- 1くらえ!!23/01/01(日) 21:47:44
吐く息の白さがその寒さを感じさせる元旦の朝。
担当であるカフェの初詣に付き添う予定で、俺は校門の前で彼女を待っていた。
「願い事、ありすぎるな。今の内に纏めておかないと……」
なんて独り言を呟いていると、後ろから足音が近づいてきた。
「新年、明けましておめでとうございます。……トレーナーさん」
「明けましておめでとう、カフェ。……参ったな。カフェがその格好で来るなら俺もしっかり準備しとけば良かったかな」
目の前に現れた彼女は、想像とはずいぶん違う姿をしていた。
何せ彼女は私服でも制服でもなく、振り袖を着ていたのだ。
普段おろしている長髪は大きなお団子状に纏められて、その髪と黒基調の振り袖に挟まれたうなじには少し緊張させられる。
振り袖には乱菊が散りばめられていて、黒と金のコントラストがシックな雰囲気をより強調する。
その振り袖に、いつもの耳飾りと同じ色の帯を合わせ、耳には真っ赤な椿の飾りを着けていた。
明らかに気合の入った様相に面食らうと同時に、私服で来た自分のラフさ加減が少し恥ずかしくなった。
「ふふ……良いんですよ、驚いてほしかっただけですから。……似合っているでしょうか?」
「うん……凄く。凄く似合ってるよ」
それを聞いて彼女は満足げに微笑んだ。
同時に、雪のように真っ白な頬にふわりとした赤が差す。
それは最早、似合っているとか、綺麗とか、そんな一言ではとても言い表せない光景だった。
「ふふ……ありがとうございます。……初詣、行きましょうか」 - 2二次元好きの匿名さん23/01/01(日) 21:48:01
浮かれた雰囲気に満ち溢れた街道を並んで歩く。
神社が見えてくる頃には人混みもピークを迎えていて、気を抜くとカフェとはぐれてしまいそうだ。
「カフェ。手、出して」
「はい……はぐれないように、ですね」
黒のレースで着飾った華奢な手をしっかりと握る。
触れ合う指先同士が熱を共有しようとするも、お互い冬の寒さにやられているようで二人の間に新しい冷気の塊ができたような心地になる。
「……手を繋いでいればはぐれないし寒さも和らぐかと思ったけど、案外そうでもないね」
「ふふ……そうですね。でも良いじゃないですか、それなら温まるまでこうしていれば」
それもそうだ、と返すと彼女はクスリと笑って繋ぐ手に力を込めた。
血液のせいか照れのせいか、うすぼんやりと暖まりはじめた指先に少しだけ残念さを感じたのは内緒だ。
「……こうしていると、昔の水族館での時間を思い出しますね」
「あの時はカフェからはぐれないようにってしてくれたよね」
人の波が止まって、ぎゅうぎゅうの密度だけが残された境内で話す思い出。
懐かしい出来事だ。
今日はあの時のように命の危険を感じるような状態ではないが、それでもここではぐれてしまったら合流するのは至難の業だろう。
「……あの時は、しっかり握っていたのに結局はぐれてしまいましたよね」
「そうだね。今回はそうならないように気を付けないと」
「そうですね。……頼りにしています……ふふ」 - 3二次元好きの匿名さん23/01/01(日) 21:48:21
そうして話していても波は一向に進む気配がない。
時間潰しに最初見た時から気になっていた違和感に言及してみる。
「そういえばカフェ、君のその耳飾りなんだけど」
「はい……何でしょうか?」
「君は目立つのが苦手だったはず、なのに何で飾りに派手な赤色の椿を選んだの?」
「……そうですね、実は一つ籠めた想いがありまして……トレーナーさんは───あっ」
彼女が理由を話そうとしたとき、突然人の波が動きを取り戻した。
気が抜けていたのだろうか。しっかりと握っていたはずの手は、その動きにいとも簡単に負け、気づけば自分たちははぐれる寸前にまでなっていた。
「カフェ!」
何とか彼女を捕まえようとするも、この人混みではどこに手を伸ばすべきか分からない。
その時、人波の奥に何かが見えた。
赤い赤い椿の花。間違いなく、彼女の耳飾り。
それを目印に必死で手を伸ばして、ようやく彼女の手を掴んだ。
「トレーナーさん……! ありがとう、ございます……」
「良いんだよ、それよりカフェは大丈夫?」
「ええ……大丈夫です。アナタがすぐ私を見つけてくれたから、何ともありません」
答えを聞いてほっと息をつく。
ただ、彼女を追う過程で人混みから抜けてしまったので今の波が落ち着くまで少しゆったりするとしよう。
そう彼女に告げて、ざわめく境内の隅で先ほどの話を再開することにした。
「ところでカフェ、さっき言いかけてたその耳飾りを選んだ理由なんだけど……」
「ああ、まだ途中でしたね。……そう、理由なんですが……」 - 4二次元好きの匿名さん23/01/01(日) 21:48:45
「……トレーナーさんは、鬼灯を知っていますか?」
「鬼灯?」
「ええ、お盆の時期に飾る、『彼ら』だけの道標。……その篝火のような橙は、『彼ら』にとって、灯りの代わりになるそうです」
耳に付けた椿の飾りをいじりながら彼女は続ける。
「……これもそう。深紅の花びらが、『誰か』の目を奪い続けるように……そう考えてこの飾りを選びました……」
「そうだったのか。……誰か、ね」
「ええ、誰か……ふふ」
ゆるゆると進む人の波を眺めながら、彼女は静かに語った。
誰かの目線を独占したい、と語る彼女の声は伝える気があるのか無いのか、普段より小さい。
「トレーナーさん。さっき……人混みではぐれかけた時、どうやって私を見つけましたか?」
「さっきは……椿が見えたんだ」
真っ赤な、何よりも明るくて目立つ花。
何もかもを飲み込みそうな人混みの中で、それでも存在を主張していたあの花飾り。
「だから君を見失わずに済んだ」
「……ふふ、そうですか。……トレーナーさん」
「うん?」
呼ぶ声に反応してカフェの方を見ると、彼女もまた飾りをいじるのをやめてこちらを見ていた。
「初詣の願い事が、一つ減って一つ増えました」 - 5二次元好きの匿名さん23/01/01(日) 21:49:01
そう語る彼女の表情には見覚えがあった。
あれは彼女がお気に入りのコーヒー豆を挽いている時だっただろうか。それとも軽い登山の最後に頂上から辺りを一望している時だっただろうか。
そういう時に見せる愛おしそうな、あるいはやり遂げたとでも言いたげな柔らかい笑みを、彼女は浮かべていた。
「減った……ね。今しがた叶ったってことかな」
「ふふ……さあ、どうでしょう」
どうやら、つい先ほど『誰か』の目はカフェに独り占めされたことになったらしい。
ずっと前からそうだったはずだが。
「じゃあ、増えたのは? どんな願い事が増えたの?」
そう問いかけると、彼女は少し考えた。最適なようで少しズレた言葉を探るように。
「……縁結び、といったところでしょうか」
若干頬を赤らめながらそんな言葉を絞り出す。
彼女が自分たちの間にどんな縁を求めているのかは、きっと今は明確にできない。
ただ、どうやら彼女はその願いは絶対に叶うと思っているらしい。
願いを告げる彼女は、相変わらず笑っていたのだから。
「そっか、縁結びか」
「……トレーナーさんは、どんなことを願うつもりですか……?」
「言えないし、言わないよ」
「……ずるい」
それこそ、言えない。
きっとこれは、数年後までの秘密なのだから。 - 6二次元好きの匿名さん23/01/01(日) 22:03:51
みたいなトレカフェが欲しいんですけど誰か知りません?
- 7二次元好きの匿名さん23/01/01(日) 22:07:35
(目の前にあるので)ないですね
- 8二次元好きの匿名さん23/01/01(日) 22:07:38
高品質SSの営業の方でしたか…言い値で受け取らせて頂きます…
- 9二次元好きの匿名さん23/01/01(日) 22:17:38
セルフサービスか いいね
私もこういうのは積極的にやっていくべきだと思うよ - 10二次元好きの匿名さん23/01/01(日) 22:47:05
たすかる
トレーナーさんもやる気なのすき - 11グワーッくらったァ!23/01/01(日) 22:47:12
あ、営業の方でしたか
ごちそうさんです、また頼んます - 12二次元好きの匿名さん23/01/01(日) 23:14:20
たまにセルフサービス投げつけてくるよな…
- 13二次元好きの匿名さん23/01/01(日) 23:17:50
そこにありますね
- 14二次元好きの匿名さん23/01/01(日) 23:42:55
良かったです
- 15スレ主23/01/02(月) 00:32:59
どうやら誰もイラストを寄越す準備はしていないようだな
このままならいっそのことそっちもセルフサービスしてしまうぞ - 16二次元好きの匿名さん23/01/02(月) 09:48:40
- 17二次元好きの匿名さん23/01/02(月) 09:51:32
普段長髪の子がうなじを出してるとつい見ちゃうよねバレ
- 18二次元好きの匿名さん23/01/02(月) 09:56:30
- 19二次元好きの匿名さん23/01/02(月) 09:57:36
介錯いたそう
- 20スレ主23/01/02(月) 09:58:36
- 21セルフサービスあるけど支援なの23/01/02(月) 10:14:23
「……はは、混んでるね」「そうですね……」
元日の朝、トレセンから歩いて10分ほどの大きな神社ともなれば、初詣の参拝客は相当なものだった。
混雑がわかってはいたから、カフェに初詣を誘われた時も一度は断ろうかと考えたのだが、普段は控えめな彼女からの誘いにNOは言えなかった。
カフェは人混みを少し苦しそうにしながらも、上目遣いで俺を見て不安そうだった。不安そうなカフェに目線をやって、何に対してでもなく頷いてみる。
「……」「……トレーナーさん?」
「あ、いや、えっと……着物、似合ってるね」「ふふ、ありがとうございます」
しまった、教え子に思わず見とれてしまっていた。誰に着付けてもらったのか、カフェの着物は本当にキレイで。
長い黒髪と白い肌に、薄い色の着物……ピンク?水色か? 俺はこういうの疎いんだが、ともかく似合っている。
「列、動いたね」「はい……きゃっ」
行列に合わせて前に進むと、カフェが小さく声を上げた。人ごみに押されてしまったか、バランスを崩して俺にもたれ掛かる。
…………バカ野郎、何を考えてるんだ、俺は。教え子だぞ。
「大丈夫?」「は、はい……やっぱり、人が多いですね……」
カフェはすぐに自立したが、やっぱりまだ不安そうだ。俺から何かしてやれないか……と思っていた時。
「あの、トレーナーさん」「うん、何?」
「その……手を、繋いでも……いいですか?」「え?」
恥ずかしいのか、少し震えた声だった。彼女はまたしても上目遣いで俺を見ていた。
「あー……そ、そうだね、はぐれたら困るもんね」「は、はい、それでは……」
なんで俺まで緊張しているのか。カフェは少しだけ顔を赤くして、ゆっくりと俺の手を取った。
手を取って、指を……ん?
「あの、カフェ?」「はい?」
これ、恋人繋ぎ…………と、その言葉を飲み込む。
手をつないだらたまたまこの形になっただけだろう。きっとそうだ。
……俺はそう考えていたが、カフェの顔はますます赤くなっていた。 - 22スレ主23/01/02(月) 10:36:26
- 23スレ主23/01/02(月) 12:01:51
- 24二次元好きの匿名さん23/01/02(月) 12:03:21
!?!?
- 25二次元好きの匿名さん23/01/02(月) 12:34:23
う…そ…だ…ろ……?!?!?
自産自消だけでなく分け与えてくれるとか神やん - 26二次元好きの匿名さん23/01/02(月) 14:23:47
神スレ
- 27二次元好きの匿名さん23/01/02(月) 15:36:40
畜生、こんなの保守上げして辻SS書き引き込むしかねえじゃねえか
- 28二次元好きの匿名さん23/01/02(月) 15:41:12
天は二物を与えずって聞いたのに…両サイドから斬られた…
- 29二次元好きの匿名さん23/01/02(月) 16:20:44
『振袖はいい』甘ったるい甘酒を一口啜りながら言う。『あれこそが至高の和服だよ』
「至高?振袖は確かに女の美しさを際立たせる、マグロを引き立てる山葵の様に。だが、それは振袖に限った話ではない」
『オマエは何もわかっちゃいない』やれやれと肩をすくめる様は、ごねる赤子を宥める母親に似ていた。
『振袖は、未婚の女だけが着られるものだ。オマエが好きに蹂躙して良いと、自らの処女性を曝け出しているんだ。それはとてもエッチだろう?』
なるほど、と安物のブロイラーを使った焼き鳥をほおばりながら相槌を打つ。だが、だからと言ってカフェに合う至高の服が振袖であるとは言い切れない。
『さらに言えば、あの黒髪だ。ボティチェリのヴィーナスには貝殻が欠かせないのと同じように、黒髪の美少女には振袖と相場が決まっている』
「君が言っているのは振袖に合うのは黒髪美少女であるという必要条件であって、黒髪美少女に合うのは振袖であるという十分条件ではない。他にもバニーやドレス等、色々あるだろう」
必要十分条件など、高校の時の熱血教師、成田に教えられてから久しく使っていなかったが、案外とすんなり使えたことに驚く。
『オマエはもう少し頭を使え。振袖は、日本人の体型に合う。そして、日本人は貧乳だ。満員電車に揺られ、胸を押し潰されるうちにそのように進化したのだ』
「なるほど、だから黒髪微小女のカフェには振袖が似合うと。それなら納得だ」
ストレートフラッシュが揃ったような、すべてが噛み合った快感に酔いしれる。
「だれが…黒髪微小女であると…言ってるのですか…?」
その酔い痴れが仇となったことに、僕はため息をついた。 - 30二次元好きの匿名さん23/01/02(月) 16:35:58
「なるほど、お友達がそんなことを言っていたのですね…」
めまいを起こしたかのように、目と目の間を指で押すカフェ。
気まずい空気の中で初詣を終え、一緒にトレーナー室に戻り、あったことを説明する。説明するが、それでも空気は気まずく、沈黙が二人を包む。
カチ、カチ、カチ。
壁から掛かっている時計の秒針が、気まずい時の経過を告げる。
確かに、彼女は非常にスレンダーである。だが、それを堂々と指摘してしまった事は確かに彼女を傷つけるかもしれない。それを犯してしまった自分は、彼女にどのような顔を向ければよいのか、全く見当もつかなった。
「トレーナーさんは…やはり、大きな子の方が…良いのですか?」
自信が無いのか、耳を伏せたまま下を向き、目だけはこちらを見た状態で尋ねられる。そんな場合ではないのに、上目遣いにドキッとする。
「いや、そんなことは無い。自分が好きなのはその人そのものであって、胸の大小で好き嫌いは変わらない!むしろ、小さい方が…あっ」
自爆発言で、再び部屋に沈黙が訪れる。
チッ、チッ、チッ、チッ。一時間が経過しようとする度に秒針の音がカウントダウンの様な音に変わり、音一つしない二人の間で響き渡る。
「なるほど…でしたら…」
急にカフェが立ち上がり、椅子に座っていた自分の上に座る。顔を自分の胸にうずめ、耳はせわしなく首元をさわさわとなぞっていく。カフェの体温、鼓動、息遣い、コーヒーの様に香ばしくも、女子特有の甘さと、先程の神社のお香が混ざった香りが伝わってくる。
「私の事は、相当好きってこと…ですよね?」
再び、上目遣いで聞かれる。貧乳の方が好きであると暴露した上、元からカフェとかなり仲良くしていたのだから、きっとバレバレなのだろう。否定せずに、そのままカフェの目を見つめる。
- 31二次元好きの匿名さん23/01/02(月) 16:38:05
すると。
するり、という音がして。白く、細くも骨だけではなく肉がむっちりとついた、カフェの脚が、振袖の裾から零れ出る。それだけでも心臓に悪いのに、更には下着がギリギリ見えそうな範囲まで晒したうえで両足を自分の腰の周りに巻き付けてくるので、いよいよたまったものではない。
「私、今は和服ですよ…つまり、下着は…」
流石に恥ずかしいのか、言いよどむカフェ。
だが、そこまでの覚悟を決めたなら、自分も覚悟を決めるしかない。姫どころか、お互いの初めてを交換する覚悟を。
「ねえ、トレーナーさん…私が振袖を着るのは今年で最後になるように…にしてくれませんか…?」
そこから先は、語るに及ばない。
本当はカフェが振袖を着るの自体もいいけど、「来年は振袖を着られないようにしてくれませんか?」(振袖は独身女しか着られない…つまり?)っていうカフェってエッチというかなんか最高だよなって思って書こうとしたらなんか違うのがアウトプットされた。キレそう。
- 32二次元好きの匿名さん23/01/02(月) 20:36:47
オイオイオイ描いたわコイツ
- 33スレ主23/01/02(月) 22:28:44
- 34二次元好きの匿名さん23/01/02(月) 22:39:35
黒髪微小女(誤字に非ず)
振袖の意味を初めて知った…なるほどね? - 35二次元好きの匿名さん23/01/03(火) 00:09:42
独占欲出しちゃうカフェは良いぞ
- 36二次元好きの匿名さん23/01/03(火) 00:47:41
- 37二次元好きの匿名さん23/01/03(火) 00:58:49
ファンから「デートかな?カワイー!」とか言われて赤面してるのに、トレーナーとバレたら社会的にアウトな秘密共有しようとするカフェは私の性癖に合ってますよ!
- 38二次元好きの匿名さん23/01/03(火) 11:19:42
今は無理だけど、いずれは白い着物を着て貰うからね
って言うカフェトレ? - 39二次元好きの匿名さん23/01/03(火) 15:51:48
- 40二次元好きの匿名さん23/01/04(水) 00:39:19
そりゃお前、熱血な、ナリタに婿入りしてそうな「生徒を指導する仕事の人」なんて一人しかいないだろうに…