- 1二次元好きの匿名さん21/10/31(日) 03:08:04
トレーナー室の惨状にマンハッタンカフェは嘆息した。
普段のトレーナー室は、けして整頓されているとは言えないものの、ミーティングやコーヒーブレイクをする為の最低限のスペースは確保されていた。ところが、今は見るも無残な荒れ地に変わっていた。
「いや、捜し物を見つけるのに手間取ってね。これはいけないと一念発起したんだけど」
不要になった書類やメモ書き、埃かぶったチェス盤などが散乱する床に座り込んで、彼は申し訳なさそうに笑った。
「それで、腰を痛めて起き上がれなくなったんですね」
「はは……面目無い」
「トレーナーさんは体がそれ程強くないんですから、無理はしないでください」
彼の体はカフェと比較しても遜色ない程に細い。頭一つ分カフェより大きいのも相まって、枯木のような寂れた印象を受ける。実際、スポーツなどは危険だからやらせてもらえなかったのだという。そんな彼が思いつきで部屋の大掃除という重労働に手を着ければ、こうなるのは自明の理だった。
「このままにはしておけませんから……私も、手伝いますね」
「助かるよ」
「とりあえず……トレーナーさんを安全な場所に移動させますね」
彼を抱き上げる。普通こういうことは男性から女性にするものではないかとカフェは思ったが、すぐに気にしないことにした。ウマ娘が普通の人間男性より力持ちなのは当たり前のことだ。それを差し引いても彼の体は軽過ぎた。有り得ない話だが、そのまま風に乗って遠くへ行ってしまいそうな軽さだった。
「あのー、カフェ? ちょっと掴まれ過ぎて痛いかな」
「あ……すいません」
いつの間にか手に力が入ってしまっていたらしい。一言謝って彼を椅子に座らせる。
「それでは……まずは散らばったものから整理しましょう。要らないもの、必要なものの場合は教えてください」
「分かった。よいしょっと……いてて」
顔をしかめながら彼は楽なように座りなおす。以前聞いた話だが、ぎっくり腰は普通にしていた方が治りが早いらしい。無理しない程度なら、カフェが気を遣う必要もないだろう。 - 2二次元好きの匿名さん21/10/31(日) 03:09:46
よくこれだけのものが広くはないトレーナー室に詰め込まれていたものだ。カフェは呆れを通り越して感嘆すらしていた。自分も片付けを好んでやる方ではないから気にしていなかったが、生徒会の女帝辺りが見れば憤死するのではないだろうか。
「この書類は……」
「それはもう要らない。そっちの書類ももう使わないね」
不幸中の幸いは、彼が即決できる性格だったことだろうか。カフェが聞けば数秒と経たずに返事が返ってくる。そして八割は要らないものだった。物を捨てられないというより、面倒臭がっただけの結果である。
そうして部屋が少しずつ整頓されていく中、カフェは一つのブリキ缶を手に取った。ハロウィン仕様なのだろうか、かわいらしいおばけがプリントされたお菓子の箱だ。
「これも要りませんね」
「ああ、待って……それは要る。捨てちゃ駄目」
ただのお菓子が入っていたのだろうと思っていたカフェは、彼の言葉に手を止める。軽く振ってみると、まだ中に何かが入っているようだった。
「これ……何が入ってるんですか?」
「開けてみれば分かるさ」
言われた通りに開けてみる。中にあったのは赤いリボンと、折り畳まれた茶色い包み紙。
「これは……」
いつかのバレンタイン、カフェが彼に送った手作りチョコレートの包み紙だ。捨てることもなく、失くさないように大事に箱にしまい込んでいたのだろう。
「まだ……持っていたんですね……」
「カフェとの思い出だからさ。捨てるわけにはいかないでしょ」
まあ、実はそれが見つからなくて掃除を始めたんだけど。そういう彼は絶妙に格好ついていなかった。 - 3二次元好きの匿名さん21/10/31(日) 03:13:56
ドン!
- 4二次元好きの匿名さん21/10/31(日) 03:14:54
カッ!
- 5二次元好きの匿名さん21/10/31(日) 03:15:33
ドンドン!!
- 6二次元好きの匿名さん21/10/31(日) 03:16:25
お友だちもリズムを刻んでおります
- 7二次元好きの匿名さん21/10/31(日) 03:18:56
ちなみにカフェがトレーナーさんを抱え上げるときは当然お姫様抱っこである
- 8二次元好きの匿名さん21/10/31(日) 07:31:38
どうして太鼓の達人が始まってるんだ……?
- 9二次元好きの匿名さん21/10/31(日) 07:34:27
もらったものは、やっぱり大事にとっておきたいよね…わかるよ
- 10二次元好きの匿名さん21/10/31(日) 08:26:34
- 11二次元好きの匿名さん21/10/31(日) 09:11:42
まデ死
- 12二次元好きの匿名さん21/10/31(日) 16:59:18
「これで……ようやく終わりですね」
トレーナー室に詰め込まれたガラクタを整理し終える頃にはすっかり日が暮れていた。部屋の済にはぎっしり詰まったゴミ袋が幾つも重ねられている。
「いや本当に済まない。ゴミは責任持って俺が出しておくから」
「駄目です。それで体が悪化したらどうするんですか。このゴミの量……ウマ娘でも苦労しますよ」
「はい……ごめんなさい……」
カフェにキツめに叱られて、彼は椅子に座ったままがっくりとうなだれる。その姿はかつての有名アニメに出てくるボクサーの最期に似ていなくもなかった。
「それよりも……休憩にしませんか。この間新しい豆を買ったのですが……トレーナーさんに淹れる機会がありませんでしたから」
「ああ、それは良いね。俺もワッフルを焼いてきたんだ。そこのバッグに入っている筈なんだけど、潰れてないよな」
コーヒーカップを二つ用意し、平皿の上に彼が用意したワッフルを並べる。
「こうしてトレーナー室がきれいになると、カフェと出会った頃を思い出すね」
「そう……ですか?」
自分も同じく思い出していたことは隠しながら、カフェはコーヒーを淹れ続ける。
「あの時は新しいから部屋に物がなかったけど、今は溢れるくらいに思い出が詰まった場所になっていたわけだ」
「そうですね……私がミルをタキオンさんとの共同スペースからこっちに移したのは、URAファイナルが終わってからでしたっけ」
「そうそう、それまではトレーナー室よりもあっちにいることの方が多かったしね」
コーヒーが入る。懐かしむように彼はシュガースティックを注ぎ、コーヒーを飲む。
「色々あったけど、やっぱりカフェに出会えて良かったと俺は思うよ」
「それは……私もそう思います」
お互い顔に朱がさしていたのは、きっと西陽のせいだった。 - 13二次元好きの匿名さん21/10/31(日) 17:02:49
ちょっとした蛇足のお話
- 14二次元好きの匿名さん21/10/31(日) 21:51:46
トレーナー室が愛の巣になっちまう~
いいぞ… - 15二次元好きの匿名さん21/10/31(日) 21:54:17
甘い、甘すぎる……いい