【CP現パロ閲注】ここだけウタが毎週週末の夜

  • 1二次元好きの匿名さん22/11/27(日) 22:54:06

     「はい今日も配信していこうと思います。お、コメント欄今日も速いね、どれどれ……えぇ、いきなりそれ聞きたいの? 今日は歌配信なんだけどなぁ……新曲も歌いたいのに。はいはい、例の彼ですね。相変わらず子どもっぽくて、今日なんて朝、あいさつ代わりに後ろから腕に抱き着いてみたんですけど、全然。いつも通りでした。残念」

     って感じで生配信で視聴者に恋愛相談してる世界。配信活動はルフィには秘密にしているものとする。

  • 2二次元好きの匿名さん22/11/27(日) 22:57:07

    いい概念だが資料が足らんよ
    あと三千文字くらい書いてくれ

  • 3二次元好きの匿名さん22/11/27(日) 22:58:04

    1000b 剣士志望
    回りくどい真似はせずさっさと告白すればいいんじゃねェか?

  • 4二次元好きの匿名さん22/11/27(日) 22:58:12

    続きは?続きはないんですか!?

  • 5二次元好きの匿名さん22/11/27(日) 22:59:33

    恋愛強者ウタちゃん概念!?

  • 6二次元好きの匿名さん22/11/27(日) 23:00:08

    >>2

    >>4

    やれるだけやってみるか……

  • 7二次元好きの匿名さん22/11/27(日) 23:08:22

    >>6

    やった!ありがとうございます!!

  • 8二次元好きの匿名さん22/11/27(日) 23:09:22

    >>6

    ありがとう!応援してるぞ!

  • 9スレを建てた二次創作初心者22/11/27(日) 23:15:49

     幼馴染のルフィは太陽みたいな奴だ。いつも明るくて、笑っていて。年上のわたしを「よし、今日も行くぞ!!」なんて強引に引っ張て遊びにいくようなやつだ。強引にって言っても、最初は嫌々でも別れる時にはいつも笑って「また明日」って言わせてくれるやつだ。
     小学生にもなれば、遅くとも中学生には、世の中、自分の上位互換みたいなやつがあちこちにいるのを嫌でも認識する。わたしもそうだし、わたしの周りだって。でも。彼は違った。
    「ルフィくん、このままサッカー部に」
    「いや、バスケ部に。きみなら全国にだって」
    「バレー部にはきみのスパイクが必要なんだ!!」
     なんて、中学でも高校でも、運動部の部長が毎日スカウトしに来る。でも彼はいつも。
    「わりっ、助っ人なら暇なら行くけど、部活には入らねぇんだ」
     とからっと笑って断るんだ。
     彼は太陽のような人だ。
     放課後、夕焼けに照らされた帰り道で、わたしは尋ねる。
    「ねぇルフィ、なんで運動部入らないの?」
    「ウタだって入ってねーじゃん」
    「そうだけどさ……ルフィならそれこそプロにだってなれるのに」
    「プロかぁ……おれ、ウタに言ってなかったか?」
    「何を?」
    「夢があるんだ。おれ」
    「夢? 聞いてない」
    「あぁ! おれさ……」
     ずっとルフィの傍にいて、ルフィの全てを知っているつもりだった。
     でもその時見せた彼の笑顔は、わたしや周りを照らしてくれるそれじゃなくて。
     どこか遠く。ここじゃないずっと遠くを見ている顔。
    「ん? どうしたウタ」
    「えっ……あ」
     いつの間にかわたしは、ルフィの腕を掴んでいた。……わたしの手の届かない存在になってしまう気がして。

  • 10スレを建てた二次創作初心者22/11/27(日) 23:16:38

    って感じで書いていきますが、良いですかね? ぶっちゃけ即興なんでどうなるか僕も知りませんが。

  • 11二次元好きの匿名さん22/11/27(日) 23:18:34

    >>10

    🍲🍲🍲🍲🍲🍲🍲🍲🍲

  • 12スレを建てた二次創作初心者22/11/27(日) 23:32:01

     家に帰ったわたしは思わず深くため息を吐いた。
     ぼーっと眺めた先にあるのは埃被ったトロフィーたち。
    「……熱いな……」
     胸の奥が、熱い。記憶の中にあるルフィの笑顔が熱を帯びて脳を焼いている。
    「……わかってるよ」
     ルフィの傍に、いたいんだよ、わたし。
     地下の音楽部屋に降りて、いつも通りピアノを鳴らす。指の運動からレパートリーの曲を鳴らして。それからある時から自分で作りたくなった曲を演奏してみる。弾いて、歌って……そうしている間に呼び鈴が鳴って。
    「よっ、ウタ。マキノがな、今晩はカレーだから来いよ、だってさ。エースもサボも先に行ってるから行こうぜ!」
    「来いよ、なんて言い方してないでしょ」
     いつからかな。熱を持てなくなったの。
    「サボくん、口元、ご飯粒ついてる」
    「え、マジ?」
    「サボ、子どもかよ、お前」
    「うっせー、エースだってそれ、シミになるぞ」
    「げ、マジかよ」
     笑いあってご飯食べて。
    「じゃあ、また明日な、ウタ」
    「うん!」
     こうやって家まで送ってもらって。
    「ただいま」
     誰もいない家に帰宅を告げる。そんな日々がいつまでも続くわけではない。
     いつからだろう、あんな熱を持てなくなったの。
     自分の上位互換みたいなやつがあちこちにいることを認識する。真面目に音楽家になることを夢想していたころがあったのを思い出した。
     コンクールだって歌でもピアノでもヴァイオリンでも、できる奴では片っ端から一番大きなトロフィーをもらっていた。わたしが弾こうと思った楽器は、わたしの思ったとおりの音を鳴らしてくれた。でも。
    「……わたし、こんな風に音楽したくない」
     コンクール会場に行く度、睨まれたくない。ひそひそ噂話されたくない。
     審査員のおじさんたちに話しかけられて周りの人から注目されたくない。誰かの夢をへし折ってまで、音楽したくないよ!!だったら、一人で楽しんでいたいよ!!!
     気がつけばわたし、自分の夢を折っていた。
     いつも変わらない笑顔の彼は、自分の夢を真っ直ぐに追っていた。

  • 13スレを建てた二次創作初心者22/11/27(日) 23:52:29

     「んー」
     寝れなかった。いや、寝たんだろう。いつの間にやらわたし、ピアノの傍で倒れてたんだ。地下室だから時間はわからないけど。結構な時間、記憶に空白がある。
    「……あ、時間……やべっ」
     スマホが示した時間は、もう家でないと間に合わない時間。ってか、充電が無い!!!
    「おーいウター!!! 何してんだー!!!」
    「えっ」
     地下に続く厚い扉が開かれて、階段をドタドタ駆け降りてくる足音。振り返ってみればとっくに制服に着替えた幼馴染がいて。
    「おいウタ! 何してんだ!! 遅刻するぞ!!」
    「る、ルフィ、なんで」
    「迎えに来たんだよ。エースの奴が『いつもなら1限に出発する頃には来てるはずのウタが来ねぇ!!!』って叩き起こすからよ」
    「あーあはは」
    「早く行こうぜ、サボがコアラに連絡したらよ。ウタとおれの分の弁当も作ってくれたんだ」
    「……今度お礼言わないと」
    「大丈夫、すぐ言える。とりあえず準備しようぜ」
    「うん。急ぐね」
    「あぁ、だいじょうぶだ。間に合う」
    「え?」
    「じゃあ、おれ、行くから」
    「あ、うん……」

     「ウタちゃんが寝坊なんて珍しいね」
    「な」
     サボさんが運転する車に、わたしは乗っていた。助手席のコアラさんが「くすっ」と笑う。
    「なにかあった?」
    「あー、ちょっと夢中になり過ぎて、寝るの忘れてたんです」
    「そう。夜更かしは美容の敵だよ」
    「気をつけます」

  • 14スレを建てた二次創作初心者22/11/27(日) 23:56:39

     ルフィは朝、剣道部の先輩に、朝練に付き合って欲しいと頼まれていたらしくて、走って行ってしまった。まぁ、ルフィなら間に合うだろう。……わたしを優先してくれたのは、少しうれしい。
     いつもは歩きながらなんとなく流れていく景色が、あっという間に後ろに流れていく。春に免許を取ったばかりとは思えない慣れたハンドル捌きでサボさんは住宅街を警戒に走り抜ける。
    「何か悩みがあったら聞くよ」
    「……んー」
    「悩みはあるんだね」
    「へ?」
    「わかるよ。ウタちゃん、わかりやすいから」
    「だなっ!」
    「んー……すいません、言葉にするのは、難しいです」
     胸の中でうずく熱。こんなもの、なんて説明すれば良いんだ。
    「ふーん……そういうときはね、行動あるのみ、だと思うな」
    「行動、あるのみ?」
    「そう。自分がどうしたいか、自分の心とよーく相談してみて」
    「あぁ。直感に従うと結構当たるぞ」
    「サボくんはそうやって何回教授に怒られたの?」
    「あ、はい、すいません」
     わたしを学校の前に下ろしたサボさんは、このまま大学に行くと。車は走り去っていく。
     始業のチャイム十分前。本当に間に合っちゃった。
    「……直感、か」
     わたしのしたいことか。高校三年のわたしには、タイムリーな悩みかも。なんて、自分で苦笑してしまった。……夏に悩んでたら遅いかな?

     教室でそう言えばと、準備しながらなんとなく鞄に詰めた楽譜を取り出した。
     昨日の夜、どうしてかわたしは、これを完成させようとしていたんだ。
    「……メロディはできてるな」
     あとは歌詞、か。

  • 15二次元好きの匿名さん22/11/28(月) 00:07:40

    すごく好きな文章

  • 16スレを建てた二次創作初心者22/11/28(月) 00:09:58

     結局放課後まで、わたしは教科書の裏に隠したメロディだけの楽譜を眺めていた。わたしはなんでこの曲を書き上げようとしていたんだろう。
     いや、わかっている。わたしの中にある熱をぶつけようとしていたんだ。そして、言葉にできないこの熱で悩んだんだ。
    「どうしたんだよ、難しい顔してよ」
     隣でいつも通り歩くルフィに思わず恨めし気な視線を送ってしまうのも仕方ないだろう。
    「……よし」
     決めた。ルフィに責任を取ってもらおう。
     この曲はルフィへの気持ち、ぶつけてやろう。ざまぁ見ろルフィ。わたしにこんな熱を抱かせた責任、取ってもらうんだからね!!!
    「ふふ、ふふふふふ」
    「う、ウタ、おめぇ、なんかこえーぞ」


     「……できてしまった」
     しかもこれ……うーん。いや、歌ってみないとわからないな。
     そう思いながら演奏しながら歌ってみるけど。
    「……わからない」
     今更自分の歌声や演奏を聞いて恥ずかしがったりしない。
    「うーん」
     一番は誰かに聞いてもらうことなんだけど。そもそも誰に聞いてもらうんだ。ルフィは論外。エースさんやサボさん……うーん。コアラさんやマキノさんは無難だけど……。
    「はぁ」
     ごろんと寝転がった先にある本棚に仕舞われているファイルには、こうして誰に聞かれることも無い楽譜が詰まっている。
    「……かわいそうなことしてるな、わたし」
     生み出しておいて、わたししか聞くことないなんて。
     楽譜を持ち上げつぶやく。
    「わたし、ルフィのこと、好きなのかな……」

  • 17スレを建てた二次創作初心者22/11/28(月) 00:11:19

    >>15

    あざます

  • 18スレを建てた二次創作初心者22/11/28(月) 00:22:16

     「よう、ウタ。ただいま」
    「シャンクス、おかえり」
    「……お父さんとは、呼んでくれないのか?」
    「何か月……いや、一年経ってるや」
     幼い頃、施設にいたわたしを引き取ってくれた養父のシャンクス。仕事の内容はよくわからないけど、世界中あちこちを飛び回っている。そんな父の海外の話を、ルフィが目を輝かせて聞いていたのは今でも覚えている。『おれもいつか、シャンクスみたいに世界中飛び回るんだ!』って。
     もちろん嫌いじゃない。楽器だってやらせてくれたし。わたしが全力で練習できるよう、安くないお金を使ってくれたこともわかっている。先生まで手配してくれたんだ。コンクールに出なくなることだって「お前の選択なら尊重する。後悔が無いならな」と、真剣な目で問いかけてくれた。でも。ちょっといじわるは言ってしまう。そんなわたしのいじわるを、大の大人がオロオロしているんだ。おもしろい。
    「わ、悪かった。ほら、お土産。本場のソーセージだ。今夜はこれで一杯やろう」
    「わたしまだ十八だよ」
    「あ……」
    「冗談だよ。貸して。食べられるようにするから」
    「ありがとう。……ん? ウタ、どうした、随分久しぶりじゃないか、これは、お前が書いた曲だろう」
    「うん……なんかかわいそうになっちゃって」
    「かわいそう? なにが?」
    「生み出されたのに、聞かれることのない曲。かわいそうじゃん」
    「ならば歌ってやれば良い。色んな人の前で」
    「どうやって。路上ライブでもしろって?」
    「いや、こういうのはおれよりもおまえらの歳の方が詳しいだろう。なんか動画にして世界中に公開できるんだろ?」
    「……それだ!!!」
     それなら、わたしも……。自由に好きなように音楽、できるかも!!!

  • 19スレを建てた二次創作初心者22/11/28(月) 00:34:07

     一週間後。地下の音楽室には、ちゃんとした録音、録画設備と、配信設備が整えられた。
    「……ほんとに良いの? シャンクス」
    「……お父さんとは呼んではくれないんだな……娘が覚悟を決めたのに、父親が協力しない理由があるか。全力でやってみろ」
    「でも……」
    「安心しろ、機材はベックとヤソップに選ばせたからな。設置もやらせたから大丈夫だ」
    「そうじゃ、なくて。だってわたし、コンクールでるの、やめて。音楽家を、あきらめて」
    「何を言っている。あれだってお前が全力で飛び込んだ結果、選んだことだろう。それに、お前が音楽家の道をあきらめたとはおれは思っていない」
    「……シャンクス」
    「おれは別に結果を出せとは言っていない。失敗したって良い。悩んだって良い。泣いたって良い。人はそうやって成長するものだ。まずは挑んでみろ」
    「……ありがとう。シャンクス」
    「……たまにはお父さんと呼んでくれ」
     父の胸の中で泣いたのは、どれくらいぶりだろう。
     わたしは気がつけば、音楽家としての道に、再び挑んでいた。


     「よし」
     たぶん、できた。
     編集だけで三日もかかってしまった。何回この動画を見なおしたかわからないけど。
     わたしの初めての歌動画。
    「いってこい!」
     そして教えて。この歌は、どんな歌なのか!!!

  • 20スレを建てた二次創作初心者22/11/28(月) 01:04:52

     動画投稿して二日後の朝。わたしはメールに起こされた。
    「ん-なに?」
     急上昇乗りました。コメントが書かれました。高評価されました。へぇ。
     んー? 再生回数、一万回? へぇ……え? すごっ!
     え? なんで? なんで? どうして?
    「ん?……え、ゴードン?!」

     その日は土曜日。わたしは最低限の荷物をひっつかんで家を飛び出た。
     向かった先は家から十分程度の一軒家。でも、もう五年は訪れていない場所だった。
    「……ゴードン」
     わたしに、音楽の全てを教えてくれた人。
     恐る恐る鳴らした呼び鈴。プロの指揮者にしてピアニストにして……まぁとにかく何でもできる。音楽界の神父とまで言われ、様々な音楽のプロが時折アドバイスを求めて訪れるという。
    「ウタ……来ると思った」
    「ゴードン……どうして……どうしてわたしの動画を、発信したの?」
    「素晴らしい曲だった。私のもとに来なくとも、精進は欠かさなかったようだ」
    「あ、あぁ、ごめん」
    「君が立派な演奏者にして歌い手になっているのであれば、私の教えが無駄ではなかったということだ。それがわかっただけで、私は嬉しく思う」
    「……ありがとう」
     頭を下げたわたしにゴードンは。
    「ファンの声に耳を傾けるのは大事だが、真に受けすぎないことだ。君の中の世界を大事にしなさい……それが、君のできなかったことだ……」
    「うん!」
    「君の中の世界を、皆に見せるのだ……音楽には、対話する側面があるのだから」
    「うん!!」
     ありがとう……。 
     自分の中の道が見えた気がする。
     わたしは、わたしの声が、音楽が、世界のどこまでも届くようにしたい。
     幼い頃の夢が、燃え上がっていた。

  • 21スレを建てた二次創作初心者22/11/28(月) 01:15:40

     そうしてわたしは、過去に書いた曲をどんどん手直しして演奏して投稿した。一本投稿するごとに反響があって。
    「ウタ、最近機嫌良いな?」
    「そう?」
     朝の通学路で、いつものようにルフィと歩く。わたしの横顔を見て、にかっと笑ったルフィは。
    「あぁ! そうやって笑ってるウタ、好きだぞ!!」
    「う! ……急にそういうこと、言うな」
    「? なんでだ?」
    「うるさい!」
     もうもうもう。
     ルフィはそういうこと、不意打ちで言う奴なんだ。
    「そういえばさ、ルフィ」
    「ん?」
    「この間話してくれた夢、あるじゃん」
    「おう」
    「そのための準備って、してるの?」
    「してるぞ。身体鍛えてる」
    「そ、そう……」
     まだ鍛えるつもりなのか……。そういえば見たことあるな、剣道部の先輩の隣で岩担いでスクワットしてるの。 
    「? どうしたウタ」
    「ううん。なんでもない」
     そういえばわたし、今日、初めて生配信する予定だった。何話すか考えないと。
     週末の夜は毎週するって宣言しちゃったし。わたしの動画投稿宣伝用のSNSアカウントで。


     土曜日の朝。わたしはベッドでくたばっていた。
    「……うー--」
     なんで……なんてことを……。
    「わたしは……わたしってやつはー--!!!」

  • 22スレを建てた二次創作初心者22/11/28(月) 01:30:09

     昨日の夜。
    「え、えと。初めまして。ウタです。よろしくお願いします。きょ、今日は初めての生配信なので、わたしのことをお話しできればと思います」
     って感じで、なんでだろう。パソコンに向かって話しているからか、思ったよりも舌は回った。
    「はい、高校生です。高校三年です。まだ十八じゃないですけど」
    「え? 好きな男の子ですか……んー、そういう人はいないけど、あ、でも、幼馴染の男の子がいて。うん。一曲目もそいつのこと考えて書いたんですけど」
    「え? それって好きってことじゃないんですか? いや、そんな……え、やっぱりそういうことなのかな。ってコメント欄速い速い速い。盛り上がり過ぎだって」
    「え、今日? 今日は、好きだぞって言われて……ってまたコメント欄速いって」


     「……なんであんな赤裸々に話したんだろう」
     あーあ。これからどうしよう。あんな話して、こう、もう動画見てもらえないとか、無いよねぇ。
     とか思っていたら。
    「……え、増えてる」
     登録者、増えてるんだけどぉ。
     なんで、なんで増えてるのぉ……。


     それからだ。毎週金曜日の夜。歌を歌いながら視聴者のみんなと恋バナするようになったのは。そしてそれはいつの間にか。
    「はい、今日はメールももらってまーす。A国のBさんからです。ウタさんこんばんは。はい、こんばんは~。私も幼馴染の男の子がいるのですか……」

     正直、思っていたのと違うけど、でも。 
     こういうのもありかなって思えるくらいには、楽しい。

  • 23スレを建てた二次創作初心者22/11/28(月) 01:31:49

    なんてこった、ウタちゃんが配信活動を始めるまでの話だけでかなり長くなってしまった……。

  • 24二次元好きの匿名さん22/11/28(月) 01:38:07

    >>23

    だが最高だったぜ

  • 25二次元好きの匿名さん22/11/28(月) 01:40:53

    めっちゃ好き

  • 26二次元好きの匿名さん22/11/28(月) 01:41:05

    いいのだ
    素晴らしいssはどれほど長くてもいいのだ

  • 27二次元好きの匿名さん22/11/28(月) 01:46:21

    この導入…完璧すぎる…!

  • 28スレを建てた二次創作初心者22/11/28(月) 01:48:10

     配信を始めてからの変化がある。それは。
    「ルフィ! おはよっ!」
    「ん? おう、ウタ」
    「にひひっ、ルフィ。行こうか!」
    「おう、けどよ、いつまで腕に絡みついてるつもりだ?」
    「良いじゃん」
     って感じで。なんか自分の気持ちに素直になれた気がすることだ。疑いようもなくわたしは、ルフィへの好きを自覚していた。目を閉じればルフィのこと、好きだなぁってわかる。
    「ん……あっ……ふふっ」
     思わず零れた笑いを止められなかった。
    「どうした」
    「あの公園」
    「あぁ、懐かしいなー、昔よく遊んだよな」
    「うん」
    「……覚えてるぞ、あのジャングルジムの一番上でよ……ってねぇ!! ジャングルジムが、ねぇ!!!」
    「あはは、取り壊されちゃったのかな。でも覚えてるよ、ルフィが言おうとしてるのって、誓い、でしょ」
    「あぁ」
     ルフィの優しい笑みを目に焼き付けた。思わず頬が緩むのがわかる。
     ふふっ。
     頑張らなきゃな、私。きっとルフィなら、実現するもん。だから、わたしだって。
    『ウタ!! おれ、誓うよ!!』
    『わたしも!!』
     ルフィが目指すところも、わたしが目指すところも、きっと世界に飛び出さなきゃ叶わないから。だから。
    『『夢を叶えて……!!!』』

     「そういえばルフィ」
    「ん?」
    「わたし、ルフィの笑顔、好きだよ!」
    「おう! ありがとう! おれもウタの笑顔、好きだぞ」
    「むっ」
     こいつ、照れないな。

  • 29スレを建てた二次創作初心者22/11/28(月) 01:48:59

    眠くなるまで書きましょ。明日僕、休みだし。即興は勢いが大事だから。

  • 30二次元好きの匿名さん22/11/28(月) 01:56:38
  • 31スレを建てた二次創作初心者22/11/28(月) 02:03:55

     「うん。そうなの……どうしたら良いかなぁ」
     今週もわたしは配信している。配信で。
    「うん。えっ? 例の彼とどうなりたいのかって? えー……考えたことないなぁ」
     ルフィはすっかり『例の彼』という名前で定着している。
     そしてわたしは、配信で恋愛相談するのがすっかり定着していた。
    「どうなりたいか……んー。え? 手は繋いだことあるよ。うん。そりゃ」
     って、え。
    「コメント欄速いよぉ……え、もしかしてわたしがおかしいの? え、うん。小学生の頃とか。うん、だよね! 小学生なら普通だよね!」
     よかったぁ……。
    『でも、こないだ腕組んだんですよね?』
    「あ、はい……そうです。組みました。組んで」
     結局、腕組んだまま学校の目の前まで来て。
    「そういやウタ、いつまで腕組んでるんだ?」
    「え? あ……もうっ! なんでもっと早く言わないのぉ……」
     ってなったんだ。
    「でもさ! あいつが悪いんだよ! わたし、魅力ないのかなぁ……」
     ぱたんと床に寝そべった。転がりながらパソコンに向き直る。床に置いたノートパソコンに表示されてるコメント欄には『声は可愛い』『可愛いぞ』『UTAちゃん頑張れ』と表示される。まぁ、顔出してないしね。
    「なになに? 『幼馴染だから距離が近いのが普通なのかもしれない』うんうん。それでそれで。『いつもと違う感じに一緒に出掛けてみては?』ふーん……」

  • 32スレを建てた二次創作初心者22/11/28(月) 02:11:29

     「コアラさん!」
    「んー? どうしたの? ウタちゃん」
     土曜日の朝、今日はコアラさんの住むアパートに飛び込んでいた。
    「さ、サボさんと、で、デートって……」
    「サボくんと? んー」
     幼馴染落としの先輩がわたしの近くにいたのを思い出したのだ。
    「普通だよ。一緒にショッピングしたり。最近は車を手に入れたから遠出とかしたけど。あ、でも、電車で遠出も楽しいよ」
    「そ、そうですか」
    「ルフィくんだもんね~難しいよねぇ」
    「はい……え、わたしいつ、ルフィって言いました?」
    「わかるよそりゃ。むしろ気づかないと思った?」
    「……はい」
     うん。自分でも心当たりがあった。
    「ルフィくんとデートねぇ……それはちょっとわからないけど、大事なのはね、相手と話すことだと思うな。一緒にどこに行くって話しながら、行き当たりばったり。楽しいよ。ってこれはまぁ、サボくんと出かけてて気づいたことなんだけどね」
    「相手と……話す」
    「そう」
    「わかりました」
    「うん!」
    「ルフィのところ、行ってきます!」
    「うん!!」
     アパートを飛び出して駆け出す。いまのわたし、何でもできる気がする。私は最強!!!
    「ルフィ!!!」
    「お?」
    「ん?」
     ルフィの手に、ごつい機械があった。
    「? カメラ?」
    「どうしたウタ」

  • 33スレを建てた二次創作初心者22/11/28(月) 02:27:39

     「あ、うん。一緒に、出掛けたくて」
    「お、良いな、おれも丁度出かけようと思ってたところなんだ。ちょっと待っててくれ」
     そう言ったルフィは、部屋に戻って。そして。
    「よし、行くか」
     と、麦わら帽子を被っていた。傍らにはやけにしっかりとした鞄を携えて。
    「あ、それ……まだ持ってたんだ」
    「たりめぇだろ。大事な預かりものだ」
     そう言ってルフィは麦わら帽子を押さえた。
     家を出た。迷うことなく歩いていくその背中を追う。
    「そういやウタ、金持ってるのか?」
    「え、うん。最低限は」
    「そっか」
     わたしの財布事情を聞いたわりに、ルフィは切符を二枚買って渡してくる。
    「え、ずいぶん遠くに行くね」
    「まぁな」
     そう言ってルフィは黙ってついてこいと改札を抜ける。
     電車に乗る。ボックス席に向かい合わせに。窓際を楽し気に眺める横顔は、昔と全然変わっていなかった。
    「そういやウタ。今日、気合い入れた格好してるな」
    「そ、そうなの……どうかな」
    「良いと思うぞ、似合っている!」
    「う……ありがと」
    「ししししっ」
     ルフィは嘘を付けないやつだから、その言葉を疑うことはしない。だから言葉が心にダイレクトに来るんだ。
     ……うん。
     心を丸裸にした、嘘のない言葉にはきっと力がある。ルフィが色んな奴から、例えば運動部の部長から入部を誘われるのって、そして、断られても助っ人には呼ばれるのって、そういうところもあると思う。ルフィが太陽のような奴なのって、その言葉に力があるからだ。
     わたしも、そんな歌詞、書けてるのかな。 
     電車に揺られて一時間。建物の姿が減って行って。木々や山の姿、田園が景色の主役になる。こういう光景を懐かしく感じるのは、人の本能なのだろうか。
    「よし、ここだな」
     そう言ってルフィが立ち上がった駅。降りたのはわたしたちだけだった。

  • 34スレを建てた二次創作初心者22/11/28(月) 02:54:46

     「ここに何があるの?」
    「知らね」
    「へぇ。え?」
    「よし、行くか!」
    「え、調べないの?」
     スマホを取り出すわたしにルフィは何してんだ? って顔をする。
    「調べたらワクワクしねぇじゃねーか」
    「えぇ……」
     思えばルフィって、こういう奴だった。とにかく自分で見る、やるを重視する奴だった。
     そんなわけで、何もないぽつぽつと民家が見える田園風景をひたすら歩く。その中で。
    「おばちゃーん。この辺、飯食える店ってあるかー?」
     なんて地元住民に積極的に話しかけるんだ、ルフィは。 
     んー。
    「そっか、ありがとなー」
     地図を自ら破り捨てるような小旅行も、ルフィは楽しそうだ。
    「おまえさんら、こんなところでデートかい?」
    「で、でーと」
    「まぁ、そんなところだ」
    「ルフィ!?」
    「かっかっかっ、若いってええなぁ」
    「ししししっ」
     そして、ルフィはおもむろに、鞄からさっき家で真剣な目で眺めていたカメラを取り出して。パシャリとシャッターを切った。
    「……ウタ、撮らせてくれよ」
    「え」
     わたしが何か言う前に、ルフィはシャッターを切った。
    「うん。きれいだぞ、ウタ」
    「あ、……うん」

  • 35スレを建てた二次創作初心者22/11/28(月) 03:04:56

     ルフィの夢。
     気がつけばあるいていた川沿い。夕焼けきらめく川をルフィは収めた。
    「ルフィ、写真家になって、世界中を飛び回るって言ってたよね」
    「あぁ。おれが冒険した先の景色を写真に撮って、世界中に自慢するんだ」
    「素敵な夢、だね。これも?」
    「あぁ。ウタの夢は、音楽家か?」
    「んー……大まかにはそうだけど、ちょっと違う」
    「そっか」
     ルフィは、太陽みたいなやつだ。 わたしも……そうなりたい。
     わたしも、誰かの心に届けられる歌を、音楽をしたい。
     ほんとこいつは。いつもいつも、わたしを引っ張り回す。小さい頃から、何も変わらない。でもこいつが引っ張り回す先で、わたしが笑顔になれなかったことなんて、無いんだ。いつも最後は、笑っている。
    「ねぇルフィ」
    「んお?」
    「ジャングルジム、なくなっちゃったけど、誓い、変わらないよね」
    「あぁ!」
    「「夢を叶えたらここで再び会って、一緒に笑おう」」
     突き出した拳に、ルフィは合わせてくれる。
     今は、これで良い。でも、それはそれとして。


     「告白って、した方が良いのかな」
     次の週の配信で視聴者に問いかけていた。
     あいつ大学行くのかな。高校卒業したら速攻で飛行機に乗って飛び出していきそうなイメージあるんだけど。
    「なになに? 手に入れたいなら自分で動くしかない。だよねぇ……告白待ちなんて余程うまくやらないと成功しない。左様でございますか……」
     告白、か。
     んー。いざ言おうとして、何も言えない未来が見える。
     ……そうだ! わたしにはあれがあるじゃないか。
    「でもその前にみんな! 彼と一緒にお出かけしたことは褒めて!!! めっちゃ楽しかった!!!」
    『UTAちゃん偉い』『偉い偉い』『さすがウタちゃん』
    「ありがとう! みんな!! 必ず彼の心、ゲットして見せるから!!!」

  • 36スレを建てた二次創作初心者22/11/28(月) 03:27:09

     次のデートはわたしがちゃんとプランを立てよう。そう決めたは良いものの。
    「うーん」
     最後のイベントだけは決めている。あとは途中の過程だ。
     中庭のベンチでスマホ片手にうんうんうなっていると、突然手帳が影に覆われ、顔を上げる。
    「何悩んでるの?」
    「あ、ナミ」
    「ふーん。デートプランか」
     一学年下のナミ。園芸部の部長だ。
    「あいつをついに落とすと決めたのね」
    「うん」
    「手ごわいわよ」
    「あはは」
    「まぁ頑張んなさい。あいつのことなら、あんたが一番わかっているでしょ。あいつが喜ぶ顔だけ考えてりゃ良いのよ」
    「うん」
    「それと……歌手活動、応援してるわよ」
    「へ?」
    「これ、ウタでしょ」
     ナミが見せてくるスマホの画面には、確かにわたしの動画投稿チャンネルが表示されていて。
    「……えぇなんでバレてんの」
    「この学校にあんたの歌声知らない奴なんていないわよ」
     ……文化祭カラオケ大会三連覇中のわたしでした。
    「この学校の生徒は、あんたとルフィの恋路を見守っていると思って良いわよ」
    「……うぎゃー--!!! え、もしかしてルフィも」
    「さぁ、知らないんじゃない、あいつがせっせと流行りを追ってる姿なんて想像できないわよ」
    「確かに……」

  • 37スレを建てた二次創作初心者22/11/28(月) 03:31:07

    ~番外編~
     「お、ウソップ、何聞いてるんだ?」
    「あぁルフィ、これ聞いてみろよ」
    「ん? あ、この声、ウタだ!」
    「やっぱりそうだよな!」

  • 38二次元好きの匿名さん22/11/28(月) 03:36:40

    話の流れが丁寧で読みやすい文章だぁ…配信で恋バナしてもだもだするウタ可愛い
    世界を撮って回る写真家が夢のルフィ概念地味に好き

  • 39二次元好きの匿名さん22/11/28(月) 03:38:28

    あんた本当に初心者かい…?こんなSS師が潜んでるなら日本の未来は安泰だねぇ…

  • 40二次元好きの匿名さん22/11/28(月) 03:40:44

    「配信活動と出会うまで」を丁寧に書いてるのがいいよね、それがコメントとのやり取りに繋がっていく流れが好き。
    続きを待つぞ!

  • 41スレを建てた二次創作初心者22/11/28(月) 03:48:23

     「というわけで、作戦会議します」
     もう良い。学校中にバレてる? だからどうした。
    「うん。夕食まで一緒に食べたい。食べ放題が良いかなって思ってるんだけど。うん。そう、彼、結構食べるからさ。んーでもなぁ、この辺の食べ放題の店、ほぼほぼ出禁だからなぁ。え? あぁ。お店の在庫、ほぼほぼ食べつくしちゃって、その日営業できない状態にしたって伝説を作りまくってね。
     うん、わたしもまとめて出禁になったこと結構ある。え? 一緒に行かなきゃ良いのに? えー。だって楽しいんだもん。焼肉とかでさ、彼が幸せそうに食べてるお肉、わたしが焼いたんだぁってなるじゃん。えへへ。え? おかしい? おかしくないよね! ん? 可愛い。ありがとう。って、話、逸れてる逸れてる。あ、そうそう、忘れないうちに告知。来週、新曲出すから。来週の土曜。え? デートの日。うん。そうだよ。楽しみにしてて」
     配信終了を確認して、ノートを見下ろす。よし……できた。デートの日程。新曲より苦労したかも。
     だって新曲は。わたしの素直な気持ち、そのまんまぶつければ良いんだもん。
     木曜日の放課後。
    「ルフィ、土曜、暇?」
    「おう。暇だぞ」
    「今度はさ、わたしに付き合ってよ」
    「おう! 良いぞ」
     ……あぁ、視線感じる。
     でも、うん。今のうちに見せつけておこう。この男、なんかモテるし。
    「ふしゃー!」
    「何してんだウタ? ネコか?」
    「……帰ろうか」
    「おう」

     金曜の夜。
    「みんな! 誘えたよ!!!」
    『さすがUTAちゃん』『がんばれよ』『ファイトだ!!』
    「えへ、ありがとう」

     土曜の朝。駅前でソワソワと待つ。家に向かいに行こうと思ったらコアラさんが『それじゃあ特別感がない!!」って。だからわざわざ駅前で待ち合わせした。
    「あ」
     この距離でもわかるよ。だって、ルフィだもん。
    「わり、待たせた」

  • 42スレを建てた二次創作初心者22/11/28(月) 03:49:57

    >>38

    >>39

    >>40

    あざます。オリジナルの方ではそこそこやっています。二次創作に関しては支部に1作品だけウタの生存IFをあげたくらいですのでマジで初心者です。

  • 43スレを建てた二次創作初心者22/11/28(月) 04:15:11

     「今日はカメラも麦わら帽子も無いんだ」
    「今日はウタが主役だからな! どこに行くんだ?」
    「よし、着いてきて」
     ルフィとはまずは身体を動かして遊ぼうと思って。まぁ、身体能力でルフィに勝てるわけ無いから。
    「よしっ! はい、ここはルフィのおごりね」
    「くっそー、ずりーぞウタ!」
    「でた、負け惜しみぃ。自分が投げるボールの重さくらい確認しなさいよ。五回も引っかかる? 普通」
     要所要所で軽いボールに入れ替えてあげただけ。でも面白いくらい引っかかって、力加減ミスってガーターに放り込んでた。ひどい時は隣のレーンに投げ入れてて一緒に謝った。
    「くそー、次はあれだ!!!」
    「次負けたらジュースおごりね」
    「負けねーし!」


     「ぷはっ、おいしー。勝利の味―」
    「くそっ。ズルばっかしやがって」
    「でた、負け惜しみぃ」
     プイっとそっぽ向くルフィ。拗ねた横顔。可愛いなぁ、ほんと。
     がこんっという音にルフィが振り返る。その目の前に。
    「はい、ルフィ」
    「ん?」
    「水分補給、大事だよ。身体動かしたんだから」
    「お、サンキュー」
    「……流石ルフィだね」
    「ん?」
     小細工しなきゃ、勝てないや。
     それにルフィ、少し手加減してくれてたし。知らないうちに、大人になっちゃってさ。
    「卓球ネットに不意打ちでハンディファン設置するのは流石にズル過ぎたかな」
    「全部ズルだ」
    「はいはい」
     ローラースケートレースで途中で逆走してゴール(スタート地点)に戻るのも、ズルだね。

  • 44二次元好きの匿名さん22/11/28(月) 04:36:13

    >>43

    最後ズル過ぎて笑う

  • 45二次元好きの匿名さん22/11/28(月) 07:09:41

    逆走してゴール扱いにする図太さよ

  • 46二次元好きの匿名さん22/11/28(月) 08:31:36

    これが即興ってマジか…
    続きがめっちゃ楽しみ

  • 47二次元好きの匿名さん22/11/28(月) 08:39:35

    逆走してゴールは清々しいにも程があるw

  • 48二次元好きの匿名さん22/11/28(月) 09:48:06

    あまりにもズルいの草

  • 49スレを建てた二次創作初心者22/11/28(月) 12:32:09

    おはようございます。寝すぎた。よし、書こう。

  • 50スレを建てた二次創作初心者22/11/28(月) 12:45:56

     「うぅ……また、行ける店が。減った」
    「いやぁ、食べつくしたねぇ、流石ルフィ」
     お昼ご飯はバイキング形式のイタリアンだったのだが。
     いま私たちの後ろで閉店とお詫びの看板を立てているのは、わたしたちに出禁を告げた店長さんである。
    「ほら、ルフィ、トマトソースついてる」
    「お、わりぃ」
     ごしごしとティッシュでルフィの口元を拭くと、ルフィはニッと笑う。
    「しししっ、次はどこ行くんだ?」
    「次はねぇ」
     

     写真展とか考えたけど、ルフィは逆に興味ないと思ったから。
    「ルフィはさ、食べ物の写真とか興味あるの?」
    「あるぞ。うまそーな飯もみんなに自慢したいからな!」
    「でもルフィ、写真撮る前に食べちゃいそう」
    「んなことねぇよ」
    「ほんとに?」 
     唇を尖らせるルフィの頬を指でつつきながら、指さした先。
    「じゃああそこにさ、めっちゃお洒落なパンケーキのお店あるから、そこで可愛い写真取れた方が勝ちってことでやってみよ―よ。どうせルフィ、まだ食べられるでしょ」
    「おう! やってみるか! ビビるぞー、ウタ」
     ふふーん。現役女子高生のセンスなめんなよ。 


     「美味しそー! ホイップマシマシだ!!!」
    「ウタじゃねーか、写真撮るの忘れてんの」
    「あ。あぶね」 
     ナイフとフォークを慌ててスマホに持ち替えた。

  • 51スレを建てた二次創作初心者22/11/28(月) 12:59:42

     少しして、ルフィは。
    「よし、撮れた。はい、ウタ。どーだ!」
     と、見せられた写真。
    「……え、めっちゃおいしそう……え」
     パンケーキのふっくらした感じも、クリームも明るく柔らかい光に照らされて写されていて。イチゴソースもベリーも一切の影が無く。スワイプすると今度はあおり? というのだろうか。下からドンとパンケーキの厚さを強調するような写真もあった。
    「よし、いただきまーす」
    「あ……え、ねぇ、どうやって撮ったの、その、わざわざ移動させたメニューと関係あるの?」
    「お? あぁ、レフ板代わりだ。これ使えば影ができないで全体を明るくできるだろ」
     ……ルフィ、意外と勉強してた。
    「へぇ、わたしもやってみよ」
    「あ、またズリィなぁ、ウタは」
    「ううん。ここはルフィの勝ちで良いよ。すごいな、ルフィは」
    「しししっ、だろっ」
     つまりメニューを使って光を反射させて照らせばいいのか。
    「ふふっ。どーだ!」
    「お、良いじゃねぇか」
     モグモグとフォークを咥えてルフィはぐっと親指を立てる。
    「クリームついてる」
    「え?」
     テンション上がってしまったわたしは、ルフィの頬に着いたクリームをペロッと舐めとった。
    「う、ウタ?」
    「ふふっ、顔真っ赤」
    「ウタもだろ」
    「そうかも。ふふっ、美味しいね」
     さーて。わたしも食べよ。

  • 52二次元好きの匿名さん22/11/28(月) 13:11:15

    良い

  • 53スレを建てた二次創作初心者22/11/28(月) 13:40:58

     予定は確実に消化されていた。
     ただ散歩するだけの時間も。
     釣り堀で釣り糸を垂らす時間も。
     ひたすら楽しい。
    「はふ、はふ」
    「ウタ、慌てんなよ。火傷するぞ」
    「うん。って、子どもじゃないんだから」
     釣り堀のサービスで、釣れた魚をすぐに食べられる。わたしもルフィもそこら辺の下ごしらえはルフィのおじいちゃんから教わっていた。
     夕食。思えば食べてばかりの予定だな、これ。
    「ルフィ、食べ放題以外でも、多分ルフィが満足できる量が食べられるお店あるんだ」
    「へぇ。どんなだ?」
    「まぁ、わたしが食べきれるかわからないけど。そん時はルフィ、お願いね」
    「おう! 任せろ!」 


     「ふひー、食った食った」
    「うわー、ほんとに1.5人前、食べちゃったよ」
     極太の麺、もやしなどの野菜が山の如く盛られ、厚切りの豚チャーシューが添えられた。濃厚なスープで満足感がやばいラーメン。わたしは途中でギブアップした。
    「良い晩飯だった」
    「良かった」
     さて、最後の予定だ。
    「ルフィ、帰る前に少し付き合ってよ」
    「おう」
     そうして向かう先、子どもの頃遊んだ公園。
     多分、わたしが歩いている道でもう、ルフィはわかっているだろう。子どもの頃ならもう帰っている時間だけど。誰も遊んでいない。昔とは違う。中に足を踏み入れれば誰かが歓声を上げながら遊んでいた。
    「子どもの頃は、こんなところでも十分に冒険だったね」
    「あぁ」

  • 54二次元好きの匿名さん22/11/28(月) 14:12:16

    >>51

    これで付き合ってない!?

  • 55スレを建てた二次創作初心者22/11/28(月) 14:23:02

     夏の夜の空はどこか優しい気がする。抜けるような青空を見せた後に、包み込んでくれる感じがする。
    「ウタ、ここで何するんだ?」
    「ルフィ、わたしの歌、聞いてもらって良い?」
    「あぁ。ウタの歌、おれ、好きだぞ。頑張ってるな」
    「え?」
    「動画、見たぞ。配信? ってのはちょっとなげーからまだ見てねーけど。ウタ、のびのび歌ってたな」
    「……あはは、やっぱり見つかってたか……でも、よかった」
     そう。良かった。だって。とりあえず届いていたんだから。
    「ルフィ、これからも、あんたがどこに行こうとわたしの歌、届けるから」
    「おう!」
     どこにいても見つけてもらえるように。どこに行っても見つけられるように。
    「じゃあ、聞いてね」
    「おう」
     伴奏なんてない。聞こえる虫の音は歓声。照らす街灯はスポットライト。ちっぽけな子どもたちのステージを少し借りて。子どもの頃の冒険の島はすっかり懐かしい景色で。
     歌う。目の前の君のために。届けたくて。届け、届け、届け……。
    「ルフィ!」
    「おう。良い歌だったぞ」
    「わたし……」
     ルフィの傍にいたい。どこまでも遠くに行こうとするルフィの。
    「わたし、ルフィのこと、好き!」
    「おれもウタのこと、好きだぞ」
    「んー……わたし、わたし……」
     逃げるな……ここで言わなきゃ、いつ言うんだ……こんなところで後悔するわけには……いかない!!!
    「ルフィの特別になりたいの! ……恋人に、なりたいの」
     ううんそれだけじゃ足りない。でも、なんて言ったらわからないから、言葉で定義づけする。とにかく。
    「誰よりも近くにいたい。誰よりも心を許してもらえる人になりたい。誰よりも……当たり前の存在に、なりたいんだ」

  • 56スレを建てた二次創作初心者22/11/28(月) 14:58:38

     呆けた顔をするルフィ。けれど、わたしの目を見て、すぐに顔を引き締めた。
    「ウタはもう……おれにとって当たり前だけどなぁ……」
    「うん。でも、今よりも。もっと近くに」
    「でも多分、おれ、そういうの良くわかってねーぞ」
    「知ってる。一緒に知っていけば良いんだよ。それで良いじゃん。ろくに調べもせず冒険しようってあんたにはちょうど良いよ」
    「かもな」
     トンと踏み出した一歩。
    「ルフィは、いや?」
    「嫌なわけねぇよ」
     二歩。
    「そっか、よかった」
    「ウタこそ……おれで良いのかよ」
     三歩。
    「ルフィの口からそんな弱気な言葉を聞けるなんてね」
    「よくわからねぇけど、大事なことなのはわかるんだよ」
     はい、ルフィの目の前。
    「ルフィだから良いんだよ……わたしを、ルフィにとっての、大切にしてほしい。まずは、恋人に、してほしい」
    「……わかった。よくわかんねーけど、ウタの本気。おれが受けとめる!」
    「……!!」
     夜なのに……眩しくて……泣いちゃうよ。

  • 57スレを建てた二次創作初心者22/11/28(月) 15:06:28

     どれくらいそうしていたんだろう。
     ルフィの腕の中に身体を預けて。何も言わずにずっと抱きしめてくれた。
    「落ち着いたか?」
    「うん。ごめん……感動、しちゃった」
    「……これからよろしく。ってことで良いのか?」
    「うん。あ……そろそろ」
    「ん?」
    「これ」
     するするとルフィの腕から抜けてベンチに座るとルフィも隣に座ったから、そのまま膝に頭を預けてベンチに横になる。スマホを取り出し、わたしはわたしの動画チャンネルの管理画面を開く。
    「これ、今はまだ投稿してないんだけど……今日公開する約束、ファンのみんなとしててさ……今から公開して、一緒に聞こうよ。アカペラじゃないちゃんとしたやつ」
    「お、聞きて―!」
    「これ……ルフィに告白するために作った曲なんだ」
    「へぇ」
    「反応薄いなぁ」
     そう言うと、ルフィは焦ったように目を逸らして。そして困ったように笑う。
    「わりっ……よくわかんねーとは言ったけど、これからは頑張る。ウタが向かってきてくれたんだ、受け止めるって言ったからな」
    「……ありがと」
     膝に預けた頭をゆっくりと撫でてくれるのは、きっと無意識だ。ごつごつした優しい手。わたしをいつも引っ張ってくれた手。
     公開して最初の再生はわたしたちだ。
     わたしの歌が、世界に届く。
     わたしの思いが世界に広がる。
     わたしの気持ちは真っ直ぐだけど。わたしの気持ちを受け取った誰かが、その気持ちをまた別の誰かに届けてくれたら。わたしの歌は、どこまでも届くかもしれない。
    「帰ろうか……今日、泊って行ってよ」
    「? 良いのか?」
    「ルフィの着替えならあるよ」
    「おう、わかった……えっとサボは今日、コアラと旅行行くって言ってたし、エースはサークルの合宿だから……連絡はいらねぇな。よし、行こう!」

  • 58二次元好きの匿名さん22/11/28(月) 15:10:39

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  • 59スレを建てた二次創作初心者22/11/28(月) 15:27:27

     音楽部屋にルフィがいる。
     今日は特別に配信もする予定があった。
     簡単に言えば、結果報告配信。
    「ルフィ。良い、かな……その……OKもらえたらゲストとして連れてくるって約束しててさ」
    「約束したんだろ。良いぞ」
    「ありがと、ルフィ」
     ……よし。まぁ、ルフィならOKしてくれる気がしてたんだけどさ。ズルいなぁ、わたし。
    「じゃあ。始めるね……まずはわたしから話すから」
    「もしもし。おれ、ルフィ。ウタの彼氏? になった男だ!」
    「ちょっと! まずわたしが話すからって言ったじゃん!」
    「え? あ、わりっ。で、なに話すんだ?」
    「あーもう……みんな、ウタだよ。はい、連れてきました。幼馴染で彼氏になりましたルフィです」
    「よろしく! うわ、文字一杯じゃねーか」
    「コメントだよ。みんながわたしたちにメッセージくれてるね」
    「へぇ。なになに。『幼馴染なら離すんじゃねーぞ』『ウタちゃん泣かせたら三枚に下ろすからな』『泣かせたらぶっ飛ばーす』ふーん、ウタ、お前、大事にされてるな! 良かった!」
    「え?」
    「ウタ、なんか昔、音楽……嫌になってたこと。あっただろ」
    「う、うん」
     コンクールが嫌になったことのことだ……。
    「そんなお前がさ、自分の歌をこうやってみんなに届けてるって知った時はさ。あー……上手く言えねーけど。やっぱりウタはスゲーとかさ、嬉しいとかさ、色々思ったけど……正直、心配もした」
    「……ルフィ」
    「でも、安心した! ししししっ、やっぱりウタは、すげーよ」
    「……ありがとう」
     あーあ、ファンのみんなの前なのに。
    「あー、コメント欄、速いしなんかぼやけて見えない」
    「んー? 『いちゃいちゃありがとうございます』『お幸せに』『結婚まだですか?』だってよ」
    「読み上げなくて良いから!!!」

  • 60二次元好きの匿名さん22/11/28(月) 15:44:07

    ゾロ....サンジ...ナミ...!!

  • 61スレを建てた二次創作初心者22/11/28(月) 15:52:43

     なんか楽しかったな。ルフィがガンガンコメント欄と話していて。
     配信終ったあと、アーカイブのコメントも盛り上がっていた。
    「いつもと違う、か。わたしそんなに変だったかな」
    「変じゃねーよ。みんな、嬉しそうだったぞ」
    「そか……」
    「良かったじゃねーか。盛り上がって」
    「うん……毎週呼んで欲しいってコメントが気になるけどさ!!」
    「えー。まぁ、たまになら良いけどよ」
    「うん。そうして……」
     やっぱりルフィは、凄いよ。ファンのみんなとあっという間に仲良くなってさ。
    「おまえプリンセスなんて呼ばれてるのか?」
    「え、あぁ、そう呼ぶ人もいるね」
    「プリンセス・ウタ、どうかお幸せに、か。しししっ」
     ルフィは目を閉じて静かな笑みを浮かべる。 
    「ウタ……」
    「ん?」
    「おれ。とんでもない宝、預かっちまったな……」
    「ルフィ、わたしもルフィのこと、大切にするからさ……ひとりで悩まないで」
    「あぁ……!」
    「お風呂入ろ」
    「おう、ウタ、先に入って良いぞ」
    「……いっしょにはいろうよ」
    「……は?」
     手を掴んで引っ張って立たせる。たまにはさ。
     わたしがルフィの手、引いても良いと思うんだ。

  • 62二次元好きの匿名さん22/11/28(月) 16:01:52

    強い……強いぞウタちゃん……恋人になっていいとわかったら一直線だ……!

  • 63二次元好きの匿名さん22/11/28(月) 16:04:03

    二次創作初心者が書ける文章量じゃねぇよ…あんたスゲェよ…

  • 64二次元好きの匿名さん22/11/28(月) 16:12:33
  • 65スレを建てた二次創作初心者22/11/28(月) 16:19:02

     「な、なぁ。ウタ」
    「ん? どう? 力加減とか」
     わしゃわしゃとルフィの少し硬い髪の毛に泡を立てる。
    「それは良いんだけどよ。一緒に風呂は……」
    「いいじゃん別に。もう恋人だし」
    「い、いや……なんだ、その……おれでもわかるぞ、なんかこう、急だって」
    「ん……でも……ごめんなんか、抑え効かなくてさ。えへへ」
     ギューッと後ろから抱きしめる。なんか止まらない。ルフィの存在をもっと感じたいんだ。
     細いようでがっしりと引き締まった身体。もう、子どもの頃と全然違うや。近くにいたのに知らなかったよ。いつの間にか抜かれていた背。彼の周りにどんどん増えていく人。真っ直ぐに夢を見つめる目。
    「ルフィ」
    「ん?」
    「ルフィがどこにいても、わたしの歌が聞こえるように頑張るから。どこにいても見つけてもらえるように、見つけられるように」
    「……ウタ……どこに冒険しても、おまえのところに、帰ってくる」
    「うん……ありがとう」
      
      

     眠る大好きな人の寝顔を撫でる。この瞬間がたまらなくいとおしい。
     油断しきった寝顔はどれだけ眺めても飽きない。
     本当に、なれたんだなぁ、恋人。
    「ふふっ」
     あぁ、明日、日曜日か。
     ううん。明日だけじゃない。
    「ふふっ」
     浮かれてるなー。わたし。  

  • 66スレを建てた二次創作初心者22/11/28(月) 16:27:22

     『被災地や紛争地帯でのチャリティライブで話題の歌姫ウタ、遂に世界ツアー決定「どこまでも届けるから待っててね!!!」』
    『写真家・麦わらのルフィ、南極点に続いて北極点に到達。「シロクマに遭遇した時は流石にやべーと思った。強かった。あぁ、こいつこいつ。友達になったんだ」と、肩を組んで笑ってる写真を公開』

     五年後、この二つの記事が世間を賑わせた。

  • 67二次元好きの匿名さん22/11/28(月) 16:31:19

    ハッピーエンドだ!わーい!


    ルフィ現パロなのに強すぎやせんか?幸せな気分に浸ってたところに不意打ち喰らって笑っちゃった

  • 68スレを建てた二次創作初心者22/11/28(月) 16:38:36

    >>67

    この時空での写真家、麦わらのルフィの伝説(真偽不明)。

    キリンの蹴りを見てから避ける。

    雪崩をサーフィンして逃れる。その後クレバスをよじ登って出てくる。

    グリズリーとライオンをアッパーでノックアウトする。

    噛みつこうとするカバの口を掴んで止める。

    チーターを並走して撮影する。


    次エピローグです。

  • 69スレを建てた二次創作初心者22/11/28(月) 16:49:11

     「久々に帰ってきたなぁ」
    「ほんとだねぇ……さすがに疲れたや」
    「だな」
     公園はなくなっていた。まぁ、そんなものだよね。時の流れってやつだ。
     手をつないだ。懐かしい道をゆっくりと歩く。あちこち見て回っても、ここが一番目に馴染んで落ち着くのは変わりない。
    「ウタ。覚えてるよな」
    「当然」
     それぞれの夢のために離れることになったけど。こうしてわたしたちは、帰ってきた。私たちは、笑い合っている。
    「あー……ウタ」
     かつて公園があった空き地の目の前で。わたしたちが付き合い始めることになったその場所で、ルフィは何やら口ごもる。
    「ん? どうしたの?」
    「あー……」
     ごそごそと鞄から取り出したものを差し出してくる。小箱だ。
    「結婚、してくれないか?」
     開ければそこには指輪があって。視界がじわっと滲んで慌てて拭って。
    「ふふっ……うん! しよっ、結婚。はい、婚姻届け」
    「用意してたのかよ!」
    「そのつもりだったし! よーし、しばらく動画での活動に専念する旨の声明出さないとな―」
    「えぇ!」
    「子ども欲しいし」
     そう言って振り返ると、麦わら帽子を押さえ、俯いている姿が目に入る。
    「……おれ、なれるかな、父親」
    「ルフィならなれるよ。何にだって。なりたいと思えば」 
     きっとわたしの前でしか見せない、自信なさそうなその顔を抱きしめて隠してあげる。
    「……そうだな。ウタも、いるもんな」
    「うん」
    「……よし! 結婚だー!!!」
    「声が大きい―!!!」

     『写真家麦わらのルフィ・歌姫ウタが結婚を発表』

  • 70スレを建てた二次創作初心者22/11/28(月) 16:49:55

    以上になります。ありがとうございました。

  • 71二次元好きの匿名さん22/11/28(月) 16:51:29

    素晴らしいSSだと語り継がせて貰おうか…本当に初心者…?

  • 72二次元好きの匿名さん22/11/28(月) 16:53:14

    感動した……ふたりで同じ方向を向いて、それぞれ世界に羽ばたく夢を叶えることを丁寧に描写されていて本当によかったです……。
    語り継がれる……書いてくれてありがとう。

  • 73二次元好きの匿名さん22/11/28(月) 16:55:41
  • 74スレを建てた二次創作初心者22/11/28(月) 17:23:40

    >>71

    >>72

    >>73

    ありがとうございます。二次創作に関しては支部にウタ生存ifを一つだけあげたバチバチの初心者です。

  • 75二次元好きの匿名さん22/11/28(月) 17:29:59

    見事なルウタSSありがとうありがとう

  • 76二次元好きの匿名さん22/11/28(月) 17:40:19

    それぞれ自分の夢に向かってひたむきなんだけど互いの一番深い所に相手の存在があるっていう物凄い解釈一致のルウタだったわ…
    ありがてえありがてえ次回作も期待してます

  • 77二次元好きの匿名さん22/11/28(月) 19:21:55

    素晴らし過ぎる
    これで即興とは言葉も出ない
    この二人はお互いに自分の夢を追いかけてその先でまた一緒になるのが本当に似合うなって

  • 78スレを建てた二次創作初心者22/11/28(月) 21:02:57

    ~おまけ~
     ルフィと付き合い始めて一か月経った。今日は配信する日。
    「そう、ルフィの補習はわたしが防いだ!!! わたし、頑張った!!!」
     テスト前にみっちりと過去問まで引っ張り出して教え込んだ。サボさんもエースさんも『まぁ大丈夫だろ』ってスタンスだから。いやまぁ、エースさんもサボさんも、普通に成績優秀だったからなぁ。
    「と、いうわけだから。え? ちゃんとテスト勉強できたのかって? イチャイチャしてただろって? そりゃするでしょ。二人きりだもんうん? ……はっ! そ、それでも赤点ゼロだったんだから、問題なし! 夏休みなぁ……ルフィはプールよりも海の方が喜びそうなんだよなぁ」
     ルフィの今まで撮ってきた写真を見てきたけど……ルフィがその景色を見て感動したのが伝わってくるんだ。なんか写真の中でも景色が生きている感じがするんだ。
    「え? 水着? ……水着……? あぁ……わたし、持ってない、水着」
     そう呟いた瞬間。スマホが震えた。ナミとコアラさんからだった。……え、見てるの、わたしの配信。
     

     「というわけで! 選ぶわよ! ウタの水着!」
    「選ぶよ!」
    「……んーこれとか……」
    「そういうのを選ぶからわたしたちが来たのよ」
    「そうそう」
     ショッピングセンターの水着売り場。シーズンということで結構な種類が並んでいた。
     わたしが手に取った、首の長い可愛い動物がデザインされた、露出の少ないセパレートタイプの水着は二人に速攻で却下される。
    「……あんたこの前公開してたパーカーとマークとアームカバーにあしらわれた別バージョンのひょうたんみたいなマークのセンスは良かったじゃない。というか普段着だって……」
    「パーカーはわたしのデザイン。マークもそうだね。あ、アームカバーの方はルフィだよ。普段着はわたしの音楽の師匠のゴードンが、人前に出るならって」
    「……音楽界の神父ッて本当に偉大な人なのね」
     ナミさんがしみじみと呟く。 
    「よし、とりあえず私とコアラさんで何個か選ぶから、その中から選びなさい」
    「はーい」

  • 79スレを建てた二次創作初心者22/11/28(月) 21:43:54

     「おぉ……」
    「これは……」
     試着室のカーテンが開かれた。ナミとコアラさんは息を飲みそして。
    「……サイズが……」
    「うん……もっと大きいの持ってこないといけないわね」
    「色んな意味で、危険だ……」
    「溢れそうだわ」
     と。ナミさんが走っていく。
    「え? ……んー、確かに、ちょっと下着きついなぁって思ったけど」
    「……買いなおそうか」
    「はい」


     そんな感じで色々買い物したのは良いのだが。
    「どう誘えば良いんだ」
     と思っていたら。
     夜。今日もルフィがわたしの家に来てくれた。
    「ウタ、海に行こう!」
    「え。うん」
     でもまぁ。ルフィから誘ったということは。
    「撮影?」
    「おう! 夏だしな。冬の海も良いんだけど、やっぱ夏の海も見てぇ」
    「そっかそっか。ところでルフィ、泳ぐの?」
    「んー……そうだなぁ、泳ぐかなぁ」
    「え、ルフィ、泳げるようになったの?」
    「いや。今年練習して泳げるようになる!」
    「そっか……じゃあ、さ、明日……プール行こうよ」
    「プールか……ウタ、教えてくれるのか?」
    「いや、まぁ、わたしも泳げないんだけどさ」
    「泳ぎかぁ。ゾロは最後の全国大会だし、サンジは短期の海外留学行くって言ってたし、ウソップは地元に帰るって言ってたしなぁ。エースもサークルの合宿。サボかコアラか……あとはナミか」

  • 80スレを建てた二次創作初心者22/11/28(月) 21:57:23

     「え?」
    「ウタも一緒に教わって泳げるようになろうぜ!」
    「えぇ!!」
     あ、あー……どうしよう……。
    「あ、もしもし! ナミか?! おれだおれ! え? 詐欺じゃねーよわかるだろ! おう、明日暇か?! よし、じゃあプールに行こう! おれとウタに泳ぎおしえてくれ! よろしくな! またなー」
     ……ルフィのすごいところであり厄介なところ……話が気がついたら進んでいるところ。
     スマホが震えた。ナミからだ。
    「いいのあんた。ルフィからプールに来いって来たわよ!」
    「うん。知ってる。ルフィ、泳げるようになるんだって」
    「ふーん。まぁ、そういうことなら行くけど……」
    「ごめん、急な話で」
    「別にいいわよ。私もプール行きたい気分だったし」
    「うん。ありがと」
     というわけで3人でプールに行くことになった。

     「ルフィ! 水の中で力まない! もっと水を信用なさい! 水を支配しようとしないの!」
    「ははっ、ルフィのやつ、まだ克服してなかったのか」
    「まったく……去年教えれば良かったか?」
    「去年は受験だろ」
    「そうだったな」
     結局、エースさんもサボさんもコアラさんも来た。

  • 81スレを建てた二次創作初心者22/11/28(月) 23:20:44

     わたしとルフィはエースさんとナミによる水泳指導。コアラさんとサボさんはどっかに行った。
     巨大な流れるプールと結構な種類のウォータースライダーが売りの施設は外で。
     屋内の温水プールでわたしたちは練習する。 
    「しかし意外ねぇ、ルフィも意外だったけど、ウタもまさか泳げないとは。あんたたち昔っから一緒に野山に公園に走り回ってたじゃない」
    「どうしても駄目だったんだよねぇ」
    「ふーん。でもよかったの? あんたから誘ったのなら、二人きりになりたかったんじゃないの?」
    「まぁ、そうなんだけど」
     でも、ルフィの将来の夢を考えるなら泳げた方が良いに決まっているし。
     見てみれば。
    「おらルフィ、なんで沈んでいくんだよ。力抜け」
    「エースはなんで泳げるんだよ」
    「難しいことじゃねーだろ。力抜いて伸びをすればまず浮くだろ。おまえはまずそこからだ」
    「むぅ……力を抜く」
    「そうだ」
    「むぅ……」
    「そうだ、まずは浮くことを覚えろ」
     すごいなルフィ、浮いてる。
    「ウタも浮くはずよ」
    「が、頑張る」
    「あいつは大変だろうけど、頑張らなくても浮くわよ。多分。ウタは」
    「?」
    「まぁ頑張るわよ」
    「おー!」
     プールの片隅で。
    「おい……おれのツレに下世話な目を向けるんじゃねー。あいつらとこいつの後ろには、おれがいると思え!」
    「「「「「「すいませんでしたー--」」」」」」
     逃げていく男たち。サボはひっそりとため息を吐く。
    「サボくん……やり過ぎ」
    「これくらいでちょうど良いだろ」 

  • 82スレを建てた二次創作初心者22/11/29(火) 00:08:33

     一時間もする頃には。
    「ははは、まだまだだなルフィ。おれの方がはえー」
    「うるせぇ! すぐにおいついてやる!」
    「……まぁこうなるわよね」
    「だね」
     泳ぐエースさんをルフィは追いかけていた。もう普通に泳いでいる。
    「むしろなんで今まであいつ泳げなかったのよ」
    「さぁ……?」
    「どうするウタ。あなたもバタ足とクロールの基礎はできたし、もう良いんじゃない?」
    「え?」
    「ふたりで遊んで来たらってことよ」
    「あ……うん。でも……」
    「コアラ攫ってくるから気にしなくて良いわよ。そろそろロビンも着くころだし」
    「あ……うん!」
     ひらひらと手を振ってナミさんは歩いていく。
    「ルフィ!」
    「お? どうしたウタ」
    「行こっ! エースさん、ルフィは返してもらうよ!」
    「おーういいぞ。持ってけ持ってけ」
     ルフィを連れて太陽の下。夏の太陽の下だ。
    「んー。眩しいっ!」
    「しししっ、どうだウタ。おれ、泳げるようになったぞ!」
    「流石だね、ルフィ! ……何する?」
    「んー。よし、あれだー!」
    「おー!!!」
     ルフィが指さした先。二人乗りの浮き輪に乗って滑るウォータースライダーがあった。

  • 83スレを建てた二次創作初心者22/11/29(火) 00:55:46

     「はー、遊んだ遊んだ」
    「だなぁ。お、うめぇ」
     プールサイドで食べるチュロスはなんでこんなにも美味しいのだろう。
     もそもそと口の中に押し込んでいく横でルフィは焼きそばを豪快に啜っている。
    「はい、ルフィ、飲み物」
    「お、サンキュー」
     なんか楽しいなぁ。ん? あれ、そういえばわたし……いや、ルフィは。
    「そういえばどうかな。水着。買ってみたんだ」
    「お? 似合ってるぞ。さすがウタだ」
    「お、うん」
     聞かなきゃね。ルフィには。ちゃんと。自分から言うなんてことないんだから。
    「ふふっ」
     楽しいな。
     日が傾き始めて、わたしたちはプールを出た。
    「ん……」
     そろそろ一か月なんだよなぁ、付き合い始めて。……そろそろ、さ。
     ルフィと一緒に自宅への帰路につく。今日、ルフィはうちに泊まる。夏休みだから、日曜とか月曜とか気にしなくて良いから。
    「……ん」
    「どうしたウタ。顔真っ赤にして」
    「夕日のせいだよっ!」
    「? そ、そうか」
    「う、海! いつ行くの?」
    「んー。明日でも良いなぁって」
    「は、ハードスケジュールだね」
    「いやか?」
    「ううん。行こうっ」
     そろそろ、キスとか、その先とか……考えて良いと思うんだよね。ルフィはどう思ってるのかな、その辺。

  • 84スレを建てた二次創作初心者22/11/29(火) 01:24:30

    「よし、明日海行くぞ!」
    「ふふっ。おー!」
     左腕を突き上げたルフィに合わせて左腕を突き上げた。
    「お、使ってるな、それ」
    「うん」
    「暑くねーのか?」
    「んー。まぁ、日焼け防止と思えば」
    「左腕だけか?」
    「うん」
     ここ一か月のことを思い返してみる。一番そういうのに近づいたのが付き合い始めた日の夜ってどうなってるんだ。
     
     
     お風呂は流石に別々だ。一回シャンクスにバレて大変だったんだ。
    「ルフィ!!! お前にウタのことが責任取れるのか!!!」
    「とる!!!」
    「クソガキに何ができる!!!」
    「うるせぇ!!!」
     って感じで、たまたま一緒に来ていたベックさんが止めなかったら殴り合いになっていたし。ホンゴウさんが宥めなかったら「別れろ」とか言い出していたと思う。
     ……えっ、まって。一緒に風呂入ってたのにルフィ、手を出そうとしなかったの?
    「……おかしくない?」
     え、わたし、魅力ない?
     その……なんかこう……そういう方向の魅力……え……あ……。
    『幼馴染だから距離が近いのが普通なのかもしれない』
     ……もしかして、爆弾が必要? ルフィにそういう目で見てもらうには。
     うん。そうだ。付き合い始めた夜がやはり一番チャンスだった。多分動揺してた。それから慣れたんだ、多分。
    「よーし!!!」
    「お、ウタ、気合入ってるな!」
    「うん!!!」

  • 85スレを建てた二次創作初心者22/11/29(火) 01:27:39

    ……おまけが既に予定より長くなってるんだが。

  • 86二次元好きの匿名さん22/11/29(火) 01:28:54

    書いてくれる分には嬉しいぞ。
    でもま、差支えないようにね。

  • 87スレを建てた二次創作初心者22/11/29(火) 01:58:13

    >>86

    ありがとうだぜ。イチャイチャするルフィとウタを見たい欲に突き動かされる限り手は動くのだ

  • 88スレを建てた二次創作初心者22/11/29(火) 02:13:05

     どうしたものか……ルフィはどうしたらわたしに手を出そうとしてくれるのだろう。
     ……流石にまったく興味ないってことはないと思うけどさ。
    「うーん」
     ……コアラさんに聞いてみた方が良いかなぁ……それともマキノさん……いや。
    「聞けるかぁ!!!」
    「どうした!! ウタ!!」
    「あ、ううん。なんでもない」
     と言う頃には。ガラガラと音を立てて浴室の扉が開かれていた。
    「あ……」
    「よし、大丈夫そうだな。よかったよかった」
     そしてルフィは普通に扉を閉めた。
    「……うー!!!」
    「どうしたウタ!」
    「なんでもない!!!」
     なんでだよぉ……。


     同じベッドに寝ていることはシャンクスも知らない。
     ぐっすり眠るルフィの寝顔を撫でるのが、ルフィが泊まる日の楽しみ。
     ……もしわたしのほうから手を出したら……。ううん。それは……こわい……いや、でも、そのこわいことをわたしはルフィに求めてる。
     ごくっと思わず息を飲んだ。
     欲しいものは、手に入れに行くんだ……。
    「……無理だぁ」
     なんかそれで嫌われるかもとか考えちゃうよ……。
    「んー」
     ルフィ……キスくらいは、いい、かな……。
     ううん。初めてのキスは、ちゃんと、したいな……。

  • 89スレを建てた二次創作初心者22/11/29(火) 03:08:45

     「海だー!!!」
    「海だー!!!」
     天に二人で両拳を突き上げた!!
     まだ朝も早い時間。砂浜もちらほらとしか人がいない。
     その砂浜にルフィは。
    「ふん!」っと気合一閃。パラソルを砂浜に突き立てる。……なんで片腕でパラソルが立つくらいしっかり突き刺せるの……。せっせと固定してる。
    「よし、ウタ。荷物おいて良いぞ」
    「ありがとう。あれ、ルフィ、撮影行かないの?」
    「ウタと遊ぶのも大事だ」
    「あ、うん……ありがと」
     言葉のわりにルフィは真剣な目だ。そういうルフィの言葉にはどうしてか逆らえない。
    「泳ぐか」
    「うん」
     
     
     テレビでよく見る「あははっ」「きゃっ、つめたーい」「あははははっ」というのはよく見るけど。自分たちでやるのかって。
    「ほらほらールフィーしょっぱいぞー!!!」
    「やったなウター。それっ!」
    「もうルフィ、あははは!」
     ……やってるわ。
     うん。やってる。滅茶苦茶楽しい。
     虚無な気分になるかもとか思ったけど。
    「それっ」
    「このっ!」
    「あはははは!!」
     頭から海水被ったルフィを見て、お腹の底から笑ってしまうし。
    「きゃっ」
    「あひゃひゃひゃひゃ!!」
     ルフィも笑ってくれる。それがひたすらに嬉しい。

  • 90二次元好きの匿名さん22/11/29(火) 04:40:55

    たくさんおれたちの栄養素つくってくれるのはうれしいけどよ!!!スレ主には長生きしてほしいからちゃんと寝てほしいんだ!!!
    でもありがとう!!!!

  • 91二次元好きの匿名さん22/11/29(火) 04:46:39

    いいなぁ
    イチャイチャは健康にいい

  • 92二次元好きの匿名さん22/11/29(火) 06:55:38

    本文もおまけも素晴らしいSSだ...

  • 93二次元好きの匿名さん22/11/29(火) 07:08:26

    >>85

    もっと長くしてくれていいぞ

  • 94スレを建てた二次創作初心者22/11/29(火) 13:14:34

     「はぁ、遊んだねぇ」
    「あぁ。たのしかったー」
     上機嫌にパラソルの下に敷いたシートに横になるルフィ。
    「あったけぇ……」
    「ふふっ、そうだね」
     砂浜が温かい。その温もりがシート越しに伝わってくる。
    「ルフィ、撮影は行くの?」
    「帰りだな。こんなところでカメラは構えられねぇよ」
    「……あぁ」
     納得した。確かに、不審者と思われるか。
    「だからそうだな。飯食おうぜ」
    「うん!」
     海の家は当然のように行列だった。それでもしばらく待てばきちんとわたしたちの番が来て。
    「へいらっしゃいらっしゃい、うちのお嬢お手製の海の家焼きそばだよ」
    「ウソップさん、あんまりそういうことは……」 
    「あれ、ウソップ。なにしてんだこんなところで」
    「ん? おうルフィ……にプリンセス・ウタ!!」
    「その呼び方、今はやめて」
    「あ、すいません」
    「ウソップ、焼きそば二つ頼む」
    「はいよ!」
    「お願いね」
    「了解であります!」
     ペコペコ頭を下げるウソップ。その横で、お淑やかでなんというか、お屋敷の窓辺が似合いそうな女の子が。
    「ウソップさん、はやくお渡しして」
    「は、はい!! いや~しかしルフィ、お前本当に」
    「ウソップさん、次のお客様がお待ちでしょ! キャベツがそろそろ追加で欲しいわ!」
    「はい! ただちに!!」
    「なんか忙しそうだな。がんばれよ。またな」
    「がんばってねー」

  • 95スレを建てた二次創作初心者22/11/29(火) 13:19:06

    おはようございます。気がついたら寝てました。お仕事行ってきます。続きはお仕事の休憩中に

  • 96スレを建てた二次創作初心者22/11/29(火) 16:36:26

     海を眺めながら、くるくるとルフィは麦わら帽子を指の上に立てて回す。
     シャンクスから預かった麦わら帽子。いつかこれを返しに来るとき、冒険の自慢話をしてくれと。子どもの頃ルフィが預かったのだ。正直わたしは嫉妬した。
     シャンクスはわたしじゃなくてルフィに期待しているんだと思ったから。まぁ、その期待通りではあったんだけどさ。この間までの、くすぶってたわたしを見るに。
    「……撮影行く?」
    「良いのか? もう」
    「うん。わたしは、ルフィと一緒ならなんでも楽しいよ」
    「そうか。じゃあ、行くか!」
    「うん!」
     本心だよ、もちろん。景色を見つめる輝いた目も、レンズを覗き込む真剣な目も。好きだから。 
     海の家でシャワーを借りていると、ルフィはクラスメイトで友達のウソップくんと話していた。
    「そうか、おまえの父ちゃんの実家このへんなのか」
    「そうなんだよ。んで、カヤのやつが海の家でバイトしてみたいって言うから、おれもついてきたってわけでよ」
    「そうかー」
    「はい、ルフィさん。麦茶をどうぞ」
    「お、サンキュー」
    「お連れの……えっと」
    「ウタです」
    「ウタさんもどうぞ」
    「ありがとうございます」
     それから、二人はまだ仕事中だったけど、少しだけ話せた。まさか、シャンクスの会社の社員の一人のヤソップさんの息子だとは、驚いた。ルフィは知っていたみたいだけど……言ってよ。
     堤防沿いを二人で歩く。
    「ルフィ、重くないの?」
    「? このくらいなら」
     ビーチパラソルにレジャーシートに水着の入ってた鞄にあとクーラーボックスに。
    「どれか持つよ」
    「大丈夫だって」
    「んー」
     ルフィの将来の夢を考えたら重いとか言っていられないのかもしれないけどさ。

  • 97二次元好きの匿名さん22/11/29(火) 22:17:17

    サボとコアラも成立してるのがこちらとしては好みですね。
    エースは……どうなんだろ。

  • 98二次元好きの匿名さん22/11/29(火) 23:26:34

     しばらく歩いていると、ルフィの横で赤い車が停まった。
    「おう、ルフィ。お前も海に行くって言ってたが、やはりここだったか」
    「エース! なにしてんだよこんなところで」
    「おれは野暮用だ。お前は今から撮影か? 使わねぇならパラソルとか乗せて良いぞ」
    「お、サンキュー」
     トランクを開けると、後部座席からひょこんと女性と女の子が顔を覗かせた。
    「ルフィ!」
    「お、ヤマト」
     エースの大学の一年先輩のヤマトさんと。
    「アニキ!」
    「玉も乗ってるのか」
     近所の小学生のお玉ちゃんがなぜか乗っていた。
    「そうなんだよ……ったくよう。イスカの奴が、言ったことの責任はとって面倒見ろってうるせぇんだ」
    「ふーん。そうか」
    「エースが今から光月家の本家に連れて行ってくれるんだ! エースの親分である白ひげが、あの光月おでんの兄貴分と聞いて、頼み込んだら取り次いでくれることになったんだ!」
    「ふーん。んで、玉は何で?」
    「おら、八歳になったからエースに妹分として認めてけろと車に乗り込んだでやんす!」
     ……エースさんも苦労人だなぁ。と、同情の目を向けると、エースさんも苦笑いで。
    「おでんさんのところの息子のモモの助の奴は、跡を継ごうと熱心に勉強してるのによ、同い年のこいつと来たら」
    「ぼ、ぼくだって、モモの助くんに成績では負けてないからね! こないだのレポートに至っては勝ったし!」
    「へいへい。ほら行くぞ。じゃあなルフィ。晩飯は適当に済ませて帰る」
    「おう!」
     走り去っていく車を見送る。んー……。なんでルフィもエースさんもサボさんも、モテるんだろ。昔から見てるけど、絵にかいたような自由人の集まりなのに。まぁ……わたしも人のこと言えないけど。 

  • 99二次元好きの匿名さん22/11/30(水) 00:37:49

    とても初心者とは思えん熱量と技量だな

  • 100スレを建てた二次創作初心者22/11/30(水) 00:46:19

     身軽になったルフィは目に見えて元気になって。 
    「お! 港だ!」 
     っと、写真を一枚とって走り出す。
     当然ながら、海の傍でも生活している人がいる。この事実を目の前にして初めて実感した。
     すごいなぁ、生活の傍に海があるって。
     ルフィはこれからこういう実感をいっぱいしていくんだろうなぁ。
    「ウター! ここで海鮮丼食えるってよ!! 市場の海鮮丼だー!!!」
    「まずは食べ物か……もう。うん! じゃあ食べよっか」
     

     ひとしきり港を楽しみつくしたなぁと思った頃には、太陽は海の向こうに沈もうとしていた。世界って広いんだなぁ。海の向こうが全然見えない。果てがどこまでも遠い。
     そんな景色を眺めながら、わたしたちは駅を目指して歩く。 
    「なぁウタ」
    「ん?」
    「……おれ、恋人がすること、わかるように頑張るって言ったの、覚えてるか?」
    「うん」
    「……わりっ、ウタ。一か月もほったらかしにして」
    「えっ」
     突然足を止めたルフィ。横に立つわたしを優しい目で見下ろす。あ、そういえば、ルフィの方が背が高いんだっけ。あんまり変わらないけど、こういう時……こういう、とき。
     頬に手を添えられて。
    「気づいてたけど、どうしたら良いかわかんなくてよ……でも、このままじゃだめだってのはわかったんだ、ウタの勇気、無駄にしちまうから」
    「うん……」
    「泣き虫だな、ウタ」
    「うっさいよ」
     わたしが年上として、生意気な年下の口を塞いでやったんだ。

  • 101スレを建てた二次創作初心者22/11/30(水) 01:02:21

     踵を地面に戻すとぽかんと呆けた顔している顔が目に入って、ざまぁ見ろって笑う。簡単にかっこつけさせてあげないんだから。
    「ししっ、ルフィ、キスできると思った? 残念、ルフィの初めてはわたしに奪われる、でした~」
     手をワキワキさせて全力で煽って。
    「あーさいっこうっ。ほら、帰るよ」
    「……おうっ。ししっ、ウタ、ほんとうにおれのこと好きだなぁ」
    「ルフィがわたしのこと好きなんでしょ」
    「そうだぞ」
    「……そういう返し、ほんとうにズルい」
    「でた、負け惜しみぃ」
    「あ、それわたしのやつ!!!」
     ……気づいた。
     わたし、ちょっと不安になってた。
     ルフィとちゃんと、恋人になれるか。
     関係の名前だけ変わって、結局何も変わらない。幼馴染の友達の延長戦で終わる。そんな、もやっとする予感。でも……ルフィ。
    「ねぇルフィ」
    「お?」
    「ありがと」
     ルフィは、思ったよりもずっとちゃんと、わたしとの関係のこと、考えていてくれた。
    「……だいすき」
    「ん? 何か言ったか」
    「大好きって言ったの」
    「そうか。おれも大好きだぞ、ウタのこと」
    「うん!」
     日は沈んでいく。夜と昼が同居する時間。黄昏の向こう側でもつないだ手から伝わる温かさが教えてくれる。彼の存在を教えてくれる。
    「今日の夕飯、何が良い?」
    「んー。肉ー!!!」
    「はいはい。いつもそれじゃん」

    ~おまけ(本編に入れられなかったエピソード・夏休み編) 完~

  • 102スレを建てた二次創作初心者22/11/30(水) 01:21:24

    おまけのおまけ

     「うん……そんなの、ルフィとね……うん。ふふっ、ふふふふふ……ごめん、ちゃんと配信できるかな今日。明日落ち着いてから改めてにしようか」
     そろそろルフィも上がってくるし。
    「え? 続けて良いの? じゃあ、うん。このまま配信するね。そうだ、来週には新曲出すね。ん? 新曲の話より初キスの話? え、一応わたし、メインは歌なんだけど。恋バナ系チャンネル? えーもう。歌います!」
    「お、ウタ、歌うのか」
    「ルフィ!」
     もう上がってきたの……。あとで一緒に入りなおそう。ちゃんと洗いなおす。って、今配信中!
    『スペシャルゲスト来たー』『サプライズありがとうウタちゃん』
    「ち、ちが、呼んでない」
    「お、ウタ配信してるのか。よっ。久しぶりだな。ん? あー、チューの話か。そうだな~ウタのやつな」
    「もー!!! ルフィ―!!!」

  • 103二次元好きの匿名さん22/11/30(水) 01:24:58

    描写が綺麗で雰囲気がモロに伝わってくる感じが最高だった
    素晴らしいssをありがとう

  • 104103 22/11/30(水) 01:36:15

    レスしてから気づいたけどおまけのおまけも書いてくれるのか!
    ありがたすぎるし最高すぎる

  • 105スレを建てた二次創作初心者22/11/30(水) 02:18:58

     配信が終わってわたしはルフィを風呂に放り込んだ。
    「早すぎるんだよ。髪洗った? 脇は? 足の指の間は? 足の裏は?」
    「洗ったよ。ってウタ」
    「うるさいなぁ。恋人なら別に一緒にお風呂なんて変じゃないでしょ!」
    「それで一回シャンクスと喧嘩しただろ!」
    「シャンクスは今は時差九時間あるところ! 百獣グループと万国グループが共同出資する事業についてなんかぶつぶつ言ってたよ!」
    「ふーん大変そうだな。ってウタ、前は自分で洗う!」
    「うっさい!」
     自分が何をやったかに気づくのはお風呂に上がってからである。
     
     
     「しかしなぁウタ」
    「ん?」
     湯舟に一緒に浸かってる。ルフィの視線にも表情にも怪しい雰囲気はない。なんかこう、熱のある視線とか、舐めるような目の動きとか、あっても良いと思うんだけど、カラッとしてるのだ。ルフィの年頃ってそういうことばかり考えるものじゃないのかな?
     ……って、そういうこと考えているわたしがその、やりたがっているみたいじゃないか。
    「むー」
    「なんだよ」
    「余裕そうな顔がムカつく」
    「……ウタ」
    「なに」
     ルフィは自分の胸を指さす。
    「触ってみろ」
    「え?」
     恐る恐る触れてみると……硬い胸板から感じる、生きていることを証明する音。鼓動が一秒に一回と考えても、明らかに速い。ドクっドクッドクッと。手に確かに伝わってくる。
    「え……」
    「わかっただろ。おれは上がるからな」
     ……え?
     浴室の扉が閉まる。……ふふっ
    「ふふふふふ!」
     叫び出したいのをぐっと堪える……ふふふふふ! 

  • 106スレを建てた二次創作初心者22/11/30(水) 03:23:49

     どうしようかなぁ……いっそこっちから……うーん……そもそもわたしはやりたいのか……いや、ルフィから手を出してくれるのなら喜んでだけど……うん、正直、うん、それくらいの気持ちはある。
     ルフィがわたしに対してドキドキしてくれているのがわかった。これは大きな収穫だ。
     どうしたらそういう流れに持っていけるか。これは考える価値のあることだ。
     わたし自身、スタイルにはかなりの自信がある。
     何というかこう……ルフィにはちょっとばかりわたしに溺れてもらいたい欲はあるんだ。
    「うん。よし。答えが出た」
     わたし、ルフィとそういうことしたいんだ。

     
     そうと決まれば追撃しない手はない。着替えて髪を乾かして部屋に向かうと、やはりルフィはわたしの部屋にいるらしい。あー、良かった。無意識のわたしがなかなかきわどいパジャマを選んでいるではないか。下着も可愛いのつけてるし。ふふん。今日でも良いよルフィ……。
    「くかー」
     ……寝てるし。
     油断してるなぁ、このやろ。
     焦らなくて良いか。
     だってルフィが帰ってくるのは、わたしだもん。焦らなくて良いんだ。
     きっといつか、その時が来るんだよ。
    「うん。寝よう。今日はいっぱい遊んで疲れたし」
     ベッドに横になればすぐに疲れが心地の良い眠気を呼び起こし誘う。
    「……おやすみ、ルフィ」
     次の日、ルフィは、ウタに強く抱きしめられた衝撃で起きることになった。
    「あちー。苦しい、ウタぁ……」

    ~おまけのおまけ~でした。完

  • 107スレを建てた二次創作初心者22/11/30(水) 03:25:15

    仮にさらにおまけを足すとしたらそれはもう蛇足編と呼ぶかもしれない。これは僕だけかもしれないけど、100超えると200まで使い切りたくなる

  • 108スレを建てた二次創作初心者22/11/30(水) 04:31:36

    ~蛇足編~

     夏休みが明けると、三年生の教室は一気に雰囲気が変わると聞いていたが。まさかここまでとは。
     休み時間に先生の目を盗んで取り出されていたスマホが参考書に変わり。聞こえてくる雑談が英単語に変わる。
    「……んー」
     そんな中でわたしは悩んでいた。進学するか、それともこのまま動画活動を本格化させて歌手としてのデビューを狙っていくか。
     進学するとしたら音大が良いなと思っている。今後の歌手活動のためにも、ちゃんとした環境で音楽のことを勉強するのは魅力的な選択だ。海外留学でさらに深く学ぶための道もある。
     ただ……。
    「ごめんルフィ、ちょっと寄るところあってさ」
    「おう、今日はどうする」
    「んー。話終わったら帰るからさ、うちで待ってて。あ、でも夕飯は先に済ませててよ」
    「わかった。じゃあマキノのところで食ってからウタんち行くわ」
    「うん」
     わたしが足を向けた先はゴードンの家だ。
     呼び鈴を鳴らすと、すぐに扉が開かれる。
    「急に来てごめん」
    「構わない。君が来るということは、何か悩んでいるのだろう」
    「うん……ゴードンに聞いて良いことなのかわからないけど」
    「良いさ。今でも私は君の先生のつもりだ。気にせず話したまえ」
    「そう……単刀直入に聞くけど、わたしがもし音大に受験したら、合格すると思う?」
    「……多少、受験に向けての練習は必要だろうが、演奏技術、歌唱技術、どれをとっても音大の受験程度なら突破できる。これは君の動画や配信を見ての判断だ。特に配信、生放送であれだけできるのならば本番の受験も問題なく突破できるだろう。コンクールから離れても、演奏という行為と真剣に向き合ってきたのが伝わってくる」
     まぁ……音楽自体は好きだった。燃え尽きながらも捨てきれなかった。わたしの足掻きみたいなもの。というか。
    「え、ゴードン、あれ見てるの」
    「あぁ」
    「……あぁ……うん」
     まぁいいや。

  • 109二次元好きの匿名さん22/11/30(水) 04:48:15

    おかわりがいただけるんれすか!!
    蛇足なんてなんぼあってもうれしいれすからね!!
    進路編たのしみれす!!

  • 110二次元好きの匿名さん22/11/30(水) 08:07:45

    こういうのは読める限り読みたいしね。

  • 111二次元好きの匿名さん22/11/30(水) 15:05:38

  • 112スレを建てた二次創作初心者22/11/30(水) 16:17:46

     「君がもしその気があるというのであれば、また私の方で指導をしよう。どの大学のどの学科を受けるのか。それと……」
    「それと?」
    「ひとつ、大きなコンクールに出ることを考えてもらいたい」
    「え」
    「大きなコンクールでの受賞歴は、音大においての君への待遇を早くからより良いものとする。良くも悪くも実力社会。君の過去の経歴を知っている者も多かろうが、所詮は過去。きみは四年もの間音楽界から去っていたのだ」
     思わず息を飲んだ。コンクール……きっと、受験よりも難しいことだ。
    「受賞歴は何よりもの実力の証明になる。残念ながら君のその場での演奏よりも間違いなく注目されるもの。そして未だに君の存在は忘れられていない。君の動画投稿活動が始まってからというもの、現在の君の詳しい状況を知ろうと、私のもとにかなりの量の連絡が来た」
    「あ……すいません」
     わたしはゴードンの数少ない愛弟子としても注目されていたことを思い出した。
    「責めているわけではない。音楽界には君の存在を覚えている者も多いというだけだ。高校三年生になった君がコンクールに出たとなれば、音大の教授たちも間違いなく注目するということでもある……君の好きな道を選ぶと良い。学科も含めて」
    「はい!」
    「心が決まったら来ると良い。だが、コンクールに出るとなれば急いだ方が良い。私がレッスンしよう」
    「ありがとうございます!」
    「それと、これを渡しておく。もし君が音大に進むのであれば、ここをおすすめしたい」
    「これは……私立エレジア音楽大学……?」
    「私の母校だ。私はここで多くのことを学んだ。今もその学びは活きている。わたしは、君が今後、歌手活動を続けていくために、音大で学ぶ選択を真剣に考えていることを嬉しく思う。そしてそのために自分の実力を私に確かめに来たこともだ。君が天狗になっていないことの何よりの証明だ。だからこそ私はこの大学を勧めた」
    「……ありがとうございます!」
     期待されている。
     わたしは知らないうちに、色んな期待を背負っている。
     重いか……ううん。わたしの隣には、彼がいる。ルフィがいる。なら、何も恐れない。彼もまた、夢を追いかけているんだ。わたしが立ち止まっていたら、あっという間に置いて行かれる!

  • 113二次元好きの匿名さん22/12/01(木) 00:28:13

    >>107

    是非200まで描き続けてください!

  • 114二次元好きの匿名さん22/12/01(木) 00:30:47

    200まで書いてくれるのか!!ありがてぇ…!!
    語彙力なくてあまり感想コメ書けてないけど楽しませてもらってます!

  • 115スレを建てた二次創作初心者22/12/01(木) 01:12:50

     「……ふふっ」
    「ウタ?」
    「……正直、怖いけど……でも、わたしの目指す先に行くための戦いなのなら」
     ルフィの真剣な瞳を知っている。本気を知っている。拘りを知っている。 
    「ゴードン。わたしに、音楽を教えて!」
    「良いとも。君の才能をまた伸ばせるのは、私としても光栄だ」
    「ありがとう……ゴードン」
     変わらない、静かな笑み。音楽を愛し、音楽に愛された。音楽に人生を捧げることを決意している者の笑み。
    「わたしに、音楽を教えて……ください!」
     もう一度。深く頭を下げた。最大限の敬意を。


     「ただいまー」
     それから今後の方針として、目指す学科はピアノにした。声楽の授業も一応取れるし、わたしほどなら、声楽の教授に頼めば面倒を見てくれるかもしれないと。それから出るコンクールを決めて、その課題曲を確認して。
    「おう、ウタ。マキノがオードブル? だってよ。一緒に食おうぜ」
    「え、ルフィ、先に食べててって」
    「やっぱりウタと食いてぇって言ったらマキノが作ってくれた」
    「今度お礼言わなきゃ」
     マキノ。近くで定食屋兼居酒屋を経営している女店主。シャンクスやルフィのおじいちゃんに頼まれてわたしやルフィ、エースさんやサボさんの食事の面倒見てくれている。コアラさんのバイト先でもある。
     一応シャンクスが毎月食費を包んでるとは聞いているけど。
    「良いんですか? わたしたちなんかの面倒見て」
     施設から引き取られてすぐの頃、そう聞いたことがある。するとマキノさんは柔らかく笑って。
    「そういう言い方しないの。そういう悲しい言い方。『なんか』って言っちゃダメ」
     と言ったんだ。

  • 116スレを建てた二次創作初心者22/12/01(木) 01:13:18

    やっと腰を落ち着けられたので今夜も書いていきますかね

  • 117スレを建てた二次創作初心者22/12/01(木) 01:34:13

     「そうねぇ、今のウタちゃんが納得できるような言い方をするとね、ウタちゃんの今のお父さんと、ルフィのおじいちゃんにお世話になったからだよ」
     その時はそれしか聞けなかったけど、それから何年かして改めて聞いてみたら。シャンクスにはお金に困った時、経営が安定するまで助けてもらったと。ルフィのおじいちゃんのガープさんには居酒屋が強盗に襲われた時に助けてくれたと。強盗がおどしに使ったナイフを目の前でへし折って見せて、隠し持ってた銃、至近距離で撃たれたはずなのに、倒れるどころか、銃弾を掴んで見せてにぃっと笑って拳骨を落としたそうだ。
     ……感謝より恐怖が勝ちそうだな、ルフィのおじいちゃんについては。 
     「でも」とマキノは続ける。
    「あなたた達がどうなっていくのか、わたしは見たいの」
    「え?」
    「何かすごいことを成し遂げて欲しいわけでもない。立派になって欲しいわけでもない。ささやかでも良い。自分がなりたい目標を掴んでいく姿が見たいの」
     と。マキノは静かに笑った。
     そういえば。マキノに言ってなかったなぁ、ルフィと付き合い始めたこと。
    「おいウタ、ぼーっとしてると全部食っちまうぞ」
    「あ、うん。ごめん」
     しかし、流石マキノさん。ちょっと冷めてても美味しいな。
     ルフィの好物とわたしの好物。どっちも入ってるし……ん?
    「ねぇルフィ。わたしと付き合い始めたことって、マキノさん」
    「知ってるぞ。というか今日聞かれた」
    「え?」
    「何で知ってるんだ? って聞いたら、ウタの様子を見てたらわかったって」
    「……あー--!!!」
    「あーウタ、それおれの」
    「しるかー!!!」
     目についた料理を片っ端から口に詰めたわたしは顔を覆う。
    「わたし、そんなに顔に出やすいのかな」
    「知らね! ていうかおれの分の飯ー!!!」
    「悪かったわね! 今から何か作るわよ!!!」
    「なら許す!」
    「むぅ……ごめん」
    「食わせてくれるのなら良い」
     ルフィは食べ物の、特に肉の恨みは重いのだ。

  • 118スレを建てた二次創作初心者22/12/01(木) 01:34:53

    ~番外編~
     「コアラ、もう上がって良いわよ。助かったわ」
    「わかりました。食器片づけたら上がりますね。そういえば、マキノさんに見せましたっけ? ウタちゃんのチャンネル?」
    「チャンネル? なんのこと?」
    「これです。ウタちゃんの動画投稿チャンネル。すごい伸びてるんですよ」
    「へー! すごい! 店閉めたら見てみるね!」
    「えぇ、是非見てみてください」

  • 119スレを建てた二次創作初心者22/12/01(木) 02:01:22

     次の日から早速レッスンが始まった。夕方学校が終わってすぐにゴードンの家に向かって、それから九時過ぎるまで練習。家に帰ってからも自主練をする。そうなると当然。
    「ごめん、ルフィ、一人にしちゃって」
    「んお? 気にすんな。洗濯物、片付けといたぞ。風呂も洗ったからさっさと入れよ」
    「え。え、あ、あんたそんなことできたの?」
    「たりめぇだろ。なんだと思ってるんだ。サボったら飯抜き、ちゃんと畳まなくても飯抜きなんだぞ! エースもサボもひでぇだろ」
    「ふふっ。そうだったんだ」
    「エースはバイトしておれとサボに小遣いくれる。サボは料理。おれは掃除と洗濯、だ」
    「へぇ」
    「今度、サンジから料理習うんだーおれ。留学で学んだ攻めの料理だってよ。できるようになったら食わせてやるよ」 
    「うん、楽しみにしてる」
     ……ルフィにも、支えられてる。
     ここで申し訳ないな、は違う。絶対にやり遂げる。その決意を改めて固めるんだ。
     そんな生活が二か月ほど続いた。そろそろ予選だ。ここを突破すれば、十二月の本選に出れる。
     その間にルフィとは半同棲みたいになっていた。週末限定の泊りだったルフィだけど。家の家事を一手に引き受けてくれた。エースさんやサボさん、コアラさんも時折様子を見に来てくれて。
     あとから知ったシャンクスが大慌てで帰ってきて。ゴードンに挨拶に行った。「金のことをちゃんとするために、やめろとは言わないから、ちゃんと報告しろ」と怒られた。
     コンクールの日が近づく度、夢を見る。
     正確無比ながら、豊かな演奏。
     機械の精密さに内蔵された表現力。
     コンクールは拍手はダメだけど、わたしの演奏のあとは拍手喝采だった。アナウンスの人が三回くらい注意するほどに。でも、それは最初くらいで。
     金賞常連になってくると。コンクールに出た子の保護者、その中でも特に熱心な保護者からは不気味がられるようになる。
     一番上を見れば必ずあるわたしの名前。向けられる白い目。どこからか聞こえる子どもを叱責する声。

  • 120スレを建てた二次創作初心者22/12/01(木) 02:26:47

     落胆した子どもの声。わたしは背を向ける。まだ聞こえる。「あんな子に負けて悔しくないの」と。
    「ウタ君」
    「え」
     カツカツと音を立てて近づいてきたのは、確か審査員の人だっただろうか。あぁ、まただ。
    「おめでとう。君の演奏は本当に素晴らしかった。流石、神父の教えを受けただけのことはある。ゴードン先生にもよろしく伝えておいてくれ」
     まただ。ゴードンとのつながりを作りたい人なんて、音楽界にはいくらでもいる。
     だからまた言われるんだ。先生のおかげで受賞したと。
     ゴードンのおかげでコンクールで受賞できる女。
     どの楽器でも。
     ピアノでも、ヴァイオリンでも。フルートでも。声楽でも。わたしはそうやって、コンクールの場では疎まれる。
     だから逃げ出した。わたしがいない方がきっと、みんな幸せだから。
    「はっ!」
    「大丈夫か?」
    「え?」
    「うなされてたぞ、ウタ」
    「え……」
     目の前に、ルフィの顔があった。近い。真正面、ちょっと顔を前に出せばキスできるくらい。
    「すげー汗だしよ」
    「あ……起きてたの?」
    「いや。ウタの抱きしめる力が強くて起きた」
    「……ごめん」
    「とりあえずシャワー浴びて落ち着けよ。最近大変だからよ、ウタも疲れてるんだ」
    「うん……ごめん」
     温かいお湯が身体を伝い落ちていく。髪乾かすの面倒だけど、頭からかぶって落ち着きたかった。
    「……わたし、大丈夫かな」
     零れた言葉も一緒に、流れてしまえば良いのに。

  • 121二次元好きの匿名さん22/12/01(木) 06:35:59

    続きが楽しみだ

  • 122二次元好きの匿名さん22/12/01(木) 12:39:50

    ほしゅ

  • 123スレを建てた二次創作初心者22/12/01(木) 13:04:59

     「少し休もう」
     ゴードンは唐突にそう言った。コンクールを丁度来週に控えた土曜日。
     いつも通り、最初に通しで演奏した直後だった。
    「今日はもう帰りたまえ。明日も休みだ」
    「え……」
     何か怒らせただろうかと慌てるが、ゴードンの様子はいつもと変わらなくて。
    「いまの演奏は間違いなく、コンクールの予選を突破することのできるほどの演奏だが、すまない……いまの君では、コンクールでこの演奏はできない」
     と、静かに告げて、本当に終わりにするようで楽譜を片付け始める。
    「少し気を楽にして過ごすと良い」
    「え、えと……」
    「今日は終わりだ。明日も休みだ」
     二回も言われて抵抗するなんてできるわけがない。
     ゴードンの家を出る。休日は日が沈むまで練習する日々。まだ日も頂点にすら達していないのに。
     どうしよう、今から配信でもしようか。半日配信とかやってみたかった。でもなぁ、雑談だけで半日とかもたせられる気がしない。
     でもなぁ、最近、配信すらちゃんとできてなかったからなぁ。二か月も配信すらしないって……。SNSの更新だけはしていたのがせめてもの救いか。
    「……うん。まずは今日、配信は絶対にしよう」
     それと……。
     ルフィとちゃんと恋人、しよう。
     風が吹いた。手のひらに吹きかけた息。
    「……夏、終ってたんだ」
     はらりと待った木葉。木々の姿が少し寂しくなっていることに、どうして気づかなかったのだろう。
    「もしもし、ルフィ……今から、デートしようよ」

  • 124二次元好きの匿名さん22/12/01(木) 16:17:52

    良いSSだ
    なんかすごい描写が丁寧でわかりやすいし、あとウタのモノローグが地味にかわいい

  • 125スレを建てた二次創作初心者22/12/01(木) 16:34:43

     「おう、ウタ。練習だったんじゃねーのか?」
    「んー……リフレッシュして来いってさ」
     デートに行こうと言ったらルフィはすぐに、じゃあ駅前で待ってると言ってくれた。
    「リフレッシュか……わかった。じゃあ、今日はウタの好きなところに行こう」
    「良いの?」
    「あぁ。でも、夜だけはおれの行きたいところに付き合ってくれ」
     と言ってにかっとルフィは笑う。え、ルフィ……それって……っていやいや。何を考えているんだわたしは。
    「じゃあ……」
     わたしの行きたいところか。どこだろう……。
    「んー。まずはパンケーキ食べたい」
    「よし、行こう! ついてこい!」
    「えぇ!?」
     

     それから、わたしがしたいことを言うと、ルフィがわたしを連れまわす。そんな時間が続いた。
    「歌いたい気分かな」
    「じゃあカラオケだな」
    「ルフィは贅沢だねぇ、これでも天使の歌声とか言われてたわたしだよ」
    「天使? ウタはウタだろ」
    「アハハ……」
    「まぁ、ウタの歌は好きだけどな」
    「ありがと」
     それから二時間くらいぶっ続けで歌った。ルフィが満足げに聞いていたからよかったけど。
    「良かったの? ルフィは」
    「楽しそうなウタを見てたら満足した」
    「そ、そう」
     何か今日のルフィ……やさしいな。いや、ルフィは基本的に優しいけど……そうだ、紳士的って言えば良いのか。
    「よかったよ。最近のウタ、なんか怖い顔で音楽していたからな」
    「え?」
    「楽しそうに歌ってて、安心した!」 

  • 126スレを建てた二次創作初心者22/12/01(木) 16:48:23

    「わたしはいつでも、楽しんでるよ」
    「そうか? 最近はこんな目をしてすげー怖かったぞ。そんな気負うなよ。ウタがやりたいようにやっているのがおれは一番好きだ!」
     目の端を指で釣り上げさせて、そしてすぐに笑って。
    「やりたいようにやれよ」
    「やりたいようにって……」
    「ウタのファンだってそう言うと思うぞ。だからコンクールのためにしばらく休みますって言っても送り出してくれた」
    「……うん」
     そういえば、そうだった。
    「ウタ、自分のためにやれよ! 自分が楽しいようにやれ! おれはそうやって楽しそうに音楽しているウタが大好きだ!」
     突き出された拳に、そっと拳を合わせた。
    「生意気だなぁ、ルフィは」
    「なんだとー!」
    「でも、ありがと。なんか……元気出た!」
    「ししししっ!」
    「ところでさ、これ、どこに向かってるの?」
    「お?」
     気がつけば家の近くまで戻ってきていた。ルフィが行きたいところって……えっ、やっぱり……ってわたしの頭はピンクか! たしかに赤と白を混ぜたらピンクだけど!!!
    「ここだ!」
    「ん? マキノの店? ……本日貸し切り?」
    「ウタの誕生日、先月だったけど、忙しそうで祝えなかったからな。ウタから電話来て、すぐに連絡したらよ」
    「……誕生日?」
    「まぁ、入れよ」
    「うん」
     店の引き戸に手をかけてガラガラと開いた。

  • 127二次元好きの匿名さん22/12/01(木) 23:18:02

    うーんやっぱこの太陽神。

  • 128スレを建てた二次創作初心者22/12/02(金) 00:20:22

     「え、マジかよ」
    「い、今? 連絡来てたか?」
    「わ、わからないけど、とりあえず、はい、みんなこれ持って。マキノさんも!」
    「はいはーい。あ、待って。これ盛りつけてから」
     という声が、扉の開く音に交じってそれから。三つの破裂音、遅れてもう一つ。
    「「「「ウタ、誕生日おめでとー」」」」
     と。ひらひらとリボンやら花吹雪やらが飛んでくる。
    「「「ルフィ!! ちゃんと連絡しろって言っただろ!!!」」」
    「わりっ、忘れてた」
     見慣れた店の中は、丸テーブルが一つと、それを囲む椅子が六つ。中央にはどんと大きなホイップたっぷりのパンケーキにイチゴソースがかけられて。
     その周りを唐揚げやサラダやピザなどの料理が囲んでいて。
    「わ、わぁ……」
     と思わず声が漏れた。
    「しししっ。みんな! 急なところありがとな!」
    「良いよ。ルフィくんがこういう提案できることに感動したところだったし」
     そう言いながらコアラさんはふふっと笑う。そんなコアラさんの肩にポンと手を置いたサボさんも苦笑して。
    「な?」
     と、エースさんを見る。
    「あぁ。ルフィも大人になったなぁ」
     しみじみとしたエースさんの言葉に、思わず「ふふっ」と笑いが零れる。
    「なんだよひでぇな。飯食おうぜ飯。よしウタ」
    「待ってルフィ、それ」
    「十八本だろ。一息で消せよ」
    「もー……ふーふー」
     一息なんてできるわけがない。ルフィが火を点けていく傍からどんどん消していった。
    「あー、まだ歌ってねーのにー!!」

  • 129スレを建てた二次創作初心者22/12/02(金) 01:34:08

     「歌?」
    「よし、今歌う! はっぴばーすでーうーたーはっぴばーすでーうーたー」
    「ふふっ」
     下手だなぁ。でも……良いな。
     ふと、ルフィに告白するために作った曲のことを思い出した。
     そして思う。
    「……ありがとう、ルフィ……みんなも、ありがとう」
     気づかされた。
     ……うん。
    「おーいウター、ぼーっとしてると全部食っちまうぞ」
    「あ、こら、唐揚げわたしにも食べさせて!」
    「おう、くえ」
    「! ……ありがと」
     大皿ごと差し出されても食べきれないけどさ。
     ルフィが好物の皿から手を放すなんて。
     遠慮なくいただこう。マキノの唐揚げは美味しいんだ。薄い衣をサクッと歯が突き破った瞬間に溢れる肉汁が舌に熱を持って広がって、柔らかい鶏肉の食感を噛み締めればその熱は口の中全体に広がっていく。
     ピザも、厚くモチモチの生地にアツアツのチーズ。耳はサクッとしていて。
    「はふはふ」
     と思わず口を押えてしまう。チーズのとろっとした食感。スモーキーな塩味。マルゲリータ。好きかも。
    「美味しい!」
    「ふふっ、ありがとう。ウタ」
     マキノは料理に手を付けず、わたしたちが食べる姿を静かに眺める。いつもそうだ。シャンクスに誘われてようやく酒の入ったグラスを手に持つくらい。
     それはわたしたちに気を使っているわけでなく、嬉しそうなんだ。
     だからわたしたちは遠慮なくどんどん美味しく食べていく。
    「どんどん食べてね。おかわりも遠慮しなくて良いわよ」
    「よっしゃマキノ! なんだっけ、す、すぺ、スペア」
    「スペアリブ?」
    「それだ! スペアリブ食う!」
    「はーい、ちょっと待っててね」

  • 130スレを建てた二次創作初心者22/12/02(金) 02:07:29

     ひとしきり騒いで食べてゲームして。
     わたしとルフィは今、わたしの家に向かっている。
     重くなったお腹、楽しかった時間にふわふわした心地に揺れながら
    「たのしかったねー、ルフィ」
    「ししししっ。だなっ!」
    「ありがとうねールフィ」
    「良いんだ。ウタの誕生日はちゃんと祝いたかった」
    「ありがとう……ほんとうに」
     ごめんね、って言葉は慌てて飲み込んだ。溢れるのはありがとう。ありがとう。
    「ありがとう。ほんとうに」
     二か月も自分のことばかりで。……たくさん迷惑をかけた。恋人になって一か月で彼氏をほったらかしにしてしまったわたしにこんなにも温かい時間を。
    「ありがとう……るふぃ」


     「落ち着いたか?」
    「うん」
    「配信するんだろ。しっかりしろよ」
    「うん」
    「ウタ、おれこのパソコンを使うことしかわからねぇぞ、どうしたら始められるんだ?」
    「んー……もう少しだけ待って……ルフィ、抱きしめて」
    「おう」
     ……わかる。わかるよ、ゴードン。
     ゴードン……わたしがなにを失っていたか……。
     今日は久しぶりだから雑談配信にしようと思ったけど、やめた……今日は歌配信だ。
     全力で歌おう。今のわたしを……わたしの全てを。

  • 131スレを建てた二次創作初心者22/12/02(金) 02:53:57

     ルフィの腕の中で、目を閉じて。そして……。
     ゴードンの言ったとおりだ。わたし、また負けそうになってた。警告されたのに。ファンの声を真に受けすぎて自分の世界を失いそうになっていた。
     誰かのためにじゃないんだ。誰かの夢を壊さないために逃げ出したわたしはもういない。
     誰かの期待に応えようとして、自分の演奏を失いそうになっていた。自分の世界を捨てようとしていた。それもまた逃げだ。表現者にとって、誰かのためになんて違う……誰かに届けるために……誰かの心に届けるために。それが、わたしの音楽の答え。 
     動画を投稿した時だって……誰にも聞かれることのない曲を、誰かに届けたくて。
     ルフィに告白した時だって。わたしの気持ちを、届けたくて。
     わたしの世界を……わたしの心を……届ける。
    「それがわたしの音楽だから」
     ゴードンの教えだよ。音楽は対話の側面がある。
     ちゃんと覚えていたよ。わたし。

     
     「やぁみんな。ひさしぶり。ウタだよ。きょうはねルフィもいるんだけど……完全な雑談配信のつもりだったけど。歌、歌うよ。いまから。わたしが今まで投稿した曲全部。思い出を振り返りながら」
     息を吸って、吐いた。
    「え? 引退とかじゃないよ。ただ、わたしの心情的に、ここで一回振り返りたいだけ」
     声は出る。喉にも下にも呼吸にも、変な緊張はない。
    「配信と動画投稿はうん。今度の予選突破したらまた頑張って練習しなきゃだから。ごめん、また不定期になる。うん。ありがとう。頑張る。みんなが応援してくれるおかげで、全力でできるよ」
     指は動く。手は、温かい。ルフィのおかげだ。
    「じゃあ、早速。歌うね」
     もう失わない。わたしの音楽。わたしはわたしの音楽を、理解したから。
     届くかな。届くと良いな……届けるんだ。

  • 132二次元好きの匿名さん22/12/02(金) 07:53:41

    やっぱりここで立ち直るのはいいね。

  • 133二次元好きの匿名さん22/12/02(金) 08:58:06

    本編に匹敵する程の素晴らしいSSを出して置きながらコレが蛇足...?

  • 134二次元好きの匿名さん22/12/02(金) 10:28:03

    蛇足とは言えねえよな
    普通に第二部か、もしくは完結編だ

  • 135二次元好きの匿名さん22/12/02(金) 14:53:45

    おはようございます。書いてたらどんどんテンション上がってしまって、想定していたよりも大きな話になってましたね。はい。
    今日はお休みなので、ゆめかわ♡ウタラバーバンド貰いに7回目見てきました。何回見ても、脳が焼ける。家帰ったら続き書きます。地元の映画館、そろそろ公開終了だなこりゃ。

  • 136スレを建てた二次創作初心者22/12/02(金) 18:42:28

     わたしは歌う。わたしは奏でる。
     物足りないな。これだけじゃ。もっともっと、曲を全身で……全力で……届けたい……どうした良いんだろう。
     どうしたら……どうしたら……。
     全身で奏でる。全身で。もっと。もっと。でも優しく。柔らかく。力強さと乱暴さを履き違えないように。そして曲の意味を、伝えたい心を大切にして。
     しっとりした部分はじっくりとじっくりと。
    「あぁ、楽しい。たのしいなぁ」
     自分でもわかるくらいに声が蕩けてる。
    「みんな、まだまだ行くよ。どんどん楽しもう!」
     ふと見れば、ルフィはぱちぱちと手を叩いて喜んでくれている。
     うん。
     これだ。
    「みんなありがとう。急な配信に集まってくれて。聞いてくれて。……わたしを、見つけてくれて!」 
     みんなのおかげで見つけられたわたしの音楽。
     ……そうだ。ダンス。
     ダンスの練習も始めよう。これから。
    「ん? こちらこそありがとうって……うん。どういたしまして。ウタちゃんの歌が毎回楽しみです。ありがとう。これからもどんどん歌っていくから。コンクール頑張ってください。うん。頑張るよ……さて、たくさん歌ったし。そろそろ終わるね……次は予選が終わったらかな。そのときまで。またね」
     配信を閉じる。ちゃんと切れていることを確認して。 
    「ルフィ!」
    「おう。良かったぞ。ウタ」
    「ありがとう……ルフィ、今夜、甘えて良い? 全力で」
    「あぁ。良いぞ」
    「ありがとう。ルフィ……だーいすき。お風呂まではこんでー」
    「おう」
     横抱きにされたから。そのままルフィの頬に口づけをする。とってもちょうどいい位置にあったから。
    「ふふっ」
    「ししっ」
     
     

  • 137スレを建てた二次創作初心者22/12/02(金) 20:47:24

     「ねぇルフィ」
    「ん?」
    「わたし、もう大丈夫、なんて言えないけどさ……きっと乗り越えていけると思えたよ」
     いつもは向かい合わせで浸かるお風呂だけど。今日のわたしは膝の上にいた。
     ぎゅっと全身で包んでもらえる感じがして、もっと温かな気分になれる。
    「ルフィ……いま、わたしね。胸の中が温かいの……この熱が収まらないと……ちょっと寝れないや」
    「おう! 良いぞ! 甘えて良いって言ったからな。なんでも言ってくれ」
    「……ルフィ……そういうこと気軽に言っちゃだーめなんだ」
    「ウタ?」
     振り返ってルフィの身体に絡みついて。ルフィの耳元で柔らかく囁く。自分の身体にはない感触をきっとお互いに感じている。湯気の香りに交じって、少しだけ身体の奥の熱にさらなる疼きを与える香りがした。汗の香りとも違う……男らしさを感じる匂いだ。
    「ねぇルフィのもう一個の初めても、わたしに奪われる方が良い? それとも」
    「? もう一個の初めて?」
    「あー……エースさんもサボさんも……悪い人だなぁ……わたしに奪われたい? それとも、奪いたい? って聞こうとしたけど……そっか……」
    「よくわかんねーけど。恋人同士のすることなんだろ。要は。ならおれは、ウタとちゃんと恋人になりたいからな。ウタ、教えてくれ!」
    「はぅ!」
    「ウタ?」
    「あ、あ、あ」
    「お、おーい、ウタ」
     わたしは静かに立ち上がる。……だめだ、なんか、今のルフィの言葉が、心臓に突き刺さった。なんだろう……危ない香りがする。
    「ど、どうした?」
     このまま突き進んだら、なんか、目覚めそう。それはなんか……うん。まだはやい。というかわたしだって知識しかないんだよー!!!
    「そ、それはい、一緒にゆっくり学んでいこう。うん。明日も休みだから。明日もどこか行こうよ。うん。今日は休もう。おー!」
     わたしは逃げた。   

  • 138二次元好きの匿名さん22/12/02(金) 22:02:02

    逃げるなぁー!卑怯者ー!

  • 139二次元好きの匿名さん22/12/02(金) 22:30:29

    ウタの特技だからな、『逃げる』

  • 140スレを建てた二次創作初心者22/12/03(土) 00:53:52

     ……危なかった……ほんとうにルフィに教えそうになっていた。あれこれを。
     ルフィに知識が無いのは予想外だったんだけど、でも確かにそうだ。何回もお風呂に入っておいてその気配を見せすらしなかった。
     でもなぁ。こう、なに? 本能? 的なので反応しても良いと思うんだけどなぁ……んー。でも、ドキドキはしてたんだよねぇ……。
    「あーもう」
     大事なことが一週間後に控えているのに、頭ぽわぽわし過ぎだって。大事なことを思い出したんだから、この感覚を忘れないうちに。
     髪を乾かして部屋に向かいそうになった足を地下の音楽部屋に向けた。
     明日めい一杯ルフィと楽しむつもりではあるけど。音楽を蔑ろにするわけじゃないんだ。
     それに。
    「ダンスか……」
     可能性を感じてしまった直感。これも無視できない。
    「ふふっ」
     ピアノの上に並んだ楽譜たちに目を向ける。
    「……君たちが生まれてくれたからだよ。ありがとう」
     これらが生まれていなければわたしは見つけられなかった。見つけた楽譜を見てシャンクスが言い出してくれたこと。そもそも最後に生み出したこの曲だって。完成させられたのはルフィのおかげで。
    「ありがとうがいっぱいだね」
     ……ふすぅ。
     ……んー。
     わたしの身体がお礼になるなんて思っていない。昂ってる……気持ちが……そうこれは、わたしがルフィを求めてる……どうしよう。
     ……こんなの……
     ふらふらとした心地で、わたしの部屋で待っていたルフィのもとへ。
    「? どうしたんだウタ」
    「……ルフィ」
    「お?」
     パジャマの上着だけ脱ぎ捨てて、ベッドの上で胡坐をかくルフィに抱き着く。少し驚いたみたいだけど、ルフィはしっかり抱き留めてくれて。涙が一筋零れた。
    「……こんなわたし、ルフィ、いやだよね」
    「? よくわかんねーけど、ウタはウタだ。どんなウタでもおれは受け入れる!」 

  • 141スレを建てた二次創作初心者22/12/03(土) 01:11:29

    「どんなわたしでもって……悪いことしても?」
    「そしたら一緒に謝ろうぜ。ウタがそんなことするなんて思えないけどな」
    「……わたしが音楽なんてもう嫌だって全部投げ出しても?」
    「そん時は一緒に気晴らし行こうぜ。海でも山でも飯でもな」
    「ルフィが好きなやつじゃん」
    「あぁ!」
     ぎゅっとルフィの抱きしめてくれる腕に力がこもった。絶対離さない。全部受け止めると言ってくれているようで。
    「……わたしが、ちょっと……かなり? えっちでも」
    「どんなウタでも受け入れるって言っただろ」
    「……そういうことを軽々しく言うんだもんなぁ」
    「軽々しくねーよ。ウタだからだ」
    「そう」
     腕をほどいてルフィのパジャマを脱がせにかかる。何をするのか戸惑い、少し身じろぎしたがすぐにルフィは堂々とわたしにされるがままになって。
    「……ルフィ、嫌だったら、言ってね」
    「ししししっ、大丈夫だ」
     何されるかわかってないだろうに。よく言えるよなぁ。でも。いつもなら「なんで服脱ぐんだ?」とか「なんで脱がせるんだ?」とか聞いているだろう。
    「ありがとう、ルフィ」

     朝になって手近な服を引き寄せて身にまとった。
     ……力尽きて寝てしまった。シャワー浴びて……。
    「ふふっ」
     シャワー浴びて。音楽したい。
     それからルフィを起こして一緒に朝ごはん食べて。一緒にお出かけするんだ。それから……夜になったら……もう一回……。
    「え……?」
     わたしって……意外と……? 頭を振った。ふふっ。
    「がんばろ、コンクール」
     いっぺんの曇りのない気持ちでわたしはそう言えた。

  • 142スレを建てた二次創作初心者22/12/03(土) 02:01:28

     コンクールの当日を迎えた。 
     プログラム表に自分の名前が載っているのを確認して、控室に入る。
     入った瞬間に集まる視線は、わたしがまだ忘れられていないことを示していた。
     機械仕掛けの表現者。神父の秘蔵っ子。
     ここに来るまでも、ひそひそとわたしの噂をする声が聞こえた。
    「最近動画活動も始めたらしいわよ」
    「顔出ししてないけど、先生たちも間違いなくあの子だって」
    「やーねー、目立ちたがり屋かしら」
    「コネでまたのし上がる気なのかしらね」
     一緒に来てくれたルフィとエースがぐっと一歩踏み出そうとして。
    「やめなさい、二人とも。サボくんも、わかってるね?」
     と、言いながらコアラさんが二人の腕の関節を極めていた。
    「ルフィ、わたしを信じてる?」
    「あぁ」
    「なら、どんと構えててよ。ね?」
    「……わかった」
     いやはや。まったく。
     わたしは良いけど、ゴードンまで悪く言われてるとは。わたしが目立ちすぎて都合悪くなったからトカゲのしっぽ切りって、突拍子のないことこの上ないよ。 
     まぁいいや。
     わたしの演奏があれば、みんな黙らせられる。
     あぁ、どうしよう。歌い出したい気分だ。これよりはじまるは音楽の新時代。私は最強ってね。
     名前が呼ばれた。ステージ袖から真っ直ぐに観客の前へ。優雅にお辞儀する。
     さぁ、ステージの照明の眩しさ。逆光の向こうに見えるわたしを見ろ。
     同じ演奏続きで飽きてきた頃でしょう。泡沫のように次々と現れては奏でられる演奏が子守唄に変わってきた頃でしょう。
     でももう大丈夫。
     奏でるよわたしの世界の続き。
     追いかけてよ私の起こす風のゆくえ。
     ルフィ、見つけた。ふふん。わたしの言った通り、どんと構えてる。かと思ったらエースさんに肘でどつかれて起こされていた。零れる笑みは堪えておこう。厳粛なコンクールの場だって審査員の人に怒られちゃう。
     指は動く。視界はクリア。鍵盤に指をかけた。

  • 143二次元好きの匿名さん22/12/03(土) 08:55:49

    曲名が散りばめられててウルっときた

  • 144二次元好きの匿名さん22/12/03(土) 09:35:40

    いいぞーやったれー! 観客たちの度肝を抜いてやれー!

  • 145スレを建てた二次創作初心者22/12/03(土) 16:32:59

     さぁ、弾こう。はやる気持ちをもっと昂らせて。
     一音一音に、確かに魂が宿っている。
     もっと、もっと、もっと……音すらも、自分が奏でる音すらも遠くなっていく。でも怖くない。どんな音なのかは心の中にある。
     あぁ、ミスったなぁ。ルフィにわたしのドレス姿の感想、聞きそびれた。シャンクスが送ってくれた白いドレス。黒いリボンが良い感じにシンプルイズベストって感じで好きなんだけどなぁ。あとで締め上げて聞き出さなきゃ。
     どうかな。届いているかな……ううん。届いてる。きっと。
     ふふっ。
     楽しいなぁ。
     もう終わっちゃう。曲が。
     もっと弾いていたい。ぶっ倒れるまで。足りないよ。物足りない。
     あぁ。でも。
     最後の一音、ちゃんと決まったね……さいっこう。
     拍手はない。けれどみんな、呆けてるなぁ。良かったでしょ。わたしの演奏。
     ……ん? パチパチパチと聞こえる。拍手が聞こえる。あ……ルフィが思いっきり手を叩いていた。エースさんもサボさんも叩いていて、コアラさんが周りの人にペコペコしながら止めてる。でも。ちらっと手を振ってくれて。
    「ふふっ」
     うん。今はそれだけで満足だよ。


     ホールの外に出る。あぁ、新鮮な空気。ホール内の少し埃っぽくて静かな空気も好きだけどさ。
     演奏は続いているからあまり人はいない。ルフィ達もすぐに出てくるかな。喉乾いたなぁ。タオルも欲しい。汗かいた。着替えてから出てくればよかったなぁ。
    「ウタ」
    「え? ……ゴードン! どうして!」
     自分が行くと目立つから、公正な評価を妨げるからと、わたしのコンクールには行かないって。
    「すぐに帰る……素晴らしい演奏だった。ちゃんと掴んだものをものにしたようだ」
    「……はい!」
    「本選の課題曲の楽譜だ。目を通しておくように」
    「はい」
     楽譜と一緒に、水のペットボトルも渡してくれる。
    「ありがとう、ゴードン」
    「あぁ……次のレッスンは明後日からだ」
    「うん!」

  • 146スレを建てた二次創作初心者22/12/03(土) 20:44:46

     まったく、ゴードンは……気が早いっての。でも。わたし多分、一番の演奏、できたよ!
    「おう、ウタ。お疲れ」
    「ルフィ!」
    「おっと」
    「わわっ、ごめん」
     思わず抱き着いてしまった。しっかり受け止めてくれるとは思ってたけどさ。
    「ルフィ……わたし、頑張ったよ!」
    「あぁ、見てた」
    「このドレス、どうかな!」
    「きれいだぞ!」
    「そっか……へへ」
    「あーこほん。ふたりとも」
     ん? と思いながら目を向けるとコアラさんが困った顔で立っている。
    「あー……それ以上は、家でやってね」
     という言葉に視線を戻すと、ルフィの顔がもう目の前で。
    「あぅ! ご、ごめん」
    「なんだー? ウタ、チュー好きだからな。したいならよかったのに」
    「そういうことは人前であまりするものじゃないの」
    「そーなのか?」
    「おれたちに振るな」
     エースさんとサボさんが手でばってん。情けないお兄さんからコアラさんにルフィの目は戻って。やれやれと笑ったコアラさんは。
    「大事な人との大事なことは誰にも見られないところで大事にしなさい」
    「ふーん。そういうもんか。わかった」
    「よろしい」
    「コアラはサボと大事なことしてるのか? ぐへっ、へぐっ」
     コアラさんの空手歴十年仕込みの正拳突きとサボさんの数多の不良を成敗してきたキックがルフィの鳩尾と顔面にそれぞれ炸裂した。
    「いってーな。何するんだ」
    「なんでそれで済むのさ、ルフィは」
    「そういうことは人に聞かないの。良い? わかった?」
    「はーい」

  • 147二次元好きの匿名さん22/12/04(日) 00:51:58

    このスレは……落ちちゃなんねェ……(保守)

  • 148スレを建てた二次創作初心者22/12/04(日) 01:04:09

     それから十二月のとある音楽雑誌の電子版にて。
    「復活のプリンセス、音楽会に新時代を。自信に満ちた笑みと共にエレジア国際ジュニアピアノコンクール金賞。中学二年生以来二度目」という記事が掲載された。
     
     そんな記事はそっと閉じて。はい、配信スタート。  
    「ねぇみんな。クリスマスってどうすれば良いと思う? やっぱデートだよね。どんなデートすれば良いかな。うんうん。あ、十二月二十四日、わたしのクリスマスソング上げるから待っててね。え? そんなことよりデートしなよ? そんなことだとー。ふふっ。まぁとにかく。ん? うん。うまくいってるよ。ルフィ、優しいもん」
     わたしは動き出しが遅かったから、推薦入試の時期はとっくに過ぎていたから、入試は一般の前期で受けることにした。国語と英語をちゃんと頑張って、実技試験でミスらなければ大丈夫だろうとゴードンは言うし、わたしもそう思う。まぁわたし、もともと成績は良いし。
     まぁその前に、共通テストか。いや、そんなことよりクリスマスだ。ルフィの奴、受験勉強の邪魔にならないように、コンクールが終わった途端に半同棲を解消して、掃除と洗濯だけして夜は帰るようになりやがったんだ。こっちはもう、色々大変なのに!!!
     ルフィとお風呂入りたい!! ルフィと一緒に寝たい!!
     一人でいる家って、意外と広いんだなぁ……ベッド、こんなに余裕あったけ……湯舟って足、伸ばせるんだ……。
     ……ルフィは悶々としないのかなぁ。
    「よし、わかった。次の配信はクリスマスの作戦会議しよう。じゃあ配信の締めに一曲歌うね」
     気になるな……なんかこれじゃあ、わたし……えっちみたいじゃん。


     わたし、コアラは今、とっても困っている。
     サボくんの弟のルフィくんがいま、うちに来ているんだけど。
    「コアラ! 教えてくれ! どうしたらウタをリード? できる」
     と真剣な顔で聞いてくるんだ。
    「え、なんでわたし?」
    「女は何が嬉しいか、知りたいからだ! おれ、ウタをリードしてみてぇ!」

    ~蛇足編・完~

  • 149スレを建てた二次創作初心者22/12/04(日) 01:05:42

    蛇足編の次は……付足編かな。付足編と呼ぼう。

  • 150スレを建てた二次創作初心者22/12/04(日) 01:15:09

    ~付足編~

     「えーっとねルフィくん。わたしに聞かれてもなぁ」
    「コアラがダメならマキノに聞く!」
    「んーそれも止めたいなぁ」
     どうしよう。これ。えー、サボくん助けて……一切悪気無いのがわかるのがすごく厄介。あれこれ教えて助けてあげたくなるけどごめん恥ずかしい。でもルフィくんめっちゃ真剣。……え、まって。すごく気になってきた。うん。聞くだけ聞いてみよう。
    「えーっと、ルフィくん。いやなら答えなくて良いんだけど。うん。一応確認なんだけど、ウタちゃんとはその……したん、だよね」
    「おう!」
    「どんな、感じにしてるの? ほ、ほら、どんな風にしてるのか知らないと教えよう無いからさ」
    「基本的にウタが全部やってくれる。でもおれ、ちゃんと恋人になるって決めてるから。ウタにばっかやらせるのはいやだ!」
     ……すごくいい子だな。うん。
    「おれの手でウタを気持ちよくしてやりてぇ」
     ……多分ウタちゃん、楽しめてるよ。ルフィくんが気にするまでもなく。とは言わない方が良いな。
    「んー」
     しかしながらどうしよう。教えることはできても……それはなぁ……わたしもルフィくんも浮気になる……かといってサボくんに回すのも、多分、一番近くにいる兄二人に頼るのは、ルフィくん的に違うのだろう。だからわたしのところに来た。……よし。
    「ルフィくん」
    「おう」
    「ウタちゃんに聞きなさい」
    「それはいやだ」
    「なんで」
    「ウタに教えてもらうんじゃ意味がねぇ、おれが身に着けていかなければだめだ」
    「それは違うんだよ。ウタちゃんと、ちゃんとコミュニケーションをするの」

  • 151二次創作初心者22/12/04(日) 02:39:40

    「何が違うんだ?」
    「んー……相手の反応を見ながら……ほら、ルフィくんもあるでしょ、サボくんやわたし、エースくんと一緒に不良狩りしてた時。相手の動きとかさ、視線の動きとか、気配の変化に合わせて攻撃を変えたり避けたり防御したり。それと一緒なの。ウタちゃんの反応を見るんだよ」
    「反応を……」
     ルフィは思い起こす。
    「確かに、何か探るようにしていたような」
    「う……うん」
    「こう、ぐりぐりと位置を調整して……もしかしておれの反応だけじゃなくて、ウタも……」
    「ま。まって。うん。わたしから言えるのはそれだけだから。がんばってー!」
     大真面目に話されると恥ずかしい。
    「おう。ありがとな、コアラ」 
     部屋を出ていくルフィを見送って、はぁ、と一息。
    「……サボくんよぼ」
     

     クリスマスはちょうど来週。
     さぁ配信だ。
    「うん。なんかルフィ、なにか真面目に悩んでてさ。うん……負けたくないなぁ……誕生日もうれしいサプライズされちゃったし……あ、その話してなかったか。って、惚気てばかりだね。よし、一曲。え? メインコンテンツだから良いぞ? わたしのメインコンテンツは歌だよ!!!」
     
     
     「なによルフィ、急に呼び出してくれちゃって……って、あんたにしては神妙な顔ね。良いわ、話くらいは聞いてあげる」
    「おう、ナミ。頼みがある」
    「先輩を付けなさい、先輩を。まぁ、話しくらいは聞いてあげるけど」
     この生意気な後輩には大きな恩がある。口ではああ言ったけど、多少の面倒ごとくらいは引き受けてやるつもりだ。
     大好きな姉も、天涯孤独だったわたしを引き取ってくれた母親も、助けられた。
     優秀な刑事である母親だけど、その分、逆恨みされる機会も多くて。
     三人で出かけていた時、襲われた。わたしを庇った母、ベルメールさん。どうにか止めようとする姉、ノジコ。怖くて動けないわたし。 

  • 152スレを建てた二次創作初心者22/12/04(日) 02:53:38

     そう、ちょうど、今日のようにクリスマスが来週だって日の昼間のショッピングセンターだったな。去年の話。
     周りの人も悲鳴を上げるだけで、助けに入ろうとしなくて。腕と足から血を流したベルメールさんは、それでもわたしたちの前に庇うように前に出た。
    「娘たちにはてを出させないわ」
     と、いつもの調子で言うんだ。
     わたしたちを襲った男は不気味に笑いながら、サバイバルナイフを振り上げて。
    「やめろー!!!」
     と、割って入った男の子に殴り飛ばされた。
    「よくわかんねーけど、おばさんは下がってろ。おいおまえ!! おれが相手だ!!!」
     ナイフが見えてないのか、それとも全く怖くないのか、その男の子は拳を前に構え、ナイフを構え立ち上がった男に対峙して。そして。一方的に殴り倒した。
    「おいルフィ、って加勢はいらねぇか」
    「おうエース! こういう時ってあとはどうすりゃいいんだ?」
    「あ? あー……とりあえず吊るすか。そこの吹き抜けに。客に見えるようによ」
    「いいなそれ、落書きもするか?」
    「お、サボ、油性ペン持ってるか? よし、ウタ、これでロープ買ってこい」
    「警察でしょ!! あんたたち!!! どこの蛮族よ!!! 110番!!!」
     思わず叫んでしまったけど、もう誰かが呼んでいたみたいで。ルフィが拘束していた男は警察に引き渡された。ベルメールさんも救急隊に連れていかれて。わたしたちはその付き添いで。お礼を言う暇もなくその場を離れることになった。だから驚いた、同じ高校に入学してくるなんて。
    「ね、ねぇあんた。覚えてる? わたしのこと」
    「ん? おーこないだの。おばさんは大丈夫だったか?」
     と、春休み明け、そいつは恩着せがましい態度なんて一切しなくて。そういえば警察の人も。事情を聞こうとしたら逃げられたと言っていた。だから連絡が取れなくてわたしたちは困っていた。一年生のクラス分けの発表の紙を見に行った時にたまたま見つけた、ルフィの名前でもしかしてと思ったら。
     エース、サボ、ウタ。はどれも先輩だったし、当時はちょっと怖かったけど。ルフィは何か大丈夫な気がしたんだ。まぁ、エースもサボも、気の良い兄貴肌って感じの人だし。ウタはちょっと天然入ってる妹って感じだけどさ。

  • 153スレを建てた二次創作初心者22/12/04(日) 03:17:41

     「んで、何の用?」
     物思いに耽り過ぎたな。こいつは気づかないだろ、こんな寒いのにわざわざここまで来てる時点で、用事は引き受けるつもりだって。
    「ウタのクリスマスプレゼントを買いてぇ」
     やっぱりか。
    「よし、わかった。じゃあ店行こっか」
    「お! 協力してくれるのか! ありがとな!」
    「どういたしまして。これで少しは尊敬したなら、先輩をつけなさい
    「頼んだぞ! ナミ!」
    「はいはい。ついでにデートコースになりそうな店も少しは覚えていきなさい。基本的なエスコートもできない男なんて情けないわよ」
    「お! そこも教えてくれるのか。助かる!」
    「ふっ、まぁ任せときなさい」
     あんたの彼氏、少し借りるわよ、ウタ。



     配信を切って、音楽部屋で寝っ転がって、来週に向けて準備してるクリスマスソングについて考えていた。
     本来は配信する日じゃないけど、最近全然できていなかったから、なるべくその埋め合わせという感じで配信している。今までの曲のギターアレンジとかの動画を投稿していた。
    「何かなぁ」
     基本的なメロディはできているから、あとは細部を詰めていくだけなんだけど。あと歌詞。
     時間はあまりないけど、何か足りない気がする。わたしの音楽の本能がそう言っている。
    「んー」
     もっと広がりを持たせたいって言うか。わたしがやりたいことをするにはそもそも材料が足りてないような……。
    「んー……んんんんんん!」
     うん……そうか、そういうことか。
    「ルフィ! はなんか予定あるって言ってたし……ゴードン! は、今コンサートで海外か……シャンクスは年末で忙しいし……んー一旦わたしの声で我慢するか」
     と思ったら電話が来た。
    「もしもし。ルフィ、どうしたの? え、今から行くって? 久々に泊る? うん。それは歓迎だけど」
     わざわざ連絡くれるなんてね。
    「ふふっ」

  • 154スレを建てた二次創作初心者22/12/04(日) 04:43:16

     「そう、それで良いの。って、今から行くって……あんたわたしの話聞いてた?」
    「んー。もっとこいつで連絡しろってのはわかったけど、やっぱ顔は見たいからな!」
    「……そう……まぁ、それはそれでウタは嬉しいだろうけど……」
     目の前で電話を終えたルフィを見やりながらマグカップを傾ける。
     プレゼントはルフィが出した候補を片っ端から叩き切った。すごい手間だった。なんでこいつ、ダンベルとかハンドグリップを候補に挙げるのよ。
     あとはショッピングセンター内、あとはその周辺のデートスポットになり得る場所は思いつく限り教えたし。
     なにより。
    「ルフィ、恋人ってのはねぇ、無駄を楽しむのよ」
    「? ウタとの時間に無駄なんてねーぞ」
    「そう、わかってるじゃない。ならもっと、会いに行くのは良いけど、電話とかしなさい。メッセージで日常的な連絡しかしないなんて。いや、あんたらは常に一緒にいるからする機会が少ないんだろうけど。夜寝る前に電話とかしてみなさいよ。そういうささやかな時間も楽しみなさい。無駄話でも、用事が無くてもとりあえず連絡してみるの」
    「おう」
    「あとはデートでも、こうやって向かい合わせに座るんじゃなくて、隣に座ってみなさい。あとはそうねぇ、いや……うん。まぁ、あんたが思ったよりちゃんと恋人しようとしてて安心したわ」
     自分でも思ったより、からっと笑顔ができた。ルフィもそれにニカっと笑って。
    「ナミ、おまえ。やっぱ良い奴だな。ししししっ」
    「ふん。わかったのならとっとと行きなさい」
    「おう、サンキューな!」
     律儀にわたしの分のお金まで置いて行くルフィ。……まったく。
    「あいつはそういうの興味ないって思ってたからなぁ」
     さーてと。今からどうしようか。
    「もしもしロビン? 仕事終わった? え? 緊急の会議? あんなワニ社長とわたし、どっちが大事なのよー……って冗談よ、気にしなくて良いわ」


     「よっ、ウタ」
    「ルフィ……思ったより早かったね」
     ルフィを出迎えに音楽部屋を出ると、外はすっかり夕方。気づかなかったな。
    「ちょうどよかった、ルフィに手伝って欲しいことがあるんだ」
    「おう! 良いぞ。何すれば良い?」
    「わたしと歌って」

  • 155二次元好きの匿名さん22/12/04(日) 08:34:38

    めっちゃ面白いです!
    ウタがイケイケで健康になる

  • 156二次元好きの匿名さん22/12/04(日) 09:38:05

    ここのルフィは歌えるんだったっけ……

  • 157二次元好きの匿名さん22/12/04(日) 10:31:58

    幸せなルウタは当然として、ナミの微妙な乙女心も健康に良い

  • 158二次元好きの匿名さん22/12/04(日) 18:55:45

    ビンクスの酒とか歌ったりするのかな。
    この世界だと古い歌謡曲みたいな扱いかもだけど。

  • 159スレを建てた二次創作初心者22/12/04(日) 20:12:24

     「一緒に歌ってって言われてもよぉ、おれ、歌が好きなだけで別に上手いわけじゃねーぞ」
    「知ってる」
     でも良いんだ、それで。だってわたしの中に見えている曲のイメージは。
    「楽しく歌うの。今回の曲のコンセプトは、みんなで歌おう、だし。はい、さぁルフィ、まずはわたしが歌うの、見てて。そんで、サビになったら歌うの」
     じゃーんとピアノを鳴らす。ほら、鍵盤もそれが正しいって言ってくれているみたいに調子が良い。
    「じゃあ、いくよ!」
    「おう」
    「本番の収録は、他のみんなも呼ぼうね」
    「練習とかしなくて良いのか?」
    「うん! みんなで楽しくその場のノリで歌うの」
    「なるほどな」
    「んで、ルフィにはそのお試しをしてもらいたいの」
    「よし、わかった!」
    「歌が下手でも上手でも。みんな楽しく歌えればいいんだよ」
     そこまで言うと頭の中に計画がまとまってくる。収録はクリスマスイブ当日。ほぼ無編集で上げてやる。
    「じゃあ行くよ。言っておくけど、わたしの真似なんかしなくて良いから」
    「おう!」
    「じゃあ、まずはわたしたち二人で楽しもう!」

     「うん……ふふっ、流石ルフィ」
     へったくそだけど、楽しかった。
    「ルフィはどうだった?」
    「なんか声出すと気持ち良いな」
    「でしょ!」
     よしよし。思ったとおりだ。
    「じゃあ、作らなきゃね、招待状。ルフィも呼びたい人に招待状書いてよ」
    「おう!エースだろ、サボだろ、コアラだろ、ゾロだろ、ナミだろ、サンジだろ、ウソップだろ」
    「ふふっ、ゴードンは帰ってくるかな。シャンクスも仕事は間に合うかな……」
     宅配ピザを二人で摘まみながら、クリスマスパーティーの予定を話し合う。気がつけばクリスマスデートの名目が変わってしまっていたけど。良いや。
     なんか、それが正解な気がしてきたから。

  • 160スレを建てた二次創作初心者22/12/04(日) 20:13:51

    あ、書き込めた。謎のIP規制食らってお仕事の休憩中に書き込めなかったから、このままスレ落ちるかと思った。良かった良かった。

  • 161スレを建てた二次創作初心者22/12/04(日) 20:52:57

     二人で話し合いながら、クリスマスに向けて準備を進めていく。
    「マキノさん、お店閉めてからになるみたい。コアラさんもそれからだって」
    「なら! 飯は最後だな!」
    「いや、プレゼント交換でしょ。それにご飯は先に食べててッて来てるし。ルフィの考え読まれてるね」
    「そうか! じゃああとは」
    「ゲームだね。何をするか。あと、プレゼント交換の後に手伝って欲しいことあるからそれもよろしく」
    「おう!」
     ルフィと一緒に招待状を作っていたはずだけど、字があれなのでわたしが書いている。 
     なんか招待状は手書きの方が良いって聞いたし。実情は知らないけど。
     ゴードンは予定通りの飛行機に乗れれば間に合うって言っていた、シャンクスは断ろうとしたらベックさんに背中を蹴られたらしい。
    「そういえばルフィ、おじいちゃんとお父さんは良いの?」
    「んあ? じいちゃんは遠洋航海訓練とか言ってたし帰ってくるの夏あたりだろ。父ちゃんもまぁ、サボとコアラが元気でやってるって言ってたのなら大丈夫だろ」
    「そ、そっか」
     ルフィの時折見せる寂しそうな横顔。……。
    「ウタ?」
    「大丈夫だよ。ルフィにはわたしがいるから」
    「心配すんなって。わかってる」
     ルフィのいつも通りの笑顔に安心して、でもそれから。
    「それでも、だよ……ルフィ、どこに行っても一人じゃない。寂しくない」
    「しししっ、寂しがり屋だなぁウタ」
     そう言いながらも、ぎゅっと抱きしめる力が強まったのにはちゃんと気づいた。お互い様だね、ルフィ。
     さて、招待状は送った。
     ふふっ。楽しみだなぁ。こうやってちゃんと準備するクリスマスパーティーは。

  • 162スレを建てた二次創作初心者22/12/04(日) 21:15:34

     いつもは適当にケーキとちょっと豪華な料理を食べるくらいで。部屋の装飾の準備なんてしない。流石にルフィが山から木をへし折って持って来ようとした時は止めたけど。
    「ははっ、そういうことなら最初から言ってくれよ、ルフィもウタも」
    「ありがとうございます。サボさん」
     ツリーとかはサボさんが運んでくれた。
     結構立派なのを立てて。
     それからリビングをクリスマスっぽくしていく十二月二十三日の夜。
     夕方からのパーティーだから。明日の昼はルフィとちょっとだけクリスマスデートするんだ。
     招待状と歌詞カードを配って部屋も装飾した。
    「どう! わたしたちすごくない!」
     と配信で自慢して見れば「流石UTAちゃん」「えらいえらい」「すごいぞー」とみんな褒めてくれた。ふふっ。
     そしてそのままルフィは久しぶりにうちに泊ることになった。となれば。わたしは当然準備する。準備したのに。
    「えぇ?」
    「ウタ。今日はおれがリードする」
     耳元でそう囁かれて。
    「は、はい」
     ルフィ相手なのに。なんか畏まっちゃって。
     え、すご、抑え込まれたら全然動けない。もうこれ、ルフィのされるがままになるしかない。それが逆になんか……良い。年下なのに。わたしの方が年上なのに。
     心臓が早い、呼吸も早くなっていく。
    「いつもは全部ウタにやってもらってるからな。でも、それだけじゃダメだから」
    「う、うん」
     真剣な目。どうしてだろう、もう身体に力入んない。ふわふわした気分だ。
    「じゃあ、ウタ。良いな?」
    「うん」
     そして朝になった。
    「……ツ~~~」
     ルフィ、可愛いのにカッコいいんだけど!!!

  • 163二次元好きの匿名さん22/12/04(日) 21:24:15

    >>160

    朝ちゅんもいいもの・・・


    IP規制はワイモバイルのポケットWiFi使ってたら、良く食らってました。

    2日ぐらい書き込めなかったような・・・

    荒らしと回線が一緒だと、巻き添え食らうんだと想像してました。

  • 164スレを建てた二次創作初心者22/12/04(日) 21:37:45

     ベッドの上でルフィにされるがままになるなんて。これからこのままベッドの上での優位は一生保ってやろうと思っていたのに!!! 昨日、ルフィに抑え込まれた時、これも悪くないと思ってしまったんだけど!!!
    「むぅ」
    「何だよウタ。何が不満なんだ? ウタも気持ちよさそうだったじゃねーか」
     事実そうだから困るんだよ。良かったんだよ。どこで勉強したんだよこのやろー。
    「もう……」
     むぎゅっと腕を組んだ。ぬくい……。
    「今年は雪降らないねぇ」
    「だな。スキーでも行くか?」
    「んー。考えとく」
    「受験終ってからでも良いんだぞ」
    「あー、それなら行きたいかも」
     ルフィ、わたしの心配事、ちゃんとわかってるなぁ。
     合格する自信はあっても。本番の会場にはいつだって魔物が潜んでいるものだ。だから油断はしない。
    「あとは鍋もしたい!」
    「お、鍋か……すき焼きか?」
    「んー、ごま豆乳鍋!」
    「良いな!」
     ふふっ。
     別に特別なことなんてしていない。でも。こうやって話をしながら歩くだけで、満足感がある。でもまぁ、だからってイベントの一つもなしじゃあれだから。
    「ルフィ! 勝負しない?」
    「お? なにするんだ?」
     ……昨夜はベッドの上でボロ負けしたからね……確実に勝ちたい。うん……認めるのは癪だけど負けは負けだ。
     かといってあからさまにわたしに有利な勝負は嫌だ。だから。わたしはゲーセンの中に入る。
    「これよ! じゃじゃん! ダンスゲーム対決!」
     これに勝ってさらに今夜、みんなが帰った後にがまん対決でもう一勝して二連勝。ふふっ。完璧。

  • 165二次元好きの匿名さん22/12/04(日) 22:12:53

    この二人の空気感最高
    ずっと見てたいな

  • 166二次元好きの匿名さん22/12/04(日) 22:28:08

    あぁ、叶うならずっとこんな幸せな光景を見ていたい

  • 167二次元好きの匿名さん22/12/04(日) 22:45:39

    ほのぼの幸せなルウタなんてなんぼあってもいいですからね
    はー寿命伸びる

  • 168二次元好きの匿名さん22/12/04(日) 23:31:06

    この話の雰囲気めちゃくちゃ好き

  • 169スレを建てた二次創作初心者22/12/05(月) 02:20:39

     「くっ、はぁ、はぁ」
    「ししししっ、ウタ、そろそろ限界だろ」
    「こ、この、体力馬鹿……」
     ルフィの奴、思ったよりリズム感がある……それともリズム関係なしのただの反射神経か……。
     なんでずっとフルコンボなのよ。ギャラリーもできてきたし。さっさと決めたい。
     ゲームセンター特有の雑多なうるささも遠ざかってくるくらいにはのめりこんだのに。こいつ、余裕そう。
     わたしもどうにかフルコンボ続けているけど、そろそろ集中力が……。
     なにがマークと線が重なったところで踏めばいい、だ。それで済めば苦戦する人なんていないのよと思っていたら……こいつは身体能力でこのゲームを本当にねじ伏せてきたのだ。
    「よし、次はこの曲だな」
     と、ルフィが次の曲を選択する。ん? 周りが慄いてる……もしや次の曲って滅茶苦茶難易度が高いのか?
     その答えはすぐに出た。なんだこのノーツの量。最初から……くっ。
    「ほほほほほい。ししししっ。ガトリング足踏み―!!!」
     くそっ、余裕そうだな……この……負けるか!
     音楽で、ルフィに、負けて、たまるかー!!!


     「はぁ、はぁ、は、はぁ……」
     ダンスって、体力使う。
     今後ダンスを取り入れるなら、体力トレーニングしないと。ダメだ。これを歌いながらとか、途中で呼吸、できなくなる……。
    「ウタ、休憩するか。向こうの自販機で少し休もう」
    「でも、勝負……」
    「引き分けだ。ししししっ。たのしかったぞ」
     ……ムキになってたのはわたしだけか……いつの間に大人になっちゃってさ。
    「決着つかねーし。あれで決めよう」
     そう言ってルフィが指さしたのはエアホッケーだった。


    「このやろー!!! それは反則だろ!!!」
    「でた、負け惜しみぃ~」
     ゼロゼロで食らいついてたんだから誉めてよ。ルフィの自爆でたまたま一点入って、それから終了までパックをルフィの陣地にわたさなかっただけだよ~。

  • 170スレを建てた二次創作初心者22/12/05(月) 03:22:34

     準備の最終確認のため、パーティーを始める二時間前に帰って来たのだが。
    「よ、ルフィ。それにウタちゃん。少し早いが来たぜ」
    「え、サンジさん?」
    「どうしたんだサンジ? 時間間違えたか?」
    「いいや。今日のパーティ。食わせてもらうだけじゃ料理人の名が廃れるのでな。キッチン借りるぜ」
     今日のパーティーは、オードブルや出前寿司、出前のピザとか考えていたけど。どれも予約でいっぱいらしくて。かといって自分たちじゃ作れないから、スーパーでお肉とか野菜を買い込んで、ホットプレートで焼肉パーティーだ! の予定だったけど。
    「安心してくれ、仕込みは家で済ませてきた」
     キッチンに立ったサンジさんはそう言いながらクルクルクルと包丁を回し。凄まじい速度で動き始めた。
     え、ニンニクを包丁で刻みながらコンロに火を点けて油を温めて? そして唐揚げを揚げ始めながら……だめだ、もうわからなくなった。でもまぁ、家庭的な料理で安心した。やってることはかけ離れてるけど。
     なんか魔法の呪文みたいな名前の料理出てきたら畏まっちゃう。
    「どうせそいつは焼肉パーティーなんかじゃ腹の虫が泣き止まねぇだろ。折角招待してくれたんだ。おれにも何か作らせてくれ」
    「ほんとうか~楽しみだなぁ」
     
     次にきたのはゾロさんとナミだった……。
    「ん? なんでナミ、ゾロの耳掴んでんだ?」
    「駅でたまたま会ったんだけど、こいつわけわかんない道ばかり選ぶのよ」
    「おめーが遠回りの道選ぶからだろ」
    「だからってなんで人んちの庭を通ろうとするのよ!!!」
     ……あはは。
     それから。
    「よっ、ルフィ、来たぜ。コアラからの預かりものもあるぞ」
    「お、お前ら久しぶりだなぁ。ゾロ、お前そろそろミホーク先生に勝てたか?」
    「……まだだ」
     エースさんにサボさんも来た。二人を見たゾロさんとサンジさんが一瞬渋い顔を見せるのは、二人が激しすぎる喧嘩を始めた時、実力行使で止めてたのがこの二人だからだ。
     今はルフィがその役を担っている。

  • 171二次元好きの匿名さん22/12/05(月) 08:53:17

    ファンタジスタ不法侵入しとるんかい!

  • 172二次元好きの匿名さん22/12/05(月) 09:54:10

    いっぱいキャラが出てくるとパーティー感あるな
    良い空気だ

  • 173スレを建てた二次創作初心者22/12/05(月) 16:14:16

     パーティーは本当に盛り上がった。
     サボさんが持ってきたコアラさんからの預かりもの、すき焼きセットもサンジさんが良い感じに料理してくれて。
     そしてまずは途中でシャンクスが合流して。
    「いやぁ、遅れてすまない。出張先で良い酒を入手した。飲んでくれ」
    「シャンクス、ここにはまだ未成年しかいないよ」
    「おっと……これはすまなかった。ならおまえたちにはこっちだな」
     と、お肉とケーキがさらに追加されたのでサンジさんに預けた。
     その次に来たのがマキノさんとコアラさん。この二人にはシャンクスの持ってきたワインがグラスに注がれて。
    「ふへへ、サボくーん、ふへへへへへ」
    「ったく、酒にそんな強くねーのにかっこつけるから」
     コアラさんはサボさんの膝に頭を預けていた。
    「うるさいなー、サボくんも飲めばわかるんだよ。美味しいんだよ!」
    「はいはい。来年な」
     なんて言いながらよしよしとコアラさんの頭を撫でてる。酒が入ると逆転するんだなぁ。
    「おいこらゾロ、お前未成年だろ。サンジも」
    「あ?」
    「ちがっ、残ったすき焼きのアレンジに……ってすき焼きがねぇ!!!」
    「わりっ、全部食った」
    「おールフィくん、美味しかった?」
    「おう!」
    「このケーキ美味しい! どこで買ったんですか?」
    「あぁ、空港の近くのホテルに入ってるケーキ屋だな。ナミ、だったかな。違いが判る子だな」
    「へへっ、はい~また食べたいです~」
    「……おねだり上手でもあるな」
     ……完全につぶれる前に、大事なことを始めてしまおう。
    「みんな、事前に配った歌詞カード、持ってきてくれたかな!」
     というと、みんなそれぞれ鞄やらポケットから取り出す。
    「じゃあ、わたしと一緒に、歌ってね」

  • 174スレを建てた二次創作初心者22/12/05(月) 16:53:53

     「……よし、投稿っと」
     みんなノリが良くて。一発撮りでもわたしの思った以上のものができてくれた。
     静かになったリビング。クリスマスの気配はもう、残っていない。さっきまでみんなで歌っていたのが嘘みたいだ。
     みんなで後片付けをして。ルフィと一緒に見送った。シャンクスは次の出張のためにベックさんが回収しに来て。サボさんとエースさんでみんなを送るって。
     さて……。
     計画通りルフィを今度は。
     ふふふふ。
    「じゃあルフィ、一緒にお風呂、入ろうか」
    「おう! ってなんだそれ? マットか?」
    「今は気にしなくて良いよ」  
     

     「……負けた」
     朝、目が覚めて顔を覆った。ボロ負けした。
     おかしい……わたしも少し勉強したけど……なんかもう、ルフィに良いようにされてしまった。
     なぜだ……。どんどんうまくなっていく。そう思って少し聞いてみたら
    「ウタの反応をちゃんと見てるからな」
     と言われた。……わたし、そんな余裕、なくされた。ルフィの反応を見る余裕が、どんどん頭が真っ白になって無くなっていくんだ。稲妻の如く走り抜ける快感の波状攻撃に意識を保つのがやっとなのだ。
    「……もう」
     眠るルフィの耳元にそっと口を寄せて。
    「ほんっと、わたしのこと、好きだね。ルフィは」
    「おう! 好きだぞ!」
    「! 起きてたの?」
    「今起きた」
    「……もう」
     ……ふと窓を見ると、雪が降っていた。
     クリスマスが終われば、年が明けるまであっと言う間で。年が明けてしまえば。
     わたしはもうすぐ、卒業する。

    ~付足編・第一部完 第二部に続く~

  • 175二次元好きの匿名さん22/12/05(月) 17:41:30

    最高です!
    卒業が寂しい!

  • 176二次元好きの匿名さん22/12/05(月) 19:08:13

    本当にこのSSの空気感好き
    現パロでひたすら幸せなルウタって意外と少ない気がするから、大変ありがたいです
    寿命伸びるし、読んでるだけで徳が積める気がする

  • 177スレを建てた二次創作初心者22/12/05(月) 20:43:12

     共通テストが終われば、三年生は自由登校だ。
     一月が終わり二月の上旬に一般入試前期を受けて。わたしは思ったよりもあっさりと合格した。
     ルフィがわたしの受験結果を確認しようと授業中にスマホを操作して、わたしの番号を見つけて。
    「よっしゃー!!! ウタ!! おめでとう!!!」
     と電話してきて。スマホを没収されたというのには流石に笑った。電話が来た直後にナミからも『ウタ、おめでとう。良かったじゃない。自宅から通える大学で』と来た。うれしいな。みんなから祝ってもらえるなんて。
     ゴードン、シャンクス、エースさんにサボさん。コアラさんからも来た。
     自由登校期間中の学校では色んなうわさが聞こえた。例えば男子剣道部の前主将であるゾロに決闘、というかリベンジにを挑んだ、大学剣道界を賑わせているの元女子剣道部部長と副部長の話とか。
     ウソップくんがオリジナル花火をルフィと一緒にグラウンドで炸裂させたとか。なんでもウソップくんが冬休みに呼ばれたクリスマスパーティーでお嬢様を喜ばせたとかなんとか。それをルフィが見たいと騒いで、じゃあやってみるかとなったらしい。
     それからわたしはダンスの練習も始めた。ゴードンが言うに。
    「歌いながら踊るのは、君が考えている通り確かに難しい。が、君の考えている以上に難しい」
     と。
    「歌いながら踊ること自体は叶っても、人前でそれをやるには、さらに表情のキープという部分も問われてくる。必死の形相で歌い踊られても、見る人は困る」
     確かに、ってなった。
    「基本は私が教えるが、様々なジャンルがある。大学でそれらも貪欲に学んでいくと良い」
     それからわたしは毎朝縄跳びで体力をつけるトレーニングをしている。わたしの場合ジョギングより縄跳びをしろと言われた。
     昼間に家で作曲やダンスの練習をしていると気にならないけど、ふと時計を眺めると、今学校にいない自分に違和感を覚え、そして自分が本当に卒業するんだと実感する。
     移動教室でわざわざ遠回りしてルフィに会いに行くのも。
     昼休みに屋上で落ち合って一緒にお昼を食べるのも。
     教科書忘れたーって来るルフィに「学年違うでしょうが!」って言うのも。
     朝と放課後、一緒に登下校するのも。
     全部終わっちゃうんだなぁ。

  • 178スレを建てた二次創作初心者22/12/05(月) 21:04:23

     二月の真ん中に差し掛かる頃。
    「……んー」
     台所はチョコの甘い香りに支配される。夕方、ルフィが来る前には片付けたいな。
    「ルフィには甘すぎない方が良いよねぇ」 
     やっぱ生クリームとブラックチョコレートか。あとはココアパウダーをかける。
    「うん。当日はこれでいこう」
     思ったよりあっさり完成品ができてしまった。
     なんで二月って短いんだろ。もう折り返しだ。
     ……ルフィと一緒に、高校生として過ごせる時間が、どんどん無くなっていく。外に出てみれば、まだ冬の冷えた空気の香りは残っている。それでもきっと、ちょうど一か月後には春の訪れを感じさせる香りが……ちょっと空気が、土が温まる香りがするんだ。
    「……んー」
     いま学校に行っても授業中か。
     配信しようにもなぁ、今だと誰も見ないし。
     あと何回かの登校日をこなせば、高校生じゃなくなってしまう。
     別に、高校生活に後悔があるわけじゃない。むしろ楽しかった。
     でも。
    「……ふふっ。ばーか」
     わたしに、ばーか。 
     そう、怖がっているんだ。巣立ちを。
     肌に馴染んだ制服を脱ぎ捨てるのが。すっかり居心地がよくなった校舎を出ていくのが怖いんだ。予定を合わせなくてもルフィと一緒にいられる時間が終わるのが怖いんだ。
     もっと高校生という肩書で恋人でいる時間を、欲しがっているんだ。
    「……ほんと、ばーか」
     なら今からでも悔いが残らないようにやればいい。
     どうやって?
     んー……。よし。
     制服に着替えて家を飛び出る。ルフィは部活に入ってない。だから。
     学校に着くと、やっぱり、部活に入ってない子たちが続々と校舎から出てくる。その中に。
    「ルフィ!」
    「ウタ! 何してんだ?」
    「迎えに来た! 一緒帰ろ!」

  • 179二次元好きの匿名さん22/12/06(火) 00:38:45

    寝る前に一応保守

  • 180二次元好きの匿名さん22/12/06(火) 02:09:54

    ほんと大好きだこの空気感

  • 181スレを建てた二次創作初心者22/12/06(火) 02:36:11

     一つ一つの時間を、大事に。
     繋いだ手の温かさを。感じた呼吸を。ふとした表情を。心に刻む。
     夕日の眩しさに細めた目。わたしを見て「にししっ」と見せてくれるいつも通りの笑顔。
    「ウタ!」
    「ん?」
    「腹減ったな。肉まん食おうぜ」
    「うん!」
     コンビニの肉まんにも、きっともうすぐ手が伸びなくなる。
     ホカホカの肉まん。わたしと手を繋いでいない時、ルフィは自由に歩き回りながらわたしの隣に戻ってきて、二かっと笑って。
    「ウタ!」
    「ん?」
    「スキーに行こう!」
    「へ?」
    「温泉旅行だ!」
    「え……?」


     雪だ。雪が舞っている。空が晴れているのに。
     澄んだ空気に肺が喜んでいる。
     遠くに街の景色が見える。そして。
     そんなわたしの横を軽快に滑り降りていくひとたち。
    「よ、ウタ、滑らねぇのか?」
    「す、滑り方知らないのよ」
    「そうか」
    「むしろルフィ、あんた、スキー滑れたの?」
    「しらね」
    「え?」

  • 182スレを建てた二次創作初心者22/12/06(火) 03:19:38

    「初めて付けた。この板」
    「えぇ? なのにいきなりリフトに乗ったの?」
     ……どうやって休憩所戻るの……え?
     ここはスキー場。わたしたちの宿はスキー場から少し降りたところにある旅館に宿を取った。保護者としてとっくに大学の春休みに入っているコアラさんとサボさんがいて。連れてきてもらった形なんだけど……。
    「よし、行くかウタ」
    「ちょっと待って!」
    「なんだよ」
    「滑り方わたしたち知らないんでしょ!」
    「でも滑らなきゃ戻れねーじゃねーか」
    「そ、そうなんだけど」
     そう言っている間にもリフトから降りた人たちが次々に滑り降りていく。
    「おーいルフィ、ウタ、滑らねーのか?」
    「いやー、ウタが待てってよ」
    「そうかそうか。ここのピザが美味いらしいんだ。昼はそれにしよーな」
    「おう! ししししっ」
     サボさんが全て行って、それに続いてコアラさんが手を振りながら降りていく。
     ルフィを見る。黒いスキーウェアで、なんだかペンギンを思わせる。わたしが着ているのはコアラさんから借りた白いスキーウェアだ。
     正直、立っているので精一杯なのだが。
    「……行くしかない」
    「ウタ、手」
    「……うん!」
     凄い、静かに滑り始めるスキー板。ルフィの手を繋いでいると。なんだろう、安心感がある。どんどんスピード上がって行くけれど、ルフィはそれを完璧に乗りこなしている。どんどん人を追い抜いていく。あっという間に休憩所が見えてくる。
    「な、なぁ! ウタ!」
     風に乗って聞こえてくる声。
    「これ! どうやって! 止まるんだ?」
    「え? …………し、知るわけないでしょ!」
    「や! やべぇ! 止まらねぇ!」
    「ギャーーー!!!」
     容赦なく流れ込んでくる冷たい風。上がって行くスピード。迫ってくる景色。
     休憩所すら通り過ぎて。わたしたちは脇に積み上げられた雪の山に突っ込んだ。

  • 183スレを建てた二次創作初心者22/12/06(火) 03:26:54

     「いてて」
     ひっくり返った景色。周りの人が心配そうにこちらを見ながら去っていく。駆け寄ってくるのはサボさんとコアラさん。ん? あれ……あんまり痛くない。
     見てみれば。
    「る、ルフィ!」
    「ウタ、無事か?」
    「それはこっちのセリフだよ!! 大丈夫!?」
     慌てて立ち上がってルフィの様子を見る。ルフィが庇ってくれたんだ。
    「ゆきって、硬くなるんだな」
    「なんだよルフィ、止まり方も知らねぇでリフト乗ったのかよ」
    「いけると、思ったんだよ」
    「いいか? 滑り方はこう、曲がり方はこう、止まり方はこう、だ。これだけ知ってればいけるだろ!」
    「サボくん、まずは基本の八の字……」
    「サンキューサボ! よし、行ってくる。ウタも教わってから来いよ!」
    「う、うん」
     あっという間に背中が遠くなる。迷わずにリフトに乗り込んだルフィ。……大丈夫かな。
    「ルフィなら大丈夫だ。ただ、お前を危険な目に合わせたことが許せねぇんだろ。だから一人で行った」
    「あ、あれくらい」
    「ルフィだから大丈夫だったが。普通ならケガしてるぞ、あれ」
    「え?」
     さっき突っ込んだ雪の山からサボさんが一掴み雪を持ち上げる。……え、雪? 
    「もはや氷だね」
     そう言ってコアラさんは正拳突きをサボさんが持ってる雪に叩き込む。硬い音共に砕ける氷の板。こ、これに突っ込んだの、ルフィ。
    「昼飯までには上手くなって帰ってくるだろうよ」
    「それまでわたしと練習しようか、ウタちゃん」
    「は、はい」
     ……ルフィ。ほんとうに、大丈夫かな。

  • 184スレを建てた二次創作初心者22/12/06(火) 03:43:24

     という心配は杞憂に終わった。
    「そろそろ昼飯行くか。ルフィもそろそろ戻ってくるだろ」
    「ウタちゃん、滑れるようになったね」
    「コアラさんの教え方が丁寧だったから」
     と言っていたら。黒い何かが高速でこっちに向かってきて。そして。
     ぶわっ! と雪をまき散らしながら、横滑りに停まった。
    「うっし、できた!」
    「おぉ、ルフィ。できるようになったな」
     と喜ぶサボさんの横で。
    「……ルフィ」
    「……ルフィくん」
    「お? うわ、なにすんだよおめぇら」
     盛大に雪をかけられたわたしたちは無言でルフィに雪を投げつけた。


     お昼のピザも美味しかった……すごい、石窯。口の中で蕩けるチーズで舌が火傷するかと思ったし、口も一緒に蕩けちゃうかと思った。生地も薄いのにモチモチしてるし耳はサクサクだし。
     そして。
    「ウタ、さっきは悪かったよ。調子に乗った」
     と言ったルフィがまた一人でリフトに乗っていく。
    「ウタちゃん、どうする? 午後は」
    「……なによ、それ」
    「? ウタちゃん?」
    「わたし、ルフィを追いかけてきます」
    「え? あ、まって、それ、頂上まで行くリフトだよ!」
     ルフィの奴ルフィの奴ルフィの奴。
     いっちょ前に気ぃ使っちゃって。生意気なんだよ!
    「少しはわたしに甘えろー!!!」

  • 185スレを建てた二次創作初心者22/12/06(火) 03:51:46

     「うわ、すご」
     これ、木、なんだよね。樹氷、って呼ぶらしいんだけど。なんかもう、雪の怪物みたい。大きな雪の塔が乱立していて、この間を滑るのか。なんかワクワクする。ってルフィどこ!
    「あ、いた! 待てルフィ―!」
     しかしこの距離じゃ聞こえない。そもそも滑りながら自分を呼び止める声なんて聞こえるわけがない。雪煙巻き上げながら進んで行く黒い背中が遠くなる。

    「追いついてやる!」
     ルフィを追いかける。でもルフィはどんどん加速していくし。ほとんどスピードを落とすことなくターンを決める。真似してみるが、油断したらあっさり転びそうで。
    「くっ」
     背中を追いかけるのがやっとだ。
     山に積もった雪を滑り降りてるって考えれば、難しいのも当然だ。自然を相手にしてるんだ……あっ。
     そっか……ルフィが変に反省してるなって思ってた……。でも、そっか……わたしをケガさせようとしたから、だけじゃないんだ。
     わたしはルフィを追いかけるのをやめた。
    「はぁ、ウタちゃん。やっと追いついた。いきなり頂上からは危ないって」
    「はい……すいません。コアラさん。その……一緒に降りてもらって良いですか?」
    「うん。そうしよう」
    「それが良いぞウタ。あれがおかしいんだ」
    「……あれ、サボさん。いつの間に」
    「午後はスノボって決めてたからな。あとでルフィにも付けさせよう。ぜってーハマるぞ」
     そう言ってルフィを追いかけ降りていくサボさんの背中を見送って。
     ……いまはとにかく、ゆっくり降りよう。それから。
     休憩所の前で戻ってきたルフィを待って。
    「ルフィ! わたしと一緒に頂上から滑りなさい」
     もうスノボも滑れるようになったルフィの目の前にストックを突き立て手を差し出した。
    「……なんで」
    「良いから! 行くよ!」
     たまにはわたしにも、手を引かせなさい。
    「……ウタの奴、スノボとスキーで手を繋いで降りようとしてるぞ」
    「え? ……とめなさいよサボくん」
    「だいじょーぶだろ。ルフィだし」
    「もう!」

  • 186スレを建てた二次創作初心者22/12/06(火) 04:06:43

     「ルフィさ」
    「お?」
    「自然、甘く見てたって反省してるんでしょ」
    「……ウタにはわかったか」
    「うん……雪が思ったより硬くて驚いた。雪の上で滑ると思ったより止まれなくて驚いた。自分でも驚くくらいスピードが出て驚いた。とか?」
    「あぁ……おれがこれから相手にしていくのって、こういうの何だなって……今回はあれで済んだけど、取り返しのつかねーことになってたことだってあり得るんだ。……どんなに鍛えたってよ、やべーことはいくらでもある」
     手は繋がない。最初は繋いでいたけど、ルフィがやりづらそうだったから。ゆっくり滑るわたしの横を、ルフィはもう乗りこなしたのか、器用に並走してくれる。
    「……これがラストかな」
     空はいつの間にか雲に覆われていた。さっきまで晴れていたのに。多分、日も沈むころだ。ナイターというのがあるらしいけど。クタクタだ。全身が疲れた。多分、明日は筋肉痛。温泉を身体が求めている。
    「ルフィ、ありがとね。わたしを庇ってくれて」
    「おれのせいだからな。気にするな。むしろおれが謝ることだ」
    「それでも……守ってくれたの、うれしかった」
    「そうか。ししししっ」


     旅館は二人部屋二つ。わたしとルフィ、サボさんとコアラさんで泊る。
     食事は宴会場で、刺身にすき焼きにてんぷらにご飯に味噌汁に茶碗蒸しに漬物煮物デザート。これでもかと並んでいた。ルフィはあっさり平らげてたけど。
     まぁ、食べきれるか不安だったけど、一品一品が美味しくて。一つ食べれば次の料理が楽しみになって、正直、最後の感想は美味しかったで終わる。
     旅館の窓からふと見える景色は雪が止んで、旅館の明かりが反射してキラキラ光る、星空が目の前にあるような景色だ。思わず手を伸ばしたくなる。

  • 187スレを建てた二次創作初心者22/12/06(火) 04:13:38

     そして温泉。かなり広い普通の温度の風呂と熱めの温度の風呂で構成された内風呂と露天風呂がある。
     湯気の香りの中で、わたしとコアラさんはほぼ貸し切りだと感動して。身体を洗ったコアラさんは真っ直ぐに露天風呂に続く扉に足を向けていた。
    「待ってくださいコアラさん……露天は絶対寒いと思うんですよ」
    「でも行きたくない? お風呂は暖かいんだからいけるって」
    「でもなぁ……」
     迷うわたしを見つめるコアラさんの目は、ふと、驚いたように見開かれる。
    「ウタちゃん、本当に大きいなぁ」
    「今言います? というかコアラさんが言います?」
    「えー、実際どれくらいあるの?」
    「えー……ごにょごにょ」
    「ほほーう」
    「コアラさん!」
    「あははごめんごめん」
    「い、いえ……うーん。露天……行きたくなってきたかも」
     正直誤魔化し半分。でも、わたしだって露天に魅力を感じないわけじゃないんだ。そう思いながら扉の外に目を向けていると。
    「さっむ! ルフィ! さみぃぞ!」
    「うおおおおおそれでもおれはいく!!!」
     顔を見合わせた。
    「うん。ウタちゃんの言うとおりだ。露天は寒い。温まってから行こう」
    「そうしましょう」
     そうして準備を整えてから入った露天風呂は。
     空が近い。手を伸ばせば星の一つでも掴めそうだ。冬の夜空はどうしてこうも吹き抜けるような空なんだろう。町の中からじゃ見えないような星もきっとある。こうやってじっくり空を見たのは、どれくらいぶりなんだろ……目の前のことに必死で、忘れていた気がする。
     寒さから逃げるように湯舟に深く浸かりながらも、わたしはしばらく、目が離せなかった。
    「そろそろ中に入ろっか」
     と、気を使ってくれたのか静かだったコアラさんに、そう言ってもらうまで、心を飛ばしていた。

  • 188スレを建てた二次創作初心者22/12/06(火) 04:54:58

     「ルフィ達、何してるんだろ」
    「んー。サボくんとルフィくんでしょ。のぼせるまで耐久レースでもしてるんじゃないかな?」
    「あー」
    「ウタちゃんは何書いてるの?」
    「次の曲の歌詞です。今日一日が、インスピレーション湧きそうな出来事ばかりで。実際、何フレーズかは頭の中にできているので」
    「へぇ、すごいね」
    「……これから配信しようと思うんですけど、コアラさんゲスト出演しますか?」
    「い、いや、いいよ、それは……」
    「お酒飲みます?」
    「わたしを酔わせてどうする気!?」
     と言っていたら、扉がガチャっと開いて。
    「う、うた、み、みず」
    「こあら、みずを、くれ」 
    「……コアラさんの予想、正解でしたね」
    「はー……大学生にもなって……」
     そのままサボさんを担ぎ上げたコアラさんは。
    「じゃあ、わたしたちは寝るね」
    「あ、はい、おやすみなさい」
     パタンと扉が閉まる。ごくごくと水を飲んだルフィは。
    「ぷはっ、復活」
    「ねぇルフィ、配信するけど良いかな?」
    「お、どれどれ」
    「あ、はは、やる気だね」
    「コメントしてるやつと話すのは楽しいからな」
    「そ、そう」
     配信開始。
    「みんな。ウタだよ。今日は旅行先からお送りするよ。そ、旅行。一泊だけだけどさ。国内だよ国内。でもすごいよ。右を見ても左を見ても雪、雪、雪。あ、今日のゲストはルフィだよ」

  • 189二次元好きの匿名さん22/12/06(火) 07:18:46

    乙女なウタちゃんは健康に良い

  • 190二次元好きの匿名さん22/12/06(火) 10:17:03

    恋人との旅行先で配信て、なかなか大胆だよね? あれ、そうでもないのか……?
    樹氷があるスキー場ってなると、山形の蔵王かな
    遠出したねえ

  • 191スレを建てた二次創作初心者22/12/06(火) 13:33:46

     「そう、ルフィったらねぇ」
    「あれは悪かったって本当に」
    「大丈夫怒ってないよ。って、イチャイチャありがとうございますって。してないよ、イチャイチャなんて」
     配信は和やかに進んで行く。
    「良いよ。歌ってみた動画。うん、ちゃんとわたしのチャンネルに誘導してくれるなら」
     楽しいな、やっぱり。
     ……現実でライブ、してみたいな。画面越しですらこんなに楽しいんだ。実際にファンと対面して歌ったり踊ったり演奏したりトークするの。たのしいだろうな。誰かに届いた。この実感が何よりも嬉しいんだ。
     わたしの声が届いた。わたしの音楽が届いた。わたしの心が届いた。
     それを感じる一瞬のために、わたしは奏で続ける。
     ……どうにかライブできないかな。リアルライブ。
    「え? 卒業式でライブとかするんですか? って。え、できるのそういうこと。卒業式の後の三送会でやった。ふむふむ。卒業式の朝に教室でバンドメンバー呼んでライブしたら怒られた。怒られてんじゃん! うーん」
    「やってみたらいいじゃねーか」
    「え?」
    「安心しろ。おれも手伝うから。ひとりで全部やらせたりしねーよ」
     ……やりたい。ライブ。やりたい。
    「いいの? ルフィ」
    「あぁ!」
    「……うん。ありがとう。みんなもありがとう。勇気出た!」
     決めた。卒業式でわたし、歌って踊って見せる! 


     隣の布団にルフィがいる。いつもより遠いけど確かにちゃんといる。手を伸ばすと手と触れた。ぎゅっと握る。
    「……わたし、頑張るよ」
     やり遂げれば、卒業、ちゃんとできる気がする。
    「ん? ウタ、寝れねぇのか?」
     そう言いながらするっとルフィがわたしの布団に入ってくる。
    「これなら寝れるか?」
    「……逆に寝れない」
     なんか盛り上がりたくなるから。だっていつもと違うんだよ。旅先効果でいつもよりも気分が浮ついているのに……!!!
    「ルフィが悪いんだから―!!!」

  • 192二次元好きの匿名さん22/12/06(火) 15:32:52

    旅行…2人部屋…何も起きないはずがなく……

  • 193スレを建てた二次創作初心者22/12/06(火) 16:16:45

     「……すごかった」
     それが旅先での朝の最初の一言だった。
     朝はとにかく体を温めろと言わんばかりの朝食。うどんに味噌汁にご飯に温泉卵に鮭に納豆に漬物。飲み物は温かい緑茶やほうじ茶。
     食べ終わったらチェックアウトまで時間があったから朝風呂。
    「ウタちゃん、昨夜は激しかったようだねぇ」
    「はぅ! き、聞こえてました?」
    「顔見ればわかるよ。ルフィくんは平然としてるけどさ」
    「うぅ……」
     温泉で身体をしっかり温めて、わたしたちは地元に向かう新幹線に乗り込んだ。
     

     「そういえばルフィ。忘れてたから今あげる」
    「お?」
     旅行から帰った次の日。ルフィは放課後、家に来てくれた
    「? あー、バレンタイン!」
    「ルフィでも覚えてるんだねぇ、バレンタイン」
    「毎年くれるけど今年はくれねーのかと思った!」
    「あはは、ごめん。急に旅行とか言い出すからさ」
    「ウタはドジだなー。ありがとな。うめー!!」
    「どういたしまして。ってもう食べるんだ」
    「たりめぇだろ。ウタも食うか?」
    「うん。もらう」
     って、わたしがもらってどうするんだ……そうだ! チョコをパクパク口に放り込むルフィを手招きで呼び寄せて。そして。
    「む、むぐ」
     こうやってルフィと一緒に味わえば良いんだよ。ついでにルフィの口の中の味も教えてもらう。口の中を丹念に舐めて、さっきまで味わってたチョコの味をわたしも楽しんで。
    「うん。美味しいね」
    「……びっくりしたぞ」
    「へへっ」
    「あとはふつーに食う」
    「はーい」 

  • 194スレを建てた二次創作初心者22/12/06(火) 16:29:39

     それから三月になった。
     登校日はあとは終業式と卒業式だけ。
     終業式の日。終わった後、わたしはルフィに呼び出された先は一年生のルフィの教室。
     懐かしいなと思いながら、もうわたしたちが過ごした気配のない廊下。教室。すっかり別人の住処になっていることに少しだけ寂しさを覚える。こうやって気配は上書きされていくんだ。
     ほとんど誰も残っていない教室の中。ルフィのほかに既に四人の人影があった。
    「お、来たわね、主役が」
    「ほんとうに、ぷ、プリンセス・ウタ」
    「ウタちゃんのためだ。一肌脱ぐぜ」
    「なんだかんだ世話になったからな。ルフィには。おれも乗った」
    「ししししっ、どうだウタ、頼もしいだろ」
    「え。な、何の……」
    「ライブだよライブ。卒業式の最後にやるんだろ」
    「え? そういう話だっけ?」
    「違うのか?」
    「い、いや……」
     ナミさんの手元にあった紙を覗き込むと。既にライブの計画がほぼほぼ出来上がっていた。
     卒業式の閉会のあいさつの後、三年生の退場が言い渡されるタイミングでわたしが登壇。そのまま卒業式をジャックしてライブ開始。
    「……本気?」
    「あぁ!」
    「タイミングなんてこのくらいよね。終業式も三送会もさっきやっちゃったし」
    「そ、そうだけどさ……」
    「なんだ、怖気づいたのか?」
    「おいこらマリモ! ウタちゃんに向かってなんだその口の利き方は!」
    「うっせーなグルグルマーク」
    「……ううん。違う……いまのは、みんなに確認したの……実際、今日やってもわたしの求めるクオリティには達してなかったし。もともと卒業式のあとにやるつもりだった。どうやって観客を集めるか考えているところだった。でも、それをみんなが解決してくれた。ありがとう」
    「……決まりね。調整室の鍵はわたしに任せてもらうわ。ウソップは操作よろしく」
    「おうよ! 任せとけ!」
    「ししししっ、じゃあ、来週! おまえら、頼んだぞ!」
    「「「「「おう!!!」」」」」

  • 195スレを建てた二次創作初心者22/12/06(火) 16:39:34

     卒業式当日。いつも通りの目覚め。いつも通りの朝。いつも通りの通学路。
     何も特別感はないのにどうしてこうも胸が高鳴っているのだろう。歌も踊りも完璧。録音したデータもウソップくんに渡してある。それでも胸が高鳴る。
     やっぱり今みたいに卒業式の後のライブを考えているからだろうか。……ううん。違う。やっぱり違う。
     結局のところ、高校の卒業式は何事も無ければ一回しかないことだからだ。
     ルフィは先に行ってしまった。三年生は少しだけ遅めの登校だから。だからいつもよりずっと丁寧に準備する。
    「ウタ」
    「シャンクス……ゴードン!」
    「間に合ってよかった。行こうか」
    「ウタ、健闘を祈る」
    「うん!」
     ゴードンだけには話した。卒業式の後、卒業式をジャックして強行ライブをすること。
     きっと怒られちゃうなと笑ったら。それもまた青春だと笑い返してくれて。振り付けを一緒に考えてくれた。ゴードンがいたから、今日に間に合わせられた。
     色んな景色がある。
     わたしの知らない景色がいっぱいある。
     ステージの上からの景色。それも、文化祭のカラオケ大会とは違う。みんながわたしを見てくれる景色。どんなのだろう。わかるのはきっと、一生忘れない景色になることだけだ。
     学校に着いた。校門の前には卒業式の開催を知らせる看板。ゴードンがわたしとシャンクスの写真を撮って、今度はシャンクスとゴードンが交代して。それから通りがかった保護者の人が三人での写真を撮ってくれた。
    「じゃあね、シャンクス。ゴードン。楽しみにしてて」
     心が軽い、足が軽い。背中に羽でも生えてるかのようだ。
    「ふふっ」
     ルフィが言ってくれた。
    「ステージは任せろ! ウタは自分のことだけを考えろ!!」
     頼もしいなぁ、ほんと。
     いつの間にか、頼もしくなっちゃったなぁ、ルフィの奴。
    「生意気だぞ」

  • 196スレを建てた二次創作初心者22/12/06(火) 16:50:45

     卒業式はつつがなく進行していく。
     ライブの衣装はナミに預けてある。卒業式に集中していて良いと言ってくれたから。わたしは信じる。
     多分最後に歌う校歌。それが終わったら卒業証書の授与。
     名前を呼ばれて立ち上がる。クラスの全員が名前を呼ばれ立ったところで、卒業証書はクラスの代表が受け取る。それをクラス分繰り返して。
     在校生の送辞。卒業生の答辞。来賓が三人ほど話して校長の話。それが終わったら閉会のあいさつ。
     そして、わたしの時間だ。
     司会の人が卒業生の退場を告げるタイミングでわたしは立ち上がる。それを合図にステージの幕が下ろされ、ルフィ、ゾロさん、サンジさんが立ち上がる。走るわたしにナミさんが衣装の入った袋を投げ渡して。
    「いってこい!」
    「ありがとう!」
     用意して着る機会のなかったパーカーとアームカバー。ルフィとわたしの合作。
     準備の間、ウソップくんがわたしの演奏したピアノを流して場を繋いでくれて。
     何事かとステージに入ろうとしてくる先生方を抑えるのは。
    「わりぃな。卒業生の送辞がまだ終わってねぇんだ」
    「おいおいマリモ、卒業生がやるのは答辞だぞ」
    「そうだったか?」
    「おまえら! ウタのステージが終わるまで、絶対にステージに誰も入れるなよ!」
    「「おう!!」」
    「きみたち、来賓の方々の前でこのような」
    「下がっていろ」
    「じゅ、ジュラキュール先生」
    「ロロノア、最後まで問題児だな」
    「鷹の目……」
    「剣を構えたからには覚悟しろ。剣士たる礼儀をもって沈めてやる。いまのお前には手加減できると思うな」
    「最初から期待してねーよ」


     「チビナスが、最後の最後に学校に迷惑をかけおって」
    「ほ、保護者の方、ここはわたくしどもが」
    「下がってろ。こんなのでも育てたのはおれだ。覚悟しろ!! サンジ!!!」
    「けっ、男としてここは通せねーんだ。容赦しねーぞ!!」

  • 197スレを建てた二次創作初心者22/12/06(火) 17:00:46

     そして、わたしのライブが始まった。
     幕が上がる。わたしの歌声が響く。
    「みんな!! 今日は卒業式、ありがとう!!! 短い時間だけどわたしと一緒に楽しんじゃおう!!! 始めるよ……」
     ライブ名、考えてなかったの。うーん。
     そうだ、卒業してわたしたちは次の舞台に行く。なら。ここで相応しいのは。
    「NEW STAGE!!!」
     だね。


     ライブは大盛り上がり。ゴードンが満足げにうなずいていた。シャンクスが拍手しているのが見えた。ルフィ達と争っていた先生方も途中からは見ていてくれたし。来賓の人も一曲終わるたびに拍手してくれて。
    「たのしかったー!! みんなー!!! ありがとう!!! これからもみんな、がんばろうねー!!!」
     そして幕が下りる。あっという間だった。……ほんの二十分程度の時間が、こんなにも熱く心に残るなんて。
     響く歓声。上がる熱気。寒いはずの体育館があっという間に熱を持って跳ねるようだった。
     まぁ、それからが大変だったんだけど。
     わたしとゾロさんとサンジさん、ルフィもナミもウソップくんも、春休み中に反省文を持っていくことになった。
     シャンクスとゴードン、サンジさんの育ての親のゼフさんとゾロさんの保護者のコウシロウさんが校長先生に頭を下げていた。校長先生の方が遠慮していたけど。
     ゼフさんが「チビナスが身体を張って守るのがよくわかるライブだった。今度うちに何か食いに来い」と食事券くれた。
    「あーあ」
     本当に卒業しちゃった。
     学校を出て見上げた空。なんの変哲もない。空気が温かくなってくる春の匂いがした。冬も終わるんだ。
    「ししししっ、楽しかったな。ウタ」
    「うん!! って、ルフィはまだ学校あるでしょ! 何帰ろうとしてんの!!!」
    「おっといけねっ!」
    「もう」
     頼りになるなぁと思ったら、これなんだから。まったく……。
     ……ふふっ。
    「ありがとね、ルフィ」
      
     

  • 198スレを建てた二次創作初心者22/12/06(火) 19:49:41

     大学生になった。
     結構忙しい。練習も厳しいし。けど、楽しい。
     学びたいことが学べるってこんなにも素晴らしいことなんだ。ゴードンの言っていた通り、ピアノ以外にも歌もダンスも教えを乞えば学ばせてくれた。
     忙しい割に動画活動にもどんどん熱が入っていくわたしがいる。目に見えて学んだことが活かせてるのかクオリティが上がるんだもん。楽しすぎる。
     色んな所から声がかかって、CDや配信で曲を出す機会が少しずつ舞い込んできた。
    「すげーなウタ!」
     とルフィが真っ先に祝ってくれた。思いっきりハイタッチして笑い合った。
     ルフィには後輩ができた。なんか、女の子の後輩の名前ばかり聞くけどさ。ビビとかレベッカとかしらほしとか。ナミさんから聞くに、色々あってルフィが助ける形になったとかなんとか。……ルフィの良いところで、そこを損なったらわたしの好きなルフィじゃなくなっちゃうけど、だからってこう、もやもやする。そのことを指摘したら「女ばっかじゃねーよ。コビーとかロメ男の話もしただろ」って言うんだけどさ。
     まあ、それはいいや。それはいいや、で流せればいいんだけどさ。
    「悪かったって。ウタ、怒らせたのは謝る。なんで怒ってるのかわかんねーけど!!」
    「わたしもわかんないよ……でも……うん……」
     わかっている。嫉妬だ。ルフィと一緒に高校生活をこれから満喫して、卒業するルフィを見送るだろう女の子。羨ましくないわけがないんだ。
     でもルフィの彼女はわたしだ。そこだけは譲らない。
    「ねぇルフィ……わたし、重くてめんどくさいかも」
    「んなことねーよ。思ったこともねー」
    「……ありがと」
     その言葉が嘘じゃないのがわかるから、めんどくさい女ムーブしなくて済む。
    「大好き」
    「おれもだ。ウタ。大好きだぞ」
     きっとわたしは、ルフィを疑えない。ルフィの言葉には力があるから。いつだって真っ直ぐにぶつかってくれる。
     ルフィの後輩と会う機会があった。みんな可愛い子で、その上いい子だった。すごく。めっちゃ。びっくりするくらい。こんな子に慕われるなんて、ルフィじゃなかったら危ないかもしれないね。そう。ルフィじゃなかったら。

  • 199スレを建てた二次創作初心者22/12/06(火) 19:51:22

     わたしは信じられるから。真っ直ぐ前を向く。走りたい方向に。だって。
    「ウタ、今年の夏休み、おれ、ちょっと海外行ってくる」
    「え?」
    「ちょっとずつ冒険、始めねーと。ウタみたいによ」
     ステージの幕が上がる。わたしは忘れていない。卒業式の日に見た景色を。
    「このままじゃおれ、ウタに置いてかれちまう」
     ここはあの日の体育館よりずっと広い。感じる熱気も段違い。観客席が遠い。けれど、わたしの音楽なら届く。どこまでも。
    「あと、バイトも始めるんだ。じいちゃんが仕事手伝って欲しいって言うからさ。給料良いんだ。しししっ」
     ルフィも、真っ直ぐに前を向いていた。自分の夢の方向を真っ直ぐに。
    「卒業したらまず、世界の果てってのを見に行きたいな」
     前奏が聞こえる。さぁ、はじめるよ。
    「空の果て、海の底。何が待ってるか楽しみだ」
     高校を卒業したルフィは思っていた通り、すぐに飛行機に飛び乗って旅に出た。
     そしてわたしもそのタイミングで。初めての顔出しとライブを開催した。
     はじめるよ。新時代。1stライブ「NEW GENESIS」
    「みんな! やっと会えたね!! ウタだよ!!!」
     負けないよ。ルフィ。
     あんたんとこにも届けるからね。容赦なく。だからわたしにも見せてよね、あんたが見た景色。

     ~完~

  • 200スレを建てた二次創作初心者22/12/06(火) 19:51:32

     ここまでお読みいただきありがとうございました。これにて完結です。感謝を込めてこのスレはここで閉じさせていただきます。初めての現パロでちゃんと駆け抜けられてとても嬉しく思います。途中からレス数の関係上、感想への返信できなくてすいません。保守してくださった皆様、ありがとうございました。
     いやー、楽しかった。書きたかったこと大体書ききったので今は満足です。ではまた、お会いできましたらその時はよろしくです。

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