- 1二次元好きの匿名さん23/01/02(月) 00:41:20
「ゼーファッファッファッ! 我こそがヤマニンゼファーだカゼッ!」
「うわあ」
こんな勝気な表情で腕を組んで仁王立ちする担当初めて見た。
一面に緑が広がる大草原、強いが心地良い風が吹きすさぶ場所に何故か俺はいた。
そして目の前には制服姿の担当ウマ娘、ヤマニンゼファーを名乗る何かがいた。
「風ッ風ッ風ッ、あまりの偉大さに言葉も出ないウインドか!」
「笑い方がわかりづらい上にキャラ付け雑ぅ……」
「しかしどうしたオロマップ? いつもはもっと崇め奉ってくれトルネード?」
「ああ、そっちの俺はもそういう感じなんだ……頭痛くなってきた」
「我の凱風、メンタル豆腐? 元気送風! バイブス上げてこセイFOO!」
「なんで急にラップ入れてきたの?」
まあ言動はアレだが、多分良い子そうなのは伝わってきた。
確かにゼファーと契約してからは日が浅い。
もしかしたら今まで知らなかっただけで、彼女にもこういう一面が……いやないな。
そもそもどこなんだここ?
少なくともトレセン学園の近くにここまでの広大な草原などないはずだ。
「ここは其方の夢みたいなもんだフェーン」
彼女は見透かしたような目でそう伝える。
思考を読まれた、そのことが彼女の言動に説得力を持たせた。
――――初めて出会った頃に比べれば、ゼファーとの絆は深まっているとは思う。
だが、それでも彼女の言葉は完全にはわかってない。
彼女の突飛な行動に追いつけない場面がある。
その強すぎる想いを十分に理解してあげられないことも多い。
こんなことで彼女を、彼女の望む風にしてあげられるのだろうか?
そういった不安が夢という形で具現化したのかもしれない。 - 2二次元好きの匿名さん23/01/02(月) 00:41:53
「名付けて『夢空間』だヴェントッ! ゼーファッファッファッ!」
「急にネットカフェっぽくなったな」
具現化した結果がコレかあ……。
思ってたより疲れてるのかな、今度有給申請を考えてみよう。
しかし夢だと気づいても覚めないんだな、自覚すると夢を操れると聞いたことあるけど。
目の前の彼女は何かを察したように、耳をピクリと動かし、手を差し出す。
「この空間から抜け出すには『本物』の手を取れば良いリヤハッ!」
「そっかあ……ちなみに手の取った相手が『偽物』だったら?」
「夢空間に吸収されて一生に脱出できないサイクロン」
「リスク重くない? でも、それならその手は取れないな」
「…………どうして? 我のどこが間違ってタイフーン?」
彼女は悲しそうに首を傾げる、顔だけはゼファーなので心が痛む。
というか、合ってる部分の方が少ないんだよなあ。一人称から何までおかしい。
それにあの子はここまで雑に風をねじ込んでくるわけじゃないし……。
「なるほど――――まあ、我の方から手を取れば良いヴァン」
「えっ、それありなの!?」
ゆっくり近づいてくる彼女に対して、ダッシュで距離を取る。
全力疾走する俺、ゆっくりとスキップするように加速する彼女。
その差は歴然で、あっと言う間に距離を詰められる。
「風ッ風ッ風ッ! 人間がウマ娘に敵うわけがない…………カゼー!」
もうネタ切れ起こしてる!
ゼファーに似ても似つかない言動だが、身体能力はウマ娘そのもの。
彼女の伸ばした手が俺の手に触れる、その瞬間。 - 3二次元好きの匿名さん23/01/02(月) 00:42:27
一陣の風。
激しい疾風が吹き荒れた刹那、白と青を基調としたドレスが視界を遮る。
「もう、心配は凪ですよ」
目の前には自らの勝負服に身を包んだウマ娘。
見た目だけならば、俺の担当ウマ娘であるヤマニンゼファーそのものであった。
……そういえばさっきの制服姿の彼女は姿を消している。
勝負服姿の彼女は、柔らかく微笑んで見せる。
「大丈夫ですか? 怪我などはしてませんか?」
「……ああ、助かったよ。ありがとう」
「このくらいは軽風です。それにしても、ここはどこなのでしょう?」
「夢空間らしいよ」
「ふふっ、おかしなことを言いますね。でも、風や草々の囁きが心地良いですね」
彼女は冗談だと勘違いしながら、気持ち良さそうに周りを見渡す。
確かにこの風景自体はゼファーが好みそうな雰囲気である。
先ほどまでは気づいていなかったが、鳥達も何種類も飛んでいる。
「スズメやツグミの歌声も楽しそう、私も楽器が扱えれば参加したんですけど」
カスタネットくらいしか使えませんからね、と彼女は残念そうに言う。
直後、さて、と切り替えるように一息つくと真剣な表情を見せる。
「この場所も名残惜しいですが、早くトレセン学園に戻り練習しないと」
「……そうだな、キミを風にしないといけないからね」
「……貴方は夢に必要な方、でもそれ以上に貴方と共に居たいんです、だから」
早く帰りましょう、と彼女は手を差し出した。 - 4二次元好きの匿名さん23/01/02(月) 00:42:51
「ごめんね、その手を取ることもできないよ」
俺は彼女の手に、言葉を返した。
その言葉を聞いた彼女は驚いたような、そして残念そうな表情を浮かべる。
「……どうしてなんでしょうか?」
「まず、ゼファーなら今まで会話で倍くらい風をねじ込んでくる」
最初の制服姿の彼女は論外としても、時には会話が難しいレベルで入れてくるのは事実なのだ。
今、目の前にいる彼女の言動はまるで緊張しているときのゼファーのようだった。
「なるほど、それだけですか?」
「それにゼファーは鳥達の歌声に対しては歌やダンスで参加できるよ」
そもそも、少なくとも彼女はトランペットが吹ける。
更に言うとスズメやツグミに対してまんまるさんやだるまさんと名付けて呼ぶ。
「ふふっ、他には?」
「一番の理由は、彼女は自分の夢より俺、なんてことは言わないってことかな」
ゼファーの夢はそんな軽いものではない。
何より、そんなことを俺も含めて誰も望んでいないことを彼女は理解している。
仮にそこまで俺に信頼を寄せてくれたとしても、共に風になろう、までだろうな。
「ふふっ、ふふふふふっ」
彼女は楽しそうに笑い始める。
空間にノイズが走り始める、周囲の風景にヒビが入り、彼女の表情を見えなくなってくる。
「なあんだ、ちゃんと、わかってあげてるじゃないですか」 - 5二次元好きの匿名さん23/01/02(月) 00:43:19
「夢で褒められてもな……」
「そもそも、他の人間やウマ娘のことが全部わかる存在なんて夏に凩ですよ」
「それはそうかもしれないけども」
「わからなかったことは聞けば良いでしょう、間違えたことは直せば良いんです」
「……」
「理解しようとすることが嵐なんです。他の人間も、ウマ娘も、私にとっても」
もしかしたら、これは自分に対する鼓舞なのかもしれない。
どこかで感じていた弱気、それに対する自分への答え。
お前はゼファーのことを本当に何も知らないのか?
少し彼女のことをわからないくらいで、凪いでしまうようなウマ娘なのか?
わからないなりに理解しようとしていた俺ははっきりと答えられる。
――――そんなわけはない、と。
「ありがとうな、やっぱりその手は取ってあげられないけど」
「とても残念です……次からはもっと上手くやりましょう」
「ああ、トレーナーとして、今後はここに来ないように頑張ってみるよ」
「ふふっ、じゃあ、あの子が待ってるので、早く行ってあげてください」
勝負服姿の彼女が掻き消えていく、崩落していく世界、徐々に闇に包まれていく視界。
沈みゆく意識の中、それを拾い上げたのは、聞き覚えのある声だった。
「――――起きてください、もう夕山風の時間になってしまいますよ?」
覚醒する意識。
開けた視界、そこは見慣れたトレーナー室とジャージに身を包んだゼファーの顔があった。
彼女は少しだけ怒ったような表情を浮かべていた。
「春風の陽気なのはわかります、けれど寝坊はあなじですよ?」
「寝坊……? まさか!?」 - 6二次元好きの匿名さん23/01/02(月) 00:43:46
慌てて、時計を見る。そこに示されていた時間は彼女のトレーニング開始時間をとっくに過ぎていた。
今までトレーニングに遅刻したことは一度もなかったのに、ついにやってしまった。
心機一転頑張ろうと思ってる矢先に何をしているのか。慌てて身体を起こし、謝罪の言葉と共に頭を下げる。
「……顔を上げて下さい、私も貴方のようずに気づいていませんでした」
「いや、これはトレーナーとして……!」
「それ以上は凪ですよ、私たちは共に夢を目指してるんですから」
「……それはそうだけど」
「だからこうなる前に……私にも帆風を送らせて下さい」
彼女は心配そうな表情で言葉を紡いだ……担当にこんなことを言わせてしまうなんてトレーナー失格だ。
だけど、彼女がそんな言葉を望んでいるわけではない、と俺はわかっている。
「……ありがとう、今後はちゃんと相談させてもらうよ」
「はい! さあ、今日はこれから他の方と並走ですよトレーナー、疾く疾くと参りましょう」
そう言って、ジャージ姿の彼女は手を差し出した。
俺はその手を取ろうとして――――違和感を感じて、その手を止めた。
「何か悪風ですかトレーナー? ヘリオスやミラクルが待ってますよ」
「……誰だ、キミ」
違和感は確信となり、俺は思わず声を絞り出す。
「ふ風フふフフふふフふ風ふふフフふ風ふふふ風フふフフふふフふ風ふふフフふ風ふふフフ風ふフふふフふ風ふふフフふ風ふふふ風フふフフふ風フふフフふふフふ風ふふフフふ風ふふふ風フふフフふふフふ風ふふフフふ風ふふフフ風ふフふふフふ風ふふフフふ風ふふふ風フふフフふっ」
それを聞いた彼女は、楽しそうに長く笑う、愉しそうに永く嗤う。
そして突然、すんと表情を消して言った。
「今度は何が間違っていたのでしょうか?」 - 7二次元好きの匿名さん23/01/02(月) 00:44:27
お わ り
新年早々書く内容かこれが……? - 8二次元好きの匿名さん23/01/02(月) 01:25:18
- 9二次元好きの匿名さん23/01/02(月) 01:26:55
- 10二次元好きの匿名さん23/01/02(月) 01:57:12
1人目は違うよなって
2人目はおっ?ってなったけどすぐに違うなって
3人目は見抜けなかった 3度目の正直かなって油断もあった
ところでいつこの夢覚めるんです? - 11二次元好きの匿名さん23/01/02(月) 02:46:53
ふつうにいい感じのゼファーSSかと思ったらホラーじゃねーか!
でもまあ雑エミュゼファーがやたら風用語を雑に使いまくってるの本当に雑で笑った - 12二次元好きの匿名さん23/01/02(月) 03:27:31
猿夢ならぬ風夢
- 13二次元好きの匿名さん23/01/02(月) 04:08:25
1人目はともかくとして、2人目は鳥に名前付けなかったり、楽器を演奏出来ないって所で気付いた
3人目の違いは二人称くらいしか…… - 14二次元好きの匿名さん23/01/02(月) 04:15:53
最初のエアプゼファーが学習した結果が二人目三人目か、急に人間らしくなるロボットみたいですげー怖い
- 15123/01/02(月) 08:31:03
- 16二次元好きの匿名さん23/01/02(月) 09:04:47
あー…ゼファーって基本さん付けなんだったっけ?
- 17二次元好きの匿名さん23/01/02(月) 10:01:05
えっ夢じゃないのか
現実でこの状態なのが1番のホラー…ってコト!? - 18123/01/02(月) 10:33:31
- 19二次元好きの匿名さん23/01/02(月) 11:33:35
本物のゼファーはどこ…?
- 20123/01/02(月) 12:17:47
ラストは本物が破ーして解決するから……
- 21二次元好きの匿名さん23/01/02(月) 18:52:44
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- 22二次元好きの匿名さん23/01/02(月) 23:40:30
えっ続編ないんですか
破ァ!する続編… - 23二次元好きの匿名さん23/01/03(火) 08:29:01
- 24二次元好きの匿名さん23/01/03(火) 11:06:51
- 25123/01/03(火) 14:44:08