【SS】冷たくて甘い

  • 1二次元好きの匿名さん22/12/24(土) 23:12:33

    ホワイトクリスマス、という単語を聞けば誰しもロマンティックな情景を思い浮かべるだろうけど、現実はそこまで甘くはなかった。
    クリスマス寒波なるものが襲来し、例年雪とはあまり縁のない学園周辺も一面真っ白に覆われてしまった。
    交通網が麻痺したり、転んで怪我をする学園生が多発したり……甘い香りの入れ込む隙もない有様だ。
    暖房の通っていない校舎の廊下は外気温とさして変わらない冷え込みで僕を迎え入れる。厚着の上から腕を擦り、早足で目的地へ急ぐ。

    「どすこ〜い!」

    気合いの入った掛け声が中庭内に響いていた。
    未だ視界を狭めるほど雪の降りしきる中でも、僕の担当ウマ娘ヒシアケボノは変わらず元気いっぱいだった。

  • 2二次元好きの匿名さん22/12/24(土) 23:13:00

    『あたしね、明日雪かきのお手伝いするんだ〜。危ないからトレーナーさんは来てもいいけど見るだけにしておいてね?』

    そう言われて様子を見に来たのだが、用務員さんに混ざって作業しているアケボノの様子はどう見ても雪かきのそれではない。
    180cm以上ある彼女の背丈以上の雪玉を、庭の中でぐるぐる転がし回っている。しかも雪玉は2つある。片手でそれぞれの雪玉を押し転がしているのだ。
    重さ数百キロはありそうなものだが、アケボノは重さを感じさせないくらい自由自在に向きを操っていた。

    「あっ、トレーナーさーん!」

    僕の存在に気づいたアケボノは、雪玉を置いて大きく手を振り駆け寄ってきた。
    学園指定のコートにマフラーと手袋。防寒はしているものの頬はりんごのように真っ赤に染まり、体からはもくもくと湯気が立ち上っている。

    「おつかれさま。アケボノは暖かそうだね」

    「練習の時と同じくらい、もしかしたらそれよりもいっぱい動いたからね〜♪お庭もこんなに綺麗になったよ!」

    雪玉に目を取られて気づかなかったが、振り積もった雪は明らかにかさを減らしていた。地面の境もきちんと視認できる。
    どうやら、アケボノは雪かきをさぼっていた訳ではないようだ。

  • 3二次元好きの匿名さん22/12/24(土) 23:13:26

    「あの雪玉はもしかして……?」

    「気づいちゃった?今から完成させるからそこで見ててね☆」

    そう言い残して雪玉の元へ走り寄る。若干小さめ(それでも巨大ではあるのだが)の雪玉をいとも簡単に頭上に抱え上げ、もうひとつの雪玉の上へ乗せた。
    ズシン、と鈍く響いた音の後には、立派な雪だるまが完成していた。
    それを見届けた後、用務員の方々は脚立や諸々の道具を持って雪だるまの下へ集まってくる。

    「もう近くで来て見てもいいよ〜!」

    雪上をゆっくりと踏み締め、巨大雪だるまに近づいてみた。見たこともない大きさ、怪獣みたいに今にも動き出しそうだ。

    「圧が、すごいね……!」

    「最初はね?これを作る予定はなかったんだけど――」

    飾り付けの作業が進む中、隣りに立ったアケボノが説明してくれた。

    「雪かきをしても、どけた雪が山になって邪魔になっちゃうでしょ?雪を一箇所に集めるなら、おっきな雪だるまを作ってみんなに楽しんで見て貰いたいなって思ったんだ〜♪」

  • 4二次元好きの匿名さん22/12/24(土) 23:14:00

    アケボノらしい、ビッグで優しい発想だ。まだ雪がやまないとはいえ、少しでも学園に来る人の癒しになってくれればと僕も願わずにはいられない。
    改めて中庭を見渡す。除雪の手が及んでいない場所に比べると一目瞭然だ。雪玉もあれほどの大きさに育つ訳だ――おや。
    花壇の向こう側に、ちょこんと白い頭が覗いている。目の前の巨大なそれとは対照的だが、あれもきっと……?
    花壇近くまで足を進めると、後ろから呼び止める声がした。

    「あっ!トレーナーさん!?それは見ちゃ――」

    アケボノの制止は僅かに遅く、僕はそれを見つけてしまった。

    「えっごめん!?でも……これも雪だるま、だよね?」

    そこには僕の予想通り、確かに雪だるまがあった。今ちょうど飾りつけされているものみたいに高くはなく、数十センチ程の誰でも作れる大きさだ。
    それが3体、それぞれ大きさの少し違う雪だるまが大・小・中の横並びでちょこんと座り込んでいる。

    「あはは〜……別に隠してたつもりはなかったんだけど、急に恥ずかしくなっちゃって」

    追いかけてきたアケボノが雪だるまの前にしゃがみこんでそう語った。
    恥ずかしい……?そう言われよく見ると、大きな雪だるまにはウマ娘の耳がついている。ツインテールのような髪型のこれは……。

  • 5二次元好きの匿名さん22/12/24(土) 23:14:38

    「もしかして、アケボノ?」

    「そうだよ〜。ささっと作ってみたんだけどどうかな……似てる?」

    「うん、きちんとアケボノに似てかわいいよ」

    「ほんと?それなら嬉しいな♪実はね、こっちはトレーナーさんなんだよ!」

    不安そうな表情は消え去り、ご機嫌になったアケボノは中くらいの雪だるまを指さした。
    これが、僕?言われてみると似ている気がしないでもないような……?ともかく顔立ちがよく作ってあって、今度はこっちが恥ずかしくなってくる。

    「す、少しイケメンすぎじゃない?」

    「そんなことないよ!トレーナーさんはその……いつもカッコイイよ!ご飯食べてくれる時の顔がね――」

    アケボノには申し訳ないけど、これ以上熱を持って語るのはストップして欲しい。用務員さん達も見ていることだし……。
    何とか話を逸らそうとして、残り1つの雪だるまが目についた。
    ひとつはアケボノで、もう1つは僕。それならこれは一体誰なのだろう?

    「そ、それよりさ……この小さくてかわいい雪だるまは誰なのかな?」

  • 6二次元好きの匿名さん22/12/24(土) 23:15:04

    アケボノははっと目を丸くして、饒舌だった口を閉じた。目がきょろきょろとあっちこっちへ揺れる。
    そして最後に、困ったように笑った。

    「えっと、えっとね……ないしょ♪」

    「……」

    どうして――と聞き返そうとして、喉がつっかえる。その顔を見ていたら何故だろうか、理由は分からないけど……そっとしておこうと思ってしまった。

    「でもね?」

    その笑みから緊張の色が抜ける。

    「トレーナーさんが今年も、また来年もその次も……クリスマスを一緒に過ごしてくれたら、教えたげるね♪」

    それは、以前のクリスマスに結んだ約束。あの時は確か、返事を口にし損ねたんだったっけ。

  • 7二次元好きの匿名さん22/12/24(土) 23:15:24

    「……それじゃあ、早く買い物に行かないとね」

    「……え?」

    「今夜はご馳走を振舞ってくれるんだよね?雪で買い出し行けてないって話じゃなかったっけ?」

    「……トレーナーさん」

    「アケボノが毎年作ってくれる料理も、いつかは手伝いできるようになりたいし」

    ぱぁっと、アケボノの目が丸くなって満面の笑顔が広がる。

    「うん!早く行こう!」

    グイッと腕が引っ張られる。身体が重力を失って、気づけばアケボノの腕に巻かれていた。

    「去年よりもっとボーノなディナー作っちゃうから、楽しみにしててね☆」

    生暖かい視線を向けてくる用務員さんに腕の中から会釈を返し、その場を後にする。
    なんだか情けないかも……けれど、これでいいんだと思う。
    鼻歌まじりの微笑みを眺めながら、気持ちは既に聖夜のディナーパーティーへと向いていた。

    さて、今年はどんな絶品にありつけるのだろう?

  • 8二次元好きの匿名さん22/12/24(土) 23:17:07
  • 9二次元好きの匿名さん22/12/24(土) 23:18:16

    ボーノかわいい!好き!ありがとう!

  • 10二次元好きの匿名さん22/12/25(日) 00:29:04

    冬だから心が温まるものを読みたくなる、そんな需要を的確に満たしてくれる

  • 11二次元好きの匿名さん22/12/25(日) 00:49:32

    乙乙!これは心ほっこりする良SS
    よーし気ぶって早めのお赤飯炊いちゃうぞー!

  • 12二次元好きの匿名さん22/12/25(日) 10:33:45

    いじらしボノかわいいわ
    甘々過ぎて虫歯になりそう、読めるスイーツ

  • 13二次元好きの匿名さん22/12/25(日) 15:00:17

    トレーナーちょっと鈍すぎんよ~
    だがそこがいい

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