- 1二次元好きの匿名さん22/12/03(土) 20:13:12
「アンタさ…褒めないよね。全然アタシの見た目とか。」
トレーニング前にそういう言葉が唐突にシチーから湧いてきた。思わず、計測に使うはずのストップウォッチを落としそうになった。
「そういう上辺だけの言葉を嫌うのはシチーが一番わかっているだろ?」
「…そうだけど…そうだけどさ」
シチーはいつにもまして不機嫌そうにそっぽを向いた。
「アタシさ、レースも…モデルもどっちもガチでやってるんだよね」
それは分かる。彼女はレースにもモデルにも必死に、そして真摯に取り組んでいた。
「だから、その体型とか美容とかも力入れてるんだよ、アタシ。…お人形扱いは嫌って言ったけど…それでも自慢なんだよねアタシの見た目…百年に一人の美少女って言われるのは。アタシの弛まぬ努力の成果だって。」
…妙なところで自信家なのだなと思った。シチー自身は見た目だけを褒める上辺の誉め言葉を嫌っていると同時に自分が弛まぬ努力をし続けてきたことで手に入れた己の肉体に自信を持っている。グッドルッキングウマ娘と称されるその美貌は彼女にとって枷であり、そして自信の現われであった。
「…だからさ、アンタがアタシの見た目についてどうこう言ってくれないのは正直…悔しいんだよね」
めんどくさいのは分かってるけどと自嘲しながら下を向いた。…悪手だったかと今更思ってしまった。彼女が嫌っている行為をとにもかくにも避けようとしていたのが逆に彼女の誇りを傷つけてしまったと…本末転倒だ。
「…シチー、少し聞いてくれるか?」
「…なに?」 - 2二次元好きの匿名さん22/12/03(土) 20:14:02
「最初に言っておきたいんだが俺はシチーのことが綺麗じゃないなんて思ったことはない。食事制限も、ストレッチも、そうやって自分の体を維持してきた君の努力を俺は誰よりも知っている」
「…なに?急にそんなに褒めて…ってか…キモ…」
「…余計に気を遣ったことで逆に君の自尊心を傷つけてしまったなら言わせてほしい。俺は君の走りが好きだ。それからモデルをしているときの笑顔も好きだ。君自身が弛まぬ努力で維持している美貌も好きだ。…何よりも、そうやって心を許してくれているということが…一番うれしいよ」
「……………」
パクパクと口を動かすだけのシチー。ほんのりと赤く染まっているようだ…我ながら事案な告白だと思った。だがそれは嘘偽りのない心からの言葉だ。シチーに届いてほしいとそう思った。
「…ふーん…アンタそう思ってたんだ…てっか…キモ…」
キモとは言われたがシチーはなぜか微笑んでいた。…彼女の心に届いたのだろうか?
「…ま、今はこれでいいから、少なからずアンタがアタシのことが大好きだってのは分かったからさ」
「ああ。もちろんだ」
「……不意打ちよねー…」
それからソワソワするシチーはトレーニングをよそよそしく始めるのだった。 - 3二次元好きの匿名さん22/12/03(土) 20:14:04
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- 4二次元好きの匿名さん22/12/03(土) 20:15:17
「別にいいけど…そういう思わせぶりな言葉、あんまりホイホイと口に出さない方がいいんじゃないの?アンタにはあんま似合ってなかったし」
「自覚はしてるよ。こんなことシチーにも言うつもりはなかったけど、いうならシチーだけだ」
まっすぐにそう面と向かって言ってくるのは他でもないさっき恥ずかしい言葉を並びたてたトレーナー。正直言ってアレをしらふで言い切るんて正気の沙汰じゃない…けどこいつはやってのけた。
「…なら言うのはアタシくらいにしておきなさい。ほかの娘に言うんじゃ通報されるわよ?」
「ああ、わかった。シチーにしか言わない」
…言ってることの意味合いをこいつは理解してるのだろうか。けれどまぁ…
「ならよし」
アタシが今日一番機嫌がいいことは否定できなかった。
散々容姿を褒められることは慣れていた。それでもなぜかアタシはこいつにこの自慢の見た目を褒めてもらいたいと思った、多分それがアタシの心を揺らしたんだと思う。
(あ~もう!なんなのよ…)
トレーニングを終わった後、アタシはベッドに突っ込んでいた。頭の中には悶々とあいつの顔が浮かんでは消えていく。
「…なんでかな…」
正直トレーナーの印象は最悪と言ってもよかった。さんざん追いかけまわしてくれたし、携帯も見られた。それでも悪い奴じゃないのは分かってたし、この心をとかしてくれたことには感謝している。…けれどもあくまでトレーナーとウマ娘という関係だけのはずなのにどうしてかアタシはアイツにそれ以上の言葉を求める。
「……これじゃまるで……」
恋みたいじゃん。そんな言葉が口から出かかってアタシは慌てて口をつぐむ。
(違う、絶対にありえないから。あんなやつ好きになるわけがない。そもそも、アタシはモデル。恋愛禁止だし、恋愛に興味ないし……でも……もし本当に……あいつのことが…)
「どうしたんッスかシチー?」
「…………!!!!」
声にならない悲鳴が上がった。尻尾も思わず跳ね上がり耳も一気に逆立った。
「ごめんッス。驚かせるつもりはなかったんすけど」 - 5二次元好きの匿名さん22/12/03(土) 20:15:51
「…ば、バンブー先輩」
声の主は分かっている。同部屋のバンブーメモリーだ。いつの間にか帰ってきたらしい。そこで気づかないアタシを心配してくれて声をかけたのが大方の流れだろう。
「なんか赤いっスね、シチー」
「…ああ…すいません…否定しきれないのは事実です…」
あんなことを考えていた以上赤面くらいはしているだろうなと思ったが改めて指摘されると恥ずかしい。
「シチー、何かに悩んでいるならアタシに相談してほしいッス。これも風紀委員のつとめッスから」
風紀委員関係あるのかなと思わなくもないが、これ幸いにとアタシはこのモヤモヤを話した。
「…もし仮に、バンブー先輩がとっても世話になった人がいるとしますよ?」
「いるッスね」
「…前提崩れた。…まぁいいか、兎に角そのお世話になった人がいて…その人は自分の地雷を理解してくれて、気を遣ってくれてるんです…けれどその人に…その地雷を褒めてほしいってどういう心情なんですかね」 - 6二次元好きの匿名さん22/12/03(土) 20:16:45
言語化するのが難しい話だ。言われたくないのに言われたい、ハッキリ言って矛盾だ。自分でもこのモヤモヤは言葉に表せない。しかしバンブー先輩は慧眼なのか直観なのか…
「ふむ…ふむ…合点が行ったッス」
「ウソ…?」
バンブー先輩の超速理解に思わず失礼な言葉を口走ったが、先輩は気にすることなく続けた。
「要はシチーは誰彼構わず言われたいということじゃなく、その世話になった人にそのシチーの地雷を言ってほしかったんじゃないんスか?」
「………」
その回答に腑に落ちてしまった自分がいる。確かにそうだ。あいつにだけは……あいつだけには……そう思ってしまっている自分に気づいてしまった。
「……なんだか風紀の乱れを感じるッスね」
…正気に返った。これ以上続けると風紀第一のバンブー先輩の琴線に触れてしまうだろう。早々に切り上げなくちゃとそう思った。
「っと…先輩、アタシこれからマネジに電話するんでちょっと失礼します」
「なんか腑に落ちないッスけど…まぁいいッス。アタシは先に入浴してくるッス」 - 7二次元好きの匿名さん22/12/03(土) 20:17:12
…逃げられられたか。と安心しつつもマネジに電話するのは本当だ。
「…ねぇ。マネジ…アタシさ…許されないこと、思っちゃったかも」
…たぶんこの気持ちに素直になることはできないと思うから。 - 8二次元好きの匿名さん22/12/03(土) 20:20:03
以上です、辻ssする前に荒らしが埋めたのでssだけ投稿しておきました。以上です。
- 9二次元好きの匿名さん22/12/03(土) 20:21:46
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- 10二次元好きの匿名さん22/12/03(土) 20:22:16
あまずっぺぇ
よかった - 11二次元好きの匿名さん22/12/03(土) 20:23:48
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- 12二次元好きの匿名さん22/12/03(土) 20:27:38
形になってくれたみたいでよかったです
どの娘もそうだけど結構特殊な立ち位置にいるシチーだからこそが抱える悩みを同室で多くない年上のバンブーがストンと腑に落ちる解答を導いてシチーも納得してるのが2人の信頼関係が表れてて良かったです - 13二次元好きの匿名さん22/12/03(土) 20:29:01
congratulation…!
- 14二次元好きの匿名さん22/12/03(土) 20:52:58
なんだか変なのが増えてるんだねえ
負けずに読ませてくれてありがとう! - 15二次元好きの匿名さん22/12/03(土) 20:56:44
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- 16二次元好きの匿名さん22/12/03(土) 21:12:18
言わないで言って
どっちなんだい!? - 17二次元好きの匿名さん22/12/03(土) 21:16:42
言え