(SS注意)ヤマニンゼファーの新婚生活概念

  • 1二次元好きの匿名さん22/12/26(月) 00:30:36

     晨風に乗っただるまさんの声で、私は目を覚ましました。
     隣で未だに寝息を立ててる“彼”の寝顔に頬を緩ませながら、私は布団からでます。
     窓を開ければ晴天、身に受けるは小春風、今日は過ごしやすい一日になりそうです。

    「起きてください、今日も朝戸風が心地良いですよ……きゃっ」

     彼を起こそうと布団をめくると、私は抱きしめられる形で布団に引きずり込まれます。
     息吹が直接届きそうなほど近い距離に見える彼の顔が、徐々に覚醒し始めます。

    「ふふっ、おはようございます。朝はねぼすけさんですね?」

     彼は、ごめん悪風だった、と離れようとしますが服を掴んで阻止します。
     不思議そうに私を見る彼に微風を送るように優しく呟きました。

    「今日はトレーナーさんも風凪ですから……少しだけこのまま和風に巻かれませんか?」

     彼は困ったように頷きながら、その呼び方は少し異風かなと言います。
     なるほど、私たちはもうウマ娘とトレーナーではなく、夫婦の関係。
     いつまでもトレーナーさんという呼び方では冬に日方でしょう。

    「それでは、どんな呼び方がお好みでしょうか?」

     キミの風の向くままで構わないよと彼は答えます。
     こういうところは彼の好風なところではありますが、今は少しだけあなじです。
     ですが、ここはあえて帆風に乗らせていただきましょう。

    「ではお互いに緑風と感じられるまで、色々と試してみましょう」

     私は彼の耳元で小さく、優しく、ゆっくりと呟きます。
     ――――あなた、と。

  • 2二次元好きの匿名さん22/12/26(月) 00:30:53

    「先日、珍しくフウセイが売っていたので、塩焼きにしてみました」

     テーブルの上には焼き魚以外にボウフウのおひたし、具沢山の沖縄風味噌汁などが並びます。
     貰い物のトルネードポテトなどもありますが、朝から出すものではありませんね。
     豊穣の風に感謝しながら、二人で声を揃えて所持の挨拶をします。

    「あっ、少しだけ待っていただいても良いですか?」

     私は魚の身を一口サイズで切り分けると、箸で持ち上げました。
     作法としてみれば陰風ですが、夫婦となったら必ずやってみたいことがあったのです。

    「はい、あなた……あーん♪」

     彼は一瞬だけ固まりますが、やがて素直に、箸に口を向けます。
     ふふっ、物言えば秋の風となりそうですが、まんまるさんの餌やりみたいで可愛らしいです。
     しばらく繰り返すと、今度は彼が箸を私に向けて、お返しの饗の風だよと言いました。
     私だけ断るわけにもいきません、同じように私も、彼の箸に口をつけました。

    「んっ……とても恥ずかしいですけど、同じくらいに光風……ぽやぽやみなみです……」

     私たちは普段の数倍の時間をかけて朝食を食べ終えます。
     しばらくの間、恵風した後、私は彼に提案をしました。

    「あなた、これから少しだけ風待ちにでも出かけませんか?」

     彼は爽籟に頷くと、少しだけ長風となってディナーまで済ませようかと言います。
     私が好みそうなお店と場所を事前に探してくださったようです。
     やはり凱風な方、私は少しだけ風向きを変えて、彼に応えました。

    「ではしっかりとエスコートをお願いしますね……旦那さま?」 

  • 3二次元好きの匿名さん22/12/26(月) 00:31:30

    「ここはとても自然が豊かで、子供たちも元気で、居心地の良い場所ですね……」

     近所にこのような風光明媚な場所があるとは知りませんでした。
     その点に関しては素直に東風と感じているのですが、上手く言葉が出せません。
     原因は、私達のがっちりと握られた手にありました。
     その手はそれぞれの指が絡み合うように握られています――――いわゆる、恋人繋ぎです。
     私はその現実に頬から熱風が吹いているのに、彼はまるで気にしてないかのようでした。
     少し、ずるいです。

    「…………少し、朔風ですね。旦那さま、少し体勢を変えても良いですか?」

     私がそう尋ねると、彼は頷いて手を放します。
     ――――そして次の瞬間、私は彼の腕に抱き着きました。
     ぎゅっと軽く力を込めると、彼の腕の感触と身体の熱が強風のように伝わってきます。
     そして、彼にも私の柔らかい部分のそれが伝わっているようでした。
     
    「あら、旦那さま、頬に季節外れの紅葉葉楓でしょうか?」

     慌てながら私の名前を呼ぶ彼を、柳に風と受け流します。
     むしろここは追い風を送る時でしょう。
     私は片方の腕で抱き着いたまま、もう片方の手で先ほどと同じように彼の手を握ります。
     にぎにぎ、と力を入れるほど、彼の手は汗ばんでいきます。

    「ふふっ、それではいきましょうか、パパ? ……これはちょっと違いますね」

     ちなみにその後、通りがかった子どもに揶揄されて、自分が何をしてるかに気づきました。
     季節外れの紅葉葉楓が流れてきたのは彼だけではなかったようです。
     ですが私は、その手を、その腕を放しませんでした。

  • 4二次元好きの匿名さん22/12/26(月) 00:31:48

     その後の時間は祥風のよう、ですが疾風のように過ぎていきました。
     月に叢雲花に風……とは少し違いますが、楽しい時間はあっという間です。
     夜景がとても綺麗なレストランでのディナーを済ませて、私達は家風の吹く場所に戻りました。
     これで、今日の一日は終わりです。
     ですが、少量のお酒の入った私は、この色めいた風を止めたくはありませんでした。

    「……トレーナー、さん」

     私の口は、どうしても心にもっとも根付いている呼び名を、声に出してしまいます。
     そんな私を咎めることなく彼は微笑んで、ちょっとようずになったかな? と尋ねます。
     ここで頷けば、また明日から恒風な日々を過ごすことができるでしょう。
     それはとても、白南風なこと。
     ですが、それだけでは、私にとっては黒南風なのです。

    「私は、トレーナーさんと共に、風になるだけでは、足りないんです」

     疾く、疾くと高鳴る胸の鼓動。
     頬の熱さは、熱風を越えて炎風の如く。
     空風に吹かれたような喉からは、上手く言葉が出ません。
     それでも私は、私達の関係を一歩先に進めるために、永祚の風に挑む思いで、言いました。 

    「今夜は共に――――嵐になりませんか?」

  • 5二次元好きの匿名さん22/12/26(月) 00:32:08

    「――――ゼファー! ゼファー!」

     鼓膜を揺らす声。
     それは聞きなれた、愛しい人の風音でした。
     目を開けると、そこには覚えのないブランケットと心配そうな表情を浮かべる彼。

    「……とれーなー、さん?」
    「ああ、起きたか。寝かせてあげたかったけど、そろそろ寮の門限だからさ」

     安心したように表情を崩すトレーナーさん。
     それを見て、私の意識は山背を浴びたかのように覚醒しました。
     ――――トレーナー室で、居眠りをした挙句、あんな夢を。
     私は、恐らくはトレーナーさんがかけてくれたブランケットで、赤い顔を隠します。

    「……申し訳ありません、ミーティング中に居眠りなんてしてしまって」
    「習慣になるような困るけど、一回や二回くらい気にしなくても大丈夫だよ?」
    「いえ、あの、はい、本当に申し訳ありません」
    「……なんで緊張してるの? えっと、ネイチャに借りた小説を読みふけっていたんだっけ?」

     『LOVEだっち』から時候の風に興味を持った私は、ネイチャさんから恋愛小説を借りました。
     それはひょんなことから結婚生活を送ることとなった若い男女のお話。
     そして、少しだけ、激しく、過激な描写が盛り込まれているお話でした。
     なんてことはありません。
     先ほどまでの夢は、小説に影響を受けた私が妄想する新婚生活……ということでしょう。

    「しかしゼファーがそれほど夢中になるなんて、よっぽど面白いんだな、タイトルは?」
    「……………………はて、凪いでしまいましたね」
    「そっか、今度ネイチャのトレーナーにでも聞いてみようかな」

     ……今度ネイチャさんには何か便風を送りましょう。

  • 6二次元好きの匿名さん22/12/26(月) 00:32:31

    「それにしても意外だったな」
    「意外、ですか?」
    「ああ、ゼファーも寝言とか言うんだなってね」
    「あら……それは、その、恥ずかしいところを……まあ」
    「例えばさ」

     夜風を浴び続けるのは、梅雨の雨風であると、改めて思いました。
     トレーナーさんはそれ自体を注意することなく、私の寝言の内容を口にし始めます。
     元はと言えば、私から吹いた仇の風。甘んじてこの身で受け止めるべきでしょう。
     しかし彼の口から出たのはとてつもない、大颱風でした。

    「共に嵐にならないかとか……夢の中でもレースを走ってたのかな?」

     ――――その台詞の意味合いは。

    「~~~~~~~~っっ!?」
    「……えっ、いきなりブランケットに包まってどうしたんだ? ゼファー?」
    「しばらく、そっとしておいてください……」
     
     トレーナーさんの顔がまともに見れません……。
     結局、私は門限が過ぎる前に常風に戻ることができず、寮長に怒られたのでした。

  • 7二次元好きの匿名さん22/12/26(月) 00:33:58

    お わ り
    某合同誌にヤマニンゼファーがいなかったので自分で書きました。
    まあ企画立ち上げから逆算すればゼファーの実装がギリギリだったのでしょうね。

  • 8二次元好きの匿名さん22/12/26(月) 00:38:10

    素晴らしい
    最近優れた風使いが増えてきてたすかる

  • 9二次元好きの匿名さん22/12/26(月) 00:39:22

    可愛い寝言…面白かった!

  • 10二次元好きの匿名さん22/12/26(月) 00:39:23

    素晴らしいお話でした。

    某所ではゼファーはつよつよと教えられたのですが、さすがにいきなりいろいろ飛び越えちゃうのはゼファーも照れてしまうのですね。


    >>7

    ゼファーの実装はけっこう最近ですしね。(風語録から目をそらしながら)

  • 11122/12/26(月) 06:29:35

    感想ありがとうございます

    >>8

    ゼファーのSS書きはもっと増えて欲しいですね

    >>9

    可愛さが伝わったら幸いです

    >>10

    つよつよ概念はもっと流行って良いです

  • 12二次元好きの匿名さん22/12/26(月) 07:59:14

    乙です。甘くて良いSSでした。トルネードポテトのくだりで気付いたがヘリトレ♀の人だな!?

  • 13二次元好きの匿名さん22/12/26(月) 08:02:13

    かぜ… 風が多い…

  • 14二次元好きの匿名さん22/12/26(月) 08:35:55

    炎風に煽られて真っ赤なゼファー可愛いです

  • 15二次元好きの匿名さん22/12/26(月) 11:29:44

    風語録が多い…

  • 16122/12/26(月) 13:27:58

    感想ありがとうございます

    >>12

    そうですね前作から読んでいただきありがとうございます

    ……なんでトルネードポテトで判断されたんでしょう

    >>13

    ぜふぁーだもの

    >>14

    赤面ゼファーは万病に効きます

    >>15

    ぜふぁーだもの(二回目)

    今回はゼファー視点だったのもあって風量過多でしたねえ

  • 17二次元好きの匿名さん22/12/26(月) 17:28:36

    甘い気持ちになれた
    良風をありがとう

  • 18122/12/26(月) 18:51:55

    >>17

    感想ありがとうございます

    甘さ全振りのSSは初めてなのでそう感じていただけると幸いです

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