ここだけダンジョンがある世界の掲示板 イベントスレ第124層

  • 1保険のハルサキ◆PE/kpaaw1s22/11/22(火) 21:33:19

    本スレ

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  • 2保険のハルサキ◆PE/kpaaw1s22/11/22(火) 21:37:48

    「奪還、オフィスで靴下を見なかったか? 黒いものだ」「穏匿じゃない。珍しいわね、こんなところまで降りて来るなんて。靴下なんて見ていないけれど。一体どうしたの?」
    「……私の普段着として使っているものが一着、無くなっていまして」「あら、社長。そうね、洗ってる時には特に……」「由々しき事態だ。由々しき事態だぞ! 誰かに盗まれたのか、主人様に翻意を抱く人間が居るのかもしれん!!」「それでやる事が靴下……ってのもおかしいと思うけれど」「私の肌着ですので、或いは……妙な呪いが付着している可能性もあります。放置していると危険なのですが」「まあ、気にかけておくわ」「感謝します」



    「生還お前、何か顔色悪くね?」「大゛丈゛夫゛だ゛ぞ゛!」「そうか。じゃかんぱ~い!」(大量の血を吐き出す)

  • 3保険のハルサキ◆PE/kpaaw1s22/11/22(火) 21:38:53

    【保険のハルサキについて】
    ・会社概要
     武器や身体、健康に保険を掛け、一定期間ごとの保険料と引き換えに、対象の品に異常が発生したらそれを持ち主の元へと返したり、修復を行って弁償するという冒険者向けサービスを行っている、(多分)初の保険会社。三還四穏という七つの部署が独立して業務を行っている。
    ・奪還部
     無くしたり盗まれたりした物品を取り返す部署。ダンジョンに潜ることが多い。部長は元冒険者であり、喪服のドレスに身を包んだ麗人(男性)。
    ・生還部
     契約者の生命に危険が生じた際、急行して救助を行う部署。防衛や医療技術に優れる。部長は創業時のメンバーであり、かつて近衛兵長をしていた騎士の女性。
    ・還元部
     破損・完全に喪失した物品や重篤な怪我などについて修復を行う部署。魔術や工学など様々な技術を用いる。部長は若干十一歳の白髪の少女。お菓子とギャンブル依存症。
    ・穏便部
     保険の営業や契約に関する事柄を扱う部署。交渉において矢面に立つ。部長は極東出身、酒好きの元天才少年。
    ・平穏部
     契約の物品に対し、破損や喪失を未然に防ぐため措置を行う部署。貧乏くじを引くことが多い。部長は異様にネガティブ思考な、やんごとなき血統の竜血鬼。
    ・穏匿部
     表には出ず、会社自体や顧客、ライバル会社等の情報を取り扱う部署。部長は創業時のメンバーであり、社長に絶対に忠誠を誓っている男性。
    ・不穏部
     会社が悪意ある契約によってトラブルに巻き込まれた時の為に用意された自己防衛手段。対外的には存在しない。部長は自称アイドルの少女、現在の時間軸では占い師の少女。

  • 4保険のハルサキ◆PE/kpaaw1s22/11/22(火) 21:49:48

    【平穏の平穏なる休暇!!】
    (久々に仕事を全て終わらせることが出来たぞ……! 人の世の雑務から解き放たれた時間がこんなにも素晴らしいものだとは、これが悟りの境地という奴に違いない! そうだ! 今日は前から気になっていたフクロウカフェに行こう! それで夜ご飯はちょっと豪勢に一人焼肉……帰りに映画をレンタルして、ポテチとコーラで映画オールナイトしちゃったり、それから「平穏~! ちょっと用があんだけど!」
    【平穏の休暇 完】

  • 5保険のハルサキ◆PE/kpaaw1s22/11/22(火) 21:59:51

    【イカサマを見破られたハナフダくんが対価を身体で支払わされる話】

     通されたのは、妙な部屋だった。スクロールからホログラムが浮かんでいるかと思ったら、少し離れた所では炉が燃え上がっている。別の場所では何かの薬品が醸造されている。
     俺は思った。やっぱり妙な人体実験にでもかけられるんじゃないか?
    「紹介する。里帰りの時に見つけて、うちの部署にスカウトした新人。是非ここで働きたいと言ってくれた」
     ガキは堂々と嘘をついた。
     そしてそう紹介されるなり、今まであちこちに散らばっていた社員どもが集まってきて騒ぎ始める。
    「わぁい、新人アシスタント! 仕事が減る!」「我々をより昏い処へと連れて行くカンテラの持ち手よ、貴方を歓迎します。深淵にある祝福を、伴に授かる旅に出ましょう──」「ヒュゥ、コイツはご機嫌だ、今日は歓迎パーティーだな! 待ってろ、ピザ取って来る」
    「おいガキ! 適当フカしてんじゃねえ、言ってねェよ働きたいとか!」
     俺は取り敢えず自分の立場を表明しようとしたが、この中の誰一人として聞いちゃいない様子だった。
    「こら、乱暴な言葉を使っては駄目。自己紹介しなさい」「……『ハナフダ』」
     この会社の連中は全員偽名を使っている。俺の偽名はガキに付けられた。当てつけか?
    「初めまして私の名前はキノ、還元部署魔術修復担当であり世紀の大・魔・術・師!!」「クラップスです。静かなる火を灯し葬列に加わった司祭、それから主に鍛冶による修復担当ですわ」「ホールデムだ、気軽にホール兄ちゃんとでも呼んでくれ。時間って手札をちょいちょいとめくって盗み見るのが仕事だ」
     口を開いても妙な連中ばかりだった。無暗に派手な格好をした男、顔の見えないボロボロの礼服を着た女、そしてテンガロンハットのダークエルフ……社員の人数はまだ少ないと聞いていたが、ここに居るのはこいつらだけか?

  • 6保険のハルサキ◆PE/kpaaw1s22/11/22(火) 22:10:51

    「それで……俺になにしろってンだよ。ここでモルモットにでもなりゃ良いのか?」「そういう話じゃないって言ったのに。実験体は正規の方法で手に入れる」
     使うのかよ。

    「面接の時にも聞いたけれど。魔術は使える?」「……基礎課程の物は一通り」「魔力量は……」「カジノの件で分かってんだろうが、それなりだよ」
     正直、目の前のガキに魔術分野で勝てる気はしなかったが。今更あれこれ言うのも面倒だったので、俺は面接の時の解答を繰り返した。
    「お若いのに将来有望ですねぇ! 魔術に精通しているという事はつまり部長、彼はウチの助手として奇術を手伝ってくれると」「キノ様、何も魔術の使い道は一つではないのです。魔導工学や刻印技術は複数分野の知識が必要なのですよ……」「少年、禁術に興味ある? ギリギリ合法な奴」
     外野がうるさい。

    「まだそういうことを考える段階じゃない。そもそも、彼の適性はとても幅広い……他の部署からも人材が欲しいと要請が来ている」「……つまりどういうこったよ」「貴方はまだ特定の部署には入らない。研修期間中、色々な部署の仕事を手伝ってもらう」
     つまり体の良い雑用係って訳だ。
    「ハッ、構わねェよ。どうせ負けた身だ、煮るなり焼くなり好きにしろや」「焼く方のデータは十分」
     俺もこの会社に留まる理由がある。
     暴食の賭姫……かつて王都の裏路地にその名を轟かせた伝説的ギャンブラー。
     正体がこんなガキとは思わなかったが、いずれにせよ向こうから俺を城まで迎えて来てくれた訳だ。
    (絶対に勝ってやる……)
     決意を胸に、俺の研修が始まった。

  • 7保険のハルサキ◆PE/kpaaw1s22/11/22(火) 22:23:01

    【還元部】
    「改めて、私達は還元部。仕事は元に還すこと……破損・紛失した道具や身体を元に戻してお客様に届けること。魔術も工学も鍛冶も医術も、何だって使う」
     部屋に通される前から勘付いていたが、この部屋だけ他から少し離れた場所に設置されている。
     つまりそれだけ、危険を伴う大規模な術式なんかを使うって事だろう。

    「専門性の強いハルサキの中でも、特に細かい分野に特化したプロフェッショナルの集まりなのです! 私は一般の魔術、クラップスさんは鍛冶や工学分野」「摂理に逆行し、あるべき姿からかつてあった姿へと。保険会社としては"最後の砦"とも言えますね」「ふぅん……」
     確かに、コイツら全員ふざけた格好だが技術はかなりの物だろう。鍛冶屋に関しては分からないが、キノとかいう魔術師は先程まで高等術式を行使していた痕跡がある。エルフの方は……何をしているんだ? 窓際でコインを弾いていた。
     だがだからこそ、俺には一つ腑に落ちないところがあった……
    「何か質問は有りますか?」「……まあ、一つ」「ん。ごめん、社長から呼び出し。キノ、彼に色々教えておいて欲しい」「仰せの通りに、部長!」
     丁度良く、"当人"がドアを潜って外へと出て行った。俺はそれを横目で確認しつつ、シルクハットの魔術師に質問を投げる。

  • 8保険のハルサキ◆PE/kpaaw1s22/11/22(火) 22:39:40

    「確かにアンタら全員プロだろうさ。魔術師や鍛冶師としてやって行けば王都でも店を持てるような……」「おや分かりますか! 流石期待のホープですね」
    「だからこそ分かんねぇ」「何がです?」「何でこんなとこで保険屋なんてやってんのかって事だよ」
     魔術分野の専門家は、基本職には困らない。魔道具職人、スクロール職人、戦闘要員としての魔術師、或いは変わったところでは、占星術師や翻訳家……それだけの事が出来るなら、もっと高給取りで安定した仕事にも就ける筈だった。

     目の前のショーマンは、俺の質問を聞いて一瞬だけ鼻白んだ。しかし、直ぐにいつもの調子に戻って歌うみてぇに声を張り上げる。
    「それは当然! 給金や安定性では無く、この仕事にやりがいを見出したからですよ」「やりがい? ガキの子守しながら鎧の修繕をする事にか?」「えぇ、まさにその通り。過去へと棄てられようとしている今を黄泉の国から呼び戻し、再び時を歩ませる事」「それこそ、我々にしか出来ない大奇術なのですッ!」「……何でそう言い切れるんだよ」

    「それは私達が、他ならぬ黄泉の国の住人だからですよ」
     また、あの目だ。
     ここに居る三人。カジノに居た時のガキや、それに付き添ってたデカい女もそうだった。コイツらは揃いも揃って同じ目をしている。
    「ショーの舞台袖に居る人間でなくては、袖と舞台を同時に見ることは出来ないでしょう?」「……そうかよ」「それとなぁハナフダくん。お前さんウチの部長をガキだっつーが……」
     そこで、今まで端でピザ屋に電話していたエルフが話に入って来た。
    「ガキにガキって言って悪いかよ」「でも貴方部長に負けたからここ来たんでしょ」「うるせぇ! 何にしたってもう一つ腑に落ちないのはそこだよ」
     ここの人間がどんな事情でこんな場所に居るかは、何となく分かった。理解できない事を理解した。
     だが、それはともかくとしてコイツらは間違いなくプロだ。そんな連中が揃って、11歳のガキを部長と呼んで従っている……それこそ、一番納得が行かない部分だった。

  • 9保険のハルサキ◆PE/kpaaw1s22/11/22(火) 23:23:43

    「確かに、あの方は子供ですね」「学生だし」「お菓子と可愛いものが好きだし」
     想定していた以上のガキ要素が出て来た。
    「でも、あの人ほどウチの部長に相応しい人も居ないでしょう」「……魔力量はガキにしちゃ上出来って程度だったろ」「う~ん。まだ浅いぜ、ボーイ」
     エルフが訳知り顔に呟くのと同時に、司祭の女が一振りの剣を持ち運んで俺に見せて来た。
    「あの人が今、直接担当している案件です。とある儀式に用いられる剣……百五十年の時の中で破損してしまったものです。勿論これは、作業用のレプリカですが」「我々はコレを修復しなければならないのですが……そもそも製造方法が分からない」「儀式用の物だからな、生半可な再現じゃ駄目なのよ。どこが壊れたのか、欠けた部分の材料は何か、修復にも手順があるのか……色々な情報が失伝してる。そこで、我らが部長の出番って訳だ」
     迂遠な表現でピンと来なかった。俺は黙って「先に続けろ」と促してみる。

    「部長はな、今まで数万、数億の"別世界"を観測している」「は?」
     今話がおかしな方向に飛んで行かなかったか?
    「部長の持つ奇術……それは多くの情報をその頭脳に収集し、適切に管理する事です」「それを使ってできる芸当が、別世界の観測だ。正確に言えば、『現在収集された情報から再現される世界』って事になる。例えば、『あの時コインが表だったら』とか、『将来的に大陸で大規模な戦争が起きたら』とか、色々な条件を付け足した世界のシミュレーション……それを頭の中だけで計算するのさ。算数が得意だからな、部長は」

    「……それとこの仕事が、どう関係するんだ?」「どうもこうも。あの人は『もしも壊れなかったら』の世界から、直接品物の情報を引っ張って来れるのさ」「どのように作られたか、どうすれば壊れるか、どうすれば直せるか……その全てを再現を基に割り出す事が出来る。生半可な魔術では真似できない、まさに奇術と言えましょう!」
     つまり、あのガキはそのシミュレーション分の追体験をしている訳だ。
     それは一体何千年か? 何万年で足りるのか? その間、その世界の全てを観測したのか?
    「多くの破滅、終わり、そして死を観る事で、かの人は七人の賢者の一人として認められました。誰よりも死に近く、死に親しむことで、そこから生命の灯を遠ざける術を知ったのです」

  • 10保険のハルサキ◆PE/kpaaw1s22/11/22(火) 23:24:03

    「分かるかい、ハナフダくん。部長が誰よりもこの仕事に向いていると言った訳が。あの人はこの会社や友人、美味しい物なんかを心の底から愛しているが……それら全てがどうしようもなく虚しい運命の輪の中で、最期には全部塵に還る事も知っている」

    「もう失って惜しい物なんてないから、平気な顔してそれを眺めても居られるんだな」

  • 11保険のハルサキ◆PE/kpaaw1s22/11/22(火) 23:45:50

    【一コマハルサキ】
    「集められた理由は分かってるわよね?」 「「「「……」」」」

    「会議室に保管していた、来賓用のお茶菓子。朝来てみたら、全部無くなってたわ」
    「還元?」「その、私達で自由に食べて良いお菓子だっていう方に賭けて……一つだけ」
    「穏便?」「極東の酒にはさ、甘いもんが合うんだよ。だからその、箱詰めだし? 沢山あったから一個くらい誤差だろって……な」
    「生還?」「うむ……その、この前で来た彼女が甘いもの好きで……折角なら何か手土産を持って行きたい、と思って、深く考えずに近くにあったお菓子を……」
    「不穏?」「誰も居ない時に会議室の鏡使ってダンスの練習してたら、ちょっとお腹が空いちゃって……うっかりした所も愛嬌だって許して欲しいなあ、なんて……★」
    「穏匿?」「この会社の全ては主人様に捧げられるべきものだ。来賓用だろうが何だろうが、主人様が『甘いものが食べたい』と言った時にはそれが全てに優先する。よって俺はやるべき事をやった」
    「平穏?」「食べてません」

    「……後で店に行って、買い直してきなさい。全員でお金を出し合う事」「うぅ……」「仕方ねえ、一緒に行こうぜ平穏」「ああそうだな……我も!?」「五人で!」

  • 12保険のハルサキ◆PE/kpaaw1s22/11/23(水) 17:25:26

    【幕画スタジオからの招待状】
    本格的な冬将軍が到来しております。ハルサキの皆様におかれましてはご壮健のことと存じます。
    さてこの度、当スタジオでは最新映画の撮影会を予定しています。
    主演が皆様にも縁浅からぬ人物であるよし、この招待状を送らせて頂きました。
    お忙しいところ恐縮ですが、一つ顔を見せては頂けませんでしょうか。──もきっと喜ぶことと存じます。

    次の映画のテーマは、『嫉妬に狂い主を裏切った悪党が、遂にその命を散らす』演目です。
    主演も役に向けて気炎万丈といった様子であり、きっと素敵な演技になる事でしょう。是非お越しください。
    お出で下さらなかった場合は、残念ながら撮影を断念し、不本意な結末を迎えざるを得ない由も、合わせてご了承ください。

    幕画スタジオ総監督 記す

  • 13保険のハルサキ◆PE/kpaaw1s22/11/23(水) 17:42:12

    【諭旨解雇通知】
    「我々企業にとって、顧客の信頼を裏切る事がどれだけ罪深い事か。必然理解していますね?」「…………はい」
    「貴女は保険会社の人間として当然持っておくべき危機予測を怠り、その場にいた方々を危険から守れなかったどころか……あまつさえその監禁に手を貸し、お客様に刃を向けたと。報告は間違っていませんね?」「……ごめんなさい……!」「謝罪を必要としているのは私では無くお客様です」

    「……もう返答は必要ありません。良いですね?」


    諭旨解雇(退職)通知書

    貴殿の下記行為は、当社就業規則第13条第2号に該当するので、同第2条第8号に基づき、貴殿を諭旨解雇又は諭旨退職とする。
    よって、指定期日までに退職願を提出する事を勧告する。
    指定期日までに退職願が提出されない場合は、以て貴殿を懲戒解雇とする。

     以上


    「……失礼します」

  • 14二次元好きの匿名さん22/11/26(土) 01:40:08

    このレスは削除されています

  • 15二次元好きの匿名さん22/11/26(土) 20:01:49

    招待状不穏過ぎるよ……

  • 16保険のハルサキ◆PE/kpaaw1s22/11/27(日) 17:18:51

    【超絶最強モテ男列伝!!!!】!!!!!!!!!!

    『人の好みを把握するのが営業の神髄、だぜ?』

  • 17保険のハルサキ◆PE/kpaaw1s22/11/27(日) 17:24:46

     色男 at 昼。
     俺は今日も今日とて会社の為に粉骨砕身働いていた。今は超重要資料の読み込み中だ。
    「モテる男の秘訣①……清潔感に気を遣う……こりゃメモっておかねえと」
    「穏便」「うおっ穏匿! 急に入ってくるなよ!」
     扉を開く音すら聞こえなかった。相変わらず忍者みたいな男だ……サボってたのバレてないよね?
     俺は内心冷や汗ダラダラ、心臓バクバクの様相を完璧に隠して来客に応対する。
     
    「他の社員は?」「俺ん部署は全員外回りだよ。あ分かった!! さてはアレだな、部下の居ぬ間に酒を飲む役得を一緒に享受しようってんだろ! 仕方ねぇなあ、お前がそこまで言うなら「例の事件の関係者と接触したな?」無視されると悲しい!」
     叫びながら、先程まで読んでいた本を閉じて机にしまった。
    「んで、関係者と接触……ああ、したぜ? そりゃ勿論! 顧客には気を配るもんだろ?」
    【モテる男の秘訣②:常に相手に気を配っていることをアピール!】
    「劇団の関係者とか……それから、あの場の参加者にも何人かな。平穏の奴から再発防止の為のデータ取って来いって言われてよ」
     他の幹部も好き勝手出かけているが、基本的に渉外は俺の仕事だ。顧客の意見を反映させるための窓口としての役職を"社長から任されている"。だからこの点に関しては、コイツは俺に対して何も言えない。……何かずっと飲んでるスパイは知らんけど。

  • 18保険のハルサキ◆PE/kpaaw1s22/11/27(日) 17:40:00

    「仕事が入ってない日でも営業を欠かさない! 渉外職の鏡のような男なのよ俺は……あっわかった! ぼーなすもらえるんだな!!」「用件は手紙の事だ」
     どうやら話をする気は無いらしい。余程確信めいた何かを持っているようだ。
    「手紙ぃ?? 何のこったよ」「最近良く社屋から物が紛失する。先週も、主人様の私物が三個ほど」「ああ、アレ」
     そういえば、そんな事を騒いでいたのだった。それを聞いた生還の様子がおかしかったが、何か触れちゃいけなさそうだったので気にしない事にしている。

    「んまあ確かに? 物が無くなるのは由々しき事態かもしれんけど、俺の仕事じゃないぜそれは」「貴様の仕事は今、関係無い。或いはこれが……主人様への翻意を持つ何者かが此処にいるという事を指していたらどうだ?」
     そういう理屈か。
     殆ど突発的に動いたから仕方が無いとは言え、やっぱりちょっと無理があったみたいだ。俺が何の幹部として社長から認められていようが、今のコイツには関係が無いという事……此方の用意しておいた手札が一枚切れなくなった。
    「……そりゃ一大事だな。それで?」「単刀直入に聞く。貴様、手紙を無許可で持って行ったな?」
     やっぱりそこまで分かってるよな。どうやったのかは分からないが、向こうは相当の情報を握っている。
    「手紙かあ、いやもしかしたら間違えて持ってったかもしらんね。一階のレターボックスだろ? あっこも一応俺の部署が担当してるし」
     殆ど形骸化してはいるが、これも事実だ。渉外担当が外部からやって来る郵便物を管理する、何もおかしい所はない。
    「沢山扱ってるから分かんねえわ。どの手紙か言ってくれれば分かりやすくなるんだけど」
     今相手に、此方が何処まで情報を持っているか悟らせてはならない。一切の情報を出さず、可能な限り情報アドバンテージを取る必要がある。
    【モテる男の秘訣③:ミステリアスな部分に惹かれる女子、多数!?】

  • 19保険のハルサキ◆PE/kpaaw1s22/11/27(日) 17:50:40

     秘書の男はどこか呆れたか、諦めたかのようにため息をつく。
    「……幕画だ」「幕画ねえ。聞いたことがあるような、無いような」「元不穏部長の生まれ故郷から届いた、と言えば分かるか? 下らん芝居はやめたらどうだ」「そう言われても、人間には尻尾なんて無いしなあ」
     俺ほど正直な人間もそう居ない。
    【モテる男の秘訣④:一にも二にも誠実さが命!】
     それにしても、やっぱり思った通りというか、向こうは今回の件についてほとんど把握しているようだ。
    「そんで、纏めると……その幕画ってとこからの手紙が無くなってる、お前はそれを俺がやったんじゃないかと思ってる……」「問題は。それが主人様へ害を為す目的ではないか、という事だ」

    「手紙を無断で持ち出し。挙句の果てに、ギルドの冒険者にそれを渡しただろう」
     ここまでは流石に想定外だった。
     あのスパイ擬きがこっちを見ていなかったのは確実だったし、会社に提出するスクロールも誤魔化した。或いはアレはデコイで、別の人間が監視していたのか? ギルドに着くまでに何度も周囲の人間を確認したし、着いてからも外への警戒は怠らなかった筈だ。ブラフで此処まで持って行けるとは思い難いし、やはり向こうには何らかの手段がある。まあよく考えれば、俺が表の情報担当なら向こうは裏の情報担当だし当然と言えば当然かもしれない。

    「……完全に思い出したわ」
     とは言えこうなった以上、取れる手段は一つしかない。
    「幕画の手紙を持ち出して、ギルドの冒険者に……渡しましたね、俺。今ハッキリ思い出した」

  • 20保険のハルサキ◆PE/kpaaw1s22/11/27(日) 18:10:21

    「そんで? それがどうしたい」「……面の皮の千枚張りも、此処まで来ると天晴だな。それがどうしたも何も……貴様。奴を……元部長を此処に戻すつもりだろう?」「はい!」
     向こうには殆どの情報が揃っている。俺がやった事も、その目的……あの女を再び幹部の座に据える事もお見通しと来た。
     それなのにこの件を幹部会議で持ち出したり、社長を通して伝えないのは、未だ不確定の事項が残っているからだろう。そしてそれは、コイツの性質上間違い無く──
    「何せハルサキ幹部として。社長に誠心誠意お仕えせねばならんからな、俺は。だからやった」
     社長に関連する事だ。
     もはや手札を一枚一枚精査している暇はない。全て曝け出し、向こうの出方を窺うしかないだろう。こんな事で俺の首まで飛んだら本末転倒どころの騒ぎじゃない。
    【モテる男の秘訣⑤:時には自分の思いを全てぶつけてみましょう!】

    「最優秀モテモテ保険社員俺!!!」「……本気で言っているのか?」「おいおい、俺が上っ面だけの軽薄な台詞を言った事があるかい?」
     繰り返すが、俺ほど正直で誠実な人間もそう居ないだろう。
    「主人様の為だと。奴の本当の姿を知っての行動なのか? それは」「……さあ? 俺あのアイドルちゃんの事詳しいワケじゃねえし」「浅はかだな。再び奴を此処に招くことが何を齎すか知らずに動いているとは……貴様らしくない」「……」
     誰からしい。
     人間は他者に対し、その言動や地位を元に認識を構成する。そういうもんだ。

    「はははっ。別に? 単にさあ、あの子メチャ頑張ってくれてたし。ああいう仕事やってくれる実力と精神を兼ね備えてる子って貴重だろ? ウチには必要な人材だと思うワケ」
     新しく部長になった方は、戦闘担当の面子曰く『彼女には劣る』らしい。本人もそう言っていた。元は部下だったのだから、当たり前の話でもある。
    「正式に退職届を受理したんじゃなく、諭旨退職の期間中にいきなり失踪したんだろ? だったらまだ、事情を聞いたら戻って来てくれるかもだよ!」

  • 21保険のハルサキ◆PE/kpaaw1s22/11/27(日) 22:01:09

    「……奴を再びこの場所に招くことが、主人様に危機を及ぼす……その可能性が一片でもある以上、俺はそれを認めるわけにはいかない……何故だ? 何故貴様なのだ?」「何故って何よ」

    「よりにもよって貴様が奴を復帰させる手助けをしているのが腑に落ちん、と言っている。例えば還元が申請してくるのなら、まだ分かる」「そりゃあの可愛いアイドルちゃんの為だ! これが俺の生涯の使命だ!」「下らん茶番はよせ。まさか友情がどうだとか言い始める気では無いだろうな?」
     俺はこの会社に彼女が必要だと考えている。だから全力で戻って貰おうとしている。そうして貰わなければ困る。
     それは短い間ながら、ハルサキという居場所で思い出を共有したかけがえのない仲間だから……

    「……な訳無いだろ?」
     やっぱりコイツはポンコツだ。ずっと社長しか見えていないし、見ようとしていない。だからこんなとんでもない思い違いを平気で口に出来るのだろう。
     何らかの問題で居場所を去った同僚に戻って来て欲しいと願う理由。それは単純な物だ。
    「前からそうだったから、戻すの。分かんない? 簡単な話だろ?」
     ずっとそうだったからだ。

  • 22保険のハルサキ◆PE/kpaaw1s22/11/27(日) 22:08:23

    「今更あれこれ変えるのは、面倒なの。何も無かった事にした方が、まるっきり楽。分かんないかな、これ?」「……何を言っている?」
    「よりにもよって……俺がそんな事を言い出すなんて! だって……ハハ……ハハハ……! 傑作だぜコレ、パラノイアにも真似できねぇや……」
     本当にお笑いだ。他の人間の事を勘違いしているのなら兎も角、ハルサキで一番『誠実で正直』な俺を捕まえて、友情だと抜かしてみせたのだ。

    「あんなクズにさ、友情なんてあると思うか?」「……っ!?」「まあさ、隠してはいても……と言うか本人も半分『分かっている事を分かっていた』とは思うけど。アイツ、誰か殺してんだろ?」
     張子のアイドル。隠し切れない血の匂い。そんな人間に、どうして友情だのなんだのを抱くことが出来るだろうか。だって俺善良な一般市民だぜ?
     面白いのは、穏匿ならアイツの過去に関するアレコレなんてとっくに確証を持っていただろうに。まるでそれを知らないかのように俺が『かけがえのない仲間を取り戻そうとするムーブ』に精を出しているなんて勘違いをしてこんな場所まで潜り込んできたことだ。

    「あの子だけじゃないわな。ここの社員……幹部……全員碌でもない奴らばっかりだ」
    「死ぬ気もない癖に自殺願望を騒ぎ立ててみる老いぼれに、全部諦めて自棄っぱちになったお先真っ暗のガキ、自分を他の誰かと勘違いしてる女装野郎……人殺し、傍迷惑な自殺志願者、イカれたロリコンども……推測も混ざってるがそんなとこか? 俺もアンタも含めてクズばっかりだなあ」
     こうして見ると壮観だ。よくもここまで集めたものだ。

  • 23保険のハルサキ◆PE/kpaaw1s22/11/27(日) 22:17:00

     まさに灯りに同じ種類の虫が集まるように、オアシスに自然に人が集まるように……そう、その中心に居るアレのために。
    「おっと、一番大事なのを忘れてた……その人形と一緒に会社ごっこに勤しむ、人間のふりをした怪物な」「主人様を侮辱するなァ!」「そうだろうなァ!? そこが崩れたら、アンタらが大事にしてる書き割りがパタンって倒れちまうんだろうなァ!」
     アレが人間?
     冗談じゃない。

    「ま、兎も角さ……俺ちゃんとしては、そこに関しては念押ししときたいわけよ。俺があの子を呼び戻すのは、ただ前からそうだったから。本当にそれだけなんだ……俺はいつだって正直で誠実だぜ?」
    「アイドルちゃんの過去に何があったのかとか、お前があの子を戻したがらない理由とか、さぞ海よりもふか〜い事情がおありなんだろうが、俺ぁそんな事には毛程も興味がねぇんだよ」
     乗り越えるべき試練とか、向き合うべき過去とか、そういうのの相手は真っ平御免だ。
     誰が死のうが生きようが、俺が求めるのはただ一つ……俺が『なんかいい感じだな』と思うその完璧な状態が、永遠に続く事。腹の底で何を考えているか分からない同士で、『楽しそう』を演じ続ける事。
     どこにも進まないし、戻る事も無い、俺の為の理想郷。客に洗脳されただの過去に何かやらかしただので、今更それが崩されるのは我慢ならない。

  • 24保険のハルサキ◆PE/kpaaw1s22/11/27(日) 22:28:03

    「という訳で。俺の純な気持ちのプレゼンも終わったところで……お前が一番怖がってる事に対する答えを教えてやるよ」
     予想外の答えが飛び出して動揺している忠臣の耳に、一番欲しい言葉をくれてやる。
    「あの子を戻したところで、社長に危害を加えるような事は、無い」「……何故貴様が断言できる」「んー、友情?」
     俺たちには共に幹部として生きた時間がある。俺は信じている! あのアイドルちゃんはそんな事をする人間じゃないって!

    「ま、真面目に答えるなら……幕画のルールだ。あっちこっちで好き勝手やるような人種じゃ無いんだよ、あの子は」「やはり知っていたのか、幕画について!」「極東で情報通なら、まあ名前くらいは知ってるさ」「……そうか……」
     多分そうなんじゃない? という言葉は呑み込んだ。お客様を不安にさせるような事は態々言わない、保険営業員として当然のマナーだ。
    「だから安心しろって……そもそも、元はと言えばあの子を引き入れたのは社長なんだろ?」
     コイツが今回の件の対処について迷っていたのは、その点にあるのだろう。普段は自分の仮説だけで1から10までやり切ってしまうこの男がわざわざ俺に話を付けに来たのは、その仮説に疑いがあり、間違いだった場合取り返しのつかない事態を招いてしまうから。
     そういう人間は得てして、自分が間違っているという言葉を聞きたがっている。
    「だから戻してやった方が、社長の為にもなる訳よ……じゃん?」「……そうなのか?」

    「ええ勿論! 保証しますよ、お客様」
    【甘い嘘をつくときは、とびきり最高の笑顔で!】
     そんな俺の誠心誠意の気持ちが通じたのか、穏匿は踵を返して無言で部屋を出て行った。

    「……詐欺師め」「男に褒められても嬉しくねえよ、俺は」

  • 25保険のハルサキ◆PE/kpaaw1s22/11/27(日) 22:32:40

    「ふぃ~……どれどれ、デートスポットで初手映画館はNG──」

     社屋から眺める王都は、今日も平和だ。
     人間の心の中はどう頑張ったってドロドロで分かりやしないから、俺たちは『そう見える』を見て『そう聞こえる』を聞く。だったらそれを理解して賢く『見て』『聞く』のが賢明だ。
     宴を続けよう。終わった人間たちによる、終わらない宴を。
     最高の『楽しそう』を楽しもう。

     此処は保険のハルサキ。皆様に変わらぬ日常をお届けする保険会社だ。

  • 26保険のハルサキ◆PE/kpaaw1s22/11/28(月) 09:54:01

    【ホープフル・リストラクチャリング】

    「ざっけんじゃないわよ! 何でアタシが部長になる訳!?」
    「元部長が居なくなったからです。繰上り式で貴女が昇進するのは、約款にも書いてあった事項の筈ですが」
    「そうじゃない、そんな事どうでもいい! センパイはどうなったっての、戻って来るんじゃないの!?」
    「……彼女は連絡が付きません。社としては、是を事実上の退職願として判断します。よって彼女はもう、弊社の社員ではありませんので」
    「っ……! バカ! バカバカ!! アタシ認めないからね! 誰がアンタの言う事なんか認めるもんですか!」

  • 27保険のハルサキ◆PE/kpaaw1s22/11/28(月) 10:37:23

    「……言い方が不味かったでしょうか」
    「必要な措置です。主人様に奴を戻すおつもりが無い以上、役職の引継ぎは行われなければなりませんから」
    「主人よ。その……一つ良いか?」
    「構いませんよ。何でしょうか」
    「彼女を戻す気は……本当にないのか? 確かに彼女は有能な人材だったし、その……」
    「……ありませんよ。彼女が自分の意志で此処を出て行った以上……その先にある希望を止める事は出来ません」

    「……死者が生者の手を引く事なんて、あってはなりませんから」

  • 28◆PE/kpaaw1s22/11/28(月) 10:43:30

    「……極東から来ました。剣術と……隠密術に、自信があります。きっと役に立てると思います」
    「……もう、無いんです。帰る場所は……私が、この手で……もう、無くなってしまったんです、だから……」
    「ここで働かせてください。こんな私でも、ちょっとでも世の中を明るくできたら、とっても素敵な事だって思うから……そう、私、私のするべき事は……」

    「……みんなを笑顔にする、アイドルなのですっ☆」

  • 29嫉妬の保険屋◆PE/kpaaw1s22/11/28(月) 10:44:06

    『愛しい貴方の脈拍劇場』

    【銀幕の画】

  • 30嫉妬の保険屋◆PE/kpaaw1s22/11/28(月) 10:51:37

     極東西部。多くの諸島が連なるこの世界には、かつて多くの武家が争い、覇を競った時代があったという。
     武を唱え、戦い、蹂躙する……自由と混沌を体現した世界で、力の無い人々は涙を呑むしかなかった。焼けゆく田畑、死に往く家族……そんな状況を止めるべく立ち上がった、影の世界に生きる武人が一人。
     彼とその仲間は、罪なき人々を救うために刃を振るった。その力は小さな諸島の小さな島に留まるものだったが、それでもそこに住まう人々にとっては間違いなく救いであった。
     戦乱は終わりを告げ、影の仕事人も歴史の舞台から消え去った。しかし大きな戦いが無くとも、世に人を脅かす影は尽きまじ。苦しみの呻き声が強い願いへと変わった時、再び闇から現れ出て、誰かの信ずるところの正義を執行する。それこそが──

    「我々、幕画の使命です」

     私の生家、幕画の役割だ。

  • 31二次元好きの匿名さん22/12/01(木) 00:55:23

    このレスは削除されています

  • 32嫉妬の保険屋◆PE/kpaaw1s22/12/01(木) 01:05:26

     そんな家にいたものだから、日がなする事と言えば剣の訓練くらいだった。
    「上段、構え……引き下ろし、一歩後ろに……」
     悪を誅すると言えば聞こえは良いが、その実態は暗殺の為の剣だ。主目的は派手な動きで本命の動作を隠す事。毒や仕込み武器が真骨頂……それは極東でよく言われるところの『道』とは、正反対の道だった。
    「半身引いて、下段から押し上げる……半月の構えを取って、仕切り直すと見せかける……」
     それでも、私はその道を一心に究めようとした。私にとってはそれが、大恩ある家への奉公だった。

     私は親の顔を知らない。何か事情があっての事か、物心ついた時には生みの親の手から離されていた。
    「精が出ますね、──」
    「御屋形様!」
     幕画の現当主であるところの彼女が、私を拾ってくれた親代わりの人物なのだ。
     私は幕画の人間であって、幕画の人間では無い。だから少しでもそれに近づけるように、出来る事は精一杯やらなければならない。私を突き動かしていたのは、そんな衝動だった。
    「訓練は感心ですが、詰めすぎると体に毒ですよ。休憩にしない? 客間でお茶を淹れたの」
    「あ……ありがとうございます。もう一度だけ、型を確認したら……」
     拾い子であるという負い目が無かったとは言わない。しかし、その時の私はもっと純な気持ちに支配されていた。
    「そうですか。着替えはそこに、用意しておきますからね」「感謝します」「あ、やっぱり訓練してた! 訓練バカ!」「おいおい、茶化すなっての。俺らは先に客間で待ってるから……」
     ただ、あの空間にいることが、とても幸せだったのだ。どれだけ恩返しをしても、し足りないくらいに。

  • 33二次元好きの匿名さん22/12/03(土) 23:09:07

    保守だが
    体調を崩したね

  • 34二次元好きの匿名さん22/12/04(日) 22:46:19

    保守協力です

  • 35二次元好きの匿名さん22/12/07(水) 01:03:03

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  • 36嫉妬の保険屋◆PE/kpaaw1s22/12/07(水) 01:14:29

    「いやあ、お疲れ様。毎日毎日剣術の稽古、良く頑張れるよね」
     訓練を終えた後には、仲間たちと共に縁側近くの部屋で円卓を囲む時間がやって来る。
     彼らの出自は様々だ。幕画で生まれた人間に、私のように身寄りのない子ども、幕画の噂を聞いて集まった人……種族もいでたちもバラバラだったが、そこには確かに家族のような絆があった。

    「私は……幕画の人間として、務めを果たそうと」
    「貴女がそう言ってくれるのは、とても嬉しいですが……今の世の中、私達のような刃も不要になりつつあるのですよ。かつての戦乱の頃とは違うのです」
    「そうそう、今のご時世アサシンなんて稼げないし適当にやればいい」「キキョウは適当過ぎるんだよね」「いっそこの屋敷もアトリエに改装しよう」「何で」「アサシンからア取りて刷新」「馬鹿」「アホ」「私らがどう反応するか分かって言っただろ」「ああ、察しん……」
    「うふふ……そうね、何かもっと……世の中を明るくできるような事をしたいものだわ。私も……もう十分、長生きはしましたし、未練は無いのだけれど」
    「御屋形様……滅多なことを仰らないで下さい」
    「冗談よ、貴方達よりも長生きしますからね、私は。そうね……映画監督なんて、興味があるのだけれど……」

     幕画の人間は剣に生きる。それは決して日の当たる道ではない。
     だがその小さな屋敷の中には、いつも春の日の陽光のような、朧気ながら暖かな光が降り注いでいた。

  • 37嫉妬の保険屋◆PE/kpaaw1s22/12/07(水) 01:34:52

    【Scene2】
     クサギを象った印章は、幕画の家紋。判が押された半紙は、幕画の当主が直々に下す命の証だ。
    「一度でいいから、使ってみたかっただけなんですけどね」
     昔より白髪の目立つようになった老女は、そう悪戯っぽく笑った。
    「私に、ご命令との事で……」
    「ええ。だけど、そう肩肘張らなくても良いのですよ。ちょっとした……お願いのようなものです」
     幕画の暗殺家業は、平和な当代では只の看板に成り果てていた。実質的には、極東に数多くある武術の一門として動いていたと言っても良い。
     だから、幕画の人間に命令が下される事も……少なくとも彼女が当主であった時代では、それが初めての事だったという。
    「幕画の刃は、護る為の影の刃……しかし、何も直接人間を誅するような事だけが"護る"事では無いと思うのです」
    「……はい」
    「貴女にはね……護衛をお願いしたいの」
     主が指し示したのは、島嶼部に散在する名家の一覧の一つだった。
    「護衛、ですか」
    「最近、名家同士で小さないざこざがあるようで……昔の知り合いが、相談してきたの。腕のいい護衛を雇いたい、って」
     護る為の刃。
     そう教えられてきた剣術だが、実際に護衛として運用する事になるとは想定していなかった。どれだけ平和な世になっても、技術は不朽。幕画の剣は、殺す為の剣。
     それでも当主がクサギの紋の元に命ずる事ならば、私に許された返答は一つしか無い。
    「謹んで、お受け申します」

  • 38嫉妬の保険屋◆PE/kpaaw1s22/12/09(金) 21:06:15

    島嶼部の西部は、海岸沿いに生え揃う松の並木が美しい場所だ。
    大海原を望む小高い丘の上に、その屋敷はあった。
    そこには世界の全てがあった。星々の煌めく夜空があった。潮騒の揺り籠があった。幸福と笑顔を栄養にして育つ花畑があった。
    そして、

    「初めまして、可愛い護衛さん。これから宜しく、ね?」

    彼女が居た。
    車椅子を転がしながら微笑む黒髪の少女が、三日月が放つ燐光を全て吸い込みながら、そこに居た。
    これこそ、世にいう所の……『運命の出会い』に他ならないのだろう。

  • 39二次元好きの匿名さん22/12/10(土) 16:58:06

    このレスは削除されています

  • 40二次元好きの匿名さん22/12/10(土) 16:59:25

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  • 41謎のフード22/12/10(土) 17:03:35

    あれ?自分と紅葉葵さんの闘技場はコッチじゃ無い感じです?

  • 42重鎧剛蛇◆IRjp04k5N.22/12/10(土) 17:03:45

    立て乙です!

  • 43二次元好きの匿名さん22/12/10(土) 17:05:23

    このレスは削除されています

  • 44二次元好きの匿名さん22/12/10(土) 17:05:24

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  • 45二次元好きの匿名さん22/12/10(土) 17:06:42

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  • 46二次元好きの匿名さん22/12/10(土) 17:07:47

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  • 47二次元好きの匿名さん22/12/10(土) 17:08:04

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  • 48二次元好きの匿名さん22/12/10(土) 17:08:33

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  • 49二次元好きの匿名さん22/12/10(土) 17:08:50

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  • 50二次元好きの匿名さん22/12/10(土) 17:09:20

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  • 51二次元好きの匿名さん22/12/10(土) 17:09:45

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  • 52職員◆KQHIFqg5.w22/12/10(土) 17:11:47
  • 53職員◆KQHIFqg5.w22/12/10(土) 17:12:31

    失礼しました…… 参加者の方は↑のスレへ移動をお願いします

  • 54蛇眼のメデューサ◆bLL7B.rkL622/12/10(土) 17:13:15

    ※了解しました

  • 55嫉妬の保険屋◆PE/kpaaw1s22/12/13(火) 01:27:40

    【Scene3】
    「幕画より命を受けて参上申し上げました、──と申します」
     譜院家は、かつて国家の土木業を管理していた貴族の家系だ。
     戦乱の中で政府は潰えたが、血を残した彼らは今現在も政界で強い力を持つという。
    「この家を守る刃として。如何様にも此の身をお使いください」
    「あら、そんなに……そんなに畏まらなくっても、良いのよ。来てくれて、とっても嬉しいわ」

     微笑んだ彼女は、車椅子を動かして窓の外に見える海へと視線を移した。
    「お父様も、お母様も、随分と心配性。なのね……不随意と云えど、私だって武家の娘。なのに」
     そう言って笑う横顔には、しかし一抹の……何かが浮かんでいた。
     彼女の脚は生まれつき、という風に聞いていた。政治的混乱の中で、その存在は大きなアキレス腱になり得る。そうでなくては、いくら個人的な親交があるとはいえ、暗殺者上がりを護衛に仕立てたりはしないだろう。
    「外出の際は、お声掛けを。車椅子を運びますので」
    「それは……とっても。助かるわ。ありがとう」
     それじゃあ……と、彼女は言葉を続けた。
    「向こうに見える海まで。私を連れて行ってくれる?」

  • 56嫉妬の保険屋◆PE/kpaaw1s22/12/13(火) 02:30:46

     海原は、空に浮かんだ月の光を反射して幻想的に輝いていた。潮風が髪飾りで結わえた長い黒髪を揺らす。
     少し肌寒い、秋口の海岸。
    「──様。その……あまり寒い中にいると、御身体を悪くします。せめて何か羽織る物を、屋敷から……」
    「大丈夫よ……少しだけなの。すぐに。すぐに戻るから」

     彼女は、夢で見た景色を口遊むかのように、不思議な口調で語る人だった。

    「ねえ、聞いたことがある? 北の果ての空に浮かんでいる、"運命の星"の事」
    「……あの、御伽噺に出て来る星ですか?」
     衝合、剥離。余りに不安定なこの世界にあって伝説のように語られる、『何があっても決して場所を変える事の無い、明るい星』。海を往く船、荒野の旅人、占星術師達にとって、絶対的に信頼の置ける標……そういう風に言われることが多い。
    「そう。そのお話。北極星よりもずっと明るくて、赤く光って。輝いている、星の事……全ての旅人の友」
     呟きながら彼女は、車椅子から身を乗り出すような姿勢で、北の空に向かって手を翳した。
    「今……この島は、揺れているの。強い風が吹いている……私だって分かるわ、子供じゃないから」
    「? ええ、と……」
    「砂嵐を起こして目を潰して、帆船の行く先を惑わせる……旅人にとって辛い日々がやって来る」
     その言葉は示唆的で掴みにくい物だったが、流石の私にもある程度理解出来た。
     政界に関わる家の一人娘として、彼女もまた社会に渦巻いている"何か"を悟っていたのだろう。

    「……長居し過ぎたかも、ね。そろそろ帰りましょう。運んでくれてありがとう」
    「はい。車椅子を失礼します、──様」
    「……その、──様って呼び方。堅苦しくて嫌いだわ」
    「え、えっと……では……お嬢様?」
    「……まあ、良しとしましょう。さあ、エスコートをお願い」
     私達は海に背を向け、屋敷へと戻った。
     北の空に、赤く輝く星は無かった。

  • 57二次元好きの匿名さん22/12/15(木) 00:52:53

    このレスは削除されています

  • 58嫉妬の保険屋◆PE/kpaaw1s22/12/18(日) 00:14:59

    「上段、構え……引き下ろし、一歩後ろに……」
     護衛任務を受けたとはいえ、日ごろから絶え間ない襲撃に晒される……などと言う事は当然無かった。戦乱の過ぎ去った諸島にあって、私は何の風も感じることが出来なかった。
    「半身引いて、下段から押し上げる……半月の構えを取って、仕切り直すと見せかける……」
     戦いに備えて訓練を続けていたのも、むしろそれが日常の一部だったから。

    「──、今朝も……精が出ますね」
    「っ、お嬢様。おはようございます」
     ただ、その場所と、見守ってくれる人が変わっただけである。
    「申し訳ありません、直ぐに仕事に戻ります」
    「良いのよ、構わないの……もう少しだけ、訓練を見させて」
     時にはそのように頼まれることもあった。その度私は数回の素振りを繰り返す。かつては多くの人を殺めていたのかもしれない剣筋を、虚空になぞらせる。
    「貴方は本当に……強いのね、本当に」
    「いえ……私はただ」
    「謙遜しなくっても、良いのよ。不要なの……私だって、武家の娘だから」
     そういう言葉を吐き出す度に、主は何処か……痛みを感じない筈の脚の痛みを、口を引いて微笑むように耐えている、そんな表情をした。

    「この脚さえ、如意であったなら……私も、私でも、もう少し。広い世界へと歩いて行けたのでしょう」

  • 59嫉妬の保険屋◆PE/kpaaw1s22/12/20(火) 23:58:52

    「お嬢様、それは……」
    「……貴女に言うべきことでは、無かったわね。忘れて頂戴、ええ、忘れて……」

    「私達の人生には、どう足搔いても逃れられない定めが課せられている……形は違えど、逃れられる人は居ない、そう、居ないの……」
     大丈夫だ、と笑うその顔が。余りにも痛ましかった。
     幕画の仲間たちは友であったが、彼女は契約者、依頼主以上の何物でも無かった。その瞬間までは。しかし、その余りにも儚げで、運命というものを悟り切った顔を見て、私はその時……

    「……私に、お嬢様の脚にならせては頂けませんか」
    「……脚に?」

     彼女の瞳が、赤色に輝いた。

    「いえ、その……幕画から仰せつかっていますから、つまりその、お嬢様には……」
    「うふふ……命じられているのは護衛任務、だけでしょう? 脚になる、なんて……そんな事言われていないでしょう」
    「それは……」
     その通りだ。今まで頼りにしていた幕画が、私に理由を与えてくれなくなった。私は突然中空に放り出されたかのような感覚に陥る。が、顔を振って立ち直ると、ゆっくりと少女の車椅子の持ち手に手を掛けた。

  • 60嫉妬の保険屋◆PE/kpaaw1s22/12/21(水) 00:17:37

    「……それでも。その……手伝わせて下さい」
    「え……?」
    「お嬢様は……いつでも。経世済民、世を救い、民を慮る、そんなお方ですから……ただ、私もそれを手伝えたらと……」
     今まで言ったこともないような文句がすらすらと並び、車椅子の少女よりもよほど驚いたのは、私自身だった。
    「幕画の人間として、そういう為政者の手助けをするのが使命という事で!」
     慌てて誰にともなく付け足した言い訳の言葉は、柔らかな微笑みに掻き消されてしまった。

    「私はね、貴方が思っている程大層な人間じゃないの……ただ憧れているだけ。何かに……届くはずも無い、何かに……憧れているだけの人間なのよ」
     その眼は、その瞳は。あの海岸で、見えない星を見ていた時と、同じ瞳。
     お嬢様。貴女は一体、何を望んでいるのですか? 私には見えない何かを見ているのなら……
    「その憧れを……私にも、見せて欲しい……」
    「……」
    「駄目でしょうか、お嬢さ──」
     刹那。此方を見上げていた少女の顔に目をやった私は、言葉を失った。

    「……あら?」
     それは、涙だった。
     少女自身も気が付かぬうちに、しかしとめどなく流れ出す、涙の轍が、彼女の頬にしっかりと刻まれていた。

  • 61嫉妬の保険屋◆PE/kpaaw1s22/12/21(水) 00:30:45

    「お嬢様……!?」
    「わたし……私、泣いているわね、私……」
     ゆっくりと、自分の立っている場所を確かめるように、意味のない言葉を呟いたかと思うと。
    「ごめんなさい……ごめんなさい……」

    「憧れを肯定されるのなんて……私、初めてでっ……初めてで、本当に……どうしたら、良いのか……!」

    「……憧れる事は。素晴らしい事だと思います」
     人は誰でも、何かになりたがる。私は幕画として相応しい人間に。彼女は届かない星に。
     そういう憧れが無ければ、何事も動かせはしないのです、と。知った風な口を、私は利いてみせた。
    「なので私も、その道に……連れ立たせて下さい。興味が……あります。お嬢様が、どんな景色を見ているのか」
    「……幕画の使命、じゃあなかったかしら?」
    「それは……」
     確かな矛盾を突かれてしどろもどろになってしまった私に、彼女はまた笑いかけた。手巾で涙を拭って、まるで先程まで露わにした感情など無かったかのように。

  • 62嫉妬の保険屋◆PE/kpaaw1s22/12/21(水) 00:35:35

    「そんな殺し文句を言われたら……淑女として、答えないわけにはいきません、ね?」

    「付いて来て下さいな。私の脚として……約束しましょう。いつか貴方に、私の憧れた景色を見せてあげましょう」
    「約束します。お嬢様の脚として、貴女が憧れの景色へと辿り着く……その助けになると」

    「ふふっ……指、切、った。そうね、それじゃあ、少しだけ。貴女には教えておきましょうか……」
    「定めの星みたいに、見上げればいつでもそこにあって、輝いていて。道に迷う旅人全てに寄り添って、笑顔と幸福を届ける……そんな存在に、私はなりたいの。天高く昇って、ただ居るだけ。でも、輝いている」
    「そんな存在の事を、大陸では、そう……」

    「"アイドル"と呼ぶそうよ?」

     いつだって、そう。人は何かに憧れている。
     運命の枷に縛られて……手の届かない星を見上げて、憧れている。

  • 63嫉妬の保険屋◆PE/kpaaw1s22/12/23(金) 21:57:23

    「お嬢様……」

    (私もあまり詳しくありませんが、それは……その夢は……)

     何かこう、違う気がする。
     そんな言葉を、冬風に乗せて飛ばして。私は、彼女が憧れへと手を伸ばす助けになろうと決意した。
     その瞳に映っていたものが、本当は何であるかも知らなかった、幸せで愚かな私。

  • 64魔刀剣士22/12/26(月) 18:51:56

    ほしゅ

  • 65嫉妬の保険屋◆PE/kpaaw1s22/12/26(月) 20:13:26

    【Scene4】
     冬が北から冷たい風を運んでくるようになると、諸島に吹くもう一つの風の姿はいよいよ私の目にも分かる程になった。

    「……ただいま戻りました、御屋形様」

     任務の現状報告を兼ねた、年に数度の里帰り。記憶にあるより少しひっそりとした幕画の隠れ屋敷にて、私は恩人であるところの老女と襖越しに向き合っていた。
     何故か……彼女は私の前に、あの輝く銀杏のような静かな笑みを湛えた顔を見せてはくれなかった。
    「……任務、異常はありませんね?」
    「ご随意に。……一つ、お尋ねしても良いでしょうか」
    「……結構」
    「この屋敷の正門に……見覚えのない絡繰りが備え付けられていましたが。アレは、一体……」
     異常は彼女自身だけでは無かった。屋敷に入ろうという私を、門の遥か上から見つめる無機質な眼があったのだ。
     その眼の瞳にあたる部分には、見覚えのある紋が描かれていた。
    「……アレはね……大陸の絡繰りで、かめらと呼ぶの。光景や映像を、後に残しておけるのよ」
    「それは……便利、ですね」
    「報告が済んだのなら……下がっても良いわよ。お疲れ様」
    「あ……はっ、御屋形様、その……お元気で……」
    「……私の事は気にせずに、与えられた任務をこなすことを考えなさい」

    「例え、命に代えても。護り切るのよ」

     諸島や大陸がどうなろうと、結局私のすべきことは決まっていた。
     任務を果たす……クサギの紋の元に下された指令は絶対。お嬢様を助けるという意味でも、それは間違っていない……筈だった。
    「……失礼します」
     北から冷たい風が運ばれてくる。もうすぐ、冬がやって来ようとしていた……

  • 66嫉妬の保険屋◆PE/kpaaw1s22/12/26(月) 20:19:47

    「はーい☆ ファンのみんな、元気してたかなーっ?!☆ あなたのハートにラブ♥ずっきゅん! スーパースターアイドル、譜院──ですっ☆」

     ウィンクしつつ横ピース!!!


    「……お嬢様」
    「ええ」
    「これは……一体。何でしょうか」
    「あらあら……ふふ、貴女は雑誌とか、読まないのね。私はね、お父様が買って来て下さった雑誌に書いてあったの、私それを見て勉強したのよ、決まってるわ、そうこれこそ──」

    「大陸のアイドルよ」

    「……左様で御座いますか。申し訳ありません、不勉強で」
    「構わないわ、それよりも……どう? 私……可愛かった?」
    「完璧でした」
     この会話の中で、私が真心と誠意を込めて放った言葉はコレだけだったかもしれない。

  • 67ハルサキ22/12/29(木) 18:32:32

  • 68二次元好きの匿名さん23/01/01(日) 08:50:02

    保守

  • 69二次元好きの匿名さん23/01/03(火) 23:45:53

    あぶねえ!

  • 70二次元好きの匿名さん23/01/06(金) 13:30:56

    守守

  • 71二次元好きの匿名さん23/01/08(日) 16:47:09

  • 72嫉妬の保険屋◆PE/kpaaw1s23/01/10(火) 18:53:43

    「うふふ、ありがとう。そう言って貰えると、ええ、貴女にそう言って貰えると、本当に勇気が出るわ」
     そう言って、また星空のように笑う。
     笑顔を絶やさない人だった。それが生来の気質からなのか、"アイドル"としての使命だからなのか、私には分からない。ただ……生まれてから幕画の人間としての生き方しか知らず、知ろうともしていなかった私にとって、その笑顔が明確に心に残っていたことは確かだ。
     正直言って、”アイドル”なる存在の何たるかは私にとってあまり重要では無かったのだ。ただそれが彼女の憧れであるという事に、僅かな意味を見出していただけ。

    「……お父様が話していたわ。今……この国の冬は、昔よりもずっと厳しくなっているそうよ。民の食べ物も少ないし、心も乱れている──」
     彼女はそこで言葉を区切った。私は何も言わなかった。そういう問題に対しては、私は語る言葉を持たない。ただ、最近物騒な事件が増えているのは確かだった。護衛として、それには気を配らなければならない。
     暫く続いた静寂を秋風が連れ去り、彼女はまた笑った。
    「だからこそ、民に希望を、皆に笑顔を! 憧れを肯定する、アイドルが必要なの」
     その笑顔は相も変わらず輝いていたが、しかし先程の物とは違うような気がして、私は……

    『何としても。幕画の人間としての使命を果たすのですよ』

    「……そうですね。きっとお嬢様なら成し遂げられます」
     やはり、私に語る言葉は無い。
     私はお嬢様が憧れへと歩を進めるための脚、それ以上でもそれ以下でも無いのだから。

  • 73嫉妬の保険屋◆PE/kpaaw1s23/01/13(金) 00:38:46

    「……そうね。」

    「それじゃあ今日も、練習に付き合ってくれる?」
    「はい、仰せのままに──」
     車椅子から差し出された手を掴もうとした私を、玄関から響く鈴の音が引き留めた。
    「……郵便のようです。受け取って来ますね」
    「あら、月に叢雲ね……お願いするわ。でも気を付けてね、最近は……この周りも色々、物騒だから。」
     最後の台詞には、微笑だけを返して。私は荷物を受け取りに向かった。

    「……郵便です」
    「申し訳ありません。譜院家に宛てたものでしたら、そちらの文箱に入れるようにと……」
    「……いえ……”幕画──”様宛です」
    「……?」
     呼ばれたのは確かに、私の名だった。怪訝に思いつつ、帽子を目深に被った配達員から封筒を受け取る。
     そこには確かに、見慣れた紋様……クサギの判が押されていた。間違いなく、これは幕画本家からの物だ。だが一体、何故帰ったばかりのこの時分に?
    「……印を……」
    「あ、はい、今用意します」
     陰気な配達員を帰してから、私は一つ首を傾げ。その封筒を──

  • 74二次元好きの匿名さん23/01/15(日) 20:20:27

    ほす

  • 75内気な極東出身冒険者23/01/18(水) 10:05:40

    保守

  • 76二次元好きの匿名さん23/01/21(土) 07:12:01

    jしゅ

  • 77内気な極東以下略改め〈自在剣〉23/01/24(火) 03:22:45

    危ない危ないこっちも保守です

  • 78二次元好きの匿名さん23/01/26(木) 21:52:47

    中の人はジッサイ予定ヤバイまた来週

  • 79嫉妬の保険屋◆PE/kpaaw1s23/01/29(日) 00:33:24

    「……お帰り。遅かったわね、──。何かあったのかと心配してたわ」
    「……」
    「? どうしたの?」
    「いえ。何でもありません、お嬢様。久しぶりに郷里から便りが届いたので、少しあの頃を懐かしんでいました」
    「あら……そう、そうだったの、貴女宛だったのね。私の世話をしてくれるのも嬉しい、本当に嬉しいけれど……たまには故郷に顔を見せてあげて頂戴ね?」
    「承知しております」

     送られた手紙を懐に仕舞ったまま、車椅子を押す。私は笑っていた。彼女と同じように笑っていた。笑うことが出来ていた。
     何故なら幕画の暗殺者にとって、己の感情を律する術は最も重視すべき事柄の一つだったからだ。


    『譜院家郎党 国ニ乱ヲ齎ス者ナリ 誅スヘシ』


     そう、例えこんな便りが届いても。
     それがまさしく、私を此処へ送り出した、敬愛する御屋形様の直筆だったとしても。
     私は感情をおくびにも出さなかった。外側には、ちらとも見せなかった。

  • 80嫉妬の保険屋◆PE/kpaaw1s23/01/29(日) 04:31:44

     やる事は、いつだって単純だった。
     己の技量を発揮して、命じられた仕事を果たすだけ。全てはこの国の安寧の為に。何も考えることは無かったし、その必要も無かった。その日までは。

    『譜院家郎党 国ニ乱ヲ齎ス者ナリ 誅スヘシ』

     譜院。私が今仕えている家が。誅するに値する大罪人だと。あの手紙はそう言っていたのだ。そしてそれを、私に銘じていたのだ。
     具体的な内容、理由が書かれていないのはそう珍しい事ではない。それもそう、私には何も考える必要など無いから。譜院家くらい国政に関わっていれば、確かにそういう影響を及ぼす事はあるのかもしれない。が。
     信じたくなかった。彼らがそうなのだとは。
     明確な事は、ただ一つ。誰かが譜院家を目障りに思い、御屋形様に依頼を持ち込んだ。幕画の人間は私情では動かない。依頼だけで動くのだ。そしてその命令は、私の元に辿り着いた。

  • 81嫉妬の保険屋◆PE/kpaaw1s23/01/29(日) 04:43:35

    「私に……」
     そう、不可解なのはその点だった。私には既に、一つの任務が課せられていたのだ。
     譜院家令嬢の護衛。その身体を、命に代えても守り抜く事。それもまた、御屋形様から命じられた大事な使命。
     使命は果たされなくてはならない。だがそれが矛盾した時どうすべきかの答えは、誰も教えてくれなかった。
     組織に事前に潜り込んで情報精査や錯乱などの任務を果たす事は、今までにもあった。これがそういう類の任務であれば、多分私も苦悩はしなかっただろう。だが、私への任務はあくまで護衛。私にその不可解を解き明かす術は無かったし……

    「そうだわ、大陸から喉に良いお茶を仕入れて貰ったの。一緒に飲みましょう」

     私は、そう、もう、約束してしまっていたのだ。
     彼女と。幕画としてではなく、一人の人間として。その憧れの果てを見ると。

    「……聞いてる?」
    「はい、聞いていますよ。今戸棚から茶菓子を……」
    「……いえ、そうだわ。折角だから、お父様とお母さまの様子も見て来て、もし誘えそうだったらここに来てもらって。この寒さで二人も喉を傷めているかもしれないから」
    「分かりました」

     相変わらず、言葉はすらすらと出て来た。殺す為の訓練の賜物だ。
     表情を変えないまま退室し、足早に館を駆ける。或いは、あの指令について。譜院の当主ならば何か知っているかもなどと、期待を抱きながら。理解不能な状況に終止符を打つために、その扉を開き、
    「あ」「え?」
     そこでいつも挨拶する当主ではなく、故郷で慣れ親しんだ懐かしい人たちの顔を見て。彼らが手に持つ苦無と、茶染めの朱が撒き散らされた絨毯を見て。
     ああ、私は本当に、
    「──っ」
     いつも手放したことは無い、御屋形様から賜った刀剣。右手の指で鯉口を切り、抜刀一閃。三人の同僚の頸を斬り落として。思った事が、ただ一つ。
     私は本当に、愚かだった。
     事態は既に、私の手の遥か遠くまで進んでいたのだ。
     本当に……

  • 82内気な極東以下略改め〈自在剣〉23/01/31(火) 21:47:43

    保守

  • 83二次元好きの匿名さん23/02/03(金) 10:20:49

    ほしゅ

  • 84嫉妬の保険屋◆PE/kpaaw1s23/02/05(日) 03:00:13

    「はっ、はあっ、は……」
     走った。ひたすら走った。行く時よりも遥かに速く。
     いつでも人間は、手遅れになった後に走るものなのかもしれない。もしくは、そうなる予感がある時に。
     この時は……
    「お嬢様!」「さっきの音は何!? 私……」「襲撃です、直ぐに屋敷から離れましょう!」
     やや乱暴に車椅子の持ち手を掴んで、部屋を出る。甘かった。私に指令が来たからと言って他の人間が来ていない訳では無かったのだ。いや、寧ろあの指令は……
    「ねえ……さっきお父様を呼びに行ったでしょう」「っ……」「お父様とお母様と……逃げるなら一緒に……!」
     車椅子を持つ手に縋りつく、彼女の手。
     こんなにも細く、硝子のように透き通っていたのかと。その時になって気が付いた。
    「……参りましょう」「ねえ!」「私の使命はお嬢様の護衛です!」
     言葉を突っ切って屋敷を駆ける。どこからか火の手が上がったのか、物が焼ける匂いがする……静かに、少数での遂行を是とする幕画のやり方としてはおかしい。一体ここには何人の「伏せて!」「きゃッ……」
     叫ぶと同時に、今まで手をかけていた車椅子の持ち手を踏み場にして少女を飛び越え跳躍。曲がり角から出て来た刺客の背後迄飛び込み、首筋に毒針を打ち込んだ。
    「ねえ、その子は!?」「刺客です、お嬢様こちらへ!」
     こちらに向かって車椅子を漕ぐ主人に手を差し出すと同時に、私は見た。幕画の刺客の顔……
     あの日一緒に訓練をして笑い合った相手が、そこに屍となって転がっている。

  • 85嫉妬の保険屋◆PE/kpaaw1s23/02/07(火) 21:29:19

    「っ……」
     ここに来て、ありありと見せつけられた。
     私は今まで私を育てた生家に対して、今刃を向けたと。

    「ねえ、あの人は……」「行きましょう、お嬢様! 屋敷は危険です!」
     言葉と思考を振り切って、私達は再び駆け出した。
     これも任務だ。幕画から、御屋形様与えられた任務、彼女を守り抜かなければならない。矛盾した命令の事から目を背け、私は走った。どこからか焦げ臭い匂いがする。一刻も早くここを出なければならない。

     屋敷の外に出た時には、太陽が沈もうとしていた。

  • 86二次元好きの匿名さん23/02/10(金) 09:20:43

    保守

  • 87二次元好きの匿名さん23/02/13(月) 02:38:14

    保守

  • 88嫉妬の保険屋◆PE/kpaaw1s23/02/15(水) 15:23:20

     私達は海岸の近くの洞窟まで逃げ出し、その場に隠れた。追手が何人いるかも分からない状況、私は脇差を抜いたまま、沈みかける太陽の光を頼りに外の警戒を続ける。
     暫く、二人の荒い息遣いだけが響いていた。

    「……ねえ、──……」「……」
    「……」「……何でしょう、お嬢様」
    「お父様と、お母様は……」
     彼女はそこまで言ってから口を閉ざす。私の表情から、その返答を窺い知ったのだろう。
     いよいよ陽が落ちて辺りが一層静かになり、遠くの潮騒が耳に届き始める。
    「……私は……」「……」「私はどうなるのかしら」
     屋敷も失って、幕画を裏切って、二人で逃げ出して。
     何もかもが無くなってしまった私も、その問いの答えだけは用意していた。

    「私が!」
    「私がいる限り……お嬢様は、護ります……」「貴方……」
    「お嬢様の夢の果てを見せて下さる、そう約束してくれたでしょう……」
     感情が留まらなかった。きっとコレを言うことは彼女を追い詰める事になると分かっていても、言葉を止めることが出来なかった。
    「私が守るから……お嬢様には、生きていて……生きていて欲しいのです……」「……勿論よ、心配しないで」

  • 89二次元好きの匿名さん23/02/18(土) 00:18:22

    保守

  • 90嫉妬の保険屋◆PE/kpaaw1s23/02/20(月) 09:48:25

    「……私だって、そう……貴方に約束したものね、そう、約束したの……貴方に、星を見せるって……憧れの、果てを……っ!」
     一筋の涙が頬を伝う。
     そのまま、余りにも悲痛に、彼女は笑っていた。
    「唯一のファンを悲しませたままでは、いられないわ……私は、だって、私は──」「お嬢様」
     何かに憧れた事の無かった私に、星の輝きを見せた人。遠い所を見た人。私にとって、家を捨ててでも護る価値のある人その両手をぎゅっと握りしめ、私は奥歯に強い力を入れ、歯の裏に隠されていた袋を破く。
     袋の中から、自決用の致死毒が漏れ出した。私はいつまでも彼女を守ると心に決──

    「え?」

     こういう仕事をする上で最も避けなければならないのは、自分が敵方の手に落ち、更にそれによって雇用主の情報を与えてしまう事だ。影の命は、生者のそれよりも軽い。だから、そう。私達は、いつもそうしている。つまり……
    『任務に失敗したら、自ら命を断つ事。幕画はいつでも、光の元にある人の為に。覚えておいてくださいね、──』

    『幕画の掟から、逃れる事は能わない』

     毒が回り始める。右目の端から昏くなる意識の中に、声が聞こえた。
     それはひどく温かみのある声だった。安心させてくれる声だった。私にとって大事な人の声だった。それは──

  • 91嫉妬の保険屋◆PE/kpaaw1s23/02/20(月) 09:55:57

    「んっ!──」「……あ……」

     突如として車椅子から身を乗り出し、私の口元へと乱暴に口を合わせた、人の、声だった?
     毒が半分回って朦朧とする意識の中、私は私が犯し続けた過ちの中でも最も滑稽で、重篤で、取り返しのつかないものを知った。
    「あ……ちょっと、飲んじゃった。かも」「お……じょ、さま……?」
     だいすきな人の眼から。笑顔を浮かべる口の端から。血の滴りが見える。
     守らなければならない人が、そこで笑っていた。
    「こ……んな風にしているつもり、無かったけど……でも、私……いつも、いつも、そうなの。いつも……肝心なところで」
     バランスを失って車椅子から投げ出される、だれかのからだ。
    「お……あ、あ……!」「そんな顔を……しないで。私もそうだ、から……笑っていて。ねえ、貴女には……笑っていて欲しい、そう、笑っていて欲しい、そう思って──ねえ、最後に、聞いて」
     流血して真っ赤に染まる視界の遥か果ての空、遠くに紅い星が瞬くのが見えた。

    「私ね……ずっと、憧れていたのは……貴方に、憧れていたの」


     守らなければならなかった骸を抱いて、私はそこに座っていた。

  • 92嫉妬の保険屋◆PE/kpaaw1s23/02/20(月) 10:01:44

     声も出なかった。涙も出なかった。ただ彼女と同じように静止する事が償いになるとでも思っているかのように。
     己に罪があるとしたら。数多の罪を数えた中で、最後に残る罪があるとしたら。

    「それは、分不相応にも、光ある人に憧れた……貴方の醜い嫉妬の為ですよ」

     懐かしい声が、後ろから投げかけられた。

    「任務に失敗した駒は、消えなければなりません。分かっていますね?」
    「……」
    「でも……貴方が生きていてくれて、本当に良かった。人は……死んでは、終わりなのです」
     彼女はゆっくりと私の視界の前に立つと、腰をかがめて人形に視線を合わせ、にっこりと微笑む。
     ゆるゆると顔を上げる。視界の右半分が欠けていたが、それでもそこにはよく見知った顔がいてくれた。
     変わらない笑顔。私の育ての親。その瞳に……夜空よりも暗く昏い、絶望。
    「私が何を見たのか、そう疑問に思っていますね。それはただ、この世界の理を見ただけですよ。安心しなさいな」
    「百代の昔より続く、幕画の因習。人を殺めて好しと為す、血塗られた運命。そこから逃れようと足搔く事がどんなに虚しい事か……この年で、遅きに失しながら、ようやく理解しただけです」

  • 93嫉妬の保険屋◆PE/kpaaw1s23/02/20(月) 10:08:15

    「この世界に満ち満ちた滑稽な喜劇を……ありのまま、映画にでも撮る事が、私のするべき事だったのでしょうね」
     そう言って、昔のように……私を拾ってくれたあの時のように、またやんわりと微笑んだ。
    「おや……かたさま」「はい、何ですか?」
    「私は……何をすれば善いのですか」
     私に何をさせたいのか。
     いっそ果たせなかった自害を繰り返させてはくれないか。
     自分の意志で歩み出す事は、もう出来そうになかった。

    「ゆっくりと、身体を休めてくださいな」

    「疲れているでしょう? 私の愛しい、”主演女優”。インタールードを取ります、好きな場所で、好きな事をしていて下さい」
     逃げるだなんて、そんな事ははなから心配していませんから、と彼女は言った。
    「いつかその血塗られた脚本が再び書き起こされる時、私の元に戻って来る。そう信じていますよ」
     彼女は幕画の人間に命じて、意志を喪った人形が抱える骸をどこかに運んで行くと……
     最後に私の頭を、一つだけ撫でてくれた。
    「だって、貴方も……拾って来た子とは言え、紛れもなく。幕画の子。そうでしょう?」

     水平線の向こう側、赤い星がどこかへと沈んで行く。
     もうじき夜明けが訪れるのだろう。

  • 94嫉妬の保険屋◆PE/kpaaw1s23/02/20(月) 10:13:16

    「主人様……」「……我々は貴方の出自も、内心も問いません。私が貴方に求めるのは、一つだけ。お客様の為に、確かな仕事を果たす事。それだけです」

     私は今でも脚本を待っている。

    「……この仕事は弊社の業務の中でも辛いものになるでしょう。それでも、構わないのですか?」「……はい」

     書き上がるまでは何をしていても良いと言ってくれるなら、私はやはり幕画の人間として、与えられた任務を果たさなければならない。
     大切な人から与えられた、私の務めを。

    『付いて来て下さいな。私の脚として……約束しましょう。いつか貴方に、私の憧れた景色を見せてあげましょう』
    『約束します。お嬢様の脚として、貴女が憧れの景色へと辿り着く……その助けになると』

    「だって私は……大陸を笑顔にする、アイドルですからっ☆」

     お嬢様を守る。
     憧れを果たす。
     それを可能にするために、あの日。私は……私を殺した。
     最後に残ったのは、星を見上げる”アイドル”だけ。


     そして……脚本はついに、書き上がる。

  • 95二次元好きの匿名さん23/02/22(水) 00:20:58

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  • 96保険のハルサキ◆PE/kpaaw1s23/02/24(金) 02:31:40

    「うう……何でこんな事になったんだ……? 我には安定の企業勤めの暮らしが約束されていた筈なのに……」
    「……諦めなさい、どっちにしたって私達には、どうしようもない事でしょう。自分から死のうとする彼女を守りながら戦うなんて芸当出来ない」
    「不穏部長はとってもいい人だったけど、いい人も死ぬ。そういう運命なら仕方が無い。私達は運命に手を出すべきではない。不干渉を貫くために、不感症を貫く……」
    「……還元、貴方その言葉どういう意味で使ってるの?」
    「? これは『周囲の刺激に対し鈍感である事』を指すのでは?」
    「うん、間違ってないな、言葉は。でも使わないようにしような、特にお客様の前では」

    「穏便! 貴様一体何故手紙を冒険者に渡したりした! よく分かんないけどさあ! こういうことを知らせたら結局アイツらが自分から危険に向かうって分かってたろ!?」
    「おいおい、そりゃ無いぜ薄情だな……涙が出そうだぜ。お前らは元同僚の安否が気にならないのかよ! 助けてやれるなら行動を尽くすべき! だろ?」
    「明け透けな嘘をつくのは止めて。私達はそれよりも自分たちの身と……何よりもお客様の安全を考えるべき。どう取り繕っても、貴方がお客様を戦いに向かわせようとした事は変わらない」
    「そりゃ……助けられるなら助けたいし……アイツらならそれも可能なのだろうが……でも、でも万が一……助けられなかったら!? もうウチの会社は終わりだ……はあ、今更実家には帰れないし……」
    「……こうなった以上、もうお沙汰を待つしか無いだろうな?」

    「……私達、いつから……誰かを助けるのにも理由が必要になったのかしらね」
    「決まってる。怖いから。成功した時に得られる栄光が大きい程……」
    「失敗した時の絶望はより深く、暗く……だから期待なんてしない方が良いんだ……ただでさえ、我等はもう、それ以上を望む余裕なんて無いのに……」

    「……今日は解散しましょう。また明日から……仕事に励むの」

  • 97保険のハルサキ◆PE/kpaaw1s23/02/26(日) 21:35:38

    魔刀剣士さん、いらっしゃいますでしょうか。このスレを見ていたら書き込みをお願いします。

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