- 1くまも21/10/28(木) 21:55:09
ルドルフは時間に厳しい。
と言っても他人の遅刻にあれこれ口を出すというよりは、自分が誰かを待たせるのが許せないという性質のものであるが。
それが生徒会長としての職務の中で培われた精神なのか、あるいは両親の教育の賜物かは分からない。その両方という可能性もある。なんにしても、我が愛バの数え切れない長所の内の一つだろう。
とはいえ、何事にも例外はある。
今日、ルドルフとは街でお出かけをするつもりでいた。なんでも、是非私に会わせたい人物がいるらしく、その人を含めた三人で出歩くつもりだったらしい。
しかし、集合時刻間近になって、唐突に新しい案件が捩じ込まれたらしく……あと三時間は来れないとのこと。
ふう、と何とはなしに空を仰ぐ。
三時間。とはいえ、彼女なら二時間と少しで終わらせて来る筈だ。無理しなくて良いと伝えたが、恐らく聞く耳は持たないだろう。それに、今日待ち合わせているのは私だけではないのだから。
まぁ、その某かには私が代理で謝罪するとして、問題はあと二時間ちょっとをどう潰すかだ。
こうして雲を観察するのにも飽きてきた。
「きゃっ!!!!」
ドン、と唐突に足元に走る衝撃。
慌ててそちらを見ると、そこにはまだ小さな、中学生になるかからないか位のウマ娘が尻餅をついている。
艶やかな鹿毛を乱し、涙目でこちらを睨み付けるその顔が………何故か一瞬だけ、ルドルフと重なって見えた気がした。 - 2二次元好きの匿名さん21/10/28(木) 22:06:47
おつおつ
- 3くまも21/10/28(木) 22:21:00
「ちょっと……どこ見てるの?」
唸るような声でそう詰られる。
正直、立ち止まっている私に突っ込んできた方が悪いと思うが……まぁ、なにも言うまい。余所見していたのも事実だし、なにより相手は子供だ。
謝罪と共に手を差し伸べる。握り返された力の強さから、少女の高い身体的素養が感じられた。
「なにこんな所でぼさっとしてるのさ」
「待ち合わせだよ。見れば分かるだろう」
「へぇ……ところで私もそうなんだけど」
「それも見れば分かるさ」
「……面白くないの」
元より、ここは専ら待ち合わせに使われるランドマーク。渋谷のハチ公みたいなもの。ここにたむろしてる人間の九割九分がそれだろう。
自分から聞いておきながら、少女はふーんと適当な返事を投げてくれる。
そのままじろじろと私の顔を舐めるように見て、ついでに私の近くをキョロキョロと見渡すと、そのままふいっと繁華街に向かって足を向けた。
「どこへ行く?」
別に彼女がどこへ行こうが彼女の勝手だが、この年のウマ娘を一人で街まで放るのは流石に気が引ける。
てっきり無視されるかと思ったが、予想外に彼女はこちらに反応してくれた。 - 4くまも21/10/28(木) 22:21:12
「なんかすっぽかされたみたいだし、しょうがないから一人で買い物するの。お兄ちゃんは?」
「お兄ちゃんって………」
随分とまぁ、馴れ馴れしいものだ。だが不思議と悪い気はしなかった。
自分勝手にどんどん歩みを進めていく彼女の背中を、半ば無意識に追いかける。ともすればつきまといになりかねないが、それでも放っておく気にはなれなかった。
全く振り返る気もないような、妙に自信に溢れた背中。ああ、こんな所もまたどうしてか、私の中のルドルフを彷彿とさせる。
君は一体………
「なぁ、名前はなんて言うんだ?」
「なに、ナンパでもするつもり?」
「いや、そういうわけじゃないが……」
「ウソウソ。分かってるって。名前でしょ?いいよ」
クスクスと、さも可笑しげに笑いを溢す少女。
箸が転がるだけでも楽しいお年頃、という奴なのだろうか。
「私はマチカネアスカ……これからよろしくね、お兄ちゃん」 - 5くまも21/10/28(木) 22:37:15
マチカネアスカか……。
生憎、その名前について聞き覚えはない。だとすれば、少なくとも中央のウマ娘ではないだろう。
地方に所属するウマ娘か……ひょっとしたら、まだトレセンに入学できる歳ではないのかもしれない。そもそも競技ウマ娘とも限らない。下手に考えた所で仕方ないか。
ふんふんと、楽しげに少女……マチカネアスカは歩を進めていく。
すいすいと人混みの中を泳ぐように進んでいき、ある程度こちらとの距離が開いた瞬間、ふと私の方を振り向いてくる。
不思議そうな目。私がついてこないことを心の底から理解出来ていないような表情。
それに思わず苦笑しながら近くまで歩み寄ると、さも当然といった顔で歩みを再開した。
そのままずんずんと、一度も振り向かず雑踏を掻き分けていく。
わざわざ確認などしなくとも、私が絶対ついてきているだろうという信頼感。それを向けられていることがどこか嬉しい反面、心配で見ていられない気持ちも湧いてくる。
彼女は何故初めて会ったばかりの人間を、こうも簡単に信頼するのだろうか。私が目を離せばきっと大変な目に遭う、面倒を見てやらねばならないと筋違いの庇護欲まで湧いてくる始末。
これが人たらしという奴だろうか。
「ところで……マチカネアスカ」
「アスカでいいよ」
「アスカ。どこに行くつもりなんだ?」
ん、と彼女が指差す先を辿れば、そこには見慣れたゲームセンター。成る程、彼女ぐらいの年なら興味津々だろう。
相変わらず一人でずんずんとゲートを潜るアスカにまたしても苦笑しながら、私もその後を追った。 - 6くまも21/10/28(木) 23:08:26
彼女が嬉々として取りついたのは、施設の真ん中に備え付けられたクレーンゲーム。
中にはレースで活躍しているウマ娘を模した大小数々のぬいぐるみ。所謂ぱかぷちと呼ばれるものだ。
このゲームでしか入手出来ない型もあるためかなりの人気商品であり、立ち寄る度に景品の種類が増えているのが分かる。
それにしても、彼女がこれに興味を持つということは……
「君も競技ウマ娘なのか?」
「うん、といってもまだトレセンには入れないけど。……周りが皆、アスカは凄いウマ娘になれるって」
「そうか。その年で将来を見込まれるとは、よっぽど大した足なんだろう」
「……違う。私が期待されているのは、お姉ちゃんが凄いから」
「お姉ちゃん?」
「うん、中央で大活躍してるウマ娘」
あるウマ娘がレースで優秀な結果を残すことで、その姉妹や子供にも実力以上の期待が寄せられることは往々にある。ブラッドレースとも揶揄される欧州ではそれこそ日常茶飯事らしいが、日本とて例外ではない。
その期待に応えられれば良いが、そうならなかった場合は大変だ。勝手に持ち上げられ、勝手に失望されるのは想像以上にメンタルに来る。中には、そもそもレースにデビューする以前から精神をやられてしまう子もいると聞く。
「君はそれが嫌なのかな?」
「別に。好きに言わしておけばいいし。……それに皆がそう言うのは、それだけお姉ちゃんが凄いってことでしょ?」
ならいいよ、とアスカは笑う。
……彼女なら大丈夫だろう。周囲の声に鬱屈している様子も、気負っている姿も見られない。
きっと、そんなものには汚されないぐらいの絆が彼女達にはあるのだろう。 - 7くまも21/10/28(木) 23:21:09
「でもさ。仮にそれで駄目になったとしても、トレーナーさんが助けてくれるんでしょ?」
「ああ。それがトレーナーの仕事だからな」
「なら、お兄ちゃんが助けてくれる?…シンボリルドルフのトレーナーさん?」
「……どうしてそれを」
「知らないわけないじゃん。七冠バのトレーナーなんて。ましてや中央目指してるウマ娘がさ。それで?お兄ちゃんが私のトレーナーさんになってくれるの?」
「……保留」
つまんないの。と彼女は頬を膨らます。
「じゃあさ、お兄ちゃん。トレーナーなら私のお姉ちゃん当てて見せてよ」
「今ここで、か?」
「当然。言ったでしょ?中央で大活躍中のウマ娘だって。知らないなんて言わせないから」
「……分かった」
後ろでポニーテールに括った鹿毛に、白く覗く流星。疲れを見せない活発さに、対面ながら一息に懐まで飛び込む社交性の高さ。
候補はいくつかあるが、その中で一番思い当たるのは……
「君のお姉さんは」
「あ、待って待って。それだとすぐに終わっちゃうじゃん。これで当てて欲しいなー」
コンコン、とクレーンゲームのガラスを叩くアスカ。成る程、答えとなるウマ娘のぱかぷちを取れということか。
私だって、伊達にルドルフのぱかぷちを大中小から制服勝負服に至るまで取りつくしたわけじゃない。やってやろうじゃないか。 - 8くまも21/10/28(木) 23:35:50
久々のプレイではあるが、幸い腕は鈍っていない。
当然このゲームの料金は私持ちなので、あまり無駄撃ちするわけにもいかないのだ。
確実に一回で掴み取れるよう、慎重に慎重を重ねてクレーンを動かしていく。
「わー上手いね。めっちゃやり込んでそう」
脇で囃し立てながら私の腕を揺するアスカ。やめろ。操作の邪魔をするんじゃない。
そうして十数秒の死闘の末、遂にゴトンとお目当てのモノが穴に落ちる。
手を突っ込み、中から取り出したのは……青と白を基調にした、礼肩章の輝く勝負服。手の内で赤いマントが翻える。
「トウカイテイオーさんか~」
しかしアスカの反応を見るあたり、残念ながらハズレてしまったらしい。
わざとらしく肩をすくめて見せた後、そのぱかぷちを彼女の胸元に押し付ける。
「………いいの?」
「いや、この状況でいいだろ~なんてやるわけがないだろ。あげるよ」
そう言うと、彼女はありがとうと破顔しながら人形を力いっぱい抱き締めた。
ああ、その笑顔にはやはり面影がある。どうも気恥ずかしくてあえて別の候補にしてみたものの、君の姉はやはりーーーー。 - 9くまも21/10/28(木) 23:53:04
ゲームセンターを後にした私達は、その近くにある雑貨屋に顔を覗かせていた。はっきり言って、見ていてあまり面白いものなどないと思うが。
「……楽しいか?それ」
「んー?んん……楽しい……んじゃない?これはこれで」
「そんな疑問形で返されても」
「じゃあさ、他にもっと楽しそうな場所連れてってよ。カラオケとかダーツとかさ」
「いや、流石にそれは………」
散々流されてここまで来たものの、よく考えれば今はルドルフとの待ち合わせ中。
そんな時に、他の女と楽しくカラオケなんかするのは流石に気が引ける。もう手遅れのような気もするが。
「……それは、自分の担当に申し訳ないから、でしょ?ねぇ聞かせてよ。お兄ちゃんにとってシンボリルドルフがどういうウマ娘なのか」
「そう言われても……答えられないな?」
「どうして?」
「君は、誰かに自分の家族がどういう人間なのか、どういうウマ娘なのか説明してくれと言われて答えられるか?」
人バ一体と化して久しいウマ娘。無意識に存在を許容している人物を、改めて認識してゼロから説明するのは困難を極める。
「それってつまり、シンボリルドルフはお兄ちゃんにとって家族同然ってこと?」
「まぁ、そういうことになるな」
…アスカの両眼が、ギラリと不気味に輝いた気がした。 - 10くまも21/10/29(金) 00:07:17
「じゃあさ……私が色々質問していくから、それに対して一個一個答えてよ。これなら大丈夫でしょ?」
「それくらいなら……まぁ」
そこからは、ひたすらルドルフについて根掘り葉掘り聞かれた。
担当についてあれこれ聞かれることは沢山あったが、彼女相手だとどうも勝手が違う。
なにせ、少しでも「トレーナーらしい」視点を交えると遮られるのだ。「そんなお固い話はいらない」なんて言われて。
結局、隅々までほじくり返されてしまった。
私とルドルフの馴れ初めから、プライベートで一緒に過ごした時間。ルドルフからアプローチはあったのか。逆に私からアプローチはしたのか。将来をどう考えているのか等々……。
粗方掘り尽くした後、彼女はふむりと一つ頷いて。
「これウマッターで公開していい?」
「おい」
「えーいいじゃん。匂わせ。最近そういうの流行りなんでしょ?」
「匂いすぎだわ」
そうきゃいきゃい騒いだ後、不意にアスカが顔を反らす。
その先には深めのクロッシェ帽。ただしウマ娘用ではなく人間用ではあるが。
あれが目当てだったのか?そのためにわざわざこんな店まで足を運ぶとは。
そんな私の困惑を余所に、彼女はその帽子へとてこてこ近づいていった。 - 11くまも21/10/29(金) 00:07:50
日付も変わったんで寝ます
おやすみ - 12二次元好きの匿名さん21/10/29(金) 11:22:33
保守
- 13二次元好きの匿名さん21/10/29(金) 11:26:59
ルドルフSSかと思ったら違ったが良い…
- 14二次元好きの匿名さん21/10/29(金) 11:36:56
いつもの激重ルドルフの人じゃないか…
続き待ってます - 15くまも21/10/29(金) 21:39:21
アスカはその帽子を取り上げると、しげしげと観察する。
手の中でくるくると回しながら、時々中に手を突っ込んでいるところを見るに、どうやら深さを気にしているらしい。
なんの変哲もないどころか、大きさすら若干合ってなさそうな帽子であるのに、何がそこまで彼女を惹き付けるのだろうか。
「それが欲しいのか?」
「ん?んー」
全く気のない返事を返すと、やがてアスカはそれを片手にレジの方に向かっていった。後ろから呼び止めてみるものの、手をヒラヒラとさせてすげなくあしらわれてしまう。
今日会ったばかりとはいえ、既に一時間近くも遊んだ仲だ。あのぐらい買ってやっても良いのだが、どうも彼女の考えていることはよく分からない。
そう思いながら待つこと数分、ようやくアスカが帰って来た。腕には大きめの紙袋を提げている。
「お帰り。ちょっと遅かったんじゃないか」
「うん。お会計がちょっと混んでてね……それよりどう?似合う?」
袋からあの帽子を取り出し、笑顔で見せつけてくるアスカ。
似合う似合わないは被ってくれないと判断つかないし、彼女の美貌ならどれを選んでも似合うと思うし、そもそもまず買う前に聞くべき事だと思う。
……などという余計な雑念を振り払い、一言綺麗だよと伝えると、アスカはありがとうと言いながら帽子を持ち変える。
そのままブスリと、帽子に無惨な穴を空けた。
「おい」
「しょうがないじゃん。こうしないとミミが出ないんだから」
なら人間用のものを買うな。
……しかし適当に空けた筈の穴がミミの位置と完璧に一致している辺り、随分器用な子だな。 - 16くまも21/10/29(金) 21:55:24
そうしてぶらぶらと街を散策した後。
再び私達は元いたランドマークへと戻ってきた。アスカはともかく私は本来ルドルフと待ち合わせている身だ。暇も潰せた事だし、そろそろ大人しくしておくべきだろう。
ぐい、と不意に袖を引かれる。
そこにはハンバーガーを頬張りながら私を不思議そうに見つめるアスカの姿。どうやらまだまだ遊び足りないらしい。
「駄目だ。もう少しで待ち合い人が来るんだから」
「ひょれってひんおりうどうふのほと?」
「ちゃんと飲み込んでから言葉を話なさい」
そう言うと、彼女は一気にごくんと口の中のものを飲み下す。そうしてドヤ顔で私を見上げてきた。
……その口の周りはソースがべったりだ。そういえば、ルドルフは物凄く綺麗にハンバーガーを食べていたな。アスカも丁寧に紙の包装を畳んだりしていたが、こういう所が今一締まらない。
せめて拭ってあげようとハンカチを近づけると、唐突に手を振り払われてしまった。
そのままぐいっと帽子を深めに被り、顔を隠してしまう。
何事かとアスカに注目していると、唐突にポンと、私の肩に手が乗せられた。
「……何をしているのかな?トレーナー君」 - 17二次元好きの匿名さん21/10/29(金) 21:59:40
修羅場か!?
- 18二次元好きの匿名さん21/10/29(金) 22:00:14
盛り上がってまいりました!!
- 19くまも21/10/29(金) 22:11:14
「……まだ一時間半しか経っていないが」
「今日、この時刻と待ち合わせ場所を指定したのは私だ。たとえ生徒会の業務といえど、遅れて許される道理はない」
「だから半分の時間で済ませてきた、と?」
「怒るかい?トレーナー君」
「……そうだな、いや」
普段の私なら怒っていただろう。
ただでさえ、自分に厳しすぎるルドルフなのだ。責任感が強いのは良いことだが、それ故に自分の身体を粗末にする行いはトレーナーとしても、大人としても見過ごせない。そう彼女を叱っていた筈だ。
……この私の肩を握り潰さんとばかりに締め上げる両手が無ければ、の話だが。
仕方ない。ここは見逃してやる。
「偉いな。ルドルフは」
「ふふ。ありがとう、トレーナー君」
だからその手を退けてくれ。
そんな私の願い虚しく、一向に緩む気配がない。試しに立ち上がろうとしたところ、逆に圧倒的な力で膝まずかせされてしまう。
「君を待たせてしまったことは申し訳なく思う……その間、何をしていたのかは知らないが」
「誤解なんだルドルフ。私は……」
君がいない間、初対面の女の子とクレーンゲームで遊び、雑貨屋で買い物を楽しみ、一緒にハンバーガーを食べてました。
………あれ、もしかしてこれ詰んでないか? - 20くまも21/10/29(金) 22:26:15
違う。説明すれば分かってもらえるはず。
そう考えを巡らすものの、生憎どう違うのか、何を説明すれば良いかが分からないので一向に言葉が出てこない。
ふと、背後でざり、とアスファルトを掻く音が聞こえた。
ああ、これは前掻きだ。ウマ娘が緊張したり、何かを欲したり、あるいは怒った時に無意識に出してしまう行動。
ポンポン、と肩を叩かれる。当然激励ではなく、「さっさと話せ」という催促の意思表示だ。
「……トレーナー君?」
地の底から沸き上がるようなルドルフの声。
それに身体を縮めた瞬間……不意に、私の肩が軽くなった。同時に、なにか温かいものに包まれる感触。
見ると、アスカが無言でルドルフの手をはね除けて……そのまま私の肩にしなだれかかっている。
ぎゅうと密着した彼女の柔らかみを、しかし楽しんでいる余裕はない。
「貴様……!!!」
目の前で挑発され、完全に激昂したルドルフ。
かかった彼女はアスカの帽子を一気に剥ぎ取り……そのまま固まってしまった。
「ルドルフ……?」
……私の呼び掛けにも応じない。
そうして動かないこと数秒、ようやくルドルフの口から絞り出された言葉は
「……アスカ?」
「久しぶり。ルナおねーちゃん」 - 21二次元好きの匿名さん21/10/29(金) 22:36:49
おおっ
- 22くまも21/10/29(金) 22:40:46
以前聞いたことがある。
確かルドルフには姉と兄、それから妹がいるんだとか。……折角だから名前まで聞いておくんだったと、今となっては少しだけ後悔する。
「こ~ら、アスカ。またそんな口の周り汚くして……」
「ちょっと、止めてよお姉ちゃん!!子供扱いしないで!!」
「動いちゃ駄目だぞ。もう、ハンバーガーを食べるときはしっかりと両手で持って……」
ただ、まぁ。こんなルドルフの姿を見られただけでもお釣りが来るだろう。
母親が幼い我が子にするように、アスカの口元を綺麗にしてやるルドルフ。それに反抗するように身を捩らせるアスカ。まんま思春期の母娘の様子だ。
それをしばらく眺めていると、私の視線を察したルドルフがこちらに向き直る。
「そうだ。まだ紹介してなかったね。この子が今日、君に会わせたいと思っていたウマ娘だ。私の妹で、名前は」
「マチカネアスカ。もう自己紹介したから!!お姉ちゃんは一々うっさいの!!」
「ちゃんと私の妹だって説明はしたのかな?」
「したよ!!」
されてない。まぁ、おおよその想像はついていたが。
しかし過保護か……言い方はキツいが、確かにいつものルドルフからは想像できないな。クリークじゃないが、いつも肩肘張っている分、母性をもて余しているのだろうか。 - 23くまも21/10/29(金) 22:57:04
「もう良いから早く出かけようよ。わざわざ千葉から出てきたのに、お姉ちゃんが遅れたせいでだいぶ時間狂っちゃったんだから。お姉ちゃんが遅れたせいで」
ブーたれながらルドルフの腕を掴んでぐいぐいと揺するアスカ。すまないと苦笑しながら、その頭を優しく撫でてやるルドルフ。
と、不意にアスカが紙袋に手を突っ込む。しばらくごそごそとした後、ルドルフに何かを押し付ける。
「はいこれ。お姉ちゃんにあげる」
それは、フジの花をモチーフにした耳飾り。ちょっとお高そうな雰囲気から見るに、あの店で買ったものだろう。会計が遅れていたのはこういうことだったのか。
「おや、綺麗なアクセサリーだね。ありがとう。アスカが選んでくれたのかな?」
「違う。選んだのも、買ったのもお兄ちゃん」
そう言って私を指差してくるアスカ。当然、こちらに心当たりはない。
しかしルドルフは私と耳飾りを交互に見比べて、急に顔を赤くして俯いてしまった。
そういえば、そのプレゼントにあしらわれているのはフジ。その花言葉は確かーーーー
「決して離れない。熱いラブコールご馳走さま。お義兄ちゃん」 - 24二次元好きの匿名さん21/10/29(金) 23:02:51
ウマ娘を 怒らせては いけない
- 25二次元好きの匿名さん21/10/29(金) 23:03:39
気ぶりアスカ...なのか?
- 26くまも21/10/29(金) 23:17:53
結局その後、私達は三人で街を練り歩き。
気付けばすっかり日も暮れてしまっていた。
遊び疲れたのか、アスカはルドルフの背におぶわれながら、呑気な寝息を立てている。
彼女はこのまま学園で一晩過ごさせるつもりだ。流石にこんな時間に、良家のお嬢様を一人で帰らせるわけにはいかない。……よく考えれば、小学生の子供が一人で成田から府中に出てくる事自体わりと大事ではあるが。
ルドルフ曰く付き人を置き去りにしてしまったらしい。何事も無かったから良いようなものの、今頃シンボリ家は大騒ぎだろう。
「……なんか、ルドルフのあんな姿は初めて見た気がするよ」
「そうかい?学園でもテイオーに同じようなことをしていると思うが」
確かに。だからアスカの姿がテイオーとも被ったのかもしれない。エアグルーヴが甘やかしすぎだと眉を潜めるのもさもありなんと言った所か。
「そういえば、以前ルドルフから家族の話を聞いたことがあったね」
「あの元気な子供をあやした時の話かな。あの頃から君と家族を引き合わせたいとは薄々考えていた。……今度、私の兄姉とも会ってみるかい」
それは緊張しそうだな。なにせ幼いルドルフの模範となった二人だ。さぞ厳格なことだろう。
しかし家族か。当たり前だが、ルドルフにも家族がいるんだったな。そして、彼女もいずれ新しい家庭を築いていくのだろう。
「……ルドルフはいいお母さんになりそうだな」
「ふふ。……君のお母さんのように?」
「……いや、どうだろう」
果たして彼女は良い「母親」とは言えるのだろうか。などととりとめのない会話を交えながら、私達は三人、夕焼けの府中の道を帰っていった。
後日、アスカのウマッターによって、私とルドルフがエライ目に遭ったのは……また別の話。 - 27くまも21/10/29(金) 23:21:45
- 28二次元好きの匿名さん21/10/29(金) 23:25:13
このレスは削除されています
- 29二次元好きの匿名さん21/10/29(金) 23:27:10
兄弟でも馬の名前は割と違うんやね
メジロなんたらみたいな感じで揃ってると思ってたわ
知らんかったわ - 30二次元好きの匿名さん21/10/30(土) 00:28:25
ナリブとハヤヒデでもう違うし、馬の世界じゃ当たり前の事っぽいけどね
- 31二次元好きの匿名さん21/10/30(土) 00:29:12
お疲れ様です
大人気ないレベルに嫉妬するルナちゃんは可愛かったです - 32二次元好きの匿名さん21/10/30(土) 00:38:52
テイオーの叔母?叔父?に当たるんかな