【SS】トレーナーが交通事故にあったカフェの話

  • 1二次元好きの匿名さん21/10/30(土) 20:20:33

    (初めてSSを書くので文が変なところがあるかもしれません。ご了承ください。)

    ♦︎

    マンハッタンカフェ。先日春の天皇賞を勝利した、僕の担当ウマ娘の名だ。
    次のレースは凱旋門賞を目指す、と言われた時は驚いたし、困惑もした。
    しかし、目指すのならばトレーニングの内容も調整しなければならない。
    そのため、今日はカフェと二人で靴や蹄鉄などを新しく購入しに来ていた。

    買い物は問題なく終わり、トレセン学園に戻ろうとしていた時だった。

    「トレーナーさん、私は……フランスで勝てると思いますか?」

    不安を隠しきれない声色でカフェが話しかけてきた。

    「もちろん。カフェを勝たせるのが僕の仕事だ」

    「……私は、あの子に追いつけると思いますか?」

    「それは……ッ!!」

    気付くのが、遅れた。
    自動車が歩道に突っ込んでくる。
    まずい、この距離だと避けられない……!!

    「カフェ!!」

    せめて、カフェだけは……!全力でカフェを突き飛ばし……

    身体が跳ね飛ばされ、ブレる視界の中で最後に目に映ったのは、こちらに手を伸ばすカフェの姿だった。

  • 2二次元好きの匿名さん21/10/30(土) 20:22:01



    天皇賞・春。あの日を過ぎてから、どうも調子が上がらない日々が続いていました。

    こんな調子で、本当に凱旋門賞に勝てるのか……不安は募るばかり。

    そんな時、トレーナーさんが買い物に誘ってくれました。

    トレーナーさんは私が勝つために全力を尽くしてくれています。

    でも……その期待に応えられなかったら?
    お友達に追いつくことが出来なかったら?
    ……故障してしまったら?

    そんな不安を抱えて、周りが見えなくなっていたから、気付くことが出来なかった。

  • 3二次元好きの匿名さん21/10/30(土) 20:22:40



    「トレーナー…さん……?」

    どうして、車の音に気が付けなかったの?
    どうして、トレーナーさんの手を引かなかったの?
    どうして…轢かれたのは私じゃなかったの…?

    「ぁあ…トレーナーさん!どうして…!!」

    ウマ娘は耳がいい。鼻もきく。
    なのに、気づけなかった。

    それに…身体が頑丈だから、私が轢かれていればこんなことにはならなかったかもしれない。

    「お願い……!起きて…ください…!」

    頭から血を流している。
    脚がおかしな方向に曲がっている。
    トレーナーさんは、動かない。

    「やだ……!だれか…たすけて…」

    聞こえない。トレーナーさんの鼓動も、呼吸も。
    動けなかった。震えが、止まらなかった。

    周囲の人が集まってくる。
    心臓マッサージを始める。
    救急車が到着する。
    その全てを、私はただ、見ているだけだった。

  • 4二次元好きの匿名さん21/10/30(土) 20:23:05



    長い手術が終わった。
    トレーナーさんは一命を取り留めた。
    それでも…

    「頭部に強い衝撃を受けており、いつ意識が戻るかは分からない状態です」

    医者のその言葉は、私を絶望させるには十分だった。

  • 5二次元好きの匿名さん21/10/30(土) 20:23:40

    ♦︎

    『……………ォ…』

    なにか、きこえる。

    『……ォ…………ァ…』

    なにが、きこえる?

    『………』

    わからない。

  • 6二次元好きの匿名さん21/10/30(土) 20:24:25



    あれからよく夢を見る。

    トレーナーさんと一緒に遊園地へ行ったり、一緒にカフェでコーヒーを楽しんだり。

    そして最後は必ず、トレーナーさんが事故に遭う。

    いくら声を出そうとしても、いくら身体を動かそうとしても、自由が効かない。

    そしてまた、目の前でトレーナーさんが血を流す。

    もう…嫌だ…

  • 7二次元好きの匿名さん21/10/30(土) 20:24:59

    ♦︎

    『…ォオ………』

    まただ。
    なにかが、きこえる。
    なにも、わからない。

    きこえなくなった。

  • 8二次元好きの匿名さん21/10/30(土) 20:25:29



    トレーニングは、学園から派遣された代理のベテランのトレーナーさんとタキオンさんの二人に見てもらっていた。

    ただ、最近あの子が現れない。

    前まではほぼ毎回いてくれたのに、最近はごくたまにしか私の前を走ってくれない。

    あなたも…私の前から消えるの…?

  • 9二次元好きの匿名さん21/10/30(土) 20:26:02

    ♦︎

    なにか、いる。
    くろいなにかが、みえる。
    おまえは、だれだ?

    『…………』

    きえた。

  • 10二次元好きの匿名さん21/10/30(土) 20:26:31



    「トレーナーさん、明日にはフランスに向かいます」

    私とタキオンさんはトレーナーさんが入院している病院に来ていた。

    「なあカフェ、最後にもう一度確認しておきたいんだ」
    「君の爪は決して強くない。さらに環境の変化なども重なれば、体重の急増減も再発しかねない」
    「ましてや、失敗したら君の競争生活事態が終わりかねない」
    「それでも…君は行くというのかい?」

    「私がやることは変わりません。フランスに行って、『お友だち』に追いつく。それだけです」

    「…そうか」

    そう。明日からフランスへ行き、調整をして、凱旋門賞へ。それが、私がするべきこと。




    「…なあ、トレーナー。もし君が起きていたら……君はどういう判断を下したんだろうね」

  • 11二次元好きの匿名さん21/10/30(土) 20:26:59

    ♦︎

    「……は……」

    いつものこえとは、ちがう。
    なにかが、ちがう。
    どこかあたたかい、こえ。

    「…あ、…………ら………」

    この声は…どこかできいた覚えが、ある?

  • 12二次元好きの匿名さん21/10/30(土) 20:27:20



    凱旋門賞、当日。
    コンディションは良いとは言えない。
    それでも、私は走るだけ。

    今の私の、全てを出して。

  • 13二次元好きの匿名さん21/10/30(土) 20:27:52

    ▫︎

    病室のテレビが、勝手についた。

    『○○年凱旋門賞、いよいよこれより行われます。今年挑む日本のウマ娘たちは…』

  • 14二次元好きの匿名さん21/10/30(土) 20:28:21

    ♦︎

    ふしぎなおとがきこえる。
    ふ思ぎなかんかくがする。
    このかん覚はなんだ?
    何かが、じぶんの中のなにかが、ざわめいている。

    『ツ イ テ コ イ』

    いままできこえなかった黒いかげの声が、はっきりと聞こえた。

  • 15二次元好きの匿名さん21/10/30(土) 20:28:50



    ゲートに入る。

    一番側で支えていてほしかった人は、未だ目を覚まさない。

    「トレーナーさん…あなたに、見ていてほしかった」

    心に穴が空いたまま、レースは始まる。

  • 16二次元好きの匿名さん21/10/30(土) 20:29:25



    色づいたせかいが見える。
    かん声が聞こえる。
    ここがどこかを、知っている?

    『オ モ イ ダ セ』

    そうだ。
    今、するべき事は。向かうべき場所は。

    黒い影はいつのまにか消えていた。

  • 17二次元好きの匿名さん21/10/30(土) 20:29:52



    ゲートが開き、走り出す。

    4番手付近、悪くない位置。

    今日は先頭にあの子がいる。

    全力で追い掛けて、今日こそあの子を追い越すんだ…!



    レース中盤、脚に痛みが走った。

  • 18二次元好きの匿名さん21/10/30(土) 20:30:21

    ♦︎

    ゲートが開き、レースが始まる。

    もっと近くへ。もっと前へ。

    今できる事を、為すために。

  • 19二次元好きの匿名さん21/10/30(土) 20:30:52



    痛い。脚が痛い。

    なんとか順位はキープしているが、このままだと終盤にスパートをかける事はできない。

    「嫌だ…!何のためにここまで…ッ!!」

    それでも、走らなくちゃならない。

    あの子に追いつくため、速さの極地に至るため、トレーナーさんの想いを無駄にしないため…!

    それでも、脚が前に進まない。
    芝が脚に絡みつく。
    重力が重く身体にのしかかる。

    「嫌…だ…」

  • 20二次元好きの匿名さん21/10/30(土) 20:31:18



    トレーナーとして、彼女を支えることが出来なかった。
    今残されたことは、もうこれしか出来ない。

    ただ、応援することしか。



    「行けえええッ、カフェ!!!」

  • 21二次元好きの匿名さん21/10/30(土) 20:31:51



    声が、聞こえた。
    観客席に、いないはずのトレーナーさんの姿が、見えた。

    「………ッ!!!!」

    身体が軽くなる。
    痛みを忘れられる。
    脚はまだ動く。
    走れ…走れ!!

    「…っあああああああ!!!!!」



    あの子の隣に、並んだ。
    顔はよく見えなかったが、笑っているように感じた。

  • 22二次元好きの匿名さん21/10/30(土) 20:32:27

    ▫︎

    『マンハッタンカフェが1着!
    マンハッタンカフェが凱旋門賞を制しました!!』

  • 23二次元好きの匿名さん21/10/30(土) 20:32:56



    自分でも、信じられなかった。
    これまで見たことがないような光が見えた。
    限界を遥かに超える走りが出来た。
    それが出来たのは多分…

    「……っ!」

    振り返った先に、トレーナーさんはいなかった。

  • 24二次元好きの匿名さん21/10/30(土) 20:33:25



    「カフェ、君は…たどり着いたというのかい…?」

    そう呟くアグネスタキオンの元へ、代理トレーナーが電話を持って駆け寄ってきた。

    「ん?なんだい、日本から電話…?」

  • 25二次元好きの匿名さん21/10/30(土) 20:33:57

    ♦︎

    まるで、長い夢を見ていたかのような感覚だった。

    何も無い、真っ白な空間にずっといた。

    それを影が…お友だちが、連れ出してくれた。


    カフェの勝利を見届けた後、ふと気づくと知らない天井を見上げていた。

  • 26二次元好きの匿名さん21/10/30(土) 20:34:22



    レースの後、すぐに日本に戻ってきた。

    そして、ある場所へまっすぐ向かう。

    ドアを開くとそこには、


    「優勝おめでとう、カフェ」

    「トレーナー……さん…!!」

    意識を取り戻したトレーナーさんの姿がありました。

  • 27二次元好きの匿名さん21/10/30(土) 20:34:48



    トレーナーさんは奇跡的に後遺症がほとんど残らなかったおかげで、今後もトレーナー業を続けることが出来ることになりました。

    私は凱旋門賞の後、脚に炎症が見つかりましたが、無事完治し有馬記念でレースに復帰します。

    そしてタキオンさんはというと、先日会見を開き、レース活動の再開を発表しました。


    弥生賞では、タキオンさんには全くと言っていいほど歯が立ちませんでした。

    でも今なら、あの人に勝つことだって出来るかもしれない。

  • 28二次元好きの匿名さん21/10/30(土) 20:35:21

    ♦︎

    今日は有馬記念。
    カフェとタキオンの復帰戦であり、一年を締めくくる大きなレースだ。

    「やあカフェ!調子はどうだい?」

    「万全です。タキオンさんは……いえ、私にもアナタが最高の状態だと分かります」

    「ふふ、そうかい…言っておくが、負けるつもりはないよ。君が一瞬見た世界は私のものだ!——先に到達させたりはしない」

    「私も負けませんよ…。必ず、目指すものの向こうに——!」

    「いいねえ、そうこなきゃ面白くない!私は先に行ってるよ、ゲート前でまた会おう」

    そう言ってタキオンは去っていった。

    「トレーナーさん、行きましょう……必ず、タキオンさんに勝って、あの子を追い抜いて見せます」

    「ああ…勝とう」


    有馬記念。

    超光速のプリンセスと漆黒の幻影が激突する。


    未来のレース結果は、まだ誰にも分からない。

  • 29二次元好きの匿名さん21/10/30(土) 20:36:33

    以上です。書いてて思ったより長くなっちゃったけど最後まで見てくださりありがとうございます。

  • 30二次元好きの匿名さん21/10/30(土) 20:37:48

    素晴らしい…

  • 31二次元好きの匿名さん21/10/30(土) 20:37:58

    よかった…人バ一体を体現できたんだな…

  • 32二次元好きの匿名さん21/10/30(土) 20:38:09

    このレスは削除されています

  • 33二次元好きの匿名さん21/10/30(土) 20:40:18

    は?最高なんだが?ありがとうございます!

  • 34二次元好きの匿名さん21/10/30(土) 20:41:43

    >>32

    画像間違えた


    良作ありがとうございました

  • 35二次元好きの匿名さん21/10/30(土) 20:50:00

    推定SSであるお友達は自分が乗っていた運搬車が事故って運転手と自分以外の馬が死んだって言う話があるから助けてくれたのか

  • 36二次元好きの匿名さん21/10/30(土) 20:52:53

    あざっす!と言わせていただこう!
    一時的に「お友達」に近い状態になったがゆえのカフェへの後押しよ…
    わざわざトレーナーを連れ出してるあたりが「カフェを助けてやってくれ。俺だけじゃ足りないんだよ、頼むよ」って言ってるようでグッときますわぁ…

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