- 1二次元好きの匿名さん22/12/15(木) 16:47:27
- 2『相互殺意』0/622/12/15(木) 16:47:53
【其れは遥かな回想。此れは極東で執り行われたとある成人の儀の一幕であった】
- 3『相互殺意』1/622/12/15(木) 16:48:14
【槍が構えられる。紅白の巫女服を着込んだ未だ少女と呼べる年齢であろう少女がその手に六尺の銀色の鑓を握り締めて敵である地龍を睨む。言葉はない、敵と話す事など何もないのだから当たり前だ。そしてそれは相手方も同じ認識のようであった】
【地龍が敵を睨み付ける。永くを生き、業を積み重ねた果てにその霊格が龍へと至りし蛇にとって人間とは全てが畏るべき戦士であると同時に尊敬すべき砥石であった。技業の冴えも凝縮された殺意も智慧の結晶も全てが己の命を脅かし滅ぼすに値する必殺であり、その全てを己が力で跳ね除け喰らい経験値にしたからこそ地龍は君臨しているのだ】
シィ─────────!!!!!!
『GYAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
【戦いの火蓋が切られる。凄まじいまでの跳躍力によって残像すら浮かべる速さで少女が地龍の龍鱗に槍を突き立てんと地を踏み締め空を疾駆する。鑓という武器は刺突を主目的とした武器である、しかしそれは刺突以外には不向きという訳では決してない。穂先を使えば斬撃も出せるし柄を使えば打撃も出せる、遠心力も合わさって高火力を広い範囲に簡単に放てる事が可能だ。投げたとしても高い威力を発揮するであろう鑓はどの時代でも使われていた】
【少女が全体重と速度、そして霊力による強化を施した膂力を乗せた刺突で地龍の鱗を抉り穿たんとする。威力を穂先の一点に集中させる形での刺突攻撃は貫通力が高く、少女の怪力によって生み出される速度も加えれば地龍の鱗とて穿てる威力になっているだろう。そう、当たれば】
『GUUUUUUUUUUUUUU!!!!!!!!!!!!!!!!!』
【地龍がその四肢を巧みに使ってその身を捩り、少女の放った刺突を回避する。元は蛇であり四肢を扱う感覚など無かった地龍であったが、既に幾星霜もの時を経てその四肢を自在に操るレベルにまで熟達している。身体を半回転させて攻撃を避けると共に後ろからその爪にて少女を殺そうとし、】
誰が喰らうかァ!!!!!!!
【同じく身体を半回転させて鑓を楕円状に振り回した少女によって爪を迎撃させる。遠心力が乗った凄まじい勢いの穂先と地龍の爪が激突し、火花を散らしながら衝撃波を撒き散らす】 - 4『相互殺意』2/622/12/15(木) 16:48:36
【少女が後退する、同時に地龍もその後ろ脚で背後に跳躍して土埃が舞い上がる。再び両者が睨み合う、互いに隙を隠しながら互いの隙を探る腹の読み合い。静寂が周囲を包み込み、】
『GRAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
クッ、ガァァ─────!!!!
【読み合いは永き寿命を闘争に費やし続けた地龍に軍配が上がる。少女の僅かな隙を見つけたその瞬間に前脚と後ろ脚を地面に付けて勢い良く踏み出し、跳躍する事によって推進力を得て強襲する。爪が少女の右腕に直撃する。そして比喩ではなく、文字通り少女の右腕が内側から弾き飛び爆散する】
【龍の脚が生み出す推進力と龍の膂力によって振るわれた攻撃なれば、その破壊力は人間程度なら十は殺しても容易くお釣りが来るだろう。右腕の爆散"程度"で済んだのは単に爪という"線"での攻撃であった事、少女の身体が通常の人間と比べて頑丈であった事、何よりも少女が幸運に恵まれていたが故の事である】
─────────良くも!!!!
『GRURURURURURURU!!!!!!!!!!!!!!』
【そして地龍も無策に掌ではなく爪で攻撃した訳ではない。人間とは恐ろしい。その執念によって時には死の淵から、時には彼岸からさえも己を討ち果たさんと這い上がって来る。だからこそ、それを封じ込める必要があるのだと地龍は考える】
【蛇とは「生と死の象徴」「豊穣の象徴」「天候神」「太陽神」として原始的信仰を受ける動物であり、龍に至ったこの地龍も元は蛇である故に其れ等とは縁が深い。そして龍の位階まで己の霊格は昇華させたこの地龍は蛇への信仰より唯一つの権能の欠片を身に宿している】
『Aaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!!!!!!』
傷が再生しない、か─────どうでもいい殺す
【「不可逆性」こそがこの地龍の能力。流転を容認しながらも循環を否定する法則こそが蛇なる地龍の殺意の具現。地龍の爪によって傷付けられた全ては地龍が生き続ける限り不変の疵となる。其れを事前に知っていたとは云え初めて受けた少女が刹那の間その蒼瞳を困惑に揺らすが、即座に切り換えて地龍へと突撃して命を奪わんとする】
【死を願う受動体ではない。自ら動いてその頸を斬り裂き汝を討滅せしめようという能動体。地を這う偉大にして畏るべき地龍を弑逆せんと猛り鑓を振るう】 - 5『相互殺意』3/622/12/15(木) 16:48:59
【鑓が振るわれる。同時に振るわれた爪と衝突する。重心をズラして爪を受け流して遠心力と膂力で鱗のない地龍の掌をズタズタに斬り裂く。片腕を喪失した少女は最早真っ向から地龍の膂力と打ち合うだけの膂力を持たないが故に、小細工を弄して絶死の破壊から何とか免れる】
ァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!
『GUUUUUUUUUUUUUU!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
【遠心力と合わせて振るわれる尾の攻撃から鑓で地面を叩く事で身体を持ち上げる事で回避する。同時に尾が真下を通過するのを見計らって手に構えた鑓を尾の鱗を刺し穿ち、一時的に地面に縫い付ける】
シャッオラァ!!!!!
『GGGGGGYYYYYYYYAAAAAAAAAAAA AAAAAAAAA!!!!!!!!!!!』
【地龍の鱗を踏み締めて霊力で一時的にフィジカルを増強してから跳躍する。標的は地龍の脳、生物であれば必ず保有するであろう弱点に衝撃を加える為にその顎下に飛び蹴りを喰らわす。そしてついでとばかりに地龍の鼻先を踏んでもう一回跳躍、勢いに乗りながら地龍の尾を地面に縫い付けていた鑓を抜いてそのまま尾の射程範囲から離脱する】
【互いに全力全開全身全霊の殺意と敵意と害意を衝突させる。鑓が鱗を穿つ爪が地面を刻む鑓が骨肉を断つ尾が礫弾を放つ鑓が礫を弾く牙が刺し殺さんと迫る逢魔時になる構わない鑓が迸る爪撃が激突する鍔迫り合い霊力解放妖力噴出日輪が来たる鑓が折れる龍の両の前脚が砕け散る心臓を守護する鱗が穿たれて次の瞬間後ろ脚の爪が少女の心の臓を抉る傷の再生は不可能心臓亡き少女が根性と気合いで立ち上がる地龍は敵/好敵手にトドメを──────】
…………………は?
『GGGGGRRRRRRRRRRAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
『カァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!』
【逢魔時になる。太陽が来たる。漁夫の利を得んと八咫烏が光臨する。永き時を生き業を積み重ね続けた地龍、その龍と打ち合い瀕死に追い詰めた少女。我が糧とするには申し分ない餌であると嘲笑しながら太陽の如き灼熱と極光が少女と地龍の戦場を照らす】 - 6『相互殺意』4/622/12/15(木) 16:49:27
【死を告げる灼熱と極光を前に地龍からその機能が零れ落ちる。爪が溶け怪物としての本能が削ぎ落とされ龍としての使命が蒸発し地龍としての機能が次々と喪失する。真夏の日光が氷を溶かすかの如く破滅が怒濤となりて襲い来る。思い返すは一時間にも満たない死闘。己の全てを攻略し尽くした、あまりにも矮小で恐ろしいほど強かった『敵』に王手を掛けた瞬間。そして地龍の中で唯一純化された思いだけが残った】
【灼熱と極光を前に少女の肌が再生を繰り返して無効化する。睨むは天に浮かぶ八咫烏。気に入らない気に入らない気に入らない。これは私の戦いだぞ。これは私の闘いだぞ。これは私だけの挑戦だぞ。死力を尽くした敵に敗れるのなら良い、それは私の敗北だ。だが戦ってすらいない奴が横から掻っ攫って行くのは断固拒否する】
【奇しくも少女と地龍の思いがシンクロする。即ち、】
((お前なんぞに殺されて堪るか。私/俺を殺して良いのはアイツで、アイツを殺して良いのは私/俺だけだ))
穿て───────────!!!!
『GYAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
【心の臓を抉られた少女が折られた鑓の柄を握り締める。地龍が確かに宣戦布告の咆哮をする。不思議と少女と地龍の息が合う。折られた鑓の柄を霊力で強化した身体能力で投擲する、同時に地龍が妖力を噴射して遠心力と推進力を得た尾で鑓の石突きを殴って更に加速させる】
『ガアアアアアア!?!?!?!?!?』
【加速した壊れた鑓の片割れが鋭利に尖った断絶面で八咫烏の心臓を穿ち完膚なきまでに破壊する。墜落しながら死ぬならば己を殺した二人も殺してやろうと最期に特大の極光と灼熱で周囲の地形諸共自爆しようとした八咫烏に地龍が巌を投石して圧死させる】
【そして邪魔者を消し去った心臓亡き少女と前脚を喪失した地龍が向き合う】 - 7『相互殺意』5/622/12/15(木) 16:49:50
『GRAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
【地龍にとって少女は生涯最大の好敵手であり敬意を払うべき武人でありそして殺害すべき敵であった。例え一時的に共闘しようと最終的に殺す事は既に確定している。己が障害を排除する為の戦いではない。強靭にして巧みなる者を乗り越えて更なる高みへと至らんとする求道ではない。研ぎ澄まされた純粋無垢な殺意、理由も理屈も関係なく殺す為に殺す。その為だけに己を全て擲たんとする】
ハァ────────────!!!!!
【一方の少女にとってもそれは同じ。偉大なる怪物。強大無比なる龍。敬意を表すべき先達。しかし弑す。完膚なきまでに弑逆する。地龍に殺さなければその爪による「不可逆性」で再生が出来ないまま死ぬから、生きる為に殺さなければならない。だから乾坤一擲の勝負に出ざるを得ない───そんな理由でも理屈でもない。ただの意地、勝ちたいという一念だけで身体を保たせて全身全霊で弑逆に臨まんとする】
『GGGGGGGGGGGGGGGRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
【地龍の肉体が崩れる。地龍の龍鱗が、地龍の後ろ脚が、地龍の龍尾が、地龍の肉が、地龍の骨が、中身を失ったかのようにその肉体から剥がれ落ちる。その顎門に火炎焱焔焰─────黄昏を照らす"真紅"が灯る】
【己の身体から力を搾り取って"真紅"に捧げる。地龍を構成する妖力も霊格も消費したこの生涯最後の一撃を放ち終われば『彼』は即座に力尽きるであろう。それでも『彼』は今この瞬間この刹那、少女に勝利する為だけにその"真紅"を宿すのだ】
刺し穿つ─────────────!!
【"真紅"に対して少女が全力全開全身全霊で応える。欠けた右腕の断面と鑓の穂先を"真紅"に向ける。半ばで折られた柄を強く握り締めて肩の上に構えて腰を落とす。両の脚で地面を踏み締める。その蒼い双眸で地龍を見詰め続ける。横向きにしていた身体を捻り正面に向けて折れた鑓を、投擲する────】 - 8『相互殺意』6/6-122/12/15(木) 16:51:20
【一瞬の静寂。そして刹那の後に全ての音が轟音に掻き消される。放たれた"真紅"と銀鑓が激突し周囲の地層が捲れ上がる。衝突の余波が天の空雲を引き裂き地に幾重もの傷痕を刻む。完全なる拮抗状態が徐々に"真紅"に傾く。己の全てを代償とした"真紅"を絶えずその顎門から放ち続ける。銀鑓が少しずつだが後ろに押され始めて、】
蹴り穿つ───────────────!
【少女が絶叫する。"真紅"と銀鑓が共奏する旋律すらも吹き飛ばす大咆哮。そして地を踏み締め踏み出し踏み越えて、跳躍する。目指す先は投擲した銀鑓。そしてその両脚を揃えて銀鑓を────────蹴る!】
天羅
【地龍を弑逆する為だけに創り上げた業の咒を高らかに叫ぶ。投擲した銀鑓を更に蹴る事によって加速させる。"真紅"が食い破られる。周囲に灼熱を撒き散らしながら中心の一点を突破されて柱の如く放たれた"真紅"が放射状に極光を周囲を拡散し始める】
【ただ一点にのみ集中した極限の加速が地龍の生命を薪木とした"真紅"の中を貫く。地龍はそれに対して諦める事も投げ出す事もせずに全力全開全身全霊で"真紅"を放ち続ける。人と魔が互いに喰らい合い相剋を成す。勝ちたいという一念だけで瀕死の身体を全力駆動させる。過剰出力によって身体に超過負荷が掛かる。それを両者ともに構わないと一蹴する】
【限界を突破する。自壊する肉体を想いで無理矢理形を整える。積み上げた歴史《かなどこ》と純粋な殺意《ほのお》と身体に刻み込んだ技業《みず》と決して折れぬ信念《つち》で己の全てを破壊《つるぎ》へと打ち変える。ただ殺す為だけに】
((例えこの戦いの後に己が死ぬのだとしても──────あの敵/好敵手を弑すのは私/俺だ)) - 9『相互殺意』6/6-2&番外22/12/15(木) 16:52:43
【"真紅"が地龍によって集約され収束し極限の"線"と化す。少女が一点に全てを籠めた銀鑓を放つのならば此方も其れに倣おうと一点に"真紅"の破壊を束ね合わせる。少女の蹴りによって銀鑓に傾いていた均衡が再び最初の拮抗状態へと逆戻りして、】
シィ────────────!
【銀鑓が殴られる。腰を落として全身を捻りその勢いを籠めて左腕で全力の打撃を銀鑓の柄の断絶面に叩き込む。鋭く尖った断絶面が骨肉を貫き、砕き、反動によって右腕のみならず左腕も内側から弾け飛び"真紅"と銀鑓の衝突/激突地点から溢れる余波で炭化する。だがそれでも銀鑓は更なる加速を得て"真紅"の中を突き進む】
【拮抗が傾く。ついに銀鑓が"真紅"を貫き通して打ち破る。既に穿たれ砕かれた地龍の胸を守護する龍鱗を超えて、銀鑓が地龍の《龍の炉心/心の臓》を穿ち─────────そして少女に勝利を齎した】
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「…………………………っていう昔の夢を見たのですけれけど」
「御霊って頭可笑しいねー?!」
「やべえなお前ェ!!!」
「辛辣すぎないですか!?」
「普通命乞いからの奇襲天誅だろォ!!正面戦闘とか正気じゃねえと思うぜェ!!」
「罠に嵌めてから式神で遠距離から殺そうぜー!わざわざ前に出るよりも安全だよー!」
「あの時はアレが最適解だと思ってたんです!!」