- 1二次元好きの匿名さん22/12/25(日) 02:09:30
- 2二次元好きの匿名さん22/12/25(日) 02:10:39
ほぼ0%
それがトリスメギストスが算出した、ストームボーダーが無事に今回の異聞帯を突破できる可能性だった。
それはつまり、カルデアがたとえ勝利しよと。
キャプテン・ネモと言うサーヴァントは、消える。
あの子と交わした夏の約束も、見えない世界の大きな流れの前には意味をなさないらしい。
その算出結果を、シオンの口から聞かされた時、僕が思ったことは、ただ一つだった。
あの子(イリヤ)に、逢いたい。
でも、会うわけには行かない。
あの子に、余計な疵を作ってしまうから。
優しいあの子に、余計な悲しみを背負わせてしまうから。
こうなる可能性がある事は、予想できていたはずなのに。
なぜ僕は、あの日、あんな約束をしてしまったのか。
クリスマスイブのこの日、夜が更けていくとともに、そんな事ばかり頭に浮かぶ。
からん。そうわざとらしく音を立てて。
飲めもしない酒に口をつけて、一口でその苦さにえずいてグラスを置く。
決戦前夜に何をやっているんだ、僕は。
そう思った、その時だった。
こんこん、と。
船長室のドアがノックされた。
瞬間、ある予感があった。
決して当たっては欲しくはない予感だったが、拒絶する事もできず。
どうぞ、と短く応えると同時に電子ロックが解除されて。
「メリークリスマス、ネモくん」
そこには、少しはにかんだ表情で、好きな女の子がいた。 - 3二次元好きの匿名さん22/12/25(日) 02:10:45
何か始まった!?(歓喜)
- 4二次元好きの匿名さん22/12/25(日) 02:15:09
何となく、予感があった。
だから、マスターさんやゴルドルフ所長さんに少し無理なお願いをして。
私は、彼の部屋の前に来ていた。
美遊も、今日はアッサリと認めてくれて。
クロと、笑顔の練習に付き合ってくれた。
彼が泣かずに必死にみんなのために頑張ってくれているなら。
なら、私が泣くわけにはいかないから。
重い脚を必死にせかせかと動かして。
彼の部屋の前へと辿り着く。
心臓がバクバク言っていた。
彼を好きになった、あの夏に戻ったみたいだった。
コンコン、とドアを叩く。
少し掠れた声で、「どうぞ」って返事が返ってくる。
一度深く深呼吸をした後、扉が開いた。
殆ど同時に、きゅっ、と胸が締め付けられる。
ずき、と疼くような痛みも奔った。
でも、それでも何とか、暗くならない様声を絞り出す。
「メリークリスマス、ネモくん」
開いた扉の先には、好きになった男の子がいた。 - 5二次元好きの匿名さん22/12/25(日) 02:19:01
このレスは削除されています
- 6二次元好きの匿名さん22/12/25(日) 02:20:03
「……どうしたの?わざわざ僕の部屋まで」
メリークリスマスという、彼女の呼びかけに応える事はできなかった。
ただ、何でもない風に装って、彼女を出迎える。
声が震えていなかった自分を、褒めてやりたかった。
最初さえクリアできれば、もう大丈夫。
「理由が無いと、来ちゃダメだった?ただ、何となく会いたいなって思ったと言うか…クリスマスだし、えへへ」
……この様子だと、彼女ももう何かを感じ取っているらしい。
でも、何処まで分かっているかは感じ取れなかった。
「とんでもない。僕も今日は…キミに会いたかったんだ。イシダイの様に忙しかったから諦めてたけど」
茶番だった。欺瞞だった。
崩れるのが分かってる崖の上で、崩れるまで出来の悪いダンスを踊っている気分だった。
破綻は目に見えているのに、そこから目を背けて。
飲み物でも入れるよ、と席を立つ。
そんな僕の嘘を、彼女は許さなかった。
「ネモくん。明日、なんだってね」
飲み物を入れ終わった、僕の背中に向けて。
彼女は、イリヤ・スフィール・フォン・アインツベルンは、そう言った。 - 7二次元好きの匿名さん22/12/25(日) 02:24:31
私には昔、聖杯と言う願いを叶える力があったらしい。
あったらしい、と言うのはそれを知った時にはもう、クロにその力を分けちゃってたからだけど。
でも、もし。そんな力が私にまだほんの僅かにでも残っているなら。
私は、ネモくんの願いを聞きたかった。
もう時間は殆どなくて。
優しいネモ君を困らせてしまうかもしれないのは分かっていたけど。
私なんかじゃもうどうにもならない事なのかもしれないけど。
それでも、聞きたかった。
今のネモくんの顔は。
願いを押し殺して消えようとしていたクロと同じ顔をしていたから。
ネモくんが自分の思いを押し殺したまま消えてしまうのは。
それだけは嫌だったから。
それに、今日はクリスマスの夜だ。
何かを願っても、許される夜だ。
だから私は、静かにネモくんの背中に立って。
彼を抱きしめて、そして言った。
「私はネモくんが好き。
……だから、今のネモくんの願いが聞きたいんだ」 - 8二次元好きの匿名さん22/12/25(日) 02:34:20
…あの夏の日からずっとそうだ。
本当に敵わない。
今を生きる彼女は、サーヴァントである僕の想像なんて軽く超えてしまう。
これは、彼女に言うべきでは無い。
それは分かっていたけど。
もう、海底火山の噴火の様に、溢れて止まらなかった。
「………僕は…生きたい。
……っ!…消えたく、ない………!」
さっきまで何とか保っていた去勢は消え失せて。
声は、情けないほど震えていた。
一言口に出してしまえば、抑えることなんてできなかった。
「マスターと、シオンと、ダヴィンチと、みんなと…!そして、キミと……これからも……一緒に……!!」
何があっても必ずキミの元に生きて帰ると言いたかった。
また来年の夏も2人で過ごそうと言いたかった。
でも僕は、万難を排せる本物の英雄じゃない。
幻霊を継ぎ接ぎして生まれた、おかしなサーヴァントだ。
言えばきっと、嘘になってしまう。
だから、言えなかった。
そして、それよりも情けないことが。
僕のことはどうか忘れて欲しいとも言えなかった。
彼女に忘れられることは、今の僕にとってどうしても受け入れられない結末だったから。
心配するな、とも。
僕の事は忘れてほしい、とも言えず。
どうしようもなく弱くて醜い自分が嫌になる。
幻滅されても仕方ないだろう。
でも、
「うん………話してくれて、ありがとう。それでね、いきなり何を言うんだって思うかもしれないけど…私、欲しいクリスマスプレゼントがあるの」
彼女は、そんな僕にも…変わる事なく優しかった。 - 9二次元好きの匿名さん22/12/25(日) 02:36:16
- 10二次元好きの匿名さん22/12/25(日) 02:42:26
「……っ!……そう、だね。
それは、とても素晴らしい未来だ…本当に。
奇跡みたいに」
ネモくんが身体を翻して、私に向かって向き直る。
私はそれに合わせて腕の力を緩めて、彼と向き合う。見つめた先には、少しはにかんだネモくんがいた。さっきまでの願いを押し殺した顔じゃなくて。
不器用でも、笑った顔でいてくれた。
だから私も、笑って言える。
「奇跡は起きるよ……クリスマスだもん」
それを言うと、ネモくんはまた笑った。
さっきよりも、明るい笑い方で安心した。
だから私はもう一度。
さっきは応えてもらえなかった言葉を、
もう一度彼に届ける。
「メリークリスマス、ネモくん」
そういうと、ネモくんは目を丸くして。
でも今度は優しく微笑んで。
「……あぁ、メリークリスマス。イリヤ」
そう言ってくれた。すごく嬉しかった。
でも、今夜の私は欲張りだ。
これだけでは、満足できない。だから、もう一つ。
ネモくんからクリスマスプレゼントを貰うことにした。
心臓がまたバクバク言い始めるけど、無視する。
ルビー、私に勇気を貸して。
彼の肩を掴み、少し背伸びをする。
顔を近づけ、そして。
「──好きだよ、ネモくん」
「……うん、僕もだ。イリヤ」
明日何が待ち受けていたとしても。
この一瞬は決して変わることがない様に。
私達はただそれだけを願って、そっと唇を重ねた。 - 11二次元好きの匿名さん22/12/25(日) 02:44:08
以上です。これでキャプテンが無事に新年を迎えたら笑ってください。
- 12二次元好きの匿名さん22/12/25(日) 02:45:01
ありがとう
- 13二次元好きの匿名さん22/12/25(日) 02:45:04
>>1の上のスレ主だけどここまでの物になるとは……
- 14二次元好きの匿名さん22/12/25(日) 02:49:29
7章が明日に迫り動悸が抑えられず殆ど単発で組み上げたネタなのでネモとイリヤのSSや幻覚があれば自由に落としてください
- 15二次元好きの匿名さん22/12/25(日) 09:52:27
やりたい事全部やられてしまったせいで落とすものが無くなってしまった
- 16二次元好きの匿名さん22/12/25(日) 10:09:42
甘くて切ないSSだった
- 17二次元好きの匿名さん22/12/25(日) 13:08:48
笑わないので生き残ったキャプテンとイリヤのイチャラブを書いて欲しい…
- 18二次元好きの匿名さん22/12/25(日) 13:19:20
生き残ったら果たしてその後キスだけで済むんですかねぇ
- 19二次元好きの匿名さん22/12/25(日) 21:29:16
トリスメギストスの演算は外れる、かも
- 20二次元好きの匿名さん22/12/26(月) 03:44:50
素晴らしい幻覚だ。
- 21二次元好きの匿名さん22/12/26(月) 13:42:17
イリヤ×マリーン君で書く必要が出てきたかもしれませんね…
- 22二次元好きの匿名さん22/12/26(月) 19:23:42
ぜ、前編クリアまでスレが残っていれば…
- 23二次元好きの匿名さん22/12/27(火) 01:29:37
保守
- 24二次元好きの匿名さん22/12/27(火) 12:43:25
保守
- 25二次元好きの匿名さん22/12/27(火) 20:53:49
ほ
- 26二次元好きの匿名さん22/12/28(水) 02:43:44
保守
- 27二次元好きの匿名さん22/12/28(水) 13:50:54
ほ
- 28二次元好きの匿名さん22/12/29(木) 01:12:18
スレ主さんのやる気を信じて…
- 29二次元好きの匿名さん22/12/29(木) 01:13:20
- 30>>2822/12/29(木) 01:14:30
- 31二次元好きの匿名さん22/12/29(木) 12:21:23
保守
- 32二次元好きの匿名さん22/12/29(木) 18:54:30
保守
- 33二次元好きの匿名さん22/12/29(木) 22:56:21
船長室から出てくるイリヤに会ったのは、偶然だった。
何しろ、マリーンの欠員がもう24人中5名も出てる。泣き虫で弱虫のボクも、夜はあまり休んではいられない。
だから夜の当直に就こうとして──彼女に出会った。
出会ってしまったら、もうダメだった。
月明かりに誘われる人魚みたいに、ボクは彼女に駆け寄った。
薄暗い廊下に立つ彼女は、夜に降る雪みたいに綺麗だった。
「やっほー、イリヤ。こんばんはっ♪」
いつもの、明るいネモ・マリーンとして声をかける。
だけど、やっぱり僕はナースやプロフェッサーや、キャプテンほど頭が良くなかった。
話しかけてみたはいいものの、何を話せばいいのかわからない。
いつもなら、ノリと勢いで何とかなるのに。
その夜だけは、言葉が出て来なかった。
「………あー、えーと、そのー……うわーん!こういう時何話せばいいのかわかんないよー!(涙)」
どうしていいかわからなくて、またべそをかく。
やっぱりダメだなぁ、僕は。
キャプテンから伝えられた、トリスメギストスの演算結果を聞いただけで、足の震えが止まらない。
作戦開始までの僅かに残された時間を思うと泣きたくなる。
でも…そんな僕にも、やっぱりイリヤは優しかった。
優しく慰めて、僕の手を取ってくれた。
イリヤの顔を見ると…すぐ側に迫る怖い事が、遠ざけられたように思えた。 - 34二次元好きの匿名さん22/12/29(木) 22:57:49
「……うん、大丈夫。落ち着いた。マリーン落ち着きました。
……まず、その、さ。ありがと。キャプテンの事、気遣ってくれて。キャプテン、強がりで、弱音を吐くことなんて、ボクと違って滅多にないんだ。」
きっとシオンくらいしか、聞いたことないんじゃないかな。
「だから、君は凄いよ!…これからも、キャプテンを、支えてあげてね。」
キミさえ待っててくれれば、きっとキャプテンは帰ってくるから。
キミはキャプテンだけじゃなくて、
ボクたちネモシリーズ皆が好きだと言ってくれるけど。
やっぱり、キャプテンが1番でないとね。
──そう思ってたら、イリヤがボクの手を握って。
ボクの事をじっと見て、そして言ってくれた。
「私は…マリーン君たちも一緒に帰ってきて欲しい。ネモ君だけじゃなくて、私は……
プロフェッサーさんも、エンジンさんも、ナースさんも、ベーカリーさんも……いつも怖くても頑張ってくれてる、マリーン君も…皆大切だもん!!」
……!!
言葉を聞いて固まっちゃった。
だって、イリヤはマリーン達の中で、ボク1人を見分けていたんだから。
それが嬉しくて、嬉しくて……。
「……あーもう!イリヤは可愛いなー!!僕もイチャイチャちゅっちゅしたーい!!」
キャプテン、ごめん。
キミがイリヤの1番なのは分かってる。
ボクもそれでいいし、それがいい。
でも、今この時だけは。
ボクも少しだけ彼女から勇気を分けてもらう事を、許して欲しい。
「えっ…いいのー!?じゃあえーとえーと!
唇はキャプテンのだから…手、貸して!」
顔を赤くして、こくりとイリヤは頷いてくれた。
そして、ボクは少し考えて、彼女の手を持ち上げる。
綺麗な、白い手だった。
それにそっと顔を近づけて、忠誠を誓う騎士みたいに口付けをした。 - 35二次元好きの匿名さん22/12/29(木) 22:59:20
- 36二次元好きの匿名さん22/12/29(木) 23:01:32
以上です。ネモマリーンの地の文に違和感があるかもしれませんが、どうかお目溢しを…
- 37二次元好きの匿名さん22/12/29(木) 23:04:10
- 38二次元好きの匿名さん22/12/29(木) 23:06:59
- 39>>2822/12/30(金) 01:10:38
- 40二次元好きの匿名さん22/12/30(金) 01:48:04
ありがとうございます。何とか年内にイリヤ側の視点を書いて〆としたいですね
- 41二次元好きの匿名さん22/12/30(金) 12:00:09
保守
- 42二次元好きの匿名さん22/12/30(金) 17:15:21
保守
- 43二次元好きの匿名さん22/12/30(金) 23:56:44
保守
- 44二次元好きの匿名さん22/12/31(土) 11:39:15
保守
- 45二次元好きの匿名さん22/12/31(土) 15:28:37
イリヤって三臨で浮遊するから虎石戦で役に立てるんだよね…
- 46二次元好きの匿名さん22/12/31(土) 19:43:22
ネモ君の部屋を出てから、ずっと唇が熱い。
クロに魔力供給する時には、感じた事がない熱さだった。
唇からじんわりと、ネモくんのぬくもりが身体全体に広がって。
「ネモくんの唇、甘かったな…」
チョコレートみたいに。ラムネみたいに。
ネモ君の唇は暖かくて、甘かった。
初めて好きな男の子にキスをするって、こんな感じなんだ。
そう思いながら、ぼーっと余韻に浸ってしまう。
「やっほー、イリヤ。こんばんはっ♪」
その時、横からかけられるネモくんと同じ、でもネモ君より明るい声にびくっと身体が飛び上がる。
隣を見たら、ネモくんの分身さん…マリーン君がいた。
いつもネモ君が忙しい時に、私の相手をしてくれる元気が良い水兵さん。
でも、今日は様子が違っていた。
いつも浮かべている笑顔は強張っていて、
足は、よく見ると小さく小さく震えていた。
多分、マリーン君も怖いんだろう。
当たり前だ。
私なんかよりずっとずっと危ないところで、マスターさんやネモ君達は戦ってるんだから。
「……大丈夫だよ、マリーン君」
それに気がついた時、私は彼の手を取っていた。
ただ、彼の震えを止めてあげたかった。
……前から、気づいた事がある。
ネモくんは、時々私に嘘をつく。
マリーン君達の性格が、みんな一緒だとか。
もし何かあっても、ネモ君さえ無事なら補充できるだとか。
その嘘は、きっと。
私や、マスターさんを大切だと思ってくれてるから、ついた嘘なんだと思う。
ネモくんは、本当に優しくて強い人だから。
だけど、でも。
「私は…マリーン君たちも一緒に帰ってきて欲しい。ネモ君だけじゃなくて、私は…… プロフェッサーさんも、エンジンさんも、ナースさんも、ベーカリーさんも……いつも怖くても頑張ってくれてる、マリーン君も…皆大切だもん!!」 - 47二次元好きの匿名さん22/12/31(土) 19:44:53
私にとっては、ネモ君だけじゃなくて、マリーン君達も大切に思っていることを伝えたかった。
貴方の代わりなんていないんだよ、って。
マリーン君達もみんな、無事に帰ってきて欲しいんだよって。
ただそれだけを伝えたかった。
「……あーもう!イリヤは可愛いなー!!僕もイチャイチャちゅっちゅしたーい!!」
そう伝えた後のマリーン君は、もういつものマリーン君だった。
元気で明るくて、優しいマリーン4号くん。
ネモくんと同じ、私の、大切なひと。
「えっ…いいのー!?じゃあえーとえーと! 唇はキャプテンのだから…手、貸して!」
…私は、言われるままに手を差し出した。
マリーン君は、私の手をそっと取って。
彼の唇が私の手の甲に触れる。
もう、マリーン君の手は震えてはいなかった。
「えへへ…いただいちゃいましたー!!イリヤ、ありがとー!!」
私の手の甲から唇を離すと、マリーン君はぴょんと飛び退いて。
そして、廊下の奥に駆けていく。
「……ネモ君達が、マスターさんが、みんな無事でありますように」
そうして、私は二つ目のプレゼントを願った。
……きっと、叶うよね。
だって、今日はクリスマスだもん。
「……あれ?」
ふと、ほっぺに何か流れてるのに気づいて指先で掬う。
どうして、私は泣いてるんだろう。 - 48二次元好きの匿名さん22/12/31(土) 19:45:24
以上です。良いお年を
- 49>>2822/12/31(土) 22:32:47
ありがとうございまぁす!!