【SS】ウマ娘ストーリー『オルフェーヴル』

  • 1生贄謙一21/10/30(土) 22:04:28

    『アンタとの日々を思い返すと、つくづく思うんだ………トレーナー。
    あの時、アンタをブッ殺さなくて良かったってな。』

  • 2生贄謙一21/10/30(土) 22:04:41

    ※注意書き(無駄に長いです)
    このSSは、とあるウマ娘まとめサイトのコメント欄で見た「オルフェ芸術家概念」に触発されて執筆未経験の初投稿ながら書いたものです。キャラストっぽくなるようにと4話構成で作ったらクソ長くなりました。

    作者は巷に広がる「ウマ娘のオルフェーヴル(と思しきキャラ)はマスクの有無で切り替わる二重人格」説に対し、『二重人格?ハァ?ヤベーのもおとなしいのも両方オルフェなんだから全然違うわ何もわかっとらん』などと拗らせています。また基本的に舎弟ムーブはしないなど、よく見る😷のイメージとは解釈違いになる旨ご留意ください。
    それと登場人物の一部も完全オリジナルでキャラ設定しています。併せてご承知おきください。

    なお『』はオルフェーヴル、【】はトレーナーのセリフです。「」はその他のキャラ共通で使用しています。
    展開や解釈がおかしい、ウマ娘エミュができていない等のダメ出しはいたいけな幼女を諭すようにやんわりとお願いします。

    ではここから書き溜めをどんどん投下しますので、上記OKな度量の広い方はどうぞお付き合いください。

  • 3生贄謙一21/10/30(土) 22:06:04

    第1話 Rencontre en or

  • 4生贄謙一21/10/30(土) 22:06:25

    芸術は良い。つまらない日常に刺激を与え、面白いものにしてくれる。特に精巧な金細工は、身につければいつでもその美しい輝きと造形を楽しむことができるのが良い。
    走ることは良い。嫌なこともイラつくことも忘れられるし、良いアイデアも与えてくれる。身一つで風となり、何もかもを置き去りにするのは実に心地が良い。
    アタシは芸術が好きだ。走ることが好きだ。
    誰にも、何にも邪魔されることなく、ただ気持ち良く楽しみーーーそしてその先にある"黄金の芸術"をカタチにする。
    アタシが求めるのは、ただそれだけだ。

  • 5生贄謙一21/10/30(土) 22:06:57

    この数日、トレセン学園内は落ち着かない空気に包まれている。
    学園に来てまだ間もない自分でも、明らかにいつもと違うことがわかるほどだ。
    何故だろうと思いながら歩いていると、先輩トレーナーの話し声が聞こえてきた。
    「いよいよ入ってきたか…大丈夫だろうか。才能はあるという話ではあるが…」
    「あのドリームジャーニーの妹ですからね。楽しみではありますが…同じくらい恐ろしくもありますね」
    「ああ、他のトレーナー達もスカウトに踏み切るかどうか慎重に考えているらしい。一体どんなウマ娘なんだろうな…」
    ドリームジャーニー…既にトゥインクルシリーズで活躍しており、G1も獲得しているほどの強豪ながら飛び抜けて小柄なこと、そしてそれ以上にかなり気性が激しいことで有名なウマ娘だ。どうやらその妹が入学したため、その才能と気性に学園中が期待と不安を抱いているらしい。
    【いったいどんな子なんだろう…】
    そんなことを考えながら歩いているうちに、気付けば人気のない校舎裏に迷い込んでいた。
    【しまった、どこだろうここ。戻らないと】
    そう思って周りを見渡すとーーー
    『………』
    おとなしそうな栗毛のウマ娘が、1人佇んでいた。
    【あの…】
    『……………』
    道を尋ねようと声をかけたが、どうやら黙々と何かの絵を描いていて聞こえていないらしい。
    邪魔するのも悪いと思いその場を離れようとしたところ、
    『ん〜………ふぅ…………ん…?』
    彼女と目が合った。そして次の瞬間、
    『うぉわあああああ!?なっ、誰だアンタ!?いつからそこに!?何見てんだ何の用だーーー!??』
    と、ものすごく驚かれてしまった…。

  • 6生贄謙一21/10/30(土) 22:07:35

    『なんだよ、学園のトレーナーかよ…クソ…』
    彼女ーーー栗毛のウマ娘になんとか事情を説明すると、どうにか落ち着いてくれた。
    【驚かせてごめん】
    『いや…別に…』
    【……………………】
    『……………………』
    気まずい沈黙に耐えられず、無理やりにでも空気を変えようと口を開く。
    【と、ところで…君は何をしてたの?】
    『え…。………アタシは…これ。デザイン』
    彼女の持っていたノートに描かれていたのは、ネックレスやバングルなどのアクセサリーと思しき絵だった。
    『…ふと浮かんだんで、消えないうちに…描いてた』
    【君が一から考えたのか?】
    『あ?なんだよ…何かおかしいか』
    【いや、すごいなと思って】
    『!……………あっそ』
    返事こそぶっきらぼうだが、どうやら気をよくしてくれたようだ。
    『……アタシこういうの好きでな。こうして思いついたのを元にして、時々色々自作してんだ』
    【作れるのか!?】
    『お…おう。別にそう難しいことじゃないぞ』
    【そうなのか…すごいな。器用なんだな】
    『………アンタ、ちょっと面白いな。やるよ』
    突然、彼女は何かを投げてきた。慌ててキャッチすると、蹄鉄の意匠が施された金色のネックレスだった。
    【もらっていいのか…?】
    『今はそういう気分なんだ。じゃあな』
    【わ、わかった…ありがとう】
    呆気にとられる自分を尻目に立ち去っていく彼女に、大切なことを聞き忘れていたのを思い出して声をかけた。
    【あの…!君の名前は!?】
    『………オルフェーヴル』
    ポツリと名を呟くと、今度こそ彼女は行ってしまった。
    陽光に照らされて黄金色に光るその後ろ姿が、目に焼き付いて離れなかった。

  • 7生贄謙一21/10/30(土) 22:11:24

    ちょっと1レスの量が多いか…?
    もう少し細切れにします

  • 8生贄謙一21/10/30(土) 22:11:44

    第2話 Lumière dorée

  • 9生贄謙一21/10/30(土) 22:12:15

    オルフェーヴルと出会ってからしばらくしたある日のこと。
    「ヤッバ、また新しいの作ったの!?今回のもイイじゃん、アンタやっぱすごいねー」
    『あざっす…ジョーダンさんも相変わらずすごいッスね。今日のネイルも良い色してるッス』
    「でっしょー?わかってんじゃーん♪今日こそあんたもやりなよ、あたしやったげっし!」
    『い、いや自分はいいッス…』
    オルフェーヴルが食堂で談笑しているのを見かけた。
    以前から話題になっていた存在なだけに、周りのウマ娘からも注目されているようでーーー

  • 10生贄謙一21/10/30(土) 22:12:45

    「あ、あれあれ!あそこでトーセンジョーダンさんと話してるのがオルフェーヴルさんだよ!」
    「えっ、あのおとなしそうな子がドリジャさんの妹!?なんか全然タイプ違うね…?」
    「ねー。最初はどんなヤンチャな子が来るのかと思ってたけど…背は小さめでおとなしくて、なんかちょっと可愛いかも?髪と尻尾なんかすごく綺麗だし触ってみたいな〜」
    そう。後で知ったことだが、彼女と出会ったあの日に噂で聞いたドリームジャーニーの妹こそ、オルフェーヴルその人だった。
    【でも、いまだに信じられないな…】
    あの日以降も度々オルフェーヴルを見かけていたが、その様子はおとなしいものばかりだった。
    話に聞いた姉の気性の激しさや入学前に恐れられていたことと、実際の彼女の姿がどうしても一致しなかったのだ。
    【まあ、噂は噂でしかなかったってことかな】
    そう片付けたのは自分だけではないらしく、今や彼女に対する不安を持つ者はほとんどいないようだった。

  • 11生贄謙一21/10/30(土) 22:13:12

    と、そこへーーー
    「しゃらくせええええ!!アタシ色に染めてやんよジョーダン!!」
    「ちょ、ゴルシ!?って、あーーーっ!!なに人のネイル塗り潰してんの信じらんないんだけど!!」
    『……!』
    「おいゴルシ!てめぇ、今から勝負だっつってんだろ。道草食ってんじゃ……ーーーっ…!」
    「…なーんつってな!大丈夫だよこれただのマヨネーズだから、ホレ取れた!よーし行くぞフェスタ!!」
    「あっ、ちょっとコラ!!…ったくアイツマジ何なの………オルフェ?どーした?」
    『………いや、別に……行きましょうジョーダンさん』
    そう言って席を立ったオルフェーヴルは、突然の乱入者のせいで機嫌を損ねたのか、少し表情が固く見えた。

  • 12生贄謙一21/10/30(土) 22:13:43

    【気のせいか一瞬、何か雰囲気が変わったような…?】
    そんなことを考えていると、ゴールドシップとナカヤマフェスタの会話が聞こえてきた。
    「いや〜〜、危ねー危ねー。面倒なことになるとこだったぜ。何モンだあのちっこいの?」
    「ったくてめぇは…。よかったな間に合って。あいつはドリジャの妹だ」
    「うっげ、マジで?そりゃあヤベーな、Just Awayで正解だったわ。ゴルシちゃんってば迷惑をかけるのは好きだけど迷惑をかけられるのは嫌だからよ〜。触らぬ神にタラバガニ!ハサミに手出しは無用ってな!」
    「まあ、さすがアイツの妹だな。あの一瞬、全ツッパで負けたら終わりの大博打してるみてえなヤベェヒリつきを感じた…気付いたのは私ら2人だけだったみたいだが」
    どうやらこの2人はオルフェーヴルに対して明確な何かを感じ取ったらしい。やはり彼女はただおとなしいだけのウマ娘ではない、ということなのだろうか?

  • 13生贄謙一21/10/30(土) 22:15:58

    それからまたしばらくして、その疑問が明らかになる日が訪れた。
    「ねえ聞いた!?オルフェーヴルちゃんがこれから模擬レースするんだって!」
    「ホント!?あの子、トレーニングじゃすごく良い動きしてるって話だよね?見たい見たい、行ってみよう!」
    【そういえば、走っているところは見たことなかったな】
    自分も彼女がどんな走りをするのかが無性に気になり、見に行くことにした。
    急いでグラウンドに向かうと、ただの模擬レースにも関わらず大勢のギャラリーが観戦に来ていた。中にはトレーナーの姿も多くある。
    「オルフェーヴル…どうやら気性には問題ないらしいし、ぜひ走りを見ておきたいと思っていたところだ」
    「姉の身体能力は折り紙付きで、唯一ややネックだった体格も妹は問題ない範囲。争奪戦になるかもしれないから、狙うなら一刻も早く声をかけたいわね」
    気性難ではなさそうという評判が広まりつつあるおかげで、スカウトしようという動きが活発になっているらしい。
    自分のような新人が担当できるかはわからないが、とにかく走りを見てみたい一心で、レースを見届ける。

  • 14生贄謙一21/10/30(土) 22:16:50

    …圧巻だった。
    直線で外目から先頭に立つと、内に切れ込みながら上がり3ハロン33.4秒というタイムを叩き出し1着でゴール。しかもまだまだ余力を感じさせての勝利だった。
    これにはトレーナー達も驚き、
    「凄い…!今すぐにでもトゥインクルシリーズで勝てるレベルだぞ!」
    「まだまだ粗い走りなのにこの強さ!上手く育てば姉以上、もしかするとクラシック三冠をも狙えるほどの逸材かもしれないわ…!」
    と口々に褒め称えている。
    【すごい…!!!】
    自分もまた、彼女の切れ味鋭い走りが放つ黄金の輝きに、すっかり魅了されてしまった。
    そんな中オルフェーヴルは、ゴールした勢いで自分がいる方へと走り込んできていた。
    あまりにも興奮してしまい、思わず大声で呼びかけた。
    【オルフェーヴル!!!素晴らしい走りだった!!!】
    『…………あ……』
    自分の声に反応して、ふと我に返ったように顔を上げた彼女と目が合う。すると彼女は勢いよくこちらへ近づいてきた。そして目の前まで来た次の瞬間ーーー

  • 15生贄謙一21/10/30(土) 22:17:49

    『てめぇブッコロスぞゴラァァァァァァァァ!!!!!!!!!』
    【がはぁぁぁっっ!!???】
    自分は地面に投げ落とされ、そのまま気を失った。

  • 16生贄謙一21/10/30(土) 22:19:51

    一瞬書き溜めのメモ間違えて消して死ぬかと思った…

    あと「ころす」ってNGワードなんですね、投稿弾かれてびっくりしたけどそりゃそうか

  • 17生贄謙一21/10/30(土) 22:20:18

    第3話 Tyran d'or

  • 18二次元好きの匿名さん21/10/30(土) 22:20:31

    このレスは削除されています

  • 19生贄謙一21/10/30(土) 22:21:18

    >>18

    前にふと思いついてウケたので…

  • 20生贄謙一21/10/30(土) 22:21:38

    【ん………あれ……………?】
    目が覚めると、何故かベッドに横たわっていた。
    【ここは………?】
    自分の置かれた状況がわからず周りを見渡すと、ベッドの横からこちらを覗き込んでいるウマ娘と目が合った。
    「おや、気が付かれましたか。ご気分はいかがです?どこか痛みますか?」
    【えーっと…ここは……?】
    「ここは保健室ですよ。あなたが気絶した後、私が運んできたんです」
    そうだ…だんだん思い出してきた。自分は模擬レースの後オルフェーヴルに声をかけ………何故か地面に投げつけられて気を失ったのだ。
    【ずっとついていてくれたのか?】
    「ええ、まあ。といってもそう長い時間でもないですが」
    どうやらあの後から今目覚めるまで、この娘の世話になっていたようだった。

  • 21生贄謙一21/10/30(土) 22:22:19

    【ありがとう、迷惑かけてすまない。おかげでなんともないよ】
    「いえいえ〜。ご無事で何よりです。しかし良い投げられっぷりでしたねぇ、彼女と何かあったのですか?」
    【いや、特には…】
    思い返してみても、怒らせるような心当たりは全くない。考えられるのは声をかけたことくらいだが…何が逆鱗に触れたのか、さっぱりわからなかった。
    「そうですか…やはりあの方には常人には計り知れない狂気的な何かがあるのですね…フフフ………」
    投げられた理由はわからないと言うと、彼女はなぜか嬉しそうに笑った。

  • 22生贄謙一21/10/30(土) 22:22:46

    「あぁ、失礼しました。私はオルフェさんの同級生で、ウインバリアシオンと申します。皆さんはまだ普段の様子から勘違いされているようでしたが…私はあの方に激情家の一面があることを見逃していません。彼女の持つ美しい金色のルックスと走り、そして狂気は見る者全てを魅了する芸術…あぁ、私も早くあの方と踊りたい…彼女となら間違いなく素晴らしいデュエットに…!」
    口調こそ穏やかだが、ものすごく熱を込めた話ぶりに面食らう。
    どうやらこの娘ーーーウインバリアシオンも、オルフェーヴルに魅せられた1人らしい。
    「おっと、すみませんまた関係ない話を…。さて、どうやら問題ないようですのでそろそろ行きましょうか。生徒会室で皆様がお待ちです」

  • 23生贄謙一21/10/30(土) 22:23:44

    「まったく貴様は…自分が何をしたかわかっているのか!こんな大バカ者は初めてだぞ!」
    『さっきから悪かったって言ってるじゃないスか。もういいでしょ…帰りたい…』
    「それが反省している奴の態度か!」
    【失礼しまーす…】
    「失礼致します。トレーナーさんをお連れ致しました。」
    生徒会室に入ると、エアグルーヴがオルフェーヴルを叱りつけているところだった。オルフェーヴルはどうやらもう落ち着いているようだ。
    「来たか、トレーナー君。無事で何よりだ。案内ありがとう、バリアシオン」
    「いえいえ。では会長、私はこれで…。また後でね、オルフェ。そのうち私とも踊ってね?」
    ウインバリアシオンが退室し、部屋にいるのは生徒会の3人と自分、そしてオルフェーヴルの5人となった。

  • 24生贄謙一21/10/30(土) 22:24:44

    「さて…2人とも揃ったところで、改めて話を聞かせてもらおう。オルフェーヴル、君はなぜあのような前代未聞の蛮行を働いた?ウマ娘の力で人間を投げるなど言語道断、トレーナー君は九死一生と言っても過言ではなかったんだぞ」
    『それは…こいつがいきなり声をかけてきたから…』
    「それが何故暴力行為に繋がるのかと聞いているのだたわけ!」
    『だからぁ…せっかく気分良くゴールして、掴めそうだったデザインを消されたから…』
    「デザイン…?何の話だ?」
    そういえば、出会った時の彼女はアクセサリーのデザインを描いていた。
    どうやら自分が声をかけたせいでそのアイデアが飛んでしまったことが、彼女が激昂した理由らしい。

  • 25生贄謙一21/10/30(土) 22:25:47

    「つまり自分の趣味を邪魔されたから、と?貴様そんなことで人を…!」
    と、エアグルーヴが口を開いた次の瞬間ーーー
    『あ゛?テメェ今なんつったゴラァ!!』
    「なっ…!?」
    『そんなこと、だぁ!?女帝サマだか何だか知らんがテメェごときにケチつけられる義理はねぇぞ!!』
    突然ブチ切れたオルフェーヴルが食ってかかった。ナリタブライアンが止めていなければ、今にもエアグルーヴを投げ飛ばしそうな勢いだ。
    「やめろオルフェ。落ち着け」
    「いい加減にしろオルフェーヴル!このトレセン学園でこれ以上の乱暴狼藉は許さん!」
    『うるせぇ黙れ!!皇帝だろうが怪物だろうがこのアタシの邪魔をするならブッコロスぞ!!』
    【あわ、あわわわわわ…!】
    とんでもない修羅場を前に何もできずあたふたしていたその時、聞き覚えのない声が響いた。

  • 26生贄謙一21/10/30(土) 22:26:18

    「おー、やってるやってる。まったくお前は相変わらずだなぁおい」
    『………!』
    声のした方を見ると、小柄で目つきの鋭いウマ娘が1人、いつの間にか入口に立っていた。
    『姉貴…!?なんでここに』
    「そりゃあ可愛い妹が生徒会に拉致られたって聞いたからさ。しかも…ククッ、ト、トレーナーを…フフッ、ぶん投げたとかなんとかっ…ハハッ、アハハハハハハ!!!にゅ、入学早々っ…トレーナーを…!何してんのオルちゃん!早速伝説作っちゃったなぁアハハハハ!!!」
    「笑い事ではないぞドリームジャーニー!このたわけ姉妹が!」
    「はぁ〜…いやすまん、つい面白くてな。オルフェ、とりあえず落ち着け?話ならこのおねーさまが聞いてやっから、な?」
    『ふん……姉貴には関係ない。もういい、話は終わりだ』
    「待ちたまえ!まだ話は…!」
    ルドルフが制止しようとしたが、それを無視してオルフェーヴルは足早に立ち去ってしまった。
    「あーらら、行っちゃった…そんで?アンタがぶん投げられたトレーナーか?一体何があったんだ?」
    すっかり彼女のペースに巻き込まれて毒気の抜けた生徒会メンバーと共に、オルフェーヴルの姉ーーードリームジャーニーに事情を説明することにしたのだった。

  • 27生贄謙一21/10/30(土) 22:27:19

    第4話 Art d'or

  • 28生贄謙一21/10/30(土) 22:27:45

    「あー、なるほどなぁ。そりゃアンタが悪いなトレーナーさんよ。あいつの邪魔したらそうなるわ、むしろよく骨の一本も折らずに済んだな?」
    こちらの話を聞くやいなや、ドリームジャーニーはあっさりそう言い放った。
    「ジャーニー、彼女はどういう人物なんだ?普段は大人しい様子だが、ひとたび怒髪衝冠となればあのように手がつけられなくなる。まるで二重人格のような二面性…私は正直、オルフェーヴルというウマ娘を捉えかねている」
    「アンタは小難しく考えすぎだ会長さんよ。あいつは二重人格でも何でもない、ただシンプルに自分の楽しみの邪魔をされてキレたに過ぎない。ボーっとしてるのもキレて暴れるのも等しく地続きなオルフェの一面…そこにあるのは裏表じゃなく、気分の違いだけだ」

  • 29生贄謙一21/10/30(土) 22:28:26

    【昔からそんな感じだったのか?】
    「実はな、あいつ昔はいじめられっ子だったんだ。人見知りで大人しかったし身体も小さくてな。その頃から親の影響で芸術が好きで、絵を描いたり何かしら作ったりしてたんだが、それをからかわれたりもしてた。まあ度が過ぎる奴には俺が軽〜く"お説教"してやることもあったが…そのうちあいつ自身が、自分の邪魔をする奴は誰であれぶちのめそうとする暴君になったって感じだ。一体誰に似たのかねぇ」
    「なるほどな…事情は把握した。斟酌する余地はないでもないが、それなりの処分が下されるだろうことは理解してくれ」
    「あー、いいっていいって。あいつはまだまだガキだし、俺と違って落ち着きや加減ってものを知らないからな。アンタも大変だな、会長?」
    「君がそれを言うのか…まあ、私も彼女の走りには期待しているからね。個人的には少しは手心を加えたい気もなくはないが…トレーナー君はどうかな?あくまで今回の被害者は君だからね、君の意に沿わない減刑をする気はないよ」
    【いや、大丈夫。あまり厳しく罰さないであげてほしい】
    「そうか…わかった。ならあとは私が対処しよう。わざわざすまなかったね」
    【じゃあ、ちょっと行ってきます!】
    「うちのバカ妹が迷惑かけたなトレーナーさん。オルちゃんのこと、よろしく頼むぜ?」

  • 30生贄謙一21/10/30(土) 22:29:49

    と、勢い勇んで生徒会室を出たものの…
    【どうしよう…】
    どこに向かえばいいのかさっぱりわからず頭を抱える。
    【とりあえず…あそこに行ってみよう】
    思いつきで向かったのは、オルフェーヴルを初めて見かけた校舎裏。そこにたどり着いて目にしたのはーーーあの時と同じように、美しい黄金の毛をなびかせた彼女の後ろ姿だった。
    【オルフェーヴル…!】
    『……チッ………テメェか…何しに来た。あいつらの元へ連れ戻しにでも来たのか?だったらーーー』
    【ごめん!!】
    『………は?』
    【君の邪魔をして、悪かった】
    『えっ……おぅ………』
    【せっかく良いデザインが浮かぶところだったのに、すまなかった】
    『いや……うん、まあそれは………というか、なんで……?大抵の奴らはくだらないだの何だの言ってくるのに………』
    【だって、君には大事なことなんだろう?】
    『………!!そうか…………こっちも…やりすぎた。……………悪かった』
    【許してくれるのか?】
    『ん………もう、いい………』
    どうやら、怒りはおさまったようだ。ほっと胸を撫で下ろす。

  • 31生贄謙一21/10/30(土) 22:30:42

    『それを……わざわざ言いに………?』
    【そうだけど、それだけじゃない】
    『……?』
    【オルフェーヴル。君の、担当トレーナーになりたい】
    『!!』
    あの模擬レースを見て……いや、きっともっと前から思っていた気持ちを告げる。
    『……アタシに首輪でもつけようって?』
    【まさか。それを言うならむしろーーー】
    彼女の言葉を否定しながら、首元に隠していたものを見せる。
    【君がこっちに首輪をつけたんじゃないか?】
    『!!…それは、あの時の…!』
    そう。初めて会った時に彼女が気まぐれにくれたネックレスを、ずっとこっそり身につけていたのだ。
    『はは……正気か?アタシは…アンタを殺しかけた相手だろ』
    【これからは殺されないよう気をつけるよ】
    『あぁそう…なるほどね。アンタもどっかイカれてんだな』
    心外だ。才能あるウマ娘をスカウトするのはトレーナーとして当然のことであり、自分は普通に気持ちを伝えているだけなのに。

  • 32生贄謙一21/10/30(土) 22:32:10

    『………アタシが求めるのは、"黄金の芸術"だ』
    【黄金の…芸術…?】
    『一つ聞かせろ。アンタにとって…至高の芸術は何だ?』
    言葉の意味はわからない。正確には、彼女が意図するものが何かわからない。だけどーーー
    【………芸術のことはよくわからないけどーーー】
    頭に浮かんだものは、これしかなかった。
    【自分には、ターフを走る君の姿が何より輝く黄金に見えた】
    『………ふっ……ははっ、あはははは!何だそれキモイな!ははははは!!』
    自分的にはこれしかない、という答えだったのだが………そんなに笑われるようなものだろうか………。
    ただ、大笑いするオルフェーヴルという珍しい姿を見られたおかげで、悪い気はしなかった。

  • 33生贄謙一21/10/30(土) 22:32:49

    『は〜………わかった。アンタをアタシのトレーナーにしてやってもいい』
    【本当か!?】
    『あぁ……誰にも、何にも邪魔されることなく、ただ気持ち良く楽しみ、その先にある"黄金の芸術"をカタチにすること。それがアタシの求めるものだ。どんなものかはまだわからない。だが…いずれ必ずこの手で作り上げる。そのために、このアタシの力になってみせろ。いいな、トレーナー」
    【ああ…よろしく頼む!】

    こうして、オルフェーヴルとの日々が始まったのだった!

  • 34生贄謙一21/10/30(土) 22:34:00

    以上です
    初投稿者の拙作に長くお付き合いくださりありがとうございます

  • 35二次元好きの匿名さん21/10/30(土) 22:35:00

    ウマ娘オルフェーヴルの新たな解釈ですか……。
    良いですね……。

  • 36二次元好きの匿名さん21/10/30(土) 22:35:02

    素晴らしいSSをありがとう...
    傑作を読むことができて嬉しい

  • 37二次元好きの匿名さん21/10/30(土) 22:36:01

    おかしいな…俺の端末の育成ウマ娘一覧にオルフェがいないぞ…?

  • 38二次元好きの匿名さん21/10/30(土) 22:36:02

    ウインバリアシオンが踊りたがってるのはバレエ用語の「バリアシオン」からきてるのかな

  • 39生贄謙一21/10/30(土) 22:37:45

    読んで頂いてありがとうございます…!
    投稿するたびに前レスにハートついてるおかげで心折れませんでした。

    ちなみに話タイトルは「黄金の出会い」「黄金の輝き」「金色の暴君」「黄金の芸術」をフランス語にするとこうだってGoogle先生が言ってました

  • 40二次元好きの匿名さん21/10/30(土) 22:38:25

    美しい…
    これほどの金細工は存在し得ないでしょう

  • 41二次元好きの匿名さん21/10/30(土) 22:38:40

    >>39

    フランス語だったのか

    めっちゃいいタイトルだと思う

  • 42二次元好きの匿名さん21/10/30(土) 22:40:55

    名前の由来が「金細工師」から来てる故に芸術家なオルフェか...いい!

  • 43二次元好きの匿名さん21/10/30(土) 22:41:15

    バリアシオンもめっちゃキャラ濃いな...

  • 44生贄謙一21/10/30(土) 22:41:32

    >>38

    その通り、ご明察です

    名前の由来がバレエの「ヴァリアシオン」ということでこんな感じになりました

    勝手な設定として、


    身体が色々と大きくなりすぎてバレエがしんどくなったのでレースに専念したウマ娘。

    ハーツクライのように最強のライバルと熱い闘いを繰り広げ勝つのが夢。


    というのをつけています

  • 45二次元好きの匿名さん21/10/30(土) 22:43:55

    >>44

    ふむ...

    体が色々と大きくなったということはオルフェより背が高い?

  • 46生贄謙一21/10/30(土) 22:47:02

    >>45

    具体的な数字は決めてませんでしたがオルフェよりだいぶ高いイメージです。そして手足も長くボンキュッボンのグラマーなチャンネー(死語)


    ウインバリアシオン号は500kg超の大きめの馬だったのと、低めのオルフェと良い対比になると思ったので

  • 47二次元好きの匿名さん21/10/30(土) 22:48:26

    >>46

    素晴らしいですね...

    私の性癖に合っています...

  • 48生贄謙一21/10/30(土) 22:55:01

    今広く認識されてるキャラも面白いとは思うんです
    でも「オルフェーヴルには暴君と呼ばれる激しい気性や強さとは別にとても繊細な面があった」というのは別々の人格ではなくて、どちらも同じオルフェーヴルという馬の性格なんだということは知ってほしいです
    オンオフははっきりしてましたが、レースじゃなくても撫でようとした人には噛み付くし引退後の繋養先では周りの馬に圧をかけてるらしいし、かと思えば病気の子供にはいつまでも優しく撫でさせる優しさもある
    そのすべてが区別なくオルフェーヴルという馬の魅力だと思っています

  • 49二次元好きの匿名さん21/10/30(土) 23:01:31

    >>48

    貴方のオルフェーヴル解釈も

  • 50二次元好きの匿名さん21/10/30(土) 23:26:03

    このレスは削除されています

  • 51二次元好きの匿名さん21/10/30(土) 23:26:19
  • 52二次元好きの匿名さん21/10/31(日) 03:11:16

    新解釈面白かった

    しかしここまで独自路線やと>>1的にはマスクもないわって感じなんやろか

  • 53二次元好きの匿名さん21/10/31(日) 06:39:21

    >>48

    面白かったです!

    自分は某サイトのひらがなオルフェが好きだったのでこちらの実馬の繊細さの見えるオルフェもすごく好きです

    ジョーダンとの関係も良かったです

    ウインバリアシオンも出てきて嬉しいです

    身長が高いのもボンキュッボンもウマ娘になるとそんな感じがします(元馬的に体重増加イベントがありそうなイメージ)

  • 54二次元好きの匿名さん21/10/31(日) 06:50:46

    これはいいものだ…投稿してくれてありがとう

  • 55二次元好きの匿名さん21/10/31(日) 12:02:21

    皆様読んでくださってありがとうございます!!


    >>52

    マスクは正直オルフェ要素ないと思う(ボロボロだった春天由来説は、それ以前に再審査絡みでの体調不良など他の要因が大きいのと、他キャラはメンコ=耳カバーなのとで疑問)ので要らない派です

    ただそれはそれとしてナイスデザインとは思うので、このSSではつけてるともつけてないとも明言せずご想像に委ねています


    >>53

    やっぱりジョーダンに対しては舎弟ムーブを、と思いつつただ三下やってるだけじゃない感じにしたかったのでそう言ってもらえて良かったです!

    バリアシオンに体重増加イベントありそうなのわかります、最終的に530kg前後とかなりデカくなりましたしね。脚が身体の成長についてこれなかったのが本当に惜しい馬でした

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