【会話文SS】恋とはどんなものかしら

  • 1二次元好きの匿名さん22/12/17(土) 00:03:12

    「ね〜アキュートさん、ナカヤマ〜」

    「どうしたんだい、ジョーダンちゃん」

    「コイバナせん?」

    「せん」

    「即答! ええ〜いいじゃん〜しよーよコイバナ」

    「おやおや。ジョーダンちゃん、お勉強に飽きちゃったのかい?」

    「あきたってゆーか、集中力きれた。なーんも頭に入って来ん!」

    「……テメーこの勉強会が誰のために開かれてんのか忘れてるわけじゃねぇだろうな?」

    「あたしの補習回避のためでーす。……忘れてるわけじゃないけどぉ……」

    「ならやるべきことを果たしやがれ。私の勝負のためにもな。アンタの赤点回避にベットしてんだよこっちは」

    「ナカヤマの賭けなんて知らんし! まー補習はヤだけどさぁ」

    「まぁまぁ、ナカヤマちゃん、おさえておさえて。そうねぇ、ちょっとだけ休憩にしましょうか。あまり根をつめすぎるのもよくないでしょう?」

    「さっすがアキュートさん!! やさしい!」

    「ハァ……あまり甘やかすのも如何なもんかと思うぜ、アキュート」

  • 2二次元好きの匿名さん22/12/17(土) 00:03:57

    「気持ちが折れてしまった状態でつづけようとするのはむずかしいものよぉ。気分転換はたいせつ。魔法瓶に紅茶を淹れてきているの。ジョーダンちゃん、紙コップ用意してくれるかしら」

    「りょーかい! 今日のアキュートさんのお菓子なんだろ」

    「……林檎のクランブルケーキか」

    「甘さひかえ目にしておいたから、ナカヤマちゃんのお口にも合うと思うわ。……それで、こいばな、だったかしら。ジョーダンちゃん、したかった理由、あるんじゃよね?」

    「まーね、……こんどさぁいつメンとかと100個コイバナすることになったの。コイバナ百物語」

    「何だその度胸試しにもならん百物語は……」

    「あたしふくめて10人くらい集まっからさ、ひとり10個は話持ってかないといけねーワケ。でもさー、ネタがねーのよ、コイバナのネタが! だから〜ふたりのコイバナ教えて?」

    「ふふふ、そうねぇ、こいばな、あるかしら……」

    「アキュートはなんでそんな乗り気なんだよ……」

    「だってナカヤマちゃん、なんだか青春、って感じじゃあない?」

    「怪異も現れそうにない百物語のネタに付き合ってられるか。……私は暫く席を外す。終わったらLANEで呼べ」

    「え〜なになにナカヤマ逃げんの? それとももしかしてはずかしーの?! 怖気づいたとか?!」

    「こーら、ジョーダンちゃん、煽っちゃだめよぉ。ひとには向き不向きがあるんだから、無理強いしちゃいけないのよ?」

    「ハァ……どの口が煽るなと言ってやがんだよ」

    「てゆーかナカヤマもあたしにむりじいしてんじゃん、……あたしも補習はヤだけどさぁ」

  • 3二次元好きの匿名さん22/12/17(土) 00:04:30

    「……言っておくが、羞恥だとか竦んだわけじゃない。バ鹿らしい、ただそれだけだ──が。言われっぱなしも腹の虫が承知しねぇ」

    「おやおや、それじゃあ……」

    「コイバナ教えてくれんの?!」

    「私自身の話じゃなくてもいいな?」

    「もちもち!」

    「いいぜ、一服煎じてやるよ。……それは、とあるトレーナーとウマ娘の話さ」

    「ほぉ、トレーナーさんとのこいばな……」

    「テッパンっちゃテッパンだよね、実際あるらしーし」

    「そのトレーナーとウマ娘は、幾多の困難を乗り越えてきた、謂わば比翼の鳥だった」

    「ひよくの……なに? ひよこ?」

    「ひとつの翼で空を飛ぶ二羽の鳥のことねぇ。……すきぴどうし、のほうがわかりやすいかしら」

    「好きピどーしのひよこのとりね、おっけ。なんかかわいーじゃん」

    「比翼だ比翼。……まぁいい。さておき、運命は残酷だ。能力のあるウマ娘は、更なる高みを目指すため、トレーナー替えを宣告されちまった。当然ウマ娘も、彼女のトレーナーも反発する」

    「……それってさぁ、そのトレーナーにそのウマ娘はもったいないって言われたってこと?」

    「……実際、そういうけぇすもあるって、聞いたことはあるわねぇ、せつないけれど……」

  • 4二次元好きの匿名さん22/12/17(土) 00:05:03

    「しかし決定は覆る事はなく──トレーナーとウマ娘の担当契約は打ち切られることになった。ま、どっちも納得いくわけがねぇ。なにせ『好きピ』同士でもあったからな。だが、大きな権力に逆らうには、トレーナーもウマ娘も、あまりにちっぽけすぎた。立ちはだかる現実に絶望し、二人は入水することを決意するんだが……」

    「にゅーすいってなに? 乳液の仲間? しっとりふわふわ的な??」

    「全てを捨てて、海の藻屑になろうって話さ」

    「もずく……」

    「『あなたとなら地獄に落ちたって構わない』
    『それなら地獄でまた会おう』

    恩人も友人も家族も親よりも先に逝くことになるんだ。当然、天国なんて行けやしねぇ。
    そうして二人、現し世に別れを告げた筈──だった」

    「だった……? ということは、そうはならなかったのかしら」

    「あぁ。運が良いんだか悪いんだか、トレーナーだけは生き残ってしまった」

    「えっ?!」

    「後追いを果たす事も出来ず、嘆く涙と涸れ果てた後、そのトレーナーは職場復帰することになった。新しい担当ウマ娘とともにな。しかし、そんなある日のことだ。トレーナー室での仕事中、廊下からひたひたと、なにかの足音が聞こえたんだよ」

    「ね、ちょいまち、これほんとに……コイバナ?」

    「不審に思ったトレーナーが廊下の様子を伺うために扉を開けたその瞬間だ」

  • 5二次元好きの匿名さん22/12/17(土) 00:05:34

    『一緒に地獄に落ちるって、言ったじゃない!!!!』



        

  • 6二次元好きの匿名さん22/12/17(土) 00:06:18

    「……っ!!!!!」

    「おやまぁ……」

    「夢か現か幻か。そこには先立った筈のウマ娘……それきり、そのトレーナーの消息は不明、って話だ。めでたし、めでたし」

    「いきなり冷静になんないで?! あとめでたくなくね?!」

    「ふふ、ちょっとぞわぞわっとしちゃったわねぇ」

    「……てかこれコイバナじゃなくね?! ホラーっしょ? ただの百物語じゃね?!」

    「死が二人を隔てて尚、果たされることのなかった約束たった一つを拠り所に恋慕と情念で姿を現す女の話だぜ? 充分『コイバナ』になってるじゃねぇか」

    「レンボ……ジョーネン……? そ、そーかも? ……いや、そう??? やっぱちがう気すっけど!?」

    「ナカヤマちゃんの語り口もあいまっていろんな意味でドキドキしちゃったわねぇ。おつかれさま。じゃあ、次はあたしの番かしら?」

    「アキュートさん、あ、あんま怖くないのがいっかも……!」

    「あたしのはふつうのお話よ。あたしの父ちゃんと母ちゃんのお話。……あたし自身の話じゃなくてすまないねぇ」

    「いーっていーって、ぜんぜんいい! 聞かせて! ハピハピなの聞かせて! いまちょーどそーゆーの聞きたかったとこ!!」

    「ジョーダン、アンタビビりすぎだろ……」

    「ビビってねーし! お口直ししたいだけだし! アキュートさんちってボクシングジムやってんだよね?! ずっとやってんの?」

  • 7二次元好きの匿名さん22/12/17(土) 00:06:50

    「そうじゃのう、いつ頃からやってたかしら。物心ついたときには、グローブやミットで遊んでいたものだったわ」

    「アキュートさんのパンチすげーもんね、いっつもサンドバッグにバッチバチで勝ってんの」

    「ジョーダンはいつも負けかけてるけどな」

    「ナカヤマもひとのこと言えんし!」

    「ふふ、今度ふたりにサンドバッグに勝つための撃ち方を教えてあげるわねぇ?」

    「ってごめん、話よりみちしちゃった。アキュートさんのパパとママ、ボクシングジムで出会ったん?」

    「あたしもあまりくわしい馴れ初めは聞いてないんじゃけど、ボクシングに関わってるというのは正解かしら。あたしの父ちゃん、若いころはボクシングの新人チャンピオンだったのよ」

    「ダートのジュニア優駿みたいなものか」

    「そうそう。将来も期待されていたんだけど、その後はあまり勝てなくてねぇ」

    「あぁ〜……」

    「消化不良のまま引退したんだけど、ずいぶん荒れちゃったみたいなの。でも、そんな父ちゃんを、母ちゃんがずっと支え続けてねぇ。どんなに父ちゃんがなげやりになっても、母ちゃんは父ちゃんのことを信じて、ずうっとそばにいつづけたの。ときどきお尻を叩きながらねぇ」

  • 8二次元好きの匿名さん22/12/17(土) 00:07:50

    「糟糠の妻か」

    「そーこーのつま?? なにそれ。走んの? アキュートさんのママもウマ娘だもんね、そりゃ走るか」

    「ふふ。……糟糠の妻っていうのは、たいへんな時にもずーっと旦那さんを支えつづけた奥さんのことを言うんじゃよ。どんなにいじけても、どんなにふてくされても、あきらめそうになっても、父ちゃんがもう一度立ち上がることをうたがわず、母ちゃんはずーっとずーっと支えつづけたの」

    「あ〜、アキュートさんもそういうとこあるよね。いまとか、あたしがさわいでももういいってならんし。ガマン強いっていうの?」

    「ふふふ、そうでありたいとは思っているから、そう思ってもらえているならうれしいのよ。……さて、ジョーダンちゃん、どうかしら、もうちょっと、どらまてぃっく、だとか、ろまんてぃっく、とかのほうが、良かった?」

    「そんなことない! や、そりゃぁさ、ウマチューブとかで見れる恋愛モノのドラマとかはさ、ハラハラしたりめっちゃドキドキするやつが多いけどさ、……そんなん心臓もたんくね?」

    「ドラマだのリアリティーショーだのは多少オーバーな演出がされてるもんだからな。実際の恋愛とやらは、もう少し静かだろうさ」

    「それな。それにさぁ、ずっとそばにいて、いつのまにか、みたいなの、ちょっとだけあこがれっかも。ちょっとだけだけど」

    「じゃ、次はジョーダンの番だな?」

    「え?! あたし?!」

    「私もアキュートも、アンタがお望みのコイバナを提供したぜ?」

    「自分が経験したこいばな、ではないけどねぇ」

    「もののついでだ。そもそも10近く用意する必要があるんだろ? なら今ここで準備しとけ。私とアキュートが聞いてやる」

    「え、えぇ、ムリムリムリ、あたしにはそーゆーの、ないんだって! なんかさーいつメンはいっぱいあるっぽいけどさぁ、まだあたしには早すぎみたいな? あ、ほら、恋とはどんなものかしら〜とか言うくね? それよそれ!」

  • 9二次元好きの匿名さん22/12/17(土) 00:08:25

    「……『恋のなやみを知るあなた、この胸踊る 熱情は、恋のほのおと見たもうや』……じゃったかのう?」

    「え、なになに、なんの歌?」

    「このあいだね、オペラオーちゃんに鶴の恩返しの昔話を披露したら、かわりに教えてくれたのよぉ。『恋とはどんなものかしら』」

    「ってことは、オペラとかそーゆーの? え、恋とはどんなものかしら〜ってやつオペラなん?!」

    「フィガロの結婚。歌劇だな。……『故もなく吐息はこぼれ、知らぬ間にこころおののく。されど鼓動は浮き立ちて、想いの丈は悩ましき』」

    「そうそう、それよぉ。ナカヤマちゃんもオペラオーちゃんに教わったの?」

    「併走求めて勝負仕掛けてこっちが負けると辻舞台の出演を要求されるからな……ま、元々知ってるのもあるがね」

    「辻舞台かぁ〜……ってナカヤマ負けてんじゃん!?」

    「矢鱈と出目がいいのとハッタリかます度胸があんだよ、あの覇王様はよォ……何が見えてやがんだか」

    「この歌はね、題名通り、『あたしがこころに秘めるこの気持ちはなんなのかしら』って曲なのよ。恋ってなんなのかしら、って言っているけれど……これも、こいばな、じゃない?」

    「た、たしかに……? そう言われたら……そーかも? そんな気がしてきた……!」

    「そうしたら、……さっき、ジョーダンちゃんが言っていた『ちょっとだけあこがれ』も、こいばなにならないかしら?」

    「……なる? なる?? ほんとになる……?」

    「不安なら盛っとけ。アンタ、なんでもかんでも盛るのは得意だろうが。全員騙し切るつもりで盛って行けばいいさ。……恥じらう事なく勝ちたければな?」

  • 10二次元好きの匿名さん22/12/17(土) 00:08:54

    ──後日──

    「アキュートさーん、ナカヤマー、おはー」

    「ジョーダンちゃん、おはようさん。……すごく眠そうねぇ、大丈夫?」

    「おはよう。コイバナ百物語、やってきたんだろ? フジの目は掻い潜れたか?」

    「まそこはね〜、それぞれ担当トレーナーにお願いしてトレーニング休みにしてもらってー、授業終わって寮に戻ってソッコーではじめたし。ちょっと夜ふかしですんだけどぉ……」

    「なにかあったのかしら?」

    「まさか……百物語宜しく怪異でも出やがったのか?」

    「おばけなんて出ねーし。今朝フジさんにねぼすけポニーちゃんて言われたけど。朝からまぶしかったわ〜太陽かっての。……じゃなくてさ、あたしのターン、話すっげー盛りに盛りまくったら、なんかすっげーカンチガイされた」

    「勘違いっていうと……?」

    「レンアイパワーつよつよつよみまるてぃみたいな」

    「……? ええと……?」

    「……ハハッ、恋愛強者だと思われたってか? そりゃァ、愉快なことになってんじゃねぇか」

    「いつメンは笑ってたけどそれ以外の子らにね、展開がキャパすぎんの〜恋愛ソーダン乗ってとかさぁ、ムリっしょ」

    「あらあら……でも、ジョーダンちゃんが思うより、もしかすると向いてる
    可能性もあるんじゃないかのぅ?」

    「ま、アンタはバ鹿だがけして愚かなわけじゃない。対応出来るかは別として、ダチの話なら聞いてやれるだろ」

  • 11二次元好きの匿名さん22/12/17(土) 00:09:16

    「フツーの話ならいーけど、コイバナはしばらくなくていーの!

     ……好きピたちとダベったり遊んだりしてるほーが、ぜんぜんたのしーし!」


    おしまい

  • 12二次元好きの匿名さん22/12/17(土) 00:09:51

    アキュートとナカヤマに『恋とはどんなものかしら』を諳んじて欲しかったと供述しています。


    ざっくりすぎる参考
    ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト作曲 歌劇《フィガロの結婚》より『恋の悩みを知る君は(恋とはどんなものかしら)』日本語訳:堀内 敬三

    ナカヤマ育成シナリオ『すみれの君』
    トークギャラリー(ワンダーアキュート)『日常会話4』

    コイバナはナカヤマシナリオとアキュートキャラストより膨らませました↓↓↓

  • 13二次元好きの匿名さん22/12/17(土) 00:10:48

    どんどん長くなりますね
    こたびもどなたかに楽しんでいただけますように。

  • 14二次元好きの匿名さん22/12/17(土) 00:13:36

    良かったぜ
    ところで補習はなんとかなったのかな?

  • 15二次元好きの匿名さん22/12/17(土) 00:14:17

    良かった……
    アキュートジョーダンナカヤマのトリオいいな

  • 16二次元好きの匿名さん22/12/17(土) 01:16:00

    >>14

    ありがとー!

    感想が染み渡ります……


    補習は

    dice1d6=6 (6)


    1:「なんとかなったみたい。ジョーダンちゃん、よく頑張ったわねぇ」

    2:「アンタにしてはよくやってじゃねぇか。お陰で私も賭けに勝てた。褒めてやるよ」

    3:「惜しかったわねぇ、あと3点……こんどお手伝いするときはもーっと支えられるように頑張るからねぇ」

    4:「次だ次、いつまでも引きずってんじゃねぇよ。畜生、次こそは勝つ……」

    5:「点数は赤点回避できたの! 点数は! ほら見てあたし頑張ったじゃん! まぁ……名前書きわすれたんだけど……マジ下がるわ……」

    6:「ほら見てみ! 赤点回避成功! ダメダメのダメ子もやればできんの! どう? すごいっしょ?」

  • 17二次元好きの匿名さん22/12/17(土) 01:16:36

    無事赤点回避できた模様
    良かったね!

  • 18二次元好きの匿名さん22/12/17(土) 01:19:09

    >>15

    ありがとー!

    それぞれタイプが全然違うしシナリオ中でもすごく仲良しなわけじゃないけど、いい感じの距離感で交流してればいいなって思ってます!


    アキュートシナリオでナカヤマやジョーダンのところに飛んでいったり協力を仰いだりするシーンがあるので、仲良しだといいな……

  • 19二次元好きの匿名さん22/12/17(土) 07:35:29

オススメ

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