幸せな運命の瞬間とは?

  • 1二次元好きの匿名さん22/12/28(水) 21:52:19

     放課後。今日はトレーニングも休みだったがお互い予定がなかったので夕暮れ時のカフェテリアで裏メニュー・スイーツ全盛り宝船パフェをスイープと食べながら雑談していた時のこと。

    「ねえ使い魔、このパフェ見てて思い出したんだけどさ」
    「?なにが?」
    「覚えてないの?ほら、アタシたちがこれを探してる時にマヤノが気になること言ってたじゃない」
    「気になること…ああ、リップの?」

     リップの、とはリップクリームを思いっきり出して、そこに使い魔…つまり俺の名前を書いて夕日の中、心の中で呪文を唱えると幸せな運命の瞬間が訪れるという魔法…だったはずだ。だが、何も起きずに失敗に終わったので結局何が何なのか俺もスイープもわからないまま呪文の正体に辿り着いてしまった。

    「そうそう!あれ、結局なんだったのか気になるのよねー」
    「まあ確かに、幸せな運命の訪れなんて言われてもピンとこないな。そもそも何で俺の名前使われたのかわかんないし」
    「でも、マヤノが知ってるならとーっても素敵な事が起きるはずよ!」

     幸せな運命の瞬間…。実際問題、人によって幸せの尺度なんて変わる。スイープからしたら新たな魔法に繋がる出来事が起きたら幸せだろうけど俺からしたら自販機のルーレットが当たったらもうその日はずっと有頂天だ。…気になるな。

    「今は夕暮れ前だしやってみる?ちょうど試供品のリップがあるからそれ用意できるし」
    「へえ?アンタから魔法に興味を向け始めるなんて殊勝な心構えじゃない」
    「気になるのは間違いないしな。それに、折角面白そうな話があるのにそれを無視するのもつまんないじゃん」
    「うんうん、アンタもやっとアタシの使い魔としての自覚が出てきたみたいで何よりだわ。じゃあ、パフェをとっとと平らげるわよ!使い魔は対岸側を攻めなさい!」

     そうと決まればとパフェをテーブルの真ん中に置き、かぶり付く俺とスイープ。アイスもある分、長期戦はまずいと見て黙々と手を動かすが…。

    「「あ、頭がキーンとする…」」

     冷たいもの特有のキーンとするアレに苦しみ、揃って頭を抑えて唸るのだった。後日、傍から見たら歳の離れた兄妹みたいだったと目撃した同期の担当トレーナーから言われたのはスイープには内緒。

  • 2二次元好きの匿名さん22/12/28(水) 21:52:41

     何とか山のような宝船パフェを完食し、調理員さんにお礼を言ってからカフェテリアを出る。フラフラしてて危険なのでスイープをおんぶしてトレーナー室まで行き、リップクリームとペンを回収する。その後、学園付近で最も見晴らしのいいポイントまで行き、一旦ベンチに座って段取りを確認する。

    「えーと、まずどんなんだったっけ」
    「マヤノが言うには、リップを全開で出して使い魔の名前を側面に書く…と」
    「…これ気になるんだけどさ、何で俺の名前なんだろう?」

     説明を受けて思ったのは何故そこで俺の名前が出てきたのだろうという点。魔法の成就を求めているのは俺…もそうではあるが一番はスイープだ。仮にこの名前に書かれた人物が幸せになるというのならば、使用者が幸せにならないので矛盾が生じる。
     
    「確かにそうね、使い魔の名前書いてたら幸せになるのって使い魔になるわね」
    「でしょ?だからこのままじゃ使用者のスイープは幸せにならないんじゃないかって」
    「えぇー!?やだやだやだ、使い魔だけ幸せな瞬間が訪れるなんてズルい!」

     正直、現状でも彼女のおかげで大変だがだいぶ幸せな毎日を過ごさせてもらっている。このままでは俺だけ得してスイープは何も起きないなんてあまりにも可哀想だ。

    「んー…じゃあこうしよう。一応失敗した時用にスペアのリップを持ってきたからこれを使って俺が君の名前を書いて魔法を掛けるってのはどう?」
    「えー?使い魔の微弱な魔力でアタシの魔力抵抗のある身体にかけられるの?」
    「でも、そうでもしないともし成功したら俺が幸せになるのをスイープは見てるだけになるけど…」
    「む…それはそれで癪ね。いいわ、乗ったげる!」

     スイープからの同意も得たので予備で持ってきたリップにスイーピーと書き、手に携えた状態で向き合う。…そういや呪文の内容、聞いてなかったな。この時点で破綻してる気もするが構わず俺なりの呪文で何とかしよう。

  • 3二次元好きの匿名さん22/12/28(水) 21:53:07

    (スイープが幸せな運命と巡り会えますように…うん?)

     目を閉じて念じていると足元に違和感を感じる。違和感というかくすぐったいというか、むず痒い。薄目で目を開けて、状況を確認すると…スイープの尻尾が何でか俺の足に絡まっていた。とうのスイープは、握拳を作って全力で念じている様子で多分気づいてない…というか無意識なのだろうか?

    「スイープ、スイープってば」
    「〜っ、もう!何よ人が念じてる時に!」
    「いや、気がついたら君の尻尾が足に絡まってたんだけどどうしたのかなって」
    「尻尾〜?…!?な、何よこれぇ!?」

     このリアクション、本当に自分では気付いていなかったみたいだ。信じられないものを眺めるような視線をしているので多分間違いないはず。解こうとするが目を瞑っていたせいか足元が安定しないようで───。

    「え、嘘っ、何で解け…うわああ!?」
    「まずっ…ぐえっ!?」

     勢い余ったせいでバランスを崩し、こちらに向かって倒れ込んでくる。顔から落ちてはまずいととっさにスイープの下敷きになるように寄せて背中から転倒する。…正直すごく痛い。今の俺は間違いなく幸せではないしスイープも聞くまでもないだろうけど…。

    「スイープ…俺は今すごく辛い…」
    「これのどこが幸せなのよ〜!もうもうもうっ!アタシもアンタも不幸に見舞われてるじゃない!」
    「だよなあ…謀られたのかな、俺ら。というか早くどいてほしいなあって…」
    「〜っ!明日マヤノに文句言ってやるんだから…使い魔!帰るからおんぶしなさい!」
    「うん、するから早くどいて…そろそろ使い魔潰れちゃう…」
    「はぁっ!?バカバカバカ!スイーピーは羽毛のように軽いもん!撤回しなさい撤回!」

     人の腹の上でお構いなしに暴れるスイープに圧迫され、さっき食ったパフェが戻ってきそうになりつつも気合で抑えて脇を掴んでお腹の上からどかせ、スイープを背中に乗せて歩き出す。

    「結局、骨折り損の草臥儲だったな…」
    「まったくよ、挙げ句すっ転ぶとか魔法少女にあるまじき失態だわ」

     俺もスイープも、今日は厄日だったと肩を落とす。まあ、これも魔法を極めるための試練と割り切れたのか、道中でスイープが爆睡してしまったのでフジキセキに連絡し、引き渡してから俺も自室に戻るのだった。尻尾は、結局離す時までずっと絡んだままだった。

  • 4二次元好きの匿名さん22/12/28(水) 21:53:40

     翌日の放課後、今日はプールトレがある為、プールの使用時間を確認していると授業を終えたスイープがやって来た。まだ時間には余裕があるので雑談に花を咲かせると昨日の話題になった。

    「そういえば…ちょっと聞きなさいよ。昨日の不幸の呪文の話なんだけど、マヤノに突きつけてやったの」
    「へえ。それで、なんて言ってた?」
    「それがね?起きたこと言ったらマヤノったら顔真っ赤にしちゃってちょっとトレーナーちゃんとこ行ってくるって逃げたのよ!」
    「顔を真赤にしてアイツのとこ…?何でだろ」

     考えられるとしたら、このおまじないは元々マヤノが彼女のトレーナーから聞き、信憑性を確認せずスイープに伝えたからデマを掴まされた怒りを申し付けに言ったとか?だが、彼はそんなくだらない嘘をつくような人柄ではないし考えにくい。

    「…マヤノは怒ってた?」
    「んー…どっちかと言うと熱を帯びた顔してたわね。なんか、覚悟が固まったみたいな…」
    「覚悟?覚悟…っ、ま、まさか」
    「?なんか心当たりあるの?使い魔」

     嫌な汗が背中を流れる。まず、前提としてマヤノトップガンは自身のトレーナーを大変慕っており、お出かけをデートと称してウキウキしている程度には第三者の俺から見ても両者の仲は良好だ。…そう、良好なのだ。

     そんな彼女がスイープと俺の身に起きた災難…尻尾が脚に絡まって転倒したという話を聞いたらどう解釈するか。俺とスイープとしては間違いなく災難だったが、見方次第では倒れた拍子に彼と急接近…と解釈する事もできなくはない。

    「…上手くかわせよ、マヤトレ」
    「もうっ!何一人でわかっちゃったみたいな顔してんのよ!」

     今の俺にできることは彼がどうにかマヤノの全力アプローチをひらりとかわしてくれることを祈るだけだ。…ところで。

    「スイープさ、何で俺の足に尻尾絡めてるの?また転ぶよ?」
    「む?…あら、いつの間に。ちょっと待ってなさい…あれ、あれっ?」
    「…もはや足元雁字搦めなんだけど」
    「もー!何で解こうとすると余計絡まるのよー!使い魔、何とかして!」
    「何とかしようにも俺も動けないんだって…」

     それから、スイープが近くに寄ると何でか彼女の尻尾が俺の足に絡まる現象が多発するようになり、尻尾が絡まるたびにまたかと並んで溜息を吐く俺とスイープであった……。やはりアレは不幸のおまじないだったのかもしれない。

  • 5二次元好きの匿名さん22/12/28(水) 21:59:40

    元ネタは育成シナリオ内の学園に伝わる魔法を探しに奔走した際、マヤノトップガンからこんなんあるでと教えられたものを実践した時のお話です。マヤノから見たスイープと使い魔はどう映ってるのかな…。

    そういえばサポカで振袖姿のスイープが追加されるらしいですね。単純に欲しいので年始は頑張ります。もしかしたら見て何か書くかもしれないし書かないかもしれませんがどうか許し亭

  • 6二次元好きの匿名さん22/12/28(水) 22:11:44

    期待して擬態して待機してるからな

    あと何でそこまでお前たちはベタベタ接触してるのにどっちも特に何も思ってないんだよ!!!ヤキモキするだろ!!!

  • 7二次元好きの匿名さん22/12/28(水) 22:16:45

    二人が互いを意識していないことは、トレーナーが幸せを自覚しているので帳消しとします

    うらやまけしからんなぁ!

  • 8二次元好きの匿名さん22/12/28(水) 22:32:09

    マヤトレは果たしてかわせたのか?盤外戦も気になるよきSSでした🤗

  • 9二次元好きの匿名さん22/12/28(水) 23:08:51

    距離感の近さは信頼の表れかな?おんぶとかもホーム会話でよく見るしこの距離感が2人にとっての当たり前なのかなあと思うとすごくほっこりするSSでした

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