- 1二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 16:15:53
「ボクが勝ったらランチを共にしてもらおうか!」
ターフの上でトレーニング中のエアシャカールへと宣言する。丁度休憩のタイミングなのだろうか、タオル片手に輪郭を伝う汗を拭っているところだった。
「並走の申し出か?別にオレはデータが取れンならどっちでも構わねェが……どういう風の吹き回しだよ。」
「たまにはドトウ以外ともエチュードを奏でてみたいと思っていてね。そうして辿り着いたのが金細工の君だったワケさ。」
「……ったく、トロフィー扱いは御免だね。王と名乗る奴ってのはどいつもこいつも傲慢でいらっしゃる。」
手を顎へ添えながらブツブツと呟く。思い浮かぶのはラーメン好き、目の前のコイツ、自称学級委員長、生徒会長……は少し違うが。王と皇帝、メインシステムは一緒だろう。
「それは違う。」
遂に読心術でも手に入れたのだろうか、とシャカールは面倒そうに逸らしていた顔を不意に上げる。栗毛が陽に照らされ、青々とした芝とのコントラストで眩しかった。
「王という地位がある故に傲慢なのではない。傲慢さをそのままに生きられるからこそ、王という器が手に入るのさ!」
高笑いが響く。シャカールは丸く開いていた瞼の力を抜き、月並みだ、と思った。わしゃわしゃ乱雑にうなじを掻き、再び視線を余所へと向ける。つまらない演説を聞いている暇は無い。
「…………いや、血筋最優先じゃねェの。」
「なら、シャカールさんはボクが王を名乗るのは烏滸がましい、と思っているのかい?」 - 2二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 16:16:03
今度は向こうが此方を見つめる番だった。彼女の菖蒲がかった瞳が此方を捉えていると思うと上手く唇が開かない。レースの途中で立ち止まってしまったかのような、鋭い空気がエアシャカールを襲う。無意識に背筋がぶるりと震え、舌打ちをしたい気分になる。
──去年のジャパンカップを思い出す。勝つ事を諦めていた自分の走り。それによって世論に語られる『世代の強さ』だとか、それに伴い湧き立つ感情だとか、そういったもの全てをノイズだと切り捨てるには、あまりにも、あまりにも屈辱的だった。
「……オメーが、」
「うん。」
「オメーがその性格のままエキストラだったら、ウザすぎンだろ。」
呆れたような声だった。眉間の皺は緩まない。それでも2人を取り巻く空気が和らぐのを直感する。シャカールが先程の問いにすべきことは、返事だった。肯定でも否定でも。望む答えを得られた覇王はにこやかに頷いた。
そしてその表情に反するようにシャカールの目付きが細まった。この余裕ぶった覇王様をどう失脚させてやろうか、焦りの消えた脳細胞がこれでもかとプランを組み立て始める。
「そうかもしれないね。」
笑顔と揃いの浮かれた声色で返事をする。先割れの綺麗な耳へと届いているかは重要ではなかった。
この覇王たるボクを引き摺り下ろそうと考えている時点で、既に舞台へ上がっているも同然なんだよ。手伝いの演出家程度でいいと、観客扱いを甘んじると、口でどれだけ言ってもね。
「──ハァーッハッハッハ!!華麗に勝利してしまうボク!今日はジャンクフードの気分だよ!さぁシャカールさん、どのバーガーショップがお好みかな!?」
「まだ走ってねェだろうが!!」 - 3オペラオーエミュむずくない?23/01/07(土) 16:16:39
オペシャカバーガーショップデートSSが読めると聞いたのですが
- 4二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 16:17:15
ハンバーガー食べたくなってきた
- 5二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 16:28:04
オペラオーはモスバーガーをうまく食べられなさそう
- 6二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 16:28:33
さあ続けてくれたまえ!!!!!!
- 7二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 16:51:00
ワーグナーによる喜劇「ニュルンベルクのニュースタージンガー」の要素を少しだけ混ぜていました
エファという金細工師の娘に一目惚れするところから話が始まり、彼女は歌合戦の勝者に求婚される、との設定があるので「トロフィー扱い」という発言に繋がります
シャカールは並走相手として一番最初に発見された知り合いであるだけだと終始勘違いしていますが…?という話でした - 8二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 17:22:40
肝心のハンバーガーデート本編がまったく思いつかないんです……!
- 9二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 17:53:40
マックのポテトとモスのポテトどちらが好きかみたいなほのぼのとした会話してほしい
- 10これ以上思いつきませんでした23/01/07(土) 18:52:13
- 11二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 21:51:50
めちゃくちゃいいな
- 12二次元好きの匿名さん23/01/08(日) 00:41:19
続きっぽいのはぼんやり浮かんでるけど夜遅いし仕上がるまで少々お待ちを
- 13二次元好きの匿名さん23/01/08(日) 00:42:13
お前が書け定k...書いてたわ
- 148のネタから逸れちゃった23/01/08(日) 11:41:15
「アー……で、どうすンだ。この辺りで近ェのはモスかマックだけど。」
「問題はそこだよシャカールさん!かの覇王テイエムオペラオーも愛したポテト!どちらの店舗も甲乙付けがたい……このボクを惑わす、まさに天使と悪魔……!」
額へと手を当て大袈裟なほどにかぶりを振る。付け合わせひとつでここまでの振る舞いができるとは、逆に尊敬できそうだ。
「かの覇王って思いッ切りオメーじゃねェか。つかカロリー的にはどっちも悪魔だろ。」
「ハーッハッハッハ!」
「いや誤魔化すな。」
漫才のような掛け合いをしにコイツとお喋りしてるわけじゃなかったんだけどな。
にしてもモスかマックか、か。
コイツの好みで言えばどうせモスだろ。如何にも作りたてですッつー手に温度の伝わる感じは悪くねェ。世間様はあの待ち時間を嫌がる奴も多いだろうが、むしろオレには好都合だ。新曲の手直しやら、レースについてのエゴサやら、スキマ時間で出来ることは沢山あるからな。ただ、あのソースはどうも苦手だ。片手間で食うには気を取られる。ゴルシの奴が啜るのが一番美味いだの何だの言ってたが、行儀とか以前に絵面が不快だろ。
そういう意味ではマックが楽だ。味のクオリティはある程度の品質さえあれば別にどうでもいいし、どっちが劣ってるとかも思わねェよ。提供の速さも美点だ。パパッと出されてそのまま食って帰る、時間が無駄にならないンなら何でもいい。ドリンクの薄さに関しては、まァ、価格設定からすりゃ妥当だしな。あとあのしなったポテト。アレには妙な中毒性がある。
そこまで脳内会議を行ったところで、目の前のコイツが静かに待てを遂行している事に気付く。いや、ひとりでベラベラ喋られてても困るが。
「決まったかい?」
「ン、」
先程の高笑いが嘘のように穏やかな問いかけを投げてくるオペラオーにやや調子を狂わされつつも、まとまりかけていた行き先を述べようと口を開き、そのまま静止した。
今はそろそろ昼時って時間帯だ。お子様メニューがあるような店は、当たり前だが子供連れが多い。つまりあちこち走り回ったり溢したりする小さな子供が──
「モスだ。行くぞ。」
──ノイジーすぎる。ただでさえこの覇王サマはうるさい生き物だ。今は黙りこくっているが、いつ爆発するかも分からない。他に苛立つ要素を自ら増やす理由など全くもって無いだろう、とシャカールは結論付けた。 - 15二次元好きの匿名さん23/01/08(日) 11:46:36
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- 16二次元好きの匿名さん23/01/08(日) 18:41:22
感想が消えてる……!?
- 17二次元好きの匿名さん23/01/08(日) 18:47:51
- 18二次元好きの匿名さん23/01/08(日) 20:43:35
- 19二次元好きの匿名さん23/01/08(日) 22:47:36
もっと、もっとオペシャカをくれ…
- 20二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 07:44:38
基本的にオレはベーシックなものを好む。普通のハンバーガーにコーヒー。気まぐれにポテトを頼む日もあるが、別にメニュー自体を大幅に変えたりはしない。チーズ増量だとか期間限定だとか、そういう企業努力を無碍にするのはよくないのだろうが、そもそもトッピング制度に魅力を感じないのだから仕方ない。
そんなオレとは裏腹に、この覇王様は華々しいものがお好きだ。いや予想は出来ていたけど。メニューと睨めっこし、指を彷徨かせ、何が面白いのかニコニコとそれらを繰り返している。
「和牛……かき揚げ……あっドルチェがある!」
「まさかデザートまで食うつもりなのか?胃のキャパ間違って覚えてンじゃねェの?」
オレもコイツも別に大食いってわけじゃない。ウマ娘と一般的なヒトとの種族差は多少あれど、それこそハンバーガー1個でも胃に入れときゃ飢餓に倒れたりはしねェ。無言でメニューの左側、一番見やすい場所にあるバーガーを指差そうとして、傲慢な栗毛に割り込まれた。
「とびきりチーズとアボカドコロッケ!」
「オイ、」
「の、両方ポテトSセットで、シャカールさん飲み物は?」
オレの静止など聞こえていないかのように注文を続ける彼女へ、今度はもう少し声量を上げてみる。
「オイ。オレはいつも普通の……」
「飲み物は?」
「…………アイスコーヒー。」
押し切られてしまった。クソ。無駄な抵抗だとも理解していたのに。オレが諦めたのを察すると、まるでそれが正しい選択とでも言いたげに大きく頷かれた。
「ボクはオレンジジュースで。」
こういう時だけ中等部っぽいのもまたズリィ奴だよな。
店員のハキハキとした声で注文を繰り返され、もう訂正する気もなくなった。代金は半分ずつ、端数は適当に。プラスチックの番号札はやはりというべきか、覇王様の手元にしっかりと握られている。 - 21二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 07:46:20
「昼飯を食う話ではあったが、談笑とかキモい事はする気無ェからな。」
「ボクがキャロルしか唄えないとでも思っているのかい!?」
「既にうるせンだよ。」
フ、と吐息混じりに何度目かも分からない笑みを見せ、彼女はそのまま黙って時間を待っていた。時々鼻歌が紡がれることはあれど、普段のようにオレの名を繰り返し、返事するまで呼ぶ真似はしないらしい。
身に付けている衣服は妙にこの空間と合う。別にオレの趣味ではないが、センス自体は悪くないとも思える。何となくスマホを取り出す気分にもなれず、頬杖をついたままぼんやりと彼女を眺めていた。別にコイツは目の前でログを見ようと気にしない奴の筈だがな。
不意にオペラオーの耳がぴくりと揺れる。あァ、番号が呼ばれたのか。ほんのり温かい食事が運ばれ、早速コーヒーにガムシロップを垂らした。
「いただきます。」
「……いただきます。」
両手を合わせハッキリと挨拶する横で黙っているのも何となく居心地が悪い。手の動きごと後を追い、一生頼まない予定だったそれを口に運ぶ。前述したが、別にチーズが入っているから嬉しいとかは、マジでない。配膳前と全く表情の変わらないオレをどう思ったのか、目の前のコイツは突飛な手段に出た。
「ボクのも一口食べてみないかい?」
若干期待の込められた瞳で、食べかけのバーガーを眼前に差し出される。正直なところ、オレはシェアという文化が好きではない。お互いに食べたいものを注文している筈なのに、何故わざわざそれを崩す真似をするのか。自身の口に合うものが相手の好みと合致するかは不明だ。仮に美味だったとして次来店する時の気分や記憶力、メニュー変更の起きる可能性は予想できない。それを予想する必要性すら皆無だろう。
ただ、この視線は耐えがたい。首を甘く傾げ、下手に出ている素振りを見せつつも、どうせ折れるつもりなどさらさら無いのだ。オレは、己の不快感と、このやり取りを拒否し続ける労力とを天秤にかけ、後者を取った。ガプ、意趣返しだと大口で齧り取る。一気に5分の1を削る勢いのオレを見て、オペラオーは、これでもかと笑った。 - 22二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 07:47:35
「そこまでお気に召すとは、」
「ちッげーわ。分かってて聞いてくンじゃねェ。」
「味の話ではないよ、シャカールさん。」
……。コイツは時々意味不明なことをほざく。結論を煙に巻いたまま、何かを含ませる言い方に苛立ち、自分の前に置かれていたポテトを何本かつまんで口へと運んだ。
──そうこうしている内にバスケットの中が片付いていく。食べ終わりにもやはり律儀にごちそうさま、を告げたオレたちは、もう用はないのだからと退店した。ドリンク1杯で長居、ってのは性に合わねェしンな事するくらいなら早く帰りてェから、そこがズレてなくてよかった、とも思う。
トレセンに戻ってきて、それぞれの教室へと分かれようとして、最後にソイツは振り返って言ってきた。
「じゃあシャカールさん、明日は何処がいい?」
「ラーメン以外ならなんでもいーわ。」
午後のミーティング─とは名ばかりで、オレが勝手に決めたスケジュールに対してトレーナーが相槌やら肯定やらをするだけの時間─を終え、ふと気付く。
どうしてオレは、『明日』と言われて、『もう二度と行くわけねェ』とは返さなかったのだろうか。 - 23二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 07:51:17
ほう、オペシャカとはよいセンスをしておる
よきにはからえ - 24二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 08:16:07
朝に読むオペシャカは栄養学の面から見ても優れていると言えますね
オペのペースに巻き込まれた様に見え、実は一緒にいても不快感がなく居心地がいい事にシャカは気付いているのか
否、それなら「また明日」に即答したことに悩んだりしないはず
ブドウ糖キメなきゃ - 25二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 09:21:24
ドットさんと遊ぼうと休日にドトシャカ部屋に遊びに来ていたオペラオーを無視するべくヘッドホンをつけて無視してたけどそれを突き抜けるくらいにオペラオーが騒がしいから思わず振り返って怒鳴りつけようとしたら、激辛スナックを食べさせられて涙目でなんか芝居がかった口調で水を求めるオペラオーと、部屋中のコップをことごとく割ってパニックに陥り熱湯をサーモマグについで出そうとするドトウという地獄絵図が発生していて、とりあえずドトウをなだめておつかいに出して帰りを待つ間ちょっと面倒見るだけのはずがドトウが待てど暮らせど帰ってこないので結局さいごまで面倒を見てオペラオーに超懐かれて「ドトウもいねーんだから帰れ」と言ってもシャカールさんシャカールさんとじゃれついてきて一向に帰ろうとしないから青筋ビキビキたてながらオペハヤ部屋まで連れて行って姉貴に仲良し認定されて噴火するシャカールが見れると聞いたんですが
- 26二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 09:37:36
オペラオーもシャカールも、相手の言葉に対してストレートな返答じゃなくて少し外した返答返してくる感じよくエミュできるな…
- 27二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 17:27:46
可愛すぎてもんどり打ってる
ありがとう最高 - 28二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 19:54:12
「休日のドトウを訪ねに来たボク!!」
扉を閉める代わりにノイキャン仕様のイヤホンを耳に突っ込んだ。顔面のうるせェほどの輝きようは視界に入れなければいい、と作業を始めて数時間。本当にノイズキャンセルできてンのか不審に思うレベルで室内が騒がしくなってきた。
「アァクソなんだようるせ、な、……ッ?」
突然口内に何かが飛び込んでくる。自然と歯がそれを噛み砕き、燃えるような熱さを覚え──シナプスが急速に働いた結果、気付いた。菓子だ。それもオレ宛てに届いていた、開けた事のないやつ。
「……ゲホッ!?」
「あわわわわごめんなさいごめんなさい私が袋を綺麗に開けられなかったから、あの、今すぐお飲み物を……あぁっ!?」
スナック菓子特有の感覚、一気に水分を持っていかれて思わず咽せてしまった。それに慌てたのかドトウが慌てた様子で謝り倒し、辺りからガラスか何かの割れる音がする。正直、視界が涙でままならねェ。
とにかくあの説明から察するに、ドトウの奴が開けるのに失敗した包装から飛び出た菓子が、注意の為に振り返ったオレの口に丁度収まったという事だ。……どういう確率だよ。
「おぉシャカールさん、その潤んだ琥珀の瞳……まるで金の林檎だね!ティッシュ要るかい?」
「オメーは他人の目玉で知恵を授かろうとすンじゃねェ!」
「ああああああのシャカールさん牛乳……!」
「この状況ではい牛乳だねありがとうってなるわけねーだろ!早く新聞貰ってこい!!」
「ひゃいぃ……!」
まで思いついてよく読んだら涙目なのはオペラオーだったからセルフサービスでお願いします
- 29二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 20:00:00
「おぉシャカールさん、その潤んだ琥珀の瞳……まるで金の林檎だね!ティッシュ要るかい?」
「オメーは他人の目玉で知恵を授かろうとすンじゃねェ!」
ここめっちゃ笑ったさすがシャカ、理解ってる……!!! - 30二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 22:00:29
そもそも他人からのオペシャカ供給が欲しくてスレ建てたのになんでセルフサービスどころか給仕までしてんだ!?
- 31二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 22:58:12
- 32二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 00:29:39
もっともっとシャカールさんと絡むボク!
- 33二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 00:34:11
お二方とも教養がある故
打てば響く関係性…
…もしかしてけっこう相性良いのでは? - 34二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 00:47:32
- 35二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 01:05:59
理数系でも無ければプログラミングもオペラも調べるとはいえ専門知識とかちんぷんかんぷんだしParcaeの開発とか絶対無理です!
あと別に概念だけでもいいんだ……他人の解釈が聞けるだけで嬉しいので……
- 36二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 09:33:17
ほ
- 37二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 10:44:32
舞台脚本風味で。
舞台は史実の成績通りの世界で迎えた2001年大晦日。
ドトシャカ部屋で独りパソコンにむかうエアシャカールの前に現れるオペラオー。「ドトウはいないのかい、ではしばしここで待たせてもらおう」
警戒するシャカール。しかしオペラオーはいつになく静かに、そして泰然と座っている。逆に気になるシャカール。
「ドトウは今いねぇよ」「そうだね」「俺も何処に行ってるのか知らねぇ」「そのようだね」「いつ帰ってくるのかもわからねぇ」「そうかもしれないね」
客席側を向いて独り言のように「ボクはまるでウラジミールだ」と言ったあと、シャカールに向き合って「そうなると君は…」と言いかけて黙るオペラオー。「まるで何だってんだよ」「いや、いいよ。」「何だよ言いかけたら言えよ!」苛立って声を荒げるシャカール。
「失礼したね」と退場するオペラオー。「なんだ、なんだってんだ、どうせあいつが訳のわからないことを言うときはオペラだ」「だが訳のわからないことをわからないままにしておくのはロジカルじゃねぇ」「…あの本の虫にでも聞くか」と舞台の上手袖に移動しながら独白するシャカール。
スポットライトがシャカールにパンされ本舞台は暗転。再度照明つくと図書室となっており1人本に囲まれるロブロイ。「ウラジミールという人物が出てくるオペラ、知らねぇか」「寡聞にして存じませんが、オペラオーさんが最近嗜まれている本ならわかります」フランスの近代演劇の脚本集を手渡すロブロイ。「『ゴドーを待ちながら』。これか…なんだドトウを待ちながら、にかけたわけか。あいつにしては安直だな。ヤキが回ったか」「…本当に待っていたのはドトウさんでしょうか」「どういう意味だよ」「ご自身で読んでみてはいかがでしょうか」
(続く) - 38二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 10:46:42
再度スポット照明に切り替わり本を手にあらすじを朗読しながら下手袖にゆっくり移動するシャカール。『ゴドーを待ちながら』のあらすじはウラジミールとエストラゴンが「ゴドー」という人物を待っている。一向に現れないゴドーのかわりに様々な人物が登場し、最後に少年が「ゴドーは今日は来ないが明日は来る」と告げる。そして似ているが異なる日を繰り返した後、二人は…
「自サツ未遂、だと?何だよこのどこがおもしれーんだよ!」
怒りをあらわにするシャカールと声だけのロブロイの問答が始まる
ロ「彼女の表現の世界はオペラを超えようとしているのです」
シ「意味分からねーよ!あいつは…あいつはとにかく訳がわからないくらいに傲慢で明るくて華やかなオペラでも長々と演じていればいいんだ!」
ロ「でもお芝居はいつか終わるもの、演目は変わるものなのです」
ここで足元のビラを拾い、オペラオーとドトウの合同引退式を知るシャカール。
「思い…出した。あいつは、あの時から待ってたんだ。」
何もない本舞台が再度ライトオン。勝負服を着て中央に立つオペラオー
「共に舞台で演じる役者かと思ったが君はお客様のようだ」「存分に僕らの歌劇を楽しんでくれたまえ」無表情で正面を向き、宙を見ながら言い放つオペラオー
「お前らにとってのゴドーは…そうだな…そうだったな」ゆっくり舞台中央に戻るシャカール。
「だが不条理だなんてロジカルじゃねぇし俺の好みじゃねぇ。歌劇はさっぱりだが、現代劇って言うなら我慢して付き合ってやるよ。ゴドーは今すぐそこに行く。だからそこで馬鹿みたいにニコニコしながら待ってろ」
シャカールに向き直って微笑むオペラオー。緞帳が降りて終演
- 39二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 11:04:00
ちょっと暗くて湿度も高くなりましたが、シャカール育成ストーリーが!わたしは!好きなのだ!
実際にひとつ上の黄金世代とあれだけ直接対決をしたがっていたオペラオーは、一つ下の世代のシャカールともバチバチするのを本気で楽しみにしてたと思う - 40二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 11:39:37
育成のジャパンカップでオペシャカに落ちたオタク「スレ建ててよかった……」
- 41二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 13:23:51
不恰好でもいいからまっすぐ迫ってきて討ち倒すのを夢見てほしかったオペラオーと、敵わないと直感したから都合のいい事(計算で結果が出てる)を信じて逃げてしまったシャカール
こんなんもうカプなんだよな(歪曲)
猛追を「躱す」じゃなくて「交わす」なのがもうね…… - 42二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 20:08:02
バーガーデートまではいいけどここから親密になるビジョンが見えなくて続きが思いつかない……
- 4342と言ったな、アレは嘘だ23/01/10(火) 23:04:17
昨晩降った雨の影響でグラウンドは随分と湿っていた。踏む度にズシリと感じる重みが心地よく感じる。ふと隣を見れば、体操服を泥だらけにして坂を駆け上がるシャカールさんが居た。
昨日のやり取りを思い出す。尖らせた黄金色の宝玉。貴方の明晰な思考回路で計算して計算して計算し尽くして、ボクの冠を奪いに来る夢を見せてくれたまえ。あぁ、もちろん現実にはさせないよ。指一本触れさせない。決死の覚悟でボクへと手を伸ばしている内に、無防備な喉笛へと噛み付いてその鋭い牙よりも強烈な痕を残す。勝利の女神が振り向くよりも早く喝采を贈ろう。よくぞボクの元へと辿り着いたね、と。
……少し熱視線が過ぎたかもしれない。ボクに気付いたシャカールさんが、眉間に皺を寄せながら此方へと歩いてくる。
「……オイ。走りもせずに眺めるだけとは随分と余裕そうだな、寝首かかれても知らねェぞ。」
「うーん。シャカールさんは少し素直すぎるから、不意を突くには向いてないんじゃないかな。」
「………………で?」
早く本題を話せ、と言いたげに腕を組んで見つめてくる。ここでトレーニングに戻ろうとしない面倒見の良さが『向いてない』というのに。なんて事をぼんやり考えていると、焦れたのか爪先をトンと鳴らされた。
「今日のお昼はサイゼリアにしよう。」
軽快に告げたボクと相反し、シャカールさんはこの提案に分かりやすく表情を歪める。一晩超えてやっぱり断るつもりだったのだろうけど、ボクが気付かないわけないだろう。
「勝手に決めてンじゃ、」
「約束通り、ラーメンではないよ。」
まさか、自ら吐き出した条件を今になって覆すのかい?そう言いたげに視線を向ければ、彼女は小さく舌打ちをして踵を返した。こんな態度をとられても分かる。おそらく来てくれるだろう、と。
そしてボクの賭けは再び勝ち星で始まったのだ。 - 44二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 23:51:51
サイゼリヤが正式名称なのに「さいぜ」って打つと初手にサイゼリアが出てくるのはキーボードが悪くない?()
- 45二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 23:52:06
面倒見が良すぎるせいで追っ払えないシャカさん好き
わかっててニコニコなオペさん好き
最高 - 46二次元好きの匿名さん23/01/11(水) 00:31:33
案内されるままに席へと着く。けれどいつまでも座らないシャカールさんを不思議そうに見つめると、くい、と顎でソファを指された。ボクは覇王だからといって別に座席の差異で駄々を捏ねるわけではないのだけれど、指摘するような事でもないかと促されたままに腰掛ける。それよりも重要なのはこの先だ。
取り出したるはウマホのとある画面。普段の彼女ならば絶対にしないであろう遊びを仕掛けようと思っていたのだ。
「サイゼリヤ1000円ガチャ、知っているかい、シャカールさん。」
「またンな妙ちきりんな真似を……」
ボクもトップロードさんとの食事で初めて知ったのだが、指先ひとつの運命で食事が決まるだなんて、少し面白いじゃないか。あぁ、彼女風に言うなら、運命など無くただの確率なのだろうけど。それでも、メニュー表を渡してしまえばまた凡庸な注文をしてしまうのだから。別にベーシックが悪いとは言っていないが、シャカールさんにはもう少し、挑戦というものを知ってほしいのだ。
「さぁ!シャカールさん、その指に祈りを捧げたまえ。そして、ミラノ風ドリア以外が出るのを見届けようではないか!」
「オレがいつも頼むと思って言ってンだろそれ。」
「あぁ!!」
少し間を空けて面倒そうに後頭部を掻き、大きな溜め息を吐く。けれど、ボクに言われた通り画面へと右手を伸ばせば、緑色のボタンをタップした。
結果はディアボラ風ハンバーグ、野菜ペースト、ピスタチオのジェラート、トッピング半熟卵。主食となりそうなものが無いものの、至って平均的なラインナップだろう。安堵のような吐息が聞こえて直ぐに視線を向けるも、そこにあるのはつまらなそうな横顔だけだった。
「……オメーも早く回せよ。」
スラリとした指がペンを取り、注文用紙にサラサラと書き込みを始める。もしこれがピザ2枚とパスタのような組み合わせだったら、……いや、それでもきっと彼女は食べてくれるだろう。ボクは知っている。昨日のシャカールさんを見ていれば、わざわざ一度決めたメニューを無碍にはしないとね。 - 47二次元好きの匿名さん23/01/11(水) 01:35:28
実際やってるーー!!
続きに期待! - 48二次元好きの匿名さん23/01/11(水) 01:40:09
さて。満足しそうになったところだが、持ちかけたボクが回さないわけにはいかない。前回この決め方をした時は、オリーブオイルにライス、スパイスという散々な結果だった。お陰で午後の授業に全く集中できないという呪いにさえかかってしまった。あの恐ろしさはモンテローネ伯爵にすら匹敵するやもしれない。今日こそはそれを振り払う時である。いざ、この右手に命運を──!
ボクの耳はおそらくこれでもかと垂れているのだろう。レタスをもぐもぐと口へ運ぶ様を見て、シャカールさんはどこか上機嫌だ。付け合わせのポテトをフォークでつつきながら頬杖をついている。その口角は緩く上がっていて、非常に意地が悪いとは思わないか。
それでも今回の敗者はボクだ。甘んじて受け入れよう。そう思っていると、何かが目の前に差し出された。
「オレが虐めてるみてェだろ。」
丁寧に格子状となったハンバーグの一切れ、それがボクの口元へと献上されている。思わず彼女と目を合わせてしまった。湖に映った月のようだ。
「……本当にいいのかい?」
「いらねーなら別に自分で食う、ってオイ!聞いたなら返事くらい待てや!」
ダメだと言う筈がないと分かっていたから、台詞の途中でぱくりと食べてしまった。美味しい。寝ていた耳がピンと立ち、初めて知った物のように目を輝かせる。
そうしてボクが再びサラダへと視線を下ろせば、残りの半分はシャカールさんの取り皿に入っていた。
「アー…………半熟卵と目玉焼きで喉が渇くンだよ。」
気まずそうに小エビを口へと運ぶ姿がどこかいじらしい。けれどやはり彼女には踏み出す力が足りないようだ。まったく、素直にボクが気の毒だったと言ってしまえばいいのに。
「それは普通に水を飲みたまえ。」
「おまえマジでこれ大皿に戻してやろうか?」
「ハーッハッハッハ!」
「困ったらそれで誤魔化すのやめろ!」 - 49二次元好きの匿名さん23/01/11(水) 07:43:22
可愛いなぁ……
オペさんもシャカもかわいいよかわいい
朝から元気出た - 50二次元好きの匿名さん23/01/11(水) 14:27:57
もうちょっと続くんじゃ(何も思いついてない博士)
- 51二次元好きの匿名さん23/01/11(水) 22:38:37
- 52何故こんな時間に──?23/01/12(木) 04:20:22
1000円ガチャを終えたオレらは駅前のパン屋に来ている。否、連れて来られている。完食したのだから早速帰ろうと思っていたオレの腕を引き、焼きたての匂いがする方へと強引に誘導されたのだ。別にブドウ糖なんか携帯しているラムネで摂ればいいというのにコイツは聞く耳を持たなかった。結果あれよあれよと店内へ引き込まれ、何となく手ぶらでは帰れない空気が漂っていたため、舌打ちひとつで妥協してやったのを褒めてほしいくらいだ。
……野菜オンリーというシュールな出目の後なのだから、ジェラートの感想はいいだろう。気になるなら自分で食え。
「それでシャカールさんは何がお好みなのかな。」
「………………。」
言いたくない。口に出せば最後、絶対にコイツの喧しさが加速すると容易に推測できるからだ。揶揄い目的で質問された方がマシだ、とも思いつつ、コイツがそんな真似するはずもないとも思う。ただ純粋な疑問。……ここで黙り込むのも不自然ではある、理解している。間を誤魔化すようにトングを何度か鳴らすも無駄だった。 - 53何故こんな時間に──?23/01/12(木) 04:23:49
「…………エ、」
「え?」
「……ベーコンエピ…………。」
答えを待っていた瞳が僅かに見開かれる。意外、という表現が適切だろう。
授業中とレース場を除いて、オレが電子機器を常に携帯していることは周知の事実だ。片手で食べられるサンドイッチやベーグルを選ぶか、何なら屑の落ちるパンそのものが好きではない、というのがおそらくオレに向けられるイメージだろう。つまり似合わない。千切る動作は両手が塞がるので選択肢からは除外する。なんともロジカルな決めつけだ。けれどそんなオレの胸に湧く仄かな苛立ちは、不意に鳴ったパチパチという音で吹き飛ばされた。なんだ?怪訝な視線を向ければ、ゆったりと一定のリズムで拍手が贈られている。
「──エクセレント!ボク達が今日ここに来た意味が示されたよ!貴方とボクとを繋ぐ理由がレース以外にもあっただなんて!シャカールさんはフランスパンが好きなんだね!」
「そうは言ってねェよ。」
……やはり騒がしかった。まさか演劇調の台詞に加えて拍手までかますとは。つかワーグナーもヴェルディもフランスじゃねェだろ。いや別に他の理由なんて幾らでもあるだろう、クロワッサンがパンの中で最も至高と思っているだとか。
「ではそんなシャカールさんの為にボクが直々にエピを探して差し上げようじゃないか。ふむ、まずは白鳥を射止めに行かなくては。」
「小麦とベーコンの槍で傷が癒えるか。余計なことすンな、自分の分をさっさと決めろ。」
引用に夢中なのか腹の虫を鳴かせっぱなしなのにも気付かない覇王の肩を掴むとそのまま反転させ、様々なパンの並ぶカウンターへと意識を注がせる。作戦は成功した。エピ、エピと呟き周囲を見回すそれはやがて自らの興味に掻き消されたのだ。
それはそれとして、話題に上がると探してしまうもので。オレは自分のトレーにチーズ入りのエピを乗せれば、隣に並ぶ『辛味チキンのタンドリー風パン』も買ってやることにした。 - 54二次元好きの匿名さん23/01/12(木) 14:28:27
これを今から食べるかはさておき、当初の目的は達成された。あとはこの小麦群に目移りしまくっている覇王が山盛りにパンを積んでいないことを祈るだけだ──そう思っていた矢先に声をかけられる。
「シャカールさん!見たまえ!」
まさかこの予想は当たらないでくれ、と苦い顔をして呼ばれた方へ向けば、栗毛の手に持つトレーは空だった。いやまだ決めあぐねてンのかよ。それはまた別の意味で面倒なのだが、唸るオレの心情を他所にひとりで騒ぎ散らしている。
「はいはい、ンだよ。」
「ボクに相応しいパンが陳列されているのさ!これを知らせずしてどうするんだい!」
オレには全く関係ねェだろ、そう言いかけて直感する。このまま放置した方が事態は悪化すると。コイツ周りの連中はいつもそうだ、ドトウ然りウララ然り。別に世話を焼きたいわけではない。事前に阻止しないと此方にまで余計な被害が及ぶというだけなのだ。
果たしてどんな華々しい物体を指差すのだろう。見た目のノイジーさに一種の覚悟をしながら見れば、そこにあるのは『当店オススメ!三種のハーブと玉ねぎのパン』という比較的普通なメニューだった。想像との落差に拍子抜けしたのだろう、いつの間にか首を傾げてしまっている。
「気付かないのかシャカールさん!この組み合わせ!形!ハーブとオニオンの渦巻きパン、だよ!そう!これは最早は、お、うパンと読んでも差し支えないね!」
「いや差し支えるだろ。」 - 55二次元好きの匿名さん23/01/12(木) 14:36:23
「何故?かのテイエムオペラオーも絶賛!とすれば、ボクのファンがこの店に殺到するに違いないさ!!」
これでもかと胸を張り、手を当て高笑いを重ねる。どこからその自信が出てくるんだ。そういうマーケティング方法があるのは理解できるが、それにしたってアホすぎないか?普段の食事に主食がないだけでここまで知能が低下するのかと動揺しかけたが、新年の挨拶でも妙なことを言っていたような気がするのでこれはおそらく素の発言なのだろう。それはそれで頭を抱えたくなるが。
「……。分かったから食え。」
並べられたそれを見比べ、比較的綺麗そうな円のものを向こうのトレーへと乗せてやる。マジでオレに見せたかっただけなのか、報告を終えると満足気に鼻歌を唄いチョコクロワッサンとレーズンクッキーを取ってはレジに歩を進めていた。何故かこっちが慌ててその背中を追いかける羽目になっている。
いつからコイツのペースだった?いやずっとだな。今更すぎる自問自答をデリートし、忘れかけていた午後のトレーニングに想いを馳せる。坂でのスタミナ強化はこなした。朝よりも泥濘んでいるだろうグラウンドでラストスパートの踏み込みをもう少し練習すべきか……、これは帰ってParcaeに打ち込むデータ次第だ。程なく会計を済ませビニール袋を片手に店を出る。今日は明らかに無用なルートを歩いてしまった。連れ出されるならせめて必要最低限、一軒の店で完結してほしい。隣で尻尾を揺らす彼女に数歩後ろから声をかける。
「なァ、明日は別の店にしろ。ただの栄養補給にランダム性は求めてねェ。」
「……!ハーッハッハッハ!もちろん、ラーメン以外だね!」
オレはその日部屋に戻るまで、何故オペラオーが帰路の間上機嫌だったのかに全く気付かなかった。 - 56二次元好きの匿名さん23/01/12(木) 15:29:06
オチが一緒になっちゃった
サビなもんで…… - 57二次元好きの匿名さん23/01/12(木) 17:19:47
ニヤけが…ニヤけが止まらないんよ…
どれもすごく良いんだ - 58二次元好きの匿名さん23/01/12(木) 23:42:58
1日のスケジュールを終え布団に潜る。入眠前のしんとした時間は余計なノイズが消える感覚がして心地好い。クリアになった思考の中、不意に尻尾を揺らしながらスキップをする彼女を思い出す。アイツは何故、平凡な帰り道にあそこまで上機嫌となれたのか。
「……。」
オレは一体何をした?
答えは明白だ。彼女に誘導されたわけでもなく、自ら『明日は』と述べてしまった。昨日はあれだけ次などない、絡まれても断ろうと考えていたのに。午前中の、掌で踊らされている気分に舌打ちすら放ったのに。トレーニング中もアイツの顔が浮かんでは、その余裕そうな表情を歪めてやる、と余計な熱が篭ったのに。
「……チッ。寝れねェ……、」
ごろごろと何度か寝返りを打ってみるものの、響く秒針の音が気に障るだけだった。隣で静かに眠っているドトウを起こさぬように部屋を出る。夜風に当たれば少しはマシになるだろうか。
暗い廊下を抜けてグラウンドへと出る。誰もいないターフは混じり気のない土の匂いを直に感じて、自分ひとりである事を実感させた。ホットコーヒーでも淹れてくれば良かっただろうか?景色を眺めているだけでは全く気が紛れない。こんな事なら部屋でデータの整理でもしていれば、そう考え始めたオレに誰かの影がかかる。
「おや、シャカールさんも月夜に誘われたのかい?」
今のオレが一番会いたくない相手だった。
ここまで覇王を嫌がったのはあのジャパンカップ以来だ。思い出したくもない惨敗の記憶が蘇る。クソ、来た道をそのまま戻ろうとして、指先をそっと握られた。
「この夜に巡り逢えたのは運命だよ、シャカールさん。もう少しここに居てはくれまいか。もちろん、代わりに明日ボクとランチへ行く権利はフイにしてもらって構わない。」
「……。」 - 59果たして月とは衛星だったのか23/01/12(木) 23:46:23
ここで手を振り払い、足早に帰るのが最適解だったのだろう。けれど、オレはそうしなかった。
……違う。出来なかった。あの穏やかな紫色に見つめられると、何処かへ逃げようという気が失せるのだ。あの時植え付けられた畏怖のような何か、そうだ、そうに違いない。でなければ、オレの足が石像のように重く動かないのにも、普段より鼓動がコンマ数秒速い気がするのも、するりと指を撫でられ隣に立つのをただ眺めるだけで抵抗できないのも、説明がつかないだろ?
「……オレが自分で言い出したンだ。今更撤回なんざしねェよ。つか昼の揚げ足取りもこれの伏線か?」
「ボクをシナリオライターのように扱うのは辞めたまえ、地を駆け舞台に上がる者なのだから。あぁ、いつか見せたボクの脚本が心に響いたのならその賛美は受けるけれど。」
「誰もそこまで言ってねェだろ。耳の穴に余計なこと囁く翻訳家でも住んでンのか。」
「……精霊と言わないのがシャカールさんらしいな。」
びゅぅ、とオレらの横を風が通り過ぎ、この夜の中でいっとう明るい月が、流された雲に隠されていく。半分ほど覆われたところでオペラオーが動いた。オレから一歩離れたのだ。
「おぉ月よ!このボクの輝きに恐れ、姿を隠してしまうとはなんたる事か!全てを曝け出し競いたまえ!ボクは此処に居る!テイエムオペラオーは、此処に居るぞ!!」
右手を掲げ語りかけても、当たり前だが返事はない。つーかこの時間にそんな騒ぐのはシンプルに近所迷惑だろ。寮長に怒られても知らねェぞ。
「くっ…、門番たる白雲達は彼処から退く気はなさそうだ……仕方ない。今日のところは眠るとしよう。おやすみなさい。」
挙げていた手を額へと添え、残念そうに首を振る。本当に月を眺めに来ただけなのか。欠けたソレには興味がない、といった風に立ち去る覇王の背をしばらく目で追う。何も解決しないまま、ひとり残されてしまった。
「……ハァ、なんだったンだマジで……。」
目的らしい目的もないまま時間を無駄にしてしまったかもしれない。結論の出ない計算を続け、明日の体調に影響しても困る。一度リセットを挟もう。静かな夜に溜め息だけを残し、オレは再び部屋へと戻り寝ることにした。 - 60二次元好きの匿名さん23/01/13(金) 01:16:14
いい……
『辛味チキンのタンドリー風パン』とか、同室に優しいシャカさん好き - 61二次元好きの匿名さん23/01/13(金) 11:35:05
感想めちゃくちゃ嬉しいけどもうこれ自分以外に概念挙げてくれる人いないな!?()
- 62二次元好きの匿名さん23/01/13(金) 16:44:07
(ちなみに申し訳ない事にスレ主は残弾がありません)(少しは布教になったやろか……)
- 63二次元好きの匿名さん23/01/13(金) 19:58:04
ごめんなごめんな……概念投げられたら良かったんだけど全力でお客さんになってしまった
シャカもオペさんもエミュ難しくて書けそうにないけどめちゃくちゃ好きになったよ
すごく素敵なスレをありがとう! - 64二次元好きの匿名さん23/01/14(土) 00:29:05
もしかしたらちょっと修正したのを別の場所で見つけるかもしれないですけど、その時は(コイツあにまん民やったんやな……)くらいで触れずに……いや推しカプの同志は知りたいけど……こういう時ってやっぱスレのを載せてますって明記した方がいいんすかね
- 65二次元好きの匿名さん23/01/14(土) 01:15:48
しゅき……
- 66二次元好きの匿名さん23/01/14(土) 01:38:24
- 67二次元好きの匿名さん23/01/14(土) 09:51:42
- 68二次元好きの匿名さん23/01/14(土) 16:46:38
もしまだここを見てくれてる人がいるなら言わせてくれ
ウマさんぽ第2弾ありがとう
オペラオーとシャカールは両方ともラーメンに縁がある(回復イベントと殿下)はずなのにさんぽの食事がハンバーガー!?ってなってバーガーデートネタをずっと出力したいと思っていたんだ
博愛っぽいオペラオーと明らかに色恋はノイズとして切り捨てそうなシャカールという恋愛らしい恋愛とは遠そうなキャラ造形をしてる2人が実はお互いを大事に思ってたらめっちゃエモいやん?というのも少しある
秋イベとか来年の正月とかで和服シャカール概念が来ることを祈っているオタクでした