ネイルサロンを開いたジョーダンの話【トレ♂SS】

  • 1二次元好きの匿名さん21/10/31(日) 21:26:51

     俺がトレセン学園所属のトレーナーになって七年になる。気がつけば三十代も目前に迫り、もう新人トレーナーなんて名乗れない年頃になってしまった。実家の両親からはいい相手を見つけて結婚して、早く孫の顔を見せてほしいとせっつかれているが、最近はチームを設立して何人ものウマ娘を掛け持ちして面倒を見ているのだから、相手を見つける暇もない。

     毎日遅くまで担当ウマ娘のトレーニングの指導をして、週末は毎週のようにレース場に足を運ぶ生活。まあ、出会いがなくて当然のはずだ。

     別にそれでも構わなかった。担当ウマ娘だけに人生を捧げる覚悟で自分はトレーナーになったのだから。まあ、年々増える学生時代からの友人たちの結婚報告を聞くたびに、羨ましいと思わないといったら嘘になるけれど──

     僕がトレーナーになって初めて担当したウマ娘、トーセンジョーダンと再会したのはそんな時のことだった。

  • 2二次元好きの匿名さん21/10/31(日) 21:27:27

     その夜俺ははトレーニングの指導を終えた後トレーナー室でチームの子たちとのミーティングをし、彼女たちが寮に帰ると学園の駐車場にある自分の愛車を出した。

     カーナビの案内に従って目的地の近くまで来るとパーキングに車を停めて、待ち人のいる店までスマホの地図アプリを使って歩いて行くと、彼女に教えられた店名の看板が掲げられている建物に着いた。

     店の玄関には“CLOSED”と書かれた板があるが、事前に「開けて入っていいよ」といわれていたので俺はその通りに扉のノブを手にとって店の中に入った。

     誰の姿も見えない店内は白を基調とした清潔感のある雰囲気で、壁には大量のマニキュアの瓶が並べて飾られていた。お香のような香りがする。アロマを炊いているのだろうか。

     ひとつ確かに言えるのは、全身黒のスーツ姿の自分にはお世辞にもお似合いとは言えないということだろう。

     周りを見渡すと、このネイルサロンの開店祝いの花がいくつも置かれていた。この店の天守の友人から贈られた花にはそれぞれメッセージカードが添えられており、人気モデルから女優へと転身したゴールドシチー、街でケーキ屋を営んでいるエイシンフラッシュ、繁華街のダーツバーで働くナカヤマフェスタ、冒険家ゴールドシップからとあった。

    「みんなが送ってくれたんだ。ゴルシの冒険家ってのがほんと意味わかんないんだけど」

     花を眺めていた僕の後ろからこのネイルサロンの店長、トーセンジョーダンが現れた。

  • 3二次元好きの匿名さん21/10/31(日) 21:28:03

    「久しぶりだね、トレーナー」

     俺は振り向いてにっこりと笑うジョーダンの顔を見た。彼女は最後に会った時より美しく、そしてどこか大人びた雰囲気を帯びてみえた。

    「ジョーダン……」

    「引退して学園を卒業した時ぶりだよね。トレーナー、ちょっとシブくなったね」

    「おじさんになったってことか?」

     俺がそう自嘲すると、ジョーダンは「違う違うそうじゃなくって!」と慌てて両手をばたばたさせた。

    「あたしが言いたいのは前よりもステキになったってことで……もうナニ言ってんのあたし! 忘れて!」

     顔を赤くしてそう言うジョーダンの姿を見て、ああ変わってないなと俺はどこか安心して嬉しくなった。

    「この店の内装、ジョーダンがデザインしたのか?」

     話を変えようと、俺はあたりを見回しながらジョーダンに訊いた。

    「うん! 自分のお店だし、気合入れてやったんだ。お客さんがリラックスしてネイルを受けられるように何度もリフォーム会社の人と相談してさ……だから満足してるんだ」

    「それは良かった。ジョーダンの夢だったもんな」

    「ここまで来るのはイロイロ大変だったけどね。自分はネイリストの才能があるんだから学園を卒業したらすぐなれるって思ってたけど、全然そんなことなくてさ」

  • 4二次元好きの匿名さん21/10/31(日) 21:28:33

    「判るよ。俺も君の専属トレーナーになる前はそうだった」

    「……あたしもね、しばらくは下積みってことで先輩のお手伝いをしてたんだけど、何度もドジしたり調子乗ったりして店長やお客さんに怒られたんだ。だけどやっと認められて、初めてお客さんに自分のネイルをして褒められた時は嬉しかったな」

     そう目を潤ませながら話すジョーダンの姿を見て、俺も彼女との初めてのレース、そして今なお破られていないレコードを叩き出した天皇賞(秋)のことを思い出した。何度も繰り返した悔しい思いとそれが報われた瞬間。それは何ものにも代えられない思い出だ。

    「あはは、ごめん。なんかちょっと悲しくなっちゃった」

     木を紛らわそうとジョーダンは笑うと目に浮かんだ涙を拭った。

    「ねえ、この開くの明日からなんだ。だからまだここでは誰もネイルしてないってわけ。だからさ」

     するとジョーダンはぐいと俺に顔を近づけて上目遣いをした。

    「トレーナーにこの店の初めてのお客さんになって欲しいんだ」

  • 5二次元好きの匿名さん21/10/31(日) 21:28:58

    「えっ?」

     俺は一瞬、彼女の言っていることが理解できなかった。俺にネイルだって?

    「そんな顔しないで、お金取ろうってわけじゃないんだから」

    「いやだけど俺、男だぞ」

    「イマドキ男の人でもネイルをする人はいるんだよ? さあさあこの椅子に座って」

     そう言ってジョーダンは困惑する俺の両肩を掴み、ひとり掛けのソファに座らせた。彼女も向かい側の椅子に座った。

    「それじゃあお客サマ、ネイルのご希望はありますか?」

    「……おまかせで」

     ……逆らってもムダだな。そう悟った俺は満面の笑みを浮かべているジョーダンをみた。

    「ほら、そんなガチガチに緊張しないでリラックスリラックス」

     やれやれ。俺は息を吐いて肩の力を抜いた。

  • 6二次元好きの匿名さん21/10/31(日) 21:29:25

    「ではやっていきましょーか。それじゃあ両手を出して」

     俺はジョーダンに言われた通り、俺と彼女の間にある台に自分の両手を乗せた。俺の手の指先をを、ジョーダンはじっくりと眺める。

    「トレーナーの爪、キレイで整った形してる」

    「そうなのか?」

     正直、爪にキレイとかそういう概念があるとは知らなかった。その爪をジョーダンは手首を取りながら吟味するように見つめている。

    「よし、これならイメージ通りに行けるかも。ベースコート、つまり下地のことなんだけど、これから始めるね」

     そしてジョーダンは彼女曰くエメラルドグリーンのマニキュアの瓶とネイル用の筆を取り出すと、俺のすべての爪にマニキュアを塗っていった。さすがプロとあってムラのない色味で、昔自分が学校の図工の授業で描いたヘタな絵とは大違いだ。

     自分の爪を塗られている間、ジョーダンが色々とネイル用品の説明をしてくれた。なんだか前にもこんなことがあったなと思ったら、そういえば彼女がトレセン学園で現役で走っていた頃も時々こうして俺にネイルに関する講義をしてきたことを思い出した。正直その時彼女に教えられたことは全て忘れてしまっていたので、この機にもう一度覚え直さなければ。

  • 7二次元好きの匿名さん21/10/31(日) 21:30:08

     鮮やかな緑色に塗られた爪が乾き、その艶に感心していると「ここからが本番だから」とジョーダンがいった。

    「左手を出して……薬指だけに塗るから」

     ああ、と俺は左手をジョーダンの前に差し出した。すう、と彼女は息を吸うと、さっきとは別のマニキュアのボトルを出して筆の先に染めらせ、俺の左手の薬指の爪の上に筆を触れさせた。

     そうして彼女は俺の爪の左五分の三を黒色に、右五分の二を紫色に、そして最後に中央の部分に”tosen jordan”と細かい字を描いた。

    「これって……」

    「そ、あたしの現役時代の勝負服モチーフ。参考にするためにその時の衣装着た写真久しぶりに見たんだけど、いやーやっぱハズいね、自分の昔の写真見るのって」

     そういってジョーダンは照れ笑いを浮かべた。

    「それとね、ネイルする爪の位置って指ごとに違う意味があるんだ。たとえば右手の人差し指は集中力を高めるって意味。右手の小指は表現力を豊かにするって意味で、左手だと願いを叶えるって意味があるんだ」

    「へえ……それで、左手の薬指は?」

     俺がそう尋ねると、ジョーダンは少し俯きがちになった。だが再び顔を上げると、何かを決意したような顔で俺の目を見た。

    「……左手の薬指は愛情とキズナを深める」

  • 8二次元好きの匿名さん21/10/31(日) 21:30:48

     この意味、判るでしょ? と言いたげな目をジョーダンは俺に向ける。彼女は、それを知って自分の象徴とも言える勝負服のネイルを俺の左手の薬指に施したのだ。

    「……あたし、学園にいた頃からトレーナーのことが好きだった。ほんと、もし将来結婚するならこの人しかいないって思ってた」

     そう話す彼女の頬が薄く赤色に染まって見える。

    「だけどそんなことできないって判ってたんだ。トレーナーとあたしは教師とその教え子、絶対結ばれないって。それに、大人のあなたが子どものあたしの好きって気持ちを受け入れられるわけないって……」

     ジョーダンの告白を、俺は黙って聞いた。

    「だから学園を卒業する時あたし決めたんだ。今度トレーナーと会う時はリッパな大人の女になって、自分の思いを伝えようって。だから今まであたし、いつもトレーナーのこと思って頑張ってきたんだ」

     そこまで言うと「ねえ」とジョーダンは俺に問いかけてきた。

    「トレーナーはあたしのこと、どう思ってる?」

  • 9二次元好きの匿名さん21/10/31(日) 21:31:29

     ジョーダンは心の中まで見通すような美しい瞳で、俺を見つめた。俺は心の中にある彼女に対する感情を、ゆっくりと整理しながら口を開いた。

    「君が学園を卒業してから、俺はいろんな子たちを見てきた。今まで彼女たちとは色々な素晴らしい景色を見てきたけど……ジョーダン、君と一緒にふたりで見た景色のことは一度も忘れたことはないよ」

     そう言って俺はジョーダンの震えている手を手にとり、彼女と見つめあった。

     そしてお互い静かにゆっくりと顔を近づけ合い、唇を触れ合わせた。彼女の唇の柔らかな感触が、肌の熱さとともに感じる。

  • 10二次元好きの匿名さん21/10/31(日) 21:31:50

     何度か触れて、離れて、を繰り返すと、俺とジョーダンは抱き合って濃厚な口付けを交わした。かつてひとつだったものが再び融合するように、もう二度と離れたくないというように俺と彼女は求め合い、そして溶け合う。

     唇を離して「ぷはあ」とジョーダンが息を漏らした。

    「……向こうにシャワー室と、仮眠室があるんだ。続きはそこでしよ?」

    「……ああ」

     俺が座っていたソファから立ち上がると、ジョーダンに案内されて店の奥にある部屋へ向かった。

    「あたし、いつまでもトレーナーとこうしていたい」

     俺の肩に頭を乗せたジョーダンがいった。

    「心配ないよ。時間はいくらでもあるんだから」

  • 11二次元好きの匿名さん21/10/31(日) 21:33:07

    スレ主です。ネイル等の知識は付け焼き刃なのでその点は見逃してください


    ↓イメージして書いた曲

    Louis Armstrong - We Have All The Time In The World | No Time To Die OST


  • 12二次元好きの匿名さん21/10/31(日) 21:41:18

    いい………

  • 13二次元好きの匿名さん21/10/31(日) 21:44:09

    こいつらうまぴょいするんだ!幸せになれ

  • 14二次元好きの匿名さん21/10/31(日) 22:10:57

    素敵…
    こんなマニキュアされたいな…

  • 15二次元好きの匿名さん21/11/01(月) 00:44:13

    担当バが卒業した後ならいくら好きだっちしてもインモラルにならないからいいな

  • 16二次元好きの匿名さん21/11/01(月) 00:45:53

    あぁ~脳がとろける………

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