- 1二次元好きの匿名さん22/12/31(土) 23:16:28
「……ん。」
橙色の照明が仄かに香ばしい匂いの充満した部屋を照らす。時刻は午前3時。黎明はまだ遠いと言わんばかりに外は黒く暗い。
剥がされていないカレンダーの12/31に赤い文字で「忘年会」と書かれいるのがぼんやりと見える。
こたつに突っ伏して寝る悪い子が3人。トレーナーと、ウララさんと、私。スカイさんだけが特等席と言わんばかりにソファーで横になってだらしなく涎を垂らしている。
「トレーナー」
意味もなく小声で彼を呼ぶ。目が細く開き、朦朧とした目で私を見つめる。
「私不思議な夢を見たのよ」
夢の中で私たちは兎だった。無限に続く野原のコースを一緒に駆け抜けてゆく夢。
「でも気付けば独りぼっちになっていて…すごい探したのよ。貴方たちのこと」
支離滅裂な夢物語を寝起きで回らないで語らう。きっともっと壮大な物語があったはずだったのだが、その大半は年を越せず忘れ去られてしまった。残された大雑把なあらすじだけがひとりで新しい年を歩んでいた。
彼が瞼を閉じたままぬるくなったコーラを喉に流し込む。ほっぺたをこたつの上にくっつけながら彼が言う。
「大丈夫、次はうまく…独りぼっちになんかしない」
継ぎはぎの言葉が弱々しく流れる。
「それは一流のトレーナーとして?」
意地の悪い質問を無意識の微笑と共に静かな部屋に響かせる。
「それは」
彼が言葉を詰まらせ、少しの沈黙が生まれる。
彼が言葉を続かせようと口を開きかけたそのとき、ソファーで布の擦れる音がした。
彼の唇に人差し指を当てると素直なお口がゆっくりと閉じる。
「まだ早いわ。まだ寝てても大丈夫よ」
狸寝入りをしてる悪い子に聞かれてはいけないので、本音はもう少しだけ『お預け』にしておくことにする。
「おやすみなさい」
そういって静かに目をもう一度閉じる。
寂しがり屋の兎は幸せな夢を見た。