- 1導入23/01/06(金) 20:57:00
午前中の学科を終えミーティングの為にトレーナー室を訪れた午後、そこにトレーナーの姿はない。
少し早く来過ぎたか。備え付けの椅子に腰掛けながら辺りを見回すと一冊の雑誌が目に留まった。どうやらウマ娘を取り扱った専門誌らしく表紙には先日のGIレースを勝利したウマ娘の姿が大きく掲載されている。
トレーナーが来るまでの時間つぶしにちょうどいい、そんな軽い気持ちでページをめくった。
「……!」
しかしその雑誌は想像していたものとは少し毛色が違っていた。
競技者としてのウマ娘ではなく少女アイドルとしてのウマ娘……そちらの面を重視した下世話な記事ばかり。
ライブパフォーマンスでの人気の振り付けやらレース場でのおすすめ撮影スポットやら、真っ当なものかと思われた【メイクデビューを終えた注目ウマ娘!】なんて記事もレースそのものには一言も触れず容姿や歌唱、ダンスといった部分ばかり紹介している。
だが呆れ混じりに残りのページを適当に読み飛ばしていく中で一つだけ目を引いた特集があった。
【彼女にしたいウマ娘・最新版】
以前なら他と同じように気にも留めなかったであろうそれが今は何やら気になって仕方がない。
どうやら街頭で一般人にアンケートをしたらしく、学園内でも知られている有名ウマ娘達が回答者の声と共に紹介されていた。彼女達は同性である自分でも魅力的と思うのだから男性目線でそう感じるのも納得の人選だ。
……自分はどう評価されているのだろう。不意に、そんな疑問が胸を満たした。
息を飲みページをめくったその先には
……と、こんな導入で始まるいろんなウマ娘ちゃんのssが読みたいです
・記事で紹介された?されてない?
・されていたならどういう扱いだった?
・そこからトレーナーへどうリアクションする?
色々分岐させて君だけのssを書こう!
もちろん導入を一から新しく書いてくれるのも大歓迎 - 2言い出しっぺの自分から:タマ編23/01/06(金) 20:58:34
2ページ目。そこにも見知った名前がいくつもあった。
「おお、やっぱシチーは人気やなぁ。アルダンもおるわ。メジロのお嬢様やしそりゃー男やったら憧れるわな」
3ページ目、4ページ目ともなると扱いが小さくなっていく分ウマ娘の数も増える。まだ自分の名前は出ない。
そして最終ページに奥ゆかしいくらい小さな自分の名前を見つけた。
【彼女にしたくないウマ娘】として。
「……はーやれやれ。世の男共は見る目ないわー」
どうせこうなる気はしていた。
自分の容姿がどう見られているかくらいそこそこ生きていれば自覚するものだ。
小学生のような身長にヒョロヒョロの貧相な身体つきは男の本能に訴えかけるには難しい。おまけにおしとやかさや上品さとも縁遠い。
分かってはいた。分かってはいたのだが……
「……トレーナーもそうなんかな」
今一番身近な異性であるトレーナーが思い浮かぶと薄い胸に痛んだ気がした。
「お、早いなタマモ!」
「ウギャアァァァァ!!」
「うわぁぁぁぁ何やってんの!?」
しかしその痛みは突然現れたトレーナーへの驚きですぐに霧散してしまう。勢いの余り手にした雑誌を引き裂いて逆にトレーナーまで驚かせた。
「は、入って来る時ノックくらいしーや! ……って、やってもーたぁ!」
トレーナー室に置いてあったということはトレーナーの私物の可能性が高い訳で、雑誌を台無しにしてしまった現実に顔色が変わる。慌てふためく自分を無視してトレーナーが先程まで雑誌だった紙束を受け取ると何てことの無いように笑った。
「ああ、これ間違って買ったやつだから別にいいよ。中身も大したこと書いてなかったし」
トレーナーが愛読しているのではないと知って安堵の息を吐く。ならばもうこんな本のことなど忘れよう、そうしたかったのだが…… - 3タマ編:続き23/01/06(金) 20:59:34
「彼女にしたいウマ娘……?」
真っ二つになったのはちょうど自分が読んでいたそのページでトレーナーはそこから熱心に記事を読み進めていく。いずれ自分の情けない評価を目にするだろう、その時には笑ってネタにしてやるつもりで待ち構える。
しかしトレーナーの反応はこちらの予想とは全然違っていた。
「ちょっとこの雑誌の編集部に文句言ってくる」
「ちょちょちょーい! 仕事ほっぽって何しよん!!」
部屋を出て行こうとしたトレーナーの背を必死に捕まえたが振り返った表情は如何にも不満ですと顔中で表現していた。
「いや……この特集おかしいだろ。何でタマモが彼女にしたくないウマ娘なんだよ!」
担当に下された評価が心底納得がいかないらしい。
「そう言われても世間の評価っちゅーもんやからしゃーないやん。怒ってくれるんは嬉しいけどトレーナーとしての欲目入っとんで」
「それはそうかもしれないけど、ほらこれ見てくれ」
彼の指差した先には回答者のコメントがあった。 - 4タマ編:終わり23/01/06(金) 21:00:11
「タコ焼き以外の料理作れなさそう……そりゃ確かにインタビューでは得意料理はタコ焼きって答えてるけどさ、それ以外だって作れるのに。むしろ安い食材を毎日食べても飽きさせない節約料理のレパートリーの凄さとか全然わかってない!」
続けて語る。
「常に漫才のノリでいられるとこっちが疲れる……あーゆーのは取材の時の対応だってわからないのか。タマだって四六時中ボケ突っこみやってる訳じゃないしむしろ気が回る方でこっちがしんどい時には空気読んでくれるのに」
思わぬトレーナーからの評価に顔が熱くなってくる。
「そもそもそういう目で見れない……これも分かってないな。そりゃ確かに背は低いけど顔立ちはめちゃくちゃ美人だし体型だってちゃんと手足が長いから幼児体型とも違うし。というかタマモってよく考えたら彼女にしたい要素多すぎない?」
「ふぇっ!?」
「美人で料理上手で明るくて気が利いて、あと家族想いで優しくて。うん、理想の彼女じゃないか?」
問い掛けられたが答えられるはずがない。急激に頭に血が昇ったかのように顔が熱くなり、めまいがし、言葉に詰まって何も言えない。
「タマモが彼女になったら絶対幸せになれる気がする。というかタマモ、彼女になってくれ!」
「なっ……」
頭の中が真っ白になってトレーナーの言葉を受け止めきれない。
何で、突然、いつから。疑問符ばかりが脳内に漂い言葉を返せない。
混乱する思考とは別に視界はトレーナーの姿を捉えて離さず、だからこそ異変に気が付くことができた。
「……あれ? ツッコミは??」
「わかりにくいボケかますなぁぁぁぁ!!」
一連がトレーナーのボケだった。
危うく本気にして恥を掻くところだった怒りが上乗せされ渾身のツッコミとなって炸裂する。
「そういうタチの悪いボケやめとき。ウチ以外にやったらアレやでホンマに」
「ごめんごめん。タマモが落ち込んでるかなと思って……」 - 5タマ編:終わり223/01/06(金) 21:00:31
つまり称賛の言葉も全てボケの為の前振りだったのだ。どうせこんなことだろうと思ったと一瞬でも喜んでしまった事実を無理矢理なかったことにしようとする。
「でもタマモが彼女だったら幸せだろうなってのは本当だから」
「……あーもーわかったからさっさとミーティングやろーや!」
顔が再び熱を持ち始めたのを振り切るようにそっぽを向く。
尚この会話の一部が誰かに聞かれていたのか、後日トレーナーとタマモクロスの交際疑惑が流れ真偽を問い質す為二人揃って理事長室に呼び出されることをどちらもまだ知らない。 - 6二次元好きの匿名さん23/01/06(金) 21:02:52
いいじゃん
- 7二次元好きの匿名さん23/01/06(金) 21:03:11
- 8二次元好きの匿名さん23/01/06(金) 21:03:14
こんな名作見せられたら書く自信なくなるんだが
- 9二次元好きの匿名さん23/01/06(金) 21:04:32
あほくさ、っててする場面を書くんだよ!その光景を!
- 10二次元好きの匿名さん23/01/06(金) 21:06:55
スレ主が有能過ぎるスレは伸びない
こんないい作品のあとに拙作を貼る勇気は無いです - 11スレ主はタマ推しです23/01/06(金) 21:09:24
- 12二次元好きの匿名さん23/01/06(金) 21:10:28
題材は書きやすそうではあるけど主の後じゃ出しづらい
- 13二次元好きの匿名さん23/01/06(金) 21:13:15
ちょうど明日から三連休なんだ!
主のあとだからなんだってんだ!
ちゃちゃっと書いてみせらぁっ!!
月曜夜にはできてるといいな…(遠い目) - 14二次元好きの匿名さん23/01/06(金) 21:13:22
- 15スレ主はタマ推しです23/01/06(金) 21:17:05
- 16スレ主はタマ推しです23/01/06(金) 21:26:49
この雑誌は結構お下品な雑誌なので記事内のコメントも結構エグかったり身も蓋もなかったりするやつがあったりします
例
「おっぱいでかいから」
「ロリコンなので」
これくらいストレートな理由で選ばれてる子もいるかも…? - 17二次元好きの匿名さん23/01/06(金) 21:30:09
- 18スレ主はタマ推しです23/01/06(金) 21:32:19
- 19二次元好きの匿名さん23/01/06(金) 21:33:24
シービーがどうするかのイメージが湧かねぇ...
- 20二次元好きの匿名さん23/01/06(金) 21:34:55
- 21スレ主はタマ推しです23/01/06(金) 21:36:57
- 22タマ被り◆AlPvTPCc0qfn23/01/06(金) 21:45:00
「ほーん、なるほどなるほど。思ったより人気ないんやなぁ、ウチ」
「おまたせ……げっ、タマ……そんなの見てもいいことないよ」
「読むとこに置いてたんはアンタやろ」
「それはごめん…抗議とかする?」
「まぁ別に気にはならんからええけど…けどなぁ」
「けど?」
「この『年中夫婦漫才は無理』ってのはなんやねん、そないウチ漫才してる?」
「……してるかな」
「ウソでも否定してぇな!ほな、夫婦ってのは?」
「オグリと一緒のときは特によくしてるから、それかな」
「でもオグリとのアレはアレとちゃうやん、誰とのアレ見てアレしてる言うてんやろな」
「アレ多っ。あとメディアで出てるのって……あー…」
「?……なんや、黙って赤なって……あ、なるほどな」
二人同時に、一人を指さした。
了 - 23二次元好きの匿名さん23/01/06(金) 21:46:06
- 24スレ主はタマ推しです23/01/06(金) 21:48:44
- 25タマ被り◆AlPvTPCc0qfn23/01/06(金) 21:53:06
- 26スレ主はタマ推しです23/01/06(金) 21:57:48
ちょくちょくタマssを投下してくださってるのをいつも見てます
会話だけで情景が浮かぶようなやり取りを思いつく発想は尊敬の一言
地の文に頼らないといけない自分にはない持ち味は憧れます
スレを盛り上げて頂き改めて感謝!
- 27二次元好きの匿名さん23/01/06(金) 21:59:45
これは巧妙なタマスレ
- 28二次元好きの匿名さん23/01/06(金) 22:02:46
タマスレであったか……!
- 29二次元好きの匿名さん23/01/06(金) 22:03:32
タマちゃんじゃないとアレなのかしら……?
- 30スレ主はタマ推しです23/01/06(金) 22:04:37
- 31ではマートレで行かせていただき23/01/06(金) 22:07:12
「……むう……」
『僅差でウオッカ、ダイワスカーレット。アストンマーチャンは3位という結果に。
「カッコいい」ウオッカと「美しい」ダイワスカーレット。「かわいい」はアストンマーチャンで大凡固まったのだが、「彼女」になら?というと状況は変わるらしい。』
『「ウオッカは男友達感があって気兼ねなく付き合えそうですよね。あとスカーレットさんってああ見ててすっごい優しいんですよ。迷ったときに教えてくれたりして」
「マーチャンはほんと可愛いんですよ。でも彼女ってなるとん?って感じで……」どうやら可愛いだけでは難しいみたいだ』
「……むう〜……」
納得いきません。マーちゃんだってカッコいいことも出来ます。優しさだってあるのに。あるのに……。
"何見てるんだ?"
「……トレーナーさん」
"ああ、その本か。あの二人は人気だねぇ"
「……」
トレーナーさんも、マーちゃんみたいな子とは付き合いたくないのでしょうか。そもそも、マーちゃんは誰かと付き合えるのでしょうか。考えても、答えは浮かびません。
"知らないって、可哀想なんだな"
「…………え?」
"マーチャンはカッコいいし優しいところもあるのにね"
でも、マーちゃんが病院で患者さんに優しくしていたこと。マーちゃんが小さな男の子を助けたこと。トレーナーさんはみんなちゃんと見ていて、覚えていました。
"こういう事ほどブログにしたほうがいいんだろうけど、オチを作るのが難しくて……"
「……!……えへへ」
そう言って照れくさそうに笑う顔に、わたしもそれにつられて笑ってしまいました。
「(……よかった、あなたがトレーナーさんで。……本当によかった。)」
良いことは、伝えないと覚えてもらえません。けれど本当に覚えていてほしい事は、わたしは一番好きな人がいい。 - 32タマ推しスレ主23/01/06(金) 22:14:50
マーチャンでのご参加ありがとうございます
暖かな気持ちになる心和むssですね
マーチャン未所持の為的外れなら申し訳ないのですがマーチャンのふわりとした雰囲気とそこから感じる儚さが素敵な文章でした…
- 33トレベル1/423/01/06(金) 22:34:41
※ >>1からの続き想定です。
「……アタシもいる」
なんとはなしにめくってみた数ページ目には、アタシの名前……メジロドーベルという文字列も載っていた。
ただアタシだけ、というよりかは他のメジロの子ともまとめて、みたいな紹介の仕方ではあるんだけど。
元々男性が苦手だからいわゆるどういう女の人がモテるか~、みたいな事には興味がなかった。
けれどこうやって雑誌の紹介として、彼女にしたいと紹介されるのはそれはそれで嬉しいものがある。
「なんて思われてるんだろ」
どういう部分が男性に支持されているのか、少しだけ自分の紹介欄やアンケートの回答を見てみると。
『黒髪ストレートが好き』
『線が細くてきれいだから』
『シンプルに美人だから』
自分の容姿には自信がないけれど、意外とそういう意見が目立っていてなんだか照れる。
(トレーナーも……こう思ってくれてるのかな)
ここまで容姿に言及された意見が多いと、当然そんな男性の一人である自分自身のトレーナーがどう思ってるかも気になる。
確かに、不特定多数から付き合いたい女性。魅力的な女の人として見られているのは悪い気はしない。
しないけれど、アタシにとってはあまり重要な事柄じゃない。だってアタシにとってそう思われたい相手はただひとり……アタシのトレーナーだけだから。
- 34トレベル2/423/01/06(金) 22:34:55
「ドーベルごめん。先来てたんだな」
「あっ、えっ!?」
雑誌に夢中になっていると席を外していたトレーナーが部屋に戻ってきた。
「なにもそんなに驚かなくても。!? ああ~……しまった……」
部屋に入ってくるなり、雑誌を見ているアタシの姿を見て苦々しい表情を浮かべる。
雑誌の内容を見られたくなかったとか……? でもそこまで悪い事が書かれてる訳じゃなかったし、あんまり気にする事でもないと思うんだけど。
「中身、どこまで読んだ?」
「えっと……メジロの子が紹介されてるとこだけ」
「そっ、かぁ……」
この反応を見るに、読まれたくなかったのはもう間違いないと思う。
ただその理由に関してはまだよく分からない。
「どう思った? 率直に」
「えっ? 別に悪い気はしなかったけど……」
「あれ? そうなのか?」
けれど雑誌への感想を口にした途端、意外そうな顔をした後、トレーナーの表情がパッと晴れる。
「はぁ~……よかったぁ……」
「何が良かったの? というか何をそんなに心配してたの?」
懸念していた自体にはならなかったみたいだけど、ここまで来ると何をそこまで心配していたのか気になる。 - 35トレベル3/423/01/06(金) 22:35:08
「あー、いや。大した理由じゃないんだよ。雑誌のドーベルへの回答欄さ、容姿に関する答えばっかりだったろ?」
「うん、そうだったけど。それが?」
「だからだよ。男ってこんな事ばっか考えてるのか~、って君に変な先入観持たれたら嫌だったからさ。本当に、部屋を出る前の自分を呪ってやりたい」
なるほど。世の男性が女性の見た目しか見ていない、みたいに思われるのが嫌だったのか。
「アタシなんかでも美人、って思われてるのは普通に嬉しかったけど」
「意外だな。彼女にしたいとか思われたりは平気なんだな?」
「別に男の人が苦手って言ってもよく分かんないからだし。男の人からしたら、それこそ可愛い彼女が欲しいとか思うのは普通な事なんでしょ?」
「まあ、そうだけどなぁ」
アンケートの結果、という事もあってやっぱり容姿が可愛らしい子が多く挙げられているし。
男性にとっては普遍的な考え方だと思うからそこまで嫌悪感を抱くようなものでもない。
「トレーナーも……そうなの?」
だからこそ、気になる。
トレーナーは……どう思ってるのか。
どういう子が好みで、彼女にしたいのか。
「俺か? 俺は……答えなきゃダメか?」
「この際だから教えてよ。彼女とか欲しくないの?」
「欲しいという言い方は適してないと思うけど、まあ欲しいと言えば欲しいな」
? 言い方が引っ掛かる。まるで具体的に好きな人がいるからこそ、不特定多数を差す彼女が欲しいという言い方は適してないというような。そんな答え方。
「誰かいるの? 好きな人」
「っ!? いや、い、いないぞ?」 - 36トレベル4/523/01/06(金) 22:36:06
その反応は、どんなに鈍い人でも嘘だって分かる。いるんだ、好きな人……。
「その答え方はいる、って言ってるようなものだと思うんだけど」
「いない、いないからな!?」
「……どんな人?」
「だからいないって!? ……ああ~もう無理かぁ」
否定すら跳ね除けて質問を続けるアタシに、やがて誤魔化せないと観念したのか。
恥ずかしそうにアタシから視線を逸らす。
「ああー……いるよ。好きな人」
トレーナーからの答えを聞いた途端、胸がざわつく。
自分から聞き出しておきながら、トレーナーに好きな人がいるという事実が期待と不安を煽る。
トレーナーの好きな人がアタシであれば、これ以上嬉しい事はない。
ただそれ以外の場合は、アタシの恋は報われない。それにその可能性の方が高いに決まってる。
アタシの沈黙を、先ほどの質問への回答を待っていると思ったのかさらに言葉を続ける。 - 37トレベル5/523/01/06(金) 22:36:18
「そうだな……。基本的にはしっかりしてるんだけど、周りの事をいつも気にかけているから自分一人で抱え込みがちで。誰よりも優しくて、隣で支えてあげたくなるような子だよ」
雑誌のアンケートとは真逆の、内面にしか触れていない答え。
だからかもしれない。トレーナーの言う相手が自分なのか、それ以外の誰かかは分からないというのに。
純粋に、トレーナーの恋を応援したいと思っていた。
「本当に好きなんだね、その人の事」
「……流石にこれ以上は勘弁してもらえるか? 担当の子に好きな相手の事を喋るのは恥ずかしいわ……」
「ちなみに見た目は?」
「勘弁してほしいって言ったんだけど……? もういいや……どうせバレてるんだし変わらないか」
でもそれはそれとして容姿の好みは気になる。普段全然そういう話をしないから。内面が素敵なのは分かったけど、トレーナーが惹かれるような子がどんな容姿をしているのか。
そして聞き出したトレーナーの答えは。
「長い黒髪が綺麗な美人で、線が細くて、守ってあげたくなるような子」
奇しくも、雑誌に載っていたアタシへのアンケート結果とよく似ていた。 - 3832~3723/01/06(金) 22:36:58
迫真の行数管理ミス(白目)
- 39タマ推しスレ主23/01/06(金) 22:41:30
1をそのまま利用してくれてありがとうございます
実にシームレス…
ドーベルを気遣うトレーナーがスパダリだし問い詰められた時の答え方もスパダリだし
何より好きな人が自分じゃなくても応援したい!と考えるドーベルめちゃいい子…ってなった
素敵なトレ♂ドベでした
- 40トレフラ23/01/06(金) 23:00:01
「彼女にしたいウマ娘…」
トレセンに来た頃であれば気にも留めないような特集でしたが…
「トレーナーさんがどう思っているかとこれは別の話ですが…参考にはなるかもしれません」
その特集のページをめくり私の名前があるか確認しました
「……3位ですか」
品のないコメントも見受けられましたが上位であり一応喜ばしい事ではあるのですが……
「トレーナーさんはどう思っているのでしょうか…」
「私はトレーナーさんの1位になれているでしょうか?」
ふと不安になってしまいました…
トレーナーさんにはもしかしたら本命の方がいるかもしれない…そんな考えが頭をよぎって…
「待たせてごめんね、フラッシュ」
「ひゃっ!?」
「ト、トレーナーさん…いえ、問題はありません」
「今日はスケジュールに余裕を持たせていますから」
「ところでその本は?」
「見ますか?あまり有益な情報はありませんが…」
「…彼女にしたいウマ娘?」
「…フラッシュが1位じゃないんだ」
「そうみたいですね」
「…納得いかないな」
「えっ?」
「フラッシュ以上に魅力のあるウマ娘を俺は知らないよ」
「……!」
「トレーナーさん」
「確認の為伺いたいのですが…」
「つまりトレーナーさんにとって私は1位という事でしょうか?」
「もちろん」
「……っ」
「そうですか…ふふっ」
「ありがとうございます、トレーナーさん」 - 41二次元好きの匿名さん23/01/06(金) 23:01:57
「……じゃあ、トレーナーさんはどう思うんですか?」「えっ」
困った。軽い気持ちで購入した雑誌にあんな俗っぽい記事があることにも困ったし、それをスズカが読んでしまったことも困ってる。
「私、やっぱり魅力ないですか?」「いや、そんなことはないけど」
肝心の彼女にしたいウマ娘リストに、スズカはいなかった。
そういう目で見られていないというのは良い事なのかも知れないが、正直なところ、俺は年頃の女子生徒ではないのでその辺の感覚はよくわからない。
彼女にしたいと思われて嫌な気持ちになる子もいるし、評価されていないと気にする子もいるだろう。スズカはどちらかといえば後者なのだろうか。
……となると、少し意外だった。そういうことは、あまり気にしないタイプだと思っていたが。
「えっと、スズカは十分魅力的だと思うし……あー……」
とはいえ、言葉が出てこない。どういえばセクハラにならずに「君は女性としても魅力的だよ」と表現できるんだ?
「……ふふ」「ん?」
すると、スズカは小さく笑った。
「ごめんなさい、困らせるようなことを聞いて」「え?」
「大丈夫です、トレーナーさん。わかってますから」
何も説明していないが、スズカは何かを察してくれたようだった。
それにしても、たまにこうして意地悪なことを言う。そういうところも、君の魅力だと思うんだが。
「でも……もし、トレーナーさんにだけでも」
スズカは雑誌を静かに閉じて、優しい声で言った。
「そう思ってもらえると、嬉しいです」「……あの、それってどういう」
……急なことに困ってつい聞き返したが、答えは聞けなかった。彼女のあの言葉は、どういう意味だったんだろう。
でも、そう言われるとやっぱり困った。彼女にしたいとか、そういうのとはちょっと違うんだけどな。
俺は、楽しそうに走る君が好きでスカウトしたから。 - 42二次元好きの匿名さん23/01/06(金) 23:02:20
うっかりスレを開いてしまったので支援なの。
トレスズはこのくらいの距離感で相思相愛だと美味しいの。 - 43デジタル1/223/01/06(金) 23:18:11
「とれ、とれーなーしゃん……思ったより、思ったより…ひぇぇえ…」
トレーナー室に入ると、少し早くに来ていた担当ウマ娘、アグネスデジタルが弱々しい悲鳴をあげていて……その手元には雑誌。
こちらが確認する前に、先に読まれたらしい。
「あー、デジタル?そういう結果はさ、大体実態とは乖離があるもので…」
…だから低くても気にすることはないと、とりあえずの慰めを、終える前に。
「ええ、ええ!わかってます!乖離!でもこれは……すごく、すごい乖離ですよぉ!審議です!」
…爆発した。半ば叫びながら突きつけられたそのページには、『彼女にしたいウマ娘』に見事入着している担当ウマ娘の姿。
正直、下世話な話題ではあるが…入着は入着。
おお、と声が出た。
ひと目でわかるくらいのスペースを持って特集されており、ピックアップされていた意見を拾えば。
『一緒に推しを推したい』なるほど。
『ヲタク語りが楽しい』……うん。
『ガチタンはデジ』?これはよくわからない。 - 44デジタル2/223/01/06(金) 23:19:34
「ええと…よかったな?」
「良くないです!いや、推してもらえるのは嬉しいですけど、入れてくれた人たち、私のこんな真の姿を知ったら、幻滅されますってあばばば」
「……こんな姿もなにも、デジタル、別に営業用の顔とかない、のでは?」
「ほぇ?」
「トークイベントとか、サイン会とか、解説とか、全部今の調子だし」
「えっ、あっ、そうです、けど……」
「だから、その投票でデジタルを答えてくれた人たちは、ちゃんとデジタルを見てるんじゃないかな」
「……そんな、じゃあ、この私を見て、彼女にしたいって……奇特な人たちが、こんなに?」
「え、うん」
「……ひぇ、ひ、ひええ……」
自分もまた『奇特な人』の一人とは、言うとまた爆発しそうだったので……いったん、胸にしまっておくことにした。
おしまい - 45タマ推しスレ主23/01/06(金) 23:20:51
- 46二次元好きの匿名さん23/01/06(金) 23:30:40
【彼女にしたいウマ娘・最新版】
そこにテイエムオペラオーの名前はなかった。上位にランクインしたメイショウドトウへのコメントで「覇王への挑戦を支えたい」と書かれていたからには注目は足りているはずだ。
『こういう気取らない場にこそ民衆の気持ちは表れるものだからね』
読み進めていくと「癒されたい」「守りたい」「応援したい」といった言葉が並んでいた。
『ボクという太陽は恋人にするには眩しすぎるようだ!』
「オペラオー?」
「巷間の声にも気を配るとは感心だね」
いつの間にか戻ったトレーナーの姿を見て、ふと、小さな疑問が浮かぶ。
「時にトレーナー君、君はいつかこのボクに焼き尽くされてしまうかい?」
「どういうこと?」
分からない時は解説を求める、オペラオーも認めるトレーナーの長所だ。
「ふむ、ボクのトレーナーの地位は畏れ多かったり重荷だったりしないかい? ということさ」
「しないなあ」
「即答だね」
「だってオペラオーは相応しくないトレーナーを側に置き続けたりはしないだろう? 一度や二度判断を間違えたとしてもじきに気付いて改善を促し、それでも駄目なら契約を解消する。それが“テイエムオペラオー”だから」
「君は──」
あまりの信頼と率直さにたじろいだものの、すぐに喜びが取って代わる。
「そう来なくてはね! 張り切ってトレーニングを始めようじゃないか!」
「今日はミーティングだね」
「よろしく頼むよ」
高笑いと共にグラウンドに向かおうとするオペラオー、それを冷静に止めるトレーナー。2人の覇道はどこまでも続いていくのだった。 - 47タマ推しスレ主23/01/06(金) 23:42:33
- 48オグリキャップ(オグリ視点1)23/01/06(金) 23:43:45
妙に派手な雑誌だった。オグリキャップが最初に覚えたのは、珍しいものが置いてある、という好奇心である。
「彼女にしたいウマ娘ランキング……か」
それが月の特集らしい。ぽつりと表題名を呟き、ぱらぱらとページを捲る。
先輩、同期、後輩の名前に紛れ込むように、自分の名前もあった。中の上くらいだろう。そのランキングよりも、コメントの方が引っかかった。
『連戦連勝大人気ウマ娘!でも食費が凄そうだ。彼氏は苦労するかも?』
自分は確かに、人よりもたくさんご飯を食べる。カサマツからトレセン学園に来て、大食い大会に出たことも、一再ではない。
でも、それで人を苦労させるような事があるだろうか。第一、食事代は自分で出している。しかし、例えば。
「トレーナー」
ウマ娘ではない、最も身近な人の存在が口を衝く。彼も実は苦労しているのだろうか。レースで勝つ度に食事に連れて行ってくれる彼が、穏やかな表情の下にそれを隠しているようなことが、あるのだろうか。
トレーナーの卓上に置いてある自分の人形。人形は飯代がかからない。そうタマに笑いながら言われたのはだいぶ前の事だ。その時は買わなかった人形だが、ある時からプレゼントとしてこのトレーナー室にやってきていた。
この雑誌がトレーナーの机に置いてあるということは、トレーナーはこれからこの雑誌を読むという事だろうか。あるいは、もう読んでいるのか。
自分はレースで勝って、故郷の人たちを喜ばせるためにトレセン学園に在籍しているのであって、彼氏が欲しい訳ではない。だが、食事が理由でトレーナーに嫌われるのは、絶対に嫌だ。
強く、何よりも強くそう思う。雑誌を握る指先に、力が籠った。 - 49タマ推しスレ主23/01/06(金) 23:43:47
(正直ssの内容も楽しみだけどそのウマ娘が選ばれた理由をそれぞれ考えてくれるのも楽しみだったりする)
- 50オグリキャップ(オグリ視点2)23/01/06(金) 23:44:45
「オグリ」
背後から、声を掛けられていたことに、不意に気づいた。
トレーナーだった。普段の穏やかな表情で、いつもよりもちょっとだけ、視線が鋭いような気がした。
「オグリ。大丈夫か?」
「すまないトレーナー、これは」
「ああ、その雑誌」
トレーナーは微笑み、開きっぱなしだった雑誌をゆっくりと手に収める。自分が見ていた特集のページの更に先、ほとんど巻末に近いページの隅を指さした。
『穴場! 各レース場のグルメ!』
「この記事を他のトレーナーが教えてくれた。雑誌も、その人がね。俺はあまり手に取らないから、こういう小さな記事に気づかないことが多いんだ」
「でも」
「オグリは勝ってくれる。これからもずっと、皆の思いを背負って。俺は、それを信じているんだ。それなのに、レースの後の御馳走がなくて、オグリを残念がらせたくない」
「むっ。そんなことで、私は残念がったりしないぞ」
「オグリと美味しいご飯を食べるのは、俺の楽しみでもあるんだよ」
トレーナーがにこりと笑う。すっと冷えかかったオグリの胸の内を、たちまち温かい感じが満たした。
やっぱり、そうなのだ。この人と一緒にいれば、故郷の人たちに囲まれているような安心感に包まれる。選抜レース前に靴を送ってくれた時と、何も変わらない。
「じゃあ、トレーナーの心遣いを無駄にできないな。トレーナー。早速、厳しいトレーニングをしよう。勝って、私の活躍を故郷の」
「もちろんだ。先に、コースへ行っていてくれ」
「ああ!」
振り返る前に、ぬいぐるみが再び視界に入った。
負けないからな。クリークやイナリと競うレースの時にも似ている、挑戦的な心持ちになっていることに、ふとオグリは気づいた。
- 51オグリキャップ(T視点2)23/01/06(金) 23:45:49
機嫌を取り戻したらしいオグリを見送った後、トレーナーは深くため息をついた。
壁掛け鏡へ首を向ける。顔は赤くなってはいなかった。だが、心臓がはち切れそうなほどの鼓動を打っているのは、自分が一番よく分かっている。
雑誌を貸してくれた同僚に変なつもりはなかっただろう。食事処の情報は常日頃から集めていることは、むこうも知っている。
だが、目当ての記事とは別に、こうもデカデカと組まれた特集に自分の担当ウマ娘のことが書かれているのである。トレーナーとして気になるのは当たり前の事だった。
既に何度も読んだ特集のページを、また開いた。
使われている写真はよく撮れていたが、あまり正しい記事とは言えない。オグリの魅力は記事に書かれていることの倍以上はあるし、食事で苦労させられたことなど一度もなかった。
それは、身近なトレーナーである自分だから知っていることで、他人が知らないのは仕方のないことかもしれない、とも思った。
ただ、ほんの僅かトレーナー室を離れた間に、オグリがこの記事を読むことは予想外だった。振り返った時のオグリの硬い表情と、垂れた耳、尻尾。そして開かれている雑誌の特集ページが視界に入り、それだけで何があったのか瞬時に理解できたのだ。
「オグリと美味しいご飯を食べるのは、俺の楽しみでもある、か」
我ながら気障な言葉を語ったものだ、と思う。だが事実でもある。オグリキャップというウマ娘とは、出会った時からいつだって、素直な気持ちで接してきた。
彼女が困っているように見えた時、判断を求められた時、打算ではなく自分の心に従うこと。オグリも、そういう自分をトレーナーとして選んでくれた。
今や永世三強とまで称されるに至った彼女に自分にできるのは、それくらいのものだろう。
だが、この想像以上の気恥ずかしさだけは、どうにもなりそうもない。
鼓動が収まった頃、雑誌を使い込んでいるバインダーと、ストップウォッチに持ち替えた。オグリのぬいぐるみが、こちらを見上げている。
こんな雑誌の記事や、ぬいぐるみのオグリではない。
「本物が一番だ」
光の加減か。口にした瞬間、ぬいぐるみのオグリが笑ったように見えた。
今再び、少しだけ、鼓動が高鳴った。
- 52タマ推しスレ主23/01/07(土) 00:02:28
- 53トレナカ(ナカヤマ視点)23/01/07(土) 00:16:30
「────くだらねぇ、なんだよコレ…」
トレーナーが来るまでの時間つぶしがてら、たまたま置いてあったの雑誌を見たのが間違いだった。
ウマ娘を取り扱う専門誌らしく、表紙には先日のGIレースを勝利したウマ娘の姿が大きく掲載されていたが、その中身はウマ娘達の容姿や歌唱、ダンスといった部分ばかり紹介している。
「そういう視線」で見られることは慣れている…が、しかし文章として見ると改めて強烈だ。
競技者をアイドル的側面からしか見られないのはあまりにも視野が狭い。掲載されたコメントも、どこか邪なものばかりだった。
それにしてもアイツもこんなモノを読むのか、と思う。そういえば普段どんなジャンルの本を読んでいるかまでは知らない。今度、探りを入れてみようか。
机の上にそれをバサリと放り、ニット帽を脱いでソファーに投げる。
「朝から気分が悪くなるモン見ちまったな………あ?」
───ふと、投げられた衝撃で開いた雑誌のページに目が吸い寄せられた。
【彼女にしたいウマ娘・最新版】 - 54トレナカ(ナカヤマ視点2)23/01/07(土) 00:17:44
……そういったことに興味がないというと嘘になる。
ギラギラと輝く瞳を見れば心が疼くし、「勝負だ」という声も体が震える。そして賭けに勝って喜ぶ姿も───
ここまで考えて、自分が想像する異性の姿がある男の姿で固定されていることに気付いた。
「………クソッ」
制服にシワが付くことも構わず、ソファーに倒れ込む。
ボフリ、と顔をクッションに埋め、足をぱたぱたとバタつかせる音が一人だけの部屋に響いた。
「───ああ、チクショウ」
これじゃあまるで、私が恋する乙女みたいじゃないか。
むくりと起き上がって髪をガシガシと掻きあげる。髪はボサボサで制服はシワシワ。こんな姿を見たら、シリウスは「勿体ねぇ」と怒るだろう。
遠くからトレーナーの足音が聞こえる。
遅刻したことを気にしてか、足早に。
アンタとあったら、いつものように不敵に笑ってやろう。
そうでもしないと私は───
───ギャンブルレーサーのままではいられないだろうから。 - 55シュヴァルグランを実装しろ123/01/07(土) 01:31:31
「……別に期待はしてない」
見回しても出てくるのはキタサンやクラウン、ダイヤさんばかりで僕の事など書いていない。最初から期待などしていない。……いなかったのだが、
「(……虚しい)」
人は見せつけられると、心が痛むらしい。
「(……見るのはよそう)」
そう思い元あったように置いたとき、後ろで扉が開く音がして
「グラン?……顔色悪いぞ?」
入ってきたトレーナーさんに声をかけられた。
「あ……いえ、何でもないです」
なぜそうしたかは分からない。けれど体は無意識に雑誌を隠そうとしていた。でも、直ぐにばれてしまった。
「?あ、その雑誌か。……ったく好き勝手書きやがって」
横をすっと抜けたかと思ったら、置いてあった雑誌を丸めてゴミ箱へ投げ捨ててしまった。
「笑わせるよ、何も見てないくせに」
「……良かったんですか?」
「ん?ま、金払って損したって感じ。でも嫌なもん置いといたっていい気分じゃないだろ?」
「それは、そうですが……」
それでも沈んだ気持ちは、中々良くなってはくれない。僕は姉達のようにはなれないのだろうか。考えれば考えるほど、気持ちは沈んでいく。 - 56シュヴァルグランを実装しろ223/01/07(土) 01:31:52
不意に、頭を撫でられた。大きくてゴツゴツしてて、暖かくて優しい手。
「グランの良さはさ、ちゃんと見てきたつもりだから」
その言葉に変な声が出てしまう。
「……へ?」
「例えば転んでもただじゃ起きないとこだろ?転んでも何かを掴もうと藻掻くところとかさ、やっぱ強いなぁこの娘はって思ったり」
「あとふとした時の笑顔が好きなんだよ。ホントにいい笑顔なんだ。どこかちょっと恥ずかしそうで━━」
「す、ストップ……!……恥ずかしいです」
急に何を言い出すのだろう。褒めたところで何かが出るわけでもないのに。
「ま、つまりはだ。何も分かってねーやつの言葉なんか聞かなくて良いんだよ」
その言葉に救われた気がした。
「……トレーナーさんは、もし僕みたいな娘が彼女だったら……どう、思いますか?」
「グランみたいな娘が彼女?うーん……」
気分が良くなってうっかりそんなことを聞いてしまったことを恨んだ。もしこの答えが自分にとって悪いことだったら……。けれど
「それはとっても嬉しいし、幸せだと思うよ」
今の自分の顔は面白いぐらいに笑顔だと思う。
「そう、ですか……!」
今は、今だけはこの笑顔を彼だけに見せてあげたい。 - 57TSCセイちゃん123/01/07(土) 01:57:03
「私が……2位?」
大した期待もせず、さっと読み進めようと開いたページで手が止まる。
無理もない。その見開きの2ページ目に写っていたのは、紛れもない自分自身だったのだから。
「『猫みたいな愛くるしさでめちゃくちゃ養ってあげたい』……『その強さに反した緩い雰囲気が生み出すギャップに惹かれる』……『一緒にのんびり釣りをする休日を過ごしたい』……ははん、なるほどねぇ」
写真の横の小さな枠に所狭しと並べられたコメントを眺める。
自分でもやり過ぎかな、と思うくらいにはあざとい言動をしている自覚はあるし、そういう部分で人気が出ているのはわかっていた。
それでも、1位のグラスちゃんに並んで自分が推されているとは微塵も予想できなかった。
……いや、正直に言えば一つだけ、心当たりがある。
「……つまんない、から?」
全てのコメントを読み終えて気づいた違和感。意外にもレースについて触れている投稿がほぼ無かった自分の記事と照らし合わせ、それは確信へと変わった。 - 58TSCセイちゃん223/01/07(土) 01:57:27
『セイウンスカイ! 大差で今ゴールイン!』
『これは完璧な勝利です! 他の追随をまるで許さなかったぞ!』
『春の三冠を達成し、実に40ものレースを無敗で駆け抜けました! もはやトゥインクル・シリーズはこの子の独擅場か!』
遡ること約4ヶ月前の宝塚記念。
追い上げるグラスちゃんに大差を付けて勝利した私を待っていたのは、勝者を称える実況と……。
「あ、あれ……?」
ぽつぽつと、控え目に聴こえてくる観客席の拍手。ただ、それだけだった。
じいちゃんのため……自分のため……勝利を狙う理由は完全にエゴ。だけど、どうせなら皆を楽しませるレースをしたい。いつだってそう考えながら走ってきた。
最初こそ、逃げに逃げを重ねてペースを物にする私の走りは、会場を湧かせ、掌握するまでの影響を与えていたと思う。でも、勝利を積み上げれば積み上げるほど……周りの反応は、私が望むようなものではなくなっていった。
『惜しい』『次は勝てる』『あの子は絶対王者にどう対抗してくるか』
段々と、勝者である私には目もくれず、他のウマ娘が私にどこまで迫れるか、そこに注目が集まり始めた。
【彼女にしたいウマ娘・最新版】
改めてその見出しに目をやり、そして理解した。
私が上位に選ばれたのは、単にレース人気が落ち込んで、他の要素に目を向けられたからだ、と - 5914のナカトレ 1/423/01/07(土) 03:12:46
沸騰を報せるケトルを傾け、ミニサイズのカップ麺に湯を満たす。待ち時間は三分。フードストッカーの一角から取り出した割箸を重しにしつつミーティングテーブルまで運ぶ。
午後からのダンスレッスンはいとも簡単にカロリーを消費する。地味に鳴り続けていた腹の音は、沸き立つ湯気とともに香る醤油ベースのスープを前にして、一刻も早く啜れとばかりに鬱陶しい。へーへー、もう少し待ちやがれ。パイプ椅子を引っ掛け脚を組み腰を下ろした所で、視界の端に見覚えのある装丁の雑誌を見つけた。
表紙を飾るのはつい先月に行われたG1高松宮記念にて戴冠したカレンチャン。私からすると一世代下のスプリンターだ。直接関わりを持ったことはほぼないが、フラッシュと一緒になにやら華やかな風情で会話をしているところをたまに見かけるな。
腰を浮かし雑誌を引き寄せた所で、ラーメンタイマーが食べ頃を報せる。目次が見えるよう表紙だけめくり、割箸を割って「いただきます」。食前の一言を口にするのは、他人がいようといまいと関係ない。担当トレーナー不在のトレーナー室に、麺を啜る音が響いている。
ライブ楽曲別ベストアングル(スカート衣装編)だの新人ウマ娘気になるスリーサイズ、だの、雑誌の内容は相も変わらず下世話なもんだ。スープを飛ばさないよう注意しつつも雑誌のページをめくっていく。トゥインクルシリーズなどのレースが国民的エンターテイメントである以上は、スポーツとしてだけではなく華美な娯楽として視聴する層もそれなりに存在はしているもんでさ。需要があるから供給されるのであって、供給があるから消費される。思ってもみない物差しで測られるのは、マスコミによる偏向報道と似たようなものなのかもしれねぇな。
だからといって、その狭い領域で判断された価値に囚われるのは、バ鹿らしいというもので。
「ごちそうさんでした」
一滴残らずスープを飲み干し、両手を合わせる。直前にめくったページに視線を遣ると、表紙でも大きく掲げられていたとある特集の見出しが踊る。
【彼女にしたいウマ娘・最新版】
さて、今回は一体誰が選抜されているのやら。食べ終わったカップ麺の器と割箸を避け、改めて雑誌を引き寄せる。あの栗毛の後輩か? それとも黒鹿毛の絶景か? ページをめくろうとした、その瞬間だった。 - 6014のナカトレ 2/423/01/07(土) 03:13:37
「ナカヤマ、ごめん遅れた──、……っ、うわああああ!」
背後の扉が勢いよく開かれて、トレーナー室の主が帰還する。カップ麺貰ったぜ、と告げる前に絶叫が部屋を満たすものだから反射的に耳を絞るしかない。振り返るとトレーナーは目をかっ開いてわなわなと震えてやがる。一体どうした。耳奥のハウリングが収まるより先に、らしからぬ勢いでトレーナーが部屋に踏み入って──いままさにめくろうとした雑誌をひっ掴んで取り上げた。
「ナカヤマこれ読んだ?」
「大声出すなるっせぇな。読んでたが? つかまだ読んでる途中だ。返せ」
「駄目」
私の担当トレーナーは私と出会ってから盛大にぶっトんだものの、基本的には物腰が柔らかなタイプだ。腕っ節は強くねぇクセに度胸だけは一丁前。そのくせ後からぶるぶる震え出す、小動物みたいなさ。そんなトレーナーが、はっきりと拒否の意志を示しているのは、なにやら珍しい。
しかし私からすりゃわけもわからず叫ばれてわけもわからず読んでた雑誌を取り上げられて、ジョーダン風に言やあ『イミフの不意味丸』だかなんだか……そりゃどうでもいいか。
ともあれ、返却を求めるものの、トレーナーは大きく首を横に振る。
「これは君が見ちゃいけないものだ」
「アンタが買ったんじゃないのか?」
「午前中に訪ねてきた雑誌編集者が置いていったんだよ」
「へぇ。だが、見るなってのはどういう了見だ。アンタに指図される謂れはないぜ?」
「この雑誌は君たちを貶めてる。そういうものから君を守るのは、トレーナーとして当然だから」
絶対に離すまいとばかりに雑誌を両腕で抱き締めて、トレーナーは強く眉を潜めている。流石にさ、何年もの付き合いがありゃあ、その憤りがどれほどのものか窺い知れるもんだ。
言い争いも辞さないつもりの矛先は、まぁ、納めた方がいいだろう。……そうは思ったものの。 - 6114のナカトレ 3/423/01/07(土) 03:14:42
「……く、……ふふ」
「ナカヤマ?」
「ハハ、……ハハハ! あァ、すまねぇな、堪えきれねぇわ」
「なんで笑って」
「安心しろ、茶化すつもりはねぇよ、……ふふ……過保護かよ、ハハ」
納めた矛の代わりにじわじわと滲むのはえもいえぬ面白さ。やべ、ラーメンが逆流したらどうすっかな? そのくらいの勢いで笑いがこみ上げる。腹を抱えそうになるのはなんとか押し留めた視界の端で、トレーナーがぽかんと呆気に取られていた。
まぁな、こいつが過保護なのは今に始まったことじゃねぇよ。どんな時でも私の盾になる。こいつはそういうバ鹿だ。
ひとしきり笑って、目尻の涙を拭って、発作みたくぶり返しかねない笑いを抑えるために頭を振る。アブないクスリでもヤったのかってばかりに爆笑する担当ウマ娘を見つめるトレーナーの表情は、呆気にとられたものから不安げなそれに変わっていた。そんな表情すんなよ、いま説明してやるからさ。
「その雑誌のバックナンバーがな、私のよく通ってる飯屋にあるんだよ」
「……!」
「飯屋の常連にもよく言われるぜ? 今号も彼女にしたいウマ娘に選ばれてねぇじゃねーか、ってな!」
「な……!」
「怒るな怒るな。最後まで話を聞け。だが私は言ってやるのさ。テメーらが彼女にしたいウマ娘は、私だろ、ってな?」 - 6214のナカトレ 4/423/01/07(土) 03:15:31
確かに私は、同期の絶景みたいに風光明媚の綺羅びやかさはないさ。表紙を飾るカレンのような『カワイさ』なんて程遠い。フラッシュのような凛とした風情もないだろう。ウマ娘である以上は悪くない見目はしているが、どっちかっていえば男受けより女受け。この手の雑誌で爪弾きにされるのも、まぁ、頷けるってもので。
でも。
「アンタはどうだ、トレーナー。顔も知らねぇ大衆の意見なんてどうでもいいよ。……アンタは?」
「……!」
「アンタが彼女にしたいウマ娘は、この特集の中にいるのかい? ……いねぇだろ?」
ほら、そんな狭い世界を象徴するようなもんはさっさと捨てちまえ。
大切なのは、アンタがどう思っているか。──アンタにどう思われてるか、なんだからよ。
終
***
>>53の可愛くてもんどり打つナカヤマの後に落とすのは躊躇われまくったけど折角書き上げたので置いておくね。求めてるのがこういうのじゃなかったらすまん。
阿呆くさってポーイすると思ったんだがいざ出力してみたら裏路地の飯屋に多分この手の雑誌は置いてありそうだしナカヤマ自身も気に留めてなさそうだってなった。
あとセイちゃん挟んでたらごめん。
- 63タマ推しスレ主23/01/07(土) 09:15:59
おはようございますスレ主です
寝落ちしてる間に増えてて嬉しい
「このキャラはこのネタで作りづらい…」という人は「妹にしたいウマ娘」「上司にしたいウマ娘」とか、少し改変してみるのもいいかもしれませんね - 64二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 11:19:54
- 65タマ推しスレ主(↑もそれ)23/01/07(土) 11:24:39
- 66二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 11:27:47
使い魔です。「スイープを彼女にしたい?いやーキツイでしょ」とか思いながら見ます
- 67二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 11:39:00
- 68二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 12:34:23
このレスは削除されています
- 69二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 12:37:07
シャカールで想像したけど絶対ないし興味無さそう
というわけで彼氏にしたいウマ娘部門も作れ(強欲) - 701423/01/07(土) 12:38:14
53ナカヤマに比べると、最後アンタに彼女にしたいって言ってもらえるのが大切だってニュアンスの所以外は完全に可愛さ捨ててるから楽しんでもらえなかったらどうしよかと不安だったけど、有難いお言葉いただけて感謝です。飯屋でも彼女はあんな感じで雑誌とか漫画とか読んでると思ってます。
欲しくなるは最高の褒め言葉です。頑張って書いて良かった
ナカヤマは自分だから気にも留めないけど、友だちがこれ見て傷ついてたりしたら静かに怒りを煮えたぎらせるイメージ。
でも53ナカヤマみたいにストレートに恋する乙女か何かかよって悶えるのも可愛いですよねわかりますすごくわかる恋する乙女ナカヤマ大好きです! 53ありがとう最高でした
- 71二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 13:53:52
トレーナー君、これは?」
トレーナー室の机に置かれていたもの。
それは私たち、中央のウマ娘についての雑誌だった。
けれど、中身は低俗そのもの。
掲載されている写真は明らかに"そういった"需要を満たすためのアングルで撮影されている。
記事の内容も、『彼女にしたいウマ娘ランキング』だとか、『抱かれたいウマ娘ランキング』だとか。
下劣極まりない雑誌だ。
ウイニングライブをはじめに、いわゆるアイドル的な活動も行っているのが私たちなのだ。
故に、そのような面から評価されるのは当然のことではあるし、十分に理解はできる。
だが、その一面だけにフォーカスするというのは……正直なところ、非常に不愉快だった。
「流石にライン超えてるような内容の記事が掲載されてるからね。抗議するのに必要だから買ったんだ。」
正直、こんな雑誌に一銭も使いたくなかったんだけどな。
珍しく、怒りを隠そうともせずに吐き捨てるかのように言う彼を見て、少しだけ嬉しくなった。
私と同じ視座に立ってくれている。
私と同じ夢を追ってくれている。
そんな分かりきっているはずのことを改めて実感する。
やはり、私のパートナーは彼しか考えられない。
ゆくゆくは…… - 72二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 13:55:27
っと、今はそれどころではなかったな。
まずは片付けるべきことを片付けてから、だな。
そんな不埒な思考を頭の隅に追いやり、まずは目の前の問題に集中する。
彼の隣に腰を下ろし、雑誌を机に放り投げる。
「じゃ、始めるぞ。まず問題の記事だが──」
〜〜〜〜〜〜〜〜
「──こんなもんだろう。」
「うん、それで良いと思うよ。」
ひと段落ついたところで、彼が呟く。
それに同意を示し、椅子の背もたれにもたれかかる。
アレで傷ついた子がいなければ良いのだけれど。
「なぁ、ルドルフ。君は、その……大丈夫か?」
恐る恐るといった様子の問いかけ。
心配してくれていることが伝わってくる声音だった。
「無論、なんの問題もない。あれしきのことで傷つくほど私はヤワではないさ。」
彼が気にしているのは、先の雑誌のあの文言だろう。
『シンボリルドルフは彼女にするには可愛げがない』云々。
まぁ、好きに言えという他ない。
- 73二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 13:56:13
「あのような愚痴無智な連中からの言葉など賞賛であれ中傷であれ、評価に値せんさ。」
「そうか。なら良かったけど……」
口ではそうは言うものの、どうにもまだ納得していないらしい。
まったく……
私に対しては本当に過保護だな、君は。
もっとも悪い気はしないがね。
「……私を欣喜雀躍させ、あるいは意気消沈させられる言葉。それを紡げる者は世界にただ一人しかいない。」
ソファーの上に膝立ちになり、彼と目線の高さを合わせる。
行儀の悪さは承知の上だ。
それでも、今だけは許して欲しい。
左手を頬に、右手を顎に添えて軽く上を向かせる。
目を見開き、口を半開きにしている呆けた様子の彼が可愛らしい。
「る、な……」
「君の言葉が欲しい。聞かせてくれ、___君。」
開いていた彼の口が一度閉じ、そしてまたゆっくりと開いていく。
そこから漏れ出たのは、私が望んだ通りの科白だった。
- 74二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 13:56:41
彼の想いが胸を沸き立たす。
顔が熱い。
耳も尻尾も、抑えきれぬほど歓喜に打ち震えている。
きっと、今の私は皇帝らしからぬ姿に違いない。
けれど、それで良い。
愛しい人の傍でぐらい、等身大のシンボリルドルフで居たいから。
「ふふ、ありがとう。私も君が──」
彼の想いに私の想いをぶつけ……
トレーナー室の扉は、しばらくの間、開かれることはなかった。
- 75二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 13:59:57
このレスは削除されています
- 76タマ推しスレ主23/01/07(土) 14:05:04
- 77二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 17:06:35
- 78二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 17:12:07
- 79タマ推しスレ主23/01/07(土) 22:05:51
- 80二次元好きの匿名さん23/01/08(日) 06:06:39
保守
- 81タマ推しスレ主23/01/08(日) 07:34:35
- 8277のロブトレ23/01/08(日) 14:16:03
「……やっぱり、私は入っていませんよね」
【彼女にしたいウマ娘・最新版】
トレーナー室においてあった雑誌の特集の一つ、そのページに思わず興味をいだいて開いてしまいました。
トゥインクルシリーズで走り続け、英雄として認められてきたため、もしかしたら私の名前もあるんじゃ、そんな淡い期待もありましたが……
「やっぱり、地味な私では入りませんよね……」
結果はどこにも私の名前はありませんでした。
上位に入っているのはドーベルさんやファインさん、シチーさんといったきれいな人が多くて、とても納得できる結果でした。
私のような小さくて地味な子は、こういった話題には上がらないというのはわかっていました。
今までならそれで終わっていました。ちょっとした落胆と納得で終わるものだったのに……
「トレーナーさんも、こういう人たちを彼女にしたいのかな……」
トレーナーさんはとても誠実で、優しくて、いつでも私のことを見てくれる大切な人……
でもトレーナーさんも男性で、本の中から出てきたような、そんな素敵な人ならきっと私よりもきれいな人とお付き合いとかもしたことがあると思います。
もしかしたら、この雑誌にも載っているようなきれいな人とも……
「……それは、嫌だな……」
トレーナーさんの横に私以外の人がいる、そう考えると胸の奥がズキリ、と痛くなる。
トレーナーさんが幸せになることは嬉しいことであるはずなのに、そうあってほしくないと思ってしまう悪い私がいます。
でも、私はこの人たちみたいな女性的な魅力なんてなくて、もしも私がレースを引退したらトレーナーさんとも離れ離れになって……
そうしたら、トレーナーさんとも……
「……うぅ……でも、こんな私じゃ……」
「どうしたんだい、ロブロイ?」
「ひゃぁ!と、トレーナーさん、いつの間に来ていたんですか」
「ついさっき来たところだよ。それで何か困っていることでもあるの?」 - 8377のロブトレ23/01/08(日) 14:16:42
トレーナーさんの事を考えていると、いつの間にか隣にトレーナーさんが来ていました。
どうやら考えすぎていてトレーナーさんが入ってきていることに気づかなかったようです。
それにどうやら私の様子を見てなにか悩んでいるように見えて気にかけてくれています。
その心遣いが嬉しいと思うと同時に、もしも今の関係が終わったら、なんてネガティブな感情が湧いてきてしまいます。
「……あの、トレーナーさん……実は……」
このままじゃずっと悩んでしまう、そう思い、勇気を出して手に持っていた雑誌を見せました。
「彼女にしたいウマ娘?」
「はい、やっぱり私は魅力はないのでしょうか……」
「……この雑誌を書いた人は可哀想だな」
「え?」
「だってこんなにも魅力的なロブロイに気づかないんだからね」
「ええ!わ、私が、魅力的、ですか?」
「ああ、だってこんなにも可愛らしくて」
「え」
「本の話はとても楽しいし、一緒にいたら色んな話ができるからきっと一緒にいるだけでとっても充実するし」
「は、はう……」
「それに、なによりも決して諦めない、その決して折れない意思の強さ、その輝きに、俺は最初に惚れたんだからね」
「えっ!!あ、えぇっ!」
たくさん褒められた末に突然、惚れた、なんて……
もしかしたら、彼女とかそういうことではなく、私の走りに惚れた、ということかもしれません。
ですが……
「ふふ、あはははははっ。そうですね。トレーナーさんにそう言われたら自信が持てます」
この人はきっとずっと見てくれる。そう信じられるのです。
- 8477のロブトレ23/01/08(日) 14:17:49
>>83「あ、そうだ、ロブロイ」
「?どうしたんですか、トレーナーさん?」
「ああ、逆にこっちから聞いてもいいかな。ロブロイはどんな人を彼氏にしてみたい?」
「え、ええ!!か、彼氏に、ですか!」
「うん、ぜひ聞いてみたいからね」
私自身の悩みが解決したと思ったら、今度はトレーナーさんからそのように尋ねられました。
私の話を聞いてくれたのだから、こちらからも伝えないと不誠実、そう思いますが、私が彼氏にしたい人……
それは、やっぱり……
「え、ええと、そうですね……その……」
「誠実で、とても優しくて、努力家で」
「英雄にとって、かけがえのない、大切にしたい、温かな人、です」
「(そう、トレーナーさん、あなたとずっと一緒にいたいんです)」
ずっと一緒にいて、私のことを見てくれる人。
私という物語を見つけてくれた人。
あなたが、好きなんです。
「そうか、なら、そんなふうになれるように頑張らないとな」
「俺の夢は君の理想の人になる、っていうのも一つだからね」
その言葉は、たとえ彼女にしたいものと異なっていたとしても、それでもその言葉は嬉しくて……
「ふふ、大丈夫ですよ、トレーナーさん」
「(だって、トレーナーさんは、すでに私にとって理想の人なんだから)」
絶対にトレーナーさんと一緒になる。
トレーナーさんが惚れ込んでくれた、一度決めたことは決して折れることのない意志の強さ
それは、恋心においてもそうなのですから……
- 851323/01/08(日) 20:33:34
「お、もう来てたのか。」
「! はい、おはようございます。」
「ん、おはよう。さっき読んでたのって…」
「ああ…こちらですね。」
部屋に入ると、既にグラスが来ていた。席を立ち挨拶をしてくれたので、会釈で返す。早めに来るのはどの娘でも偶にはあることだ。いつもと違うのは、彼女の手にある一冊の雑誌。
「あぁ、それか。買ったはいいけど中身が思ってたのとは違ったから、途中で読むのやめちゃったんだ。」
「なるほど…道理で、ほぼ新品同様の状態だったんですね〜。」
「熱心に読んでたみたいだったけど、何か気になるのでもあった?」
「ええと…こちらの特集を…」
やや歯切れの悪そうに示したところには『彼女にしたいウマ娘・最新版』とあった。席につきながら目を通すと、どうやらランキング形式に紹介されているようだ。1位はなんと唯一、回答者たちからのコメント付きで紹介されていた。
「スペちゃんか~、まあ今の話題はあの子で持ち切りだしなぁ…なんだろうなぁ、この負けた感じがしなくはない微妙な…」
「うーん、勝ち負けを決めるところではないのですが…正直なところ、複雑ですね。」
苦笑しながら、彼女はそう言った。
以前から旺盛な食欲や地方出身の背景などで注目されてはいたらしい。決定打となったのは、昨年のJCにて魅せた勇姿。凱旋門賞でエルがあと一歩及ばなかった、あのモンジューを見事に打ち破ってみせたことで、その人気に拍車がかかったようだ。
形は違えど人気は人気。負けず嫌いの彼女のことなので内心悔しいのではないかとも思ったが、そうでもないのか。
「…トレーナーさん。」
「ん?」
「個人的な内容で申し訳ないのですが、ミーティングに入る前にひとつだけ、お訊きしてもよろしいですか?」
神妙な面持ちで、彼女はそう訊ねる。
「…いいよ、僕に答えられる内容なら。」
「…単刀直入にお伺いします。トレーナーさんは彼女にするなら、どんな娘がいいと思っていますか?」 - 861323/01/08(日) 20:34:56
…先程の話題からもしかして、とは思っていた。こういう思い切りの良さは、彼女の魅力のひとつだ。
「…急だから、うまく答えられないと思う。それでもいいかな。」
「構いません、唐突なのは承知していますから。」
だからこそ、迂闊な真似はできない。お互いの気持ちも立場も、考えうるあらゆる要素を踏まえた上で、慎重に答えなければならない。
「…互いのことを思い合えて、でも大事なところは譲らず護ってくれる。厳しすぎず、でも優しすぎず、思いやりを持って行動してくれる。いつも自分の気持ちに正直でいて、たまには頼ってくれる。どんな時でもしっかり受け止めて、支えて、背中を押してくれる。」
我ながら拙い回答だと思う。けれどこれが嘘偽りのない、自分自身の答えなのだから仕方ない。恥ずかしさで俯かないよう、真っ直ぐに彼女の方に向くよう意識を強める。
「でも大前提というか、唯一望むとするなら…」
「………」
速る鼓動を抑えるように目を閉じ、ひと息挟む。
「いつも安心して、一緒にいたいと思える娘、かな。」
特別な話題性はいらない。目立った個性も気にしない。重要なのは、お互いにずっと一緒にいたい、と思えるかどうか。
穏やかに過ごせて、何かあっても浮き足立つことなく支え合える。それが、自分の望む彼女像だ。
「…っ、ふふっ」
「?」
「トレーナーさん、あまり求め過ぎるのも考えものですが、それにしてもちょっと抽象的じゃあないですか?」
「んー、そうかな~…」
「うふふ♪ でもわかりました。トレーナーさんご希望の彼女が、いつか現れるといいですね。」
「…うん、まあ気長に待つよ。さて、それじゃあ始めますか。」
「はい! ミーティング、よろしくお願いします♪」 - 871323/01/08(日) 20:35:19
…いつも安心して、一緒にいたいと思える娘。
(例えばそう、今僕の眼の前にいるような…)
なんて、そんなの自分の柄じゃない。彼女もまだ学生だ。
それに自分でなくとも、いずれは素敵な異性に巡り会える。そこに自分の入る余地なんてない。
(いち選手としても、ひとりの女性としても…)
これからのきみの人生が、豊かなものとなるように。
トレーナーとして、そう切に願うばかりだ。 - 88タマ推しスレ主23/01/08(日) 21:21:40
- 89二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 01:18:40
スレ主さん、ここで書いたものを渋とTwitterに載せたいんだけど問題ないだろうか
- 90タマ推しスレ主23/01/09(月) 01:28:06
- 91二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 01:33:43
- 92TSCセイちゃん323/01/09(月) 07:22:48
無性に居た堪れなくなって、読みかけだった雑誌をパタリと閉じる。
その動作とほぼ同時だったろうか。背後からガチャリ、とドアの開く音がした。
「あれ、スカイが早く来てるなんて珍しいね」
窓際に掛けられた時計の針は綺麗なL字を描いている。
恐ろしいほどに定刻通り……相変わらず几帳面な人だ。
待ちわびていたトレーナーさんの到着でそんなことを考えつつも……
私は、振り返ることができなかった。
「ん? 何か読んでたの───ってスカイ、その本は……!」
私の手元の雑誌に気づくや否や、トレーナーさんがバタバタと駆け寄ってくる。
これはその、違うんだ───
慌てた様子で苦笑混じりに掛けられた言葉が私の横に並んだ時、それは不意に途切れた。
「……スカイ?」
視界の端にトレーナーさんの顔が映る。横目でもわかる、ひどく動揺した表情。
普段の私であれば、「真面目に見えてこーゆーのもキョーミあるんですねぇ♪」だの「トレーナーさんも隅に置けませんな~」だの軽口を叩いて揶揄っているところだろう。彼もそれを予測して弁明しようとしたはずだ。
……対する私は、どんな表情をしていたか、自分ではわからなかった。
「トレーナーさん……」
あの雑誌を見て導き出した結論。それを伝える心苦しさと緊張感に苛まれながらも、一言。
「次の天皇賞・秋を、引退レースにします」
そう、ぽつりと零した。
- 93TSCセイちゃん423/01/09(月) 07:27:38
つまんなくなった。
彼女──教え子であるセイウンスカイは、そう呟いた。
「それは、勝ちすぎてつまらない……ってこと?」
「そうじゃないんです。走るのも、勝つのも好きですし」
「だったら何で」
「ただ、会場を揺るがすような大歓声もどよめきも何も無いレースで勝つのが……虚しいだけなんです」
自分の質問を遮るように放たれた言葉で思い出す。以前、彼女が言っていたこと……。
──走るからには、みんなに面白がってもらえるレースがしたい。
「いつの間にか勝つのが当たり前みたいに見られててさ。気づけば注目は他の子に移ってて」
思い返せば、僅差まで迫られることも多々あれど、彼女は圧倒的な強さで無敗を貫いてきた。
3年間で実に45レース、ワンパターンな勝敗を作り上げてきたことに責任を感じているのだろうか。そんな疑問が浮かび上がるが、次に発した彼女の言葉は、予想外のものだった。
「でも、私が引退する理由、それだけじゃないんです」
「え?」
「目指したいゴールが、もうひとつ見えたから」
彼女は閉じられた雑誌をもう一度手に取り、あるページを掲げてみせた。
「【彼女にしたいウマ娘・最新版】……?」
「セイちゃんが……トレーナーさんとゴールインしたいって言ったら、どうします?」
彼女は、いつもの不敵な笑みを浮かべてそう言った。
先程の思い詰めた表情は、もう無い。 - 94TSCセイちゃんあとがき23/01/09(月) 07:39:37
導入の成分が薄味過ぎて急遽書き足したらそれでもなお薄味だった……
"競技者としてのウマ娘ではなく少女アイドルとしてのウマ娘……そちらの面を重視した下世話な記事ばかり"
この文を見て思い立ったのが、セイちゃんシナリオの「つまんない」発言とそれに相反して大差勝ちしまくるゲーム内性能を照らし合わせたレースの暗黒期の描写でした
蛇足だったかな - 95二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 17:28:55
保守しといた方がいい?
- 96二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 18:06:46
中々昼間は触れないのでさり気ない保守に感謝
- 97タマ推しスレ主23/01/09(月) 23:50:23
火曜日になったのでこれが最後の保守
三日間で16人参加14人のウマ娘ちゃん達のssが書かれました
何回もスレを頭から読み直すくらいにいい作品ばかりでこのスレを立てた甲斐がありました
改めてスレを盛り立てて頂きありがとうございます
(またこういう導入からシチュ分岐する系のスレ立てられたらと思っているのでその時はまたよろしくお願いします) - 98二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 23:50:32
執筆途中のがあるから保守
- 99二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 07:37:55
保守ですね
- 100なんか方向性間違った気がする23/01/10(火) 17:07:11
──【彼女にしたいウマ娘・最新版】・・・。
その見出しを見て、自分の周りにいるウマ娘のみんなを思い浮かべる。
スズカさんはとっても綺麗だし、グラスちゃんやキングちゃんも綺麗だ。
エルちゃんやセイちゃん、ツルちゃんは可愛い。
他にも、可愛い子や綺麗な子はたくさんいる。
そんな周りの子たちに比べて自分は…などと思いつつ、もしかしたら自分の名前もあるかも?という好奇心から、手の進みは止まらなかった。
すると・・・
1位:メジロドーベル
美人、レースでの鋭い目つきがかっこいい、笑顔が可愛い
2位:タイキシャトル
可愛い、おっぱいが大きい、明るくて元気なので一緒にいて楽しくなれそう
3位:サイレンススズカ
儚げな美人、頭先頭民族な子を自分色に染めたい
と、一つ上の先輩たちがずらりと並んでいた。
メジロブライトさん(ふわふわして抱いたら気持ちよさそう)やシーキングザパール先輩、エアグルーヴ先輩(大人びてる、ぶっちゃけエロい)の名前もある。
「男の人ってこんな風に見てるんだ・・・」
もちろん、そればっかりじゃないとは思う。
トレーナーさんは真面目な人だし、ちゃんと走る自分を見てくれてる…と思う。
『でも、もしかしたら…例えばスズカさんとかに、目を引かれたりしてるのかも?』
もやっ…と、何か嫌なモノが自分の内に広がるのを感じる。
『…ううん!そんなこと考えるの、トレーナーさんに失礼っしょや』
その嫌なモノがなんなのかわからないまま、ページを読み進めると、『黄金世代特集!→NEXT PAGE』という表記を見つける。
『わ、私たちのも書かれてる…!…一体どんなことが書かれてるんだろう?』
嫌なモノに蓋をするように、ページをめくった。 - 101なんか方向性間違った気がする23/01/10(火) 17:07:28
『グラスワンダー』
怪物2世の呼び声高いウマ娘。
海外出身ながら大和撫子然とした容姿・おっとりとした所作が魅力。
胸の大きさでは出遅れているが、着物が似合うと考えればそれも追い風か。
『エルコンドルパサー』
ジャパンカップでの勝利が記憶に新しい。
そのボディラインはまさに黄金世代最強。
圧巻のFカップから繰り出される夜のコンドル殺法から逃れられる男はいるのか!?
『セイウンスカイ』
競争相手も会場すらも騙し切り菊花賞をレコード勝ちしたトリックスター。
ショートヘアになだらかなボディラインと、こちらのレースでは力不足か。
『キングヘイロー』
偉大なる母の血を継いだお嬢様。
クラシックの戦績こそふるわなかったものの、こちらのレースでは依然有力候補。
家柄も考えると将来は安泰か。
などと、なんだか失礼な物言いが目立つ。
そして自分のところには・・・
『スペシャルウィーク』
今年度のダービーウマ娘。
普通に可愛い子ではあるが、特徴が無いのが特徴。 - 102なんか方向性間違った気がする23/01/10(火) 17:08:11
「な、な、な、…なんだべさこの記事!!」
「おわっ!?…どうしたんだ?」
「あ、と、トレーナーさん、お疲れさまです!」
記事の内容があまりにあんまりだったので、思わず大きな声が出てしまった。
しかも、ちょうど戻ってきたトレーナーさんに聞かれてしまった。・・・恥ずかしい。
「あ、それ見ちゃったのか」
「す、すみません、勝手にっ…!」
「いや、いいんだ。置きっぱなしにしてた俺が悪い」
「・・・あの、これ、トレーナーさんの…?」
「…俺の、というより、内容確認のために関係者に回ってきたものだな。内容が内容だけに、生徒たちには見せない方がいいから、さっさと確認だけするつもりだったんだが…」
「そうなんですね…」
トレーナーが望んで買ったものじゃないことに安堵しつつ、先ほどの書かれっぷりはやはり凹んでしまう。
「あまり気にするものじゃない…と言っていいのかはわからないけど」
「…」
「法律違反してるわけじゃないから止めようもなくてな。力及ばずで済まないが、このことは忘れよう」
「はい。がんばります…」
「やっぱりショックだったか?」
「はい。なんだか、私も頑張ってるのになぁ、って」
都会に来て、正直自分の格好やらなんやら、周囲にちょっと追いついていない自覚はある。
でも、いろいろみんなに教えてもらいながら、それなりに頑張ってはいるつもりなのだ。
やっぱりトレーナーさんも、同じように思っているのだろうか。
先ほどの嫌なモノが、どんどん広がっていくのを感じる。
でも、次の瞬間、
「俺はちゃんと見てるよ。スぺの頑張りも知ってる」
「え!?」
突然、そんなことを言われて、とても驚いた。一瞬、聞き間違いかとも思った。 - 103なんか方向性間違った気がする23/01/10(火) 17:08:22
「いつも、スぺのことを見てるからな」
どうやら聞き間違いではないらしい。
「…本当ですか?」
「疑うのか?」
「そういうわけじゃないですけど…」
まさか、トレーナーさんが自分のことをそんな風に見てるだなんて。
正直なところ、自分はトレーナーさんには子供だと思われてると思ってた。
トレーナーと選手の関係でしかないと思っていたのだ。
なのに、トレーナーさんは自分を見てくれていると、自分の頑張りを知ってくれてる、と言ってくれたのだ。
──嬉しい…っ!
顔に熱が集まる。手のひらからは汗が滲む。心臓の鼓動がレースの時みたいに早くなる。
「私、魅力的、ですかね」
「もちろんさ。俺は…いや、俺だけじゃない。みんなそう思ってる」
「そんなっ…!でも私って、田舎者だし、みんなに教えられてばっかりで…」
「田舎とか関係ないよ。それに、未熟なのは俺もだし、学びながら進んでいけるのはすごいことだ」
「そ、そうですか?えへへ…。」
気が付けば、胸の中の嫌なモノは綺麗さっぱりなくなって、あたたかいもので満たされていた。
でも次の瞬間、そのあたたかいものすら吹き飛ばされた。
「何より、スぺはダービーウマ娘だ。誰にも文句は言われない、すごいウマ娘なんだよ」 - 104なんか方向性間違った気がする23/01/10(火) 17:09:41
一瞬で、体の熱が引く。
「だー…びー…?」
「おいおい、どうしたんだ?忘れちゃったのか?スぺはダービーウマ娘だろ」
「ダービー…」
「?…スぺ?」
「あの、トレーナーさん…。私、どんなところが、魅力的ですかね…?」
確かめるために、質問する。
「あ、あぁ…。まずはなんといっても切れ味を持った末脚だな。黄金世代の中でもとびぬけてると言っていい。もちろん末脚だけじゃない。前目に付けてペースを作れる力強さもある。スタミナだって、菊花賞の走りを見れば自信を持っていいレベルだ。スタートだって安定してるし、集中力も──」
トレーナーさんが、私のいいところを挙げてくれる。それはもうすらすらと、流暢に、とても楽しそうに。
嬉しいは嬉しい。が、今は素直に喜べない。
「他にも──ってスぺ?どうしたんだ?」
顔を伏せる私に気付いたのか、トレーナーさんの言葉が止まる。
『みんなそう思ってる』。そうですよね。ダービーウマ娘ですもんね。
『見てくれてる』。そうですよね。トレーナーさんは真面目な方ですもんね。
『頑張りを知ってる』。そうですよね私のこと本当に熱心に指導してくれてましたもんね。
なんと表現していいのかわからない気持ちが、ぐつぐつと体の中で煮えたぎる。
トレーナーさんが「スぺ?」と声をかけたのが、最後のトリガーだった。
「はんかくせぇっ!!」
思わず叫んで、トレーナー室を飛び出した。
「は、はんか…?…スぺ!待て!どこ行くんだ!?」
恥ずかしい。
最初からトレーナーさんは私のことを担当ウマ娘としか見てなかったのに。
勘違いしたのも、浮かれてのぼせたのも、全部私だ。
──でも…でも…なんか納得いかない!! - 105なんか方向性間違った気がする23/01/10(火) 17:15:27
「──っていうことがあったんですよ!」
「ふふ。困ったトレーナーさんね。…でも、なんだかスぺちゃんはトレーナーさんに女の子として見て欲しいって思ってるみたい」
「え!?」
「え?」
「いや、その、えと、そんな…ちがっ…わなくもないと言いますか…」
「いいと思うわ。スぺちゃん、可愛いもの」
「かわっ!?……あのぅ…私って、どこが可愛いんでしょう…」
「どこって…。もしかして、可愛いって言われるの、何か嫌だったかしら?」
「だって、特徴が無いのが特徴って…」
「ふふ。やっぱり気になっちゃってるのね。…そうね、私が言ってもいいと思うけど、どうせならトレーナーさんに聞きに行ってみましょう♪」
「えぇっ!?」
「善は急げね。さっそくいきましょう」
「ま、待ってくださいよ~!スズカさ~~ん!」 - 106なんか方向性間違った気がする23/01/10(火) 17:20:20
飛び出したスペシャルウィークが寮に戻ったことを確認したトレーナーは、トレーナー室に戻って仕事を続けていた。
「一体なんだったんだ…。しかし、明日は謝らないとな…」
なんとなく、自分が失言したのは理解できた。しかし、何が原因なのかイマイチわかっていない。
どうやって謝ったものか…と頭を悩ませつつ、書類を仕上げていく。
すると、部屋の扉がノックされ、先ほどその自慢の足で部屋を飛び出した愛バが、おずおずと部屋に入ってきた。
後ろにはなぜか寮のルームメイトのサイレンススズカもいる。
そして、部屋に入ってきたスペシャルウィークは、ややうつむきがちに、上目遣いでこう言った。
「トレーナーさん……私の可愛いところって、どこですか?」 - 107なんか方向性間違った気がする23/01/10(火) 17:21:33
7レスも使ってスマソ。
>>17みたいに考えていた時期が俺にもありましたってことで。
- 108二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 17:37:52
中庭のベンチで俺はサンドイッチ片手に雑誌を眺めていた。
――――『彼女にしたいウマ娘特集最新版』。
目的の記事を読み終えた後、だらだらと読み進めていたら、そんな見出しが目に入る。
色々と思うところはあるが、彼女達には競技者以外にもアイドルとしての側面もある。
正直自分も、学生時代に男友達とそんな話をした経験があるので強く言えない。
ちなみに、その特集の中に俺の担当ウマ娘の名前はなかった。
「うぇいよートレーナー! なーに見てんのー☆」
「うわっ、ヘリオス?」
突然、隣に明るい声色と慣れ親しんだ気配が現れた。
横を見れば担当ウマ娘のダイタクヘリオスが、俺の手元を覗き込むようにしている。
興味深そうに彼女は紙面を見つめ、大きく目立つ文字を読み上げた。
「……彼女にしたいウマ娘特集?」
「ああ、今日発売されたばかりの雑誌で」
「トレーナー! これありえなくね!? マジ激おこなんだけど!」
ヘリオスは記事を確認して、眉を逆八の字にして、強めの語気で言った。
……意外だ、こういうので自分の名前がないからって怒るタイプとは思ってなかった。
彼女は俺から雑誌をひったくると、紙面を指さしながらこちらに向ける。
「パマちんの名前がないってマ!? こーゆーの、パマちんしか勝たんっしょ~!」
「ああ、そっちなんだ……あははっ、そういうことね」
「……トレーナー的にはわかりみ深くない系?」
「そんなことはないんだけど、まあ次のページ見てごらん」
なるほど、親友のパーマーの名前がないことに憤慨していたのか。
同意を得られないことに不安そうに首を傾げるヘリオスに、ページをめくるように促した。
その次のページには『彼氏にしたいウマ娘特集』があり、そこにはメジロパーマーの名前があった。 - 109二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 17:38:16
ちなみに一番上に名前が挙がってるのはフジキセキである。さもありなん。
全体で名前が被らないように企画されていて、こちらで入ってるパーマーは必然的に他では入らないのだ。
パーマーの名前に目を輝かせると、ヘリオスはその記事をじっくりと読み進める。
しばらくすると彼女は膝を打つように声を上げた。
「これ書いた人わかってんねー! パマちんはいつでもイケてるメンだかんね☆」
「お気に召したようでなにより」
「……あー、ケドさー、うーん」
今度は眉を八の字にしながら、唸り声を上げるヘリオス。
彼女の顔は広い、もしかしたらパーマー以外の友人が載っていないのを気にしてるのかもしれない。
「ページ数にも限界はあるから、友達全員載ってないのは仕方ないよ、残念だけどね」
「そりゃいつメン全員載せるのがきびついってのは、ウチもわかるよ? うーん……」
「……他になんか気になることでもあったかな?」
俺の言葉に、ヘリオスは視線を泳がせて珍しくはっきりしない態度を見せる。
もしかしたらあまり良くない表現とかがあったのだろうか。
自分でも一応一通り確認はしたつもりだったが、見落としがあったかもしれない。
疑問を感じている俺の視点に観念したかのように、彼女は恥ずかしそうに言った。
「ウチの名前がないのはちょっとテンサゲかな……って思っちゃって」
「……ふっ、あははは、ヘリオスでもそういうの気にするんだね」
「ちょっ、ひどっ! ウチだって乙女心溢れる系ギャルなんですけど!」
「ごめんごめん、でも杞憂だよ。その次のページも見てごらんよ」
顔を赤くして抗議するヘリオスは俺の言葉に再度ページをめくる。
そのページの一番上にはダイタクヘリオスの名前と大きな文字の見出しがあった。
――――『友達になって欲しいウマ娘特集』。 - 110二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 17:38:34
「これ……!」
「実はそれ雑誌自体頂いたものでね。この雑誌の特集の話は一度したんだけど」
俺の言葉が届いていないのか、彼女は真剣な表情で紙面を読みふける。
丁度レースに勝利した直後に来た話で、インタビューなどもあったので、実質名義の許可しかしてないこの企画に関しては覚えがないのも仕方ないだろう。
文面そのものや彼女の魅力に触れたもので、ファンからの言葉などもあり、良い内容だった。
「内容について、俺は確認だけで一切触れてないから、これは純粋なヘリオスへの声だよ」
「……」
「心配しなくてもキミの走りや頑張りはちゃんと皆に伝わってるよ」
「……っ! ウェイウェーイッ!」
突然、ヘリオスは立ち上がり、いつものハンドサインを掲げて声を上げた。
周囲を照らすようないつもの笑顔、それが今日はより熱量を上げて、俺の方へと向けられる。
うーん、眩しすぎて直視できないとはこのことだ、するけどさ。
「トレーナー! ウチ、最&高にバイブス上げてもらったからッ!」
「……うん、それなら許可した甲斐があったよ」
「テンションあげみざわッ! 羽ばたいてるっしょ~!! Foo~!!」
「おっ、おう。それは今日のトレーニングで存分に発揮してくれ、あっ、雑誌も持ってて良いよ?」
「マ!? 神! あざまる水産~! パマちん達に見せて来るし~☆」
雑誌を抱きしめながら青天井に調子を上げていくヘリオス。後多分パーマーは内容知ってる。
喜んでもらえて良かった。そう思いつつ食事を再開しようと視線を落とした、その時。
「あっ、ところでトレーナー」
目の前から声。
前を向き直れば、先ほどの雑誌。そして後ろからひょっこり顔をだすヘリオス。 - 111二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 17:38:56
どこか、からかうような色を浮かべた表情。
少しだけ嫌な予感を感じながらも、俺はヘリオスに声をかける。
「……どうかした? なんか聞きたいことでも?」
「ウェイ☆ キミに一つ質問、たいじょぶ、秒で答えられる内容だからさ」
「まあ、それならいいけど、どぞ」
ヘリオスは鼻歌混じりにパラパラと雑誌をめくった後、目次のページを開く。
そして、二つの文章を指さした。
『彼女にしたいウマ娘特集最新版』。
『友達になって欲しいウマ娘特集』。
彼女は、にやりと口元を曲げた。
「トレーナーだったら――――ウチをどっちに選ぶのかな?」
了 - 112二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 21:57:25