[♂トレSS] トレーナーを誘惑しようとするキングカメハメハ Part 2

  • 1二次元好きの匿名さん21/11/01(月) 22:39:56

    「ダービーウマ娘、秋初戦を無事勝利で飾りました!!キングカメハメハ!!」

    「・・・」

    今日のレースもウチのカメハメハが見事に差し切って制した。これなら、来月に控えた天皇賞・秋もいい勝負が出来るだろう。兎に角、まずは帰ってくるカメハメハを出迎え労うのが最優先事項だろう。

    「お疲れ様、キング。今日も良いレースだったよ。」

    部屋に戻ってきた彼女に、手にしていたタオルと水を手渡す。カメハメハは、手渡された水を頭から被り、タオルを顔に押しつけ汗と水を拭う。

    「ありがとう、トレーナーさん。今日も気持ちよく走れたわ。」

    「今日のレースを見る限りだと次の天皇賞・秋は問題なさそうだね。有馬は少し距離的に厳しいかも知れないけど、天皇賞はキングが一番人気だろうね。有馬より100mほど短いジャパンカップも悪くないかも知れない。いや・・・」

    トレーナーさんが珍しく饒舌になっている。これは、彼が興奮した時の証拠。多分、私の走りで彼の猛々しい所が首を擡げて来たのだろう。これは、もしかして狙い目かしら?

    「トレーナーさんったら興奮し過ぎよ。もしかして、私の走りに魅了されちゃったの?それなら、もう少しだけ・・・付き合ってあげるけど・・・どう?」

    「・・・僕はもう君に魅力されているよ。初めて会った日、君の走りを一眼見た時から。」

    「・・・な、何でもないわ。それよりも今大事なのは、次の天皇賞・秋に向けた練習だと思うんだよね・・・!!」

    藪蛇とはこの事を言うのだろうか?少し突いたらトンデモないカウンターを喰らった。やっぱり、先輩の策は彼には通じ無さそうだ。これなら別の先輩の策である "トレーナーを自分の実家に連れ込む" にシフトチェンジした方が良いかもしれない。
    個人的には、ダラダラ伸ばすと碌でもない事になるのは過去の先輩方の姿を見る限り明らかなので短期決戦に持ち込みたいが、彼がそのスキを一切みせてくれない。さっきみたいにちょっと餌を垂らしても餌だけ取られて、こっちがカウンターを喰らうだけ。
    これは、冗談だけど私が怪我をして走れなくなったら責任を取ったりしてくれるのだろうか?しかし、それは美しないから、この手はあり得ない・・・

  • 2二次元好きの匿名さん21/11/01(月) 22:56:23

    「キング?どこに行ってるの?帰ってきなさい。」

    トレーナーに肩を叩かれて現実に引き戻された。

    「・・・!!ごめんなさい、トレーナーさん。少しこの先のことを考えていたら、考えが止まらなくて・・・ッ」

    突然、右足に痛みが走る。ピリピリと言うべきかジンジン・・・まだ、そこもまで痛くないが足に違和感があるのは事実。

    「ちょっと足を見せて・・・君は椅子に座ってて。」

    部屋にあるソファに腰を下ろす。足に視線を向けると右足の後ろが全体的に腫れている。触らないでも分かる。屈腱炎だ。これに罹ったウマ娘は二度とターフに立てなくなる。過去にも名だたるウマ娘もこの病の前になす術なくターフを去って行った。つまり、私はもう走れないのである。

    その後は、会見も今夜行われる予定のライブも出演キャンセルし、病院に転がり込んだ。その結果は、芳しくないものだった。お医者さん曰く、患部の状況は決して芳しくないものだとの事であった。
    もし直すにせよ最低で半年、長ければ一年ほどは療養とリハビリに時間を費やすことになる。そして、仮に治ったとしても走れるとは限らない。医師としては、引退を勧めると言うことだった。
    とりあえず、医師の勧めで今日明日は入院することになった。が、二晩寝れば治る訳ではない。一年寝て過ごそうとも治るかどうか分からない。トレーナーさんは、担当医と話し込んでいてもう二時間近く帰ってこない。
    私は、大学病院の広い個室の中で一人っきり。不思議なことに少し前までは、周囲に人がいる状況を自ら避けていたのに、今は人がいる所に入って行きたい。独りが寂しい。とてつも無く心細くなる。
    以前、怪我をした先輩が居たが怪我をする前は周囲からチヤホヤされていたのに必死で治して復帰した時には先輩の人気は別の子に取られ見向きすらされなかった。その後、その先輩は二度と走ることなく学園から去って行った。
    つまり、私もそうなる恐れを十分に孕んでいるのだ。事実、私の同期の躍進は目覚ましく今回のレースも今まで以上に白熱したものだった。だから、来年の今頃に復帰したところでその時に世間は、躍進する同期と新しい子に注目し私は、見向きすらされないだろう。

  • 3二次元好きの匿名さん21/11/01(月) 23:16:51

    その時、私の病室のドアがコンコンと小気味いい音を鳴らした。

    「・・・誰ですか?」

    いつもの通り答えたつもりだったが、いつもより低く小さい声だった。

    「・・・僕だよ。開けてもいい?」

    トレーナーさんだった。『うん』と答えたつもりだったが、その声は声になっていなかった。トレーナーさんは、沈黙は同意と見做したのか静かにドアを開けて入って来た。

    「・・・キング。・・・いや、なんでもない。」

    多分、彼は『身体の調子は・・・』か『気分はどう』と聞こうと思ったのだと思うが、そもそも身体の調子がよく気分が良ければ此処にはいないという事を瞬時に思い出し、謝ったのだと思う。それが、とても申し訳なく感じる。

    「・・・身体も気分も大丈夫ですよ、トレーナーさん。」

    「なら、良かった。」

    彼はベッドの横になる一人がけのソファに腰を下ろした。手にはいつも読んでいる小説があった。

    「君のこれからの人生は二つある。一つは、潔く引退し後輩に道を譲る。もう一つは、見苦しい限りに踠き泥水を啜り泥まみれになりながら再びターフに立つ。このどちらかだ。」

  • 4二次元好きの匿名さん21/11/01(月) 23:41:56

    「私は、どうするべきかしら・・・トレーナーさん。」

    「僕は、君の考えを尊重するよ。それが、どんな答えであっても・・・だ。当たり障り無いペラい言葉だけどもさ、」

    彼は自嘲する様に吐き捨て、そっぽを向いた。本音を言えば、怪我で引退なんかしたくない。まだ走れるし、走りたい。でも、周囲の注目を考えればもう走らない方が良いのかもしれない。そうだ、さっさと引退してトレーナーさんと結婚し沢山の子供に囲まれて幸せに暮らす方が良いのかもしれない。無理に走り続ける必要もないだろうし・・・。

    「トレーナーさん。私は・・・引退しようと思います。治るかどうか分からない、たとえ治っても走れるかどうか分からないから・・・」

    「そうか・・・分かった。君の選択がそうならそうしよう。でも、発表はまだでも良い?」

    「えぇ・・・それは構いませんよ。トレーナーさんに一任するわ。」

    「分かった、ありがとう。おっと、呼び出しだ・・・代理か。きっと君のことかな。それじゃあ少し行ってくる。数時間で戻ってくる、遅かったら寝てて良いよ。」

    トレーナーさんは、私のベッドの上に本を置いて部屋を後にしようとする。

    「そうだ・・・これは、僕の持論なんだけどね、未来は・・・一方向だけに向かってる訳じゃないと思うんだよね。僕たちにも選択できる未来があると思う。それじゃ、お休み。キング。」

    「・・・!!」

    答える暇すら与えず、彼は部屋から去って行った。彼の残した言葉を口に出して反芻する。。

    「選択できる未来・・・私の選択できる未来・・・?」

    選択できる未来、私に選択できる未来は彼が言った他にもある・・・?でも、今の私に選ぶことが出来るのは、怪我を直すことしかできない。でもそれは、あくまでもはじめの一歩なだけであってこれからどちらに進むのかは私次第・・・時間は少ない。とにかく今は怪我を治さないと、そうしないと何も始まらない。

  • 5二次元好きの匿名さん21/11/01(月) 23:58:24

    「代理、お呼びでしょうか?」

    傷ついた担当を放置し、僕は都内の老舗ホテルのレストランの窓辺の席に座っていた。僕の向かいに座っているのは、樫本 理子。中央の理事長代理だ。今夜、直々に呼び出されたのはキング故障の説教だろう。

    「そんなにかしこまらなくて良いですよ、トレーナーさん。今夜、貴方を呼んだのは他でもありません。」

    代理は、口にしなくても分かっている、と思っているのだろう。そうだ、分かっているそんなこと。誰に言われるまでもない。代理はウマ娘の身体と精神に常に細心の注意を払い、ウマ娘ファーストと言っても差し支えないもの標榜している中で、俺は期待のウマ娘の脚をブッ壊したのである。新任だからしょうがないと言う人もいるかも知れない。確かに俺には次がある。だけど、キングに次はない。これでおしまいなのだ、俺は次があるのに?俺もこれでおしまいにして欲しい。

    「・・・キングは引退すると言っていました。僕も、キング関連の諸々の仕事が終わったら辞表を提出し、故郷に帰ります。」

    「・・・そうですか、それは残念ですね。あなた達の様な優秀な人材が辞めてしまうのは大きな痛手ですが、仕方ないでしょう。しかし・・・その前に一つ提案があるのですが、辞表を提出するのはそれからにしても良いですか?」

    「提案・・・なんでしょうか?代理。」

  • 6二次元好きの匿名さん21/11/02(火) 00:03:55

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  • 7二次元好きの匿名さん21/11/02(火) 00:09:29

    >>6

    追伸です。今回はこれで終わりです。モチベが続く限りは書き続けるつもりなので、よろしくお願いします。そして、遅れましたが、前回のスレで感想を書いていただきありがとうございました。

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