好きな小説の書き出しを挙げるスレ

  • 1二次元好きの匿名さん21/11/02(火) 21:04:01

    まずは自分から
    恋をしたのだ。そんなことは、全くはじめてであった
    太宰治『ダス・ゲマイネ』

  • 2二次元好きの匿名さん21/11/02(火) 21:05:49

     …………ブウウ――――――ンンン――――――ンンンン………………。
    夢野久作『ドグラ・マグラ』

  • 3二次元好きの匿名さん21/11/02(火) 21:08:44

    ときどき、わたしのなかで千人の小人たちがいっせいに足ぶみをはじめる。

    森絵都『宇宙のみなしご』

  • 4二次元好きの匿名さん21/11/02(火) 21:11:15

    >>2

    終わりもこれなの怖くて好き

  • 5二次元好きの匿名さん21/11/02(火) 21:12:43

    石炭をば早積み果てつ

  • 6二次元好きの匿名さん21/11/02(火) 21:12:45

    宇宙。虚無の空間。
    だが、想像を絶する遥か彼方に、いくつかの島宇宙が存在していることがわかる。

    梶尾真治『穂足のチカラ』

  • 7二次元好きの匿名さん21/11/02(火) 21:13:56

    村は死によって包囲されている。
    小野不由美『屍鬼』

  • 8二次元好きの匿名さん21/11/02(火) 21:16:10

    吾輩は猫である。名前はまだ無い。

    夏目漱石『吾輩は猫である』

  • 9二次元好きの匿名さん21/11/02(火) 21:16:34

    「雪国」 川端康成
     国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。信号所に汽車が止まった。
     向側の座席から娘が立って来て、島村の前のガラス窓を落した。雪の冷気が流れこんだ。娘は窓いっぱいに乗り出して、遠くへ呼ぶように、
    「駅長さあん、駅長さあん」
     明りをさげてゆっくり雪を踏んで来た男は、襟巻で鼻の上まで包み、耳に帽子の毛皮を垂れていた。

    名文中の名文

  • 10二次元好きの匿名さん21/11/02(火) 21:17:30

    今は夏。彼女はそれを思い出す。

    すべてがFになる/森博嗣

  • 11二次元好きの匿名さん21/11/02(火) 21:17:38

    桜の樹の下には屍体が埋まつてゐる!
    梶井基次郎『櫻の樹の下には』

    衝撃的で好き

  • 12二次元好きの匿名さん21/11/02(火) 21:17:54

    道がつづら折りになって、いよいよ天城峠に近づいたと思うころ、雨脚が杉の密林を白く染めながら、すさまじい速さでふもとから私を追って来た。
    川端康成『伊豆の踊子』

  • 13二次元好きの匿名さん21/11/02(火) 21:20:20

    今日、母ちゃんが死んだ。昨日だったかも知れない。

    アルベール・カミュ「異邦人」

    ムルソーの無感情ぶりを上手く表してると思う

  • 14二次元好きの匿名さん21/11/02(火) 21:22:57

    隴西の李徴は博学才穎、天宝の末年、若くして名を虎榜に連ね、ついで江南尉に補せられたが、性、狷介、自ら恃むところ頗厚く、賤吏に甘んずるを潔しとしなかった。
    中島敦『山月記』

  • 15二次元好きの匿名さん21/11/02(火) 21:25:00

    ロリータ、わが生命のともしび、わが肉のほむら。わが罪、わが魂。ロ、リー、タ。舌のさきが口蓋を三歩すすんで、三歩目に軽く歯にあたる。ロ。リー。タ。
    ナボコフ『ロリータ』
    完璧な導入だと思う

    あとデュ・モーリア『レイチェル』の
    「かつて、罪人は〈四つ辻〉で吊るされたものだ。いまはもうそういうことはない。」
    もその先の不吉な展開を感じさせて好き

  • 16二次元好きの匿名さん21/11/02(火) 21:28:58

    翌日、私たちは今鏡家へと向かった。
    麻耶雄嵩『翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件』

    なんの変哲もない文章なんだけど、唐突に物語にぶち込まれた感があって気に入ってる

  • 17二次元好きの匿名さん21/11/02(火) 21:33:21

    吾輩は猫である。名前はまだ無い。

    誰でも知っている本の書き出し。
    ここから続く猫が拾われて住処を極めるまでの話がまた面白いのだ。

  • 18二次元好きの匿名さん21/11/02(火) 21:34:30

    私も若いころは、たくさん夢を見たものである。あとではあらかた忘れてしまったが、自分でも惜しいとは思わない。思い出というものは、人を楽しませるものではあるが、時には人を寂しがらせないでもない。精神の糸に、過ぎ去った寂寞の時をつないでおいたとて、何になろう。私としてはむしろ、それが完全に忘れられないのが苦しいのである。その忘れられない一部分がいまとなって『吶喊』となった、というわけである。
    魯迅「吶喊自序」

    もちろんいつも全部ハッキリと覚えているわけじゃないけど、「ああ魯迅だなぁ」としみじみとした気持ちになる

  • 19二次元好きの匿名さん21/11/02(火) 21:36:21

    「それは或本屋の二階だつた。二十歳の彼は書棚にかけた西洋風の梯子はしごに登り、新らしい本を探してゐた。モオパスサン、ボオドレエル、ストリントベリイ、イブセン、シヨウ、トルストイ、……」
    芥川 ある阿呆の一生
    知っている文学者や詩人の名前がワッと出てきて、好きなんです

  • 20二次元好きの匿名さん21/11/02(火) 21:38:44

    1 リンズコルト

    棒で老人をつつくのにも疲れてしまうと、彼らは棒を放り出してトンネルを先へ進んでいった。


    (収録作「トンネル」より)

  • 21二次元好きの匿名さん21/11/02(火) 21:39:05

    ある朝、グレゴール・ザムザがなにか気がかりな夢から目をさますと、自分が寝床の中で一匹の巨大な毒虫に変っているのを発見した。

  • 22二次元好きの匿名さん21/11/02(火) 21:40:14

    あさ、眼をさますときの気持は、面白い。
    太宰治『女生徒』

    めちゃくちゃお洒落

  • 23二次元好きの匿名さん21/11/02(火) 21:41:55

    申し上げます。申し上げます。旦那さま。あの人は、酷い。酷い。はい。厭な奴です。悪い人です。ああ。我慢ならない。生かして置けねえ。

    太宰治の『駆け込み訴え』好き
    イエスとユダの関係性をこんな風に解釈するのか…と衝撃だった

  • 24二次元好きの匿名さん21/11/02(火) 21:42:00

    さびしさは鳴る。
    綿谷りさ『蹴りたい背中』

  • 25二次元好きの匿名さん21/11/02(火) 21:42:13

    周知の通り、あの3人の賢者たちは、「東方」からやってきた。そして、爆弾炸太郎氏もまた、東方からやってきた。かがるがゆえに、炸太郎氏は賢者である──と、いったのでは、炸太郎氏の賢者たるゆえんを証明する根拠に不足があると申されるのならば、付け加えよう──炸の大将は、なにしろ、新聞の主筆であったのだ、と。
    (☓だらけの社説)

    ポオはナンセンス作品書くときの勢いが凄い

  • 26二次元好きの匿名さん21/11/02(火) 21:43:39

    親譲りの無鉄砲で子供の時から損ばかりしている。

    夏目漱石『坊ちゃん』

  • 27二次元好きの匿名さん21/11/02(火) 21:45:28

    >>26

    読んでみたら想像以上に無茶してて笑ってしまった

  • 28二次元好きの匿名さん21/11/02(火) 21:46:07

     星図にも載っていない辺鄙な宙域のはるか奥地、銀河の西の渦状腕の地味な端っこに、なんのへんてつもない小さな黄色い太陽がある。
     この太陽のまわりを、だいたい一億五千万キロメートルの距離をおいて、まったくぱっとしない小さな青緑色の惑星がまわっている。この惑星に住むサルの子孫はあきれるほど遅れていて、いまだにデジタル時計をいかした発明だと思っているほどだ。

    ダグラス・アダムス「銀河ヒッチハイクガイド」

    この時点で作品全体の方向性がぱっとわかる、この後数ページ続けられるブリティッシュジョークの頭。翻訳の妙もある。

  • 29二次元好きの匿名さん21/11/02(火) 21:47:23

    >>28

    立ち退きの流れ理不尽すぎて笑うしかない

  • 30二次元好きの匿名さん21/11/02(火) 21:51:01

    >>24

    書こうと思ってた

    同志よ

  • 31二次元好きの匿名さん21/11/02(火) 21:57:09

    ストラウスはかせわぼくが考えたことや思いだしたことやこれからぼくのまわりでおこたことわぜんぶかいておきなさいといった。なぜだかわからないけれどもそれわ大せつなことでそれでぼくが使えるかどうかわかるのだそうです。

    「アルジャーノンに花束を」ダニエル・キイス

    新訳のやつが読みやすくて好き。

  • 32二次元好きの匿名さん21/11/02(火) 21:58:49

    今手元にある小説だと、

    小説 君の名は。 新海誠 角川文庫
    「懐かしい声と匂い、愛おしい光と温度。」

    告白 湊かなえ 双葉文庫
    「牛乳を飲み終わった人から、紙パックを自分の番号のケースに戻して席に着くように。」

    かがみの孤城 辻村深月 ポプラ社
    「たとえば、夢見る時がある。」

    UFOがくれた夏 川口雅幸 アルファポリス
    「もしもこの世に 歌というものがなかったら
     伝えられない思いが たくさんあるかもしれない
     伝えきれない思いが いっぱいあるかもしれない
     もしもこの世に 歌というものがなかったら
     大切なことも 大切なこころも
     忘れ去られてしまうかもしれない

     この先 大人になってから
     いつかどこかで その歌を聴いた時
     オレは 何を思うんだろう
     みんなは 何を思い出すんだろう……」

    僕は勉強ができない 山田詠美 新潮文庫
    「クラス委員長は、ぼくと三票の差で、脇山茂に決まった。彼は、前に出て挨拶をするために立ち上がった瞬間、振り返り、僕の顔を誇らしげにちらりと見た。相変わらず仕様のない奴だなあと、ぼくは思う。彼は、ぼくが忌々しくてたまらないのだ。」

  • 33二次元好きの匿名さん21/11/02(火) 22:00:46

    推しが燃えた。ファンを殴ったらしい。
    宇佐見りん「推し、燃ゆ」

    週刊誌報道と似た手法だが、確かに読ませる文章なんだなということが小説の形式で表現されていることで再確認できた。

  • 34二次元好きの匿名さん21/11/02(火) 22:01:30

    祇園精舎の鐘の声

  • 35二次元好きの匿名さん21/11/02(火) 22:05:20

    このレスは削除されています

  • 36二次元好きの匿名さん21/11/02(火) 22:06:53

    ほかの誰もが無条件で受けている敬意を、戦い取らねばならない人々に

    N・K・ジェミシン『第五の季節』

  • 37二次元好きの匿名さん21/11/02(火) 22:08:07

    おれは春が嫌いだ。ぬるい。夏が嫌いだ。うだる。秋が嫌いだ。沈む。冬が嫌いだ。痛い。なぜこの世には四つの季節しかないのだろう。おれには住むべき季節がない。

  • 38二次元好きの匿名さん21/11/02(火) 22:09:33

    背中が痒いと思ったら、夜が少しばかり食い込んでいるのだった。 
    川上弘実『惜夜記』

    この圧倒的センスよ

  • 39二次元好きの匿名さん21/11/02(火) 22:10:43

    或日の事でございます。御釈迦様は極楽の蓮池のふちを、独りでぶらぶら御歩きになっていらっしゃいました。池の中に咲いている蓮の花は、みんな玉のようにまっ白で、そのまん中にある金色の蕊からは、何とも云えない好い匂いが、絶間なくあたりへ溢れております。極楽は丁度朝なのでございましょう。

    皆さまお馴染みのアレ

    最後の一行の伏線がかなり好き

  • 40二次元好きの匿名さん21/11/02(火) 22:12:10

    春が二階から落ちてきた

  • 41二次元好きの匿名さん21/11/02(火) 22:14:23

    「恥の多い生涯を送って来ました。
     自分には、人間の生活というものが、見当つかないのです。」
    ほんとにこの書き出しは衝撃的だった...

  • 42二次元好きの匿名さん21/11/02(火) 22:16:29

    >>32

    解説

    君の名は。

    →三葉と瀧の視点が"入れ替わり"ながら進む第一章「夢」。第八章「君の名は。」と対になっているのもポイント高い。


    告白

    →一行目から牛乳パックの伏線を貼る第一章「聖職者」。告白は章単体で読んでも全体を通しても伏線回収が見事なので是非読んでみてほしい。


    かがみの孤城

    →「そんな奇跡が起きないことは、知っている。」で終わるプロローグ。全体的に暗い作風ながらも伏線回収とトリックに驚かされ、爽やかな読後感になっている。

  • 43二次元好きの匿名さん21/11/02(火) 22:17:33

    皆さん。
    私は今大阪にいます、ですから大阪の話をしましょう。

    芥川龍之介「仙人」

    なんてことないシンプルな文だけど、こういう語りかける導入新鮮だから強く記憶に残ってるわ

    あ、こんなんでいいんだなって感じに救われもした、と思う

  • 44二次元好きの匿名さん21/11/02(火) 22:21:49

    一度も会ったことのない幼馴染がいる。僕は彼女の顔を見たことがない。声を聞いたことがない。体に触れたことがない。にもかかわらず、その顔立ちの愛らしさを知っている。その声音の柔らかさをよく知っている。その手のひらの温かさをよく知っている。

    三秋縋 「君の話」

  • 45二次元好きの匿名さん21/11/02(火) 22:22:45

    大学三回生の春までの二年間、実益のあることなど何一つしていないことを断言しておこう。異性との健全な交際、学問への精進、肉体の鍛錬など、社会的有為の人材となるための布石の数々をことごとくはずし、異性からの孤立、学問の放棄、肉体の衰弱化などの打たんでも良い布石を狙い澄まして打ちまくってきたのは、なにゆえであるか。  
     責任者に問いただす必要がある。責任者は何処か。

    森見登美彦「四畳半神話大系」
    書き出しが凄いというか、この書き出しの勢いのままフルスロットルで最後まで行くのが凄いというか…

  • 46二次元好きの匿名さん21/11/02(火) 22:23:29

    >>45

    森見登美彦いいよね…

  • 47二次元好きの匿名さん21/11/02(火) 22:23:49

    死のうと思っていた。ことしの正月、よそから着物を一反もらった。お年玉としてである。着物の布地は麻であった。鼠色のこまかい縞目しまめが織りこめられていた。これは夏に着る着物であろう。夏まで生きていようと思った。

    太宰治の『葉』
    太宰治は本当に文章を書くのが上手すぎると思う

  • 48二次元好きの匿名さん21/11/02(火) 22:25:08

    多分それは一種の精神病ででもあったのでしょう。郷田三郎ごうださぶろうは、どんな遊びも、どんな職業も、何をやって見ても、一向この世が面白くないのでした。

    江戸川乱歩 作『屋根裏の散歩者』冒頭

  • 49二次元好きの匿名さん21/11/02(火) 22:26:25

    >>46

    いい・・・

  • 50二次元好きの匿名さん21/11/02(火) 22:26:52

    >>41

    「ここを過ぎて悲しみの市。」

     友はみな、僕からはなれ、かなしき眼もて僕を眺める。友よ、僕と語れ、僕を笑へ。ああ、友はむなしく顏をそむける。友よ、僕に問へ。僕はなんでも知らせよう。僕はこの手もて、園を水にしづめた。僕は惡魔の傲慢さもて、われよみがへるとも園は死 ね、と願つたのだ。もつと言はうか。ああ、けれども友は、ただかなしき眼もて僕を眺める。


    こっちも好き

  • 51二次元好きの匿名さん21/11/02(火) 22:27:33

    どっどど どどうど どどうど どどう

    宮沢賢治『風の又三郎』

  • 52二次元好きの匿名さん21/11/02(火) 22:28:02

    その日は晴れていた。
    それまでもずっと晴れの日が続いていた。天地創造からすでに七日以上たっていたが、雨はまだ創造されていなかったのだ。ところが、エデンの東に雲が湧き起こり、はじめての嵐が近づきつつあるようだった。それもかなりすごい。
    東の門を守る天使は、最初の雨粒を避けようと翼を頭上にかざした。
    「失敬」天使は礼儀正しく言った。「いま、なんていったんだい?」
    「まったくまずいことになっちまったな、といったんだ」ヘビがいった。

    ニール・ゲイマン&テリー・プラチェット 「グッド・オーメンズ」

    コメディとして完璧な語り口……そう、書き出しというより語り口って感じなんだよね。

  • 53二次元好きの匿名さん21/11/02(火) 22:34:46

    もう何日か、私は2番目の元妻に追われている気がしている。

    はじめ、追っているのは3番目の元妻だと思ったし、もしかしたら一時期は2人が協同していたと考えられ、ことによると今もそうしているのかもしれない。

    実際、最新の証拠から見るかぎり追っているのは2番目の元妻と思われるが、ほんの数日前の証拠は3番目の元妻を示唆していたのである。


    ブライアン・エヴンソン 「追われて」


    この書き出しからもう主人公の精神状態がある程度察せられてしまう

  • 54二次元好きの匿名さん21/11/02(火) 22:36:04

    二人組の銀行強盗はあまり好ましくない。二人で顔を突き合わせていれば、いずれどちらかが癇癪を起こすに決まっている。縁起も悪い。たとえば、ブッチとサンダンスは銃を持った保安官たちに包囲されたし、トムとジェリーは仲が良くても喧嘩する。

    三人組はそれに比べれば悪くない。三本の矢。文殊の知恵。悪くないが、最適でもない。三角形は安定しているが、逆さにするとアンバランスだ。

    それに、三人乗りの車はあまり見かけない。逃走車に三人乗るのも四人乗るのも同じならば、四人のほうが良い。五人だと窮屈だ。

    というわけで銀行強盗は四人いる。

    伊坂幸太郎「陽気なギャングが地球を回す」


    確か続編かな?四人ならダブルスが出来るの方も好き


    何かしらの点で、彼らは根本的に間違っている。

    なぜなら、私が間違っているはずがないからだ。

    森見登美彦「太陽の塔」


    太陽の塔とか夜は短し歩けよ乙女も良い…

    森見登美彦もめちゃくちゃ好きだ…

    >>45

  • 55二次元好きの匿名さん21/11/02(火) 23:05:06

    方玄綽は、ちかごろ「似たり寄ったり」という文句を愛用し、ほとんど「口頭禅」になっている。口で言うだけでなく、頭の中に確実に根を張ってしまった。はじめは「まったくおなじ」という文句を使ったが、これでは穏当でないとあとで考えたらしく、「似たり寄ったり」に改めて今日に及んでいる。
    魯迅「単語の節季」

    魯迅は理屈っぽい変人を扱うのが上手い。間違いなく本人もその一味だからだ。

    陳士成が県試の合格発表を見て家へ帰ったのは、もう午後だった。かれは朝早く見に行った。掲示板へとびつくようにして、まず陳の字をさがした。たくさんある陳の字が、先を争うように眼に飛びこんだが、あとにつづくのはみな士成の二字ではなかった。そこで改めて、円形に描かれた十二枚の人名表をもう一度丹念に見なおした。見に来た人が残らず立ち去っても、陳士成は掲示板にはなく、掲示板の前につっ立っているだけだった。
    魯迅「白光」

    この現代日本人にも馴染みのある風景から山月記風のロマンチックな、それでいてよりハッキリと救いのない結末を迎えるのがすごい情緒にくる

  • 56二次元好きの匿名さん21/11/03(水) 00:22:50

    >>54

    これを見に来た


    続編の「多数決のことは忘れよう」もすき

  • 57二次元好きの匿名さん21/11/03(水) 02:16:00

    実家に忘れてきました。何を?勇気を。
    伊坂幸太郎『モダンタイムス』

  • 58二次元好きの匿名さん21/11/03(水) 09:04:37

    誰かの祈りで目が覚める。

    米澤穂信「王とサーカス」


    >>16

    麻耶雄嵩なら夏と冬の奏鳴曲の

    「長い鯨幕が続いていた。」も好き

  • 59二次元好きの匿名さん21/11/03(水) 09:08:51

    兄が死んだと聞いたとき、ぼくは恋したひとを弔っていた。
    米澤穂信『ボトルネック』

    書き出しから鬱で好き

  • 60二次元好きの匿名さん21/11/03(水) 09:11:56

    腹を空かせて果物屋を襲う芸術家なら、まだ格好がつくだろうが、僕はモデルガンを握って、書店を見張っていた。

    伊坂幸太郎『アヒルと鴨のコインロッカー』

  • 61二次元好きの匿名さん21/11/03(水) 20:04:51

    そこは縫わないでと頼んだのに、縫われてしまった。


    皆川博子「結ぶ」より
    誰が何を縫ったんだろう?と思いながら読み進める内に、美しい幻想の世界へ連れて行かれてしまう
    皆川博子はいいぞ

  • 62二次元好きの匿名さん21/11/03(水) 20:48:50

    >>44

    これ作中で矛盾してないのすごいよね…

    君の話はマジで名作だから読んでほしいわ

  • 63二次元好きの匿名さん21/11/03(水) 20:54:09

    何とかと煙は高いところが好きと人は言うようだし父も母もルンババも僕に向かってそう言うのでどうやら僕は煙であるようだった。
    舞城王太郎『世界は密室でできている。』

  • 64二次元好きの匿名さん21/11/03(水) 23:41:40

    マンブレッティ氏は、モデナ県のカルピ村にある、栓抜き部品工場の社長である。
    コンメンダトーレ、つまりイタリア共和国功労勲章受勲者とかいう肩書きの、とてもエラい人だ。彼が所有する自動車の数は三十台、頭に生えている髪の毛は三十本。
    「なんてたくさんの自動車だこと」と村人たちはいい、「なんて少ない髪の毛なんだ」とマンブレッティ社長はため息をもらす。まったく不思議な話である。どう考えたところで、三十と三十は同じ数のはずなのだが……。
    ジャンニ・ロダーリ 社長と会計係 あるいは自動車とバイオリンと路面電車

  • 65二次元好きの匿名さん21/11/04(木) 00:16:46

    時田浩作が理事室に入ってきた。彼の体重は百キロ以上あった。理事室の中が暑苦しくなった。

    筒井康隆『パプリカ』

  • 66二次元好きの匿名さん21/11/04(木) 00:54:01

    俺はバーベル。俺を持ち上げるのはヘルシー鍋うどん。本当の名前は渡辺星児。子どもの頃から『渡辺』のパターン通りナベナベ呼ばれてたのだが馬鹿で身体がやたら大きくてスコーンと抜けたところがあったので誰かが鍋焼きうどんって呼んだのが受けて、皆がうどんうどんと渾名を変えてしまった。多分うどんって発音と形状が渡辺星児って男にぴったりくるんだろう。鵜とか鈍とかに通じる感じも非常に似つかわしくて「絶対太麺だよね」「釜揚げ温玉って感じ」「素うどん」「ごった煮」とからかわれてるのに笑ってばかりでうどんって省略されちゃってるところを「ナベなくなっちゃってるじゃん鍋うどんって呼んでよ」とか言って本当に太いネジがどっか飛んじゃってるのだが、鍋うどんは癌になる。若いし強いので進行が早くてどんどん具合が悪くなり痩せていく。余命も三ヶ月と言われてしまう。でも渡辺星児は笑って「全然大丈夫。俺ヘルシー鍋うどんだから」とか意味判らない。飲み会にも来ちゃう。で、そこにいた連中に自分の元気をアピールしようと俺を持ち上げようとする。

    舞城王太郎『バーベル・ザ・バーバリアン』

  • 67二次元好きの匿名さん21/11/04(木) 01:11:22

    22歳の春にすみれは生れて初めて恋に落ちた。広大な平原をまっすぐ突き進む竜巻のような激しい恋だった。
    それは行く手のかたちあるものを残らずなぎ倒し、片端から空に巻き上げ、理不尽に引きちぎり、完膚なきまでに叩きつぶした。
    そして勢いをひとつまみもゆるめることなく大洋を吹きわたり、アンコールワットを無慈悲に崩し、
    インドの森を気の毒な一群の虎ごと熱で焼きつくし、ペルシャの砂漠の砂嵐となってどこかのエキゾチックな城塞都市をまるごとひとつ砂に埋もれさせてしまった。

    村上春樹『スプートニクの恋人』

  • 68二次元好きの匿名さん21/11/04(木) 07:47:20

    苑田岳葉は、近代の産んだ天才歌人のひとりである。

    連城三紀彦の「戻り川心中」ってミステリー
    実際にはそんな歌人は存在しなくて作者の完全な創作
    でもこう力強く言い切られるとなるほど〜と思っちゃうし、かつこの一文自体が読者に仕掛けた罠でもある

  • 69二次元好きの匿名さん21/11/04(木) 17:13:49

    こんな夢を見た。腕組をして枕元に坐っていると、仰向に寝た女が、静かな声でもう死にますと云う。

    夏目漱石「夢十夜 第一夜」

  • 70二次元好きの匿名さん21/11/04(木) 17:18:14

    私はこれから、あまり世間に類例がないだろうと思われる私達夫婦の間柄に就いて、出来るだけ正直に、ざっくばらんに、有りのままの事実を書いて見ようと思います。

    谷崎潤一郎『痴人の愛』

  • 71二次元好きの匿名さん21/11/04(木) 17:23:55

    木曾路はすべて山の中である。

    島崎藤村か『夜明け前』
    個人的に川端の『雪国』に匹敵するぐらい凄い書き出しだと思う

  • 72二次元好きの匿名さん21/11/05(金) 02:42:39

    愛は祈りだ。僕は祈る。

    舞城王太郎『好き好き大好き超愛してる。』

  • 73二次元好きの匿名さん21/11/05(金) 02:49:06

    まことに小さな国が、開花期を迎えようとしている。
    「坂の上の雲」

  • 74二次元好きの匿名さん21/11/05(金) 03:00:01

    サンタクロースをいつまで信じていたかなんてことはたわいもない世間話にもならないくらいのどうでもいいような話だが、それでも俺がいつまでサンタなどという想像上の赤服じーさんを信じていたかというとこれは確信を持って言えるが最初から信じてなどいなかった。

    『涼宮ハルヒの憂鬱』のプロローグから
    この後に続く文章も全部好き

  • 75二次元好きの匿名さん21/11/05(金) 04:04:34

    憧れの相手が見る影もなく落ちぶれてしまったのを見て、「頼むから死んでくれ」と思うのが敬愛で「それでも生きてくれ」と願うのが執着だと思っていた。だから私は、遥川悠真に死んで欲しかった。
    斜線堂有紀「私が大好きな小説家を殺すまで」

  • 76二次元好きの匿名さん21/11/05(金) 12:51:28

    まずコンパスが登場する。彼は気がくるっていた。針のつけ根がゆるんでいたので完全な円は描けなかったが自分ではそれを完全な円だと信じこんでいた。彼は両脚を屈伸できる中コンパスである。しかし彼が実際に両脚を屈伸させる場合は極めて少い。

    筒井康隆 虚航船団

  • 77二次元好きの匿名さん21/11/06(土) 00:36:40

    新聞記事より抜粋

    十月四日早朝、鳥取県境港市、蜷山の中腹で少女のバラバラ遺体が発見された。身元は市内に住む中学二年生、海野藻屑さん(一三)と判明した。



    桜庭一樹『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』
    冒頭で提示されるバッドエンド
    不可避の死に向かって突き進む物語って良いよね

  • 78二次元好きの匿名さん21/11/06(土) 07:26:46

    あの泥棒が羨ましい。二人のあいだにこんな言葉がかわされるほど、そのころは窮迫していた。

    江戸川乱歩「二銭銅貨」

  • 79二次元好きの匿名さん21/11/06(土) 07:36:51

    話說天下大勢、分久必合、合久必分。
    そもそも天下の大勢は、分裂が長ければ必ず統一され、統一が長ければ必ず分裂するものである。

    『三国志演義』

  • 80二次元好きの匿名さん21/11/06(土) 18:52:13

    ユーニス・バーチマンがカヴァデイル一家を殺したのは、読み書きができなかったためである。



    ルース・レンデル『ロウフィールド館の惨劇』
    犯人・被害者・動機を全て明かしているのに、なぜそうなるの?と惹きつけられてしまう
    英国ミステリーを代表する名書き出し

  • 81二次元好きの匿名さん21/11/06(土) 19:41:43

    伊坂なら「春が二階から落ちてきた」

  • 82二次元好きの匿名さん21/11/06(土) 19:45:32

     薄暗い穴倉のようなところから空を見上げている。丸く切り取られた空が光る。瞬きのたびに、瞼の裏に光の文様が浮かぶ。ネガフィルムのように反転した景色と、湿った土の匂い。私の最初の記憶だ。

    宮下奈都「スコーレNo.4」
    「羊と鋼の森」で本屋大賞を受賞されたが、この作品も好き。スコーレとは、スクールの語源となったギリシャ語で、真理探究のための空間的場所を意味するらしい。
    コピーが、「女性は誰もが4つのスコーレで自分の人生を変えられる。」

  • 83二次元好きの匿名さん21/11/06(土) 19:48:26

    落ち着いている。
    声が、である。
    その乞食は御殿の紫宸殿のやぶれ築地に腰を下ろし、あごを永正十四年六月二十日の星空に向けながら、夜の涼をとっていた。

    風は、しきりと動いている。

    御所とはいえ、もはや廃墟と言っていい。風は、弘徽殿、北廊、仁寿殿の落ちた屋根、朽ちた柱のあいだを吹きとおりつつ、土塀の上の乞食のほおをなぶっていた。
    世は、戦国の初頭。

    「国主になりたいものだ」

    と乞食はつぶやいた。


    司馬遼太郎「国盗り物語」

  • 84二次元好きの匿名さん21/11/06(土) 19:51:39

    >>83

    これ好き

  • 85二次元好きの匿名さん21/11/06(土) 20:12:02

    ラノベだが『終末なにしてますか? 忙しいですか? 救ってもらっていいですか?』の一巻冒頭

    "決戦前夜。
    せめて最後に、それぞれ会いたい人のところで過ごそうという話になった。
    讃光教会認定敵性星神『エルク・ハルクステン』討伐のために集まった勇者様御一行は、そういう理由で、一時解散することになった。"

    から始まって

    "この夜から一年もしないうちに、人類は滅びた。
    もちろん、若き準勇者は、約束を守れなかった。"

    で〆られるプロローグ部分が全部好き
    独自名詞が山盛りされてるだけのテンプレ勇者の最終決戦なんだなって読者に思わせておいて
    実はこのプロローグだけで伏線とミスリードが5,6個潜ませてあるのが本当に美しい

  • 86二次元好きの匿名さん21/11/06(土) 20:20:31

     愉快いな、愉快いな、お天気が悪くって外へ出て遊べなくっても可いや、笠を着て、蓑を着て、雨の降るなかをびしょびしょ濡れながら、橋の上を渡って行くのは猪だ。

    泉鏡花「化鳥」

  • 87二次元好きの匿名さん21/11/06(土) 20:38:47

    汽車は流星の疾きに、二百里の春を貫きて、行くわれを七条のプラットフォームの上に振り落す。

    夏目漱石『京に着ける夕』

  • 88二次元好きの匿名さん21/11/07(日) 06:53:05

    >>42

    かがみの孤城のプロローグいいよね

    静かな絶望感

  • 89二次元好きの匿名さん21/11/07(日) 07:02:19

    『ワニが八十七階に住んでいる。
    しかも、すこぶる快適に。』

    内なる町から来た話 ショーン・タン

  • 90二次元好きの匿名さん21/11/07(日) 11:36:16

    祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり。
    沙羅双樹の華の色 盛者必衰の理を表す。
    驕れるもの久しからず ただ春の世の夢の如く
    猛きものも遂には滅びぬ 単に風の前の塵に同じ

    元が口承文学だからか、音読したくなる。何も見てないからちょっと間違ってるかも。

    山路を登りながら、こう考えた。
    智に働けば角が立つ。情に棹せば流される。意地を通せば窮屈だ。とかく人の世は住みにくい。

    夏目漱石「草枕」

  • 91二次元好きの匿名さん21/11/07(日) 11:53:36

    坂井悠二は、怪物に食われつつあった。
    それは、日常から、わずか5分の距離。

    プロローグよりも1章のこっちの方が好き。

  • 92二次元好きの匿名さん21/11/07(日) 23:14:13

    私はこの事件の犯人であり、探偵であり、そしてどうやら、被害者にもなりそうだ。


    都筑道夫『猫の下に釘をうて』
    60年前の作品ながら探偵・犯人・被害者の「一人三役」に挑戦している野心的なミステリ

  • 93二次元好きの匿名さん21/11/08(月) 04:58:18

    >>47

    これ好き 「葉」は文章のイメージだけで読ませられる

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