【SS】モブウマ娘だけどチームトレーナーが泣いちゃった…

  • 1二次元好きの匿名さん22/12/25(日) 22:22:46

    まあ聞いてよ
    うちのチームトレーナーは3年目のまだまだ新人
    今年の春に中堅チームのサブトレーナーから独立した、目指せOPが合言葉の弱小チームを担当してるの
    マジメなだけが取り柄なもんで、うちらみたいな勝てないウマ娘にもなめられちゃって普段の指導にも四苦八苦しているカワイイ奴なワケよ
    この間もチームメイトに「トレーナークリスマスどうすんの? どうせ今年もぼっちなんでしょ?」なんていじられてる始末

  • 2二次元好きの匿名さん22/12/25(日) 22:24:11

    まあそんなゆるい雰囲気のチームやってるウチらに年末大レースの予定なんてあるわけないじゃん?
    そしたら誰かが「クリスマスにぼっちのトレーナー呼び出してみない?」って言いだして
    「そんならトレーナーのためにクリスマスライブでもやったげよーか。うちらで」って話になって、みんなでそれに乗っかったわけよ

    本音を言えば、外寒いし、みんな屋外でトレーニングするより屋内でゆるっとライブの練習がしたかっただけってのもあったんだけど
    秘密にしてるライブの練習のために早上がりしたがるうちらにトレーナーは苦悩に満ちた顔を向けてたけど、まあそれは見て見ぬふり

  • 3二次元好きの匿名さん22/12/25(日) 22:26:46

    そしてついにクリスマス
    大障害の結果に湧き、明日のグランプリに浮かれる夜の学園の中を、トレーナーは一人で歩いてきた
    場所は野外ステージ前。トラックと違って、門限も近くなれば人通りはほぼゼロの寂しい場所
    ここでなにか事件があっても、明日になるまできっと誰も気づかない

    「ちょいちょーい、あいつメチャクチャ緊張してんだけど大丈夫?」と忍び笑いが漏れる

    まあ、最近まともにトレーニングの指示も聞こうとしないウマ娘たちに、夜中突然呼び出されたら指導者はビビるよね
    トレーナーって言ってもただの人間だし、不満のたまったうちらにお礼参りでもされると考えてるのかもしれない。かわいそ

    「こんな時間に呼び出して、どうしたんだ?」

    緊張の面持ちでトレーナーが言う
    うちらはみんな両手をコートに突っ込んでいたので、相当ガラが悪く見えたんだと思う。後ろで誰かがクスクス笑うのが聞こえてきた
    そんなトレーナーのことをもうちょっとからかいたかったけど、風が吹き抜ける屋外は超寒かったのでさっさと用を済ませることにした

  • 4二次元好きの匿名さん22/12/25(日) 22:29:37

    「トレーナー! メリークリスマス!」

    100均で買ったクラッカーが手の中で安っぽい音を立てた。
    それを合図に、うちらは冬服のコートを脱ぎ捨てて屋外ステージに駆けあがる

    門限も間近な時間にステージ使用許可なんておりるわけないから、ライトアップなんてできるわけないし、音響設備も使えない
    うちらは暗闇の中、音量を最大にしたスマホから流れる音楽に合わせ、制服のまま踊り狂う

    観客は一人だけ、盛り上がりもクソもない
    月明りだけが照らすステージはもー寒いのなんの。白い息を吐きながら踊りきってやったわけよ

    「トレーナー、今年もありがとー! 私たちからのクリスマスプレゼントだよー!」
    「うー寒っ……ちょっと早いけど来年もよろしく……」
    「来年はちゃんとウイニングライブ踊れるようにしてよね」

    思い思いに好き勝手なことを言いながら、安っぽいクラッカーの中身を肩にひっかけたまま棒立ちになっているトレーナーに近づく
    そしてうちらは異変に気付いた

    トレーナーが、泣いてる
    寒さに白い息を吐きながら、目をまん丸に見開いてボロボロと涙を流している

  • 5二次元好きの匿名さん22/12/25(日) 22:31:52

    これはいいスレタイ詐欺
    青春ですなぁ・・・

  • 6二次元好きの匿名さん22/12/25(日) 22:33:53

    ――え?なんで?

    予想外の光景に、うちらは完全に固まった
    怒られるならまだわかる。なぜならうちらの歌とダンスは割と完璧だった
    ここ最近のトレーニングをサボり気味だった理由は明白だ
    現にうちらも「これ絶対怒られるよねー」なんて笑いながら練習してたんだけど……

    「………………っ!!!」

    トレーナーが小声でなんか言ってる。
    うちらはトレーナーの、絞り出すような声に耳をすませた

    そしたらさー、なんかトレーナー「勝たせてやれなくて、ごめん」とか言ってんの

    空気重っ、てなったね
    みんなで顔見合わせてどうすんのこれ?みたいな

    私たちはクリスマスを楽しく過ごしたくて、トレーナーに怒られるのもそんな楽しみの一つのはずだったのに
    クソマジメなこいつは、どうやらうちらのサプライズライブを
    「もっと勝ちたい、もっとウイニングライブを踊りたいんだ!」と言っているのだと解釈したらしい
    そんでうちらの才能とかトレーニングに対する舐めた態度を責めるんじゃなくて、自分の指導力不足を嘆いている……っぽかった……

  • 7二次元好きの匿名さん22/12/25(日) 22:37:32

    「あ、あの……トレーナー? そんなに思いつめないで……ほ、ほら! せっかくのクリスマスなんだし!」
    「そ、そーそー! 盛りあがっていこー! うちらのゲリラライブどうだった!? かわいかったでしょ? よかったねー!」
    「な、なんならこれからうちらのクリパ来る? おかしもいっぱいあるよ! ほら、一緒にいこ?」

    「……すまない……すまないっ……!」

    うちらが何を言っても、ギャンブルに負けた漫画のキャラクターみたいにボロボロと涙を流し続けるトレーナー
    アホか!
    せっかくのクリスマスなのに、空気読まないで一人だけマジになってくれちゃってさー
    これじゃうちらが悪いことしてるみたいじゃん!
    うちらの成績がパッとしないのはおめーのせいじゃねーから!

    とうとう地面にへたり込んでしまったトレーナーをみんなでなだめ、半ば無理やり引きずり上げてトレーナー寮まで送り届ける
    クリスマスに顔を泣きはらした成人男性を寮まで連行する制服ウマ娘達の姿は、周りからどう映っただろう
    ちょっと考えたくはない。あの時は本当に恥ずかしかったし反省もした。そしてすれ違うデート中と思しきトレウマ達に初めて殺意を覚えた

  • 8二次元好きの匿名さん22/12/25(日) 22:39:02

    『そしてすれ違うデート中と思しきトレウマ達に初めて殺意を覚えた』
    シンプルに草

  • 9二次元好きの匿名さん22/12/25(日) 22:42:05

    素敵な性春モノだと思ってたら心が痛いんだが

  • 10二次元好きの匿名さん22/12/25(日) 22:43:32

    >>9

    ひょっとしたらこのままこの子達が必死に勝利を掴むための王道青春ストーリーが始まるかもしれない

  • 11二次元好きの匿名さん22/12/25(日) 22:44:07

    モブウマ娘のSSは何故こんなにも心にくるのか

  • 12二次元好きの匿名さん22/12/25(日) 22:48:11

    クリスマスカラーの勝負服となると、ラフィアンとかミルファームとか
    ミルファームから初のOPの舞台に上り詰めたのは
    12月中山のターコイズステークスを勝利した後のビリギャル、ミナレット

  • 13二次元好きの匿名さん22/12/25(日) 22:48:44

    ――まあ、きっかけはそんな感じ
    それからうちらは本気で走るようになった
    さすがにトレーナーがかわいそうになったのもあるし、あそこまで本気でうちらの事を考えてくれてる人をないがしろにするのはウマ娘としてどうかと思ったのだ

    中央トレセン学園に入学した子は、ごく一部を除いて誰しも壁にぶちあたる
    そして思い詰めてハードトレーニングに励むか、ほどほどに努力するエンジョイ勢に分かれていく
    うちらは断然後者だったんだけど、みんなで話し合ってトレーナーの言うことをちゃんと聞くことに決めた

    まともにやったら絶対に勝てないレースでも手を抜くことはしなくなったし、普段のトレーニングにも全力を尽くした
    春が過ぎ、夏が過ぎ、条件戦が精々だったチームの成績も、今ではOP戦で勝ち負けを争うまでになっていた
    そしてさらに1年。未だ勝ちはないものの、チームの中では重賞の掲示板に乗る奴すら出始めた
    いやーホント……驚きだよね
    ウマ娘と人との絆なんて与太話だと笑ってたのに、うちらは今それを信じちゃってる
    ちょろいなー、うちら

    「……ふー」

    深呼吸をし、精神を集中させる
    年末のグランプリ控室は冬であることが嘘みたいに熱気に満ちていた

    「緊張してるか?」
    「……当然でしょ」

    だって、グランプリよ。そこら中G1ウマ娘であふれかえってるじゃん
    手に持ったシューズを色紙に持ちかえて挨拶周りしたいくらいよ

  • 14二次元好きの匿名さん22/12/25(日) 22:49:45

    ネットワークエラー出て投稿遅れてすんません
    もうちょっとで終わります

  • 15二次元好きの匿名さん22/12/25(日) 22:53:52

    「大丈夫だ、俺たちは強い」
    「気楽でいいですね、トレーナーは。この中で重賞勝ってないのなんて私くらいよ? 晒し者も同然じゃない」

    そう、私みたいなのがこのレースに出られるだけでも奇跡的な状況だった
    先ほど言った通り、私は重賞に勝ったことはなかった
    どんなに努力しても生まれ持った才能の壁は厚く高く、重賞レベルになるとどうしても勝ちきることができなかった

    それでも世間は今年指折りの善戦マンだった私に好意的だった
    人気ウマ娘の辞退が何件かあったとはいえ、まさか私がグランプリに選ばれるなんて……嬉しいよりも場違いすぎて吐きそうになる

    当然、人気は下から数えた方が早い
    名だたる名バが揃う中、どうして私が最低人気じゃないのか不思議なくらいだ

    「勝機はある、自信もっていこう」
    「はいはい、わかってるって」

    それでもトレーナーは、私が勝つと信じて疑っていないようだった
    どういう神経をしているのだろうか、コイツは
    出会ったころからずっとそう。トレーナーはうちら以上にうちらの事を信じていた
    だからうちらもがんばってこれた

    控室を出て、ゲートへと向かう
    耳に届くチームメイトの荒い声援に軽く手をあげてこたえる

    ――大丈夫、わかってるから
    走る距離は違っても、うちらチームの心は一つ

    見てなさいよ、トレーナー
    今年のクリスマスも、絶対泣かせてやるからね!

  • 16二次元好きの匿名さん22/12/25(日) 22:55:40

    以上、新曲にインスピレーションをもらって書きました!
    お目汚し失礼しました!

  • 17二次元好きの匿名さん22/12/25(日) 22:57:37

    素晴らしいモブウマ娘SSだ…
    休みの終わりに良いもの見れました。ありがとうございます

  • 18二次元好きの匿名さん22/12/25(日) 22:58:32

    いいところで終わっている!?
    これはこれで未来に思いをはせることができる事ができるからアリか、こ奴やりおる

  • 19二次元好きの匿名さん22/12/25(日) 23:40:00

    未来は無限に広がってるからな。

  • 20二次元好きの匿名さん22/12/25(日) 23:51:59

    よかった

  • 21二次元好きの匿名さん22/12/26(月) 00:39:38

    すごくよかった
    モブとはいうけど彼女たちだってそれぞれ自分のストーリーの主人公なんだよね

  • 22二次元好きの匿名さん22/12/26(月) 00:44:26

    めっちゃいい。いつかモブウマ育成してネームドに挑むとかできるようになるといいなってこのSS見て思った

オススメ

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