この姿がなんだ?ん?言ってみろ

  • 1二次元好きの匿名さん22/12/24(土) 00:01:49

    クリスマス・イブの夜の繁華街は、人でごった返していた。

    「クリスマスケーキ、いかがですか~!?」

    サンタの格好をしたアルバイト店員を横目にコンビニの前を通り過ぎる。
    いや、横目というよりも俯いていたからほとんど視界に入っていなかったかもしれない。

    「はあ……」

    思わず出たため息が、白く濁って夜の中へ溶けていく。いくら独り身とはいえ、なんだってこんな日に憂鬱な思いをしなければならないのか。
    その理由、今日の外出の目的はずばり、担当ウマ娘──シンボリルドルフへのクリスマスプレゼントだった。

  • 2二次元好きの匿名さん22/12/24(土) 00:02:57

    "SOLD OUT"

    ミーティングをいつもより早く切り上げて向かった先、以前通りがかった際に目をつけていた雑貨屋のショーウインドウには、目当ての物の姿はもうなかった。
    三日月をあしらった耳飾り。少々値は張るもののルドルフに似合うと思ったのだが、どうやらすんでのところで先を越されてしまったらしい。
    やはり、忙しさにかまけていないで無理にでも時間を作って早々に確保しておくべきだったのだ。そう悔やんでも時間が巻き戻ることはなく。
    仕方なく街をぶらつきながら代わりに彼女に差し出せるようなものはないかと見回ってはみたが、なんとなく逃した魚に比べて見劣りするような気がして──気がつけば同じ場所を行ったり来たりしていた。



    「だからさ、大事なのは気持ちなんだよ!」

    聞き覚えのある声に顔を上げると、ルドルフをよく慕い、そして彼女になんとなく雰囲気が似ている──といってもだいぶ子供っぽいが──ウマ娘、トウカイテイオーが何やら店の前で話し込んでいた。その相手はマヤノトップガン。確か彼女のルームメイトだ。

    「そうかなあ~?マヤはやっぱりトレーナーちゃんにはいいモノをプレゼントしたいけど。その方がオトナっぽいし」
     彼女らが出てきたのは件の雑貨屋の前。どうやら誰かへのプレゼントを買いに来たらしい。
    「トレーナーはさ。カブトムシとかジュースとか、ボクが何かあげるとすっごい喜んでくれるんだ!"テイオーが俺のために何かを用意してくれたっていう気持ちが嬉しい"って。だからさ、大事なのはやっぱり喜んでもらいたいって気持ちなんだよ」
    「へえ~、なんかカッコいい……!じゃあじゃあ、マヤも気持ちを込めて選んじゃお!」
    「そうそう!にしし、だから今年のサンタも節約志向なのだ~!プレゼント買ったらさ、門限までもうちょっと遊ぼっか!」
    「アイ・コピー♪」
    きゃあきゃあ、と黄色い声を上げながら天才肌の中等部2人は店に入っていった。
    嵐のような彼女たちだったが、おかげで気づいたこともあった。

    そうか、気持ちか。価値のあるものを選ぼうとするあまり、基本的なことが頭から抜け落ちていたかもしれない。プレゼント候補、もう1度考えてみようか。
    来た道を引き返して、やがて俺の足はある店の前で止まった。さっきまで見向きもしなかった店だった。

  • 3二次元好きの匿名さん22/12/24(土) 00:04:42

    「ただいま、ルドルフ。遅くなってすまなかった」
    「いや、気にすることはないさ。私の方も今しがた……おや」

    結局、トレーナー室に帰ってきたのは門限も近い頃になってしまった。
    椅子に座って何やら作業をしていたルドルフは、俺の顔と腕の中のものを見て優しく微笑んだ。

    「これ……大したものじゃないけど、君に」
    「百合の花──カサブランカ、の造花か」

    確認するような言葉に頷きを返す。プレゼントとして選んだのは、枯れることのない造花だった。
    百合の花の花言葉は純粋、無垢、そして威厳。永遠なる皇帝に相応しい──あるいはそうあって欲しいという思いを込めて選んだものだと説明すると、ルドルフは口元を押さえて俯いた。

    「阿衡之佐とでもいうべきだろうか。トレーナー君、まったく君は……」
    「嫌だったか?」
    「まさか。ただ少々予想外だったもので……いや、むしろまったくもってトレーナー君らしい選択だな。君の純粋な気持ちが伝わってきて────うん、今まで受け取った贈り物の中で一番嬉しく思うよ」
    「そうか……」

     喜んでくれてよかった、と内心胸を撫で下ろす。

  • 4二次元好きの匿名さん22/12/24(土) 00:04:55

    「では、私からもそれに見合うような礼をしなければならないな」
    「ん?」
    「先月から日々の合間を縫って、なんとか間に合わせることができたんだ。流石に市販のものには及ばないかもしれないが、なかなかの出来だと自負している」

    そう言ってルドルフは、机の上の真新しいマフラーを手に取った。その横には毛糸の束や編み棒が並んでいて、本当に今しがた完成したばかりであることが窺える。どうやら手作りのようだが、いつの間に用意していたのだろうか。

    「ありがとう。……でも、最近忙しかったし、かなり無理をしてくれたんじゃないか?なんだか申し訳ないな」
    「心配無用、気にすることはないさ。大切な相手への贈り物を手ずから用意するというのは実に得難い経験だった。──それに、今のように君の嬉しそうな顔が見られるのなら、多少の苦労など惜しくもない」
    「ならよかった」

    生徒会長、そしてトゥインクル・シリーズの主役の2つの顔を持つ彼女にとって、自由な時間というのは本当に貴重なものだ。それを俺のために割いてくれたというのは申し訳なくもあり、それ以上に嬉しくもある。

    「よかったら巻いてくれないか、ルドルフ。帰ってきたばかりで寒くてさ、そのマフラー、とても暖かそうだ」
    「もちろん」

    頼んでくるのを待っていたのだろうか、ルドルフはそう言うやいなや手早く贈り物を俺の首に掛けた。
    緑、赤、白。クリスマスの季節を彩るに相応しい、そしてシンボリ家──彼女自身をも表す3つの色が隙間なく巻かれていく。

    「うん……やはり君にはこの色がよく似合う」
    「大事にするよ」

    マフラーを巻き終えると結び目を満足げにポン、と叩いて、ルドルフは上目遣いに微笑む。

    「メリークリスマス、トレーナー君」
    「ああ。メリークリスマス、シンボリルドルフ」

    窓の外を見ると、雪がちらつきはじめていた。
    これからトレーナー寮へと戻る道のりは、いつもと違って随分と短く感じるに違いない。

  • 5B.B.E22/12/24(土) 00:05:55

    オワリ。メリークリスエス
    今年もロンリーですがルドルフみたいな子と過ごしたかったよねって話です。

  • 6二次元好きの匿名さん22/12/24(土) 00:08:45

    サムネみてどんなトンチキSSが出てくるかと思ったら、凄く素敵なSSだった……

  • 7二次元好きの匿名さん22/12/24(土) 00:10:24

    良かった

  • 8二次元好きの匿名さん22/12/24(土) 00:19:40

    うぉっ良いSS…

    サムネ?それはまぁはい…

  • 9二次元好きの匿名さん22/12/24(土) 00:36:12

    逆タイトル詐欺…!
    これは皇帝が手放さないのも納得ですな。

  • 10二次元好きの匿名さん22/12/24(土) 00:56:15

    しかし何度見てもコラにしか見てないサムネ

  • 11二次元好きの匿名さん22/12/24(土) 00:58:14

    トンチキSSじゃなかった!だまされた!ありがとう!

  • 12二次元好きの匿名さん22/12/24(土) 12:30:45

    乙乙!読みやすいし良いSSでした

    サムネとスレタイ見たときはツリールドルフがそのままの姿で
    いろんなウマ娘のお困りを助けるギャグSSとかかと思っていたわ

  • 13二次元好きの匿名さん22/12/24(土) 12:38:19

    いつトンチキSSが来るかと思ったけど良SSだった!

オススメ

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