【SS】追憶のパパラチアサファイア

  • 1二次元好きの匿名さん22/11/24(木) 20:14:35

    「はい、今日のトレーニングは終了!皆さん各自でダウンするように」
    「ありがとうございましたー!」

     合同トレーニングも終わり、とっととダウンの準備を始める。今日のメニューもやりたくないことを延々とやらされていたから正直ストレスがヤバい。

     レースの魔法。アタシはこの魔法をマスターする鍵があると聞いて中央トレセン学園に入学してきた。敬愛する偉大な先輩魔法使い、グランマが成した何よりもすごかったという魔法を一番弟子のアタシも成功させてみせると意気込んでいた。

     でも、蓋を開けてみると苦難の連続だった。

     まず、レースに出るには専属のトレーナーと契約しなければいけないんだけどアタシの魔法をちっとも理解出来ないヤツばっかでお話にならなかった。どいつもこいつも、走る事だけに目を向けて魔法の話をまともに聞こうとしないヤツばかりでイライラする。

     更に、グランマみたいなアタシをアタシとして伸ばしてくれそうな大人がこのトレセン学園には存在しなかった。だから、アタシがやりたい事も子供のワガママとして封殺されちゃうから思うように行動する事も許されなかった。

     そんなアタシには専属契約の話が来ることは無く、同じような境遇の子達の面倒を見る教官の監視下で日夜走っていた。…正直、この教官も嫌い。

    「スイープトウショウさん、ダウンが終わったら私の所に来るように。今日のトレーニングについてお話がありますからね」
    「なによ、アタシの走りになにか文句あるってわけ?」
    「貴方はまだ練習生の段階なのに博打のような追い込みをするべきではありません。先行策のような臨機応変に対応できる走り方を覚えて──」
    「──…、うるさいうるさい!アタシがやりたい走り方してなにが悪いのよ!」
    「す、スイープトウショウさん!?」

     ホラ、こいつもそう。習い事の先生みたいに走り方にケチをつけて矯正しようとする。アタシは窮屈な大人に縛られたくてこの学園に入ろうと思ったんじゃない、グランマが人生を変えるほどの楽しさに出会えるって言うからレースの魔法を見つけに来たのに。

    「ふんだ、アンタの話なんか誰が聞くもんですか!」

     遠くで何か教官が言っているのが聞こえるけど構わず走り去る。…ホント、つまんない。

    「もう、探すのやめちゃおうかな」

     アタシの絞り出したかのような心の悲鳴は、風の中に消えていった。

  • 2二次元好きの匿名さん22/11/24(木) 20:14:51

     翌日、何事もなかったかのように合同トレーニングに参加する。アタシの顔を見た瞬間、教官も訝しんだ顔をしたけど構わず続ける。多分面倒を見る娘が多い分、一人ひとりに割く余裕がないからだろう。

     今日は模擬レース。昨晩、寮に戻ってあのギャンギャンやかましい教官を黙らせるにはどうしたらいいのかってウンウン考えに考えていい案が浮かんだので来てやった。

     それは、完璧なレースを見せてやる事。それを見たら、きっとあの頭カチカチの教官も納得して何も言わなくなるだろう。言わば、レースの魔法の蕾を芽吹けさせればいいって事!

    「では、アップも終わった方からランダムで5人立でレースをします。順番が来たら各自ゲートに入ってください」

     ギンギンに集中力を高めて、出番を待つ。出来れば早く走りたいけど我慢して我慢して一気に爆発させるよう意識を心臓に集中させる。

    「…では、スイープトウショウさん。4番ゲートにお願いします」

     来た。フフン、見てなさいアンタ達。今からギャフンと言わせてやるんだから!

     ゲートに収まり、深呼吸した刹那、開かれる。…ちょっと出遅れちゃったけどまあそこは想定内だから気にしない。まずは位置取り…上々ね。この位置で追走しながら垂れてきそうな子に目を向けて塞がれないようになりつつ上手く風除けとして利用してレースを進行する。

     だんだん先行組の疲れが見え始める最終直線に入る時、突き抜けられそうな隙間を見つける。さあここよ!

    「さ、魔力全開で行くわよ!」
    「うわっ!?」「きゃっ!?」「うそっ、速…!?」

     わずかに生まれた穴をきっちり打ち抜き、そのままズンズン加速しながら1番でゴール板を駆け抜けた。遅れて入ってきた娘達は、信じられないものを見るような目でアタシを見ている。これならあの頭の硬い教官も分かったでしょと、それだけさっきの走りに手応えを感じていた。

    「はっ、はっ、ふぅーっ!…ふふん、今の、少しイイ感じ────」
    「スイープトウショウさん!早くこちらへ!今の模擬レースに関して指導を行いますからね」

     でも、現実は頭の上に角が生えたような形相の教官の姿がそこにあった。

  • 3二次元好きの匿名さん22/11/24(木) 20:15:06

    「結果自体は素晴らしいものでしたが、瞬発力頼みになり過ぎるのも考えものですよ。序盤から中盤のレースメイクももう少し丁寧に───」

     行くやいなや、お説教が始まった。何か言ってるようだったけど頭の中が煮えくり返ってたアタシには殆ど聞こえてなかった。

     …何なのよこいつ、アタシのやる事やる事全部ケチつけて。見てなかったの?周りの娘の視線。アタシに目が奪われてるって位釘付けにしてたし序盤中盤もアタシなりに考えて進行させているのに何でそんな事が言えるの?

    「〜〜っ、うるさぁ〜い!うるさいうるさいうるさいっ、アタシに指図しないで!!アンタの言う事なんかぜーったい聞いてあげないんだからっ!!」
    「ええ!?す、スイープさん…!?」
    「やだやだやだっ、聞こえないーーっ!!」

     たじろぐ教官に構わず激情を吐き捨ててスタンドに向かって駆ける。昨日みたいに教官が何か言う声が聞こえたがそんなの知らない。結局、自分の思うようにならない人間はどんな結果を出しても評価しないタイプなんでしょ、ふんだ!スタンドに着き、余りある激情を叫び散らす。

    「もうもうもうっ、なんなのよ!ぜんっぜんイイ感じじゃない!やっぱりこんなの、つまんないだけよ───うん?」

     言いかけて視線を感じたのでそちらを見ると、この模擬レースを見てたのかボケっとこっちを眺めている男がいた。ここにいる男性なんて用務員かトレーナー、職員の内のどれかだろうけど苛ついてるアタシはそんなのどうでもよかった。

    「ちょっとアンタ!なによ、ボーッとこっち見ちゃって!!」

     見るからに冴えない…というかどこにでもいそうな男はアタシから声をかけられて心底ビックリしたようなマヌケ顔をしていた。まさかそうなるとは思ってなかったかのようで、ポカンとしながら呟いた。

    「いや…魔法、みたいだったなぁって──」
    「…えっ?」

     今こいつ…魔法、て言った?うん、言った、言ったわ!間違いないわ!あの頭カチカチな教官にはわからなかったけどこの男はアタシの走りに魔法を見たんだわ!

    「魔法って言ったの!?」
    「うえぇ!?」
    「言ったでしょ、言ったわよね!?魔法って!今!!その話、詳しく聞かせなさいっ!!」

     花が咲き、新たな生命を作る春爛漫の木漏れ陽に包まれる春の日。アタシは運命を共にする、後の使い魔と出会ったのだった。

  • 4二次元好きの匿名さん22/11/24(木) 20:20:45

    今回は使い魔と会う前のスイープってどんなんだったんだろう?となって気になっちゃったのでじゃあ妄想して書いちまえの精神で出会う直前あたりを妄想して書きました。
    ストーリー見てる限りだとかなり尖った娘だなあとは思っていたので結構教官と衝突する機会も多かったのかななんて思いましたが実際どうなんでしょうね、教官さんって。
    ちなみにパパラチアサファイアは石言葉で運命的な出会いという意味があるそうです。

    今回も文字が多かったり改行が多めで読みにくいと思いますがどうか許し亭

  • 5二次元好きの匿名さん22/11/24(木) 20:23:12

    いいSSやこいつは…

  • 6二次元好きの匿名さん22/11/24(木) 20:33:08

    いいね、こういう前日譚みたいなお話大好物
    色々言及されてない部分を考えるのいいよね

  • 7二次元好きの匿名さん22/11/24(木) 20:40:14

    ここから紆余曲折あって口にドクダミつっこまれる仲になるんやな…

  • 8二次元好きの匿名さん22/11/24(木) 21:11:59

    運命を共にするってのが後々の妄想をさらに掻き立ててくれて堪らんねえ
    良きものをありがとう

  • 9二次元好きの匿名さん22/11/24(木) 21:54:11

    確かに過去というか魔法にハマった頃のスイープはストーリーでも見れたけど使い魔と出会う直前は無いから他のキャラでも似たようなことできそうで想像が膨らむSSだったなと思いました。

    あなたの書くスイープと今回は出番少なめだけど使い魔がとても好きです、いつもありがとうございます

  • 10二次元好きの匿名さん22/11/24(木) 21:54:18

    許し亭氏の新作助かる
    まあスイープは画一的指導をするであろう教官とウマが合うはずがないわな……

  • 11二次元好きの匿名さん22/11/24(木) 22:37:23

    才能あるわがままな少女が紆余曲折を経て運命の人と巡り会うなんて素敵じゃないの

  • 12二次元好きの匿名さん22/11/25(金) 07:30:55

    こういう雰囲気すき

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