ここだけダンジョンがある世界の掲示板  外伝

  • 1バフォミトラ22/11/21(月) 19:01:35

    リ ハ ビ リ


    このスレは「ここだけダンジョンがある世界の掲示板」の番外編みたいなものです

    外伝とは名ばかりのSS投稿スレ。

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    健康は金で買えない。はっきりとわかんだね。


    ダンジョンマスター専用掲示板 SSスレ(外伝)|あにまん掲示板現在のスレhttps://bbs.animanch.com/board/417960/このスレは「ダンジョンマスター専用掲示板」の番外編みたいなものですイベントとは名ばかりのSS投稿及び設定投稿スレ尚…bbs.animanch.com

    ↑上記の話のから暫く経過した後のお話。

  • 2父と娘22/11/21(月) 19:02:29

    ──魔界・象牙色の迷宮内・アステリオス宮殿の書斎にて──


    『………何時までも黙ってないで、いい加減答えろ!! ク ソ 親 父!!』


    静寂なはずの書斎に響き渡る怒声。

    その声の主はバフォミトラの13女たる”イナルナ”のものであり、普段日頃において冷静沈着なはずの彼女であるが、今日に限っては大いに荒れていた。

    ──何故なら、実の妹たるアモラエが弁明の余地なく処刑されたのだから。

    だが、バフォミトラの血族の中で最も情に厚く、非デーモン的な振る舞いの多い彼女の視点や立場からすれば、それは至極当然の事であった。

    確かにアモラエの所業は確かに許せぬものであったが、主犯格たるクロアコスに誑かされただけの可能性もあり、弁明の余地があったはずだ。

    何も殺す必要は無かった──ましてや血の繋がった実の娘であれば、尚更なハズ。

    そう結論を下し、彼女のなりの正義と義憤に駆られた結果、静止する配下や他の兄弟・姉妹達の忠告など一切顧みる事無く、彼女は堂々と父・バフォミトラの眼前にて正々堂々と自らの意思を主張し現在に到るという訳である。

  • 3父と娘22/11/21(月) 19:03:01

    ( ^ω^)『……書斎では静かにしろ。それにそんなに大きな声を出さなくとも、しっかりと聞こえているよイナルナ? 吾輩の貴重なプライベート時間に急に訪れたかと思えば、用件は"そんな事"か?』


    ──そんな事……だと?──


    何気なく平然と発せられた父の発言は、イナルナの逆鱗を更に逆撫でする様ものであり、その怒りはいよいよ頂点に達する。

    『………そんな事だぁ……!? テメェはとうとう実の子供に対する愛情すら失ったのか、ああっ!?』

    『合理性や冷徹性を徹底的に追求し、永年、魔界の大君主としての地位と座にしぶとく居座り続けた結果が、その様か!?』

    『最低限の一線を越えて、そんな腑抜けた醜態を晒すくらいなら、とっとと"ビョルンガナル"の奴に家督を譲って隠居しちまえ!!!』


    ( ^ω^)……………。


    『……アモラエと言いお前と言い、どうやら俺は実子の事を過大評価し過ぎていたようだな。──ここまで馬鹿だとは思わなかったよ。』

    長らく沈黙を保ち続けていた父から次に発せられた言葉は、全く思いもよらぬものであり、その声には明らかな失望と怒りが込められていた。

  • 4父と娘22/11/21(月) 19:03:24

    『無駄な感情論に振り回されたばかりか、統治者としての巨視的な視点はおろか、物事の裏に隠された本質すらも見抜けぬとはな……。これでは有象無象の"家畜"と大差がないぞ?』

    『ハッキリと今一度述べてやろう……。アモラエの末路は自業自得であり、俺からすれば最早"顧みる価値も無い些事"に過ぎぬ。』

    『お前は随分と無駄に情が厚いようだが、実の血縁関係という以前に俺には魔界の大君主として立場と面子があるのを忘れたか?。 あの愚行を"ただのおイタ"で見過ごせば、他の者達に対して示しがつく筈もあるまい。』

    『貴様やアイツのように俺とアハズの後ろ盾を得ながら、のうのうと自身の座に胡坐をかいている平和ボケした小娘共とは違うのだよ。』

  • 5父と娘22/11/21(月) 19:03:45

    『…それに貴様は随分と軽々しく"魔界の大君主"という言葉を口にしたが、その言葉と地位の重みを一体どれほど理解している?』

    『俺には我が思想と価値観に賛同した同胞と俺を崇め奉る敬虔なる信徒達を栄光ある民とし、この多元宇宙を"あるべき理想"へと導く崇高な義務がある。』

    『そして、貴賤・貧富・地位・種族・人種を問わず俺の掲げる旗の下に集った者達を他の魔神や神々共から全力で庇護し、"家畜"と同胞の全てを統べる俺自身も更なる高みへと至らねばならぬのだ。』

    『…この理想の成就と付き従う同胞の前には、無知な"家畜"共や血族の情愛など何ら取るに足らぬ。』


    『そして、俺は自身の身も含めた考えうる限りの全てを犠牲にし、容赦なく踏み台にしようとも覇道の歩みを止める気は無い。』

    『無論、その道を阻むモノの悉くは如何なる時を経ようとも必ずや打ち滅ぼし、粉々に砕いてくれる……!!』

    『……貴様にその決意と覚悟はあるのか?』


    『……………………ッ!!』

  • 6父と娘22/11/21(月) 19:04:21

    『………逆に俺から一つ質問をさせてもらおう──俺がこの身一つでこの魔界に版図を切り開いてた当時、当のお前自身は一体何処で何をしていた? 』


    『…所詮、貴様の恵まれた現状など、全て俺とアハズの努力のお陰で幸運かつ偶然にも授かったモノに過ぎず、貴様自身の手で掴み取ったものなど何一つとして存在しておらぬ…!!』

    『……自らの意思と力で不毛なる魔界の荒野の道を切り開いた訳でもなく、"暁の大戦"や"万魔大戦"といった激動の時代には生まれてすらいない糞餓鬼風情が、自身の身の上と現実から乖離した奇麗事や戯言をほざく出ないわ!!』


    『…丁度いい機会だ、ハッキリと言ってやろう。──今の貴様は、物質界にて過酷な生と死の鎬を削る"冒険者"連中よりも遥かに劣る醜悪なモノだ。』

    『仮に貴様がこのままの地位と座に大人しく甘んじ続けるのであれば、別に今のままで構わぬ。寛大にも俺は、お前のような現実を知らぬ"穀潰し"を愛を以って養ってやろう。』


    『もし、貴様がゆくゆくは我が軍の"将"としての地位と座を欲するのであれば、その無駄な感情論を捨てろ。』

    『無情な時間の流れの様に刻々と変化する戦況において、その情愛は何ら役に立たぬ。"拾うべきもの"と"切り捨てるべきもの"を冷酷無慈悲に選別し、迷わず瞬時に判断を下せ。』


    『…もし、仮にだ。身の程を知らぬ貴様が"将"はおろか、あろうことか"王"としての地位と座を欲するのであれば、個人的な愛着と感情と閉鎖的な視野といった諸々の欠点は、可能な限り全て排斥しろ。』

    『己が臣民の間に起こった些細な事件であっても見逃さず、かつその表層に惑わされず、その本質と真相を探れ。』

    『そして、その裏で蠢く相手の所行を理解し、その挙動の底意を見抜き、その僅かな隙を情け容赦なく突け。──この様に思慮に欠けた行動が出来なければ、"王"は罪を負うぞ?』

  • 7父と娘22/11/21(月) 19:05:07

    『…………………!!』


    『……今思えばアモラエの奴も、己が全能感に酔いしれた愚者に過ぎなかった。』

    『俺の首を獲ろうと下克上を企むのは大いに結構だが、立ち回りがずさんで計画も早急すぎる。』

                                    
    『ワザと策に乗ってやったとは言え俺を孤立させ、かつアブラクサスやダイモンと同盟を結び戦力を得るまでは良かった──が、送られてくるであろう戦力の質と易々と契約を結んだ相手の裏をよくよく考えるべきだったのだ。』

    『…仮に俺なら、アブラクサス本体かその幹部、または大冥魔連中の何れかが前線に出しゃばるように確約させ、計画の実行は最低でも"数千年"ほどじっくりと時間を掛けて寝かしたな。』

    『その間に自身を含めた戦力を蓄え、かつ天の理、地の利を…‥‥!! おっと、話が大分それたな。』

  • 8父と娘22/11/21(月) 19:06:25

    『……まぁ、何にせよ俺から貴様に贈る"回答"は以上だ。』

    『…解ったのであれば、さっさと書斎から失せろ──巣立ちのできぬ雛鳥でしかない貴様のような小娘風情が、俺の在り方に口を出すなど千年早いわ!!!』


    『………………………………ッッッ!!!!!!』


    『………………………………………。』


    『……………失礼致しました……父上。』


    自身の欠点を情け容赦なく指摘され、耐え難い屈辱を受けたたイナルナは暫し全身を震わせた後、普段の冷静さと落ち着きを取り戻しと、大人しく書斎から立ち去った。

  • 9父と娘22/11/21(月) 19:07:29

    『………精々励めよ、イナルナ? お前には相応に期待しているのだから。』

    再度、穏やかな静寂が訪れた書斎にて、バフォミトラはポツリと励ましの言葉を零す。

    それは魔神である以前に父親である、彼自身の嘘偽りのない本音であった。


    『………それにしても年頃の娘という奴は、随分と好き勝手に言ってくれる。』

    『……本心を言えば俺とて、好き好んで身内を──アモラエを殺す気など無かったさ。』


    無意識の内に独り言を述べたバフォミトラは、書斎のテーブルに置かれた珈琲に手を伸ばし、口に付ける。。

    先程のやり取りを経て大分時間が経過したせいか、既に珈琲は温くなっているようであった。

    『………今日のは少し苦いな。』

    心做しか普段から飲み慣れている珈琲が、仄暗く渦巻く罪悪感のように苦く思えた。

                                              ──────終わり

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