【SS】帰郷

  • 1◆a6nENK6ygzyC22/12/14(水) 00:54:13

    バスが遅れている。
    走って行こうかしら、と自然と湧き出す欲望を寒風に晒して散らす。ここは都会の様に次のバス停まで近くない。

    私は3年ぶりに帰郷する。

    トゥインクルシリーズの3年間を終え、私はドリームリーグに歩を進めた。

    実力より人気。興行としての側面の強いドリームリーグには興味がなかった。かつての私なら、もっと先の景色を求めてトゥインクルシリーズに残ったと思う。その先の破滅の可能性から目を逸らしたまま。

    『おかえり!』『おかえりスズカ!』

    ──グランドライブ。私が走るもう一つの意義を見つけた、あの歓声。
    あの「おかえり」に応えるために、私は身体を壊さない為の走りを選んだ。レースの数は減ったけれど、不思議と不満はない。

    興行が主なドリームリーグは、晩秋からの多くのG1レースに観客を持っていかれるため冬は活動が抑えめになる。有馬記念のある年末なら尚更なわけで……トレーナーさんに促されて、久しぶりに地元へ帰る運びになった。

    ぼんやり雪風に当たっていると、10分遅れのバスが出口を向けて停車した。大雑把なのは変わらないと入り口を向くと、懐かしい声が運転席から呼び止めた。

    「スズカちゃん!スズカちゃんだろ!?帰って来たんだね!特等席、空いてるよ」
    「特等席って。もう子どもじゃないんですよ?……ただいま」

    ややざわつく車内を通って、特等席──先頭の1人席に腰を落ち着ける。少し、天井が近い。
    田舎の情報は周りが早い。「先頭の景色」に拘りを持つようになって以来、私がこの席に好んで座っていることはすっかり大人たちに共有されていた。

    少し皺が増えた運転士さんと取り留めのない話をしている内に、広いガラス越しの景色に目が奪われる。
    真っ白な雪道の両側には、枯れ草がしぶとく上を向いて耐えている。灰色のまだら空からこちらへ雪が吹きつけ、ガラスにぶつかり斑紋を描いてはウェイパーに押し除けられ、また斑紋を作る。

    「あっはは、嬉しそうな顔しちゃって〜。子どものまんまだ」
    「さ、3年ぶりだから懐かしいだけです……!」

  • 2◆a6nENK6ygzyC22/12/14(水) 00:54:32

    バスが停まり、まばらに人々が降りていく中。
    こちらをチラチラと伺う視線に気づいた。

    視線の主を探すと、中等部くらいのウマ娘が目を逸らして、がちゃがちゃと蹄鉄を鳴らしながら慌てて降りていく。
    すぐに立ち上がって追う。タッチ決済が行き届いていて助かった。

    「待って」
    「え、ちょっ、降りるの!?」

    飛び降りるようにバスを出て雪を踏むと、先ほどのウマ娘が目を丸くしてこちらを見て固まっていた。
    ……なんとなく追ってはみたものの、なんて声をかければいいのかしら。

    「あ、あのっ!サイレンススズカさん……ですよね」
    「はい、サイレンススズカです。こんにちは」
    「えっ、と。ケガ、治ってよかっ……じゃない、嬉し、えっと……!お、応援してます!」
    「…………ありがとう。ただいま」

    温かく少しそそっかしい仕草に自然と顔が綻んで、その手を取って無事を伝えるただいまを返す。

  • 3◆a6nENK6ygzyC22/12/14(水) 00:55:01

    「わ、私……来年、トレセンを受験します!」
    「!……待ってる」

    強い決意を秘めた目だった。
    きっとこの子は、私を追ってくる。

    「私は、来年もここへ帰って来るから」

    来年も、競争ウマ娘のまま。

    「蹄鉄、打ち直した方がいいわよ」
    赤くなって足元を見るその子に背を向けて駆け出す。
    ちょっと格好つけすぎたと熱くなった顔を寒風が冷ましてくれる。

    3年ぶりの故郷が、視界いっぱいに広がっている。
    私の原点の風景。どこまでも白くて、静かな──



    「スズカちゃん、荷物!荷物忘れてるって!」
    「あっ」

    結局乗っていった。

  • 4◆a6nENK6ygzyC22/12/14(水) 00:59:37

    「スズカさんは地元の田舎ではバスの先頭の1人席がお気に入りで周りの大人達にそれ把握されててしょっちゅう譲られてたらいいな」

    「グララシナリオのスズカさんは「おかえり」の為に長くターフに残る事を大事にしてドリームリーグで活躍してそう」

    という概念でした。対戦よろしくお願いします。


    前書いたのです。

    ホメジロドーベルwwwwww|あにまん掲示板はぁ、いいお湯だった……2度目の温泉旅行、誘われた時はどうなるかと思ったけど、来てよかったな。あとは皆へのお土産、見ておこう。トレーナーもう出てるかな?え、なんか囲まれてる?大丈夫かな……「なんだなん…bbs.animanch.com

    なんと絵を描いて頂きました。めっちゃ嬉しいですぐへへへへ。ありがとうございました。

  • 5二次元好きの匿名さん22/12/14(水) 01:11:06

    概念特盛からの大ボケオチすき

  • 6二次元好きの匿名さん22/12/14(水) 02:19:23

    は?天才か?
    めっちゃいい話やのにオチで笑わされたんだが?
    スズカらしさが完璧なんだが?

  • 7二次元好きの匿名さん22/12/14(水) 03:01:36

    このレスは削除されています

  • 8二次元好きの匿名さん22/12/14(水) 03:05:37

    好きすぎる

  • 9二次元好きの匿名さん22/12/14(水) 08:00:52

    すき…

  • 10二次元好きの匿名さん22/12/14(水) 08:03:50

    このレスは削除されています

  • 11二次元好きの匿名さん22/12/14(水) 08:04:08

    寝不足で頭がスッキリしないところにスズカさんの清涼感ががスーっとキク

  • 12二次元好きの匿名さん22/12/14(水) 19:12:14

    久しぶりにスズカさんのSSが読めた

    しかも良いものだった

    「あの「おかえり」に応えるために、私は身体を壊さない為の走りを選んだ。レースの数は減ったけれど、不思議と不満はない」この段落に、納得させられました。スズカさんはなんやかんや思うままに走るんだってイメージがあったのですが、そうか、こういう一面も当然持ってるよなと感心した次第です。シナリオは異なりますが、ファンサービスについて思い悩む場面もありましたからね

    そうした感想も含めた上で、オチにたどり着くと「やっぱスズカさんはスズカさんだな」と安心させられて、>>11にもありますがスーッとキク想いです。ありがとうございました

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