【SS】海軍本部雑用ロシナンテに任務を言い渡す part4

  • 1◆P.AThYg18sAI22/12/15(木) 01:01:06

    【前回までのあらすじ】
    ドレスローザ解放を待っていたかのように十三年の昏睡から目覚めた海兵、D・ロシナンテ。
    養父であるセンゴク大目付の計らいで雑用として海軍に再任用されたロシナンテは、さまざまな思いを抱えながら、センゴクに付いて新世界へ船出する。コビー艦での航海を終えて、後輩だったスモーカー中将率いるG-5支部の面々と合流した。
    ロシナンテのやり残したことのためにたどり着いたエルガニア列島は花の咲き誇る美しい秋島。
    しかしその美しい花の香りの影に悍ましい薬物製造の闇があった。
    ロシナンテは北の海と世界の闇を暴くために四番島の麻薬工場へ潜入する──全ては彼の正義のために

  • 2◆P.AThYg18sAI22/12/15(木) 01:04:16
  • 3◆P.AThYg18sAI22/12/15(木) 01:04:58

    ▼一気読み用まとめ

    【コビー艦編】

    海軍本部雑用ロシナンテに任務を言い渡す 1 | Writening【コビー艦編】 1 目が覚めたら全てが終わっていた。  いや、まるで全てが終わるのを待っているかのように目が覚めたといった方がいいだろうか。  白い病室のベッドの上でドレスローザの奪還、ドンキホーテ…writening.net

    【G-5編】

    海軍本部雑用ロシナンテに任務を言い渡す 2 | Writening【G-5編】 運良く巡ってきた静養日は夏島の気候海域のど真ん中。しかも眩いばかりの晴天だった。昨夜掠めたサイクロンが嘘のようだ。 コビー艦はなんとか転覆せずにサイクロンの端を切り抜け、後処理に追われ…writening.net

    【エルガニア列島編 前編】

    海軍本部雑用ロシナンテに任務を言い渡す 3 | Writening【秋島編】 美しい花の島、エルガニア列島。 雪のように白い花弁のサンドラコスモスが一面に咲き乱れる庭。その向こうの壁の外の街を、帽子を被った若い男が一人、巨大な屋敷の2階から見下ろしていた。 その…writening.net

    【エルガニア列島編 後編】NEW!更新中

    海軍本部雑用ロシナンテに任務を言い渡す 4 | Writening【エルガニア列島編 後編】 「……チッ」 街をぐるりと巡ってロシナンテは苛立たしげに舌打ちをした。港の影で朽ちていくばかりの船の規模に比べて街で見かけた人数はあまりに少なかった。 死んでいるならば…writening.net
  • 4二次元好きの匿名さん22/12/15(木) 01:12:12

    立て乙

  • 5◆P.AThYg18sAI22/12/15(木) 01:23:07

    【閑話休題】
    ロシナンテ──ドンキホーテ海賊団最高幹部"コラソン"は考えるよりも先にわずかに笑みを浮かべている少年少女の頬を張り飛ばした。小さな口からこぼれる飴玉のような塊にぞわりと背筋が凍る。
    ──食べている
    壁に叩き付けられたベビー5とバッファローはきょとんとコラソンを見上げ、そのうち一番小柄な一人──新入りのローは忌々しげにコラソンを睨み上げた。
    「何すんだコラソン!」
    説明しようにも、コラソンは口を開くことはできない。三人の頭にいつもよりキツい拳骨を落とし、身もだえる子ども達を見下ろす。
    内心で歯がみをしながら、いつもよりよほど汚い文字で「それは商品だ」と書き連ねる。
    子ども達は全く今更ロシナンテを恐れないので、何も知らない顔で首を傾げた。
    「でも、甘くて美味しかっただすやん」
    「若様の取引先のヒト食べて良いっていってくれたよ?」
    「おれたちが気に食わねェだけだろ」
    口々にコラソンに尋ねるその小さい体に、薬は染みこんだだろうか。間に合っただろうか。それとも、もういくつか食べてしまった後だろうか。サングラスの下の自分の目が引きつったような気がして、ロシナンテは小さく彼らに知られないように息を吐いた。

  • 6◆P.AThYg18sAI22/12/15(木) 01:28:39

    ロシナンテは今ロシナンテではない。最高幹部にして、子ども嫌いのコラソンだ。
    生意気な口をきく三人の頬を強く叩く。
    普段なら一度で済む暴力に二度も晒されて、三人の顔が少し蒼くなるのが見えた。
    『二度としょうひんには手を出すな。次はころす』
    ちいさな子どもにも分かるように簡便に書き殴ったメモを三人の目の前に突きつける。
    「わ、わかっただすやん」
    「ごめんなさぁい!」
    「……チッ」
    三人は逃げるようにコラソンの前から去って行く。
    後に残った忌々しいそれを、ロシナンテはサングラス越しに睨み付けた。
    悍ましいカラクリのドラッグの取引はたしかにロシナンテのリストに記した。必ず機会を探って海軍本部へ届けなければならない。
    背後から兄の声がして、ロシナンテは床の上の結晶を踏み潰して立ち上がった。
    「どうした、コラソン。アルカニロのおかえりだぜ」
    『すぐいく』
    ──まだ早い。まだ早い。もっと情報を。もっと、確実に、北の海の闇を暴くに足るリストを集めて……ドフィを止める。
    はやる心を抑え、サングラスを直して兄の元へ向かう。
    うっかりドジってひっくり返ったのは、気持ちが逸ったからだろう。

  • 7◆P.AThYg18sAI22/12/15(木) 01:54:16

    part4もよろしくお願いします

  • 8二次元好きの匿名さん22/12/15(木) 01:56:03

    立て乙です!

  • 9二次元好きの匿名さん22/12/15(木) 02:11:02

    乙です!閑話休題も楽しい…!
    ドルネシア嬢の話こっちも聞きたいですセンゴクさん!!

  • 10二次元好きの匿名さん22/12/15(木) 02:16:38

    >>5>>6

    こうして守られてたって知れるのは、もうローだけなのが切ない

    part4も楽しみにしております

  • 11二次元好きの匿名さん22/12/15(木) 08:28:24

    コラさん…
    やっぱり早くローと再開してほしいし、話ができる状況であってほしい

  • 12二次元好きの匿名さん22/12/15(木) 14:01:47

    再会時の反応めっちゃ気になる…
    望むらくは、無事に再会できてくれ…!
    敵の本拠地に一人残されてる状況とか不安でしゃあない

  • 13二次元好きの匿名さん22/12/15(木) 18:28:15

    あぁ…そこから13年か、長かったなコラさん…今度こそ無事任務を成功させてセンゴクさんの元に帰って来てあげてくれ…

  • 14二次元好きの匿名さん22/12/15(木) 22:24:21

    引きが…!良すぎる…!
    続き楽しみです!

  • 15二次元好きの匿名さん22/12/16(金) 07:17:02

    早いかもだけど保守

  • 16二次元好きの匿名さん22/12/16(金) 14:52:39

    支援保守

  • 17二次元好きの匿名さん22/12/16(金) 23:05:54

    保守

  • 18◆P.AThYg18sAI22/12/16(金) 23:37:52

    「キャプテン、こっち!」

    シャチの声がロシナンテの耳に届く。とたんに岩陰に身を投げ出して眠っていた意識が戻りロシナンテは瞬きをした。
    ロシナンテが岩陰から手を覗かせて合図すると二人が駆け寄ってくる気配がした。二人ともう一人、こちらはロシナンテの知らぬ青年の気配だ。二人の肩の力が随分抜けているので、きっと彼がキャプテンなのだろう。


    「わ、怪我増えてるじゃねェか!」
    「いやァ……ドジったんだ。巡回に何人か来ちまってよ……。体力回復に寝てた」

    ロシナンテは猿ぐつわをかけて放置してある海賊達を指さして笑う。ナギナギの能力柄暗闇でのサイレントキリングの訓練は積んである。多少の怪我はしたが、一番深い傷は先ほどの指銃のものだろう。──それもやはり、あの雪の島ほどの傷ではない。慌てている様子のペンギンとシャチに手を振って、もう一人の気配に顔を上げる。

    「……あんたが、シャチたちのキャプテンか…? よかった、会えたんだな……」

    ロシナンテは相変わらずまぶしく輪郭くらいしか捕らえられない視界で二人に引っ張られて現れた男を見上げた。
    身長は二メートルあるくらいだろうか、良く鍛えられた体躯の男だ。男はロシナンテを見てもぴくりともせず、一定の距離をもって立ち止まっている。
    両脇からペンギンとシャチがロシナンテの肩を叩いて、そのキャプテンに声をかけた。

    「アンタのおかげだよ」
    「キャプテン、この人、おれたちを二回も助けてくれたんだ」

    ペンギンとシャチが左右から必死な声を上げてくれる。うわんと響くほどの声に、ロシナンテは苦笑した。なんだか懐かしい気がする。あの時も、不安げに揺れる子どもを宥めたものだ。

  • 19◆P.AThYg18sAI22/12/16(金) 23:38:52

    「おれは大丈夫だ……これくらい慣れたもんだから。心配するな」

    脚に力を入れて、ロシナンテは背中の岩を頼りに身を起こして座る。瞬いても視力が戻らないのは、先ほどかぶった薬液の影響だろう。一時的なものであることを祈りなが息を整える。
    ふと先ほどから微動だにしない男に向かってシャチが不思議そうに声を掛けた。

    「キャプテン……?」
    「……あ、あ」

    シャチに応じた、聞き覚えの無い掠れた低い男の声がした。
    ロシナンテは男の頭のある位置を見上げる。
    急に現れた見知らぬ男が死にかけているのだ。狼狽しているのも無理は無い。ロシナンテには届かないが、長身のシルエットが見えた。

    「この人は医者なんだ。今は薬と酒の影響で能力が使えてない。アンプルをこの人に使えば薬を取り除ける」

    シャチに頷いて、戦闘中でも絶対に割れないようにしておいたアンプルを手渡す。ついでにその解毒剤の処方箋だろう紙を渡す。

    「ああ。しかし、そんな魔法みたいな能力があるのか……」
    「これは……魔法じゃねェよ。知識がなけりゃ薬物を選別して抜き取るどころか、スキャンしたってどこが悪いかも分かりゃしねェ。縫合する場所も、切断も、全て知識がありきの能力だ……」

    低い声で淡々と話す彼らのキャプテンは、随分と謙虚な男らしかった。

  • 20◆P.AThYg18sAI22/12/16(金) 23:44:53

    能力者らしいが流石に新世界で船長を張っているともなると能力だけに頼り切ってもいないのだろう。スキャンという言葉がでたが、ギロギロの実あたりのの類いなのだろうか。ペンギンとシャチのキャプテンなことも、不思議とどこか真剣に聞こえる口調も、ロシナンテの警戒を緩めるには十分だった。

    「薬剤に関してもスキャンしてみたが、この処方であってるだろう。ウチにある薬品で調合できる。アンプルも、確かに効果がありそうだ」
    「へェ~」

    ロシナンテはすっかり感心して声を上げた。

    「……薬も、別にスキャンしたら薬剤がわかるって訳じゃねェんだ。薬の知識ありきであって……って、いやそんな話しをしたいわけじゃねェな……」
    「よく勉強してるんだなァ……」

    ロシナンテの感嘆に何を思ったのか、キャプテンは黙り込む。そのままがちゃがちゃと後ろを向いて何かを漁る様子のキャプテンに代わるようにシャチとペンギンが話しかけてきた。

    「で、これからアンタどうするつもりなんだ?」
    「おれたちはキャプテンに解毒剤が効いたら、まず艦にもどるつもりだけど、アンタはなにか策があるんだろ?」
    「そうなんだけどな」
    「できることがあれば、手伝うよ」

    シャニの提案にロシナンテはふむ、と考え込んだ。ドジって時間を食ってしまったので今からスモーカーたちに合流する時間は無い。自分は別行動で五番島に向かうべきだろうか。だが、出来ればセンゴクへは言付けておきたかった。

    「……なら、一つだけいいか?」

    胸元から文書の筒と彼らがくる前に今書いておいた言付けを取り出す。

    「おれの手当は今はいい」
    「でもコラソン、目が見えてねェんだろ? 止血だって完全じゃねェ。ちょっとまっててくれよ、キャプテンが今解毒して……」
    「それより、急がなきゃならねェんだ」

    ロシナンテが彼らに差し出したカモメの刻印のある文書の筒を見て、シャチとペンギンは驚いた様子だった。
    それもそうだろう──彼らに会う時はいつも“コラソン”として接していた。
    身分を明かすのは賭けだが──ロシナンテは大抵いつもこういう賭けには勝ってきた。

  • 21二次元好きの匿名さん22/12/16(金) 23:47:03

    それを今出すかぁ…ローの前で…
    13年前と同じように…

  • 22◆P.AThYg18sAI22/12/16(金) 23:47:48

    「海軍の情報文書……コラソン、やっぱり海兵か」
    「はは、黙ってて悪かった。……任務中だったもんで。海兵は嫌いか?」

    ここまできて、この青年たちが自分を見捨てていくと思うほどロシナンテの目は節穴ではない。
    だが、彼らが気にしているのは彼らの後ろでずっと動かない男だった。

    「おれらはともかくキャプテンは──」
    「──嫌いじゃねェ!」

    キャプテンはシャチの言葉を遮るように声を荒げた。
    ぎょっとした三人に取り繕うように声を低める。悪い、と一言おいて、それでも強く訴える。

    「政府は嫌いだ。その手下の海軍も。でも……海兵は、嫌いじゃない」

    何か思うところがあったのだろう。
    噛みしめるような声に、ロシナンテはほっと口元を緩めた。その言葉があまりに真剣だったものだから、ロシナンテの方が驚くほどだった。

    「じゃあこれを……海兵ならだれでも……、いや……」

    G-5の海兵に万が一はないだろうが、思い出したのはヴェルゴのことだった。もしそういうものが忍び込んでいて、彼らが傷つけられるのは本意では無い。

    「上に葉巻を銜えた厳ついおっさん将校が──」
    「白猟のスモーカー」
    「……知ってるのか! そいつに渡してくれないか。筒を見れば協力者だと分かるし、一応これもってりゃあ海賊だろうが協力者として見逃すようになってる」

    男は二三歩、なぜかわずかに覚束ない足取りでロシナンテに近づいた。ペンギンが場所を譲り、男がロシナンテの目の前に膝を突くのが気配で分かる。ロシナンテが持ち上げた筒を見つめているが、それをまだ手に取ろうとはしなかった。
    短く息を吸う音。固い声がロシナンテの耳に届いた。

    「……これを海兵に渡せばいいんだな」

  • 23◆P.AThYg18sAI22/12/16(金) 23:50:27

    いつも保守、ご感想ありがとうございます!ほんっとに励みになっております。
    やっと再会してもらいました。これは1スレで目覚めた時から決まってた展開でした、無事にここまでかけてよかったです…
    ドルネシア嬢の話はまた閑話休題で書きたいです

  • 24二次元好きの匿名さん22/12/16(金) 23:55:45

    あの時の再演か……そっちも「やり直し」させてくれるのかよ……!!

  • 25二次元好きの匿名さん22/12/17(土) 00:08:17

    ついに再会!でもまだ一方でしかないから真なる再会とこれからの展開楽しみ

  • 26二次元好きの匿名さん22/12/17(土) 00:13:38

    うわー!!コラさん!!気づいて!!目の前にいるのはあの日宝箱に仕舞った愛し子だよ!!!!

  • 27二次元好きの匿名さん22/12/17(土) 01:52:17

    続きが気になりすぎる

  • 28二次元好きの匿名さん22/12/17(土) 03:22:35

    “あの時”の後悔たくさんあるもんなトラ男…
    オペオペを使いこなせる技量があれば、信じられる海兵の存在を知ってれば、スモーカーのような海兵が居てくれたら
    ひとまず「嫌ってなんかない」ことを伝えられて良かった

  • 29二次元好きの匿名さん22/12/17(土) 08:51:11

    キャプテンの挙動がずっとぎこちなくて泣ける…
    そりゃそうなるよ…

  • 30二次元好きの匿名さん22/12/17(土) 10:24:15

    わぁああ!!!!出会えた!!!良かった!!!
    コラさんは目が見えるまでローと気づかないのかな
    見えなくても一緒に行動とかしてて「もしかして」があるのだろうか

  • 31二次元好きの匿名さん22/12/17(土) 16:01:04

    ちゃんと再会しろよトラ男?(海賊になっちゃったし)みたいな思考に陥って
    合わす顔ないって避けるなよ?そういうとこだけ似るなよ?

  • 32二次元好きの匿名さん22/12/17(土) 20:15:41

    コラさん無事でいてね
    そんでスモーカーにおっさん将校って言ったことバレて「アンタの方がおっさんだろうが!」て怒られてね

  • 33二次元好きの匿名さん22/12/17(土) 21:54:09

    コラさんの方が年上だもんね

  • 34二次元好きの匿名さん22/12/17(土) 22:08:18

    魔法みたいな〜のやりとりが昔と逆転してるのに気づいて思わず感嘆してしまった…
    まだコラさんはローに気付けてないけど気付いたらどうなるんだこれ…そわそわしてしまう

  • 35◆P.AThYg18sAI22/12/17(土) 22:17:00

    「ああ、お前達のだれでもいいから、頼めねェか」
    「おれがする」

    ロシナンテの言葉尻をとるようにキャプテンが声を上げる。身を乗り出すような声にロシナンテも驚いた。

    「良いのか……?」
    「ああ。正しい相手に、必ず渡すよ」

    男の声は、ロシナンテが不思議になるほど真摯に聞こえた。
    よほどクルーを大事に思っていたのだろう。全く人には親切にしておくものだと過去の自分に賛辞を贈る。

    「その前に──"ROOM"」
    「うわ、なんだ?」
    「気を楽にしろ……手当が先だ。おれは医者だぞ」

    救急箱と合わせて応急手当をする男の手際は確かにシャチたちのの自慢するように名医であるようだった。
    あっというまに針の刺された傷みも無く肩と腹の銃創を縫合され、止血と固定をされた傷口にロシナンテは感嘆と笑みを浮かべた。
    目元に光を当てられても抵抗する気も起きない。目元に手をかざされたかと思うと、不自然に目が乾いたかと思うとすぐに眩しさが収まる。目元にガーゼを当てられた。

    「あと十分くらいは目ェ閉じてろ。硫酸とかじゃ無くて良かったな。移植の手間が省けた」
    「移植までできるのか」
    「そこにドナーが転がってンだろ。内臓移植手術だって眼球移植今この場でできる……」
    「怖いこと言うなよ!今すんじゃねェぞ?」
    「ああ。あとでな……」

  • 36◆P.AThYg18sAI22/12/17(土) 22:17:58

    てきぱきとした動作の一つ一つが、医者としての責任感とロシナンテという患者への配慮に満ちている。海賊だと言うから実のところどんな藪医者かと本当はわずかに身構えていたことが申し訳なくなるほどに、彼は医者だった。

    ──いいなァ。

    ロシナンテは肩の力を抜いてこの若い医者に身を預けながらそう思った。こんな医者が、あの旅の中に居てくれたらどれだけ良かっただろう。

    ──ローもこんな風な医者になってくれていたらいいなァ。

    感心しているうちに、あっという間に処置は終わったらしかった。

    「若いのに良い医者だなァ」
    「……アンタにそう言ってもらえたなら、本望だよ」

    男はわずかに笑ったようだった。

    「じゃあ、これ頼む」
    「…ああ」

    片膝を突いたまま、ロシナンテの差し出した筒を握りしめた。わずかにふれた指先が震えているような気がしたのはロシナンテの気のせいだろうか。文書を握り込む手は白くなるほど力が込められている。
    その様子を解してやりたくて、ロシナンテは筒を握る男の手を重ねて包み込んだ。冷たい手だ。まるで、あの日の幼いあの子どものように冷えている。

    「大丈夫、あんたみたいな良い医者にこんなことを託すのは申し訳ねェが。おれの最後の仕事なんだ。頼めるか」
    「……うん」

    どこか幼い仕草に、ロシナンテは思わず青年の頭があるだろうに手を置いた。

  • 37◆P.AThYg18sAI22/12/17(土) 22:27:34

    「ついでにスモーカーに伝えてくれ、"世界貴族"の手先が入り込んでる。もみ消される前に公表しろ」
    「世界貴族!?」

    ペンギンとシャチの驚きの声がそろう。それにロシナンテは咳き込まないように軽く笑った。

    「心配すんな。世界貴族も表だってこういうのに手を出しているとバレたくはねェはずだ。多分人間屋──あー"職業斡旋所"で奴隷を買えない位の分家だろ。公表されちまえば手を引かざるを得なくなる」
    「あんたは……どうする」
    「五番島へ向かう。もし聞かれたらおれのマリンコードは」
    「0、1、7、4、6」
    「……え」

    男はいつのまにか筒を手に立ち上がっているようだった。彼の視線が自分に注がれているのがわかる。

    「なんでそれを……」
    「……もうあんな失敗はしねェ」

    ロシナンテが絶句していると、男はまるで先ほどの様子が嘘のように堂々と指示を飛ばしはじめる。

    「シャチ。この人についていって手伝ってやれ。借りは返す」
    「……アイアイ!」
    「ペンギンはおれと来い。艦へ向かう。ベポを拾って、そのまま合流」
    「…了解!」

    ROOM、と先ほどから何回か聞こえる呪文のような言葉と共に自分の防音壁の中にいる時と似た外界から隔離される感覚がする。

    「じゃあ今度こそ必ず、隣の島で落ち合おう」
    「え……?」

    その言葉を最後に“キャプテン”とペンギンの気配がまるで魔法のようにかき消えた。

  • 38◆P.AThYg18sAI22/12/17(土) 22:29:07

    保守、ご感想ありがとうございます!本当に励みになってます。
    魔法みたいな〜のやりとりの逆転とローが終始ぎこちないの読み取っていただけて嬉しいです!

  • 39二次元好きの匿名さん22/12/17(土) 23:25:10

    隣町ならぬ、隣の島かあ……!

  • 40二次元好きの匿名さん22/12/17(土) 23:37:21

    好きだ…!『最後の仕事』かぁ…!がんばれ

  • 41二次元好きの匿名さん22/12/18(日) 06:52:15

    また会う気はあるな!ヨシ‼
    「最後の仕事」と聞いて何を思ったのか…何もかも全部終えてから話してくれ
    乙でした

  • 42二次元好きの匿名さん22/12/18(日) 09:27:41

    あの日のやり直しみたいなことになってる....

  • 43二次元好きの匿名さん22/12/18(日) 10:46:55

    一緒に旅をして

  • 44二次元好きの匿名さん22/12/18(日) 13:54:49

    >その言葉を最後に“キャプテン”とペンギンの気配がまるで魔法のようにかき消えた。


    ここキャプテンが強調されてるのいいな…

    自分を治療してくれた良い医者の“キャプテン”、

    一体誰だろうねぇコラさん(すっとぼけ)

  • 45二次元好きの匿名さん22/12/18(日) 13:55:43

    シャチから名前聞いてひっくり返ってほしい

  • 46二次元好きの匿名さん22/12/18(日) 20:29:01

    シャチからは(キャプテンは30億の大海賊だもんなぁ)と思われるヤツ

  • 47二次元好きの匿名さん22/12/19(月) 00:50:44

    そういや前スレでG-5の面々から渡された中にあった雑用の服ってコラさんのだよね
    デカすぎんだろ

  • 48二次元好きの匿名さん22/12/19(月) 07:46:09

    シャチ頼む、その人を守り抜いて二人で生き延びるんだぞ

  • 49二次元好きの匿名さん22/12/19(月) 17:22:22

    保守

  • 50二次元好きの匿名さん22/12/19(月) 22:44:04

    支援ほしゅ

  • 51◆P.AThYg18sAI22/12/19(月) 23:52:30

    「まだ動くんじゃねェよ! 涙液溜まるまで我慢!」

     思いのほか力強くシャチに肩を押さえられて、ロシナンテは自分が身を起こしていたことに気が付く。

    ──隣町で落ち合おう。

     そう約束したのは、ロシナンテの生涯で一度だけだ。それを知っているのも一人だけ。
    心臓が嫌な風に跳ねてロシナンテが手に掛けかけてた目元のガーゼをシャチが慌てて押さえる。

    「まだ取るなって! 失明したいのか!?」
    「ッ……!」

     あの言い回しが偶然似ることなどあるだろうか?
     今度こそ、必ずなんて、初対面の海賊に言われることがあるか?
     自分のあのマリンコードももう知っているのはロシナンテとセンゴクくらいのもので再任用のロシナンテの今のマリンコードはあの時とは違う。
    あの名乗りを知るのはあの時あの島にいたドンキホーテ海賊団。
    そしてあの時背中に居たあの子どもだけだ。
    海兵としての馬鹿げた矜持の現れ。最後はどうしても、海兵として死にたかったロシナンテのわがまま。

    「まさか……」

    ファミリーがわざわざ始末した幹部のM.Cなど覚えているわけもない。もし覚えているとしたら。
    もしかしたら。
    まさか。

  • 52◆P.AThYg18sAI22/12/19(月) 23:53:46

    「落ち着け……もうキャプテンたち行っちまったから」
    「……っ」

    シャチの心底案じる声に、ロシナンテは自分がまた性懲りも無く動こうとしていたことに気が付く。
    あの「シャンブルズ」なんていう呪文のような言葉と共に彼らの気配がまるで瞬間移動でもしたかのように消えてしまったことはロシナンテも分かっていた。それなのに狼狽しきってしまったのはドジだ。

    「はァ……、おれのドジっ子……」

    ガーゼの当てられた目元を押さえて深く深く息を吐く。自分を落ち着かせるための深呼吸だった。

    「…大丈夫か? もうちょっとだからよ」
    「……おう、ありがとう」
    「キャプテンが色々残してってるぜ……服着替えるか? これ海兵の服だ。あ、コラソンののしたやつからあの人服かっぱらってるよ……」
    「……おう」
    「あ、飯だ。これ食って良いのかな。半分食うだろ?」
    「……」
    「食うぜ」

    シャチの声かけも尽きて、沈黙が降りる。
    もぐもぐと近くで飯をかき込むシャチの声が聞こえる。慣れた海軍のカレーの匂い。どうやら艦の弁当らしかった。一体どこから拝借してきたのだろう。
    ぐるぐると頭が疑問で埋まる。

    「──なァ」

    それでもどうしても黙っていられずにロシナンテはシャチの居るだろう場所へ顔を向ける。

  • 53◆P.AThYg18sAI22/12/19(月) 23:54:54

    「…何?」
    「さっきの医者が……さ。お前達の"キャプテン"、なんだよな……」
    「……そうだよ」
    「せ、背が高く見えたけど、二メートルくらいか?」
    「いや、190くらいかなァ。結構鍛えてるからムキムキだぜ」
    「そ、そうか、そんなに! え、えっと、良いお医者様、なんだよな」
    「……ああ。おれらの知るこの世界で一番の名医だよ」
    「ちゃんと、飯、食ってるか?」
    「嫌いなもんはあるけどね」
    「か、風邪引いたりしてねェ? 熱を出したりとか……」
    「…最近はくしゃみしてるのも見たことねェなァ」
    「……そう、か。そうかァ……」
    「それだけ?」

    シャチが促す。ロシナンテは唇を噛んだ。


    「……楽しく、やってるか? 辛いことはねェか?」


    シャチは応えず、もう十分湿ってべしゃべちゃになったロシナンテの目元のガーゼを外した。
    目の前のシャチはぐずっ、と鼻をすすり上げながら、それでも笑う。

    「それはさァ、直接聞きなよ。おれはもちろん!って応えるだけだよ」

  • 54◆P.AThYg18sAI22/12/19(月) 23:59:07

    「うん……うん……、そうだなァ、そうだよなァ!」

     せき止めるものが無くなった目元からぼろぼろとこぼれるものを両手で受け止めて、ロシナンテはシャツで鼻を噛む。
     ぐず、っと鼻をすすり上げながらロシナンテはライターを擦り上げる。しばらく吸えなかった煙草を吹かし、コートに忍ばせていた手榴弾のピンを抜く。

    「よし。荷物もって目を閉じろ。五秒後におれに着いてこい……"凪"」

     パチンと指を鳴らす。

    「……えっ、おう!」
    「"おれの影響で出る音は全て消えるの術"……だ」

     工場の電力をまかなっている水車の発電所は音も無く爆発する。
     電源を絶たれた地下は真っ暗闇に閉ざされる。
     ごうごうと炎の燃え盛る音もせず燃える水車を背に、シャチの背を叩いて促し、自分もまた駆け出した。
     ロシナンテの行動全てに音はない。
     なんだ、どうした! 火事か!? 何の音もしなかったぞ!とざわめき出す人の群れをすり抜けて出口に向かう。工員、奴隷、荷運びの海賊。
     彼らの視線は発電所の火事に向かい逆方向に走るロシナンテとシャチは視界から外れる。
     一つだけの難関は一つしかない出口だった。
     立ち止まり、シャチを手招いて岩陰に隠す。ロシナンテはそのまま岩陰から彼らの背後に滑り込んだ。
     ロシナンテの長身の影が、滝ごしに入ってくるわずかに赤みを増した西日によってぬっとかかる。

    「どうした? 下が騒がしいな……ぐッ!」
    「きさ──ぎゃァ!」
    「"防音壁"!」

     下をのぞき込む片方の首を腕で締め上げて一息に気絶させる。もう一人の方の膝を撃ち抜いた上で防音壁を張って声を閉ざす。そのまま同じように気絶させ、港にまま転がっているヤードでぐるぐるに締め上げる。
     下からここまでに10分かかったかどうかだろうか。昔ならもう少し早かったかもしれない。

  • 55◆P.AThYg18sAI22/12/20(火) 00:01:04

    "サイレント"を解除してロシナンテはフッと息を吐いた。すこし無理をした所為で咳き込む。口元を拭って振り返る。

    「よし、気付かれる前に島を出るぜ」
    「おう……! は、派手にしねェんじゃねェの?」
    「証拠全部取ったからよ、もともとぶっ壊すっつったろ」
     
    滝の裏を抜けて久しぶりの陽光に目を細める。そのまま老人のまつ湾に急ぐ。そのついでにドジってすっころんだが、構ってはいられない。

    「ま、本命は次だけどな」

     湾でまつ老人に手を振る。得るネスト翁が眉をつり上げてロシナンテを迎えた。既に帆は広げられ、あとはロシナンテを待つばかりになっている。

    「遅い! 先に行くところじゃ!」
    「間に合った!?」
    「ギリギリじゃ。すぐ出すぞ」
    「シャチ、お前帆船の航行経験は!?」
    「ない! でも落ちても泳いで着いてくから」

    シャチの言葉にロシナンテは頷き、血やら薬液やらにまみれて焦げたコートを脱ぎ捨てる。
     何でかシャチの持っている海兵の服に袖を通す。雑用と大きく書かれているのがまったく格好が付かない。
    けれど、これがロシナンテだ。
     海軍本部雑用ロシナンテだ。

    「よォし、出航だ!」

    ロシナンテの言葉に合わせて、帆が追い風をはらんで湾を離れた。

  • 56◆P.AThYg18sAI22/12/20(火) 00:05:18

    保守、ご感想本当にありがとうございます!本当に励みになってます。
    次は一旦ロー視点挟んで五番島で最終戦の予定です
    雑用服はG-5の海兵さんが多分着替えに間違えて持って来ちゃったけど大きくて着れないのでローに押し付けたイメージです

  • 57二次元好きの匿名さん22/12/20(火) 00:17:36

    こ"ら"さ"ん"…ッッ!!気づいた!気づいてくれた!良かったなぁロー!!絶対落ち合ってくれ…!!!

  • 58二次元好きの匿名さん22/12/20(火) 00:40:45

    最後の仕事が終わったら、たくさん話をしてね…!13年分くらい
    ドジが感染してるの草、ファインプレーだけども

  • 59二次元好きの匿名さん22/12/20(火) 06:29:06

    追いついた
    目の見えないコラさんとローのやり取り、シャチとの会話で涙腺緩んだよ……ちゃんと顔が見えるようになって改めて再会してくれ……

  • 60二次元好きの匿名さん22/12/20(火) 09:25:19

    自分が失明しかねない状況なのにローのことばっか聞いて心配してるのがあんまりにも「コラさん」らしくて…泣く…

  • 61二次元好きの匿名さん22/12/20(火) 17:16:22

    コラさん気付いたー!良かった良かった
    早く解決して涙の再会してクレメンス

  • 62二次元好きの匿名さん22/12/20(火) 23:12:14

    ロー視点楽しみ

  • 63◆P.AThYg18sAI22/12/20(火) 23:51:32

    今、地下通路を駆けるローは鼻を啜り、海賊から奪ったラフなシャツの袖口で何回も目元を殴っている。
    鼻をすする音が今は誰にも遮られずに響いている。
    地下に案内してからずっと、ローはひどく動揺していた。
    そして、コラソンの差し出した文書を手にしたとき。ローが遂に涙を落としたのをペンギンもシャチも二人とも確かに見ていた。
    二人で目を見合わせて驚いたが、口にはしなかった。
    我らのキャプテンが──"死の外科医"トラファルガー・ローが、そして自分たちの親分であり家族であるこの傲岸不遜で優しい気丈な男が、涙を零すところなど自分たちは数えるほどしか見たことが無い。
    ぼろぼろと泣きながら、そのくせ彼にその様子を知られたくない様子で気丈に振る舞っていた。
     シャンブルズでさっさと姿を消したのもおそらくこの顔を見せたくなかったからだろう。
    だからシャチとペンギンは何も言わず、彼のいう通りにした。きっとシャチもペンギンと同じくもう気付いているだろう。名前は知らない、けれど幾度か口に上ったことのある存在。

    「キャプテン」

    地上にシャンブラズして走り出したローにペンギンは意を決して声を掛けた。

    「あの人が、アンタの恩人だったんだな」
    「……」

    ローは鼻を盛大にすすりながら、確かに頷いた。
    拭っても拭ってもこぼれ出す涙に、ペンギンは少し呆れる。脱水になってしまいそうだ。

  • 64◆P.AThYg18sAI22/12/20(火) 23:53:05

    この様子でよくもまァ、彼の前では平然とした振りをしていたものだ。

    「……死んだと、思ってたんだ……とっくに、あの島で死んだと、この十三年間……ッ! くそ、かっこ悪ィ」
    「あんたはいつでもおれたちのかっこいいキャプテンだよ」
    「当たり前だ!」

    ローはずっ、と鼻をすすり上げて乱暴に涙を拭う。
    再び顔を上げたとき傷ついた少年の面影は消え、大海賊の燃える顔が洗われた。

    「もうおれは死にかけのガキじゃねェ」

    バチンと廊下の明かりが落ちたのはその瞬間だった。二人で立ち止まる。窓の無い工場の廊下は真っ暗に染まる。思わず臨戦態勢を取るペンギンに対してローは小さく舌打ちするだけで済ませる。

    「……地下の発電所を破壊されたな」
    「だ、誰に?」
    「コラさんだろう。あの人コートの下に爆弾を隠し持ってた」
    「マジで!?」
    「スキャンしたときに見えた」

    流石に爆弾までは気が付かなかった。ペンギンが驚いていると、ぱちぱちと音が聞こえたかと思うと非常灯がわずかに灯りを取り戻す。

    「かかれェ!!」

     低く轟くさびのある声。その声にローはニヤリと口角を上げた。

    「居た……!」

    タトゥーの入ったローの手のひらが天を向く。次の瞬間にはぎょっとした顔の海軍中将が白衣の男を捕らえているその目の前に現れた。

  • 65◆P.AThYg18sAI22/12/20(火) 23:54:21

    保守、ご感想ありがとうございます。本当に励みになってます。読んでいただけて本当にありがたい。
    次からは最終決戦の予定です。

  • 66二次元好きの匿名さん22/12/21(水) 00:33:26

    文書を受け取ってからずっと泣いてたのか……気付かなかったな
    再会できて本当によかった

  • 67二次元好きの匿名さん22/12/21(水) 00:43:02

    シャチが察したふうだったのってこのローの様子見たからだったんだなって

  • 68二次元好きの匿名さん22/12/21(水) 00:48:05

    そこで負けず嫌い発揮するのかww
    カッケェよキャプテン!

  • 69二次元好きの匿名さん22/12/21(水) 09:24:10

    最終決戦楽しみにして保守

  • 70二次元好きの匿名さん22/12/21(水) 15:35:12

    ho

  • 71二次元好きの匿名さん22/12/21(水) 23:37:49

    >>63

    >>64

    やっと再会できて良かったぁ!

    続き楽しみにしてます!

  • 72二次元好きの匿名さん22/12/21(水) 23:56:47

    泣いてたのかよ!意地っぱりがよ……!!!

    しかしコラさんもローも直前までボロ泣きしてたのに数瞬のうちに歴戦の海賊と強かな海兵の顔に切り替わるのカッコいいんだよな…

  • 73二次元好きの匿名さん22/12/22(木) 02:39:05

    無事に合流しろよ保守

  • 74二次元好きの匿名さん22/12/22(木) 10:42:43

    保守

  • 75二次元好きの匿名さん22/12/22(木) 18:24:37

    スモやん視点も気になって来た保守

  • 76二次元好きの匿名さん22/12/23(金) 00:28:21

    保守

  • 77◆P.AThYg18sAI22/12/23(金) 00:42:40

    四番島から五番島に向かう航路は四番島への航路に輪を掛けてめまぐるしい。本当に帆船の経験が無かったらしいシャチは数度ヤードに打たれたり帆にぶつかって海に投げ出される羽目になった。ロシナンテも最初は慌てたが、本人の申告通り大概魚人でも驚くほどの泳力で小舟に戻ってくるのでエルネスト翁もロシナンテも三度目からは彼に任せることを覚えた。
    むしろ彼に海に居てもらって舵を任せることが出来る分ロシナンテの負担は軽くなったほどだ。

    「シャチ、そっちからアウトリガー押さえてくれ! ひっくり返る!」
    「アイアイ!」
    「ここらは魚も溺れる海なんじゃがなァ!」
    「極寒港育ち舐めてくれちゃ困るぜ爺さん! でも一人じゃ無理!」

    ロシナンテのケツを叩いて指示を飛ばす老翁があきれかえる。唐突なベタ凪の時に海の中の彼が船を引いて進めたときは流石の老翁もケラケラと笑っていた。
    シャチの尽力もあって日差しがわずかに赤らむ頃に漸く五番島にたどり着く。

    「無事着いたァ! 島の気候海域で外海みたいなことあるかよ!」

    シャチがべしゃりと砂利浜に身を投げる。
    ロシナンテも波しぶきでぬれた髪をかき上げて島を見上げた。
     他の島と同じように山脈のてっぺんが海面に突き出したような島である。
     違うことと言えば他の島よりも小さく、険しいことだろうか。人の住める島ではない。
     けれど神秘的な山脈の頂上を切り取ったような美しい島だ。
     西日で桃色に染まる白っぽい岩肌の中に、ぽつりぽつりと絵の具を散らしたように赤や青の鮮やかな色彩が見える。岩肌に群れて咲く花々だろう。一幅の絵画のような美しい島だった。

  • 78◆P.AThYg18sAI22/12/23(金) 00:43:56

    「再びこの島に足を踏み入れる日が来るとは……この島は祭りの島。昔は毎年、この島で花祭りをしたもんじゃ」
    「へェ、もうここから見てもきれいだもんな」

     つなぎを着直したシャチが感嘆する。

    「あいつが来てからはもう出来なくなったがな」

    背後の話しを聞きつつ、ロシナンテは大事に首に提げていた手のひら一杯に埋まる鍵のような形をしたペンダントを確かめる。これが文字通りのこの島とこの計画の"鍵"だ。
     ロシナンテは制服の裾を整え、やれたメイクをすっかり削ぎ落とした後で、懐かしそうなまなざしで島を見上げる老翁を振り返る。

    「……よし、今のところ計画は順調だ。爺さん、良いんだな?」
    「わかっとる。最初からそうすべきだったものじゃ」
    「"鴞"の協力に感謝する」

     ロシナンテは踵を合わせて、長く待たせた協力者へ敬礼した。老翁は肩をすくめて頷いた。

    「海軍に協力したつもりはないが、受け取ろう」
    「シャチ、ここからはおれと爺さんで行こうと思うんだけど……」
    「それは困るな。着いてくよ」
    「だよなァ……」

    シャチが首を振ることを、ロシナンテはなんとなく理解していた。

  • 79◆P.AThYg18sAI22/12/23(金) 00:54:39

    彼の命令は"キャプテン"に下されたもので、ロシナンテの指示に従えというものではない。彼がロシナンテの思うとおりの人物であればもしかすれば、自分への監視も指示に含めているのかも知れないとも思う。
     これがただの海賊なら伸していくところだが、残念ながら彼はおそらく三〇億の賞金首の海賊団のクルーであり、最初に思ったとおりただの雑用であるロシナンテが腕っ節で敵う相手ではない。
    ロシナンテのため息にシャチの口角が上がる。

    「邪魔にはならないぜ」
    「そりゃ頼もしいけどさ」

    ロシナンテは肩をすくめた。

    「爺さん、いいか?」
    「増えても困るもんじゃないわ。わしを背負う人手が増えてよかったじゃろ」
    「それもそうだな」

     シャチの背中に老翁を乗せ、ロシナンテはよし!と気合いを入れる。
     老翁の指示の通りに積み上がった石の山にしか見えない場所を蹴り破る。
    バキンと乾いた木の板が割れる音と共にがらがらと音を立てて岩が崩れていく。
    現れたのはぽっかりと口を開く古い洞窟だ。
    ロシナンテが蹴り破ったのは古い木の扉だった。入り口らしい隠された石組みには花の模様の彫刻があり、古くから人の手が入っていることが分かる。かつては祭りのための通路だったのだろう。
    ひんやりと冷えきった風がロシナンテの髪を揺らした。
     ライターを擦って入り口のすぐ奥の壁に掛かっている松明に火を付ければ、連動して奥の奥の松明にまでいちどきに灯がともる。
     暗闇が照らされたそこには、遙かに続く階段が上に登っていた。
     ロシナンテはすこしばかりげんなりとしながらその階段に足をかける。


    ひたすらに登ってついに辿り着いた階段の果てに見えた光景にシャチの背に負われた老翁がひゅっと息を呑む。
    外から見てもわからない山の真ん中が凹んだ形のカルデラが眼下に広がる。真ん中にはこじんまりとした湖がある。内部の聳り立つ山崖は白く、傾いた西陽を浴びて燃えているようだった。
    ──ああ、美しい。
    ロシナンテもまた眼下に広がる光景に目を見張る。
    白い山肌に囲まれたカルデラに咲き誇るのはまるで雪国に降り積もる純白の雪のような花弁。カルデラ一面に咲くその花はまるで楽園のようだ。
    それは人を惑わす麻薬の原材料だということを忘れてしまいそうなほど夢のような光景であった。

  • 80◆P.AThYg18sAI22/12/23(金) 00:56:54

    保守、ご感想ありがとうございます!
    少し間が空いて申し訳ないです。
    最終戦の舞台に着いたので後少しです。今年中に終わる……といいなと思います。

  • 81二次元好きの匿名さん22/12/23(金) 01:00:59

    はやく先を知りたいって気持ちとでも終わってほしくないって気持ちで板挟みになる

  • 82二次元好きの匿名さん22/12/23(金) 07:24:25

    乙です。今回の件が終わっても後日談とかめっちゃ見たい概念です
    続き楽しみにしてます

  • 83二次元好きの匿名さん22/12/23(金) 11:22:17

    海兵海賊一般人が協力してる描写のとこ特に好きだな戦うとか避難とかじゃなくて航海してるのも珍しいし

  • 84二次元好きの匿名さん22/12/23(金) 18:54:00

    最終戦に向かってる…ドキドキしてきた

  • 85二次元好きの匿名さん22/12/23(金) 23:32:47

    ワクワク

  • 86二次元好きの匿名さん22/12/24(土) 08:36:12

    保守

  • 87二次元好きの匿名さん22/12/24(土) 13:55:12

    ジンベエに運ばれた時もそうだけど、そこまで泳げる奴ってやっぱ重宝するよね
    悪魔の実の能力が主力になりやすい世界だし

  • 88二次元好きの匿名さん22/12/24(土) 21:48:19

    無事には終わらないだろうけど無事に終わってくれ…

  • 89◆P.AThYg18sAI22/12/24(土) 23:53:21

    「昔はここで一晩中踊り明かしたもんじゃ。たのしかったぞォ」

     と美しいカルデラを見下ろしながら懐かしく目を細める老翁にロシナンテは苦笑する。楽しくなる、という言葉にシャチがサングラスの下で目を眇めて背負う老翁を振り仰ぐ。

    「それってさァ」
    「言うてくれるな。知らんかったし、蜜は触れんしきたりじゃった」
    「花粉は軽くトランスするくらいなんだろ」

     話しながらも切り立った岩肌を削って作られた崖道を慎重に降りていく。
     四番島に近い方には山を越える本来の道があるらしい。こちらは不便で廃れた昔の道だという。いまやこちらは老翁しかしらない隠し通路だ。
     この道があるからこそ、ロシナンテたちがここまで忍び込めたのである。

    「石舞台はあっちじゃ」

     老翁が指さす先をみて、ロシナンテは眉を顰めた。
     崖肌の中腹あたりに人工的な石舞台とその奥の洞窟が見える。
     しかしその近くには幾人かの苦役を強いられている人影と、その護衛らしい気配がある。
     無残に刈り取られた花の詰まった籠を背負いながら山を越えていく奴隷と、それを使役してこの花畑を守る護衛だろう。
     この美しい花畑は自然に作られたものではなく、管理されているものだという証にロシナンテはカメコでそれらの証拠を押さえてホッと息をついた。
     これでほとんど必要なものは揃えられた。

  • 90◆P.AThYg18sAI22/12/24(土) 23:54:26

    無事に岩肌の隘路を降りきって、シャチはやれやれと老翁を地面に降ろす。
    最後の一歩でドジってひっくり返ったロシナンテは、そのまま鼻先で揺れる花を見上げた。雪のように白い花弁、花芯は金色でむせかえるような甘い匂いが香る。すこしくらりとして慌てて土汚れを払って立ち上がる。

    「聖なるメリィダの花……か」

     その花の名前を呟くとエルネスト翁は首を振った。

    「かつてそう呼ばれたが、今となってはどうしようもないもんじゃ」
    「メリーダウィードは偉大なる航路の栽培禁止植物というか、所持禁止というか、この島くらいでしかもう生えてねェなァ。デカい島の植物園ならいざしらず」

     痛んだらしい腰を伸ばしていたシャチがロシナンテと老翁の会話を聞いてがばりと身を起こす。メリーダウィードには聞き覚えがあったのだろう。

    「嘘! メリーダウィードかこれ! すげェ……三百年前には絶滅したはずだろ!」
    「よく知ってるなァ」
    「そりゃまァ、船長がお医者さんだからね」
    「でも外科医じゃねェの?」
    「船医って結局究極の総合医だってさ。この間薬学の天才医師と情報交換してたからそっちにも興味伸ばしてるみてェ。昔は麻酔で使われてたって聞いたけど」
    「えらいなァ」

    しみじみと呟いて煙草を吸いこむ。なんだか楽しそうでロシナンテも嬉しかった。
     一服終えて立ち上がる。

    「さァ爺さん、仕上げだが」

     見下ろしたエルネスト翁は覚悟を決めた顔で頷いた。
     ロシナンテは最後の一吸いを肺に納めて、ちらりとシャチを見やる。

  • 91◆P.AThYg18sAI22/12/24(土) 23:55:09

    「ここからは流石に部外者を連れてはいけねェんだが……」
    「安心してくれよ、邪魔にはならねェ」
    「……言うこと聞く気そもそもねェな」
    「うん」
    「海賊め……」

     胸を張る海賊にロシナンテは頭を搔いた。船長以外の命令は聞かないし、それ以外は自分の信条に従うのが海賊だ。そういう習性だと分かっていても、ロシナンテは根っからの海兵なので深いため息がでる。

    「……怪我するなよ」
    「アイアーイ」
    「爺さん、負ぶってもらってくれ。このまま壁をぐるっと回って沿ってバレないようにあっちに向かうぞ」

     ロシナンテの号令で三人で人目と花を避けながら壁沿いに向かう。

    「この島の護衛はそれなりに腕が立つ。仲間を売って薬に溺れた元船長とか、十億超えの怪物も居るらしいから気をつけろ"マナーマン"ハリーとか"乱暴者"のテキーラとか……」

    ロシナンテの挙げた名前にシャチはげぇと口を曲げる。昔はそこそこ名の通った海賊だ。

    「四番島のやつらが居ないだけマシじゃろ」
    「あっちは合図でスモーカーたちが捕縛してくれてるはずだ」

     ひそひそと囁きながらも足は休めずに進む。
     岩を掘って作られた階段をそっと上がれば、大きな一枚石で作られた舞台に上がる。舞台を通り抜けて奥に進む。
    老翁が石畳をずらすと、そこにはちょっとぞっとするほどほとんど垂直の階段が地下に続いていた。まるでこのまま地獄にでも続いていそうなほど深い穴だ。
     この下が目的地だ。
     ロシナンテはごくりと息をのんだ。

  • 92◆P.AThYg18sAI22/12/24(土) 23:56:25

    「ロシナンテ、鍵を」

     エルネスト翁がロシナンテを睨み付けるようにして手を出す。
     ロシナンテは自分の半分にも満たない老翁を見下ろして、口をひんまげた。

    「そのことなんだがな──」

     ロシナンテが言いかけた言葉が不自然に止まる。エルネスト翁が目を見開き、シャチが爺さん!と声を上げる。
     洞窟の入り口から銃声が洞窟に響き、血が舞台に飛び散る。
     銃口を向けた先には、西日を受けて黒いシルエットを壁にもたれるようにした男。整えられていた髪はぼさぼさで、もう既にかなり傷を負っている。

    「アルカニロ……」

     崩れ落ちた老翁が慌てて受け止めたシャチの腕の中で低く呟く。
     入り口のアルカニロは荒い息を整えながらもう一度銃口を向ける。ロシナンテの銃口が牽制する。
     アルカニロはそれを睥睨するとため息を吐いた。

    「死人大集合か? なァコラソン。
    おれはお前は死んだとジョーカーに聞かされていたんだがね」
    「あいにくだが、おれは地獄でも嫌われ者だったようでな」
    「だろうな、お前達を好きな人間がいるものか」

     含みのある言葉にロシナンテがぎくりと身をすくませた。 
     少しぶれた銃口に、アルカニロが指を鳴らす。アルカニロの背後に追いついたらしい武器を持った男達がずらりと並ぶ。目つきは異常にギラギラとしており、だらだらと汗を流して赤い鬼のような顔をしていた。ただの奴隷では無いのだろう。

  • 93◆P.AThYg18sAI22/12/25(日) 00:04:42

    「くそったれ。お前たちの所為で工場はもうダメだ。だが、この花さえあればまだやりなおせる。お前たちを始末してからだが……」
    「そうはいくか。おれはまだ死ぬわけにゃいかねェ心残りがある」

     洞窟の外でうわんと鬨の声がする。海兵たちがアルカニロや逃げ出したものたちを追って雪崩れ込んできたのだろう。
     外では戦いが始まっている音がする。

    「シャチ、爺さんをつれて外に。ここは危ねェ。スモーカーに合流してくれ。たぶんお前の"キャプテン"も来てるだろ? 治療してやってくれ」
    「何!? おい、まて話が違うじゃろうが!」
    「でもアンタはどうする!」
    「作戦は順調だってスモーカーに言ってくれ。文書を渡してるから大丈夫だと思うが、引き際を見誤るなとも」

     老翁がぎょっと傷口を押さえながらシャチの腕の中で暴れる。失血でぐらりと老翁の意識が遠ざかっていくのを見て、ロシナンテはにやりと笑った。伸ばされた老翁の手がだらりと下がる。

    「元々、このつもりだったんだよ爺さん。おれが鍵を開く」
    「あんた、何をする気だ?」
    「……言っただろ? この島をぶっ壊すってよ」
    「すぐ戻る、無茶はするなよ!」
    「ありがとな」

     ロシナンテは煙草に火を付けて口に挟み、アルカニロの脳天をめがけて牽制に引き金を引く。アルカニロが避けた横をシャチが気を失った老人を連れて駆け抜けた。

    「"鍵"を渡せ」
    「断る」

     ロシナンテは己に触れて"凪"と呟いた。

  • 94◆P.AThYg18sAI22/12/25(日) 00:06:50

    保守、ご感想本当にありがとうございます。あと少しで完結できるはずなのでどうぞお付き合いくださいませ
    みんなで航海するのいいですよね、航海の描写は書いててとても楽しいです!

  • 95二次元好きの匿名さん22/12/25(日) 04:05:42

    うわわ…どうなるんだ…すっごい気になる引きで終わった…
    続き楽しみにしてます。乙です

  • 96二次元好きの匿名さん22/12/25(日) 14:01:45

    このレスは削除されています

  • 97二次元好きの匿名さん22/12/25(日) 21:51:55

    保守保守

  • 98◆P.AThYg18sAI22/12/25(日) 22:41:27

    キャプテン!と叫ぶ声にローがはっと振り返る。そそり立つ岩壁から転がり落ちるように花畑に飛び出してきたのは何者かを抱えたシャチだった。自分を見つけたらしくこちらに駆け寄ってきている。
    隣に立つスモーカーが、ため息をつく。

    「潜り込ませるのが早すぎる」
    「そりゃコラさんに言え」
    「誰だそりゃ」

    肩をすくめるスモーカーは十手を肩に担ぎながら幾人かの海兵の後ろにぬっと立って睨みをきかせていた。海兵たちとローのクルーたちは互いに競い合うように五番島の護衛や奴隷たちを倒していく。
    今、この場で彼らは“協力者”であった。


     
     地上の工場へ飛び出した時のあの一瞬の停電が何かしらの合図だと知ったのは工場の幹部および研究員の捕縛に号令を掛けていたことで分かった。
     十手であっさりと幹部を捕縛した白猟のスモーカーは、シャンブルズで飛び出してきたローとペンギンを見て目を丸く見開き、その口の葉巻を落とさないのが不思議なほどの顔をしていた。もう少しローに余裕があれば少しばかり揶揄ってやれただろう。しかし、そのときのローは号泣の名残を消す為に能力を使うのに手間取っており、そんな余裕は無かった。
    海兵たちが驚きすぎた一拍ほどの間を置いてぎゃああ!と声を揃えて驚愕の声を上げる。トラファルガー!と悲鳴を上げるもの、久しぶりだなァ!何しに来やがった、元気か!?と混乱しているものと様々な声が廊下にうわんと響く。

    「うるせェ騒ぐな!」
     
     驚きを瞬く間に乗り越えたスモーカーが部下を一喝する。その間にも手元だけが動いて足蹴にしている白衣の男を器用に縄で縛り上げている。そのままローに突き出された十手はペンギンが武装色の覇気を纏った手刀で弾く。
     自分に当たりそうならペンギンが止めるだろうし、スモーカーも自分たちに攻撃の意思がないことを見抜いて牽制に留まっていることをローは理解していた。
     ローは海軍本部中将の攻撃に毛の一筋も動かさずに、握った手を突き出した。スモーカーが流石に困惑した顔で口の端から煙を吐き出す。

    「何の真似だ」

     拳に握りしめているのは記憶よりも小さく感じる鍵の掛かった筒。それを、ローは手のひらを開いてその生真面目な将校に突き出した。

    「落ち着けよ、白猟屋。おれたちは"協力者"らしいぜ」

  • 99◆P.AThYg18sAI22/12/25(日) 22:42:35

    海兵なら誰でも分かると言ったのは嘘では無かったのだろう。周りに居た海兵たちがぎょっと目を見開いた。
     眉間に一層深い渓谷を刻んだ男がローと文書を交互に睨み付けて、ローに説明を求める。

    「預かり物だ。アンタに……"葉巻を銜えた厳ついおっさん"に渡せと言われてな」

     にやりと口角をつりあげてやれば、スモーカーの片目が眇められて苛立った様子で吐き捨てる。

    「お前が海兵の指示に従うタマか」
    「M.C01746 海軍本部ロシナンテ中佐からだと言ってもか?」

     ローの言葉に、ざわっと海兵立ちが騒ぐ。それ以上にスモーカーの顔が険しくなりペンギンがじりっと腰を落とした。

    「ロシナンテ?」
    「ロシやん留守番じゃねェの?」
    「ロシやん雑用だろ?」

     ざわめく背後を無視して、スモーカーはフゥと再び煙を吐く。

    「……死んだ人間のM.Cを、あの人が伝える訳がねェだろう。ロシナンテ中佐は死んでる。あいつは再任用の別人だ。さすがにそんなドジは踏まねェだろうし、三十億の海賊を協力者にするような人じゃねェ」
    「……」
    「何を企んでる?」

     思わず漏れたローの鋭い舌打ちにスモーカーがまた深いため息を吐く。 
     文書を乗せたロー手のひらが再び閉じられようとして、悔しげに指先が震える。
     スモーカーは親しい者がわずかにわかるほどに困った顔で十手の切っ先を下げた。

    「だが、他に理由があるなら……」

     スモーカーが言いかけた言葉は、差し込まれた二人の声に途切れる。

  • 100◆P.AThYg18sAI22/12/25(日) 22:43:41

    「そう言ってやるな、スモーカー」
    「そうですよ! その人は色々あってこの島に偶然来ていただけです!」

     廊下の向こうからおかきをかじりながら悠然と現れた将校と彼に合流しながら慌てて駆け寄ってきた女海兵をスモーカーは睨み付ける。

    「センゴク大目付」
    「……センゴク」
    「久しぶりだな、トラファルガー・ロー。積もる話しは─出来なかったみたいだな。心配するな、後で時間をとろう」

    ローの一睨みなどどこ吹く風で、受け流すと、センゴクはゆっくりと目の前にあるものを読み上げるようにスモーカーに語りかける。

    「海軍総則第三十五条その六 海軍規定の情報文書はそれを所持するものが何者であれ、およそ全ての海兵はそのものを保護し、文書を真性として扱うものとする──そうだろう?」

     まなじりは柔らかに見えるが、眼光は鋭くスモーカーに向いていた。

    「……ただし、海賊による罠と考えられる場合はそのかぎりではない──でしょうが」
    「スモーカーさん」

     かたくなに警戒するスモーカーに、たしぎは声を上げた。

    「そもそも合図の後にはロシナンテさんが合流の予定、予定が既に変更されてます。文書を持っているならその人は協力者じゃないですか」
    「……死人のM.Cを知っていてもか。あの人はそんなつまらねェドジを踏むやつじゃねェと思うが」
    「その意見には同意だが……私はロシナンテの観察眼を信用している。スモーカー中将。それに、トラファルガーのことなら私より中将の方が知ってるんじゃないか?」

    センゴクの言葉に、G-5の海兵たちも頷く。
    「スモやん」
    「……知ってるよ」

  • 101◆P.AThYg18sAI22/12/25(日) 22:44:50

    スモーカーはがつんと床に十手を降ろし、ローに向き直った。その知っている、がローのことなのかロシナンテの観察眼のことなのかはローには分からなかった。
     ローに突き出されたままの情報文書を大きな手が掴み上げ、そのまま懐にしまい込む。
     情報は確かに"正しい"相手に渡った。厳つく、生真面目な海兵の元へと。
    ──今度こそ間に合った。
    その安堵と泣き出したくなるほどの感情はおそらくこの場ではペンギンにしか伝わっていないだろう。
    スモーカーはぼんやりとその筒の行方を追うローの前で額に手を当てた。

    「協力感謝する」
    「……白猟屋、敬礼似合わねェな」
    「うるせェ」
    「よかったですね、キャプテン!」
    「ペンギンは黙ってろ。──ROOM」

     指をかざしてローは島一つを殆ど覆いかねないほどの空間を作り出してから、ああ、と呟く。

    「……"天竜人の分家が絡んでるから早めに公表した方が良い"とコラさんが言っていた」

     海兵たちの驚きの声が聞こえる前に、ローはシャンブルズでペンギンもろとも姿を消す。
     そのときに逃げ隠れしている白衣の男たちを大まかにバラし、まとめて送りつけてやったのはおそらく、ローが酷く機嫌が良かったからだ。


    幾度かROOMを張り直して三番島に停泊する母艦へ戻り、一気呵成に仲間達の毒素を抜き取る。
     構成図を覗き見た甲斐もあって殆ど後遺症も残らないだろう。
     そしてローはそのまま一番島から屋敷で海兵たちと大暴れしていたベポと──なぜか大変意気投合したらしいローと入れ替わった海兵──をポーラータング号に放り込んで声を上げた。
     ここまで仲間共々コケにされてたまるものかと憤るクルーたちをローは鼓舞する。

    「緊急潜行! 全速力で五番島へ向かう! 海流も突風も海の下なら関係ねェ──潜水艦の意地を見せろ!」

    もちろん、今度帰ってきたのは威勢の良い「アイアイ!」の声だった。

  • 102◆P.AThYg18sAI22/12/25(日) 22:47:20

    保守、ご感想本当にありがとうございます。本当に感謝です。
    役者がやっと全員同じ様に揃ったのでそろそろクライマックスの予定です

  • 103二次元好きの匿名さん22/12/25(日) 22:59:52

    ハラハラドキドキ!
    コラさん無事でいてくれー!

  • 104二次元好きの匿名さん22/12/25(日) 23:12:07

    ローが泣きそうになってるところでウルッと来てしまった… 最高のクリスマスプレゼントだ!

  • 105二次元好きの匿名さん22/12/26(月) 01:14:08

    「何しに来やがった、元気か!?」でやはりG-5が好きだと再認識したわ。いい強面モブ。

  • 106二次元好きの匿名さん22/12/26(月) 07:41:43

    がんばれ、ロー
    ロシナンテさんと生還して話をするんだぞ
    生きていたら満足とか治療したら満足とかするんじゃないぞ!

  • 107二次元好きの匿名さん22/12/26(月) 07:50:45

    ローとしては“ロシナンテ中佐から託された文書”を渡したかったんだよね…
    ようやく正しき海兵に渡すことが出来てよかった!
    センゴクさんにはいろいろ言いたいよね主に「生きてんじゃねぇか!」て詰め寄りたいよね分かる分かる
    終わってからゆっくりお話ししようね

  • 108二次元好きの匿名さん22/12/26(月) 12:44:28

    保守だーーーー!クライマックスまで見守れーーーー!

  • 109二次元好きの匿名さん22/12/26(月) 18:49:22

    役者は揃ったな

  • 110二次元好きの匿名さん22/12/27(火) 00:22:30

    ああ、終わりが近いんだなぁって感じる…
    寂しいけどコラさんの最後の仕事もようやく終われるんだとも思う

  • 111二次元好きの匿名さん22/12/27(火) 09:23:27

    スレを保守して君を待つ

  • 112二次元好きの匿名さん22/12/27(火) 19:05:54

    このレスは削除されています

  • 113二次元好きの匿名さん22/12/27(火) 19:07:32

    ほしゅ

  • 114二次元好きの匿名さん22/12/27(火) 22:05:56

  • 115◆P.AThYg18sAI22/12/27(火) 22:45:54

    ロシナンテは地面を蹴り上げて並みの人間の動体視力では追い切れぬ速度で男の後ろに回った。アルカニロはロシナンテの胸ほどに頭がある。
    その男の膝の裏に照準を合わせて引き金を引く。
    片足を吹き飛ばすはずの銃弾は、石畳をえぐった。
    男は初老とも思えない踊るようなステップで銃弾を避け、美しいターンを決めてロシナンテに向き直る。
    手にはいつの間にか鋭いナイフが一丁握られている。大きく踏み込んだナイフの一突き。
    ロシナンテが切っ先を半歩で避け、制服が裂ける。どろりとナイフの色が変わる。
    ──たっぷりとナイフの溝には麻薬の原液が染みこんでいるらしい。
    風を切りながら的確にロシナンテを殺そうと突き出される斬撃。
    ロシナンテは愛銃のグリップで幾度も弾く。
    その攻防に音はない。
    薄暗い洞窟に幾度も火花が散った。
    アルカニロは防戦一方のロシナンテに口角を上げる。

    「ハーシシシ、他愛もない」

    冷たく目をとがらせたロシナンテは音の無い舌打ちをして、腰を捻った。
    鋭く息を吐いて長い足を鞭のようにしならせて蹴り上げる。

  • 116◆P.AThYg18sAI22/12/27(火) 22:47:37

    アルカニロはそれを軽く避けて、にやりと笑った。
    しーん、と何も音はしない。
    音もしないまま落石がアルカニロの無防備な脳天を襲った。人の頭ほどもある落石にアルカニロが素っ頓狂な悲鳴を上げる。

    「あがッ!?」

    嵐脚──不可視のかまいたちはアルカニロの避けた先の洞窟の天井を崩していた。
    しかし、ロシナンテの影響で起こる全ての音は能力でもって失われる。アルカニロは頭上の危険に気付いていなかった。
    ロシナンテはフーッと再び息を吐いて、アルカニロの腹を思いっきり蹴り飛ばす。
    おろおろとしていた薬漬けの男たちの幾人かがが彼を受け止める。
    もう幾人かがロシナンテに銃口を向けてやたらめったらに引き金を引いた。
     慌てて武装色の覇気を纏うが、的としては大きなロシナンテの皮膚を裂いた。致命傷には至らない。
    "剃"で石舞台の岩陰に身を隠し、岩を影にしながら彼らに無音の銃弾を浴びせかける。
     銃はあっというまに彼らの手を離れ、ロシナンテはそれを見計らってひょいと彼らを洞窟から続け様に投げ落とす。いつか子どもを投げ落とすときよりは良心は痛まない。
     一人残ったアルカニロがふらふらとなりながら身を起こそうとしている。

    「きさま……っ!」

    ロシナンテは能力を解除して、最後に残ったアルカニロに銃口を向けたまま肩をつかみ、石舞台に叩き付ける。額に銃口を突きつける。
    西日が真横から入り、二人を赤く照らした。

  • 117◆P.AThYg18sAI22/12/27(火) 22:52:07

    「貴様……! クソ、貴様さえいなければ、貴様らさえ居なければ……」
    「薬師アルカニロ──、もうおしまいだ。この島の花はもう二度と花を付けることは無い」

    ロシナンテの諭すような言葉に、男はすさまじい憎しみの表情を浮かべてロシナンテを睨み付けた。

    「……この花は!」
    「お前を愛した娘が愛した花だろう? 知ってるよ、エルネストに聞いた。ある日、ある海賊に敗れたお前は四番島に流れ着き、ある娘に助けられた──」


    もう何十年も前の話だ。
    貧しい島で、娘に献身的な看病を受けた男は、次第にその娘に心を開いた。そうして海賊をやめてこの島に根を下ろそうとした。気難しい漁師の義父と優しい妻──だが、幸福な時間はあっという間に過ぎた。
    アルカニロはもうとうに海賊をやめたつもりだったが、それを知るものはいなかった。因果応報──義父と妻──彼にとって初めて得た家族──は奪い去られ、売り飛ばされ、運良く帰ってきた時には永遠の苦しみを背負っていた。特に娘の苦しみはひどく、鬱々と塞ぎ込む日が増えた。その苦しみを紛らわすために男は禁断の花に手を付けてしまった。幸せの花。娘の笑顔に男は喜んでより効果の高い花の薬効を探し続けた。花粉から蜜、蜜からさらに蒸留して──。
    けれどその甲斐も無く彼女はまどろみの果てに命を落とした。
    ──花の麻薬でうとうとと幸せの中で彼女は去っていった。
    彼に残ったのは麻薬の生成方法とそれに伴う地位、そして世界への憎しみだけだった。
    それをロシナンテに語ったのはエルネスト翁その人だ。

  • 118◆P.AThYg18sAI22/12/27(火) 22:54:51

    「貴様らに何が分かる? なァ、天竜人!」
    「…わかんねェよ」

    押さえつけられた片手に握ったナイフがロシナンテの脚に突き刺さる。刺さったナイフに一瞬顔をしかめたが、銃口はぶれなかった。

    「ガキのときからずっと、なーんも分からねェ。おれの呪われた血筋を知ってからも、兄貴の悪行を知ってからも……正義を背負うと決めてからも──。ああ、でもあいつを救うと決めて時からは少しマシだったかもしれねェが……」

     憎悪に顔を歪ませたアルカニロが突き立てたナイフが嫌な音を立てて捻られる。肉をえぐられる傷みにぐ、と呻きながらもロシナンテは眉を下げた。

    「……すまなかった。本当に、申し訳ない。おれが謝ったってどうしようもねェけど、天竜人に生まれたのは確かだから──この案件はおれがせめて蹴りを付けたかった」

    ロシナンテの情報文書に記され、ロシナンテが記憶していた情報の半分はすでに使い物にならなかった。
    その中で、この任務を選んだのはセンゴクではなくロシナンテだ。

    「おれが正しさを証明しなきゃならねェ情報は一つ──あとはおれの手を離れる。だからここを選んだ」
    「忌々しい……!」
    「……エルネスト爺さんと、サンドラ姉さんは本当にガキのおれに良くしてくれたよ。でっかくなったおれのこともすぐ分かってくれた……」

    ロシナンテの言葉に、アルカニロの目がぎょっと見開き、ナイフがからんと石舞台に落ちた。
    くるりとトリガーガードを回してグリップで男の頭を強打する。目を回した男をロシナンテは洞窟の外に放り出す。

  • 119◆P.AThYg18sAI22/12/27(火) 22:57:04

    「……よし」

     軽く脚を止血してロシナンテは立ち上がる。ぐらっと失血だけでは無いひどい目眩がしてすとんとひっくり返る。目眩は刺されたナイフに付いていた薬液だけの理由では無い。

    「ドジッた……」

    洞窟の壁に手を突いて立ち上がる。思わず押さえた口元にべったりと血が付いていた。

    「ッ、げほ、げほ…──はァ」

     脚を引きずり、ロシナンテは階段を地下にゆっくりと降りていく。
     
    「あ゛ァ……クソッ……、キッツ……、くそォ……!ガープ中将の稽古よりキチィかも……ハハ」

    誰にも聞かせられない弱音をここぞとばかりに吐きながらずるずると下る。誰も聴いてないジョークが虚しく階段を転がり落ちる。


    三十分ほどかけて海面よりも遙かに下にあるだろう最下層にたどり着いた。四番島にあったものとよく似た地下空洞だ。
    ところどころは神殿のように手がくわえられており、白っぽい石のせいかほんのりと明るかった。
    いくつもの細い地下洞窟がここにつながり、そして去って行く。ロシナンテが下ってきた階段はその一つを加工したものだったのだろう。遠くに海の音さえ聞こえる。
    その最奥には閉ざされた扉があった。

  • 120◆P.AThYg18sAI22/12/27(火) 22:57:26

    ロシナンテが見上げるほどの大きさだ。ロシナンテはそれを扉だと思ったが、扉ではないのかもしれない。
     把手もドアもない大きな壁画の中の彫刻の一つとして鍵穴があるだけなのかもしれなかった。
    ロシナンテにはてんで分からないが、もしかすれば空白の百年よりも古いものにも見える。
     しかしその鍵穴こそがロシナンテが持ち、そしてこの"鴞"の家に連綿と伝えられてきた鍵の穴だと知っていた。

    ロシナンテは鍵をその鍵穴にはめ込んで回す。歯車が回り、地面が震えるような、何かがはめ込まれていくようなガコンという音。ドウドウと響く水音。
    ひときわ大きな石がぶつかる音とともに、扉が大きく口を開ける。
    真っ黒く口を開いた壁画。奥からどうどうという水音があっというまに迫ってくる。

    「成功ッ!」

    ロシナンテはそれを確認すると一目散に階段へと駆け戻り──階段に足を一歩掛けた瞬間ずるりとすっころぶ。

    「しま──ッ……!」

    受け身を取ろうと力を入れた足がずきりと痛んで滑る。ぐらりと無茶を重ねた意識が一瞬火花のようにばちばちと爆ぜる。

    ──ドジッた……!

    そう思った瞬間、もう既にロシナンテの目の前には壁画から吐き出された黒々とした地下水流が迫っていた。

  • 121◆P.AThYg18sAI22/12/27(火) 22:59:30

    保守、ご感想ありがとうございます!本当に励みになっております!

  • 122二次元好きの匿名さん22/12/27(火) 23:16:07

    リロードした瞬間に更新が…!
    コラさぁぁぁあああん!!! 生きてー!!!!

  • 123二次元好きの匿名さん22/12/28(水) 00:23:29


    コラさんいつも自分の生死に絡む肝心なところでドジる…

  • 124二次元好きの匿名さん22/12/28(水) 00:39:58

    コラさんは終わりかけで気を抜いた瞬間にドジる、オペオペ強奪の時もそうだった
    「貴様ら」は最初ドンキホーテファミリーかと思ったら天竜人の方かぁ
    ローとの旅はコラさんにとっても救いになってたんだなぁ
    だからここで終わっては駄目だよコラさん!

  • 125二次元好きの匿名さん22/12/28(水) 07:58:30

    生きろよ……

  • 126二次元好きの匿名さん22/12/28(水) 14:56:25

    コラさんはドジに他人を巻き込まないから“誰か”が一緒に居ればフォローできるんだけど
    一人でやり遂げようとしちゃうからこういうことになる
    見てるこっちが「誰か助けて」って言いたくなる

  • 127二次元好きの匿名さん22/12/28(水) 15:30:02

    ああ…
    今まで所々出てきたけど見て見ぬフリしてた「口元を押さえるコラさん」の描写が今回はっきり出てきたな……
    ここにきてコラさんの抱えてるバクダンの輪郭が見えてきてハラハラする…

  • 128二次元好きの匿名さん22/12/28(水) 18:29:48

    そこに内臓移植について言及した死の外科医と泳ぎが得意なクルーがおるじゃろ?

  • 129二次元好きの匿名さん22/12/29(木) 01:31:55

    ほしゅ

  • 130二次元好きの匿名さん22/12/29(木) 07:45:00

    保守

  • 131二次元好きの匿名さん22/12/29(木) 13:42:36

    >>128

    他の海賊をドナー扱いなの最高に海賊の医者

    でも患者の方がそれドナーの命どうなるんですかって受け入れ無さそうなんですよね

  • 132二次元好きの匿名さん22/12/29(木) 20:10:10

    >>131

    現実でもいきてる人間からは基本取らないから…

  • 133◆P.AThYg18sAI22/12/29(木) 23:38:47

    「キャプテン!」
    「シャチ!」

    展開したROOMで、シャチとシャチの背負う老人を足下の小石と入れ替える。背中の老人からは血のにおいがする。

    「キャプテン! この爺さんをお願いします! おれは戻らねェとコラソンが!」
    「コラさんがどうした」
    「一人で島親と戦ってます! この爺さんはこの島の協力者です。早く行かねェと……」
    「わかった、手当をするから落ち着け。手短におれと別れた時点から報告」
    「……アイアイ!」

    珍しく泡を食ったようなシャチを落ち着かせてローは老人をスキャンして止血する。枯れたような老人だが、心肺機能や内蔵はこの年にしてはまだ元気な方だ。
    ローが診察している内に落ち着きを取り戻したシャチが整然と話しを進める。大体の話を終えたあたりで、そばで聞いていたスモーカーもコラソンが自分と同じ海兵であることを理解したらしくまた深く眉を顰めている。コラソンから伝えられた言伝にさしかかってシャチがスモーカーに視線を向ける。

    「えっと、作戦は順調。引き際を見誤るなって」
    「引き際……?」

     今、戦況は明らかにたしぎ大佐が指揮を執る海兵とハートの海賊団の連合軍が優位に動いていた。ローとスモーカーが手を下すまでも無く控えていられるのがその証だ。その上でセンゴク大目付が一番島に残していた軍艦でこちらに近づいている。
    ローが手当を終えると、シャチはすぐに身を翻そうとする。ローも老翁を海兵に任せて立ち上がった。

    「まて、おれも行く」

    ──どう、と壁面に空いた大きな洞窟から噴泉のように大量の水が噴き出したのはローがROOMを展開したその瞬間だった。

  • 134◆P.AThYg18sAI22/12/29(木) 23:39:40

    その水に吹き出されるように一人の人影が落ちた。
    シャチが青ざめる。

    「やべェあそこは……!」
    「扉が! ロシナンテ……!」

     気が付いた老翁の狼狽した声にローはぞっと振り返った。老翁はその吹き出した水を見てわなわなと震えている。

    「死ぬのは儂のはずじゃった……」
    「爺さん、どういうことだ!」

     地面に膝をついたスモーカーが問いただす。老翁は痛みをこらえながら話し出した。

    「地下に祭壇がある。水の足りぬ年はその鍵を開けることで地下から水を大量にくみ上げる──その鍵を開けるものは命を掛けねばならん。逃げられるかどうかは一か八かじゃ」
    「……それを利用して」
    「ああ。五百年使われなかったが、これを使えばこの花畑は全て水の下に……」
    「先輩が開けたのか」

    そして──おそらく賭に負けたか、ドジったのだ。ローはぞっとして立ちすくんだ。
    スモーカーが立ち上がるよりも先にローのROOMが展開する。しかし、ローの能力の範囲にはコラソンの姿は無かった。苦々しく焦燥の滲んだ顔が鋭く舌打ちをする。

    「コラさんがいねェ」
    「おれが泳いでいく!」
    「無茶言うな。滝登りでもする気か」
    「でもキャプテン!」

    今にも飛び込みそうなシャチの襟首をひっつかむ。サングラスの下の涙目とかち合って唇を引き結んだ。
    コラソンがローにとってなにがしかの重要な人間だということをシャチははっきりと察している。だからこれほど焦っているのだ。だが、彼とクルーは秤に掛けるものではない。
    あっというまにあまりに大量の水がカルデラを埋めていく。水かさはもう既に咲き乱れる花の背丈を超えていた。

  • 135◆P.AThYg18sAI22/12/29(木) 23:41:12

    「クソ、コラさん……!」
    「チッ……! クソ、引き際ってそいうことか……。たしぎ! アルカニロとそいつら全員捕縛! 退却する!」
    「はッ!」

    戦場に良く通るスモーカーの命令に遠くからはっきりとたしぎの返事が返る。退却!と女海兵の凜と張った声と共に敵味方と問わずに水の張るカルデラから退いていく。
    残るのはローの命令を待つローのクルー達だ。

    「白猟屋! 何か手は! その手の作戦は! 」
    「……ッ」

    スモーカーの顔が歪む。ローもまた必死に頭を回す。
    老翁ががっくりと酷く老け込んだ顔で膝をついた。落ちくぼんで老いた目に涙がこぼれている。

    「書き付け……!」

    スモーカーがハッとした顔で文書ともに渡された書き付けを開く。文書とはまた別に持たされていたものだ。ローもスモーカーの取り出したそれをみる。筆圧の強い懐かしい字を懐かしむ間もなく内容に首を傾げた。

    「……『ふくろうがみちを知ってる』? 何だ……」
    「……ふむ、そういうことか」
    「わッ」

    シャチが悲鳴を上げる。スモーカーとローの頭越しに書き付けをのぞき込んでいたのは白髪の老兵だった。

    「大目付……」

    スモーカーが呟く。センゴクはローの見たことの無い厳めしい顔で手を後ろ手に組んでいる。

    「時間が無いから説明は省くが、あの子はまだ諦めてない」

    センゴクが呆然として水に沈むカルデラを見つめている老翁の横に膝を突いた。

  • 136◆P.AThYg18sAI22/12/29(木) 23:42:15

    「貴殿の話は聞いている。この地形ならば地下の祭殿からの水路はいくつか海につながっているはずだ。ご存じでは無いか」

    老翁の目に光が戻った。

    「東の海岸の、夫婦岩の磯じゃ! じゃが、あそこは魚も溺れるほど……」

    ローは目を見開いた。シャチが声を上げる。

    「さっき渡ったときに海流の癖はつかめた! おれとペンギンなら潜れる!」
    「……行けるか」
    「アイアイ!」

    ROOMが展開される。他の者を残すのも面倒でそこにいるものを片っ端からポーラータング号のそばに集める。

    「シャチ、ペンギン海へ!」
    「任せろォ!」
    「シャチ、ガイドは頼むぞ」
    「もちろん」

    ペンギンを先導して先んじて二人が海に飛び込む。ローは潜水準備に合わせてスモーカーに指を差す。

    「白猟屋! 軍艦の海兵どもに心臓の音さえ立てるなっつっとけ! ベポ! 溺れた男だ、身長は290強の長身! 能力者だ」
    「アイアイ!」
    「野郎ども! 急速潜行!」

    ポーラータングは今までに見たことの無いような素晴らしいスピードで海の底へ潜っていく。二年前でさえ大将黄猿の猛攻を避けて離脱できたほどの艦だ。
    スモーカーは軍艦に戻ろうと煙になり、ふと静かに海を見るセンゴクを振り返った。
    彼はじっと潜水艦の沈んだ荒海を見つめていた。手を後ろに回して背筋を伸ばす姿は、かつて大将、元帥としてのセンゴクを彷彿とさせる張り詰めたものを纏っている。わずかに口が「ロシナンテ」と動いた。
    スモーカーは葉巻からふぅと息を吐き、やかましい甲板を静かにさせるために煙となって吹き去った。

  • 137◆P.AThYg18sAI22/12/29(木) 23:42:58

    足を地下水流にひっつかまれてロシナンテはあがく暇もなく揉まれていく。ロシナンテは悪魔の実の能力者、当たり前だがカナヅチだ。水に触れたところから体の力は抜けていき、流されるままになる。

    ──こんな時ばっかりドジるんだおれァ……

    必死に吸い込んだ息が漏れないように口を押さえながら、ロシナンテは久しぶりに自分のドジを嘆いた。数秒もしない内に舌にわずかに感じる塩っ気に海に出たことを悟る。地下水脈のいくつかは海にでるものだったのだろう。
    どんどん体が沈んでいく。頭上に白い水面が揺れ、白いはしごのような光を幾筋かロシナンテのそばに投げかけていた。普通の人間なら泳いで浮かび上がれるだろう。だが能力者のロシナンテにはなんの助けにもならない。
    胸ポケットのカメコがじたばたと暴れていて、ロシナンテはせめてもと取り出す。無事に浮き上がってくれるといいと、水面に向かって浮いていくのを見送った。
    こらえていた息も限界が来てごぼりと呼気が泡をつくって上に上がる。

    ちくしょう、と肺の中の空気が無くなっていくのを感じながらロシナンテは自由のきかない、あっというまに暗い死の水底に沈む体で必死に水面に手を伸ばした。
    ちくしょう、あと少しだったんだ。
    センゴクさんが直々にくれた任務、おれは本当に一個残らず達成するするもりだったんだ。もうあの人を裏切りたくねェんだ。
    ローに、もう一回ちゃんと会いたかったんだ。はっきり顔が見えなかったから、あの子の病気はちゃんと治ったかおれの目で見れてないんだ。
    ああちくしょう! なんだってあんなに死にたいと願っていたときには死なねェのに、死にたくないと思うときに死ぬんだ!
     肺の空気をついに失って、ロシナンテは真っ逆さまに沈んでいく。
     最後に見たのは、海を飛ぶ黄色いクジラの幻覚だった。

  • 138◆P.AThYg18sAI22/12/29(木) 23:49:26

    保守、ご感想ありがとうございました。本当に何よりの励みです!!最近一回分が長くて読みにくかったらすみません
    ・コラさんはドジはしても任務は遂行するし、周りを巻き込むようなドジはしないつもりでこの話のドジは書いてます。最後なので小話ですが、実は一回の投稿で一回は必ずドジするように書きました…自分がミスってなければ。
    ・あと、敵キャラのアルカニロの笑い声「ハーッシシシ」はそのまんま葉っぱのドラッグの別名という小ネタでした

  • 139二次元好きの匿名さん22/12/29(木) 23:55:06


    間に合ってくれ…!!
    あと一回分が長いと満足感あって嬉しいぞ

  • 140二次元好きの匿名さん22/12/30(金) 00:18:36

    最初読んだ時はこいつハシハシの実の能力者か…!ってなりました
    なるほど…

  • 141二次元好きの匿名さん22/12/30(金) 07:58:36

    無事でいてくれ……カメコ…!

  • 142二次元好きの匿名さん22/12/30(金) 14:34:44

    保守
    助かってくれー……

  • 143◆P.AThYg18sAI22/12/30(金) 22:01:11

    ロシナンテはすっかり深い闇の中にいた。息苦しさに咳き込んだことや、誰かにやけに一生懸命に名前を呼ばれていることはうっすらと、ひとつ幕を隔てた奥で感じていた。
    まともに目を覚ましたときにはロシナンテはぼんやりとしたまま周りを見回した。我が家のように見慣れた海軍の軍艦のキャビンの天井が見える。ベッドの横の椅子で大柄な男性がうつらうつらとしている。

    「──センゴクさん?」

     ベッドサイドに座ってうつらうつらとしているその人を見て、ロシナンテは彼の名を呟いた。その声にすぐに目を覚ましてロシナンテの名前を呼ぶ。随分と皺が増えて、御髪まで白くなっている。
    ああきっとまた随分お忙しかったのだろう。最近はロジャー海賊団の件で海に出っぱなしだった。腕を伸ばして彼の腕をタップする。

    「起きたかロシナンテ」
    「またお疲れですか? おれもちゃんと海兵になったらお手伝いしますね……」
    「なんだ、お前はとうに海兵だろうが。さては寝ぼけてるな、おれが帽子をかぶせてやっただろ」
    「そう……、あれは嬉しかったなァ」

    ロシナンテのそう大してたいしたことも無い人生にとってあの日は今までの中でも一二を争うほど晴れがましい日だった。あの春の日。センゴクが大将として正式入隊の証をロシナンテに預けてくれたのだ。
    あの冬の島で一人の子どもを守りきったあの日まではあれが一番誇らしい日だった──。
    そこまで思い出してもう一人、センゴクの反対側の手を握っている気配がしてそちらに頭ごと目を向けた。
    一人の青年が顔にありありと心配を塗りたくった顔でロシナンテを見つめていた。

  • 144◆P.AThYg18sAI22/12/30(金) 22:02:57

    帽子の下で堅めの短い髪を四方八方に散らして、目の下にたっぷりとクマをつくった二十代半ばの青年が、ロシナンテの手を物騒なタトゥーの入った手で握っていた。脈を測っていたような手の形をしている。
     
    「コラ……さん」

    船室のゆらゆらと揺れるランプの下で、健康的に日に焼けた肌が何よりもロシナンテの目を引いた。
    あの無機質に白い珀鉛の病の兆候はすっかり彼から取り除かれている。

    「ロー……おまえ、病気が……」

    この青年は、確かにあの時別れたローなのだとロシナンテにすとんと納得する。海賊"死の外科医"トラファルガー・ローと、ロシナンテが宝箱にしまった子どもが初めてつながったような気がした。
    手配書で散々眺めたあの凶悪な面影はなりを潜めたその表情にロシナンテは目頭が熱くなっていく。
    そこでぼんやりとしていた意識が急速に息を吹き返してどっと今の状況が頭に流れてこんだ。
    大慌てで身を起こす。

    「ロ、ロー……! お前、ローか! って、そうだおれ最後にまたドジッて! いやセンゴクさんおれのカメコは! ロー、文書渡してくれたんだな、ありがとォ!!」
    「いってェよ! 落ち着け!」

    ぐるんとローの肩をつかんだままセンゴクに身をよじって尋ねる。

    「無事海面で回収したよ。電伝虫を海に浸からせてやるなかわいそうに……」
    「良かった生きてて……あの、データも」
    「既に本部におくっている。あとは本部で精査待ちだ」
    「夕方くらいです?」
    「それくらいだな」

     慌てて飛び起きてセンゴクに矢継ぎ早に尋ねる。
    それに全て肯定をもらい、ロシナンテはほーっと息を吐き、その途端に広がった体中の痛みに思わずギャッと身を強ばらせる。

  • 145◆P.AThYg18sAI22/12/30(金) 22:04:44

    「いっててて……!」

    そんなロシナンテを小突くのは、先ほどの心配顔をあっというまにふてぶてしい顔に整えたローだった。その負けん気の強さは確かにあのローである。

    「おっ、おい急に動くな。アンタあの数時間でまた傷増やして縫ってんだから……」
    「へへ……本当にお医者様みてェだ。ちょっと顔見せてみろ」
    「本当に医者だよ。おい、勝手に帽子取るんじゃねェ」

    この口うるささと小生意気さにも確かに幼い頃の面影がある。
    うんうんと頷きながらひょいと帽子を脱がしてくしゃくしゃに顰められた不機嫌そのものの青年の肌をランプにかざす。額に手を当てたり、喉に触れたりするロシナンテに彼はされるがままになっていた。

    「本当に肌がきれいになってる。タトゥーもイカすじゃねェか! 熱もない、喉も腫れてねェし、呼吸音も正常だ!」
    「もうとっくだよコラさん。風邪なんてこの十年引いてねェ」

    ローの頭をかき回すように撫でて、そのままセンゴクに向き直る。

    「へへ、センゴクさん見てくださいこいつがローです」
    「知っとるが」
    「ロー、この人がセンゴクさん」
    「知ってるよ」

     二人がそろって呆れた顔をする。それがまるで、なんとも信じがたい奇跡のような光景でロシナンテの鼻の奥がツンと痛んで鼻を啜った。
    センゴクは淡く苦笑するとロシナンテの腕を叩いて立ち上がって部屋を去る。

    「さて、私はまだちょっと仕事があるんでな。ロシナンテ。起き上がれるようになったら艦長室へ来るように」
    「はッ!」

    ベッドの上であまり格好の付かない敬礼にセンゴクは鷹揚に頷いてドアを閉めた。
    その途端にふっとローが肩の力を抜くのが分かった。

  • 146◆P.AThYg18sAI22/12/30(金) 22:07:30

    ベッドからもぞもぞと動いて彼の方に寝返りをうつ。
    そこには帽子の縁をぐっと押さえて、歯を食いしばって泣くまいとしている青年がいた。

    「……ロー」

     目の合わない肩を引いて、少し起こした肩口に抱き寄せる。あまり抵抗は無かった。それで許されたような気持ちになる。
    あの頃はすっかり腕の中に収まる大きさだったのが嘘のように育った子どもはすっかりロシナンテの腕には余る大きさだった。がっしりとしていて、ちゃんと鍛えられた成人の体格をしている。あの頃の白樺の枝よりも細く、ロシナンテが片手で掴み上げられた子どもが、こんなにちゃんと生きている。
     じわりと肩が熱く濡れる気配がして、ロシナンテも鼻をすすり上げた。

    「……大きくなったなァ……」
    「うん……あんたのおかげだ」
    「ドフィ、止めてくれてありがとうな……」
    「ああ……おれが勝手にやったことだし、おれひとりのことでもねェ……」
    「うん、ありがとう」

    堂々として誠実な言葉にひどく感銘を受けるが、ぐず、と鼻をすする音ときたらどちらの音かもわからないのでお互いに格好は付かなかった。
    掛け布団のカバーで鼻をかんで、ロシナンテはローの背中を叩いた。
    その背中に問いかける。

    「ロー、今、楽しいか? 辛ェこととか……ねェか?」

  • 147◆P.AThYg18sAI22/12/30(金) 22:07:58

    ロシナンテのおそるおそる尋ねた問い掛けにローはがばりと顔を上げて、ロシナンテを見上げた。
    ロシナンテはその顔に目を丸くした。

    「ああ、もちろんだ。ありがとうコラさん」

    まだ目に涙の残るまま、ローはくしゃりとガキのように笑う。
    あの旅の中の最後の時でも見たことの無い、さっぱりとした素直な笑顔だった。
    ロシナンテの緩みに緩んだ涙腺は当然、ウォーターセブンに聞くアクアラグナの如く決壊し、反対にローが苦笑しながら宥めに回る。

    「よがっだ、よがっだァあ!」
    「もう泣くなよ。あんたのおかげでいい仲間にも出会えた。気のいい馬鹿ばっかりだ。あんたに紹介したい。世界一のおれの艦も」

    その呆れたような慈しむような顔で、その仲間と母艦がローにとってどれだけ大事なのかロシナンテにはすっかり分かってしまった。それもまた嬉しい。
    本当に嬉しかった。
    それからしばらく、ローとの話が弾み、泣いたり笑ったり、時に怒られたりと船室は大賑わいをしていた。

  • 148◆P.AThYg18sAI22/12/30(金) 22:08:43

    保守、ご感想本当にありがとうございます!
    今日はうまくいけばもう一回投稿します

  • 149二次元好きの匿名さん22/12/30(金) 22:13:53

    あああ…よがった…二人が無事に再会できて…

  • 150二次元好きの匿名さん22/12/30(金) 22:17:16

    感動しだああああああ…………うおおおああああ………
    よがっだねええええええ

  • 151二次元好きの匿名さん22/12/30(金) 22:22:10

    感無量ですねぇ…………

  • 152二次元好きの匿名さん22/12/30(金) 22:23:37

    良かった…本当に良かった…!!

  • 153二次元好きの匿名さん22/12/30(金) 22:41:41

    コラさん怪我は増えちゃったけど無事ローに再会できてよかった!しかし一安心できたらハートクルーとコラさんの交流も見たいという欲が出てきてしまう

  • 154二次元好きの匿名さん22/12/31(土) 00:19:02

    この勢いでコラさんの健康寿命問題も……!

  • 155二次元好きの匿名さん22/12/31(土) 01:13:26

    この時を待ってた…!良かったねぇ…本当に良かった…
    待ってる間、センゴクさんとローでどんな話してたんだろうなぁ

  • 156二次元好きの匿名さん22/12/31(土) 10:07:37

    二人でどんなこと話したんだろうか…積もる話はたくさんあった筈、きっと怪我を増やしたことを怒られたりしつつ無事にまた再会できたことをお互いに噛み締めたんだろうなぁと妄想
    任務も無事に終わったしコラさんがこれからどうなるのか気になるところ…続きが楽しみです…!

  • 157◆P.AThYg18sAI22/12/31(土) 14:07:36

    >>156

    おお……!!右端で怒られてるコラさんと怒ってるロー可愛らしいなすごい……!怪我の位置まで作中と同じじゃないですかすごい!コラさんがどっちも涙目なのと、ローが嬉しそうなのこらえてる表情なの表現力の神様みたいだ……!

  • 158二次元好きの匿名さん22/12/31(土) 14:28:32

    >>156

    コラさんスレに現れる神絵師だ!

    煮込めっ!

  • 159◆P.AThYg18sAI22/12/31(土) 16:11:21

    ローとしばらく話が弾み、体が軽くなってきたところでロシナンテは予備の雑用服に袖を通した。誰かが整えてくれていたので後で礼を言おうと心の中でメモをする。

    「……雑用」

    ベッドサイドでロシナンテが海兵の制服を着るのをつまらなそうに見ていたローは、じっとりとした目で大きく縫い込まれた雑の文字を見て呟く。嫌悪感はないが呆れと哀れみの勝った声にロシナンテはがっくりとうなだれた。ナギナギの実の能力を披露したときと変わらない目だ。

    「コート着てたときはおれだってかっこよかったんだぞ……」
    「別に興味ねェよ。なァ雑用よりも海賊する気は?」
    「ねェなー」

    ぱりっと糊のきいたスカーフをきちんと結んでロシナンテは船室のローを振り返った。

    「じゃ、おれはセンゴクさんと話してくるからあんまりウロチョロするなよ。ここ海軍の艦なんだからな」

    ローに言い含めてロシナンテは船室を出る。道行く海兵たちに口々にねぎらわれたり手柄をやっかまれたり小突かれたりと暖かい歓迎を受けながら艦長室にたどり着く。
    通常ならスモーカーの部屋だが、今はセンゴクが本部との連絡に借りていると聞いていた。
    わずかな緊張を押さえて、ロシナンテは扉をノックする。

    「センゴク大目付、雑用ロシナンテです」
    「入れ」

    艦長室の机は電伝虫と報告書が整然と並んでいる。いくらかはスモーカーの分だろうが、見える限りはエルガニアでの任務の書類が多かった。

    「まずは任務成功ご苦労。よくやってくれた。一時は混乱していたが、本国も薄々はこの過剰な富を恐れていたらしい、そちらから調査と復興を始めるそうだ」
    「それはよかった。エルネスト爺さんも大丈夫ですか?」
    「ああ、あのご老人もお孫さんが驚くくらいに元気だそうだ。あとで会いに行きなさい」
    「はい」
    「まだ本部からは返答が無いので、少し別の話をしようか。ロシナンテ」

    ぎくり、と肩が揺れる。額にいきなり変な汗が垂れたような気がする。

  • 160◆P.AThYg18sAI22/12/31(土) 16:21:19

    「さて、何か申し開きはあるか?」

     ずしん、と質量を増したセンゴクの声に、ロシナンテは笑顔を引きつらせた。
    気が付けば艦長室には夕暮れの日差しが差している。ロシナンテが起きたのが昼過ぎだったので島での騒動が終わってからはもう丸一日が経っている。ならば、センゴクに掛かればロシナンテからの報告を覗いて殆どの処理が終わっていてもおかしくは無い。そうなると、センゴクはおそらくロシナンテの最大のドジに気が付いている。
    ロシナンテの想像が付く今回の任務の申し開きは一つだけである。

    「えー……っと」
    「姿勢!」
    「はいッ!」

     頭を搔いて目を逸らそうとして叱責が飛ぶ。海兵の習性とは悲しいもので、そう言われると3メートル弱の体がピンと棒を差し込まれたように伸びて敬礼姿勢を取るようになっている。

    「報告」
    「──天竜人の手先の関与は一番島への上陸時に察知しておりましたが、まさか奴隷目的とは思わず経過報告を怠りました!」
    「理由はそれだけか?」
    「……センゴクさん、おれカマ掛けられてます?」
    「お前が尻尾を出したのが悪い。おかき、こっそり食べてなかっただろう」

    ロシナンテは深々とため息を吐いてぐったりと肩を落とした。

    ──そっちかァ、てっきりセンゴクさんのおかきをこっそり食べたことかと

    と、誤魔化したのはG-5支部を出てすぐのことだ。てっきり誤魔化されてくれていると思ったが、流石に"知将"センゴクを欺くには自分の実力が及ばなかったらしい。

    「……おれにも兄よりはマシですけど、討手がかかってます。討手というか──牽制ですかね。お前をいつでも殺せるぞ、と言いたげな。実際、おれが邪魔になれば処分するでしょう。兄に対しての人質に取られてないのが不思議なくらいです。一応あそこでもおれたちが殺し合ったっていう情報くらいは入ってるんでしょうか」

    運が良ければまるっと一年──その前に世界貴族の手で殺される可能性もある。ロシナンテの命の期限はそういうものだ。センゴクが眉間に皺を寄せてうなだれた。

  • 161◆P.AThYg18sAI22/12/31(土) 16:24:09

    ロシナンテとセンゴクの間に降りた沈黙を破るように人影と煙が現れる。

    「コラさん……!」
    「先輩、アンタ何者だよ」
    「お前たち……立ち聞きするなら最後まで外にいないか」
    「お前ら仲良く盗み聞きしてんじゃねェよ!」

     ロシナンテがぎょっとすることに、全く気配の感じなかったローとスモーカーは扉の向こうで息を潜めていたらしい。防音壁でも張っておけば良かったと後悔してももう遅い。
    ロシナンテと反対にセンゴクは気付いていたらしく、驚くでもなく軽く窘める。

    「で、でもおれは兄と違って長子でもねェし、そもそもおれはとっくに廃聖されてますし」
    「聖地とて時代のうねりに無関係ではいられん……。世界会議以降インペルダウンへの圧力も強まりつつある……。今後おれの下に着かせてもお前を守り切れるかはわからん」
    「センゴクさん……」

    椅子に掛けて眉間を揉み解すセンゴクに、ロシナンテは酷く不安な気持ちになった。
    スモーカーは会話の中でなんとなく察するものがあったのかぎょっとした後で険しい顔で耳を傾けている。ローはロシナンテの横でいつのまにか持ってきていた長い刀を下げていた。指が鯉口に掛かっている気がする。しかしローを止めないと、と思うよりも先に弱々しい言葉がこぼれた。

    「お、おれやっぱり海軍に居ちゃあ迷惑ですか……」

    全く情けない弱音が部屋にこぼれる。昔、海兵になる前に戻ったような情けなさに項垂れる。
    それを笑い飛ばすのもまたセンゴクだった。

    「馬鹿野郎、このセンゴクがそんなに優しい男に見えるか? お前の命だけを考えるなら、今すぐ除隊させてトラファルガーのところにでも置いていく。──そうするには惜しい海兵だよ」
    「センゴクさん……!」

     感激しているロシナンテの横で、トラファルガーと指さされたローは意地悪く口角を上げて刀の石突を床に付けた。

    「おれはそうしてくれてもいいが?」
    「こら、ロー!」

  • 162二次元好きの匿名さん22/12/31(土) 16:24:54

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  • 163◆P.AThYg18sAI22/12/31(土) 16:25:24

    生意気を拳骨で黙らせると、ローは不満げにロシナンテを見上げた。それを見てスモーカーの方がぎょっとしている。

    「とはいえ、このままだと危なっかしくておちおち任務に出せん。本部で事務だけさせてるのももったいない」

    センゴクは懐から厳重な小箱を取り出して机にのせる。

    「こういうのもあるんだが……」
    「これは?」
    「ガープに頼んで持ってきてもらったものだ」

    ロシナンテは見たことの無いシステムで、センゴクの指を押しつけられた小箱がパカリと開く。その中に入っているものを認識した瞬間、ロシナンテは全力の剃でもこんなに早くないのではないかと思う速さで壁にはりついた。冷や汗が先ほどの比で無くだらだらと流れる。

    「何持ってるんですかァ!? なんでここにあるんですか!?」
    「おや覚えているか」
    「流石に……流石に!」
    「ガープが持ってきたんだ」
    「えっじゃああのときガープ中将がわざわざ来たのって……」
    「流石にあれでも英雄だぞ。ただの書類の使いっ走りにはしない」

    そりゃそうだ……と壁に張り付いたままロシナンテは納得した。これを運ぶなら中将レベルの護衛はいるだろう。ガープさん、触るのも嫌だろうに……と同情が沸き起こる。

    「コラさん、なんだこれ」
    「……証明チップ……」

    ローにぼそりと呟く。ローとスモーカーは首を傾げた。

    「天竜人の、証明チップだ」

    ロシナンテの補足に、流石にローとスモーカーもぎょっとしてその小さなチップを見つめた。

  • 164◆P.AThYg18sAI22/12/31(土) 16:26:28

    「これはミョスガルド聖が快く、すこしばかり無理を通して用意してくれたものだ。万一は使えと」
    「ミョスガルドォ!? ミョスがなんで!? あのクソ馬鹿が!? おれに!?何で!?」

    ドンキホーテ・ミョスガルドの名に、今度こそロシナンテは失神するかと思うほどに驚いた。同じドンキホーテ一族だが、父母と違って大変に──本当に大変に性格が悪かった。あの地にいるときは分からなかったが、あれほど悪趣味の片鱗を見せていた世界貴族もいなかっただろう。
    海兵として世界貴族の横暴を知る度、その血が自分に流れているのを恥じたのも同じ一族であるこの男の所業の所為が大きい。
    アレルギーでも起こしたかのような拒絶反応にセンゴクは目を丸くして、その後でああ、と頷いた。

    「ああ……お前は知らないのか。あの方は天竜人の中で唯一ガープと会話が通じる人でな。今は状況が悪いが、会いたいと言っていたぞ」
    「あの人魚狂いの洟垂れクソヘボチビがおれに会いたい!? 天竜人嫌いのガープさんと!? 何で!?」
    「落ち着け」

    口が悪い、とセンゴクに窘められつつロシナンテは混乱して海兵として鍛えられた罵倒が飛び出すのを止められなかった。

    「……まァ、人は変わるんだ。おれも驚いたよ」
    「つまりこれをつければ、コラさんが天竜人になるってわけか」
    「おれも初めて見た。噂には聞いたことがあったが」

    小箱からつまみ上げたそれを面白そうに見るローがセンゴクに尋ねる。センゴクは頷き、スモーカーはしげしげとそれを見る。ただ珍しいものを見る目をしている。
    三人とも何という腹の据わり方かとロシナンテは慌てている自分が情けなくなって咳払いする。
    センゴクがミョスガルドに対して少々友好的なのも理解が及ばないが、それはいったん置いておこう。

    「おれにこれをまた付けろと?」

  • 165◆P.AThYg18sAI22/12/31(土) 16:27:16

    「いやそうだな」

    センゴクが吹き出した。自分がそうとう顔を顰めている自覚はあったので頷く。

    「命令ではないから安心しろ。だが、保険として持っておけ」
    「いやだァ……」
    「なんだ、手術のついでに付けてやろうか? 別にコラさんならいいよ」
    「い!や!だ!──って手術?」
    「ポーラータング号で準備は済んでる。良かったな、人の多い島で。アンタが寝てる間に全部準備は終わってる。気を楽にしろ。……オペオペの実の真骨頂を見せてやる」
    「えっ!?」
    「それが終わったら懇親会だぞ」
    「……勝手に準備せんでください、大目付」
    「はははは」

     その時だった.ジリリと電伝虫が会話を裂くように鳴く。ぴたりと声が止まった。

  • 166◆P.AThYg18sAI22/12/31(土) 16:28:38

    保守、ご感想本当にありがとうございます。
    なんとか今年のうちに完結させられそうです。
    神絵もありがとうございます!可愛くて素敵です!

  • 167二次元好きの匿名さん22/12/31(土) 16:36:28

    >>162割り込んじゃったから消しました

    思えば既に語り継がれてる方ですけども

  • 168二次元好きの匿名さん22/12/31(土) 16:50:14

    そうだ年代的にミョっさんの改心ミニオン以降だから人格者になってるのコラさん知らないんだよな今までの事態や状況の何よりもミョっさんのことに驚いてるの草

    収束していくのは嬉しいけど完結は寂しい…

  • 169二次元好きの匿名さん22/12/31(土) 17:20:51

    仲良く盗み聞きしてる二人想像したら草
    ロシナンテの海兵らしいお行儀の悪さが見られると、センゴクさんが他の海兵たちと分け隔てなく接してきたんだろうなっていうのが感じられてほっこりする
    それプラスして身内の容赦なさでミョッさんをぼろくそに言うのが生涯の数奇さを感じられてとても好きです
    また会わせたい人が増えて終わりが寂しい

  • 170二次元好きの匿名さん22/12/31(土) 21:47:57

    そういえば何で生きてたとかこれまでどうしてたみたいな話もしたのかな、>>159

  • 171二次元好きの匿名さん22/12/31(土) 23:08:55

    もうじき完結しそうなので読み返してたらpart1で


    >もう少しジョークの勉強でもしていたら、少しでも笑顔にしてやれただろうか。

    >あの子の笑顔をロシナンテは知らない。


    というくだりがあって、改めて>>147良かったなぁって…

    懇親会が楽しみだな!

  • 172◆P.AThYg18sAI22/12/31(土) 23:31:18

    ロシナンテが固唾を飲んで見守る中、センゴクが電伝虫から受話器を取り上げる。

    「こちらセンゴク。──ああ、わざわざお前が掛けてきたのかブランニュー」

    ブランニュー准将の名前にロシナンテはごくりと息を詰めた。センゴクから目配せを受けて、指を鳴らす。
    防音壁をローと自分とスモーカーに掛けてしまえば、センゴクと本部の連絡は誰にも聞こえない。

    「コラさん?」
    「本部から連絡だからな、秘密だ。おれの数年がどう転ぶか……この電話でいったん決まる」

    ロシナンテが口元に指を立てるとローは何のことかを理解した様子で頷いた。

    「……十三年前、ヴェルゴに握りつぶされたリストってやつか」
    「そ、使えるのは半分も残ってねェかもしれねェが……それだけでも使えれば、おれの最後の仕事はおしまいだ」

    スモーカーが檻の中のクマのように落ち着きの無いロシナンテが三回すっころんだところで声を掛ける。

    「……ブランニュー准将が掛けてきてンならほぼ合格じゃねェか?」
    「分かンねェ……。ブランニューさんがセンゴクさんと話したいだけかもしれねェし」
    「アンタじゃあるまいし」
    「へェ?」
    「ああっ、興味持つなロー! 話そうとするなスモーキー!」

    慌ててスモーカーの口を塞ごうとするとローがスモーカーのあだ名に気が付いて揶揄おうと口角を上げる。それにまた口論になり、わいわいと騒いでいるうちに通話は終わったようだった。

    「視界だけでやかましいな」

    防音壁に足を踏み入れたセンゴクがそう呟きながらロシナンテを引っ張り上げる。

  • 173◆P.AThYg18sAI22/12/31(土) 23:35:30

    スモーカーとローも共にセンゴクに視線を向けた。
    防音壁を解除して彼に向き直る。

    「センゴクさん、結果は」

    センゴクはロシナンテの前に立ち、腰で後ろ手を組んで向き合った。厳めしい顔は、誰にも表情を読ませない海軍将校としての顔になっている。
    永遠にも思える数秒の後、センゴクはロシナンテの肩を強く、とても強くつかんだ。ロシナンテは目を見開く。

    「ロシナンテ中佐の文書相当の情報に関して、"全て"を真正の情報と認める。サカズキ元帥が確かに押印したと──お前の勝ちだ、ロシナンテ! 正式に海軍が動くぞ!」
    「 "赤犬"が!? は、はは……嘘みてェ……」

    気が抜けたあまりにがっくりと膝が崩れかけて、慌ててセンゴクが肩を貸した。
    そのまま脇に挟まれて頭を大きな手でわしわしとかき混ぜられる。

    「ははは、よくやったロシナンテ! サカズキが動くなら、お前に世界貴族は手は出しにくくなるぞ」

    快活な笑い声に、先ほどからゆるんでしまって止まらない涙がぼろぼろ落ちて書類を濡らす。
    漸くやり残した最後の仕事が終わった。
    ロシナンテ"中佐"としての最後の仕事が。

    「おれまだ海兵でいいですか、センゴクさん……!」
    「ああ……また明日からビシバシ任務漬けにしてやるから覚悟しておけ」

    力強い抱擁がその全ての答えだった。

  • 174◆P.AThYg18sAI22/12/31(土) 23:37:25

    飛び跳ねるような勢いでスモーカーの肩を抱き、そのままローを持ち上げてクルクル回す。

    「やめろ! 泣くか笑うかどっちかにしろよ!」
    「これが喜ばずにいられるか! ありがとうなァロー!」
    「……元々おれの所為で失敗した任務だろ!」
    「何言ってんだお前たちがいなかったらおれは今日海の藻屑だ!」

    ケラケラと笑えば、ROOMと不機嫌そうな声がして防音壁に似た能力の膜が広がる。腕の中のでムッと変な顔をしていたローが消えたかと思えば、ひらひらと頭の上に書類が落ちてきて、バランスを崩してすっころんだ。いつの間にか隣にいたローがセンゴクに告げる。

    「センゴク、同意はいいな!」
    「へッ?」
    「任せた。夜は甲板に来い。協力者として招待しよう」
    「……大目付」

    スモーカーがセンゴクをぎろりと睨むが、すぐにやれやれと肩をすくめた。扉の向こうで、宴会だァ!!とはしゃぐ海兵達の声が聞こえて、たしぎ大佐がもう既にテキパキと指示をだしているのが分かった。

    「シャンブルズ」
    「えっ!?何?」

    それを最後に、ぱっと瞬間移動のように視界が変わった。
    鉄の天井、横たわっているのはメディカルシーツ、目線を動かせば計器類らしきロシナンテにはてんで見当の付かない機械が並んでいる。
    ──もしかして、あの潜水艦の中か……?あの一瞬で?
    オペオペの能力だとは思うのだが、自分の盗み出した究極の悪魔の実の能力はワープまで出来るのか。
    呆然としているロシナンテの前に、すっかり姿を変えたローが現れる。青緑のスクラブに手袋とマスクを付けた執刀医としての格好にロシナンテはおおーと感嘆した。

    「医者みてェ」
    「だから、おれは医者だ……。コラさん、あんたの内臓はもってあと七ヶ月と四日。可能な限り切除及び縫合し、必要な部分は献体より移植する」
    「……献体って」

    ローは肩をすくめる。献体は島で自然に亡くなった方から臓器を戴いたと説明されて、ロシナンテは強ばった顔を緩めた。海軍が──おそらくスモーカーが交渉してくれたそうだ。

  • 175◆P.AThYg18sAI22/12/31(土) 23:39:45

    「じゃあコラさん──アレルギーやクスリはやってねェことを確認する」
    「お、おお。やってねェ、アレルギーもねェはずだ……。って二十分!?」
    「スキャンしたから知ってる」
    「じゃあなんで聞いたんだよ!」
    「へへ……そういうもんだ」

    にやっと笑ったローはロシナンテの上で手をかざした。
    ROOMと再び聞こえて膜が張られる。この空間が、ローの手術室なのだろう。

    「なおれ!で病気も怪我も治りゃあしねェが、おれはもうその力を手にしている。──気を楽にしろ。すぐにおわる」

    アナススィージャと不思議な声が聞こえたかとおもうと、ロシナンテはあっという間に気を失った。

    ──そして目が覚めたときには、刺すような心臓の痛みも、軋むような内臓の痛みもなにもかもがすっかりと消え失せていた。横を見れば金属のトレーに悪い色をしたいくつかの内臓が転がっていてぎょっとする。おそらくは、そろそろダメになりかけていたロシナンテの内臓だ。
    スクラブを脱いでタンクトップにコートを羽織ったローがロシナンテの横に立っていた。

    「すげェ……、流石にぜんぶ取り替えると死ぬって言われてたのに」
    「オペオペの実の能力ならできる。再現性がねェのが玉に瑕だが……」

    ローは平然と言うが、この大手術を夕日がわずかに傾くほどのほんの短時間で成し遂げたことがどれほどすごい事なのかロシナンテにさえ理解できた。その上ロシナンテはもう今からでも動き回れそうだ。身を起こすロシナンテを、ローは満足げに見つめて呟く。

    「これがアンタにもらった力だよ、コラさん」

    それが、外科医としてあの幼い頃でさえ才能の片鱗の輝いていたローが最大限発揮したオペオペの実の力だった。
    ロシナンテはオペオペの実を食うべき男に食わせたのだろう。

    「立派な医者になったな、ロー」

    本当に嬉しくて彼の頭をかき混ぜる。素直ではないまま育った青年が、鼻を鳴らしたかと思うと、またロシナンテの視界が変わった。

  • 176◆P.AThYg18sAI22/12/31(土) 23:43:13

    「コラソン!」

    と、シャチとペンギンが。

    「ロシやん!」

    と、海兵たちが。

    「ロシナンテ」

    とエルネスト翁が。
    甲板に入り乱れるのは海賊か海兵かわからぬ若者達と、ぴんしゃんしている老翁が入り乱れて大騒ぎをしていた。
    渡された大きなジョッキを、一番に楽しげなローと突き合わせる。

    「コラさん、乾杯」
    「おう!天才の外科医様と──我らが“カモメ”に!」

    その日の宴会──"懇親会"はロシナンテの生涯の中で、一番楽しい夜だった。

  • 177◆P.AThYg18sAI22/12/31(土) 23:43:55

    センゴクは奇妙な沈黙をもって立っていた。軍艦の窓から朝の日差しが差し込み、彼の背中の正義をくっきりと際立たせていた。
    "懇親会"の夜が明け、ロシナンテは雑魚寝の甲板からそっと抜け出してセンゴクの居室に向かっていた。

    「来たか」
    「はい、おれは本部には戻れない」
    「ああ……だから、今から任務を与える」

     正義を背負う大きな背――自分より小さいはずが、あまりに大きくてまぶしい背は、あのときからロシナンテの目標だった。

    「ロシナンテ」
    「はい、センゴクさん」
    「今まではっきり言葉にしたことは無かったが──」

     背中越しで見えない表情が、ありありと見えるようでロシナンテは立ちすくんだ。

    「あの時、お前を連れて帰り――息子のように想って育てた。……おおれの部下となってからは、誰よりも信頼していた。おれの自慢の息子をみろと、誇らしく思っていた」
    「センゴクさん……っ」

     その人に、嘘を吐いたのはロシナンテだった。あの子どもの命と魂を救うため、あのときはああするほかに無かった。後悔はない。後悔は無いが──、この人を失望させたことだけは悲しかった。

    「センゴクさん、おれ、おれも……」
    「ロシナンテ」

     コートを翻して彼が振り返る。ず、と鼻を啜る音がしたかと想えば、年を感じさせない素早さでロシナンテを抱きすくめる。

  • 178◆P.AThYg18sAI22/12/31(土) 23:44:52

    太い腕、優しいぬくもり、慈愛の籠もった声。膝が崩れて床に座り込み、彼にすがりつくようになったロシナンテを、養父の力強い体はしっかりと支えた。自分が幼い子供に戻ってしまったような心地がした。人が恐ろしくて泣き叫び、夜には過去を夢に見て悲鳴を上げていたロシナンテを、センゴクは何度でも護ってくれた。

    「お前がどこに行こうと、おれはお前を愛しているよ」
    「おれも、おれも大好きです。愛してます、センゴクさん」

    コートに目頭を押しつける。染みてしまったかも知れないが、洗えば落ちるだろう。

    「父と呼んではくれんのか?」
    「……知ってるくせに、意地悪ですね」
    「練習してたことか?」
    「やっぱり!」
      
    思わず顔を上げれば、楽しげに笑うセンゴクと目が合った。

    「帰ってこい、ロシナンテ、いつでも。……お前はおれの息子で、ふるさとはここにある」
    「はい、……“父さん”」

    センゴクはロシナンテの背を離して、きつく叩いた。立ち上がってお互いに向かい合う。

    「今これを以て海軍本部雑用ロシナンテを功績を鑑み特例にて軍曹を任じ、よって任務を言い渡す」
    「はッ」
    「──」

    ロシナンテは軍靴の踵を合わせてその任務を最敬礼で持って拝命した。センゴクはロシナンテの肩を叩く。

    「風邪を引くなよ。ドジっ子もほどほどにな。飯はしっかり食え」

    ロシナンテは敬礼のまま、笑って頷いた。

    「いってきます」

  • 179◆P.AThYg18sAI22/12/31(土) 23:45:41

    軍艦が離れていくのを街の角からこっそりと見送って、ロシナンテは漸くトランク一つ分の荷物を担いで港を離れようと踵を返す。
    その瞬間にふわりとロシナンテの海軍帽がロシナンテの手元を離れて浮き上がった。
    ぎょっとして帽子を追いかけた視線の先に、黄色い鉄の艦が白く輝く波の間に姿を覗かせていた。
    男心をくすぐる黄色い魚のような潜水艦──ポーラータング号。その船尾の尾びれのてっぺんに座った海賊が、にやにやと笑ってくるくると指先で帽子を回していた。

    「お困りのようだな、海兵さん」
    「ロー! お前もう出航したんじゃ」
    「数百メートル潜航したら海軍にも補足できねェらしいな、いいことを知った」

    ローはそのまま指を動かすとロシナンテのトランクがふわりと浮き、いつの間にか船尾の下甲板に現れていたシャチとペンギンがキャッチする。

    「ああッおれの荷物!」

    ロシナンテの悲鳴もものともせず、ローは帽子を回している。ハンドレールから身を乗り出したペンギンがロシナンテに声を掛ける。

    「次はどこ行くんだ?」
    「ええ、次は……」

    一応候補に入れていた島の名前を告げると、二人がにんまりと顔を見合わせる。

  • 180◆P.AThYg18sAI22/12/31(土) 23:46:12

    「じゃあ、おれたちの航路と被ってるなァ。な、ベポ」
    「うん!」
    「お、じゃあまた会えるかもしれねェな」

    嬉しくなったロシナンテに、三人とその後ろに鈴なりになったクルー達ががっくりと肩を落とす。
    シャチがそうじゃねェよ!と笑った。

    「違うぜコラソン! うちの艦に乗ってけって言ってんの!」
    「ええ~、おれは海賊にはならねェぞ」

    ふん、と尾びれの上のローが鼻をならして指を鳴らす。シャンブルズ、とオペオペの実の能力の呪文が聞こえたかと思えば、潜水艦の甲板に足を滑らせてドジる。ひっくり返った視界の中で、青空を背負った大海賊がいたずらが成功したガキのように笑っていた。

    「いいからおれの艦に乗ってけよ、コラさん」

    かなりの高さから軽々降りてきたローがロシナンテに手を伸ばす。

    「おれは海兵だぞ」
    「今頃何言ってんだよ。そんな事とっくに知ってるよ。あんたが海兵でもなんでもいいさ。甲板で制服着て海兵体操しててもいい。あ、でも艦内は禁煙しろ」
    「潜入捜査が得意の海兵を艦に入れる海賊があるか。センゴクさん呼んじゃうかもしれねェんだぞ。情報すっぱ抜くぞ」
    「そんときは戦争だな。あんたの心臓を人質にしてやるから安心しろ」

    うんと言わねェと帽子とトランクは返さねェぞと脅迫を掛けてくる。
    なァコラさん、次の島までの足が欲しいんだろ? 提供してやろうって言ってんだ。ありがたくうんと言え。とローはあくどく口角を上げた。

  • 181◆P.AThYg18sAI22/12/31(土) 23:47:15

    ロシナンテは手のひらを額に当てて天を仰ぐ。口元が緩んでるのはもうきっとローにバレている。

    「──なんって自由な海賊団だ!」

    ロシナンテはもうたまらずに吹き出してローの手を取った。力強く引き上げられる。よっしゃァ!とクルーが盛り上がってロシナンテのトランクが甲板の空を舞った。

    「アンタの所為だよ、コラさん! おれも愛してるぜ!」

    ローの台詞が、いつかの言葉の返事だとロシナンテには分かった。キャプテンおれたちも愛してる!とクルーたちがどっと沸いた。おう、とクルー達の愛を受け取った船長はは当然だという満足げな顔をしていた。


    海軍本部ロシナンテ軍曹は海賊然の甲板でこの波瀾万丈の新世界を目を細めて見渡した。

    「ロー、次の島は?」
    「ああ、この島でログは取られてねェからワノ国の次の島だ。名前は──」


    目覚めたら全てが終わっていた。
    全てが終わるのをまっていたかのように目が覚めた。
    そしてロシナンテは今、また新たに生きている。


    【海軍本部ロシナンテ軍曹に任務を言い渡す! 完】

  • 182◆P.AThYg18sAI22/12/31(土) 23:48:52

    大変長い間お付き合いいただき、誠にありがとうございました!保守もご感想も全て本当に嬉しかったです。
    次回のために、ご感想やご講評などもいただければ幸いです……
    それではみなさま、良いお年を!

  • 183二次元好きの匿名さん22/12/31(土) 23:49:49

    完走お疲れ様です
    良いお年を!

  • 184二次元好きの匿名さん22/12/31(土) 23:57:48

    お疲れ様でした!
    海兵として仕事をするロシナンテも13年前の心残りをやり遂げられたローも今度こそ息子ときちんと再会できたセンゴクさんも皆が皆、幸せになれたとても最高な作品でした
    Part1からずっとリアタイで読めた事、大変嬉しく思います
    ありがとうございました

  • 185二次元好きの匿名さん23/01/01(日) 00:11:28

    ここのSS読んでたら年が明けていました。
    ロシナンテの選択もローとの新しい未来もセンゴクさんとの愛も何もかも素敵な結末を迎えられて幸せな気持ちになりました。
    本当にお疲れさまでした。素敵なお話をありがとうございます。

  • 186二次元好きの匿名さん23/01/01(日) 00:12:54

    感想お疲れ様でした!
    Part1から毎回ワクワクしながら読んでました!
    素敵なお話をありがとうございました!!!!

  • 187二次元好きの匿名さん23/01/01(日) 00:25:56

    ありがとう、ありがとう…!
    続きが気になって、毎晩真っ先にこのスレを確認していました
    みんな愛してるよ!

  • 188二次元好きの匿名さん23/01/01(日) 00:37:38

    完結おめでとうございます
    毎回楽しく読ませていただきました
    センゴクさんとのやり取りとか麻薬とお酒の名前とか色々面白かったです
    色々詰まった素敵なお話ありがとうございました

  • 189二次元好きの匿名さん23/01/01(日) 00:43:13

    本当にお疲れ様でした
    素晴らしい文章に、長い期間でタイトな連載、その上で完走するのが凄すぎる!
    清々しいハッピーエンドについて行く事ができて、とても幸せです!
    皆に愛されるコラさん、特にセンゴクさんとコラさんの描写に救われました。
    めでたしめでたし!

  • 190二次元好きの匿名さん23/01/01(日) 00:43:48

    最終版 一気読み用まとめ


    【一章:コビー艦編】

    海軍本部雑用ロシナンテに任務を言い渡す 1 | Writening【コビー艦編】 1 目が覚めたら全てが終わっていた。  いや、まるで全てが終わるのを待っているかのように目が覚めたといった方がいいだろうか。  白い病室のベッドの上でドレスローザの奪還、ドンキホーテ…writening.net

    【二章:G-5編】

    海軍本部雑用ロシナンテに任務を言い渡す 2 | Writening【G-5編】 運良く巡ってきた静養日は夏島の気候海域のど真ん中。しかも眩いばかりの晴天だった。昨夜掠めたサイクロンが嘘のようだ。 コビー艦はなんとか転覆せずにサイクロンの端を切り抜け、後処理に追われ…writening.net

    【三章:エルガニア列島 前編】

    海軍本部雑用ロシナンテに任務を言い渡す 3 | Writening【秋島編】 美しい花の島、エルガニア列島。 雪のように白い花弁のサンドラコスモスが一面に咲き乱れる庭。その向こうの壁の外の街を、帽子を被った若い男が一人、巨大な屋敷の2階から見下ろしていた。 その…writening.net

    【三章:エルガニア列島 後編】

    海軍本部雑用ロシナンテに任務を言い渡す 4 | Writening【エルガニア列島編 後編】 「……チッ」 街をぐるりと巡ってロシナンテは苛立たしげに舌打ちをした。港の影で朽ちていくばかりの船の規模に比べて街で見かけた人数はあまりに少なかった。 死んでいるならば…writening.net

    【完結編】

    海軍本部雑用ロシナンテに任務を言い渡す 5 | Writening【完結編】 「キャプテン、こっち!」 シャチの声がロシナンテの耳に届く。とたんに岩陰に身を投げ出して眠っていた意識が戻りロシナンテは瞬きをした。 ロシナンテが岩陰から手を覗かせて合図すると二人が…writening.net
  • 191後書き◆P.AThYg18sAI23/01/01(日) 00:56:42

    あけましておめでとうございます!
    嬉しいお言葉本当にありがたい……本当に励まされました
    麻薬の名前、花の名前や敵キャラ、ゲストキャラそれぞれほぼ全て映画やドラマやアニメに元ネタがありましたが、分かりいただけたでしょうか。ちょっとでもクスッとしていただけたら幸いです。アルカニロはアルカロイドのもじりだったり、ゴールデンサークルはとある麻薬とスパイ映画のタイトルからだったり!
    元々の数千字の短編を膨らませてここまでかけました。本当にありがとうございます
    元々の短編も見たい人とかいらっしゃったら投稿したいと思うんですが、思いの外完走ギリギリですね……。正直最後の投稿ではみ出しそうになって焦っておりました……

  • 192二次元好きの匿名さん23/01/01(日) 00:58:59

    part1から2ヶ月か…お疲れさまでした!
    本当に良い作品だった、終わり方も最高にハッピーだ
    布石の置き方と伏線回収が鮮やかでした…

  • 193二次元好きの匿名さん23/01/01(日) 01:00:32

    と思ったら元々の短編…!?
    そちらもめちゃめちゃ見たいです

  • 194◆P.AThYg18sAI23/01/01(日) 01:08:11

    【原案作品】
     目が覚めたら全てが終わっていた。
     いや、まるで全てが終わるのを待っているかのように目が覚めたといった方がいいだろうか。
     白い病室のベッドの上でドレスローザの奪還、ドンキホーテ・ドフラミンゴのインペルダウン収監。そして、それを為した男の名を聞いた。
     彼が生きていることに感謝を捧げ、そして詳細に聞いた事柄に涙があふれた。後悔と、苦痛と、そして抑えきれない愛おしさ。無理を言って取り寄せた彼の手配書を枕の裏に隠した。十三年間の昏睡状態は随分と自分を弱らせていたが、数ヶ月の地獄のようなリハビリでようやく歩けるまでに回復した。
     これからどうしたらいいのだろう。
     ベッドに腰掛けていると、かつかつと廊下に聞き慣れた靴音が聞こえる。
    「起きているのか、ロシナンテ」
     いつの間にか大将から元帥になっていて、そしていつの間にか大目付という肩書きになっていた養父は随分と老け込んでしまっていた。その理由の一端に、自分の事があったのだろうと思ってしまうのは、自意識過剰だろうか。
    「おはようございます、センゴクさん」
    「起きれるのか。……おれが死んだ後もこのままだったら、おれと一緒に生命維持装置を外 すよう遺言しようとしてたんだぞ、ロシナンテ」
    「いやもう、本当に、ご心配をおかけしました」
     深々と頭を下げるほかに無かった。耳にたこができるほど、彼は小言を言い募る。耳には痛かったが、それでも小言ばかり言う養父が何処か嬉しそうで、ロシナンテはたまらない気分になる。

  • 195◆P.AThYg18sAI23/01/01(日) 01:08:38

    優しく厳しく、情にあつい養父。眠ったまま一生このままかも知れないと言われていた植物人間を、彼はずっと見守っていたのだろう。幼い頃、母が病死したときの、あの何も出来ぬやるせなさを知っているからこそ、ロシナンテには彼の気持ちが痛いほど分かる。目が覚めたという報を聞いて文字通り跳んできた養父の目に二筋堪えきれぬ涙が落ちたのをロシナンテははっきりと見ている。
    ――この、馬鹿息子が……!
     何かを言おうとして、何を言えば良いか分からなかった。ロシナンテが何かを言う前に、呻くように罵られて、裏腹に割れ物を触るように頬を滑った指先が震えていた。
     この人から、あまりに大きく暖かな愛をもらっていたことを今更に身にしみる。点滴からの栄養だけで生き延び、骨と皮ばかりになった尖った体を、センゴクは包み込むように抱きしめた。その体があまりに小さく感じて、嗚咽が止まらなかったのを昨日のことのように覚えている。
    「退院許可が下りたぞ」
    「本当ですか!」
     飛び上がるロシナンテに、センゴクはにやりと笑う。その手にある書類を受け取って、ロシナンテは目を細めた。
    「海軍入隊書類、持ってきてくださったんですね」
    「ああ。昏睡状態5年目に海軍は除隊されているのでな。再任用とはいえ、雑用からだ。士官学校は免除してやろう」
    「うへえ……。せっかく左官まで昇進できたのに」
     口をへの字にした自分に、センゴクはけらけらと笑う。
    「ところで、今から新世界に出航するんだが、お前どうする」
     優しい父に、ロシナンテは諸手を挙げて喜んだ。もうベッドには飽き飽きだった。

  • 196◆P.AThYg18sAI23/01/01(日) 01:09:08

    偉大なる航路の最後の海、人呼んで新世界のワノ国に近い春島。ここに賞金首が停泊しているという情報が民間人からあったらしい。わざわざ大目付が出張るほどではないと元元帥が呆れていたが、どうやら少し前に厳しい戦いを経たらしいG-5支部の面々のリハビリもかねての出航となった。その所為か、艦の雰囲気は柔らかく、カモメは風を孕んで白い帆を膨らませている。道しなに行き会った海賊をいくつか捕縛することも出来、サイクロン3つと熱々海も乗り越え、死者はなし。新世界の航海としては順風満帆といっていいだろう。
     春島の気候域に入ったのか、うららかな日差しの中で若い緑を茂らせている島が見える。
    「懐かしいなァ、新世界」 
     モップに顎を乗せて島を見つめていると、後ろから太い声が呆れた声を掛ける。
    「……何サボってんスか、ロシー先輩」
    「サボってねえよ、スモーキー。甲板掃除は終わったぜ」
     振り返ればいまや自分の肩書きを飛び越えた後輩が葉巻を燻らせて立っていた。
    「スモーカーだ。部下の前で若ェ頃のあだ名で呼ばんでくれ」
    「じゃあお前もおれを先輩って呼ぶのは止めろよな。今は雑用だぜ」
     言い換えされてぐっと詰まる男は、最後に見たときより随分成長したものだと思う。白猟のスモーカーという名で知られていると聞く。 それでも、自分が雑用として艦に乗り組むと聞いたときの顔ときたら、士官学校時代から変わらないので可笑しかったものだ。
    「じゃあ、ロシナンテ……先輩。次は砲弾磨きでもしてこい」
    「イエッサー、スモーキー中将どの!」
     敬礼を返せば、スモーカーの葉巻に歯形が付く。
    「……止めろ」
     居心地の悪そうな顔で肩を落とすスモーカーに、ロシナンテは堪えきれずに吹き出した。
    「お前、ろくすっぽ教官に従わなかったくせに、変なとこで海軍気質だよなあ。素直に従ったのって、ゼファー先生くらいにだったしよ」
    「Z事件については」

  • 197◆P.AThYg18sAI23/01/01(日) 01:09:33

    「聞いてるよ。……おれが寝てた間の出来事は大まかにな。ガープさんの部下の……あの若い子たち、コビーくんとヘルメッポくんだっけか、訓練につきあってくれてよ、そんときにだいたい聞いたぜ。麦わらのルフィの話ばっかりだったけどよ。マリンフォード頂上決戦、落とし前戦争、他にも色々。最近のだと、バギーの王下七武海入りも聞いた」
     あの若く希望に満ちた二人の海兵を思い起こして思わず笑みがこぼれた。紙巻をふかせば、紫煙が風にかき消されていく。スカーフに火が付きかけたが、スモーカーがすぐに消し止めた。ドジは死にかけても治らねえのか、と呆れられた。
     ロシナンテの横で、スモーカーが葉巻を燻らせる。
    「なあ、ロジャーのガキが処刑されたンだってな」
    「ああ」
    「スモーキー、生まれちゃいけねェガキなんていたと思うか?」
     葉巻を揺らすことも無く、スモーカーは何も言わない。白い煙を吐き出して呟く。
    「ポートガス・D・エースは海賊だ」
    「まァ、海賊か」
     穏やかな波音と沈黙が降りる。口火を切ったのはスモーカーだった。複雑そうな顔で自分を見上げる後輩に、ロシナンテは首を傾げる。
    「まてよ、先輩。じゃあアンタ、まだあの世代のことは――」
    「ん?」
    「スモやん!! 着港だぁ!!」
    「海賊の姿はみえねえぜー!」
     スモーカーが言いかけたことを聞き返す前に、G-5支部の海兵たちが歓声を上げる。まるで海賊のような奴ばかりだったが、スモーカーに怯えずに懐いている様子は微笑ましかった。いきなり乗り組む事になったロシナンテのことも、深く聞くことはせずに下っ端海兵として扱ってくれるのも気が楽でいい。
    「新入りィ! 手伝え馬鹿やろー!」
    「イエスサー! じゃ、スモーキー後でな」
     手を振って踵を返す。
     自分がぴかぴかに磨いた甲板に滑ってこけた。

  • 198◆P.AThYg18sAI23/01/01(日) 01:10:16

    「海賊、居そうにねェ島だなあ」
    「気を抜くンじゃあない、ロシナンテ。ここに潜伏していると情報があった海賊は、億越えの海賊だ」
    「億越え……」
    「そうだ」
     ちらりとこちらを見るセンゴクの目に、何か不思議なものを認めた気がして、ロシナンテは腰の愛刀を撫でる。
     いつの間にか港町を出て、島の反対側の海岸に近づいていた。周りに人の気配は無く、寄せては返す波の音と、潮風が木々の葉をさざめかせる音ばかりが聞こえていた。
     センゴクは奇妙な沈黙をもって立ち止まった。正義を背負う大きな背――自分より小さいはずが、あまりに大きくてまぶしい背は、あのときからロシナンテの目標だった。
    「ロシナンテ」
    「はい、センゴクさん」
    「今まではっきり言葉にしたことは無かったが――」
     背中越しで見えない表情が、ありありと見えるようでロシナンテは立ちすくんだ。
    「あの時、お前を連れて帰り――息子のように想って育てた。……おれの部下となってからは、誰よりも信頼していた。おれの自慢の息子をみろと、誇らしくおもっていた」
    「センゴクさん……っ」
     その人に、嘘を吐いたのはロシナンテだった。あの子供の命と魂を救うため、あのときはああするほかに無かった。後悔はない。後悔は無いが――、この人を失望させたかと考えれば悲しくて仕方が無かった。
    「センゴクさん、おれ、おれも……」
    「ロシナンテ」
     コートを翻して彼が振り返る。ず、と鼻を啜る音がしたかと想えば、年を感じさせない素早さでロシナンテを抱きすくめる。
     太い腕、優しいぬくもり、慈愛の籠もった声。膝が崩れて彼にすがりつくようになったロシナンテを、養父の力強い体はしっかりと支えた。自分が幼い子供に戻ってしまったような心地がした。人が恐ろしくて泣き叫び、夜には過去を夢に見て悲鳴を上げていたロシナンテを、センゴクは何度でも護ってくれた。

  • 199◆P.AThYg18sAI23/01/01(日) 01:11:38

    「お前がどこに行こうと、おれはお前を愛しているよ」
    「おれも、おれも大好きです。愛してます、センゴクさん」
     コートに目頭を押しつける。染みてしまったかも知れないが、洗えば落ちるだろう。
    「父と呼んではくれんのか?」
    「……知ってるくせに、意地悪ですね」
    「練習してたことか?」
    「やっぱり!」
    思わず顔を上げれば、楽しげに笑うセンゴクと目が合った。
    「帰ってこい、ロシナンテ。いつでも。……お前のふるさとはここにある」
    「はい、……父さん」
     センゴクはロシナンテの背を離して、きつく叩く。
    「今これを以てドンキホーテ・ロシナンテを准将に復任し、任務を言い渡す」
    「はい」
    「〝最悪の世代〟死の外科医トラファルガー・ロー率いるハートの海賊団に潜入し、時が来るまでそこで監視をしていろ。……そろそろ彼奴が待ちくたびれておるわ」
    「……えっ?」
    「枕の下。おれが気がつかないとおもっていたのか?」
    「わっ、見たんですか!?」
    「あれで隠しとるつもりだったのか、暇があれば見とったくせに。二年前の手配書までとりよせおって」
    「いやだって、大人になったローが嬉しくて……って、あっ、と」
     慌てて口を塞ぐが、全てお見通しだという顔でセンゴクが肩を竦める。
    「海軍としても、あやつには借りがある……。ドレスローザの一件、主犯格は麦わらのルフィとされてはいるが、聡いもんは気がついているだろう。……ドフラミンゴにも上からの刺客が放たれている」
    「ドフィにまで……。じゃあまさか」
    「……次男のお前がそこまで危険視されているかは分からんが、お前が生きていると知られれば、何らかの措置はあるだろう。なにせ、ドフラミンゴという〝前例〟がある。さしもの世界貴族も二度目は許すまい」
    「でも、それならおれがローのところに行ったら余計迷惑かけちまいます。そりゃあ、おれだってあの子には会いてェけど……」
    「だからお前が行くんだ。ロシナンテ」
     センゴクの目は、悪戯を思いついた子供のように輝いている。

  • 200◆P.AThYg18sAI23/01/01(日) 01:12:44

    「海軍としては、准将をハートの海賊団に潜入させているから暫くはトラファルガーに手を出す必要はない。お前を殺したいものたちも、海賊に命令はだせん」
    「お、おれ、海軍に居ちゃあ迷惑ですか」
    「馬鹿野郎、このセンゴクがそんなに優しい男に見えるか? お前の命だけを考えるなら、今すぐ除隊させてあの小僧のところに置いていくわ」
     センゴクはロシナンテの肩を叩く。
    「ロシナンテ。おれはお前に正義を伝えたつもりだ。13年前、お前が貫いた正義を、これからも貫いていけ。正義を負うかぎり、お前は海兵だ。……何かあれば連絡をしてこい」
    「――はい」
    「さあ、いけ。風邪を引くなよ。ドジっ子もほどほどにな。飯はしっかり食え」
    「はい。はい……」

     
     ロシナンテは頷き、そうしてその艦を後にした。

    【完】
    以上がプロット代わりの原案でした。へへ、お楽しみいただけていたら本当に嬉しいです!

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