【CP・SS】フーシャ村のクリスマス

  • 1122/12/22(木) 20:51:37

    日はとっくの昔に沈み、あたりは夜の闇に包まれている。
    雪が降る寒空の下、少年―モンキー・D・ルフィは立ち続けていた。
    目的は一つ。

    「今年こそ…サンタに会ってやる!」

  • 2122/12/22(木) 20:51:59

    そう。ルフィはサンタに会うために外で待っているのだ。
    サンタ…それは毎年、自分の枕元にプレゼントを置いていく謎めいた存在。

    なぜ自分にプレゼントをくれるのか。
    どうしてほしい物を知っているのか。

    ルフィにはさっぱり分からなかった。

  • 3122/12/22(木) 20:52:24

    もちろん、村長やマキノにも聞いてみた。

    「サンタってどんな奴なんだ?」

    しかし、何度聞いてもはっきりした答えは帰ってこない。
    クスクス笑いながらはぐらかされるだけだ。
    大人達は、自分に隠し事をしてる!
    そう考えると無性に腹が立った。

  • 4122/12/22(木) 20:52:43

    フーシャ村にはルフィと年の近い友人はいない。
    それだけに、自分だけ子どもに見られている気がするのだ。
    だからサンタについて教えてくれないのだろうか。

    「なら、おれが自分でサンタに会ってやる!」

    そう意気込んだのが2年前のこと。
    ルフィは考えた。会う方法は簡単だ。
    夜のうちにやってくるのだから、ずっと起きていればいい。

  • 5122/12/22(木) 20:52:59

    しかし、夜になるとどうしても眠くなってしまう。
    ついウトウトした…と思ったときにはもう朝だ。
    自分の知らないうちに置かれたプレゼントを眺めることになる。
    しかし、それも去年までの話。

  • 6122/12/22(木) 20:53:20

    今までは、布団の中で待っていたから眠くなってしまったのだ。
    ならば…家の外で待っていればいい!

    「ししし、冴えてるなーおれ」

    そういう訳で、夜分遅くに立ち続けているのだが…

    「いやーまさかここまで寒くなるとは」

    フーシャ村には珍しく雪まで降り始める始末。
    もう少し暖かい格好をすればいいのだが、ルフィにそういった考えはなかった。

  • 7122/12/22(木) 20:53:40

    これもサンタに会うためだと自分に言い聞かせ、
    体をさすりながら耐える。
    ルフィにとっては長い長い時間が経ち…

    「~♪~♪」

    「!」

    誰かの鼻歌が聞こえてきた。
    どこか陽気なメロディだ。

  • 8122/12/22(木) 20:54:08

    重たくなっていたまぶたを押し上げ、夜闇の奥をにらみつける。
    確かに何者かがいる。
    ぼんやりとしたシルエットが段々と大きくなり―





    「メリークリスマス、ルフィ!」

  • 9122/12/22(木) 20:54:27

    赤色の服に身を包んだ女が、こちらに手を振って笑いかけてきた。
    ルフィにとっては初対面だが、向こうは打ち解けた様子だ。
    おれの名前を知ってる…!

    やや警戒しながら、まじまじとサンタ?の様子を観察する。
    まず、妙ちくりんな形に結い上げられた髪が目を引く。
    頭の上に二つ輪っかがあり、二本のおさげの先も輪っかにしている。
    おまけに左右で髪色が紅白にわかれているときたものだ。(そんな人間いんのか?)
    耳には何か機械を付けているが、用途はわからない。
    膨らんだ白い袋を肩に担いでいる。

    「お前がサンタか?」

    「そうだよー!」

    彼女は鈴を転がすようにコロコロ笑った。

  • 10122/12/22(木) 20:54:46

    「すげー!サンタって女だったんだ!」

    「あっはっは、可愛いなぁ」

    村の人達に聞いていた話だと、「白いひげを生やしたおっさん」とのことだったが、
    すっかり騙された!まさかサンタが女だったとは!
    ルフィが感動に震えていると、(もしかすると寒さのせいかもしれない)
    サンタが袋に手を突っ込んで何かを取り出す。

    「はい、プレゼント」

  • 11122/12/22(木) 20:55:04

    「わー!肉だ!ありがとう!」

    エメラルド色のリボンが結ばれた肉。
    ルフィにとっては何よりのプレゼントだ。
    見つめているだけで涎が垂れてくる。

    「ふふふ」

    そんなルフィの様子を愛おしげに眺め、サンタは破顔する。

  • 12122/12/22(木) 20:55:28

    「あーあーこんなに冷えちゃって…」

    サンタは袋を降ろし、身を屈めてルフィを抱きしめる。
    さっき会ったばかりの相手に抱きつかれて驚いたが、不思議と嫌な気持ちは湧かない。
    むしろ、サンタの腕と胸から伝わる温もりに安心感を覚えた。

    「…」

    彼女は黙ったまま自分の頭に積もった雪を払い、
    抱きしめたままの体勢で優しく背中をさすってくれる。
    なされるがままにしつつ、ふと尋ねる。

  • 13122/12/22(木) 20:55:47

    「お前、なんでプレゼントを色んな奴に配るんだ?」

    「お、気になる?ルフィ。
    あたしはね、世界中の人を幸せにするためにそうしてるの」

    「それでお前がなんか得すんのか?」

    「んー…そうだね、あたしは、あたしにとっては…
    他の誰かが幸せになることが、自分の幸せなの。わかるかな」

    「ほぇー…」

    カッコいい。自分はそんな風に考えてみたこともなかった。
    やっぱりサンタはすげェ奴だと、ルフィは尊敬の念を深める。

  • 14122/12/22(木) 20:56:29

    「よし、暖まったかな」

    サンタが体を離し、満足気に頷く。
    雪はまだ降っているというのに、
    どういうわけかルフィの体はポカポカしたままだ。

    「よいしょっと」

    サンタが袋を持ち上げ、肩に載せる。
    もう行ってしまうのだろうか。
    この広い海にいるたくさんの相手にプレゼントを渡すのだから、さぞかし忙しいのだろう。

  • 15122/12/22(木) 20:56:46

    あ、そうだ、とルフィは本来の目的を思い出す。
    会えたら、ぜひしたかったこと、それは―
    サンタにニッコリと笑いかけ、伝える。

    「お礼がしてェ!」

    「えっ」

    サンタは驚いたようだ。髪に隠れて片側しか見えない目を見開き、
    口をポカンと開ける。

  • 16122/12/22(木) 20:57:06

    「お前よ、いつもみんなのために頑張ってくれてるだろ?
     おれも毎年プレゼント貰ってるし…
     だから、お礼がしてェんだ!」

    「…」

    「おれにできることなら、なんだってしてやるよ!
     お前、すげー良い奴だし、おれもお前が好きだ!」

    「…」

  • 17122/12/22(木) 20:57:26

    サンタはゆっくりと瞳を細め、今までとは少し毛色の違う笑みを浮かべる。

    「…お礼はいらないよ。キミには…たくさん貰ったから」

    一際強い風が吹き、紅白の髪が激しくなびいた。
    なんだか、キレイだ。

    「うわっ!?」

    ルフィの目に雪が入り、思わず俯いてしまう。
    ゴシゴシ目を擦りながら、サンタに問いかける。

    「おい!貰ったってなんだよ!
     おれ、お前に何もしてねーぞ!」

  • 18122/12/22(木) 20:57:54

    顔を上げるが、そこには誰もいない。

    「あれ?どこに行ったんだ?」

    周りをキョロキョロと見渡すが、辺りには人っ子一人いない。
    サンタは忽然と姿を消してしまった。
    …行ってしまったのだろうか。

    「ちぇ…なんだよ…」

  • 19122/12/22(木) 20:58:13

    すごすごと家の中に入り、布団に潜り込む。
    サンタに会えただけ、無駄じゃなかった。そう思おう。

    肉は…朝になったら食べよう…
    ルフィの意識はあっという間に夢に呑みこまれた。

  • 20122/12/22(木) 20:58:36

    とある国。
    煙突に腰掛け、歌姫は呟く。

    「いい夢を。まだ海賊じゃないルフィ君」

    月明かりに照らされる静かな街並みを見下ろしながら、
    彼との会話、かけられた言葉を思い返す。

    「生意気。まだガキのくせに」

    悪態をつきながらも、その表情はとても楽しそうで。

    「さて、もう一仕事!」

    彼女は再び、歩みを進める。

  • 21122/12/22(木) 20:59:22

    「ぐがー…むにゃむにゃ…サンタぁ…」



    ―数ヶ月後、フーシャ村にレッドフォース号が到着することになる。 

    END

  • 22二次元好きの匿名さん22/12/22(木) 21:00:01

    何か不思議な雰囲気のSSでした…
    語り継がれる

  • 23二次元好きの匿名さん22/12/22(木) 21:01:35

    RED後になんやかんやあってサンタクロースに転職したウタちゃん概念かな?

  • 24二次元好きの匿名さん22/12/22(木) 21:02:48

    見事

  • 25二次元好きの匿名さん22/12/22(木) 21:03:58

    乙です〜

  • 26二次元好きの匿名さん22/12/22(木) 21:04:30

    こういう不思議なSSを読むのは久しぶりだ……なんだか懐かしい気持ちになれました。
    歌姫としてではなく、サンタとして幸せを振りまく存在になったんですね。
    「サンタクロースのいる新時代」を作ったといえるのかな。
    きっとこの世界の幼いウタの枕元にも毎年かかさずプレゼントを届けてるのかも。

  • 27122/12/22(木) 21:04:39

    >>22

    >>23

    コンセプトが伝わって嬉しいことを教える

  • 28二次元好きの匿名さん22/12/22(木) 21:04:47

    なんともいえないモヤモヤ感であった

  • 29122/12/22(木) 21:12:16
  • 30二次元好きの匿名さん22/12/22(木) 21:12:19

    サンタになる前の、歌で新時代を作りたかったウタちゃんの歩んだ道は一度途絶えてるんですね。それを思うと物悲しい。
    この世界でもエレジアの悲劇が起こるとして……置き去りにされたウタちゃんが“ほしいもの”を、サンタウタちゃんはプレゼントしてくれるのだろうか……。
    深く考えると暗い気持ちになっちゃうね、サンタウタちゃんは可愛くて優しいね。

  • 31二次元好きの匿名さん22/12/22(木) 21:12:39

    YOUかよ!!!こりゃ一本取られたよ!!!

  • 32二次元好きの匿名さん22/12/22(木) 21:12:44

    >>29

    !?!?

  • 33二次元好きの匿名さん22/12/22(木) 21:13:13

    >>29

    卵さんかよ!!!

  • 34二次元好きの匿名さん22/12/22(木) 21:35:31

    いやまさかのサンタに転生したウタの話だったとは
    すごく心温まる少し泣きそうになったお話でした!
    そして貴方様でしたか すごく楽しみに待っております

  • 35二次元好きの匿名さん22/12/22(木) 21:44:51

    ルフィはウタを見てサンタを思い出すかな?

  • 36二次元好きの匿名さん22/12/22(木) 21:47:46

    サンタの帰るところには麦わら帽子が似合う男がいて欲しいな

  • 37二次元好きの匿名さん22/12/22(木) 23:08:04

    いっぱいちゅき

  • 38二次元好きの匿名さん22/12/23(金) 05:03:59

    切ないけど優しい気分になれた

  • 39二次元好きの匿名さん22/12/23(金) 06:14:30

    >>29

    そう来たか!!!

    人たらしめ!

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