…………アヤベさぁ〜ん……

(うわぁ、凄い風…)

ニュースでも取り上げられたクリスマス寒波は、想像以上の寒さを学園にももたらしていた。日中でも極寒とも言えるそれに、一部を除く生徒やトレーナーは温かい飲み物のボトルやカイロを握りしめ、マフラーや手袋が手放せずにいたほどだった。それは夜になっても緩む気配が無く、窓の外では風がビュウビュウと音を立てていた。
その音で眠気がひいてしまったカレンチャンが次に耳にしたのは、モゾモゾと誰かが布団の中に入ってくる音だった。

(…………アヤベさぁ～ん……)

『最近無理しすぎだから、カワイイを摂取して休んでください！』
そう注意されてから、アドマイヤベガは定期的にカレンチャンの布団に潜り込んでいた。最初は後ろから抱きしめるだけだったのだが、次第にうなじの匂いを嗅いだり柔らかな乳房や臀部を揉みしだいたり手入れの行き届いた尻尾を手で梳いたりと、行動の幅が広がって行った。そしてその頻度も少しずつではあるが上がってきている。
今日こそキツく注意しよう。そう決意したカレンチャンが侵入してきたほうに正面を向けると……

「え、ちょっ…アヤベさん…？」

……パジャマの上からでもその膨らみがわかるカレンチャンの胸に、アドマイヤベガは顔を埋めていた。脇の下からしっかりと後ろに手を回したと思うと、すぅすぅと寝息を立て始めた。
予想外の行動に思考が硬直するが、それも一瞬のことだった。

「…もう、アヤベさんったら…」

本当なら、叩き起こしてでも叱るべきなのかもしれない。自分が言い出しっぺだし、ストップをかけなかったのも自分だが、いくらなんでも限度が過ぎる。あんなことをされるたびに、変な気持ちになってしまうのを我慢してる自分の身にもなって欲しい。
…きっとそのせいなのだろう。
普段の素っ気なさが嘘かのように甘えてくるその姿に、愛おしささえ覚えていたのも。
問答無用で抱きついてきたというその行動に、ただ受け入れるという選択肢を選んだのも。

そっと抱き寄せ、頭を優しく撫でる。そして彼女は呟く。

「…メリークリスマス、アヤベさん。」

その福音がアドマイヤベガに届いたかどうかは、定かではない。
窓の外では吹き荒んでいた風が止み、しんしんと雪が降り始めていた。