【SS】永遠の悪魔

  • 1二次元好きの匿名さん22/12/18(日) 01:15:15

    「これは……参ったな」
     トレーナーさんがホテルの廊下をぐるりと回ってきて、私に困惑した顔を見せます。
     困惑……そう、困惑です。決して強い驚きや恐怖を感じさせない、どこか納得と諦めを含むような顔色、声色。
     それは私に恐怖を与えないよう精一杯気遣っているものなのかもしれませんが……長いとまでは言わなくとも、十分な絆を結ぶに至る時間を経た仲なのでわかります。
     彼は、何かを悟っているのだと。

    「本当ですね。これはいったいどういったことなのでしょうか。ちょっとワクワクしますね」
     トレーナーさんの調子に合わせるように私も返事をします。この異常事態に対して恐れがあるのは事実です。
     でもそれより好奇心が勝ってしまうのは……トレーナーさんが落ち着いた様子のまま、隣にいてくださるからでしょう。
     きっと彼ならいつものように私を導いてくれる。そんな確信がありました。

    「誰もいないし、出られない。……ループしてる。まるで漫画みたいだな」
     そう言ってトレーナーさんが首を振ります。
    「漫画? どのような漫画でしょうか?」
     気になります。もしかすると幽霊の話かもしれません。
     そんな私の食いつきっぷりに彼が苦笑を見せます。
     このような非常時には不適切なのに……非日常への興味が止まりません。
    「それは……」
     トレーナーさんが口を開いて、話を始めます。

     ──私、メジロアルダンとトレーナーさんは、二人っきりで。
     あるホテルの階に閉じ込められていました。

  • 2二次元好きの匿名さん22/12/18(日) 01:15:30

    「最近流行りの漫画……そういやアニメにもなっていたかな。こういうことをする悪魔が出てくるんだ。名前は永遠の悪魔」
    「まあ。悪魔、ですか。幽霊さんの仕業などではないんですね」
     悪魔とは物騒なものです。私達に害をなそうとしているのでしょうか。
     しかしここにあるのはどこか平穏で、静かな……静かすぎる空気しかありません。
     理想の永遠とはこのような変化のないものなのかもしれない、そう思ってしまいそうなほどに。

    「こうやってね、部屋や階の空間を繋げてしまって、中にいる人を永遠に閉じ込めてしまう。そういう悪魔だよ」
     トレーナーさんがホテルの階段から降りていくと、しばらくして上からやってきます。何度も試したことですが、変わりはありません。

    「その悪魔はどうやって退治されたんでしょう?」
    「主人公の機転でね。永遠みたいな苦痛を悪魔に与え続けたら悪魔が降参したよ。永遠の悪魔だろうと永遠の苦痛には耐えられないってことかな」
     トレーナーさんは私を引き連れて、自分の部屋に戻ります。窓を開けても、向かいの部屋が続いているだけです。

     ……悪魔なんて、どこにもいません。
     でも、もしかすると。悪魔は……。

  • 3二次元好きの匿名さん22/12/18(日) 01:15:45

    「もしかすると、俺がその悪魔かもしれないな」
     ソファに座り込んだトレーナーさんが一呼吸おいて、そんなことを告白されました。
    「どういう、ことでしょうか?」
     先に打ち明けられてしまった。そんな気持ちを抱えたまま、私は彼に尋ねてしまいました。
     自分の気持ちを隠すように。

    「……アルダン、君と……離れたくなかった。少しの時間でも」



     このホテルには泊まったのは遠方でのレース出走の後、交通機関の問題で当日中に学園に戻る難しくなったためでした。
     交通機関の不調は回復しているようで、明日にはホテルをチェックアウトして学園に帰ります。
     そしてその後は。
     私はそのまま病院に検査入院をする予定になっていました。

     周囲から心配されつつもトゥインクル・シリーズの最初の3年間を走り抜け、消えない記録を刻みつけ。そしてお互いにそれを永遠にしようと走り続けていましたが……そう簡単に、そのような願いが叶うことはありません。
     私の体は今までと変わらず、調子の優れない時があります。今回の検査入院の結果次第では、しばらく療養生活に入る必要があるかもしれません。
     ……日々を重ねてきたトレーナーさんと、離れた形で。

  • 4二次元好きの匿名さん22/12/18(日) 01:16:00

    「別に今生の別れになるわけでも、担当契約がなくなるわけでもないのにな……。それなのに、俺は……」
     いつものようにアルダンの隣りにいてほしかったんだ。君の”今”を、逃すことなく永遠へと刻めるように。

     トレーナーさんが罪を告白するように、胸の内を語られます。
     それを聞いて、私は……。
    「ふふっ」
     思わず微笑んでしまいました。

    「アルダン?」
    「いえ……その悪魔は、私の中にもいましたから。トレーナーさんとの”今”を大切にしたい。逃したくない……できれば、今を永遠にしたい。そんんな悪魔が」
     私の告白を、彼は少し驚いたように受け止めます。

    「こういった形の永遠も、確かにありますね。ずっと変わらず、同じままで。比喩ではなく、本当に時が止まったような永遠……」
     私は窓の外を見ます。全く同じ部屋が続いている不思議な景色を。
     ここで彼と共に永遠を過ごせたら……そんな甘美な夢を見てしまうのも事実です。

    「トレーナーさん。私も、入院なんてしたくないです。できればこのままずっと離れることなく隣にいれたら……走っていれたらと思っていました。もし逃げられるのなら、永遠の”今”に逃げ込みたいです。でも……」
     言い淀んだ私の言葉を、トレーナーさんが続けます。

    「ああ。でも”今”だけじゃ、駄目だよな。永遠にするには未来も必要だ」
    「……っ。はい、そのとおりです。私達が刻みたいのは、今だけでなく未来も含めて永遠なのですから」
     自然と、二人の手が重なりました。

  • 5二次元好きの匿名さん22/12/18(日) 01:16:14

    「……さて、これが悪魔の仕業だとして。どうやって追い払ったものかな」
     私達の中で結論が出たからといって、この空間がすぐ消えるわけではないようです。
     そもそも、本当にそれが私達の心の悪魔の成していることなのかすらわからないのですから。でも。
    「きっと大丈夫です。一眠りすればすべて解決しているかもしれませんよ?そうでなかったら、また考えませんか?」
     私の自信満々な答えにトレーナーさんが笑って頷きます。
    「せっかく悪魔さんが作っていただいた、貴重な時間です。"今"だけでなく、"未来"だけでもなく……もう一つ」
    「もう一つ?」
    「"過去"も、振り返ってみませんか?」

     そして私たちは、ベッドに腰を下ろして。
     眠くなるまで、今まで二人で刻み続けた時間を、思い出を語り合いました。

  • 6二次元好きの匿名さん22/12/18(日) 01:16:54

    「じゃあ、アルダン。気をつけて……なんて言葉が適切なのかわからないけれど、長期入院のいらないような結果が出るといいけど」
    「はい。トレーナーさんもスカウト、がんばってください」
    「ああ。アルダンのいいライバルになるようなウマ娘をスカウトしてみせるさ」
    「ふふ。未来が、楽しみですね」
    「そうだな。一足先に、未来で待ってるよ……って、これも何かのアニメのセリフだったかな」
    「まあ。トレーナーさんはそういった作品に詳しいんですね。今度ぜひ教えてください」
    「そうだな。このアニメは……」

    おしまい

  • 7二次元好きの匿名さん22/12/18(日) 01:18:06

    ところで俺の話した?

  • 8二次元好きの匿名さん22/12/18(日) 01:19:40

    二人が会話してる部屋の四つぐらいとなりで永遠の悪魔相手に最強の大会してるデンジ君がいそう。

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