- 1121/11/06(土) 13:32:18
- 2121/11/06(土) 13:34:28
「はぁ…」
朝からため息が出る。理由は様々だ。
引退し、学園を離れて地元に戻ってから少し経つが、なにかモヤモヤが胸にまとわりついていた。振り切ろうと毎日走っていても満足出来ないどころか不完全燃焼と感じる。それどころか最近は、走っている最中にフラッシュが焚かれたり、いきなり前に現れて取材させろなどとしつこかったりと、走ることも邪魔されてストレスが溜まっていたのだ。
「たまには学園に行こうかしら。」
トレーナーさん…元、もいるし、後輩達もいるので気を紛らすことができるかもしれない。
「あ、もしかして練習場なら!」
そうだ、練習場であれば関係者以外排除されているしノビノビ走れるのでは?よく閃いたわ、私。あそこならいい景色を見ることができる。
それなら早速と、最低限の荷物だけ持って駅へと走って行く。
とにかく走りたかっただけで、なにも考えていなかった。 - 3121/11/06(土) 13:37:02
学園に到着する頃には午後になっていた。練習場は模擬レース会場へとなっており、しばらく走れない。見学エリアを見上げれば、トレーナー陣がレースを見届けようと集まっていた。
「あの中にトレーナーさんは、いるかしら。」
先に顔を出そう。ただそう思って見学エリアに直行する。突然現れたサイレンススズカに反応してキャーキャー聞こえるが、とりあえず無視した。
見学エリアにトレーナーさんはいた。カメラを脇に設置し、走者をじっと見つめている。邪魔してはいけないと思い、静かに後ろへ立つ。こうやってトレーナーさんの側で、同じものを見るなんていつ以来かしら。
何やらブツブツ呟きながらメモを取っていた。言葉は分からなかったが、メモの内容を見るにあまり納得できてはいないらしい。頑張って、トレーナーさん。
レースが終わる。各々カメラの片付けを始めたタイミングで、私の存在に気づいたようだ。トレーナーさんも驚きの声をあげる。
「お久しぶり、でもないですね。トレーナーさん。」
「なんでスズカ…ここに。」
「つい、来てしまいました。」
なんだか恥ずかしい。口が緩んでしまう。
「あぁ…そうだな、場所を変えよう。」
トレーナーさんに促されて、カフェテリアへ向かった。 - 4121/11/06(土) 13:40:20
練習場の使用許可はあっさりとおりた。
カフェテリアでことの経緯を説明し、メディアに関してこちらの責任かもしれないと、困るほどトレーナーさんに頭を下げられた。頭をなんとか上げてもらい、練習場の管理者に問い合わせてもらうと、トレーナーさんが監督するならば、と条件付きで走っても良いと許可をもらえた上に、女性トレーナーからジャージも貸してもらえた。
「よかったな。思いっきり走ってこい。」
「はい。いってきますね。」
「ああ、いってらっしゃい。」
既に懐かしいと感じられる芝の上を走る。見慣れた背景、踏み慣れた大地、聞き慣れた風切り音。その全てが私に染み渡っていく。どこまでも走っていけそう。
こんな感覚は久しぶりだと思える。やっぱり、気持ちよく走れるっていいわね。もっと、もっと。強く大地を踏みしめ、スピードをさらに上げた。
大きく1周して、トレーナーのもとに戻る。
「どうでしたか?トレーナーさん。」
「相変わらず、気持ちよさそうに走るな。」
「はい。とても、気持ちいいです。」
地元で走っていた時とは違う、走ったあとに訪れる満足感。そう、この満足感がほしかったのだ。しっかりと噛み締める。
…それにしても、トレーナーさんはキョトンとしたままである。どうしたのだろう。
「トレーナーさん?次の指示がないなら、また走ってきてもよろしいですか?」
「え?…いや、そもそもトレーナーではないぞ。もう。」
「あ…」
恥ずかしい。逃げるようにして走るのを再開した。 - 5121/11/06(土) 13:45:45
「ごちそうさまでした。」
満足するまでひたすら走り、日は沈みきっていた。夕飯もご馳走してもらって、星が見える道を二人で歩く。
キラキラと聞こえてきそうな星々。冷たくなった空気がそう感じさせるのだろうか。大地を感じさせる風の音も、車の唸り声もどこか遠くへ行ってしまったように思う。
心なしか、地元より綺麗にみえた。
「懐かしいな。夜空を一緒に見るなんてあのとき以来か。」
「そうですね。あのとき程ではありませんが、ここもよく星が見えます。」
URAを優勝したあとの、二人で見た夜空を思い出す。トレーナーさんに走るかと促されたが、私はトレーナーさんの横にいることを選んだ。
走ることよりも、隣で歩くことを優先したかったのだ。それが、一番心地よかったのだ。
…そうか。あのモヤモヤも、走って感じる不満足も、その原因は。解決方法は。
「トレーナーさん。」
「どうした?」
「私、学園の近くで暮らそうと思います。」
「そうか、いいんじゃないか?」
他人事のように言う。
「毎日、トレーナーさんに会いに行きますね。」
「え?」
「よろしくお願いしますね。トレーナーさん。」
心がスッキリする。トレーナーさんも、悪い気はしていないようで、やれやれとしていた。
これから楽しくなりそう。まだ得体のしれないドキドキと、将来の期待に、胸を弾ませた。 - 6121/11/06(土) 13:49:24
「流石にお開きかな、宿泊場所どこだ?送るよ。」
「え?あ…」
流れる沈黙。風は冷たく、車の音が低く響く。星の光がなんだか見えにくい。
「嘘だろ…帰りの交通手段残ってるか?」
「その…トレーナーさん。お世話になっても、よろしいでしょうか。まだまだ話し足りなくて。」
適当な事を言っている自覚はある。ただ、話し足りないのも事実ではあった。
「嘘だろ…」
トレーナーさんがなぜ頭を抱えているのかピンとこない。
なにも、考えていなかった。
おしまい - 7二次元好きの匿名さん21/11/06(土) 13:50:53
走りとトレーナーに掛かり気味のスズカさんいいぞー!もっといちゃいちゃしろ!
- 8二次元好きの匿名さん21/11/06(土) 14:24:52
良いSSだ
- 9二次元好きの匿名さん21/11/06(土) 14:28:37
基本好きなものに妥協しないスズカさんはいいぞ
- 10121/11/06(土) 14:58:45
- 11二次元好きの匿名さん21/11/06(土) 15:02:47
ちな引退した理由や経緯とかはお考えで?
- 12121/11/06(土) 17:17:46
単純に、本格化後の衰えで考えてました。そもそもアプリが怪我をほぼ乗り越えた世界線なので、怪我での引退にはしたくないかなって。(という名の面倒臭いから考えてない、も認めます)
なので引退はしたがそれはそれとて平然と走る。
少し突っ込んで話すと、
A
この話作る際の工程が
スズカさんがトレーナーとイチャイチャするのが脳内で出来た!
↓
でもこの二人学園時代からシュミレートしてもなかなか付き合わんな、てことは引退後の話になるな。
でこの物語が生えてきたので
①主題ではない。
②学園に関わりたくないようなことにはなってはいけない。
この2条件のもと、正直読者の脳内で完結させていいな。となったこと。
B
これの原案が、トレーナー視点であること。恒常的な許可は降りず、トレーナーがチームの相談役兼サブコーチとして練習に参加させる。という流れで作られたこと。
ABが合致した結果のものなので、多分これBが足引っ張ってますね。引退の流れを前日譚として書いても良かったかな…
- 13二次元好きの匿名さん21/11/07(日) 02:28:24
素晴らしかった。ありがとう。
- 14二次元好きの匿名さん21/11/07(日) 02:45:38
アプリスズトレとはなんとも貴重な…歓声スルーの辺りとかアプリスズカ感あってよかったです
- 15二次元好きの匿名さん21/11/07(日) 08:36:42