【SS】フランスに滞在していたときのことだ

1二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 18:04:27

はじめに

このSSはKris Straub氏のOpossum Societyという短編小説が元ネタです

2二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 18:04:48

フランスに渡航したのは凱旋門賞の大体１ヶ月くらい前だったな。そこから現地のレース場に慣れるためにトレーニングを積んで、前哨戦のフォワ賞に出たわけだ。

そんなこんなで勝手の分からねぇことも多くて大変だったが、結構楽しんでいた。

そして現地のウマ娘の1人と仲良くなった。初めて会ったときから感じていたが、あいつは私と同じだ。常に魂がヒリつくような勝負を追い求めてる。私と併走するときだけ、目の色が変わっていたから、向こうも私に同じことを感じていたに違いねぇぜ。

心は通じ合っていた。確信できる。またあいつに会いたいもんだ……。

あいつとは真剣にくだらない勝負を繰り広げた。それこそトレーニングの時間や回数、模擬レース、昼食を賭けたコイントス、トランプのババ抜き……ちなみにフランス語でババ抜きはプユっていうんだぜ。意味はシラミのたかった貧乏人。私みたいな奴らの末路だろうな。

それはそうと、現地に慣れてきたころに、あいつが私を誘ってきたんだ。
なんでもパリのとある界隈の地下で、ソシエテ・ドポソムが開かれるらしい。

私はそれほどフランス語ができるわけじゃないから、完璧には分からなかったけど、どうやら秘密のギャンブル会のことらしい。ソシエテ・ドポソム、日本語で言うとオポッサム会。
もちろん二つ返事で参加を決めた。

3二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 18:05:28

その日の夜、私は軽くトレーナーの目を盗んでホテルから抜け出した。
待ち合わせ場所であいつと合流して、パリのとある古ぼけたビルの地下に入った。

雰囲気は、普通のカジノと大差なかった。ディーラー、ああ、フランスではクルーピエというんだったな、がいて、そこに何人かの客がついてトランプゲームをやってる。

「秘密の」と聞いていたが、とても魂が揺さぶられるような大勝負は期待できそうになかった。

私とあいつは、ぶらぶらとしばらく見ていたが、１つの卓に誘われた。ポーカーをやりたいらしいが、ちょっと人数が足りなかったらしい。

まあ、折角来たのだから、何もしないよりはと思い、参加することにした。あいつも隣に座る。

早速勝負と入る前に、ウェルカムドリンクを貰った。アルコールは入ってなかったぞ。勝負の前にそんなもん飲んだら頭が鈍る。ただ、何とも言えない変な味で、もう2杯目は要らねぇなと思った。

あいつも、旨いとは思わなかったのか、堅い顔をしながら飲み干してた。
他の客たちは涼しい顔で飲んでたな。

4二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 18:06:09

気を取り直して、勝負だ。内容はよくあるテキサスホールデム。手持ちのカード2枚とクルーピエの前にあるカード5枚で役を作るポーカーの一種だ。

私もポーカーは素人じゃないからじわじわとチップを増やしていって、最終的には2着に入った。1着に届かなかったのは残念だったが、初めての場所にしては上出来だったと思うぜ。

だが、あいつはちょっとずつチップが減っていって、最後の大勝負、今でも覚えているが私が持っているスペードのエースがあいつの手札にあったら、ストレートフラッシュが成立してた。だが、あいつは負けちまった。

最下位が確定した瞬間、あいつは号泣しだして自分の椅子をひっくり返し、どこかへと走り去ってしまった。

あいつがあんなに荒れるのは初めて見たから、私は何もできなかった。
ところが、クルーピエも他の参加者も慣れたものだとばかりに落ち着き払っていた。

そして、給仕がまたドリンクを持ってきた。
正直、何かを飲む気分じゃねぇから断ったのだがしつこい。
見かねたクルーピエの言った言葉は、今でもよく覚えている。

5二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 18:06:39

"Buvez, mademoiselle. C'est l'antidote."