- 1二次元好きの匿名さん21/11/03(水) 19:09:58
君は月にウサギがいる理由を知っているかい?
ふむふむ、月の模様がそれっぽいから…か
なるほど。実に風情のない答えだ
君のそういう国語的感性の乏しいところ、私は嫌いじゃないよ
では、次の質問はどうだい?
『なぜ月のウサギが餅つきをする』のか
どうかね。なかなかそれっぽい理由も思いつかないだろう?
いくら月の模様がウサギに見えたとしても、それを餅つきに見立てる理由が特にないからね
え? もう降参かい?
ふふふ、仕方ないな。モルモット君がどうしても、とお願いするなら答え合わせをしてあげよう
もっとも、答えといっても私の独自研究も混じっているがね。それでもいいかな?
いやいや、研究といってもそんなに小難しい話をするつもりはないよ
まあ、淹れたての紅茶でも傾けながらのんびり聴いてくれたまえ
よし。では講義を始めるとしようか - 2二次元好きの匿名さん21/11/03(水) 19:10:40
まずは月のウサギがどこから来たのか
これはね、中国の道教が元になった考え方なんだ
道教というのは厳しい山野に篭って仙人を目指して修行する教えだからね
白い毛並みで山を駆け回るウサギの姿を見て、彼らは仙人の友達だろうと信じられていたんだよ
だから道教を知る人々にとって、ウサギはとても神聖な存在だったのだよ - 3二次元好きの匿名さん21/11/03(水) 19:10:49
きたわね
- 4二次元好きの匿名さん21/11/03(水) 19:11:20
さて、ウサギと仲良く暮らしながら道教の人々は仙人目指して修行を続けていたわけだけどもね
彼らが修行に成功したらどうなるか
モルモット君は知っているかい?
そう。羽化登仙というやつだ
体に羽が生えたようになって、空に登っていくのだよ
では、空に登ってその先はどこへ行くのだろう
はたして仙人はどこを目指しているのだろう?
それはね。『月』を目指しているのさ
道教を信じる人々にとって、月もまた神聖な存在だったのさ
夜空に浮かぶ真っ白な穢れなき世界
そこに彼らは仙人が住まうにふさわしい理想郷を見出していたのだろうね - 5二次元好きの匿名さん21/11/03(水) 19:12:04
文系タキオンとか珍しくね?
- 6二次元好きの匿名さん21/11/03(水) 19:12:10
さてさて、これで『ウサギ』と『月』が共に神聖な存在であることがわかったね
今度は『餅つき』の理由を考えていこうか
日本では月のウサギといったら餅つきだけどね
中国では元々は違うカタチだったのだよ
これも道教と関係が深いのだけどね
なんと、本当はウサギは『不老不死の薬』を作っていたのだよ! - 7二次元好きの匿名さん21/11/03(水) 19:12:43
え? 流石に胡散臭いって?
いやいや、もうすこし話を聞いてくれたまえよ
仙人の修行といえば断食だろう?
肉を断って穀物も食べない
いわゆる、生臭を避けよってヤツだ
そんな厳しい修行にも例外があってね
深山幽谷に生える薬草だけは食べても構わないんだ
そうした霊草には寿命を伸ばす効果があると信じられていたからね
そもそも中国の神仙思想は仙人になりたい=長生きを目指す思想から始まっているから、断食も長生きをするための手段にすぎないんだよ
おっと、すこし話が逸れたね - 8二次元好きの匿名さん21/11/03(水) 19:12:49
好きな小説で仙人と月が絡んでて不思議に思ってたが、まさかこんなところで答えを知るとは......
- 9二次元好きの匿名さん21/11/03(水) 19:13:45
とにかく、道教の人たちは仙人になるために、自分なりに薬草を集めてすり潰し不老不死の薬を作ろうとしていたわけだ
臼と杵を使ってね
そんな修行が功を奏して羽化登仙を果たしたとしよう
そうすればその身は天へと登り、月世界にまで辿り着くだろう
その暁には、お友達のウサギが本物の『不老不死の霊薬』をプレゼントしてくれて、晴れて本当の仙人になれるってわけだ - 10二次元好きの匿名さん21/11/03(水) 19:14:08
これが道教で『月にウサギがいる理由』が説明できたかな
やれやれ。ずいぶん回り道をしたが、これでようやく日本のウサギの話に入れるね - 11二次元好きの匿名さん21/11/03(水) 19:14:44
日本に月のウサギの伝承が入ってきたのは、だいたい6世紀ごろといわれていてね
まだ平安京も竹取物語も存在しない頃の話だよ
そんな昔でも大陸との文化の伝来はなかなか盛んでね
特に仏教の教えを広めるためにやってくるお坊さんがけっこういたんだよ - 12二次元好きの匿名さん21/11/03(水) 19:15:16
それも、当時はまだ国が仏教をバックアップしていない時代だろう?
なので、渡来した彼らは都に留まらない
むしろ日本各地を渡り歩いて、その地の民間宗教と溶け込むように仏教の布教を進めていったんだ
特に重視されたのが、その土地の霊山と呼ばれる場所
その地に根ざす宗教の基点を抑えるのが仏教の手法でね
熊野三山とか大峰山とかね
後の修験道なんかはこの時の仏教の影響も強いらしいよ - 13二次元好きの匿名さん21/11/03(水) 19:16:11
さて、彼ら仏教僧は日本の霊山に仏教を売り込みにきたわけだけどね
その時にセットで道教の教えも持ち込んだわけさ
元々が厳しい山での宗教だから、日本の霊山でも受けは悪くない
そんなわけで、日本にも道教の考え方はそこそこ広まっていくのだよ
月のウサギも一緒になってね
ところが、ここで一つ問題がおきる - 14二次元好きの匿名さん21/11/03(水) 19:16:41
日本に道教を持ち込んだのは渡来した仏教僧だ
彼らが信じてるのは当然仏教だから、道教を広めるつもりはないわけで
結果、当時の日本では道教は全然流行らなかった
道教の考え方は広まったのに、肝心の道教そのものが広まらなかったのだね - 15二次元好きの匿名さん21/11/03(水) 19:17:10
となると、仙人や不老不死の薬だなんて言われても、当時の日本人にはまるでピンとこないわけだ
どうやら月にウサギがいるらしい
臼と杵もあるらしい
あのウサギはなにをしているのだろう?
この矛盾を解決するシンプルな答えが、【ウサギは月で餅つきをする】となったのさ - 16二次元好きの匿名さん21/11/03(水) 19:17:47
つまり、まとめるとこういうことさ
・月の模様をウサギに見立てるのは道教由来
・ウサギは月で仙人の修行の手助けをする
・日本では不老不死の薬作りが餅つきに置き換わった
それゆえ【ウサギは月で餅をつく】のだよ - 17二次元好きの匿名さん21/11/03(水) 19:18:41
さて、どうだったかな? モルモット君
ありきたりなウサギの話であっても、少々掘り下げてみればなかなか興味深い解釈が生まれるものだろう
なに、それほど特別な事はしていないよ
詳細なデータと広範な視野からの検証という両輪があれば、新たな可能性の地平が開けるというだけの事だ
だからこそ、私は常にデータの収集に全力を尽くすのだよ
おや? そんなに気怠そうな顔をして、どうしたんだい?
まあ、ずいぶん長い話になってしまったからね
君が力尽きてしまうのも仕方ないだろう
いやいや。謝る必要はないよ。モルモット君
その急速な倦怠感と眠気は、君の集中力や責任感とはまったく無関係のモノだからね - 18二次元好きの匿名さん21/11/03(水) 19:19:29
ん? どういうことかって?
ふぅン……。この状況でもまだ理解が追いつかないとは、注意力や判断力にも顕著な低下が見られるね
ははっ、我ながらなかなか強烈なモノを調合してしまったようだ - 19二次元好きの匿名さん21/11/03(水) 19:20:15
──本当はもう少し、段階というやつを踏まえていくつもりだったんだよ
でも、君があまりに無防備なものだから、ついね、我慢ができなくなってしまった。わかるだろう? - 20二次元好きの匿名さん21/11/03(水) 19:20:50
- 21二次元好きの匿名さん21/11/03(水) 19:29:05
こいつ搦め手が遠回りすぎる…!
- 22二次元好きの匿名さん21/11/03(水) 19:31:53
あっ月の兎が不老不死の薬云々で道教で仙人って東方のアレの元ネタこれかァ!!(独歩)
- 23二次元好きの匿名さん21/11/03(水) 19:33:03
月と穢れと仙人と云々……って部分の絡みは東方なんかでもモチーフにはされてるよね
元ネタ辿ってくとここで話されてるような内容に辿り着くんだ - 24二次元好きの匿名さん21/11/03(水) 19:36:01