3の鬼滅カテに立てたほうなら、とりあえずきりのいい辺りまで進みますのでそっちを見ていただければ……

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