- 1二次元好きの匿名さん22/12/13(火) 21:52:25
このSSには、走れなくなったウマ娘が登場します
苦手な方はご注意ください
インスピレーション元(>>26さん)
スズカさんとアルダンに耳元で囁かれて|あにまん掲示板ビクッてならなかった奴だけが出れる部屋だbbs.animanch.com - 2二次元好きの匿名さん22/12/13(火) 21:53:21
なんて、とねっ子じみたことを言ったのだろう。
口にしてから私、サイレンススズカは顔から火が出そうなほど己を恥じた。
元々、コミュニケーションに長けていなかった自覚はある。
トレーナーさんが他の誰かに目を向けても、「私の方が速く走れます」としか言えない程度には。
趣味も特技も、生き甲斐も全てが走ることだったから。それ以外に何を言えるか、考えもしなかった。
……もう、その先頭の景色を見せてくれていた左足は動かない。
命が助かって良かったと言われるほどの骨折を経て、私より遅いウマ娘は見当たらなくなった。
少なくとも、トレセン学園の現役ウマ娘の中には。
バ鹿げている。
鍵すら閉めていない扉と、すぐ目の前に庭のある窓。
この部屋にトレーナーさんを留める仕掛けなど一つもない。あるとすれば、それは私の我儘だけ。
「そうか、どうすれば出られるかな」
ほら、また付き合わせてしまった。病院で目覚めた直後に土下座されて、心底後悔したというのに。
好きな時間帯に好きなだけ走りに行って、何キロ走ったかも何時間走ったかも正確に申告できない。
そんな生活の末に骨が折れたのは自業自得だといくら懺悔しても、トレーナーさんは首を横に振り続けた。
『君の大好きなランニングをメニューに織り込みきれなかった、俺の責任だ』
そんなはずはない。でなければ、辞表を断られはしない。新しいチームを任されたりなんてしない。
天才の足を壊してしまったと彼は言うけれど、私こそ有望なトレーナーさんを我儘で縛っている。
だからこんなことを言ってる困らせている場合じゃないし、そんな権利なんてないのに……。
トレーナーさんはどこまでも律儀に、この一言へ付き合うと決めたみたいだった。
「スズカ、どうしたら出られるか知っているかい?」 - 3二次元好きの匿名さん22/12/13(火) 22:01:08
「え……あ……」
どうして、欲しかったんだろう。
せっかくトレーナーさんが戯言に振り向いてくれたというのに、続く言葉が出てこない。
きっと折れる前の私なら、走りを見て欲しいと言ったに違いない。
走って、走って、走りをトレーナーさんが見てくれる。それ以外は何もいらなかった。
でも今はそれを言うわけにはいかない。彼の顔を曇らせてしまうに違いないから。
「……そうだ、その髪をすっかり梳かしたら出られるかな?」
「ええっ?」
何も言えないでいると、トレーナーさんは私の栗毛をすくって提案してくれた。
走れなくなってからというもの、整える気力も亡くなった髪はずいぶん乱れている。
「それじゃあ、じっとしていてね」
男の人にそんな髪の具合を見られてしまった。それも、よりにもよってトレーナーさんに。
そして櫛を持ってきたかと思えば、本当に髪を梳かれ始めて――
「ぁっ」
思考も感情も追いつかずに、何も言えないでいる私の髪を、トレーナーさんは一本残らず綺麗に梳いてくれた。
手を抜いたところで何も言わない、言えないのに、トレーニング後のマッサージのように入念に。
赤くなったり紅くなったり、良い気分も落ち込む感情も乗って頬は染まりっぱなしになる一方で。
集まった血は、一滴たりとも声には変わってくれない。 - 4二次元好きの匿名さん22/12/13(火) 22:06:38
「うん、すっかり綺麗になった……どうだろう、出られそうかな?」
トレーナーさんが髪を梳いてくれた。トレーナーさんに髪を梳かせてしまった。
色んな思考がまざりあったまま聞いた問いかけに、どこまで物を考えて頷けたかは定かじゃない。
でも、否定だけはせずに済んで良かった……それは良いこと、なの。
これ以上引き留めたら、トレーナーさんを遅刻させてしまっていただろうから。
「行ってくるよ、また夜には来るから」
嬉しい、恥ずかしい、情けない、気持ちいい、ごめんなさい、ありがとう。
そのどれをも言えないでいる私を、閉まった扉がちょうどよく隠してくれる。
それは、間違いなく良いことだった。
代わりに涙から溢れさせてしまったものを、見せずに済んだのだから。
「いちに! いちに!」
窓の外から、掛け声が聞こえてくる。一緒にはもう走れないかけ声が。
こちらに泣かずに済んだのは……さっき流しきった、からなの? - 5二次元好きの匿名さん22/12/13(火) 22:15:08
「スズカ、今日はどうすれば部屋から出られるかな?」
「……トレーナーさん?」
もう二度と、あんなことを言うつもりはなかった。
そうしたらトレーナーさんは、自分から同じ質問を繰り返すようになった。
また、何も言えない。あんな我儘を繰り返すなんて、というのもあるけれど。
走りたい以外の言葉がまだ見つからない。
「そうだ、二人で食事をしたら出られるかな?」
新しいチームの子たちのデータを見て、レースの準備もしなければいけないはずなのに。
トレーナーさんはまた提案をして、後で食べるつもりだったトレイを持ってきてくれた。
「口に合うかな?」
新しいチームの子たちの体調を確かめて、食事量や体重の管理だって大変なはずなのに。
トレーナーさんが看護師さんと打ち合わせしていたことを、私は知っている。
私のために、アレンジを加えてくれた病院食。それをスプーンで口に運んでくれる。
「そうか、良かった」
ああ、なんとか頷けた。それ以上は唇も、首も動かせなかった。
そうしたらまた、目から余計なものを流すところを見られてしまっただろうから。
久しぶりの味がする。走れなくなってから、ずっと感じなかった足が。
何度も勝むのを中断してしまった私を、トレーナーさんは最後の一口まで見守ってくれた。 - 6二次元好きの匿名さん22/12/13(火) 22:30:12
「スズカ、今日は何が部屋の鍵になってるのかな」
「……今日は」
トレーナーさんはまた、素振りすら見せないようにしても同じように聞いてくれる。
もういいなんて遠慮すると、かえって困らせてしまいそうなくらいに寄り添ってくれる。
だから、それらしい答えを用意しようとした。それでも、答えが出てこない。
困らせている身で困っていても、彼は嫌な顔ひとつせず尋ねてくれる。
「どうだろう、この服をスズカが着たら扉は開くかな?」
「は…………はい。きっと」
今日のトレーナーさんは、準備万端だった。
以前好きだと言ってくれた、白字に緑色のアクセントのあるワンピースを持ってきてくれた。
この前に髪のことを恥ずかしく思ったばかりなのに、服にまで気を遣わせてしまうなんて。
元々あまり気を回していなかったけれど、走れなくなってからはすっかり忘れ去っていた。
「……あー、スズカ。着替えている時だけは開くよな?」
「!?」
……ただ、今日のトレーナーさんは準備でお疲れみたいだった。
着替えを持ってきてくれたというのに、着替えるという過程のことは頭から抜けていたみたい。
全てを忘れていた私が癒えたことではもちろん、ないのだけれど。
「クローゼットなら、開きます」
「いやいやそんな…………わかったよ。どこにも行かないから」
ごめんなさい、トレーナーさん。はい出られますとすら言えない私で。
ありがとう、トレーナーさん。そんな私を、鏡の前まで連れて行ってくれて。
随分久しぶりに意識して着替えた服は、灰色の多かった私の視界を彩ってくれた。 - 7二次元好きの匿名さん22/12/13(火) 22:48:21
切ねえ
- 8二次元好きの匿名さん22/12/13(火) 22:48:34
それからもトレーナーさんは、私の部屋を訪ねる度に、出られる条件を"探し"てくれた。
ある日のここは、庭先の花をスケッチしたら出られる部屋になった。
綺麗なお花だという月並みの感想すらようやく出て来た私に、トレーナーさんは見事な一枚を渡してくれる。
そして、ポイントを絞って写生するコツを教えてくれて……私の不慣れな絵を褒めてくれた。
彼が出かけた後にもう一枚描いたのを見せると、顔を綻ばせてくれたことを今でも覚えている。
別の日のここは、ペン回しを続けられたら出られる部屋になった。
チームの練習に早く行ってもらわないといけないのに、出かけられると意識して失敗してしまった私を
トレーナーさんはとねっ子の遊び相手のように宥めてくれて、ペン……ではなく指を見守ってくれた。
別の意識で失敗しそうになったのを気合で立て直した後、変になっていたかもしれない顔を覆った。
毎日必ず違う"条件"だとは、限らなかった。
特に、少しでも乱れていると髪を梳かないと出られない部屋が再び"出現"するのは心臓に悪い。
未だにおろおろする私の栗毛を、トレーナーさんは飽きもせず梳いてくれた。
その日だけは、足が治ったとしても走れるか怪しいくらいにとくとくと心拍が乱れ打つ。
……逆に、早くトレーナーさんを仕事へ行かせてあげないとと焦った日の"鍵"は二度と持ち出されなかった。
別の理由で平静を保てない櫛の形をした髪は、その後も何度か出て来たというのに。 - 9二次元好きの匿名さん22/12/13(火) 23:08:04
一度たりとも。本当に、一度だって欠かさずに。
トレーナーさんは私の部屋から出られる条件を聞いて、答えられない私を慮って、何かを提案してくれた。
二度と口にできない願いばかりが逃げて差して、他を置き去りにしているというのに。
他がゴールするまで穏やかな顔で見守って、空っぽの私をどうにか満たそうとしてくれた。
彼には、感謝しかない。彼が私のことを考えてくれているだけで、酷く冷たかった胸が温まる。
だから……ずっと言いたかった一番の願いを叶えようとしてくれたのに、あんな反応なんてしたくなかった。
でも。
「スズカ、どうだろう。今日はこれをつけたら出られるかな?」
私の元の足とは、あまりに違う造り物。
硬くて冷たい義足を目にするなり、あろうことか私はずっと我慢してきた涙をぼろぼろ零してしまった。
違う。これはトレーナーさんが私のために持ってきてくれた、私の願いを叶えようとしてくれたものなの。
頭ではそうわかっているのに、歪む視界を元に戻すことができない。嗚咽でろくに返事ができない。
こんなに無機質なものをつけないと、もう私は走れないんだって。
その"事実"と毎日過ごしていたはずなのに、最悪な掛かり方を収められなかった。
「ごめん、ごめんよスズカ。ごめん……!」
違う。トレーナーさんは何も悪くないのに。
ずっと私のために鍵を探してくれているのに。
「ごめんよ、スズカ。今日はこれを持って出る日にしよう。ね?」
あやまらないで、の簡単な一言すらいえないでいる私の頭をそっと撫でて。
こんな時まで口にした条件で、静かに扉を閉めて……そしてわざわざ、戻って来てくれた。
「……今日は改めて、別の鍵を探してもいいかい?」 - 10二次元好きの匿名さん22/12/13(火) 23:31:03
思えばあの時に泣けたのは、トレーナーさんのおかげで色々なものを取り戻しかけていたからかもしれない。
わからなくなっていた色や味を思い出したからこそ、義足の形も温度も正確に捉えられたのかもしれない。
でも、掛かっている最中にそうやって分析することはできなかった。
例えゲートに入ったって潜り出てしまいそうなくらい、彼に甘えきっていた。
「今日は……一緒に映画を見たら出られる部屋だったりしないかな?」
トレーナーさんは、以前にも増して慎重に鍵を探すようになった。
そう悟らせないようにしているみたいだけれど、漏れ出てしまう……それだけ私が困らせている証拠だ。
今日一緒に観た映画だって、アクションシーンどころか動きもほぼないのに、退屈しない一作だった。
何本の候補から選んでくれたんだろう。撮られたのは、私が生まれる前らしい。
良くないことだとはわかっていた。でも、一度緩んだ涙腺は義足を思い出す度に決壊した。
まるで悪い薬に溺れて行く人のように、私はトレーナーさんを出られない部屋に閉じ込め続ける。
「え……あ、トレーナーさん!?」
三女神様。罰は、私に下すべきです。禁断症状が出るのは私のはずです!
どうしてトレーナーさんがしゃがみ込むんですか!?
「だ、誰かっ トレーナーさんが、トレーナーさんが!」
片足立ちをして、壁伝いに移動するしかできない無力な私は夢中で喚きました。
お願いです三女神様、私はどうなってもいいから彼を助けて……!
「たわけ、大げさすぎるぞ」
……一三女神様は、確かに助けてくれました。エアグルーヴからのお小言と引き換えに。
時的に立っていられなくなったものの、MRIも心電図も何ともない貧血だとの診断書が示される。
よかった……と思えたのは、一瞬だった。貧血になった理由に、心当たりは一つしかなかったから。 - 11二次元好きの匿名さん22/12/13(火) 23:53:18
「俺の自己管理不足だよ、スズカのせいじゃない」
トレーナーさんにあの日させてしまった土下座どころか、お辞儀すら不自由する私の謝罪を聞いての第一声。
彼は優しくそう言ってくれるけれど、彼は現実を認めてくれない。
チームの指導者をしながら私に寄り添い続ける二重生活が、どれほど大変だったか。
私生活という三つ目を捨て去ってまで、私の我儘に付き合って……文句ひとつ言おうとしない。
でも、それはもう終わり。これはきっと、三女神様からの忠告なんだ。
あるいはもしかしたら、優し過ぎる彼に代わって彼の身体が抗議してきたのかもしれない。
ただ、それをいくら懺悔したってトレーナーさんが私を責めてくれることはないだろうから。
今日こそ私は、自分で出さないといけない。
トレーナーさんじゃない。私が、閉じこもっている部屋から出る鍵は何なのか。その答えを。
「トレーナーさん……あの義足、また持ってきてくれませんか?」
「スズカ、それは」
躊躇いがちなトレーナーさんに、私は今度こそ首を横に振って頼み込む。
彼が何度も梳かしてくれた髪を振り乱してでも、言わないといけないから。
「良いんです。元のように駆けられなくたって、先頭に立てなくたって」
折れる前の私なら、決して言わなかっただろう言葉。
最初に提案してきたトレーナーさんに息を呑ませてしまいつつ、唇を動かす。
空っぽだった……空っぽにしていた頭を、ありったけ回して。
「せめて大切な人に駆け寄る足を、ください」
きっと、文字に起こしたように綺麗に発音できてはいなかった。
涙交じりで、みっともない響きだった。でもやっと……私は自分で、鍵を差し出せた。 - 12二次元好きの匿名さん22/12/14(水) 00:12:50
リハビリは、順調にはいかなかった。
もっと早く始めていれば……誰も私を責めなかったけれど、誰より自分で痛感する。
そんな時にも、トレーナーさんは私に寄り添ってくれた。
硬くなった私の脚を解して、骨格を矯正するように毎日マッサージを施してくれる。
「もう無理はしないから、大丈夫だよ」
確かに、顔色は悪くない。でも、閉じこもっていた私の耳にすら届くくらいチームは大きくなったはず。
その上でここまでリハビリに時間を割いたら、家では寝るか食べる以外できないんじゃ――
「俺との契約、続けてくれないのかい?」
おずおずと尋ねてみると、トレーナーさんの口からとんでもない質問が飛び出した。
私の方が縋ってしまっているのに。狼狽えていると、彼の両手が肩へと降ってくる。
「俺は、サイレンススズカのトレーナーなんだ。リハビリを見るのは、当たり前のことだ」
もう。もう、レースに戻れないというのに。先頭を駆けたあの日々と変わらない……ううん。
あの日以上の熱量で。トレーナーさんは、そう言ってくれた。私に、言ってくれた。
――少しずつ、少しずつ前に進んで行った。辛いこともあったけれど、行く先々で支えてもらえた。
時計のずれたカフェテリアへ、自分で食事をとりに行った。2人でウインドウショッピングもした。
「このお花も、綺麗」
「ようやく良さがわかるようになったか?」
「ええ……たくさん植えてくれてありがとう、エアグルーヴ」
「……いつも通り育てているだけだ」
やっと掘り起こせるようになった記憶より随分多彩になった花壇も、楽しみの一つになってくれた。 - 13二次元好きの匿名さん22/12/14(水) 00:23:15
歩けるようになって、小走り位ならできるようにもなって……やっと、遠出をした。
商店街より物理的に近いのに、地球の反対側よりも遠ざかっていた場所。
かつては好き放題に駆けていたグランドを、造り物の足で踏みしめる。
「わあ、スズカさんだ!」
「わっ 本物のサイレンススズカさん!」
駆け寄って来たのは、今年の新入生も交った子たちだ。
……ただそれ以外のメンバーの顔と名前と、何より隣のトレーナーさんが振る手を結びつけると肩が跳ねる。
ああ、この子たちがトレーナーさんのチームなんだ。
この子たちは、私がしっかりしなかったせいで、トレーナーさんに見てもらう時間を削られた被害者だ。
どんな顔をすればいいと言うのだろう、この加害者が……だというのに。
「さ、サインもらってもいいですか!?」
「ばっか、いきなりはダメでしょっ」
……ウソでしょ、の一言すら出てこなかった。
ずっと憧れていましたなんて言われて、歩けたことを良かったって言ってもらえて……。
結局、後輩たちの前でもしっかりすることができなかった。 - 14二次元好きの匿名さん22/12/14(水) 00:40:02
それから、トレーナーさんのチームは私の新しい居場所の一つになった。
レースで走っていた頃すら背中を見せるくらいだった私が、どうしてかサブトレーナーのような扱いだ。
それらしくなろうと勉強しては、やってきたことが特殊過ぎて中々お手本にならないことを思い知る日々。
そんな有様なのに、チームの子たちは私がタイムを計ったり飲み物を用意するだけで喜んでくれる。
「それだけ、"サイレンススズカ"は夢を与えてきたんだよ」
隣に並ぶ時間が前よりはるかに長くなった、チームの大黒柱さんが言ってくれる。
失われた気持ちの良い日々。もう二度と見られない、先頭の景色。
グランドに出たら恋焦がれて狂わないかと心配していたそれは、予想もしなかった形で胸を温めてくれた。
夢に向かってターフを駆けるあの子たちを、彼の大切な教え子さんたちを後押しする糧になれたんだって。
思ってもみなかった形で、ほんの少しだけでも恩返しができているんだって。
走れないのに、温かな日々。
自分でも信じられないくらいに、走ること以外で充実している日々。
トレーナーさんの隣で一日の半分以上を過ごせる、幸せな日々。
困ったことといえば、可愛い後輩さんたちが矢鱈と背中を押してくることくらい。
……そのたった一つはけっこうな困り具合ではある、のだけれど。
「スズカさん、これこそ先手必勝ですよっ」
「あんな優良物件、いつ売れちゃうかわかりませんよ!?」
ウソでしょ……と言ってはみたものの、それで許してくれる子たちではない。
そして私は、また悪い子になった。急に出られなくなったトレーナーさんのお部屋で。
「わ……私の気持ちを聞くまで、出ないでいて、くれますか?」
……優しいトレーナさんは私の酷くたどたどしい、今の私の足も遅く紡がれる想いを、ずっと聞いていてくれた。 - 15二次元好きの匿名さん22/12/14(水) 00:46:45
まだ途中の段階だけど静かな世界観で良い作品だな、しみるわ・・・
- 16二次元好きの匿名さん22/12/14(水) 00:54:35
時を経て、このチームは、トレーナーさんとウマ娘の夫婦で運営されることになった。
相変わらずちょっとした雑用が主な役割の不出来な妻だけれど、メンバーたちは喜んでくれる。
ただ、大変な優良物件である旦那様に優しくされた新入生さんが尻尾を揺らす光景も毎年見ることになった。
もう、「私の方が速く走れます」と言うことはできない。併走すら満足にしてあげられない。
それに担当トレーナーとウマ娘の絆を割くなんて非道は絶対にしたくない。
そんな時、トレーナーさんは私の耳を見てはチームルームや、二人の家の玄関や、寝室の扉を閉めてくれる。
「スズカ、髪を梳いたら出られそうかな?」
一度だって見逃さない旦那様は、そう言っては櫛を通してくれて。
……節度を意識しつつも、私はついつい甘えて言ってしまう。
「それと、あとは。耳元で囁かれないと出られない……ですよ」
何年経っても頬を染めてくれる彼の耳元へ伸び上がって。腕を背中に回して。
「……ありがとう」
義足のつま先で体を支え、私は思いを注ぎ込む。
「愛して、ます」
……やっと見つけられるようになった、二人の部屋の鍵は。
その日は中々、開かなかった。 - 17二次元好きの匿名さん22/12/14(水) 00:58:34
サイレンススズカが走ることを奪われてから、他の何かを見つけられるとしたらどれくらいのものが必要か。
あれこれ考えながら書いてみました。まだまだ歩みは続きますが、ここらで〆ようと思います。
元スレの>>26さん、お集りの皆さん、ありがとうございました。
おやすみなさい。
- 18二次元好きの匿名さん22/12/14(水) 01:02:10
夜中になんちゅうもん見せてくれたんや…
なんちゅうもんを…
眠気も吹っ飛ぶようなええもんや、これは… - 19二次元好きの匿名さん22/12/14(水) 01:05:04
お疲れ様です
途中まで切なくなり最後で救われた…いいものを見た - 20二次元好きの匿名さん22/12/14(水) 01:08:04
晴れた……良かった……
- 21二次元好きの匿名さん22/12/14(水) 01:17:09
上でも描いたけど静かに時が流れるような言い作品でした、乙乙
作品読んでたらその世界に引き込まれたから、参考にしたスレの「耳元で囁くスズカさん」概念が最後になるまで出てこないって事すらすっかり忘れてたわ - 22二次元好きの匿名さん22/12/14(水) 01:20:02
はぁ~てぇてぇ……てぇてぇ過ぎて幽体になってもうたわ
- 23二次元好きの匿名さん22/12/14(水) 08:43:37
- 24二次元好きの匿名さん22/12/14(水) 14:59:20
幻覚スズカトレ発言打線で芝生えた
- 25二次元好きの匿名さん22/12/14(水) 15:21:18
大谷ルールを反映している +1800
- 26二次元好きの匿名さん22/12/14(水) 21:18:12
- 27二次元好きの匿名さん22/12/15(木) 00:20:19
幻覚で打線組めるの草
それだけの大作で名作だったわけだ - 28二次元好きの匿名さん22/12/15(木) 02:34:38
- 29二次元好きの匿名さん22/12/15(木) 14:18:30
切ないがいい絵や…
- 30二次元好きの匿名さん22/12/15(木) 23:25:19