忌まわしい女と、敬愛する兄の話を

  • 11 ◆ZrONIBKxMk22/12/29(木) 22:00:11

    「スレッタ・マーキュリー。お前にはホルダーとして、決闘委員会の執務の補助を担当してもらう。いいな?」

    「うぇええ!?な、…なんで、私、になんです、か?」

    「見ての通り、他の決闘委員は全て出払っている。これから要求する仕事にはモビルスーツの操縦技術と各種計器の運用の理解が求められる。……どうしようもなく癪だが、伊達にその白いのを着ているわけではないだろう?兄さんだってやっていたことだ。」

    「で、でも!あ、あなただって成績も、決闘の賭け事の、倍率も高くて、」

    「ならお前に必要な計器類の運用が出来るか?パイロット向けの整備基礎の科目がギリギリ合格の人間に出来るとは思わない。……兄さんは全て高評価でクリアしていた。」



    (大筋は作ってあるけど文自体は見切り発車だから停滞しても許しておくれSS)

  • 21 ◆ZrONIBKxMk22/12/29(木) 22:03:27

    ※ラウスレが疑似デート的な何かで交流するよく分からないSS
    ※ラウダ→スレッタ、スレッタ→グエルが本編よりある程度柔らかめになりそう
    ※基本ほとんどはラウダとスレッタのみ
    ※名前で気がついた方向けへ→過去作とのつながりはない
    ※文才は期待しないで

    画像は今回出番のないボブくんのそっくりさん

  • 3二次元好きの匿名さん22/12/29(木) 22:06:10

    わー期待!

  • 4二次元好きの匿名さん22/12/29(木) 22:07:54

    わくわく

  • 5二次元好きの匿名さん22/12/29(木) 22:08:24

    ラウスレ!嬉しすぎる…

  • 6二次元好きの匿名さん22/12/29(木) 22:13:20

    うぉおお!!
    ラウスレスレー!!

  • 71 ◆ZrONIBKxMk22/12/29(木) 22:17:07

    ──数日前、某所──

    「シャディク、今度の戦術試験区域の点検だが……」

    「ああ、それについては俺はパスだ。元よりグエルがやっていた業務だし、ちょっと外せない用事があるからね。それにあの機体はジェターク寮の管轄だろう?壊して損害賠償を請求されるようなことになれば、俺も義父さんに申し訳が立たない。チェック作業はセセリアかロウジに任せればいいだろう?」

    「どちらもその時刻は授業だと言っていた。」

    「じゃあ君たちの所か、エランが休学してる分ってことでペイル寮から誰か引っ張ってくるかい?本来決闘委員会でもない人間を業務に関わらせるのはあまり良くないんだけど、その程度なら特例として通せるはずさ。」

    「お前のように特例などと言って秩序を乱すことはしない。兄さんもそんなことはしなかった。」

    「そうか。噂では聞いてるけど、グエル、見つかるといいな。それで、点検の人員についてだけど……1人、特例を使わずにこき使える人を知ってるけど、どうだい?」

    「特例などと言わないなら誰でもいい。勿体ぶらずに早く言え。」

    「じゃあ決まりだ。グエルがずっとホルダーだったから忘れられてたけど、この前エランがやったように決闘委員会なら業務の補佐で招集出来るんだよ。ホルダーを……今なら、水星ちゃんをね。誰でもいいんだよな、ラウダ?」

  • 81 ◆ZrONIBKxMk22/12/29(木) 22:26:21

    「この前、エランさんに呼ばれた時は知らなかったんですけど、そんな決まり、あったんですね」

    「知りたくもなかった。兄さんならそれくらい何事もなく遂行していたからな。それに、特例で決闘を延期しているなら、その分決闘委員会の業務を手伝うくらい、断る方が無礼だと思うな。」

    「それはその、ありがとうございます……?」

    「シャディクの意図だ。……ホルダーが疑問系の礼などするな、みっともない。」

    「えぇ……?」

    「着いたか。少し待っていろ、準備をする。」

  • 91 ◆ZrONIBKxMk22/12/29(木) 22:28:15

    ※大事なこと言い忘れてたけど、ラウダの一人称は流石に(任意の一人称)とかしないよ
    →おそらく基本は僕、対スレッタは概ね自分、感情が昂るなら俺が出るかもしれないで想定
    ※ラウスレとは書いたけど恋愛的な方向に持っていくことは多分ない
    ※例によって舞台は2ヶ月間のどこか

  • 101 ◆ZrONIBKxMk22/12/29(木) 22:31:21

    ※ここからは少し適切な画像が用意できないので画像は無し

  • 111 ◆ZrONIBKxMk22/12/29(木) 22:43:24

    ──格納庫──

    「あのっ、私は結局、何をすれば」

    「黙って待っていろ。……そんなことも出来ないのか、この田舎者め……」

    「す、すみませんでした!」

    「第2は点検間隔が開き過ぎている、チェックルートは全パターンを適用──第9はこの前模擬戦でセンサー不具合の報告あり……センサーガンの携行はやはり必須か。あとは宙域戦用のエリアマーカーの点検もこの際行わせるか──」
    「作業は完了した。スレッタ・マーキュリー、お前にはこのチェッカーに搭乗して、戦術試験区域の点検を補佐してもらう。自分が同乗して必要なチェックを行う。お前は指示通りにこの機体を動かせばいい。ホルダーならそれくらいは簡単だろう?」

    「は、はい!……え?今、同乗してって言いました……?」

    「ああ、全く忌まわしい限りだが、使える人材はお前しかいないからな。やってもらう。」

  • 121 ◆ZrONIBKxMk22/12/29(木) 22:55:16

    『ディランザ・チェッカー』

    ディランザをベースに様々な計測や修理・点検用にカスタマイズされた、非武装のモビルスーツである。
    シールド含め一切の武装が取り外され、代わりに肩部や脚部など身体の各所に様々なセンサーやカメラを装備。脚部や腕部はより細かな挙動が可能なように調整されており、接地面に関する計測用計器も通常より精密なものを採用。それを保護するために機体構造も念を入れて堅牢にされている。
    それ以外の機体形状や塗装は通常のディランザと概ね同様である。チェッカーの名はCheckerからそのまま来ているが、その名を示すように両肩の平面は黄色と黒の市松模様、すなわちチェック柄で塗装されている。

    本来はフロントの開発や保守点検用に使われる機体であるが、グエルが決闘委員会の筆頭として、主に同委員会の業務である戦術試験区域の保守点検を行うようになったことから急遽ジェターク寮に納入された機体であった。グエルが決闘委員会を抜けた後は、その後釜であるラウダが使うべき機体であったのだが……
    コクピットは複座式に改造されており、操縦者と各種計器のチェックや指示を行うガイド役が同乗する事も可能になっている。



    (イメージはディランザを、ザク強行偵察型のように改造した感じの機体)

  • 131 ◆ZrONIBKxMk22/12/29(木) 23:09:08

    「で、でも、前にエランさんとやった時は指定された場所を順番に回っただけで……」

    「あれはお前の機体を使ったからだろう。簡易な点検しかできない。ディランザ・チェッカーならその心配はない。早く乗れ。」

    スレッタは言われた通りに、ディランザ・チェッカーのシートに座り、操縦桿に手を伸ばす。……ぎこちない。スレッタが乗り慣れてない、と言われれば半分間違っていて、半分正しい。
    この機体は、グエルが乗り慣れていた機体だった。故に座席調整もグエルに最適化されていたのである。女子としては少し大柄にも見えるスレッタだが、彼女自身威圧感を覚えたグエルの身体に比べればそれほどでもない。

    「……一旦降りろ。座席調整を行う。スーツの規格を言え。」

    「じ、女性用の、えっMです!……ぎりぎり」

    少し顔を赤くしたスレッタだが、ラウダは気にせず座席調整を変更する。全く興味のない女子の身体の話など、思春期であっても琴線に触れないものである。それが憎みたくなるような相手なら、尚更だ。

  • 141 ◆ZrONIBKxMk22/12/29(木) 23:23:23

    ノーマルスーツを着た男女が、同じコクピットに2人きり。
    エラン・ケレスの時はいくらか胸がときめいたスレッタでも、ラウダと一緒の今回はそういう感情はない。手伝うことは満更でもないが、不満を垂れつつこちらに協力を仰ぐ様子に、彼の兄の時と同じ不可解な感覚を抱くばかりである。複座式であることによりスペースに余裕があることは、多分関係ないだろう。

    ──第2戦術試験区域──

    「マップにルートを表示した。振られた数字の順番にマーカーを巡れ。各マーカーに到着したらこちらで確認と必要な指示を出す。それが終わり次第次のマーカーに移動しろ。」

    「は……はい!頑張ります!」

    「余計な気合を入れるな、鬱陶しい。こちらの指示通りに動け。」

    「は、はい!すみません!」

    最初のマーカーに到着し、機体はその場に待機。ラウダが接続した端末に表示される数値をチェックしていく。やがて「次」という声が聞こえ、2番のマーカーを踏む。
    次は「センサーガンで天井のスプリンクラーを狙え。点検用に数秒散布される。」と指示が降りる。レーザー光線を照射し、言われた通りスプリンクラーに向けると、グエルとの決闘の時のように水が散布され、そしてすぐ止まった。これは点検用であって、あの時とは違い正常な作動である。

  • 151 ◆ZrONIBKxMk22/12/29(木) 23:30:31

    その後いくつかのマーカーで似たようなことをこなしていく。スレッタの方のコンソールにも、マーカーに到着すると点検のタスクが表示されるようになっている。次第にスレッタも慣れてきたのか、言われずともタスクをこなすようになり、ラウダもあれこれ指示は出さず、ただ接地面の計測値などを確認して「次」と言うだけになった。

    「マーカー、多くないですか?この前エランさんとやった時はこんなに……」

    「ここは点検間隔が長く空いていた。必要な点検項目が多いだけだ。もしかしてこの程度で弱音を吐くつもりか?」

    「いえ!大変、ですけど、誰かの役に立てるのは、嬉しいですから。」

    「兄さんはこの程度平気でやっていたさ。自分も作業の補助をしたことがある。」

    そのマーカーでのスレッタのタスクが終わったにも関わらず、ラウダはなかなか次と言わなかった。少しの沈黙が時間を進める。

    「話がある。……お前にとって、兄さんはどんな人だったか、教えてもらいたい。」

  • 161 ◆ZrONIBKxMk22/12/29(木) 23:36:46

    「……そ、それは、決闘委員会のお仕事としての、お話、ですか?」


    「関係ない。お前の何が兄さんを惑わせたのか、いっそ本人に聞いてみただけだ。……次へ。」


    「それなら、その、あの人に聞けば良いと、思いますっ。私はあの人のこと、よく分からない、ですから。」


    「……兄さんは、この学園からいなくなった。1ヶ月前からだ。まさか知らなかったとでもいうのか?」


    dice1d2=1 (1)

    1.スレッタは知っている

    2.知らなかった

  • 171 ◆ZrONIBKxMk22/12/29(木) 23:46:57

    「う、噂くらいなら、聞いたことがあります。ここの学生は噂が好きだって、あの人から……グエルさんから聞きました、から。でも、私はあの人とは関係なくて、どこに行ったかも知らなくて。でも弟のあなたなら、居場所、本当は知ってるんじゃないかって、」

    「ふざけるな……」

    水星女の辿々しい言葉に苛立ちを見せたラウダが、ノーマルスーツを着た左手で拳を作り、強く握りしめる。右手はついいつもの癖で髪に伸びるものの、ヘルメットとバイザーが邪魔をして届かない。代わりに唸り声や呻き声のような息を吐きつつ、バイザーを平手で覆った。

    「兄さんの居所が分かれば何も苦労はしない。人の気も知らないでよくもそんな腑抜けたことを言えたものだ。」

    「だってあなたは何も言ってませんし、その、ごめんなさい!」

    「……次。それで、結局お前にとって兄さんはどんな人間に写っていた。言ってみろ。」

  • 18二次元好きの匿名さん22/12/29(木) 23:46:58

    セーフ!!
    知らなかったら滅茶苦茶キレられてたよねこれ

  • 191 ◆ZrONIBKxMk22/12/29(木) 23:57:45

    「それは、その、本当によく分からなくて。ミオリネさんに乱暴なことをしてた時は、駄目だって思いました。」

    「ミオリネが何度も学園を抜け出そうとしていたからだ。あれまで穏便に済ませていただけ兄さんは寛容だった。」

    「でも、ぼぼ暴力は、駄目、です!喧嘩したら、仲直りしないと、いけないです!それで、あなたに『自分で止めろ』って言われて、決闘、して、勝って、その時は『この人には勝てるんだ』って、知りました。」

    「チッ……それは無効になった。お前がGUND-ARMなんてものを使うからだ。それさえなければ兄さんは勝っていた。」

    「違います。あの人は、あの時は油断してたって、言ってました、から、ガンダムは、関係ないです!……次、行っていいですか?」

  • 201 ◆ZrONIBKxMk22/12/30(金) 00:03:17

    「ああ。それで、再戦した時にお前は兄さんに何を見た。」

    「……あの時のこと、しっかりとは覚えてないんです。突然『結婚してくれ』なんて言われて、訳、分からなくなって、すぐに、戻っちゃいましたから。」

    「……兄さんとの決闘は、その程度のものだったとでも言うのか。」

    「そ、そんなことないです!」

    「……次だ。」

  • 211 ◆ZrONIBKxMk22/12/30(金) 00:13:40

    「最初の方で、いきなりスプリンクラーが作動して、ビームが届かなくなって、でもミオリネさんが止めてくれて、そこからは、『前に勝ったし、今回も勝てる』って思ってた、はず、です。」

    (フェルシーとペトラからの連絡が途絶えたのはやはりそれか……しかし、)
    「兄さんとの決闘を中途半端な物言いで語るな。曖昧な扱いはやめろ。」

    「おお思ってました!でも、途中で、動きが変わったように見えて、ちょっと怖くなりました。……負けるかもしれないって、少し思いました。」

    「少し、だと……?次。」

  • 221 ◆ZrONIBKxMk22/12/30(金) 00:24:33

    「一回勝ったからって、みくびってました。でも、あの時、多分『これじゃあ負ける』って、気づいたんです。本当に、最初のは油断だっただけで、あの人は、強い人でした。」

    「…………」

    「だから、私も頑張りました!でも、あの時は勝てました、けど、もしもう一回やったら、分かりません。あの人も、負けないって自信を持ってて、逃げないって言ってましたから……」

    「……………………次で、第2戦術試験区域は最後だ。」

    「えっ!?あっ、はい!」

  • 231 ◆ZrONIBKxMk22/12/30(金) 00:44:37

    2人の会話がひとまずの佳境に入る頃には、結構な量のマーカーがあった第2戦術試験区域の点検も終わりを迎える段階にあった。

    「兄さんは誰が相手でも決闘を断ったり、ましてや逃げることなんて絶対にあり得ない。そして強かった。その程度のことは自分にもわかっている。だから……お前が来るまで無敗でいられた。」

    「そう、ですよね。私はここに来てからまだ1年も経ってなくて、でもみんなはもっと前から知ってて、ラウダさんは、弟、ですから……もっといろんなことを知ってるんですよね。」

    「そうだ、お前如きが兄さんのことをよく知った気になるな。……だが、僕も、兄さん自身じゃない。全てを知ってるわけじゃない。……これで、第2戦術試験区域の点検は完了だ。」

    「あっ、はい!お疲れ様でした!」

    「……次は第9戦術試験区域の点検だ。移動するぞ。」

    「は、はい!……少し、休憩しても、いいですか?」

    「兄さんとやった時はそんなことは言われなかったな。……まあいい、第2と第9は距離がある。その間に休んでおけ。」

  • 24(本日最後)◆ZrONIBKxMk22/12/30(金) 00:52:08

    スレッタは、ラウダの真意が分からずにいた。
    いくら鈍感な彼女でも、ラウダが自身に対して良からぬ思いを抱いているかもしれないことはなんとなくわかる。彼の兄からホルダーの座を、長く彼が守り抜いてきたものを奪ったのだから。
    そんな自分に、彼は何故グエルの──生まれの複雑さを越えて仲のいい兄のことを聞くのか。何故自分をグエルが乗っていた機体に乗せたのか。何故悪態を吐きつつ、それでも自分に操縦を頼んでいるのか。

    移動中、ラウダは先の点検の結果と、次の点検項目を黙ってチェックする。スレッタはそんな彼に、何かを聞くことができなかった。

    もっとも、ここで聞いたところで意味はなかっただろう。
    何故なら、ラウダ自身、自分が何をしたいのかを分かっていなかったのだから。

  • 251 ◆ZrONIBKxMk22/12/30(金) 07:24:29

    ──第9戦術試験区域──

    「次も同じだ。タスクはメインコンソールにも表示する。やり方はさほど変わらないはずだ。出来るだろう?複雑な指示があればこちらから伝える。」

    「はい!」

    教える手間が少ない分、2回目はよりスムーズにことが進み、より早い段階で沈黙が訪れた。今度をそれを裂いたのは、スレッタである。

    「……この前、シャディクさんたちと決闘をするときに、あの人に会ったんです。それで、決闘を手伝ってくださいって、頼みました。でも、『決闘は父親に止められている』から駄目だって言われて……」

    「何だと……?つまりお前は兄さんを、お前たちの味方に引き入れようとしたのか?」

    「はい、助っ人……として、です。」

    「……いいか、兄さんが父に決闘を止められていたのはお前に負けてからだ。それなのに兄さんはエランと決闘をして、負けた。そしてそのあと、寮を……追い出されたんだ。」

  • 261 ◆ZrONIBKxMk22/12/30(金) 07:30:36

    「分からないのか?お前たちには、兄さんを助っ人に使う資格なんてなかった。兄さんが寮を追い出されたのはお前のせいだ、お前なんかのために父さんの命令に背いたからだ。」

    「わ、分かりません!分かるわけ、ないじゃないですか!だってそういうこと、教えてくれなかったんですから……教えてくれてたら、何かできたかもしれません。でも、言ってくれなかったから、何もできなくて……」

    「何だと……じゃあ全部兄さんが悪いとでも、悪いとでも言うのか……この、水星女ァ!」

    ラウダの中で一つの感情が形になる。怒りだ。それが拳を作り、スレッタに振り上げられる。

    「ち、違います!!」

    スレッタが叫ぶと同時に、ギリギリで拳は止まった。その後聞こえてきたのは──

    「あの、ぼ、暴力は駄目で……ラウダさん?もしかして、泣いてるん、ですか?」


    ラウダの嗚咽であった。

  • 271 ◆ZrONIBKxMk22/12/30(金) 07:35:57

    「うるさい!お前なんかのために、兄さんは全てを失ったんだ……なんて馬鹿なことをしたんだ、兄さんは……ぐっ、うぅ……だから兄さんはいなくなったんだろう……兄さんを返してくれよ……クッ……グスッ……」

    「それは、私のせいでもないし……でも、馬鹿なこと、でもないと思います。」

    ラウダの作業の手が止まる。スレッタもそれに合わせて操縦を止めた。戦術試験区域には、ディランザがただ1機、立ち尽くす。
    戦闘用の情景が描写されず、無機質な灰色の大地にただ男の泣く声が微かに響いていた。

    「好きじゃないって言われました。それなのに、私がエランさんと仕事してたときに、何故かそこにきて、私が泣いてるのを見て、エランさんに怒ったんです。……御三家は敵だって言われました。でもグエルさんも御三家で、それなのに、私の味方をするみたいに、決闘、しました。あの決闘、エランさんが挑んで、あの人には、関係ないはずなのに……だから、本当に、よく分かんなくて……」



    「でも、あの人は、ずっと逃げませんでした。負けない自信を持っていて、負けることを恐れない人だって、それだけははっきり分かりました。……だから、挑まれた決闘からは、逃げたくなかったんだと思うんです。でも、私たちが助っ人を頼んだのは、あの人の決闘じゃなくて、だからお父さんの言うことを守らなきゃいけなくて……」

    「……兄さんは、ずっとホルダーとして負けられない戦いをしてきた……僕はそれをずっと見てきたんだ……すまない、次に行ってくれ。」

  • 281 ◆ZrONIBKxMk22/12/30(金) 07:37:54

    そこからラウダは、スレッタに兄の決闘の話をするようになった。華々しく勝った戦い、窮地に陥りつつも逆転した戦い。いくつかを掻い摘んで彼女に語っていた。

    「別に自分は、兄さんのことを盲信してる訳じゃあない。敵の策に嵌るような迂闊な真似はやめてほしいと言ったことだってある。ただ、それでも敵の策ごと食い破って勝てたのが兄さんだった。……余計なことを言ったと思う。」

    「そんなことないです!あなたは、お兄さんのためを思って、言ってあげたんですよね?」

    「考えてもみろ。勝ったのに一々『あれはやめろ』『これは直せ』と言われたら、誰だって嫌になる。」

    「か、勝っても、反省は大事です。」

    「……そうじゃない。僕はそういう余計なことばかり言って、勝ちを誉めて、喜ぶことを忘れていた。だから父さん側の人間だなんて言われる。──次だ。」

    ここでラウダは、ある気づきを得る。しかしそれをしっかりと理解するには、数刻待つ必要があった。

  • 291 ◆ZrONIBKxMk22/12/30(金) 08:26:54

    妙な形で始まった、グエル・ジェターク談義。
    敵として戦った者と、味方として支えたかった者。本来相容れない者同士のはずなのに、それは本人らも予想しないほどの意気投合を見せている。
    ラウダが語る話に対して、スレッタは思ったことをズバズバと言ってくる。本来それがラウダにとっては不快なはずだったのに、いつのまにか逆に居心地の良さすら感じ始めていた。
    グエルの決闘の話を引き続きしていた中で。突如スレッタが話し口を変えた。

    「……お兄さんのこと、よく見てるんですね。」

    「どういうことだ。……次。」

    「お兄さんの話をしてると、表情が、いつもより楽しそうに見えます。……多分、あなたはお兄さんのことが好きで、いつもよく、見てたんですよね。だから、こんなに詳しく話してくれるのかなって思うんです。」

    「いつもは不機嫌か、悪かったな。」

    「いえ!そんなつもりじゃあ!」

    「兄さんのことは尊敬していた。……今は、分からない。スレッタ・マーキュリー、お前が来て、兄さんは変わった。変わった兄さんを、自分は受け入れられるか、分からない。……これで第9戦術試験区域の点検も完了だ。最後の点検に映る。」

    作業というものは、いつも間が悪い。それでも人は、手を動かしながら話がしたくなるものである。作業にも頭を使っているからこそ、本音に歯止めが効かないから。

  • 301 ◆ZrONIBKxMk22/12/30(金) 08:29:57

    ※誤字「映る」→「移る」

  • 311 ◆ZrONIBKxMk22/12/30(金) 08:32:33

    ──学園フロント外宙域──

    「最後に宙域戦用のエリアマーカーの動作確認を行う。マーカー展開後、表示されるルートで移動を行え。途中エリア外警告がなるだろうが、想定通りの挙動だから気にする必要はない。」

    「分かりました。じゃあ、マーカーの展開をお願いします。」

    ラウダが端末を操作すると、いくつかのマーカーが宙域に散っていき、位置合わせをする。そのために放たれたレーザー光線が、まるで格闘技のリングのロープのように映る。それは視覚的にここを出てはいけないと示しつつ、少ししたら消えてしまった。

    「エリアマーカーポッド、展開完了。エリアライン形成、成功。これよりエリア離脱判定の動作チェックを開始する。行ってくれ。」

    最後の点検が始まる。それと同時に、ラウダの中では色々なものが一直線に繋がる感覚があった。……グエルがスレッタとの再決闘の後に感じたものが、それに近い。無論、その一致をラウダもスレッタも知ることは、今はない。

  • 321 ◆ZrONIBKxMk22/12/30(金) 08:35:08

    「スレッタ・マーキュリー。……兄さんと、結婚してはくれないか?」

    「………………え」

  • 331 ◆ZrONIBKxMk22/12/30(金) 09:19:49

    あの時と同じように「嫌です」と言おうとした時、『ビーッ!ビーッ!』と警告音が鳴る。移動ルートで、エリアを外れたせいだろう。そういうものだと分かっていてもスレッタは驚かざるを得なかった。
    やがてエリアの中に戻り、音が鳴り止むと、スレッタはひとまず胸を撫で下ろし、改めて返答を伝えることにした。

    「やっぱり、それは出来ません。」

    「何故だ。兄さんには人間的魅力がないとでも?」

    「それは、分かりません。今は、あの人のことをよく知らなくて、だから、まずはお互いのことをもっと知ってから考えないと駄目だって、思うんです。……もちろん、私にはミオリネさんもいますから。」

    「そうか。……兄さんにもミオリネがいた。兄さんは会社のために、父さんの言うようにホルダーになって、ミオリネを手に入れなければならなかった。そんな兄さんが、初めてあんなことを言ったのがお前だ。」

    「でも、あの人は好きじゃないって、後から言ってきました。」

    「それは……分からなければいい。とにかく兄さんは、気に食わないがお前にそれだけの価値を見出した。お前のような愚鈍な女に惚れる兄さんも兄さんだけど……」

    「ぐ、愚鈍って……うわぁっ!」

    まさしくその時のスレッタは愚鈍だっただろう。またもエリアを離脱することと警告音が鳴ることを忘れて、同じように驚く羽目になったのだから。

  • 341 ◆ZrONIBKxMk22/12/30(金) 09:21:43

    「だから愚鈍なんだ、スレッタ・マーキュリー……!兄さんはこんなことで狼狽えることはなかった。」

    「その、さっきから、グエルさんと私を比べるの、やめてほしいです。私みたいな、その、ぐどん?な女と一緒にしたら、あの人に失礼、です。私も、あんな乱暴なことはしませんし……」

    「……そうか。」

    「怒らないん、ですか?」

    「ホルダーならそれくらいでいいだろう。その白い制服は意思を押し通せる力の証だ。……兄さんだってそうだった。」

    「そういう、ところです。悪いことを言ってる訳じゃないなら良いんですけど……」

    「それくらい、自分で判断したらどうだ?」

    「は、はい!?」

    「どうしようもなく厄介な女だな、お前は……またエリアを離脱する。今度は慌てるな。」

    「はい!……教えてくれて、ありがとうございます。」

    三度警告音が鳴る。今度はスレッタも驚くことはなく、エリア外を進行することができた。だからこそ、煩いビープ音に掻き消されたラウダの声を聞くことはできなかった。



    「……だからこそ、か。」

  • 351 ◆ZrONIBKxMk22/12/30(金) 09:50:23

    異例の組み合わせによる白昼夢のような時間は、最後の警告音が鳴り止むと同時に終わりを告げた。エリアマーカーに異常なし。これで点検は終了となる。

    「エリアマーカーポッドに異常は見られず。点検を終了する。ライン形成を終了、ポッドを回収して帰投する。これで今回の点検は終わりだ。……スレッタ、マーキュリー。」

    2人の間には、3つばかり謎が残っていた。

    1つは、何故グエルは消えてしまったのか。ラウダにはおそらく父が何かをしたのだろうという予感はあったが、ヴィムがグエルを探していること、すなわち姿を消したのは父すら関わらぬ兄個人の行動だとはなんとなく知っていた。
    2つ目は、グエルが父親の言い付けを、決闘禁止の命令を守った根本の理由。つまり、父親に対する思い。スレッタ流に言えば、「何故父親が好きなのか」ということになる。そんなことに理由を求めなければいけないのが普通ではないのだが。
    これら2つは、もはや本人に聞かなければ分からないことである。故に、2人の間で話題になることは避けられていた。

    3つ目は、一時は荒れたとはいえ、何故2人がこんなにも穏やかに会話できたのか。スレッタから見たラウダ・ニールは、かの訳分からない人の弟で然程接点はない。一方ラウダにとってスレッタ・マーキュリーとは兄からあらゆるものを奪った仇敵であった。
    そんな2人が何故こうも無事に、グエルのことを語り合うことができたのか。やがて本当に夢だったのではないかと思わせるような、不自然で、理想的な関係。だが、それを今後コクピットの外でも定着させられるほど、2人は器用ではない。

  • 361 ◆ZrONIBKxMk22/12/30(金) 10:10:52

    ──格納庫──

    「お、お疲れ様でした!決闘委員会のお仕事って、こんなに、大変だったんですね。お手伝いできてよかったです。」

    「……予定時刻をオーバーしている。1人でやった方が良かったかもしれない。」

    「本当ですか!?それは、その、ごめんなさい!」

    「操縦精度は悪くない。あとは手際を良くしろ。もっとも、今後お前に依頼するようなことはないだろうがな。」

    「えぇ……あなたも、なんか、訳わからない、です。」

    「他の委員から頼まれることぐらいあるだろう。点検項目と今日の結果をこのメモリにまとめてある。暇な時にでも見ておくといい。」

    「は、はい!わざわざすみません。それでは、失礼します!」

    「……感謝する、水星女。」

  • 371 ◆ZrONIBKxMk22/12/30(金) 10:25:00

    かくして、ラウダ・ニールとスレッタ・マーキュリーの、訳が分からないとしか形容できない1日は終わった。
    この穏やかな関係は、まさしく夢幻の如き時間の産物でしかない。やがては今日のことなど記憶の奥底に仕舞われ、再び微妙な関係になるだろう。

    お互いに共通する認識は、一度グエル・ジェタークに会って話をしたい、ということである。無論その願望だって、おそらくスレッタにとってはしばらくすると他の日常に上書きされるに違いない。ラウダにとっても、スレッタとの問答によらない個人的感情に落ち着くのは明らかだ。

    ただ、この日が唯一遺した産物。それは1ヶ月程前のあの決闘の時に生まれたラウダの狂気が、しばらくは大人しくなったというくらいのことであった。

  • 381 ◆ZrONIBKxMk22/12/30(金) 10:30:14

    ──『訳の分からない1日』、某所──

    「ぶぇっくしゅん!……何故だ、今日はくしゃみが止まらない……!」

    「おいボブ、大丈夫か?体調悪いなら早上がりしていいぞ。」

    「いえ、大丈夫です。……誰かが、噂してるんだと思います。俺のことなんて噂する人、いないと思ったんですけど。」



    おわり

  • 391 ◆ZrONIBKxMk22/12/30(金) 10:31:03

    ──やがて訪れるかもしれない狂気の産物に、この物語は関わらないだろう──

  • 40二次元好きの匿名さん22/12/30(金) 11:24:47

    イチャイチャじゃないけどこういう雰囲気めっちゃ好きだ…
    兄さん大好きだけど途中から不満もぽろっと出てちょっと心許してきてるの拗ねてるみたいで可愛いし途中から対等に穏やかに対話してるの良いね…
    兄弟喧嘩しようぜ!!

  • 41二次元好きの匿名さん22/12/30(金) 11:27:20

    良かった……すごく、良かったです……

  • 42二次元好きの匿名さん22/12/30(金) 11:32:25

    通じ合えるかなと思わせつつ、結局元の交わらない道へとお互いが戻っていく切なさ
    期間限定の穏やかな関係であっても確かにその時間はふたりの間に存在していたんだよなぁ
    本編の行間を埋めるような良SSでした乙

  • 43二次元好きの匿名さん22/12/30(金) 12:34:34


    こういうの本編で見たかったな
    2ヶ月がもったいない

  • 44二次元好きの匿名さん22/12/30(金) 14:01:38

    こういう隙間に有り得たかもしれない行間を埋めるSSほんとに好きだし
    2人の対話と移っていく感情が納得できる流れも自然で…読めて良かったとほんとに思った
    乙です

  • 45二次元好きの匿名さん22/12/30(金) 20:32:41

    めっちゃよかった、CPじゃないけどデカめの感情を向け合う組み合わせのSSもっと増えろ

  • 46二次元好きの匿名さん22/12/31(土) 07:36:11

    素晴らしいラウスレをありがとうございました!

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