- 1二次元好きの匿名さん22/12/18(日) 09:18:40
「使い魔ぁ!お願い、力を貸してほしいの!」
休日。特にやることもないので本を読んで暇を潰しているとスイープが自室に飛び込んできた。その様子は、結構焦っているように見えてトラブルに巻き込まれたのだろうか?と内心訝しげに思いつつ尋ねる。
「落ち着いて、何があったか聞かせて?」
「えっとね、実は───。」
スイープの話を要約すると、魔法の練習の一環で見つけたスズメがどこかに飛び去ってしまったらしいので一緒に探してほしいという話だった。
いくら何でも、その個体を見つけるのはキツイ気が…と思ったがそこは本人が特徴を覚えているから安心してほしいということだったので、部屋いても暇だし同行することにした。
…だがしかし、なかなか見つからない。まず、スズメが見つからないのだ。ハトやキジは見かけるが、スズメが本当に見当たらない。探せども探せども、なかなか見つからずに難航してついに夕方になってしまった。
「もー!どこ行っちゃったのよー!」
「ここまで探して見つからないとなると大分遠くまで飛んだのかな…?」
「そんなはずはないわ、スイーピーの魔法が掛かったはずだから近くにいるはずよ」
「だけどもう夕方だしなあ…。これ以上は捜索するにも難しくなるし一旦帰らないか?」
「絶対にイヤ!見つけてから帰るもん!」
スイープはそう言うが状況的には探すにはどんどん悪化する一方だ。ただでさえサイズが小さいスズメ、しかも電線の上にいるのなら尚の事判別しにくいし何より暗いせいでロクに見えない。正直、探すには環境が悪いが…彼女は諦めたくないようだ。一体、何故?
はっきり言うと、スズメ自体はどこにでもいるし日中であれば見かけることも多い。一つの事に固執しがちなスイープと言えど、どっか飛んでいってしまったと諦めて別の個体を探すのを放棄してまでその一羽にこだわるのだ、多分何かがある。ならば、聞くしか無い。
「…どうしてスイープはそのスズメにこだわるの?」
「そのスズメがお気に入りなの!絶対絶対、見つけるんだもん!…見つけるん、だもん…」
焦りと緊張が頂点に達したのか、スイープはついに泣いてしまう。このままではまずいとひとまずベンチに座らせ、ジュースを飲ませて落ち着かせる。すると、スイープは落ち着いたのかポツリ、ポツリと事情を語ってくれた。 - 2二次元好きの匿名さん22/12/18(日) 09:19:09
「あの子…1週間前に学園の中庭で怪我してたの。翼が少し傷ついてて、応急処置は出来たけどお空に飛べなくなっちゃったみたいだからスイーピーが魔法を掛けてトレーニングしてあげてて…」
「…スズメの世話、そうか。そのスズメが今探している子って事か」
野鳥保護の云々が一瞬頭をよぎったがそんなの後だ、彼女から情報を聞き出す。
「それで、今日もトレーニングしてたんだけどついに飛べたの。嬉しくって、はしゃいでたら…その子、そのままどこか遠くまで飛んでっちゃった」
「なるほどな、それでその子を見つけようと頑張ってたって事だな」
「…」
コクリ、と頷き同意するスイープ。彼女の中で、お世話してる内に情が湧いたと思われる。ペットとかもそうだが、少し一緒にいる時間が長いと何となく、愛嬌以上の愛らしさを感じてしまうものだ。だから、今の彼女はかなりの喪失感に襲われているのだろう。
「せっかく飛べるようになって、お空を羽ばたけるようになったのに。スイーピーにもう会いに来てくれないの…?そんなのヤダァ…っ」
「いや、違うよスイープ」
ただ、何となくだが今のスイープにピッタリハマる言葉がある。また目に涙をにじませるスイープの手を握りながら極力安心できる声で話す。
「スイープはさ、立つ鳥跡を濁さずって慣用句は知ってるか?」
「それが…何って言うのよ」
「そのスズメもさ、多分お世話になったスイープにいっぱい心配掛けたからもう大丈夫だって思ってほしかったんじゃないか?」
スイープの話を聞く限り、そのスズメは見事に羽ばたいて彼方へ飛んでいったと見受けられる。恐らく、それはスズメなりの感謝の現れだったのではないだろうか。貴方のおかげでここまで元気になりました、ありがとうという意味を込めて立つ鳥は跡を濁さず飛び去ったのだと。
「君の魔法は折り紙付きだからね、きっと力が溢れて仕方なかっただろう。だから、心配なんてしないでと伝えようとしたんだと思う」
「ホント…?ならあの子、またここに来てくれる?」
「そりゃ当然さ。絶対また元気に飛んでる姿を見せてくれるよ」
「〜っ!うわああああああん!!!」
結局俺にしがみつきながらスイープは号泣してしまった。普段なら、諌めるところだが今は事情が事情なので頭を撫でて彼女の激情を受け入れた。こんな時くらい、泣くだけ泣いてしまえばいいのだから。 - 3二次元好きの匿名さん22/12/18(日) 09:19:36
明くる日、昨日の気分転換でもしようとスイープを誘い、おでかけする為に栗東寮前で待っていた時のこと。少し遅くなる、と彼女から連絡を受けたので寮近くのベンチで腰掛けて今日の行き先をチェックしていると足元に何かが見えた。
「…スズメ。スズメ!?もしかしてこの子…」
昨日あれだけ探したのにまったく見つからなかったスズメ、しかもその翼はどこかぶきっちょな見た目をしているので恐らく昨日彼女が見つけたくて渇望していたあの子だろう。何の気もなく、手を前に差し出すと、呼応するように俺の手の上に留る。
「昨日あれだけ探したんだぞ?姿くらい見せてやってくれよ」
「…」
スズメは人語を解せないし逆もまた同じなはずなのだが、何となくその瞳からは否定の意志が見えたような気がした。だが、そこにはスイープを嫌いになったからとかではなさそうなのは見てとれる。
「まあ、姿を見せる気になったら出来れば彼女の元に現れてやってくれ。正直、スズメに嫉妬しそうになるくらい心配してたんだぞ?」
「…気が向いたら、見せてあげますよ」
「…えっ。えぇっ!?」
い、今…スズメが喋ったよな?聞き逃すわけがない、確かに聞いた。気が向いたらなんて何とも生意気なこと言っていた…!
「でもね、貴方が彼女に伝えてくれた通り元気な姿になったからには元ある姿に戻らなきゃいけないんです。私も、あの子も」
「そりゃまあ、そうだけど…」
「だから、彼女には感謝しています。翼が傷つき、またあの空へ飛べるかと不安だった私を魔法のような優しさで救って下さったあの子に」
「…そうかい」
だったらスイープの前に姿くらい見せてやってもいいだろと思ったが飲み込む。夢みたいではあるが、このスズメは今俺に対してスイープへの感謝の弁を述べているのだ、ならば外野の俺が何か言うのは野暮だ。
「レース、見に来てくれよな」
「ご安心ください。空から、窓から…。貴方達のご活躍を見守ってますよ、優しい使い魔さん」
「何でその呼び名知ってるの…」
「そりゃあの子の口からしょっちゅう貴方の話が出てましたから…っとと。そろそろ彼女に見つかってしまいますので失礼しますね。では、ごきげんよう」
そう言うやいなや、スズメは翼を大きく広げて空に羽ばたいた。元気になった姿を、見せつけるように立派に。その姿を俺はいつまでも見送るのだった。 - 4二次元好きの匿名さん22/12/18(日) 09:20:05
スズメが飛び去って姿が見えなくなった頃、スイープが寮の門から出てきた。
「ごめん使い魔、準備手間取っちゃって…?何でそんな嬉しそうな顔してるの?」
「え?うーん…やっぱり立つ鳥は跡を濁さなかったなって」
「…?変な使い魔。まあいいわ、今日はどこ連れてってくれるのかしらっ」
「そうだな、今日は────。」
今日体験した不思議な出来事。もしかしたら、夢かもしれないしスズメが話した言葉はすべて俺の妄想だったのかもしれない。だが、間違いなく忘れられない思い出になった。言うなれば、魔法に掛けられたような体験だったと思う。
後日、俺のトレーナー室の窓には一羽のスズメがよくやってくるようになるが…それはまた別のお話。 - 5二次元好きの匿名さん22/12/18(日) 09:26:13
スイープといえばサポカのスズメを探して愛嬌○を取得するイベントが結構有名ですよね。
今回はそれとホーム会話のコウモリに変化の魔法をかけたら見失ってしまったと言うものをドッキングさせた物を作ってみました。スズメって地域によっては減少してるらしいのを今回初めて知りました。
何とも超展開になったのは多分僕の技量が足りてないからです。どうか許し亭 - 6二次元好きの匿名さん22/12/18(日) 09:39:54
おお…ええやん…
- 7二次元好きの匿名さん22/12/18(日) 09:59:16
朝からほっこりさせてくれるじゃねえか…
- 8二次元好きの匿名さん22/12/18(日) 10:10:09
ほんわかしてていい話です
- 9二次元好きの匿名さん22/12/18(日) 10:26:15
スズメに嫉妬してる使い魔かわいい〜
陰ではいっぱい心配してもらってるのに笑 - 10二次元好きの匿名さん22/12/18(日) 10:43:52
スズメは使い魔がいる時だけトレーナー室に来るのかな?元気だよ〜みたいな感じで
出てくるキャラクター皆可愛くて休日の朝からいいものを見せていただきました、ありがとう - 11二次元好きの匿名さん22/12/18(日) 11:22:05
優しさに溢れた世界だ
俺この世界にいたいわ - 12二次元好きの匿名さん22/12/18(日) 11:40:56
この人が書くトレスイはとにかく優しさに包まれてて気負いなく読めると言うか安心して読んでいられるんだよね
超展開とは言うけど魔法が絡んだスイープとのお話ならどんな超展開も王道みたいなものですよ!良きものをありがとうございます👍 - 13二次元好きの匿名さん22/12/18(日) 11:42:38
丁寧な口調がススズと重なってから脳内でサイレンススズメになってしまいましたがどうにか修正できました。ありがとうございました。
- 14二次元好きの匿名さん22/12/18(日) 18:04:05
SS応援隊スレで見て読みました
心温まるお話でほんわかしました - 15二次元好きの匿名さん22/12/18(日) 20:59:05
許し亭氏の新作助かる
今回はひときわホッコリする感じのお話でしたね