【会話文SS】ナカヤマさんのおべんとう

  • 1二次元好きの匿名さん22/12/10(土) 16:06:41

    ──教室──

    「ナカヤマちゃん、ナカヤマちゃん」

    「ん、どうしたアキュート」

    「お弁当、ご一緒してもいいかしら」

    「いいぜ。……相変わらずの減量飯か。アンタも大変だな」

    「もうすぐレースだからねぇ。お腹は空くけど、今回は絞り抜いた方が調子が良いみたいなのよ」

    「そりゃ結構。レース後の食事が楽しみだな。食い過ぎて腹を壊すなよ?」

    「ふふふ、心配してくれてありがとうねぇ」

    「心配とはまた別、ただの一般論さ。……一人飯じゃなくても良かったのか?」

    「ナカヤマちゃんが一人ご飯をさみしがるタイプじゃないのは知ってるけど……誰かと一緒に食べるのも別にきらいじゃないのよねぇ?」

    「私の事じゃない。減量中に他人の弁当見て物欲しくならんのかって話だ。だから、食堂は避けてるんだろ?」

    「そうねぇ、食堂に行くと、やさしい子たちもいーっぱいいるからねぇ。減量中なのを心配してくれる子がたくさん。でも、あまり心配をかけるのも本意じゃないのよ」

    「何だかんだお節介が多いからな……」

    「ふふ。お節介のまわりにはお節介が集まるって言うのよ?」

    「何の事だか」

  • 2二次元好きの匿名さん22/12/10(土) 16:07:11

    「でも、やっぱり一人ご飯はちょーっとさみしいでしょ? その点、ナカヤマちゃんなら、いろいろと汲み取ってくれるから。食堂に行かない理由も、一人ご飯にしない理由もねぇ」

    「……博打に勝つためにゃ下準備をするに越したことはないからな」

    「あらあら。じゃ、ナカヤマちゃんに勝ってもらうために、あたしもいっそう気合を入れなきゃねぇ」

    「あっアキュートさんにナカヤマーなになに今日はここで昼なん?」

    「ジョーダンちゃん、こんにちは」

    「こん〜! ね、あたしもお昼まざっていい? 今日さー購買の限定サンドイッチGETできたんだよねー! みてみてローストビーフサンド、めちゃうまそーじゃね?」

  • 3二次元好きの匿名さん22/12/10(土) 16:07:39

    「ジョーダン、いつもの奴らはどうした」

    「シチーは急な仕事、ほかのメンツはレース場前乗りだったり今日休みだったり海外遠征行ってたりで今日ぼっちなんだわ……って……!」

    「どうしたんだい、ジョーダンちゃん」

    「……あー、いや、やっぱあたし食堂行くわ」

    「約束でも思い出したの?」

    「いや、だって、アキュートさん勝負メシじゃん。ローストビーフサンド目の前で食べられんの、キツくね? これめっちゃおいしそーだし」

    「……ふふ、ジョーダンちゃんも心配してくれるのねぇ。いいのよぉ、一緒に食べましょ? いいわよね、ナカヤマちゃん」

    「アキュートがいいなら私は構わないが……」

    「はい、じゃあ決定。ジョーダンちゃんもそっちの椅子借りておいでなさいな。ジョーダンちゃんの明るいおしゃべりは、食事のいいスパイスになるのよ」

    「あたし塩コショーなの? ん〜〜、でもぉ」

    「あたしと一緒に食べるのはいや?」

    「アキュートさん、その言い方はズルくね? もーーじゃあ一緒に食べるしぃ……」

    「はい、じゃあいただきましょうか。いただきます」

    「いただきます」

    「いっただっきまーす!」

  • 4二次元好きの匿名さん22/12/10(土) 16:09:02

    「そういやナカヤマが弁当なのめずらしくね?」

    「そうそう、あたしもそれ気になっていたのよ、ナカヤマちゃん、いつも食堂か購買のお惣菜パンでしょう?」

    「あ〜、故あってな」

    「ゆえ? ……って、……ナカヤマの弁当、ナニソレ」

    「夢の名残」

    「ゆめのなごり????」

    「これはハムよねぇ? こっちはチーズ……」

    「このカニカマなんで変なとこでちぎれてんの? この緑のくきなに?」

    「ブロッコリーの茎かしら。いびつな形のにんじんもたくさん……」

    「あ、わかった。ちらし寿司じゃね? 刻みのりとうすい卵焼きあるし。ちらし寿司って食材が刻まれてんじゃん」

  • 5二次元好きの匿名さん22/12/10(土) 16:09:33

    「……もしかして、きゃら弁かしらぁ?」

    「えっ?! キャラ弁?! これが?? キャラいねーじゃん」

    「そうじゃなくて、きゃら弁のあまりが詰められてる、ってことよ。ほら、ジョーダンちゃんよく見て、このにんじんは、星型にくり抜いた外側でしょう?」

    「あ、じゃあさ、このセパレーターみたいなカタチのハムもそう?」

    「そうそう。この中途半端な長さのウィンナーは、タコ足にする時に少しだけ切ったのよねぇ?」

    「ご名答。ま、キャラ弁当の名残さ」

    「でもなんで? キャラ弁とかナカヤマのガラじゃなくね?」

    「……勝負を持ちかけたんだよ」

    「きゃら弁の勝負、ってことかしら」

    「だれに??」

    「ニシノフラワー」

  • 6二次元好きの匿名さん22/12/10(土) 16:10:15

    「……ナカヤマ熱でも出てんの? 保健室行く? あんまムリすんな? 冷えぴた買ってこよっか?」

    「ご心配どうも。残念ながら私は正気だ」

    「いやいやいやいくらナカヤマがギリギリの勝負を楽しみてーってヤツでもさぁ」

    「フラワーちゃんは、お弁当界のフェアリー、って呼ばれているのよねぇ?」

    「そ! あたしも見してもらったことあっけどさ、もーすっげーの! なんてーか、弁当がキラキラしてんの! あんなすげー弁当毎日昼に食べられるなんてさー、気分アガらないわけなくね? ほら写真あっから見せちゃる」

    「あらぁ……素敵ねぇ。彩りも鮮やかだし、季節の食材も……」

    「ま、挑んでもねーのにムリとか言いたくねーけどさ……そもなんでそんなことになったん?」

    「先日、購買に限定のキャロットジュースが入荷しただろ?」

    「バスったやつだよね? あれ飲んだけどマジよかったわー。でもバスったやつにキョーミあるとかナカヤマにしては意外」

    「私をなんだと思ってるんだ。寮でヒシアマが絶賛していてな。美浦のおっかさんがああまで言うんだ。試してみるのも一興じゃないか」

    「なる、影響されたってことね」

    「でもそれがどうして、きゃら弁当勝負になったのかしら?」

    「私が購買にキャロットジュースを買いに行ったとき、丁度、フラワーと居合わせたんだ。だが……ショーケースに残っていたのは、件の限定キャロットジュースと、限定は限定でも炭酸キャロットジュースの2本だけだった」

    「ぴったり2本残ってたのねぇ。良かった……、わけじゃ、なかったわねぇ?」

    「そう。私は炭酸が飲めない」
    「そんなガチ顔して言うこと?」

  • 7二次元好きの匿名さん22/12/10(土) 16:10:46

    「聞けばフラワーも炭酸飲料が苦手だと言うじゃないか。……なら、無炭酸のキャロットジュースの奪い合い──勝負するしかあるまい?」

    「いやフラワーちゃん巻き込むなし。なんでそーなんの。フラワーちゃん年下なんだし譲れ?? おとなげねーの」

    「向こうが私に譲ることを譲らなかったんだよ……」

    「あーね……」

    「フラワーちゃんならそうするかもしれないわねぇ。そこで勝負を持ちかけていーぶんにしようとするのは、ナカヤマちゃんらしくて素敵ねぇ」

    「おっと勘違いはよせよ、私はヒリついた勝負をしたかっただけだ。……相手はお弁当界のフェアリー、勝ち筋は妖精の翅よりもさらに細いだろう──が、滾らないわけがねェ……」

    「で、キャラ弁勝負することになったってワケ? 勝負ってことはさ、審査員とかいんの?」

    「丁度通りかかったビコーペガサスだ。お題はキャロットマンのキャラ弁当。実家にいた頃はチビとキャロットマンを見ていた私に死角はないぜ?」

    「息を吸うように巻き込んでくじゃん……」

    「今日のナカヤマちゃんのお弁当がきゃろっとまんの夢の名残なら、きゃら弁当勝負は今日なのね。いまごろビコーちゃん、フラワーちゃんとナカヤマちゃんのお弁当を食べているのかねぇ……」

    「恐らくはな。とにかく賽は投げられた。細工は流流仕上げを御覧じろ、だ」

  • 8二次元好きの匿名さん22/12/10(土) 16:11:13

    「弁当かぁ〜」

    「ジョーダンちゃん、どうしたの?」

    「や、あたし、あんまりお弁当にいい思い出ないかもなーって。小学校のころは給食だったけどさ、遠足のときとか、弁当持たされんじゃん」

    「そうねぇ」

    「バナナはおやつに入るか、よく言い争ったもんだ」

    「バナナはおやつじゃないっしょ。なんかさー、キャラ弁とか作ってもらった記憶ねーなーって思って。あたしのお弁当、いっつもおんなじカンジだった気するわ」

    「バナナはソテーしてもらってデザートとして入れてもらってたわねぇ……。いつもおなじ感じ、っていうと?」

    「ほら、お弁当の歌あんじゃん。これっくらーいの、おべんとばーこに、ってやつ」

    「おにぎりおにぎりちょいとつめて?」

    「刻み生姜、胡麻塩、人参、山椒、椎茸、牛蒡、蓮根、蕗か」

    「まあそんなカンジだったの、あたしのお弁当。べつにすっげーマズイわけじゃなかったけどさ、ほかの子のお弁当が、からあげ!! とか、ハンバーグ!! とか、エビフライ!! とかだったから、うらやましかったなーって話」

    「ジョーダンちゃんのお母さんは、栄養のある野菜をいっぱい摂ってもらいたかったのねぇ」

    「だろうけどねー……」

    「……」

  • 9二次元好きの匿名さん22/12/10(土) 16:11:36

    「そうだ、あたしのレースが終わったら、みんなでピクニックに行かないかしらぁ?」

    「ピクニック? ここ三人で? マ?」

    「ええ、あたしとジョーダンちゃんとナカヤマちゃんで。あたしがおいしいお弁当作って行くわよぉ! ナカヤマちゃんもお手伝いしてね?」

    「そうだな、……アキュートが次のレースに勝ったら考えてもいいぜ?」

    「あら、それなら負けられないわねぇ……なおさら頑張らないと。ジョーダンちゃん、あたしたちとピクニック、行きたくないかしら……?」

    「え、いや、まー、……行ってもいいけどぉ」

    「おかずのりくえすと、ある?」

    「叶うとは限らんが、言ってみるだけ言っておけ」

    「じゃぁ……からあげ。ハンバーグ。エビフライ、たべたい、かも」

  • 10二次元好きの匿名さん22/12/10(土) 16:12:05

    ──後日、食堂にて──

    「あ。アキュートさん、見て見て」

    「どうしたんだい? ……おやおや。フラワーちゃんとナカヤマちゃん。祝勝会かしら?」

     昼下がり、食堂の一角。丸いランチテーブルを囲い、組み合わせとしては物珍しいふたりが談笑している。ニシノフラワーは限定キャロットジュースの瓶を、そして、ナカヤマフェスタの手には、キャロットジュースらしき色味の飲料が注がれた透明なプラスチックカップがあった。

    「シェアすんなら最初からシェアすりゃよかったのにね〜」

    「しぇあはぴ、というものかしらぁ?」

    「そ! ハピれんならハピっとけ? ところであれ、どっちが勝ったと思う?」

    「そうねぇ、きっと──」

    「フラワーちゃん」

    「フラワーちゃんかしらぁ」

     ほぼ同時に言葉にして、トーセンジョーダンとワンダーアキュートはくすくすと笑い合う。
     フラワーは瓶、ナカヤマがカップなら、答えは明白だ。

     よかったらはんぶんこにしませんか? 勝負のあとのフラワーなら、きっとそう言うだろうから。



    おしまい

  • 11二次元好きの匿名さん22/12/10(土) 16:13:21

    アキュートにはあたりが強くないナカヤマ、いると思います。

  • 12二次元好きの匿名さん22/12/10(土) 16:15:06

    ちょうど3人の日常切らしてた
    とても助かる…いい……

  • 13二次元好きの匿名さん22/12/10(土) 16:35:03

    冒頭の「ナカヤマちゃん、ナカヤマちゃん」にお弁当の包みを提げつつ空いた手でチョイチョイ手招きしてるアキュートを幻視した
    前にもこの三人組を書いてた方でしょうか。だとすると、相変わらず自然な会話作りがウマいですね
    かわいい限りでした。確かな満足

  • 14二次元好きの匿名さん22/12/10(土) 17:42:00

    >>12

    助けられて良かった……

    アキュートのエミュがまだ不安定にも程があるのですが楽しんでもらえていたら幸い!

  • 15二次元好きの匿名さん22/12/10(土) 17:43:18

    >>13

    きっと前にもこの三人を書いてた者かと……!

    お褒めいただき光栄です〜!

  • 16二次元好きの匿名さん22/12/10(土) 18:04:27

    よかった

  • 17二次元好きの匿名さん22/12/10(土) 19:22:11

    >>16

    ありがとー!!!

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