【クロスオーバー注意】どうする、俺

  • 1二次元好きの匿名さん23/01/01(日) 14:58:28
  • 2二次元好きの匿名さん23/01/01(日) 15:04:23

    前回も面白かったから今回も楽しみだ

  • 3二次元好きの匿名さん23/01/01(日) 15:11:32

    このレスは削除されています

  • 4二次元好きの匿名さん23/01/01(日) 15:13:33

    >>3 早速ダイスミスったので消しました!くっ殺せ!!)



    真夜中。


    街灯のひかりから隠れるようにして、グエルは裏門まで辿りついた。外套で顔を隠した以外は、情報端末、最低限の荷物、制服すらも売り払って得たなけなしの金、それをにぎりしめて、軽く手をあげる。

    舟はすぐにやってきた。「こんな時間に、どちらまで?」尋ねられ、片手のそれを渡す。一瞬、ちらりと校舎の方を振り返ったあと、再び運転手の方に顔を向ける。

    「できるだけ遠くまで。遠ければどこだっていい」

    「どこでもいい?本当に?」

    グエルは俯く。運転手は静かに了承の声を返し、席を明け渡した。グエルはそこに座り込んで、半ばうなだれるようにして座椅子に背中を預ける。きっともう二度と逢わないだろう、彼のことが少しだけ気がかりだった。


    __愛しい××、私の××、私だけの__



    dice1d3=1 (1)

    1:スレッタのレクイエム

    2:エランのレクイエム

    3:ラウダのレクイエム

    ※何故かグエルくんと選ばれた方には面識がないですが、深いことを気にしてはいけません。頭空っぽにして読んでください

  • 5二次元好きの匿名さん23/01/01(日) 15:16:49

    レクイエムリクエストしたものです。前回も今回も面白かったからとっても楽しみ。クラシックと貴族みたいなグエルの組み合わせはいい

  • 6二次元好きの匿名さん23/01/01(日) 15:23:17

    辿りついたのは、とあるコロニーのやたら古ぼけた石造りの屋敷だった。
    運転手は何も言わずに去っていく。なるほど不気味で、多少、怖いと思わなくもない。そもそも、ここはどこだ?……どちらにしても、帰ることはできない、帰るわけにはいかないが。
    グエルは慎重に扉に触れる。鍵は、かかっていない。ひやりとしている。見回してみれば、屋内を華やがせるようにたくさんの造花が飾られているのに、何故だか薄暗く感じた。全体的に埃っぽく、壁に罅が入っているところすらある。あちこちの扉には鍵がかかっていて、上に続く階段には蜘蛛の巣が張っている。とても人が住んでいるようには思えない。
    というか、とにかく、暗い。グエルは近くの燭台を手に取ると、いったん外に出て、蝋燭に火をもらった。あたたかな光に、少しだけほっとする。あまりよくないとは思いながら、階段を覆う蜘蛛の巣に火を放ち、燃やすことにした。これで、先に進むことができる。……先に進んで、どうする?
    グエルは燭台片手に、階段を上った。半ばほど進んだところで、どこからか音楽が聞こえてくる。ピアノの音だ。音を頼りにして進むと、そこには__赤い髪をした少女が、座っていた。
    「__グエルさん、ですね?」

    『真の音楽家は自分の芸術に服属しなくてはならない __エリック・サティ』

  • 7二次元好きの匿名さん23/01/01(日) 15:36:02

    「な……お前、なんで俺の名前を」
    「知っていますよ。ベネリットグループ筆頭の、ジェターク社の御曹司ですね」
    「……そうか。お前は?」
    「私はスレッタ。スレッタ・マーキュリー」
    グエルは腕を組んで考え込む。知らない名前だ。知らない顔だ。知らない姿だ。もちろん、そんな彼女に名を知られていたということに対する驚きは大きい。しかしそれ以上に、こんな廃屋みたいな邸に、グエルとそう年も変わらないであろう少女が、ひとりで暮らしているというのにも違和感がある。
    言葉を選ぶようにしばらく視線を彷徨わせる。そうして、ようやく考え付いたとばかりに、低い声で、唸るように尋ねた。
    「お前はこの家の住人なのか?」
    「そうですよ。でも私、ここから出たい」
    「出ればいいじゃないか」
    率直にそういえば、スレッタは睫毛を伏せて、少しだけ震えた。
    「できません。この屋敷は、呪われているので」
    「……」
    呆然とくちびるを半開きにさせる。
    呪い、とは。何かの言葉のあやか?確かにこの惨状は、呪われているといっても差し支えないが、スレッタはグエルの方を見ないまま、「あなたは、……そう、」と静かに呟く。呪い。どういう意味だ?
    「ねえ、グエルさん。おねがい、呪いを解いて、私を解放してください」
    スレッタの瞳は真っ直ぐに、グエルの瞳を射抜いてくる。
    グエルは少し考える。助けてやる義理もないが、どうせほかにやることもない。「……わかった」と言って小さく頷いた。

    『ピアノソナタ第八番ハ短調作品13 大ソナタ悲愴』

  • 8二次元好きの匿名さん23/01/01(日) 15:48:40

    「約束してくれますか?」

    「ああ、約束する。それで、どうすればいい」

    ここまでくるとほとんどヤケクソだ。スレッタはぱあっと花が咲くように笑って、ありがとうございます、と軽く頭を下げた。それからそうっと指先を組んで、こちらを見上げてくる。

    「楽譜を探してください。私、グエルさんの歌が聞きたいです」

    「……歌、か」

    苦虫をかみつぶしたような顔をする。歌。歌、そう、歌。それで本当に、呪いとやらが解けるのか?そもそも呪いとはなんだ?

    思いながらも、スレッタが何かを差し出してくるから、それを受け取る。見てみると、それはどうやら小さな鍵であるようだった。スレッタは、一階の鍵です、と言って笑う。

    「グエルさんの歌が聞きたいんです」

    グエルは目を伏せたまま、わかった、と言って踵を返す。脳裏に、歌、という単語がこびりついていた。


    鍵が使える部屋はすぐに見つかった。古ぼけた人形や、大きな鏡や、壁には大きな罅割れもある。たぶんここは客室、だったのだろう。

    時計は一時で止まっている。

    正確な時刻はわからない。夜であることだけは確かだが、こんな場所にある時計が正常に動いているとは思いにくい。

    引き出しの中には、小さなはけが入っていた。何かに使えるかもしれない、と思って持っておく。それからグエルはふと、あるものに向き直った。

    dice1d2=2 (2)

    1:鏡を覗き込む

    2:壁の隙間に手をつっこむ

  • 9二次元好きの匿名さん23/01/01(日) 15:59:36

    意を決して、壁の穴に手を突っ込む。ひやり、と腕が冷気で包まれる。なんとも嫌な感覚だ。ここでとつぜん崩れたらどうしよう。そんな予想を裏切るように、かちゃ、と指先に硬い感覚があった。

    「これは……鍵、か?」

    何故こんなところに落ちているんだ。

    思いながら、グエルはそれを手に取る。ここには楽譜はなさそうだ。この鍵が使える扉を探してみることにしよう。去り際に、ふと机を見る。

    エルノラ・サマヤという音楽家に関する記事が積まれていた。


    次の部屋は、机の上に皿やら食器やらが並べられていて、晩餐会でも始まりそうな雰囲気だ。おそらく食堂、なのだろうが、何故こんな状態で放置されているのだろう?片づけないのか?

    机の上には、小さな鋏が置かれている。これものちのち使えるかもしれない。最悪武器としても使える、なんて物騒なことを考えて、ふるふると頭を振った。スレッタは敵じゃない。おそらくは。

    奥には一体の人形が置かれていた。どうやら目にあたるものがないようだ。グエルは不思議に思って、近づいて、覗き込んでみる。

    「目がないの……わたしの目……目がほしい……」

    「喋った!?」

    そういう機構があるのだろうか。中にスピーカーでも仕込まれている?人形は静かな声で、グエルに尋ねる。

    「あなたの目、青くてきれい。あなたの目をくれる?」

    dice1d2=2 (2)

    1:あげる

    2:いやだ

  • 10二次元好きの匿名さん23/01/01(日) 16:12:33

    「目がないの、目がほしい……」

    人形は再び、すすり泣くような声をあげる。

    突然こちらに話しかけるようなことを言って、怖くて咄嗟に断ってしまったが、少しかわいそうだったかもしれない。なにか目の代わりになるようなものがあればいいのだが。

    「そうだ、外の蝋燭……」

    そこで、自分が持っていた燭台の存在を思い出す。これは使えないが、外にあった蝋燭をいい感じに削れば、目らしきものが作れるかもしれない。そう思って、外に出ようと、玄関の扉に手をかける。

    __開かない。

    「なッ……」

    開かない。どうやっても開かない。鍵はかかっていなかったはずなのに。力づくでやろうにも、まるで外から押さえつけられているように、壊すどころかはじき返されてしまう。そこでふと、スレッタが言っていたことを思いだした。

    「これが、呪い、ということなのか?」

    扉は応えない。ただ、嘲笑うように、そこにあり続けるのみ。


    行ける部屋はすべて見て回ったが、目のかわりにできそうなものはなかった。残す道は、ただひとつ。

    「こっちの人形の目を取ってみるか」

    あまり気乗りはしない。だが、これは人形だ、と言い聞かせる。先程拾った鋏を、人形の眼窩にそうっといれて、くりぬくようにして抉りとった。

    直後。

    どろり、生温い何かが、グエルの指先をに触れる。突然の温度に驚いて、反射的にそちらを見る。見てしまう。

    真っ赤な液体が、グエルの手をべっとりと濡らしていた。


    『……返して……わたしの目、返して……』


    目を返せ!!

    まるで心臓を殴られたように、ど、と鈍い痛覚があった。


    dice1d2=1 (1)

    1:い……一体どういうことだ!?

    2:疲れているから、幻覚でも見たのか?

  • 11二次元好きの匿名さん23/01/01(日) 16:22:50

    グエルは階段を駆け上り、スレッタの元へ走る。スレッタは笑いながら、ピアノを弾いていた。
    「あ、グエルさん」
    「一体どういうことだ、スレッタ・マーキュリー!」
    グエルの怒鳴り声に、スレッタはきょとんとしたような顔をする。どういうこと、とは?そう言わんばかりの表情に、グエルは血に濡れた鋏と、未だ暖かいままの目玉を握りしめて、今しがた起こったことを説明しようとする。なのに、恐怖からか焦燥からか、それとも言い訳に慣れていないからか、何の言葉も出てこない。スレッタはその様子を見て、何が起きたのかを悟ったのだろう。ああ、と言って、ぽんと手をたたいた。
    「言ったでしょう。この屋敷は呪われているのですよ。それでよく分からないことがよく起こるんです」
    「は、……」
    「グエルさんも呪いに干渉されて、悪い夢を見てしまったんですね」
    何てことない様子でそう言って、スレッタは再びピアノを弾き始める。聞いたことのない曲だ。なんだか心が落ち着く。そこでようやく、自分が突然ほとんど理不尽に怒鳴ってしまった事を思い出した。気まずさに襲われて、グエルは頭を下げる。
    「すまなかった」
    「いいんですよ。ねえ、グエルさん、私、ピアノを練習したんです。上手ですか?」
    「……ああ、とても」
    「えへへ。練習してよかったです」

    とりあえず落ち着いたグエルは、再び一階に降りて、目がなかった人形に人形の目を渡す。人形は嬉しそうに、これで見えるようになった、と言った。これも屋敷の呪い、というやつなのだろうか?
    なんだかどっと疲れた。とにかく別のところも探してみることにしよう。そう思ってため息をつき、踵を返したところで、人形が再び喋り出す。
    「お礼にこれ、あげる」
    何かをグエルに差し出した。
    よく見ればそれは、楽譜であるようだった。

    『ピアノソナタ第十四番 月光』

  • 12二次元好きの匿名さん23/01/01(日) 16:57:39

    二階に戻ると、どうやらスレッタはぼろぼろのソファに座り込んで、どうやら休んでいるようだった。近づいてみると、スレッタは無邪気に笑いかけてくる。
    「グエルさんは十八歳ですね。私の一つ上です」
    「そうか」
    何故知っている、とは聞かないことにした。代わりに手の中の楽譜を差し出して、「見つけてきたぞ」と言う。スレッタは目を輝かせて、わあ、と歓喜の声をあげた。
    ……歌。
    グエルは手の中の楽譜に目を移す。月光はピアノ用に書かれたものだ。歌うための曲じゃない。おあつらえ向きにここにはピアノがあるのだし、と思い、先程までスレッタが座っていた椅子に座る。
    ピアノなら、多少はできる。
    最近触れてはいなかったけれど。グエルは確かめるように、ぽーん、ぽーん、と数度試しに指を置いてみてから、ゆっくりと弾き始めた。波にうかぶ小舟のような、寂しげな嘆きの声のような、切なくも幻想的な曲目。「私は彼女を愛している。彼女も私を愛している。しかし身分が違うのです」__引き裂かれた恋人。愛しい貴方へ。
    「ちがう。上手でしたけど、私が聞きたいのはこれじゃないです」
    最後の一音が響き、ふと顔をあげると、すぐ背後にスレッタが来ていて、グエルは思わず声が出そうになった。スレッタは頬を膨らませて、怒るようにグエルを見やる。
    「ピアノは私が引きます。グエルさんは歌ってください」
    「いやだ」
    「約束」
    「……」
    グエルは俯いた。角度によっては、それは頷いたようにも見えるだろう。スレッタは微笑んで、ピアノに触れる。
    「一階に、確か可愛いお洋服があったはずです。着替えれば、きっと、気分も変わりますよ」
    どうやら譲る気はないようだ。
    根負けしたようにうなずいて、立ち上がる。そうして再び、下の階に向かった。

    『愛しいあなたへ』

  • 13二次元好きの匿名さん23/01/01(日) 18:01:46

    クロエのレクイエムだっけ?
    これ結構好きだったんだよな

  • 14二次元好きの匿名さん23/01/01(日) 20:42:08

    ホールの机にあった鍵を手に取って、下の階に降りる。おりきって、その時ふと、どこからか、なあん、と猫の声が聞こえた。

    頭を振ってみるが、猫らしき姿は見つからない。

    気のせいか、と思いそのまま、先に進むことにする。早く衣装を見つけて、呪いとやらを解かなければ。……一生この館から出られなかったら、普通に餓死してしまうかもしれないし。

    鍵を、開ける。

    どうやらそこは、図書室であるようだった。この量を紙で保存しておくとは、また、珍しい。ざっと回ってみたが、蔵書数はかなり多いであろうことがわかる。ここを探すのは骨が折れそうだ。

    蔵書目録のようなものがないかと、机の上を見てみる。羽ペンとインクはあったけれど、どうやら白紙であるようだ。とりあえず手に取って、持っていくことにする。

    ……これらすべてを見ていたら、日が暮れてしまう。探す場所を絞っていこう。多くて、それ以上は難しい。

    どこを探そうか?

    dice1d3=1 (1)

    1:兄弟に関する小説

    2:音楽の解説書

    3:古い新聞

  • 15二次元好きの匿名さん23/01/01(日) 20:45:23

    ※ここで一人称を決めておきます

    dice1d3=2 (2)

    1,2:僕

    3:俺

  • 16二次元好きの匿名さん23/01/01(日) 21:01:10

    文学関連コーナーを見て回ているときに、ふと、『エルノラ・サマヤ』という文字を見つける。その名は先程、目にしたところだ。なんとなく気になって、手に取ってみる。どうやらそれは、よく似た兄弟、その弟を主人公とした小説であるらしい。

    『僕には兄がいました。幼い頃から、兄弟というだけでいつも一緒に過ごし、周りからも仲良しとして通っていました。しかし、成長していくにつれて、気づいてしまいます。僕と彼は、あらゆる点で違っていました。彼は、強い、選ばれた人間です。僕は汚れた紛い物で、ただのパーツにすぎませんでした。
    だけどそれでよかった。僕のすべてが、彼を完璧なものにする何かになれたらよかった。何故なら僕は彼を愛していたから。とにかく、なんとかして、彼を、完全なままにしたい。
    だけども彼は、神ではなかった。
    彼は僕の思うままではあり続けてくれない。ある夜、僕は祈りました。「僕は兄さんを永遠にするために、何をすればいいだろうか」一体何を。福音書の通りにすればいいのでしょうか?月の綺麗な夜でした。
    あくる朝、異様なにおいで目が覚めました。目を開けると、そこには彼の死体がありました。視線を下に移すと、

    そこには血にまみれた僕の手のひらがありました。

    僕は兄さんを殺してしまった。兄さんの血で染まった僕の顔は、あまりに醜かった。僕は兄さんの死体を抱き』

    「面白くない」
    まだページの途中ではあるが、顔を顰めて本を棚に戻す。どうやらエルノラ、とやら、と、趣味はあわないようだ。
    これ以上ここにいる理由もない。さっさと次に行こう、と立ち上がり、グエルは図書室をあとにした。

  • 17二次元好きの匿名さん23/01/01(日) 21:08:13

    『愛しいあなたに捧ぐ』

    床の罅のうえに、いつの間にか真っ赤な薔薇の花束が置かれていた。触れてみる。生花だ。こんなところにあったら枯れてしまうだろうに。だが、水道らしきものは見つからない。仕方なく、放置していくことにする。

    次はこちらの部屋を探索しよう、と思い、扉の前で立ち止まる。大きな大理石の像がある。グエルはそこそこ体格に恵まれた方だが、それよりも大きい。少し押してみたが、床に固定されているのかと思うほど重く、動かせそうにない。

    「どいてくれないか」

    ダメもとではなしかけてみる。やっぱりだめだった。そういうところは融通をきかせてほしいところである。呪いとやらは空気が読めないやつだ。

    なにとはなく、像の視線の先を見る。

    女性と男性が描かれた絵画がある。再び像の方を見る。どうやら男性の姿をしているようだ。悲しそうな顔をしている。

    __愛しいあなたに捧ぐ、か。

    もしかして、この絵が気に食わないのだろうか?

    悩んだ末にグエルは、

    dice1d2=1 (1)

    1:インクで絵の男を塗り潰した。

    2:伺うように彫像を見つめてみた。

  • 18二次元好きの匿名さん23/01/01(日) 21:10:52

    待ってた

  • 19二次元好きの匿名さん23/01/01(日) 21:25:42

    このレスは削除されています

  • 20二次元好きの匿名さん23/01/01(日) 21:28:04

    >>19 誤字芸です!!本日二回目 殺してくれ)


    羽ペンでは難しいだろう。はけをインクに浸して、男の姿を塗り潰してみる。躊躇ったらたぶんできなくなってしまうから、思い切り。べたり、と、


    瞬間。


    つんざくような絶叫が耳朶を打つ。グエルははっとして、あたりを見渡す。彫像が、やけに晴れやかな顔をしてこちらを見ていた。ずり、ずり。にじり寄ってくる。グエルはとっさにそこを退いた。彫像は邪魔な男がいなくなって、ちかくからあの女性を見つめられるようになった、ということか。つまり、俺は何をした?半ば現実逃避のように、汚れたはけを捨てる。これで先に進めるようになった。それでいいじゃないか

    ……これは呪いだ。スレッタも言っていた。この館の呪いが悪夢を見せると。

    グエルは見なかったことにして、彫像がふさいでいた扉を開けた。


    部屋はどうやら物置か何かであるようだ。

    様々な楽器がある。割れたシャンデリアが落ちている。部屋の奥のクロゼットには、スレッタが言った通り、衣装もいくつか置いてある。大抵はおそらくスレッタにあわせたものなのだろうが、いくつかはグエルにも着れそうだ。

    ……どれにしようか?


    dice1d6=2 (2)

    1:アスティカシア高等専門学園の制服

    2:ぴっしりと糊のきいたスーツ

    3:聖職者風の装飾が施されたカソック

    4:中世貴族のようなフロックコート

    5:リボンとフリルたっぷりのゴシックなセットアップ

    6:メカぐるみ(ダリルバルデ)

  • 21二次元好きの匿名さん23/01/01(日) 21:55:44

    一番着慣れたスーツが、たぶん動きやすくていいだろう。そう思ってグエルは、手早く着替えを済ませる。
    白いシャツ、黒いネクタイ、胸には花を。ジャケットの色は反対で、紺。歌うときはいつも揃いのスーツを着ていた。……思い出したくなかったのに、どうしてこんなものが、こんなところにあるのだろう?
    サイズはぴったりだ。まるでグエルのために誂えられたように。不思議だ。思いながら、とにかくさっさとスレッタのところに戻ろう、と歩き出す。髪が邪魔だから結ぶのもいいかもしれない。そうやって、歩き出した、ところで。
    こつん
    こつん
    こつん
    足音が、聞こえる。嫌な予感がする。後ずさる。扉が、開く。そこには。
    サーベルを持った、血まみれのスレッタが立っていた。
    彼女はまっすぐにこちらにやってくる。グエルは走り出す。相手の方が足が速い。殺される。殺される。殺される!逃げなければ!!息が上がる。心臓が痛い。肺が悲鳴をあげる。体当たりして扉をこじ開け、二階への階段を駆け上がる。
    辿りついたホールで、きれいなままのスレッタが、ピアノを弾いていた。
    血まみれでは、ない。スレッタはきょとんとしたような顔をして、「どうしたんです、グエルさん?」と尋ねた。じゃあ、あれは__あれも、館が見せた、悪夢、呪い、ということか。
    「いや、なんでもない。歌えば、いいんだよな」
    「ありがとうございます。私がピアノを弾くので、グエルさんは歌ってください」
    スレッタの笑顔は、子どものように無垢だ。

    「スレッタ」
    とおくで声が聞こえる。スレッタはピアノの前から立ち上がって、そちらに歩く。
    「おかあさん」
    笑えば、母はゆっくりとスレッタをかき抱き、頭を撫でてくれた。その手は優しくてあたたかい。ああ、安心する。
    「スレッタ、もう少ししたら新しい曲を作り終えるからね。そうしたら私の部屋においで」
    「……うん」
    スレッタの頬から笑顔が消える。ただ、小さく頷いて、再びピアノに向き合う。
    痛いのは嫌いだ。怖いのも嫌いだ。だけど、お母さんは。お母さんに嫌われるのは、もっといやだ。
    だからスレッタは三階への階段を歩いてのぼる。進めばふたつ、得られるはずだから。

    「……スレッタ、痛い?でもね、お母さんも痛いの。あなたが辛そうな顔をしていると私も辛いの。愛してるわ、スレッタ」
    スレッタ、あなたは私を愛してる?
    「うん、お母さん。愛してるよ」

  • 22二次元好きの匿名さん23/01/01(日) 22:08:51

    光が、あふれる。
    グエルは最後の一節を歌いきると、ゆっくりと瞼を開けた。心臓が燃えるように熱い。スレッタはピアノの前から動かない。しばらくののち、静かにグエルの方を見つめた。
    「……ずっと、ずっと。これが聴きたかったんです」
    そうして、柔らかに微笑む。
    「ありがとうございます、グエルさん。素敵な歌でした」
    そこに一切の嘘も虚飾もない。ただただまっすぐで、純粋な感情だ。グエルの心臓が奇妙に跳ねる。釘付けになってしまいそうなところを、なんとか必死に目を逸らした。
    「歌うための曲じゃないから、歌詞は適当な讃美歌からの引用だし、ほぼ全部即興だが……」
    「いいんです、それで」
    スレッタはひょいと椅子から降りる。それからすうと笑顔を消して、悲しそうな表情をする。
    「でもまだ足りないんです。また、歌ってくれますか」
    「何を」
    「わかりません」
    グエルの眉がぴくりと動く。スレッタはそれに構わず、つづけた。
    「探して、グエルさん。呪いを解く鍵は、この屋敷の中にあるはずだから」
    「……わかった」
    とにかく、従わなければ困るのはグエルも同じだ。どうやら歌いさえすれば呪いの一部は解けるらしいし、さっさと次の楽譜を探すことにしよう。

    __スレッタ、あいしてるわ
    だからあなたが私から去ってしまったら たとえ
    たとえ命があっても、あなたは私にとって死んだのと同じ

    一階に降りた瞬間、まず気づいたのは明かりがついていることだ。柔らかで、あたたかい、月光のような光が。それに呆けたと同時に、時計がぽおんと鐘を打つ。はっとしてそちらを見ると、古ぼけた時計が音を刻み始めた。この屋敷が、正常に動き始めている?とにかく、事体が好転していることは確かであるようだ。
    「これは……」
    明るくなって初めて気づいた。どうやらカーペットの上に、鍵が落ちていたらしい。これが最初から落ちていたのか、それとも元は屋敷の呪いによって隠されていたのか、それまではわからないけれど。
    とにもかくにも、これで先に進むことができる。グエルはそれを手に取って、再び歩き出した。

  • 23二次元好きの匿名さん23/01/01(日) 22:25:27

    鍵を開けて、足を踏み入れた、瞬間__何か、不気味な視線を感じる。気のせいだということにして、部屋の中を探り始めた。

    どうやら使用人の部屋らしい。ベッドがいくつか置いてある。ただ、当然というべきか、荒れ果ててしまっている。ティーポットは空だし、あちこち誇りまみれだ。花がしおれていないのは、ひとえに造花であるゆえだろう。

    机の上に、数枚の紙が置いてある。どうやらそれは、音楽の解説を抜粋したものらしい。

    『トロイメライ(子供の情景より)

    シューマンの作曲した名曲。全十三曲からなる「子どもの情景」の第七曲で、「トロイメライ」とは「夢」という意味である』

    つまるところ、探せばトロイメライの楽譜があるかもしれない。ぬいぐるみの中に硬い感触があったから、うまく糸を切ってばらしてみたら、中に鍵が入っていた。また鍵か。……この屋敷、鍵がかかっている扉が多すぎないか?また部屋の中をぐるぐると回ってみると、小さな紙片がおちていることに気づいた。

    この大きさは楽譜ではないだろう。しかし何か、手がかりになるかもしれない、そう思って、手に取ってみた。


    『あなたのうしろ』


    反射で、振り返る。

    何対もの真っ赤な眼差しが、じっとグエルを見つめていた。


    「__ッ!!」


    グエルはひゅっと息をのむ。圧迫感。見られている。じわ、と視界が滲んで、ようやく、どうやら自分のひとみに涙が浮いていることに気づく。はー、しゅー、呼吸の音が変だ。ああ、違う。そんなはずはない。俺は。俺は。俺は!

    「………………」

    dice1d2=1 (1)

    1:スレッタのところに行ってから次の部屋に進む

    2:このまま真っ直ぐ次の部屋に進む

  • 24二次元好きの匿名さん23/01/01(日) 22:39:57

    「スレッタ」
    「グエルさん?どうしたんですか?」
    スレッタはいつも通りの笑顔に、どこか心配そうな色を浮かべていた。説明したい。説明させたい。あの目を。恐怖を。呪いとは何か。お前は何者だ。……怖い。なのに、くちからは何の音も出てこない。
    スレッタはその様子を見て、しばらく考えるような素振りを見せる。それからゆっくりと、右の手を振り上げた。殴られる!咄嗟に身構えるが、いつまでたっても衝撃はやってこない。ただ、ぽん、ぽん、と頭を軽く撫でられた。
    「あのね、グエルさん。私嬉しいんです」
    「……、」
    「さっきからずっとあったかいきもち。ありがとうございます」
    スレッタの笑顔は、明るい。
    グエルはそれをしばらく見つめて、小さく笑った。あったかいきもち。それは、こっちもだ。どうしてこんな気持ちになるんだろう。この気持ちは、なんだろう?わからないまま、立ち上がる。楽譜を探してくる、と言い残して。

    次の部屋はどうやら、スレッタの父親の部屋らしい。というのも、部屋の壁に、スレッタにどこか似た男の肖像画がかけられていたから、なんとなくそう思った、というだけだ。ただ、割れたワインの瓶が散らばっていたり、あちこち埃をかぶっていたり、何か__嫌な臭いがする赤いものが、べっとりと壁にこびりついていたり、と、こちらもやはり荒廃した印象を受ける。
    本棚をみてみると、どうやらそれは日記のようだ。開いてみると、めちゃめちゃな字で色々と書きなぐられている。ギリギリ解読できそうなところを繋ぎ合わせてみると、スレッタの母親がスレッタにかなり目をかけていたらしいこと、使用人に何かまずいものを見られたらしいこと、口封じのために使用人を刺して回ったこと、
    「『娘は狂っている』」
    狂っているのはどっちだ、とグエルは端的に思った。もしこれが本当なら、……この屋敷で、起こったことは__
    考えないことにしよう、と思って息を吐く。そうして日記を返そうと本棚に向き合った瞬間、ぽとり、と鈍く輝く鍵が落ちてきた。

  • 25二次元好きの匿名さん23/01/01(日) 23:00:30

    鍵は隣の扉に使えた。どうやらそこは、スレッタの部屋であるらしい。子どもらしい家具がいくつかある。
    ……にしても、暗い。異様なまでに。せっかく燭台があるのに、ろくな光源になりやしない。部屋にはたくさんのぬいぐるみや人形、それに大きな暖炉がある。ここに火をいれれば、と思ったが、よくよく見ると薪がない。このままでは火がもたないだろう。
    あまり褒められたことではないが、手近なぬいぐるみと木製のロボットの人形を投げ入れて、そこに火をつける。ぼう、と、思った以上に早く燃え広がった。これで明るくなる、と息をついた瞬間、
    「熱い、いたい、だれか、たすけて」
    悲鳴じみた声が聞こえて、はっと目を見開いた。
    見ると、暖炉の中から、何か影のようなものが伸びている。襲われたらどうしよう。その一心で距離を取ると、影は存外気安く、「やあ」と話しかけてくる。
    「君のおかげで出られたよ、ありがとう」
    「は、お前は……?」
    「僕は、そうだね……スレッタのともだち、とでも言えばいいかな。正確には、彼女の記憶のひとかけらだけど」
    「つまりどういうことだ」
    グエルが低く尋ねると、影はしばらく沈黙する。それから、「子どもの情景」と呟いた。
    「あれは大人が昔を振り返る曲だ。きっと彼女には、必要なもの」
    「スレッタに」
    「僕のもとに何か思い出の品を持ってきて」
    「……、わかった」
    立ち上がり、部屋を探そうとしたとき。再び、なあん、と猫の声がする。振り返ると、白と黒、二匹の猫がそこにいた。
    「いつの間に入り込んだんんだ、お前ら」
    グエルはそれで、気づく。さっき聞こえた猫の声はもしかして、
    「るぶりすさん、みおりねさん!」
    スレッタの声が響く。彼女はぱたぱたと部屋に入ってきて、二匹の猫の前にかがみこんだ。
    「もう、こんなところにいたんですね、探しましたよ」
    「そいつらはお前の飼い猫か」
    「はい。るぶりすさんと、みおりねさんです」
    「……独創的な名前だな?」
    「一生懸命考えたんです!……ところでグエルさんはどうしたんですか?誰もいないところでお話して」
    「別に」
    グエルは言って、立ち上がる。ともだちは、何も語らない。スレッタはしばらく暖炉を見つめたあと、猫たちをつれて元の部屋に戻っていった。

  • 26二次元好きの匿名さん23/01/01(日) 23:08:04

    猫がルブリスとミオリネならともだちがエアリアルかな?
    配役滅茶苦茶いいな…

  • 27二次元好きの匿名さん23/01/01(日) 23:17:54

    ミオリネさんとっても頼りになりそうな猫だ

  • 28二次元好きの匿名さん23/01/02(月) 06:45:08

    このレスは削除されています

  • 29二次元好きの匿名さん23/01/02(月) 07:07:31

    元ネタ知らないけど面白いねこれ


    >>24で殴られると思って身構えたところは心がギュッと痛くなった

  • 30二次元好きの匿名さん23/01/02(月) 12:55:00

    スレッタを見送ったあと、グエルはなんとなく、足元にあった汚れた人形を手に取る。これは思い出の品だろうか。スレッタの孤独の象徴にはなっても、家族の思い出にはなり得ないかもしれない。ゆっくりと、部屋の中を見て回る。
    暫く歩き回っていると、『ジェターク家主催音楽会 特別招待状』という紙を見つけた。グエルは何とも言えない顔てそれを見やる。……これを燃やせばよかった。そうすればきっと、いい具合に燃えただろうに。しかしこれで、スレッタがグエルの名を知っていた理由に察しがついた。おそらくここで、見たのだろう。
    __忌々しい。
    顔をしかめ、視線を逸らす。そらした先、クレヨンで書かれた幼い絵があった。
    「準備はいい?」
    ともだちはグエルに尋ねる。グエルは頷いて、絵を暖炉の中に放り込んだ。ぼう、と燃える。燃える、燃える__そうして、揺らめく炎の中に、何かが見えた。

    「ねえ見て、絵をかいたの。上手にできたかな」
    「わあ、すごいね。なかよしのかぞくだ」
    「うん、がんばったの」
    「お父さんとお母さんにも見せてきたら? きっと喜ぶよ」
    「うん!」
    スレッタは喜んで部屋から出ていこうとする。そこに、スレッタのお母さんが現れた。
    「あ、お母さん!あのね」
    「スレッタ」
    「お母さん?」
    「あなた、今年でいくつ?」
    「よんさい!」
    「そう」
    スレッタのお母さんは部屋から出ていく。スレッタはしばらく悲しそうな顔をした後、絵を机の上に置いて、ベッドに向かった。
    「……おやすみ、スレッタ」
    そう言ってあげられるのは、僕だけだった。

  • 31二次元好きの匿名さん23/01/02(月) 16:11:07

    原作も可哀想だけど4歳だと滅茶苦茶悲壮感凄いな…

  • 32二次元好きの匿名さん23/01/02(月) 16:11:24

    「……」
    幻が消える。
    我に返ると、暖炉の火は消えていた。燃えかすの中に、何かが落ちている。灰まみれになるのも厭わずに手に取ると、それはどうやらちいさな鍵であるようだった。
    鍵をつかって、部屋の中にあるおもちゃ箱をあける。中にはおもちゃの小太鼓が入っていた。大きさからしておそらく何かの付属品だろうと思い、部屋の中を見て回ると、ばちをもった人形を見つける。それにもたせてみると、人形はひとりでに音楽を奏で始めた。ぼんやりとそれを聞く。スレッタもかつて、このように、音楽を聴いていたのだろうか?
    ……考えても、仕方のないこと、か。
    さっさと次に行こうと立ち上がったところで、グエルはようやく自分が何かを持っているらしいことに気づく。よく見るとそれは、『トロイメライ』の楽譜だった。

    ホールに戻ると、スレッタはしょぼくれたような顔をしている。
    「さっき突然大きな音がして、ピアノが壊れてしまったんです」
    スレッタは泣きそうな顔で続けた。
    「どうしましょう。私、どうしたら……」
    「な、泣くな。お前に泣かれるとどういたらいいかわからなくなる。他にピアノがある部屋はないのか?」
    「あります。この上の階に……でも、呪いが強すぎて……」
    近づくことすらできない、と。
    スレッタが言いかけた時、なあん、と猫たちがなく。白いほう__みおりねが階段に近づくと、光が、あふれる。とたんに嫌な感じが消えて、息がふっと軽くなった。
    唖然として、グエルはそれを見つめる。スレッタも呆けたような顔でそちらを見ていた。……とにかく、今なら大丈夫だろう。
    壊れてしまったピアノに背を向けて、グエルは三階に向かうことにした。

  • 33二次元好きの匿名さん23/01/02(月) 19:53:44

    「……この部屋、見覚えがあるような」
    あるにはあるのだが、どこで見たのかまでは思い出せない。気のせいか、と独り合点して、先に進むことにする。
    スレッタが言っていた三階のピアノは、すぐに見つかった。ステージの上に安置してある。早速スレッタに報告しに行こう、と思ったところで、鍵盤が数個抜けていることに気づいた。これでは弾くことができない。修理できる保証はないが、とにかく探すしかないだろう。
    床にはまた、鍵が落ちている。
    とにもかくにも、これで次の部屋に進むことができる。階段を降りようとしたところで、ふと、るぶりすの首に鈴がついているのが見えた。

    鍵を開けて、中に入ると、またあの嫌な視線を感じた。
    『あ、あ、旦那様、わたし、』
    部屋の中はやはり荒れ果てている。壁に蔦さえ這っていて、荒れる、というよりは荒廃している、の方が近いかもしれない。ベッドは何か赤いものでべっとりと汚れていて、これが何なのか考えたくはない。
    机の上には小さなメモが残されていた。グエルは手に取って、読んでみる。
    『きったみられただからあいつをずたずたにしたはやくしたいをもやさなきゃ』
    ……ずたずたにした、とは、これのことか?
    グエルは足元のぬいぐるみを見た。めちゃくちゃに引き裂かれている。燃やす? 疑問に思いながら、燭台の火を移してみる。これでいいのだろうか。
    しかしどうやら、ここには目当てのものはないらしい。一度見て回った部屋をもう一度回るのもいいかもしれない、と立ち上がった。

  • 34二次元好きの匿名さん23/01/02(月) 21:52:01

    変化はすぐに見つかった。メモの内容が変わっていたのだ。
    『見られた見られた見られた見られた やめさせた 消した あとふたり あとふたりどうしよう』
    ……まさか、とは思うが。
    スレッタの父親は、何かを「みて」しまった使用人を、殺して回ったのか?
    そんなわけがない、とは思う。……そうであってほしくないとは思う。いやでもそうとしか。そう思いながら隣の部屋に戻ると、ぬいぐるみが四つ、くたりと首をもたげていた。
    「見立てというやつか?」
    この屋敷の怪現象にもそこそこ慣れてきたグエルは、すぐにそれをどうすればいいのか理解する。つまるところ、このぬいぐるみを焼いていけばいいのだろう。あまり気乗りはしないが、とにかくやるしかない。握りしめた燭台で火をつけて、ひとつずつ、順に、燃やしていく。……そういえばこの蝋燭、減る気配がない。ふたつが灰になったところで、ふと、扉を押し開けて、猫たちが部屋に入ってきた。
    「みおりね? るぶりす?」
    猫たちがぬいぐるみで遊び始める。ああ、そんなことすると、ずたずたになってしまう。止めようとしたところで、気づいた。
    ぬいぐるみの中に、鍵盤が入っている。
    よかった。鍵盤ごと燃やすところだった。ほんとによかった。グエルはほっとして、猫たちを呼び寄せる。「ありがとう、みおりね、るぶりす」撫でてやれば、二匹はなあんと気持ちよさそうな鳴き声をあげた。

  • 35二次元好きの匿名さん23/01/03(火) 00:05:12

    二匹に手を振ってから、扉に手をかける。はやく戻って、ピアノを直さないと、__

    開かない。

    そんなはずはない。もう一度ノブを回す。開かない。鍵がかかっている。どこからともなく声が聞こえてくる。

    『これで邪魔者はいなくなった! あとはあれだけだ』

    見ると、先程燃やしたはずの絵が、机の上に戻っている。なぜこんなところに。これはトロイメライの楽譜になった、そのはず。いつの間にか、ベッドが血まみれになっている。

    「……」

    しばらく考えたあと、先程の声を思い出す。掌には、人形の血でべっとりと濡れたままの鋏が握られていた。

    じゃきり じゃぎり じゃぎり

    絵を、切り抜く。スレッタの部分だけを、きれいに。そうしてスレッタの父であろう男と、母であろう女をくっつけるように動かしてみる。どこからか、つんざくような哄笑と、鍵の開くような音がした。グエルは音のした方を見て、少し考える。そうして、

    dice1d2=2 (2)

    1:切り抜いた絵を持っていくことにした。

    2:早くスレッタの元に戻ろう、と歩き出した。


    「鍵盤、ありましたか?」

    「ああ」

    スレッタの目が輝く。グエルはピアノの前に行って、鍵盤をはめ込んでみる。これだけで直るとは思っていなかったが、試しに押してみると、ぽーん、と普通に音がする。

    「よかった。グエルさん、ありがとうございます」

    「……大袈裟だな」

     グエルは半ば投げるようにして、『トロイメライ』の楽譜をスレッタに渡した。

    dice1d2=2 (2)

    1:せっかくなのでおきがえするよ 2:ふつうにそのまま演奏するよ

    1が出た場合dice1d5=3 (3)

    1:アスティカシア高等専門学園の制服

    2:聖職者風の装飾が施されたカソック

    3:中世貴族のようなフロックコート

    4:リボンとフリルたっぷりのゴシックなセットアップ

    5:メカぐるみ(ダリルバルデ)

    6:やっぱりおきがえしないよ

  • 36二次元好きの匿名さん23/01/03(火) 02:14:20

    あっ…()

  • 37二次元好きの匿名さん23/01/03(火) 08:25:47

    「エアリアル、お父さんに絵を見せてきたよ!」
    「それはよかったね、お父さんはなんて?」
    「ありがとう、って。受け取ってくれたの」
    「きみが頑張って書いたんだ、当然だよね」
    それを聞くと、スレッタはふっと笑みを消した。そうして心配するように、少しだけ眉を顰める。
    「でもお父さん、体調が悪いんだって。最近お母さんも様子が変だし」
    「きっとなにかあったんだよ」
    「……よくないこと?」
    僕はしばらく考える。それからスレッタを安心させるために、極力優しい、穏やかな声で告げた。
    「大丈夫だよ。僕がいるから」
    「エアリアル……」
    そう、大丈夫。お母さんはすぐに元通り。お父さんも元気になる。そのはず。スレッタは人形に太鼓をもたせる。どこどこどん。可愛らしい音がする。わあ、とっても上手。ニコニコ笑って無邪気に褒めているところに、がちゃ、と音がして、お母さんが入ってきた。
    「お母さん?」

    『ああ、ぬいぐるみに血がついてしまったわ。……まあいいか。あなたは私のために存在する。だって私の娘じゃない。逆らわないで、いいわね?返事は』
    __はい、お母さん……。

    エアリアル?
    どうして、いないの?
    怒ってるの?
    私のこと嫌いになったから、返事をしないの。
    …………。

  • 38二次元好きの匿名さん23/01/03(火) 08:26:58

    __光が溢れる。
    何か、瞼の裏に何かが見えた気がして、グエルは一瞬、呆然とする。その様子を不思議に思ったのか、スレッタがピアノから指を下ろして、グエルの方を見上げる。
    「どうしたんですか?」
    「ああ、いや……歌うのが、楽しくて」
    「そうですか。とっても、素敵な歌でした。ありがとうございます」
    スレッタは言葉を切る。でも、まだ、みたいです。まだ。そうか。喉はまだ余裕がある。グエルはなんてことない調子で続けた。
    「次は何を歌えばいい」
    スレッタは黙りこくる。わからないのか。まあそれなら探せばいい。立ち上がると、スレッタは俯いたまま呟く。
    「迷惑ばかりかけて、ごめんなさい」
    「別にいい」
    「いいんですか?」
    「ああ、いい」
    グエルはそう返事して、そのまま立ち去った。

    __スレッタ、あんなに愛していたのに
    もう 撫でることもできない
    私が殺した

  • 39二次元好きの匿名さん23/01/03(火) 16:43:40

    あのときと同じように、二階の暗闇が晴れている。
    ということは、もう一曲歌えば、呪いは完全に解けるのだろうか? と、なんとなく考えながら、部屋を巡ってみる。もうあの不気味な視線は、感じなかった。
    床に、鍵が落ちている。
    どうやら三階の鍵のようだ。再び階段をのぼり、三階に戻る。鍵を開けると、ドレッサーやロッカーが置いてあり、どうやら楽屋か何か、らしい。手紙が置いてある。手に取ってみると、それは新聞記事の切り抜きと、こちらへの呼びかけを並べて書いてあるようであった。
    『チェロが殺された。
    昨夜未明、弦を切られて無残な遺体になったチェロが発見された。どうか犯人に制裁を加えてほしい』
    制裁。
    部屋をみわたしてみると、確かにチェロと書かれたロッカーの前の床に血痕がある。開けてみると、確かにに楽器が破壊されていた。つまるところ……これも、見立てということか?
    ロッカーの奥にしまわれていた__何とは言わないがバルバトスな大槌を手に取って、グエルは最初のホールに戻った。

    なにやら人の気配もある。いつの間にやら舞台の前には観客席が用意されていた。あいにく姿は見えないが、とりあえず近づいてみる。
    「……なんだ?」
    こちらからは話しかけられないようだが、どうやら何かざわざわと話しているらしい。チェロが殺された。残念だ。オーボエとクラリネットが犯人を見たらしい。バイオリンにはアリバイがある。犯人はチェロより小さい__
    誰もいないところから声がする不可解は、もうこの屋敷にすっかり慣れきっていたグエルは簡単に受け容れられた。そして話を全て信じるなれば、犯人はおそらくフルートなのではないだろうか、と目星をつける。この手の推理と勘にはそこそこ、自身がある。
    しかし制裁とはどうすればいいのだろうか。制裁(ばるばと)すればいいのだろうか。そう思いながら楽屋に戻って、フルートと書かれたロッカーに触れてみる。
    「……やるしかない、か、!」
    グエルは思いっきり腕を振り上げて、ロッカーを破壊する。
    壊したロッカーの残骸に、小さな鍵がおちていた。

  • 40二次元好きの匿名さん23/01/03(火) 17:16:40

    「これは……スレッタの母親の部屋の、鍵?」

    嫌な予感がする。

    あまり行きたくはないが、ここ以外に行ける場所もない。立ち止まっていられる状況じゃないのだ

    とにかく、行くしかない。そう思って意を決して中に入り込むと、途端になにか、……ぞっとするような、感覚がある。息をのむ。心臓が、どくどくと早鐘を打つ。はっとして視線を下に滑らせた。

    床に、べっとりと血がついている。

    ここで何が起きたのかは、わからない。だがとにかく、あまり長居したいとは思えない。さっさと楽譜を探して出ていこう。

    楽譜がありそうな場所。

    というと、やはり本棚だろうか?

    そう思ってそれらしき棚を探ってみる。残念ながらそれらしきものは見つからない。ただ、『愛しい娘の成長記録』と書かれたアルバムは発見した。

    「なんだこれ……?」

    妙な胸騒ぎがして、読み進めてみる。


    スレッタによく似た少女が、

    悲痛な表情を浮かべた写真が、

    大量に、貼られている。


    「なんだ、これ……!」

    それは、

    おぞましく、

    おそろしく、

    汚らわしく、

    あ。

    あ、ああ、あ、あ!

    dice1d2=2 (2)

    1:ページを、捲る。

    2:いや待て、……いったん落ち着こう

  • 41二次元好きの匿名さん23/01/03(火) 17:23:40

    >制裁(ばるばと)すればいい

    笑ったわ、ちょっと悔しい

  • 42二次元好きの匿名さん23/01/03(火) 17:40:09

    グエルは深呼吸をする。
    写真がなんだ。こんなものいくらでも捏造できる。これが本当にスレッタである保証はないし、仮にもし本当にこれが起きていたのならば、なんだ。そもそももしスレッタがこんな目にあっていたのであれば、あんな明るい笑顔で、あんな優しい声で__生きて、グエルと会話していること自体がおかしいじゃないか。
    自分に言い聞かせるように言えば、落ち着いてくる。すっと頭が冷えて、なんとか平静を取り戻すことができた。これでいい。よし、と気を取り直すと、最後のページに、仲睦まじげに寄り添う男女と、その真ん中にスレッタらしき少女の姿がうつされた写真があった。微笑ましさに笑みをこぼすと、その後ろに何かが描かれていることに気づく。
    「……『ピアノの裏』?」

     調べてみると、何やら工具が見つかった。これさえあれば、最後の一部屋を探すことができるだろう。そう思って先に進もうとしたところでふと、スレッタが「グエルさん?」と話しかけてきた。
    「すまない」
    「どうしたんです、グエルさんは何も悪いことしていないのに」
    「……そうか」
    グエルはそっと、スレッタの頭を撫でる。スレッタは一瞬きょとんとしたような顔をしたあと、えへへ、と柔らかくはにかんだ。
    「私、グエルさんの歌、大好きです」
    「そうか」
    グエルも、なんだか久しぶりに、心の底から笑った。

  • 43二次元好きの匿名さん23/01/03(火) 17:50:57

    2人のやりとりかわいいな…

  • 44二次元好きの匿名さん23/01/03(火) 22:30:13

    続く部屋はどうやら厨房であるようだ。カトラリーの棚や調理用具が置いてある。いくつか料理がおいてあるが、こんなところにある食事がまともであるとはおもえないし、そもそも腐っている可能性すらあるのだから、触れないでおくことにした。テーブルマナーの本を横目に歩いていると、ふよふよとういていたなにかに近づいてくる。

    「いらっしゃいませ、グエル・ジェターク様。わたしはこの館のメイドです」

    「……何故知って……いや、いい。何か用か?」

    「あなたをスレッタ様の晩餐会にご招待します」

    「晩餐?」

    グエルは少し考える。

    こんなところで出された食事をくちにするのは、少し怖い。しかし断るのもまた、少し怖い。何より少しだけ、疲労が見えてきている。

    スレッタの名をわざわざ出したということは、向こうに敵意はない、ということだろうか。悩んだ末に「わかった」というと、何かはふよふよういたまま、何故だか笑ったように見える。

    「それでは準備が済むまで、お席でお待ちください」

    「わかった」

    グエルはそう言って、

    dice1d2=1 (1)

    1:メニューをちらりと見てみることにした。

    2:そのまま一階の食堂に向かった。

  • 45二次元好きの匿名さん23/01/04(水) 03:14:17

    確認大事!!

  • 46二次元好きの匿名さん23/01/04(水) 07:56:55

    「な、んだ、このメニュー……!?」
    グエルははっとしてそれを見てみる。なんだ臓器のステーキてふざけてるのか。なんだ体液ティーて茶葉を使え。なんだ脂肪のかたまりてせめて取り繕え!
    グエルは本能で察する。
    この館はやりかねない。
    マジでこのメニューを食わせかねない。
    ふっと息を吐いて、拾った羽ペンとインクでさらさらとメニューを書き換える。これで何か変わるのかはわからないが、やらないよりはずっとましだろう。とりあえずほっとして、食堂に進む。引かれた椅子に座ると、食事が供されてきた。
    「……これ、とってもおいしいですね、グエルさん!」
    「ああ、本当に」
    スレッタは笑っている。
    給仕はその姿を見て、もうなくなった心臓が痛み始めるのをかんじる。彼に、スレッタを救う資格はあるのか、それを確かめたかった。……だが、そんなことは不要だった。
    彼女は強くなりすぎて制御の出来ない呪いに、苦しめられている。
    わたしには、見守ることしかできない。
    ……どうか。
    給仕は食事が終わってスレッタと談笑しているグエルの席に、『カプリース24番』の楽譜を置いた。

    『うふふ、スレッタ、スレッタ・マーキュリー……
     __スレッタのレクイエムを、現実にしなければ』

  • 47二次元好きの匿名さん23/01/04(水) 12:31:37

    「グエルさん、ごはんおいしかったですね」

    「そうだな」

    スレッタは最前列の観客席に座っている。

    グエルは一人でステージに立ち、頷いて、楽譜を取り出す。目を落とす。指先が冷たい。微かに震える。喉がさび付いたように、痛い。だけども歌うしかないのだ。

    『兄さん』

    それはあらゆる伴奏も許さない、まさにグエルにしか歌えないというほど、難しい曲だった。

    『兄さんはすごいよ、……あはは! 僕も負けてられないね』

    目を閉じれば、鮮明に思い出すことができる。

    『一緒にたくさん歌おう。そうしたらきっと、』

    とっても楽しいよ。

    ……__。

    観客席が、ざわつく。まだ子どもがこれを、信じられない、私でも歌えないのに、天才少年、歌、ピアノは少し追いついていない、彼は何故いつもあの子の伴奏で、ジェターク社には人はたくさんいるだろうから雇えばいいのに、仲がいいからと本人の希望らしい、彼とじゃないと歌いたくないと、それにしてもどうして二人で、彼は、彼は、

    一人で歌った方がいいのに。


    「疲れた」

    「そうだね、連日だもんね」

    ラウダは微笑んで、グエルに紅茶を勧めてくる。グエルは一口それを飲んで、大きくため息をついた。まったくだ、もう歌うのはこりごりだ。

    「でも皆兄さんの歌をほめていたよ。聞いてたでしょ?」

    「そうだったのか。聞いていなかった」

    「……そっか」

    ラウダは少し困ったような笑顔を浮かべる。その時、とん、とん、とノックが聞こえてきた。返事をすると、入ってくる。そこに立っていたのはここで働いている、

    dice1d4=4 (4)

    1:フェルシーだ。

    2:ペトラだ。

    3:エランだ。

    4:シャディクだ。

  • 48二次元好きの匿名さん23/01/04(水) 13:35:47

    シャディクは元は孤児であったが、紆余曲折あってここで働いている。好意的に接してくれるので、グエルは使用人としてではなく、友人として扱っていた。彼は軽く片手をあげて、「やあ」と声をかける。
    「シャディク、どうしたんだ?」
    「なんでもないよ。グエルの顔見に来ただけ」
    「用もないのに来ないでよ。紅茶ならないよ」
    「さっきの歌はすごかった。ラウダの伴奏もね。お菓子持ってきたけど、いる?」
    「いただこう」
    「兄さん」
    咎めるように言う。それからちらりとシャディクの横顔を伺って、閉口した。なるほど? なるほどね。グエルは確かにシャディクのことを気に入っている。しかし……その、逆は?
    グエルは微笑んで、シャディクから菓子を受け取る。
    __ラウダには、関係のないことだ。そうだ、もしそうだとして、何になる。ラウダには関係のないことだ。そのはず。そう思って目を閉じれば、グエルは不思議そうな顔をしてこちらを伺ってきた。

    朝。
    部屋から出たところでシャディクとぶつかった。グエルは立ち止まって、すまない、と言う。シャディクは何も返事をしない。ただ茫然と、グエルのことを見るだけだ。
    「シャディク?」
    「あ!いや、なんでもないよ。グエルは?」
    「これから練習だ。お前も来るか?」
    「ああ、いや、遠慮しておくよ。頑張ってね」
    シャディクは思い出したように、仕事に戻っていく。グエルはそれを少し疑問に思いながらも、ラウダを待たせるのも悪い、とさっさと歩き出すことにした。

    『音楽は精神の中から日常の塵埃を掃除する__Berthold Auerbach』

  • 49二次元好きの匿名さん23/01/04(水) 13:55:07

    このレスは削除されています

  • 50二次元好きの匿名さん23/01/04(水) 18:51:36

    「やっと来た」
    「ラウダ、早かったな」
    「三時間前から。早く兄さんと演奏したくて」
    ラウダがはにかむ。そんなに待たせていたなんて。少し罪悪感を感じながら、グエルはラウダの隣に立つ。
    とにかく早く併せよう。そう思ってすっと息を吸った、
    「グエル」
    ところで、シャディクの声が響く。
    ラウダの指先が空ぶって、咎めるような音をあげた。グエルは首を傾げる。シャディクは仕事に戻ったはずでは? そう思っていると、シャディクが何かを言う前に、ラウダがため息をついた。
    「掃除?」
    「そうだね」
    「わかった。シャディクの邪魔にならないようにする」
    「……それはどっちかっていうと、俺の台詞かな」
    シャディクが困ったように笑うのを横目に、グエルは再びラウダのピアノに視線を戻す。そうして、練習を再開した。

    「兄さん、このくらいにしておこうか」
    「そうだな」
    「……それにしても、さすがだね、兄さん。こんなにきれいに歌えるなんて。……僕ももっと、練習しなきゃ」
    「ラウダは上手だぞ?」
    「ありがとう。先に休むよ」
    ラウダは微笑んで、立ち上がる。そうして部屋に戻っていくようだ。その後姿を見送って、なんとなく動けないままでいると、ずっと傍で聞いていたらしいシャディクが歩み寄ってくる。
    「グエルはすごいね」
    「そうか?」
    「ああ。俺、グエルの歌が好きだ」
    「そうか。ありがとう」
    シャディクに対して屈託のない笑みを見せてから、グエルも部屋を後にする。ラウダはまだ勉強をしているのだろうか? あまり根を詰めすぎないように、ココアでも持って行ってやろうか。アイツは少しまじめすぎるから、適度に息抜きさせてやらないと。
    その後ろ姿を、シャディクがじっと見ていた。

  • 51二次元好きの匿名さん23/01/04(水) 19:51:18

    「おやすみ、ラウダ」
    「うん、おやすみ、兄さん」
    仲良しの兄弟。
    きっとずっと仲良しのまま。
    ……そのはずだった。

    「グエル、起きて」
    「……ンだ、」
    低く優しい声に、微睡から覚醒する。
    ラウダかと思って瞼を開けたら、視界いっぱいに空のいろをしたひとみが目に入って、グエルははっとする。シャディクだ。何故ここに? 警戒するように後ずさると、彼は優しい声で語り掛けてくる。
    「お父さんが呼んでいたよ。だから」
    「あ、ああ、そうか……」
    シャディクは微笑んで、グエルを先導する。ふと机をみると、ラウダが勉強したのであろうあとが残っていた。なんだ、あいつはいつ寝ているんだ? 流石にやりすぎだ、過労で倒れかねない。そう思いながら歩いていると、当のラウダを見つけて目を開く。
    「ラウダ」
    「兄さん。おはよう、どうしたの?」
    「お前、最近頑張りすぎているんじゃないか? 少しぐらい休んだらどうだ」
    「あはは、兄さんの隣にいるためだよ。兄さんはどう? 大丈夫?」
    「え? ……うーん」
    グエルは少し考えこむ。それから「そうだ」と目を開いた。
    「最近妙に視線を感じるんだ。監視されてる、みたいな」
    「……それはたぶんシャディクじゃないかな? 最近ずっと傍にいるし」
    「だとしても俺を見続ける意味なんてないだろ」
    「そんなこと言わないであげてよ。あ、兄さんも父さんに呼ばれたの?」
    話題が変わって、露骨にラウダの声色が暗くなる。グエルが頷けば、少しだけ俯いた。シャディク、僕のことは起こしてくれなかった。つまり兄さんだけ特別に扱っているということ。どうして。兄さんとずっと一緒にいて、兄さんと一番仲良しなのは僕なのに!
    ……僕のはずだ。
    ラウダは遠くに見えるシャディクの姿をちらりと見て、くちびるを噛んだ。

  • 52二次元好きの匿名さん23/01/04(水) 20:11:26

    「呼びましたか、父さん」
    「ああ、グエル」
    ヴィムはいつもの椅子にこしかけたまま、グエルを見やる。それからいくつかの楽譜を投げ渡した。ちらりと見てみる。『カプリース24番』。とても難しい曲だ。視線だけでヴィムの方を見やった。
    「また演奏会ですか」
    「ああ、そのことだが、今度の演奏会は、お前ひとりでやることにする」
    「は」
    なんだ、それ。
    言いたいことは山ほどあるのに、何も言葉にならない。ヴィムはそれから一言二言なにかを言って、グエルに退室するように促す。グエルは半ば放心状態で、楽譜の上にぽたりと落ちた汗が、じわりと音符を滲ませるのを見ていた。
    「お前のためだ」
    やけに優しげな声が、いつまでも脳裏にこびりついていた。

    「グエル、お父さんはなんて?」
    「シャディク……」
    いつも通りの笑みを浮かべた彼に、グエルはなんだかひどく苛々する。握りしめたままの楽譜が、ぐしゃぐしゃになる。なんでもない、と低く呟けば、シャディクは心配するような顔をした。
    「喧嘩でもした?」
    「……いや」
    「そう。お父さんと仲良くね」
    グエルは返事をすることなく、そのまま歩き出す。部屋に戻ったところで、ラウダとかちあった。ラウダは「あ、兄さん」と困ったように微笑んでみせる。
    「ラウダ、俺は」
    「兄さん。今度の演奏会、兄さん一人で歌ってくれないかな」
    目を、見開く。何故、ラウダまで、そんなことを? まさかヴィムから何か言われたのか? それともラウダも、あちら側の人間なのか。グエルと演奏するのは、嫌なのか? わなわなとくちびるを震わせるグエルをどう思ったのか、ラウダは誤魔化すように笑う。
    「用事があるんだ。兄さんが気にすることじゃない」
    「そうか。じゃあ俺も出ない。演奏会は中止だ」
    きっぱりと言い切ったグエルに、ラウダは一瞬、悲しそうな、嬉しそうな、複雑な表情をした。
    「……これは兄さんのためだ。いつまでも僕みたいなへたくそと一緒じゃ」
    「ラウダと一緒じゃなきゃ楽しくない」
    「上手く歌って楽しくやる、なんて両立できないよ。兄さんはもっと上を目指して」
    「なら上手くなくてもいい。縛られるための才能なんて、そんなの、いらない……」
    声はグエルが想定していたよりも震えていて、ラウダはきゅっとくちびるを引き結んだ。

  • 53二次元好きの匿名さん23/01/04(水) 20:26:49

    「とにかく、俺はラウダとじゃないと歌わない。いくら言ったって聞かねえからな」
    「……僕は…………」
    ラウダはあらゆる感情が抜け落ちたような顔で、しばらく俯いた。そうしてぱっと顔を上げて、安心させるように微笑む。わかった。じゃあ、父さんに伝えてくる。去っていくラウダの後ろ姿を、グエルは静かに見つめていた。

    真夜中。
    足音を聞いて、目を覚ます。身を起こしてあたりを見渡すと、ラウダがいなかった。どこからか、ピアノの音が聞こえてくる。こんな時間まで練習をしているのだろうか? 本当にラウダが倒れてしまったらどうしよう。止めなければ。静かに部屋から出ると、シャディクの姿が目に入る。
    「お前、どうしてこんなところに?」
    「ああ、いや、少し、眠れなくて」
    「そうか」
    「……あ、グエル、」
    グエルは振り返ることなく、さっさと練習室に向かう。中に入って、はっとした。床の一部が壊れている。ラウダはこちらに気づきもしないほど、真剣に弾き続けている。
    「ラウダ」
    「……兄さん」
    「寝ろ。これ以上の練習は体に毒だ」
    「嫌だ。……あと少し。これだけ続けさせて」
    グエルはしばらく考えたのち、頷くことにする。そうしてラウダの隣で、その演奏をしばらく、聞いた。そうしてふと、気づく。なんだか少し、音がおかしい。グエルはなにとはなしに、ピアノに触れようと手を伸ばす。
    「触らないで!」
    瞬間、ラウダに突き飛ばされて、床に倒れこんだ。
    ラウダはそのままグエルを押し倒し、胸倉をつかむ。間近で見た顔が、あまりに恐ろしくて、怒りに震えていて、__泣きそうに、見えて。
    「……僕は、僕はできるはず。兄さんのためにピアノを弾けるはず。できるはず。そう、できるんだ。なのに、ああ、もう嫌、嫌なんだ! どんなに練習しても、どいつもこいつも僕は兄さんにふさわしくないって、なんで! 僕は兄さんのために頑張ってるのに! それあなたまでも僕を否定するの!?」
    「ラウダ、どうしてそんなことを、俺は、」
    「兄さんはそんなこと言わない、兄さんを、返してよ……!」
    ぷつり、と頭の中で何かが切れた。
    グエルはラウダを振り払い、立ち上がる。
    「お前だって、そんなこと言うの、俺のラウダじゃない!」
    叫ぶように絞り出した声が、思った以上に涙交じりであった。

  • 54二次元好きの匿名さん23/01/04(水) 20:42:52

    暖炉の前で呆然としていると、シャディクが近づいてきた。どうしたの、グエル。ラウダに何か言われたの? 隣に座ってくるのを、咎める気力もなかった。
    「お前には関係のないことだ」
    「グエルが気にすることはないよ。ラウダに何か言われても、グエルの才能はグエルのままなんだから」
    「お前に何がわかる!」
    つ、と頬に何かが伝って、グエルはようやく、自分が思った以上に追いつめられていらしいことを悟る。
    「グエルは悪くない。……ラウダのことも、気にしすぎない方がいいよ。お前の歌は素晴らしいんだから」
    「……違う、違う。ちがう……」
    「だから、ほら。元気出して。ラウダのせいで疲れていたんだ。いっぱい練習すればみんな認めてくれるよ。グエルの才能は絶対だ。ね。部屋に紅茶を用意しておくから」
    「…………」
    グエルは魂が抜けたような顔でその微笑みを見やる。
    シャディクが、去っていく。
    その姿を見たあと、グエルは目を閉じる。ラウダの泣き叫ぶような悲痛な声が、耳にこびりついて離れない。
    __だって、ずっと一緒だったのに。
    本当に、そんなこと、思っていたのか。俺が何を思おうと、結局は何も、変わらないのか。
    俺が欲しかったのは、あの頃のように……楽しく__
    そこで、グエルは、気づく。ああ、そうだ。全部歌が悪いんだ。みんなみんな歌のせいだ。グエルが歌わなければ、ラウダと仲違いすることも、ヴィムに妙なことを言われることもなかったのに。
    己の喉に触れる。炎が揺らめく。自室に続く扉を見やる。目を閉じれば、思い出せる。ただ歌うのが楽しかった頃のこと。立ち上がる。息を吐くたびに、自分の声が聞こえるのが、嫌で嫌で仕方なかった。近くにあった羽ペンと、そのあたりにあった紙を手に取って、さらさらと書きつけを残す。
    『父さん ラウダ シャディク 今までありがとう 愛していました』

  • 55二次元好きの匿名さん23/01/04(水) 21:02:29

    __光が溢れる。
    一礼をすると、スレッタは嬉しそうに拍手をしながら駆け寄ってきた。
    「すごいです、グエルさん!」
    「……」
    「グエルさん?」
    「俺は、歌うのが大嫌いだ」
    「グエルさんにも嫌いなこと、あるんですね。私もですよ」
    「……俺たち、少し似ているな」
    「そうですか?」
    「馬鹿なところとか」
    「そんなことないです!」
    グエルはスレッタの膨れっ面に、弾けるような笑顔を見せる。ああ、そうか。だから放っておけなかったんだ。だからこんなに彼女の傍にいたいと思うんだ。……だから。
    「でも、ここで歌うのは楽しい」
    「そうですか?……素敵な歌でした。私の呪いが、少しずつ、とけていくんです。あなたの歌が大好きなんです」
    「……そうか」
    「あと少し、あと少しで、きっと……終わることができる」
    グエルは穏やかなスレッタの笑顔を見てから、ふと視線を横に移す。
    小さな鍵が落ちているのに気づいたのは、そこでだった。

    続く部屋にはぬいぐるみにも造花にも壁にも床にもべっとりと血がついてる。歩いていると、背後に人の気配がするような気がして、首を傾げた。
    どうやらそこには、古いピアノがあるらしい。それを横目に、本棚に近づく。楽譜はない。ただ、気になるものを見つける。
    『ある時俺は気付いた。俺はいつの間にか呪いになっていた。気づいた時にはもう遅かった。真っ黒な猫が呪い。真っ白な猫が祝福。呪いを断ち切るためには、黒い猫をこの手で殺さねばならないと理解した』
    黒い、猫。とは__もしかして、るぶりすのことか? ということは、るぶりすを殺さない限り、この呪いは解けないのか? 悶々と考えて、とにかく猫たちの元に行こうとしたところで、気づく。
    __扉が、開かない。
    『ねえ、あたし、あなたのこと、気に入っちゃった』
    どこからか、耳障りな声がした。

  • 56二次元好きの匿名さん23/01/04(水) 21:16:16

    振り返ると、古いピアノがある。
    『なに、出してほしいの?』
    「はあ!? 出たいに決まってるだろうが!」
    『そんなにあの子のことが気に入ったのかしら』
    「スレッタは関係ない!」
    『あたし、スレッタのことなんて一回も言ってないんだけど』
    グエルは黙り込む。
    頬が上気しているのを感じる。ピアノはころころと笑うような音を出して、しばらく、沈黙する。
    『この部屋の楽譜があるわ。さがしなさい』
    ……?
    グエルは首を傾げる。棚は見て回ったが、そんなものはなかった。しかしピアノの口ぶりからして、確実にどこかにあるのだろう。不思議に思って、部屋の中を見回してみる。不思議な模様の絨毯に、不自然な位置に置かれた造花。
    荒唐無稽なことに思えるかもしれない。しかし可能性としては十分にあった。
    「この部屋全体が、楽譜ということか?」
    『…………』
    「答えろ」
    『しょうがないわね。出せばいいんでしょう。あーあ、つまんないの。……あたしだって、もう一度スレッタに弾いてもらいたかったのに』
    かちゃり。
    鍵の開く音がする。
    『この階の扉は開けてあげたわ。……進みなさい、覚悟があるのなら』
    グエルはしばらくピアノを見つめたあと、くるりと背を向けて歩き出した。

  • 57二次元好きの匿名さん23/01/04(水) 21:25:02

    辛いけどちゃんと自分を出せたラウダも悪くないからな……

  • 58二次元好きの匿名さん23/01/04(水) 21:27:46

    部屋に入ると、視界から色が消える。どうしようもなく、重苦しい。呪いが深くなっている証なのだろう。しかもなぜかスレッタがここにいる。

    「なぜここにいる」

    「ねえグエルさん、グエルさんは何が好きですか?」

    「どうした突然」

    「私はグエルさんとピアノが好きですよ」

    「……そうか」

    深い意味はない。そのはずだ。あまり考えすぎないようにしておこう。とにかく早く楽譜を探さないと。

    暗がりを手探りで探す。息が苦しくなる。どうしようもない恐ろしさが、ガリガリと精神をチェダーチーズみたいに削ってくる。誰か、何か、探さないと。早く。早く、早く、

    『ねえ』

    目の前に、見覚えのある人物が立っている。

    違う。そんなはずはない。だって、あれは、あれは。

    『どこに行っていたの?』

    顔を、あげる。

    息を、飲む。思わず後ずさる。だって、そこに、そこに立って、どこかおぞましい笑みを浮かべていたのは、

    dice1d2=2 (2)

    1:シャディクだ。

    2:ラウダだ。

  • 59二次元好きの匿名さん23/01/04(水) 21:41:41

    「……らうだ? どうして、こんな、ところに……」
    『ああ、可哀想な兄さん』
    「どうして、」
    『大丈夫だよ兄さん。僕はずっと、ずーっと、兄さんの傍にいる。食事をするとき、眠るとき、歌うときも、』
    ラウダは、硬直したままのグエルの頬を、額を、腕を、脚を、撫でる。お前は絶対に逃げることなどできないのだ、と言うように。動けない。動かない。ラウダの笑みは、見たことないほど恍惚としている。
    『兄さんが僕を置いて逃げたあの瞬間も』
    振り払う。振り払えない。痛い。痛い。痛い。あたまが、割れるように痛い。
    ジェターク家の御曹司グエル・ジェタークが行方不明。ジェターク社CEOのヴィム・ジェタークは、暫定的にラウダ・ニールを後継者としながら、グエルの行方を追っている。とある人物は、彼が最近殺人事件のおきた屋敷に入っていったと語る。
    『ねえ、本当に逃げられると思った? 父さんが、シャデイクが、……僕が、この程度であきらめるはずないのに。きっと許してあげないけれど』
    「……お前は、誰だ」
    「僕? 僕はね、」
    あなたの呪いだよ、グエル・ジェターク。

    「……」
    「どうされたんです? なぜ、悲しそうな顔をしているんですか?」
    スレッタが励ますように肩を叩いてくれる。グエルのひとみから、何かがぼろぼろと溢れてくる。
    「呪いにかかっているのは、お前だけじゃなかった」
    「グエルさん?」
    「逃げ出したんだ、俺は。皆を置いて。そうして、ここに来た」
    「知っていますよ」
    存外普通の調子で言うから、グエルははっとして顔を上げる。
    「知っていますよ、最初から。そういうのわかるので」
    「……」
    「逃げればひとつ。進めばふたつ。あなたは進むことを選ぶのでしょう? 楽譜を探しましょう、グエルさん。きっと呪いは解けますよ」
    「……そうだな」
    今の俺にできるのは、それしかないから。
    __他のことは、置いておくことにしよう。

  • 60二次元好きの匿名さん23/01/04(水) 21:48:33

    今更だけど>>15でしれっと一人称ダイス振られてるのじわじわくる

  • 61二次元好きの匿名さん23/01/04(水) 21:55:07

    中庭に出れば、存外簡単に楽譜は見つかった。夜想曲第二十番。夢の終わりに、楽しかった夜を思う曲。
    庭の真ん中に、大きなピアノが設えられている。
    スレッタはそこに座って、グエルを待っているようだった。
    「ねえ、グエルさん」
    「なんだ」
    「覚えていますか?私たち、昔あったことがあるんですよ」
    「そうだったか」
    「ジェターク家の音楽会で、一度だけピアノを弾かせてもらったんです。それで、お母さんに連れていかれそうになった私を、リハーサルがあるからって、止めてくれて」
    「……覚えていない」
    「私は、覚えています。あなたのこと」
    スレッタがピアノを弾き始める。グエルはすぐにそれに続いた。どうか幸せな夜を忘れないように。どうか幸せな朝を迎えられるように。また、逢えますように。あれから私は、……もしかしたら、来てくれるかもしれないと思って、あなたに助けを求めるよういになったんですよ。馬鹿ですね。ええ、あなたの言う通り、私は馬鹿です。あのね、グエルさん。私、

    呪い。
    私はいつの間にか呪いになっていた。気づいた時にはもう遅かった。呪いを追い出すためには、……

    __スレッタ、新たな曲が完成したわ。
    曲名は __

    『スレッタのレクイエム』

    「グエルさん、どうか、私を止めて。それが、私の、私の、最期の__」

    空が明るみはじめている。

  • 62二次元好きの匿名さん23/01/04(水) 22:06:30

    「あのね、グエルさん」
    朝陽を頬に浴びて、スレッタは静かな声で語り始める。
    「私は、本当のスレッタ・マーキュリーじゃないんです。本当のスレッタは、呪いに飲み込まれてしまったから」
    「……は?」
    「あなたなら、私の呪いを解くことができると思ったから。ここに呼んだんです、ごめんなさい」
    「俺も呪われている。自分のことすらどうにもできない」
    「グエルさん」
    「でも」
    グエルはすっと視線をあげて、スレッタの手を両の手で掴む。半ば縋るように、跪く。そうして、涙なのか、朝陽なのか、それとも別の何かなのか、わからないけれど。きらきらと光るひとみで、まっすぐに言い切った。
    「俺は、お前を救いたい」
    スレッタはしばらく呆然としたような顔をして、それからこれまでで一番の笑顔を見せる。ありがとう、ございます。そうしてグエルの手に、鈍く輝く槍を持たせた。装飾用であろうが、先は鋭利で、武器として扱えるものだ。
    「……これ、」
    「それで私のこと、殺してください」
    顔を、あげる。
    スレッタは微笑んでいる。
    「どういう意味だ」
    「それが、唯一の方法なんです」
    「なんだよそれ」
    「朝日と共に、スレッタは死にます。その前に……呪いを、殺してください。彼女は、赤い実のなる木の裏、隠し階段の先にいます」
    「お前と__一緒にいることは、できないのか!?」
    「あのね、グエルさん。私、とても楽しかった。ピアノのこと、好きになった。全部グエルさんのおかげです、ありがとうございます。……だから、」
    あなたの呪いが愛になり、浄化されますように。
    スレッタはそうっと、グエルの手の甲にくちづけをした。グエルさん、私、グエルさんの歌が好きです。どうか音楽を、自分を、嫌いにならないで。
    スレッタの身体が薄れゆく。消えていく。グエルは手を伸ばす。間に合わない。グエルの手が届く前に、スレッタのからだは掻き消えた。
    「……」
    グエルは槍を手にもって、スレッタに示された場所に向かう。
    夜明けを迎えるために。

  • 63二次元好きの匿名さん23/01/04(水) 22:10:47

    あああ…

  • 64二次元好きの匿名さん23/01/04(水) 22:19:16

    隠し部屋はやはり荒れ果てている。その先には、ピアノが置かれていた。

    ピアノは一人でに演奏を始める。楽しそうに。心底、残虐に。直感で気づく。これが、スレッタの母親。スレッタの呪いなのだと。槌を叩きつける。壊れない。叩きつける。壊れない。叩きつける。ようやく壊れる。と同時に、槌もまた、壊れる。手元にある武器は、もうこの槍しかない。

    ピアノの中に、何かがある。

    鍵だ。


    「……スレッタ」

    部屋の先には__、

    赤い髪。

    青い瞳。

    微笑む姿はどこまでも、グエルの知るスレッタと同じ。

    なのに、どうしようもなく__

    スレッタとは違う、少女がいた。

    彼女が狂気に苛まれ、衰弱しきっていることは、見てすぐにわかった。彼女はグエルの姿を確認すると、歪んだ笑みを浮かべる。そうして武器を手に取って、こちらに向かって走ってきた。

    グエルは__

    dice1d2=1 (1)

    1:槍を、振り下ろした。

    2:……できない

    2の場合

    dice1d2=2 (2)

    1:スレッタを抱きしめる。

    2:呪いを受け容れる。

  • 65二次元好きの匿名さん23/01/04(水) 22:22:10

    うおーやったれー

  • 66二次元好きの匿名さん23/01/04(水) 22:28:57

    グエルは槍を振り上げ、スレッタに向けて__
    振り下ろす。

    ぐしゃり

    「あ あ ぁ……」
    生暖かいものがグエルの頬に触れる。それが涙なのか血なのか、最早わからなかった、……この嗚咽が、自分のものなのか、スレッタのものなのかも、わからなかった。
    グエルはゆっくりと、槍が刺さったままのスレッタのからだに触れる。あたたかい。抱き寄せる。……あたたかい。
    「……なあ、スレッタ……」
    お前は、救われたのか?
    スレッタは応えない。
    スレッタが幸せだったのか、グエルにはわからない。だけれど、グエルはスレッタに出会えて幸せだった。楽しかった。……歌うことの楽しさを、思い出すことができた。
    グエルはスレッタのからだを抱き上げて、屋敷を歩く。玄関に手をかける。呪いは消えた。何の抵抗もなく、扉が開く。まっすぐに目を貫く朝日が、なんだかやけに久しぶりな気がする。
    「スレッタ」
    スレッタは、こたえない。
    グエルはスレッタのからだを横たえて、傍にかがみこむ。
    「ゆっくりお休み。俺は……少ししたら、家に帰ることにする。シャディクも、父さんも、……ラウダも、きっと俺を探しているから」
    スレッタは、こたえない。
    「……さよなら、スレッタ。お前に目一杯の祝福を__」
    長い夜が明けた。
    今日は晴れだ。

    END:Nomal

  • 67二次元好きの匿名さん23/01/04(水) 22:34:14

    これでノーマルエンドなのか…(困惑)
    違うエンドも是非見たい!

  • 68二次元好きの匿名さん23/01/04(水) 22:35:20

    裏作業の様子
    END:Nomal
    絵未回収(この時点でトゥルーエンドルートが消えたのでるぶりすみおりね関連は色々省略しました、ゴメン!)

    ・ここまでお付き合いいただきありがとうございました!レス等、励みになりました。
    ・謎解きパートなど書けないと判断した部分はやはり省略しました。ごめんて
    ・最後の方かなり色々端折りました。明日から忙しくなるので、おそらく書けなくなる……と判断、したため……すまない…… 是非原作やってみよう!(ダイマ)
    ・グエル(ミシェル)の過去を大きく改変しましたが、ラウダくん冗談でも兄さんに嫌いなんて言わねえし、グエルもシャディクを突き飛ばして殺ったりしねえな……というかたぶん一年もグダグダしてないでさっさと進むな……と書いてるひとが解釈違いを起こした故です 原作期待してた方は申し訳ない!
    ・以下俺に脱出してほしい世界をあげるスレ。
    ……とは言いますが、冬休みフィーバーが終わったので知らないゲームでは書くことができないかもしれない。否めない

  • 69二次元好きの匿名さん23/01/04(水) 22:39:07

    お守り手に入らなかったからな…そうだよな…
    でも面白かったから思い出すのも兼ねてもう一回プレイしたいなぁ

  • 70二次元好きの匿名さん23/01/04(水) 22:42:16

    このレスは削除されています

  • 71二次元好きの匿名さん23/01/04(水) 22:44:14

    りるれふどうですかね…キャラ多いので割り当て大変かもしれませんが

  • 72二次元好きの匿名さん23/01/04(水) 23:10:57

    さ…細胞神曲…

  • 73二次元好きの匿名さん23/01/05(木) 01:22:16

    ノーマルエンドで終わったけどできればスレッタのレクイエムの後日談がみたいです。過去がとても変わっているので。

  • 74二次元好きの匿名さん23/01/05(木) 01:22:51

    ラウダとは比較的ソフトな喧嘩だしシャディクは死んでないし

  • 75二次元好きの匿名さん23/01/05(木) 06:46:32

    (蛇足、後日談です!りるれふは多分キャパオーバーになる な……と目に見えているので、覚悟ができないと手を出さないと思います ゴメン!)

    ラウダはぼんやりと窓の外を見やる。
    大喧嘩をしたあとグエルが書き置きを残していなくなった、あの夜__あれからラウダは、ほとんど何にも集中できていなかった。演奏にも、勉強にも。眠ることすら億劫でならない。書き置きを握りしめる。愛していました。文字は震えている。ノックが聞こえる。許可を出した記憶はないが、シャディクは無言で入りこんできて、ラウダの隣にココアを置いた。
    「何」
    「疲れてるだろうと思って。これ、とても甘いよ」
    「うるさいな」
    「グエルなら大丈夫だよ。……絶対」
    ラウダのせいでグエルがいなくなったのだ。思い出して、顔が、真っ青になる。あんなこと言わなければよかった。ゆるゆると息を吐いたところで、シャディクがラウダの背を叩いてくれる。自分が泣いていることに気づいたのは、それからしばらく経ったころだった。
    滲んだ視界で再び窓の外に視線を向ける。朝日が昇る。その中から現れるように、誰かが家に近づいてくる。
    __?
    はっと、ラウダは気づいて、窓を掴んで叫んだ。
    「兄さん!」

    ラウダはすぐに玄関まで駆け出した。シャディクもすぐあとに続く。グエルは一体どこを歩いてきたのか、泥のようなもので全身汚れていた。それを咎めたかったのに、ラウダのくちから溢れてきたのは、引き攣るような嗚咽だけだ。体当たりするように抱きつけば、グエルは驚いたような声を上げた。
    「どこ行ってたの!なんで置いてったの!」
    「ラウダ……すまない。お前は悪くないんだ」
    「グエル。事情は後で聞こう。とにかくお父さんに報告してこないと」
    「そうだな。頼んでもいいか」
    「もちろん」
    シャディクに任せて、グエルは子どものようにわんわんと泣くラウダの頭を撫でる。それから静かな声で、呟く。
    「ラウダ。一人で歌う話、受けようと思う」
    「……そっか」
    「だけど全部、やりきったら、……歌いたい曲がある。伴奏を頼んでもいいか?」
    「なんて曲」
    ラウダは顔を上げる。グエルの表情は逆光になっていてわからない。
    きっと誰も知らない。けれど歌いたい。歌わせてほしい。本来の意味で。彼女が幸せに生きられるように。もう呪いなんかに飲み込まれずにすむように。
    その曲の名は__
    「『スレッタのレクイエム』」

  • 76二次元好きの匿名さん23/01/05(木) 15:36:56

    このスレのお陰で元ネタは数年前にやったきりだけどノーマルエンド1ってもっと後味悪い印象だったけどスレッタ(クロエ)はベストではなくともベターな結末で思ったよりも後味良かった

  • 77二次元好きの匿名さん23/01/05(木) 15:38:16

    >>75

    73です。ありがとうございます。とってもいい後日談でした。

  • 78二次元好きの匿名さん23/01/05(木) 15:40:29

    原作は確かバイオリンだったけど声楽家のアレンジとっても良いです。クロエのレクイエムを歌ったあとできれば昔のようにただ楽しむことだけが目的で兄弟で歌えるようになったらいいな。

  • 79二次元好きの匿名さん23/01/06(金) 00:15:59

    魔女タイトルつながりで朝溶けの魔女とか

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