- 1◆6aKqgv9Ekg23/01/07(土) 18:11:48
- 2◆6aKqgv9Ekg23/01/07(土) 18:12:38
- 3二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 18:15:48
ハルウララの子供か
いいねぇ - 4◆6aKqgv9Ekg23/01/07(土) 18:20:34
その競走馬……彼女が生まれたのは、母ハルウララが生まれた北海道の牧場だった。
父はもはや骨董品とも言うべき種牡馬で、明らかに走らせる云々よりもロマンを重視した配合であると誰の目にも明らかであった。
しかし。彼女の出産に立ち会い、後に彼女の馬主となった男は語った。
「母に似た小柄な馬でしたけどね、僅か10分で立ち上がったんですよ、彼女は……」
尾花栗毛という非常に人目を惹く小柄な馬に一目惚れした男は、乗馬行きが確定されていた“彼女”を買い取り、競走馬としてデビューさせることを決めた。
「だって、ロマンありませんか?負けて有名になった馬と、もはや誰からも忘れられた馬との娘が、もし大舞台で活躍したとしたら……」 - 5二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 18:21:21
おっと今回は父安価なしかな?
- 6◆6aKqgv9Ekg23/01/07(土) 18:28:08
父安価はやりません、娘ちゃん生年は2007年なんですが、その時代でもそこから20年前でも「なんでこの血統持ってきた走る以前にロマンしかねぇよ!?」という種牡馬であるとだけ覚えておいてください
尾花栗毛の娘ちゃんの気性度:dice1d100=100 (100)
100に近いほど気性難!
どっちの中央GⅠを取るか:dice1d2=1 (1)
1:芝
2:ダート
- 7二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 18:28:53
気性セントサイモンかよ
- 8二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 18:28:56
あかん!狂気のサラブレッドや!
- 9二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 18:29:34
おめーさてはハルウララの気性を受け継いだな?
- 10二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 18:30:04
牝馬なのでタマも取れない
- 11二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 18:32:22
池添出番だぞ
- 12二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 18:38:54
気性難度100ってギリギリ競走馬になれたクラスだよな……
これ、乗馬行ってた方が危なかっただろ - 13◆6aKqgv9Ekg23/01/07(土) 18:43:19
さて、この牝馬と聞いてまず浮かぶのは、美しい容姿とは裏腹の……気性の激しさであろう。
昨今話題となっている「ウマ娘」のハルウララは非常に人懐っこく無邪気な少女として描写されているが、モデルとなった実馬のハルウララは臆病かつ気性が荒いことで有名だった。
その娘であるこの牝馬はそれを何倍にも悪化させたような大層な気性難であり、馬具装着拒否、気に入らなければテコでも動かない、調教にまるでやる気を見せない……などは当たり前で、デビュー前から引退までの本馬を担当した厩務員は両手足の指だけでは数えきれないほど病院送りにされ、調教師には匙を投げられては何度も変わり、騎乗を頼んだ騎手には激怒されて拒否され……と、本馬のエピソードは尽きない。
そんな彼女であったが、ようやく受け入れてくれた大井競馬場にてデビューが決まった。
鞍上には「帝王」の通称で親しまれる名ジョッキーを迎えてのデビューだった。
「まぁまぁおてんばですが可愛い子ですよ。人間の女の方が恐ろしい」
デビュー前、そう言って周囲を笑わせる「大井の帝王」の姿があった。
「帝王」はこの後牝馬が引退するまで(中央レース以外の)主戦騎手を務めることになり、彼女が唯一心を許した存在となった。 - 14◆6aKqgv9Ekg23/01/07(土) 18:46:16
そして迎えたデビュー戦。
もはや様式美のようにパドックで暴れ咆哮を上げて周りを本気で萎縮させ怯えさせるというアクシデントこそあったが何とかゲートに入れることに成功。
デビュー戦:dice1d4=4 (4)
1:勝ち
2:掲示板内
3:5〜9
4:10〜最下位
- 15二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 18:47:12
気性難だし仕方ない
- 16◆6aKqgv9Ekg23/01/07(土) 18:52:46
「ちょっと折り合いを欠いてしまって。彼女に申し訳ないねぇ」
デビュー戦は苦い二桁順位。
気性難が災いしての出遅れ、かかり、レースへのやる気の喪失。むしろシンガリ負けしなかっただけ大したものである。これは「帝王」の手腕がお見事であったという以外に理由は無い。
しかし、「帝王」も馬主も、負けたとはいえ確かな実力を感じていた。
「実力はあるんですよ。あとはそれをどう引き出してやるのか。それが僕たち騎手の仕事ですから」
未勝利戦1回目:dice1d4=1 (1)
1:勝ち
2:掲示板内
3:5〜9
4:10〜最下位
- 17二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 18:53:39
ハルウララの子供ってことで取材に来たマスコミを蹴散らしてそう(物理的に)
- 18◆6aKqgv9Ekg23/01/07(土) 19:07:16
「ハルウララの娘が勝ってしまった」
当時未勝利戦を勝った直後、ネットニュースの見出しにはそう書かれていた。
母ハルウララは負け続けたことで人気になり、やがて社会現象にまでなったサラブレッドだ。
しかし、この言葉は失礼極まりないのではないか。
競走馬は勝つために生産され、送り出される生き物だ。
かつてハルウララを、そして本馬を生産した⚪︎⚪︎氏は語る。
「競走馬は、勝つことで評価を得る世界。生産牧場としても、負けて有名になる馬を出しても、負け続ける馬を生産したとしか評価は受けない」
かつてハルウララブームを冷めた苦々しい眼差しで見、高知競馬の話題作りだと非難した彼は。
「正直最初は嫌でしたよ。彼女はある意味ヒロイン産駒が売れなくなった原因ですしね。彼女自身は何も悪くないのはわかっているんですが、気持ちの方は……」
その上付ける種牡馬も、20年前ですら骨董品扱いされるだろう、むしろよく血を繋いできたと一周回って感心してしまう血統だった。これで期待しろと言う方が無理がある。
しかし。 - 19◆6aKqgv9Ekg23/01/07(土) 19:19:23
「生まれた彼女を見て、「この子は走るな」って思ったんですよ」
当時牧場にいた中でいちばん小さく美しいのに、かの気性難の名馬の生まれ変わりなのではと思えてしまうほど気が強く荒い牝馬を見て、そう確信したと言う。
「ハルウララの時とは違いましたね。彼女のおかげで、ようやくハルウララを穏やかに見られるようになりました」
*
未勝利戦をアッサリと勝った彼女は、新たな矯正器具としてホライゾネットと折り返し手綱を装備していた。
「帝王」が上手く捌いているとはいえ、やはり彼女の目下の課題は激しすぎる気性であり、レース中は常にかかりっぱなしな上、右へふらふら左へふらふら……
これでは周りの馬にも迷惑がかかると判断され、既につけられていた面子とシャドーロールとチークピーシズにプラスする形でつけられたソレのおかげか、彼女はレース中は比較的真面目に走るようになった。
次走>>25(国内地方ダートでお願いします)
- 20二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 19:28:23
鎌倉記念
- 21二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 19:45:34
このレスは削除されています
- 22二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 19:46:14
ハイセイコー記念
- 23二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 19:51:03
ローレル賞
ワタシイガイモダレカカイテ…… - 24二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 19:57:15
加速ァ!
- 25二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 20:01:23
根岸ステークス
- 26二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 20:01:27
ゴールドジュニア
- 27二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 20:02:23
根岸ステークスは出走条件サラ系4歳以上
今4歳だったっけ? - 28二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 20:08:44
2歳よく行って3歳でしょ
- 29◆6aKqgv9Ekg23/01/07(土) 20:12:26
まだ2歳なんでまだ走れないですね……
下のゴールドジュニアーにして、根岸ステークスは確定路線にします!
*
未勝利戦をアッサリと勝った彼女の次走は、所属する大井競馬場で開催されるダート1400の準重賞「ゴールドジュニアー」となった。
いきなり地方重賞に挑戦するよりは彼女のためになるだろうと踏んでの決定であった。
この頃、彼女は日夜問わず訪れるメディアにストレスを募らせ、カメラを蹴り割るなどの問題行動を起こしていたが。何故かアヒルのおもちゃに怯えるということがわかってからは、それを使って比較的従順にすることに成功していた。
ゴールドジュニアー:dice1d4=3 (3)
1:勝ち
2:掲示板内
3:5〜9
4:10〜最下位
- 30二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 20:12:28
- 31◆6aKqgv9Ekg23/01/07(土) 20:13:52
- 32二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 20:15:48
- 33二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 20:15:50
- 34二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 20:17:52
なんかセントサイモンに似たようなエピソードあったなぁ
- 35二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 20:20:18
黒い傘にビビってた
- 36◆6aKqgv9Ekg23/01/07(土) 20:25:59
- 37二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 20:33:20
- 38二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 20:38:32
- 39二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 20:40:06
これ、中央芝G1を取る話ですよね?
- 40二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 20:40:41
このレスは削除されています
- 41◆6aKqgv9Ekg23/01/07(土) 21:40:17
- 42◆6aKqgv9Ekg23/01/07(土) 21:50:49
「東京ダービーは僕の夢でしたから」
彼女には随分と甘えてしまいました、ともうすぐ古希を迎える「帝王」は苦笑する。
まだ引退の予定は無いと言い切る彼は、あの日のことを鮮明に思い出せると言う。
「圧勝、というのは何回も体験しましたけれど、……彼女と駆け抜けたレース以上に心が震えたレースはありませんでしたね」
*
迷っていた馬主の背中を調教師と2人がかりで押し、出走したハイセイコー記念。
アヒルと矯正器具と鞍上のおかげで多少なりとも落ち着いているように見えた……実際パドックとゲート入りでは落ち着いていた彼女だったが。
ハイセイコー記念:20+ dice1d100=72 (72)
30以上で勝利!以降数値が大きいほど大差勝ち
- 43二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 21:52:32
ウララの子が圧倒的大差勝ちとかびっくり仰天だわ
- 44二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 21:52:48
このレスは削除されています
- 45二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 21:54:12
まーた競馬界にオールドファンの脳を焼く馬が出てきてしまったか
- 46◆6aKqgv9Ekg23/01/07(土) 22:05:14
彼女は煩わしいのが嫌いだ。カメラなる機械が大嫌いだ。人の群れが嫌いだ。スーツを着た人間が嫌いだ。自分の世話をしてくれる人間ですら嫌いだ。いつも訓練だと嫌なことを強制してくる人間はこの世でいちばん嫌いだ。
しかし、自分の背に乗る老齢の人間が喜ぶのを見るのは好きだった。
だから彼女は頑張った。
走るのは好きだったが馬群は嫌いだったので、なんとか克服したロケットスタートを決めると、そのままぐんぐんと1600を逃げ切った。
2着との差は実に10馬身。誰もが認める圧勝だった。
「よく頑張ったね、お疲れ様」
お気に入りの人間に優しく首を撫でられ、彼女は得意げに鼻を鳴らす。
当たり前じゃない。私はあんたのために勝ってやったんだから。 - 47◆6aKqgv9Ekg23/01/07(土) 22:13:09
彼女の2歳最後のレースは、ハイセイコー記念を圧勝したことで得た全日本2歳優駿。
名実共に日本の2歳ダート最強馬決定戦として位置付けされている名レースであり、数々の名馬がこのレースを足場に花開いていった。
彼女はすっかりお馴染みとなった矯正器具フル装備にアヒルのおもちゃの鳴き声を引き連れて、響き渡る歓声に咆哮を上げる。
ハイセイコー記念後、大嫌いな人間に絡まれ続けてフラストレーションが溜まっていた彼女は、案の定盛大に出遅れたものの……
全日本2歳優駿:20+dice1d100=53 (53)
20以上で勝利、最低保証からの余分は大きければ大きいほど圧勝!
- 48二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 22:16:07
ウララを通じてニッポーテイオーの血が覚醒してる…
- 49◆6aKqgv9Ekg23/01/07(土) 22:26:04
彼女の走りは母より母父に似ている、とは引退までよく言われたものだ。不思議と、父系の話は聞かなかったし、私自身彼女の血統を見て初めて知ったほどだったから然もありなん。
引退までのレースを見返しても、そこには尾花栗毛のニッポーテイオーがいるようにしか見えない。
彼女はどちらかといえば祖母ヒロインによく似ていたのだが。
ともあれ、2歳シーズンは安定を通り越した、血統を考えれば大成功とも言うべき大活躍を果たした彼女。
次の3歳シーズン。それは彼女にとって大きな転換を迎える年となった…… - 50◆6aKqgv9Ekg23/01/07(土) 23:14:02
年明けてすぐ、彼女は「脚部の不安」により出走予定だったレースを取り消し、南関東三冠第一弾となる羽田盃直行となった。
3歳となり中身も成熟したのか、ある程度は人前でも耳を絞るだけにとどめることができるようになった彼女は、綺麗に編み込んでもらった鬣と整えられた尾を揺らしながら、自信満々にゲートへと収まった。
結果は━━ハナ差での勝利。
続くのは東京ダービー。「帝王」は今までになく緊張したと言うこのレースでは、初めての2000メートルであったが……
東京ダービー:20+ dice1d100=72 (72)
21以上で勝利、以降数値が大きいほど大差勝ち!
- 51二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 23:20:26
大勝ちしかしねぇなこの馬!ハルウララのツケを払いに来たかのようだ!
- 52二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 23:28:06
ニッポーテイオーの孫がオオイノテイオーに夢を届けたか...
- 53二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 23:29:33
このレスは削除されています
- 54◆6aKqgv9Ekg23/01/07(土) 23:33:30
「彼女には感謝しています」
「帝王」は静かに語った。
ずっとずっと、勝てなかった東京ダービーを勝たせてくれた「孫娘」を脳裏に浮かべながら。
「スタートで躓いた時点で「やらかした」と思いましたよ。……正直、あの時ばかりは周りを恨みそうになったよ……」
それはあの日の、彼女を襲った包囲網。
例えるならかの「世紀末覇王」が受けた包囲網とまったく同じもの。
馬群を嫌う彼女にとって、される動作だけでレースを放り出してしまいそうなものではあったが。
「僕が諦めて、彼女は諦めなかった。結果を言えば大差圧勝ですけれどね。……彼女に、勝たせてもらいましたよ。夢を、叶えてもらいました」
「帝王」が東京ダービーを勝ったのはその1回のみ。
だからこそ余計思い入れがあるのだと語る。
「彼女と共に戦えたのは次のジャパンダートダービーとラストランの根岸ステークスの2戦でしたけれどね。忘れられるわけがないですよ、初めてをもらったんですから」
(推敲ミスを見つけたので再掲しました、すみません!!) - 55◆6aKqgv9Ekg23/01/07(土) 23:56:35
三冠最後となるジャパンダートダービー。
この頃になると、彼女はすっかり全国からの注目を浴びるようになっていた。
ただでさえ骨董品血統で重賞未勝利の父系に、負け続けた母の間に生まれた娘は尾花栗毛のセントサイモンと言っても強ち間違いではない気性難で。しかもどう見ても勝てそうにない血統なのに順調すぎるくらい勝ち上がっている。
むしろ人気にならない方がおかしい……というサラブレッドが彼女であった。本馬はひたすら煩わしげに周りを一瞥していたが。
カメラを向けても発狂しなくなっただけマシだな、と先日蹴り飛ばされて折られた左腕を庇いながら職務に励む彼女の担当厩務員は笑う。
散々な目にあわされているが、なんだかんだ彼女が大好きだし可愛がっているので。本人にまったく伝わっていないが。
さて、ジャパンダートダービーは2番手で彼女を追っていた牡馬とほぼ同時にゴール版に飛び込み、写真判定で……まさかの同着優勝となった。
この時は三冠を達成した彼女よりも、同着まで追い詰めた牡馬が賞賛を浴びたほどだった。それほど絶望的だった差を根性で埋めたかの牡馬の鞍上は、同着の報を聞いた瞬間崩れ落ちたと言う。
「生きた心地がしませんでしたよ。もちろん勝つためにレースに出てるんで、負ける馬がいるのは当たり前なんですけれど……」 - 56◆6aKqgv9Ekg23/01/08(日) 00:13:43
転機が訪れたのは、そのレース後だった。
馬主の耳に、こんな言葉が飛び込んできたのだ。
「あの牝馬はダート走ってるのに芝馬のような走法なんだな」
「芝」と「ダート」では、同じ走り方をしては勝てない。
ダート……もとい砂場では踏み込めばその分沈んでしまうため、脚が泳いでしまうからだ。
だからこそ完歩が大きくなる芝とは違い、駆動力を活かしてピッチが早くなる走り方となるのがダートであった。
しかし、彼女はまるで芝を走るような走り方で全てのレースを戦い、勝ち星を上げてきている。
何度も何度も、専門家や評論家すら「なんでその走り方でダートを走れて勝てるんだ」と首を傾げていたが、それが彼女の走り方で“当たり前”だった。
「芝走らせたら面白いかもな」
「もしかしたらワンチャンあるんじゃね?」
何気ない会話だった。
しかしその言葉は馬主の中にスッと入って、留まった。
「……彼女は芝レースに出すべきなのか?」 - 57二次元好きの匿名さん23/01/08(日) 00:16:54
このオーナー、劇的な競争人生で完全にガンギマリしてやがる...
- 58◆6aKqgv9Ekg23/01/08(日) 08:43:07
「いや無理でしょう!?」
いくら走り方が芝馬と同じとはいえ、彼女が戦場としているのはダートである。
地方競馬場に芝の馬場というのはほとんど無い。仮に走らせるのであれば、唯一芝コースがある盛岡競馬場で走るか、……中央競馬場で走らせる以外に無い。
そもそも、彼女は調教から一貫してダートしか走らせていない。無謀にも程がある、と馬主の言葉に調教師だけではなく話を漏れ聞いた周りですら猛反対した。
しかし。状況は一変する。
ジャパンダートダービー後、屈腱炎を発症してしまった彼女はその後3歳シーズンを治療に当てるために全休となってしまい。
明けてすぐに復帰したものの、根岸ステークスを辛勝した際にまた発症。
これはすぐに治ったが、それと引き換えになってしまったのか。彼女はてんで走らなくなってしまったのだ。 - 59二次元好きの匿名さん23/01/08(日) 08:57:28
おはようございますの保守!
- 60◆6aKqgv9Ekg23/01/08(日) 10:01:59
正しくは浅い屈腱炎の繰り返しでろくに走れなくなった、だろうか。
元々の荒い気性もあり、牝馬故にフケ……発情期が重なってしまい、治っては発症する屈腱炎に泣かされて……ようやく持ち直した時……気づけば彼女は5歳となっていた。
最後の勝ちは、最後にまともに走れたのは、4歳始めの根岸ステークス。
“やはりハルウララの娘だった”
“終わった馬”
“引退濃厚か”
もはや南関東三冠は過去の栄光になりつつあった。
「……引退か、芝転向か」
馬主達陣営は悩んだ。
特に馬主は芝転向はしたいが、大井競馬場を裏切るようなことはしたくない。
だけど、馬のことを……彼女のことを考えば、このまま引退させてやるのが幸せなのだろう。
そう毎日頭を悩ませていた。
しかし。まだ諦めていない者がいた。
……他ならぬ、“彼女”だった。 - 61二次元好きの匿名さん23/01/08(日) 10:14:32
一応、ハルウララの血統見返すとニッポ―テイオー再臨の儀をやっているらしいと聞いた覚えはあるが・・・
どこで血が爆発するかなんて全く分からねえなあ・・・
(地獄の底で頷く総帥とインブリードおじさん) - 62◆6aKqgv9Ekg23/01/08(日) 15:35:03
「スイープトウショウと“彼女”ですか?その二択なら迷うことなくスイープを選びますよ」
中央で彼女の手綱を握った⚪︎添氏は真剣な表情で言い切った。
「まだスイープは“わがまま”の範疇に収まる気性でしたし。それに比べたら“彼女”は本当にこちらの指示は一切聞いてくれなくて。……本音を言えば嫌いです」
⚪︎添氏はそっと脇腹を撫でた。
そこには、今なお傷跡が残る。……秋のGⅠレースを、彼女の復活劇を導いた引き換えに得た傷だった。
氏のかつての相棒ドリームジャーニーの方がまだ大人しいです、と真顔で言い切られてしまう。
……当時の、⚪︎添氏の苦労が偲ばれる。
「でも、彼女の気持ちだってなんとなく理解できましたから。……だから、僕は騎乗を受け入れたんです」
⚪︎添氏は大井での主戦騎手「帝王」に何度も話を聞いて、できるだけ彼女に合わせたレース運びをすることを徹底したと言う。
「当時、僕はオルフェーヴルの凱旋門賞に騎乗できなかった悔しさがあって。なんとなく、彼女と似ているなぁって思いまして……」
⚪︎添氏は語る。
当時、大井競馬場所属のまま……正しくは中央の受け入れ先が無かった故に大井競馬場所属のままにならざるを得なかった、芝転向を発表したばかりの頃の“彼女”達を。 - 63二次元好きの匿名さん23/01/08(日) 15:49:55
生贄謙一か
- 64二次元好きの匿名さん23/01/08(日) 15:54:40
あー中央移籍したかったけど受け入れ先無かったから地方所属のままだったのね、メイセイオペラとはまた違う理由かぁ
そしてやっぱり生贄にされるlkze…… - 65二次元好きの匿名さん23/01/08(日) 22:15:25
厩務員さんも骨折させてる馬だからね……。
- 66◆6aKqgv9Ekg23/01/08(日) 23:09:55
「引退させてやれ、か……」
もっともな意見ではあるんだがな、と馬主はソファーに深く座り込んだ。
あの日、牝馬が、まだ走れるのだと暴れに暴れた日からひと月。
アヒルのおもちゃにびっ⚪︎りチキンまで導入してどうにか落ち着かせて、抑える際に脇腹を蹴り飛ばされてしまった厩務員を病院に運んでから。彼らは本気で“彼女”のために東奔西走していた。
しかし、結果は芳しくない。
「手始めに地方競馬で唯一芝レースをやっている盛岡競馬場で走らせてみたら……」
出来るならしたかった。
だけど、いくら走れると張り切っているとはいえ脚に爆弾を抱えていることには変わりなく。5歳という年齢もあり、あまり長い目で見ていられないのも事実であった。
だからこそ芝転向を決めた直後から中央で彼女を受け入れてくれる厩舎を探しているのだが……
「この気性こそが彼女の“個性”。だけど、一般的に気性難は受け入れ難いのも事実……」
定期的に周りの誰かが大怪我を負って病院送りにされ、主戦の「大井の帝王」以外にはまるで心を開かないほど気性に難ありな彼女を受け入れてくれる厩舎は無かった。
ダメ元でかの気性難代表格とも言えるドリームジャーニー・オルフェーヴル兄弟を管理している厩舎にも依頼してみたが、「多分オルフェーヴルが怯えてレースを走らなくなりそう」と断られてしまった。
「……もう、こうなったならば」
大井競馬場所属のまま、走らせるしかない。
馬主は決意を込めた眼差しで決断した。 - 67二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 01:16:43
ほしゅ
- 68二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 08:45:47
ほしゅ
- 69二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 16:53:13
和製セントサイモンちゃん
- 70◆6aKqgv9Ekg23/01/09(月) 22:52:21
(保守ありがとうございます!新成人はまだお酒初心者なんだからバカスカ飲みまくるなよもう……)
「ハルウララの娘、中央へ殴り込み」
所属は大井競馬場のまま。“彼女”はまったく未知の、走ったこともない芝レースへの殴り込みを決行した。
鞍上には気性難の競走馬を走らせることに定評のある⚪︎添謙一氏。「レジェンド」騎手の推薦だった。
当然、世間は反発した。……彼女もハルウララのように見せ物扱いするのか、と馬主には山のような電話がかかり、中には脅迫じみた手紙を送る者もいたという。
しかし、陣営はそんな外野の喧騒をシャットアウトし。いきなりGⅠレースに出すのではなく、まずは馬場に慣らすために>>74のレース(GⅡもしくはGⅢ、秋天前までのレースでお願いします)に出走させることを決めた。
- 71二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 23:00:28
オールカマー
- 72二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 23:10:25
毎日王冠
- 73二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 23:22:51
札幌記念
- 74二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 23:27:38
- 75二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 23:39:00
見守ってるぞ
- 76◆6aKqgv9Ekg23/01/09(月) 23:39:23
(ありがとうございます!)
彼女を毎日王冠へ出走させることとなった。
距離は1800、ダートとはいえこれより長い距離を走って勝ち星を上げたことがある彼女には可もなく不可もなくといったところであった。
……しかし、当日の人気はブービー。オッズも3桁台であり、いかに期待されていなかったかよく分かるものだった。
当の彼女はパドックで華麗なロデオを披露し、ゲート入りを10分も渋るなど、ある意味“いつも通り”な様子であった。
そして、定刻より10分遅れて、レースが始まった。
毎日王冠:dice1d100=12 (12)
40以上で勝利!以降数値が大きいほど大差勝ち
- 77二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 23:44:26
大丈夫かこれ…
- 78二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 23:44:48
勝てんか…
- 79二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 23:48:45
うーんキツイのう
- 80◆6aKqgv9Ekg23/01/09(月) 23:51:57
毎日王冠の結果は散々なものだった。
道中思い切りかかり、前をブロックされて走る気を無くした彼女はズルズルと下がっていき……⚪︎添氏が懸命に鞭を入れて、なんとか一桁順位に収まることができたほどであった。
しかし、結果的に惨敗したとはいえ、かかってブロックされるまでの彼女は寧ろとても良い走りをしており。……それまで否定的だった芝転向を好意的に見られ始めていた。
⚪︎添氏も「これは良い馬ですね」とコメントしている。
馬主達もなんら心配はしていなかった。
むしろ途中まで夢を見せ、芝を走れることを証明してくれた彼女に感激していた。
それに、毎日王冠はあくまでも芝に慣れさせるためだけに出したレース。本番で勝てれば良い、それが総意だった。
そうして発表された彼女の次走は━━天皇賞・秋であった。 - 81二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 23:59:34
毎日王冠から距離伸びたが行けるか?
- 82二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 00:33:58
初戦から1200m伸びたレースに出たけど、ニ着に食い込んだ中央殴り込みの先駆者がいるから、きっとイケるさ!
- 83二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 07:08:38
2000メートルはマイルなんですけど!
- 84二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 07:15:21
そうかな…?そうかも…(ゼファーやモーリスを見つつ)
- 85二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 08:16:32
ヤマニンゼファーも毎日王冠6着で天皇賞制したしセーフだな()
- 86◆6aKqgv9Ekg23/01/10(火) 09:24:55
「でもケンイチ。お前そうは言っても、なんだかんだで“彼女”には恩があるやろ。天皇賞の勝ちをくれたのは“彼女”だけやし」
「レジェンド」騎手TVにて「レジェンド」にそう言われた⚪︎添氏は、それはそうですけど……と顔を顰める。
⚪︎添氏はやがて30年に差しかかるベテラン騎手であり、先日遂にオルフェーヴルの産駒で凱旋門賞を日本馬として……いや、欧州以外の調教馬として初めて制する栄光を得たが。その30年近いキャリアの中でも天皇賞を制したのは、“彼女”に乗ったその1回だけであった。
「でも引き換えに脇腹6針縫いましたから。それに……」
*
2012年天皇賞・秋は異様な……というより、静かな緊張感の漂う雰囲気であった。
それもそのはず、この年の天皇賞・秋は天皇・皇后両陛下(肩書きは当時)が2005年以来7年ぶりに来場し、いわゆる「天覧競馬」となったからであった。
……そんな雰囲気の中でも、“彼女”はいつも通りであった。
パドックでは大人しかったものの、本馬場入場の際に⚪︎添氏を振り落としてゲートまで突進。⚪︎添氏は歩いてゲート前まで移動する羽目になり、そのゲート入りをもひたすら拒否。この日は天覧競馬であったこともあり、目隠しとアヒルのおもちゃをひたすら鳴らすことで無理矢理大人しくさせ、ゲートに押し込まれている。
そんな“彼女”のいつも通りに、少しだけ競馬場の雰囲気が緩んだのは気のせいでは無かっただろう。
……そして、レースが始まった……
天皇賞・秋:40+dice1d100=2 (2)
41以上で勝利!(勝ち確なので補正あり)
エイシンフラッシュとは… dice1d2=2 (2)
1:同着
2:写真判定→僅差勝ち
- 87二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 09:28:06
ほぼ最低値を出す当たりがらしいっちゃらしい
- 88◆6aKqgv9Ekg23/01/10(火) 09:59:48
2012年天皇賞・秋は2008年天皇賞・秋に並ぶ名レースとして有名だ。
両者の共通点は最終直線での熾烈な叩き合いにほぼ同着のゴールイン。目測ではほぼ確認不可能な着差であり、ウイニングランを行えなかったこと。そして……20分近くかかった写真判定で、2着馬の枠馬に入った馬が優勝したことだった。
「あの日ほど泣いた日は無いデス」
ハナ差1センチで惜しくも2着となったエイシンフラッシュの鞍上・M氏は、今でもその時の“悪夢”が脳裏に浮かぶという。
レース展開としては、エイシンフラッシュはほぼ勝ち確だろうという非常に優秀な動きをしていた。シルポートが大逃げを図ったことでハイペースとなった中、残り凡そ300メートルで内ラチ沿いを鋭く伸びていった。M氏はその手応えに勝ちを確信していたという。だからこそ、入線後も検量室の1着馬の枠に自信を持って入った。
……大外から、悪夢の元凶たる“彼女”が突っ込んできてさえいなければ、エイシンフラッシュは約2年5ヶ月ぶりの栄冠を得られたかもしれなかった。
「なんで最後のコーナーを曲がった時は後ろの方にいたのに、気づいたらフラッシュと一緒にゴールしてるんだろうって思いました。すごく怖い馬だなぁって思って、でもフラッシュが勝っただろうって信じてたのに……」
2008年の天皇賞・秋のように、非常に僅差での入線であったことから、すぐさま写真判定が行われた。20分もの長丁場となったのは、決め手となった3枚目の写真の現像に時間がかかってしまったからであった。
その間、エイシンフラッシュ・“彼女”の2頭は馬装を外され、指定エリア内で横並びの形になってクールダウンを行っていた。 - 89◆6aKqgv9Ekg23/01/10(火) 10:29:58
「僕にとっては唯一取れた天皇賞だったから、そこは感謝していますけれど。……怪我させられたことに関してはいまだに恨んでいますから」
そう言ったし嫌いと明言したものの、“彼女”を語る⚪︎添氏の顔は穏やかだ。
……着差が非常に僅差かつ馬同士が離れた場所にいたことから検証に時間がかかったものの、3枚目の写真で“彼女”が僅かにゴール直後に僅かに鼻先が前に出ていたのが確認され、レース終了から20分後、場内の着順掲示板に馬番が表示され、“彼女”が優勝、エイシンフラッシュがハナ差1センチの2着で結果が確定された。
その日の東京競馬場の近くにいた者は「爆撃でもされたのかと思った」と証言している。
この日の“彼女”は前走が前走故に最低人気であり、オッズも3桁台。そんな馬が、ダートで名を上げたものの過去の栄光になりつつあった馬が、中央芝転向後僅か2戦でGⅠを制した。
当然馬券は荒れに荒れた。……果たしてこの日、馬券を的中させることが出来た者はどれだけいただろうか。
確定した瞬間、⚪︎添氏は大きく叫んでガッツポーズをし、“彼女”陣営の者と熱い抱擁を交わした一方で、勝利を確信していたエイシンフラッシュ陣営は茫然とした様子となり、「うそだ」「どうして……」という声が上がっていた。
その後“彼女”は馬装を再びつけられた状態で⚪︎添氏と共にターフに戻ると、メインスタンドの天皇・皇后両陛下に⚪︎添氏が鞍上からヘルメットを脱ぎ最敬礼を行った。
拍手にて讃えられる中、再び戻った検量室内で……事件は起きる。
恐らくレースが始まる前の出来事から虫の居所が悪かったのだろう。突如“彼女”が暴れ出したのだ。
すぐに落ち着いたものの、運悪く⚪︎添氏はこの時脇腹を3度蹴り付けられ、6針も縫う大怪我を負ってしまった。
故に、暴れ終えた“彼女”の表彰式に出ることが出来なかった。
「口取写真に僕が載っていないのを見るたびに悔しい思いをするんですよ。唯一取れた天皇賞なのに」
「でも勝てたからいいじゃないですか。僕は勝ったと思ったのに負けちゃって悔しかったですから」
後日「レジェンド」TV内でふてくされる⚪︎添氏に、M氏が笑顔で言い放っていたのが映像で確認できる。 - 90二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 16:23:17
ほっしゅっしゅ
- 91二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 21:41:06
保守
- 92二次元好きの匿名さん23/01/11(水) 00:12:55
このレスは削除されています
- 93◆6aKqgv9Ekg23/01/11(水) 00:36:10
世紀の大接戦となった天皇賞・秋の後、“彼女”にはたくさんのファンができた。
ファンアートに手作りのぬいぐるみやお守り。ファンレターも山ほど届いていた。
“彼女”の陣営はひとつひとつ丁寧に確認し、お礼として“彼女”の写真を使ったポストカードに手書きで感謝の気持ちを一言ずつ書き入れてを贈っていた。
もちろん、これらはすべて馬主の自己負担であった。
が、それが大変だとは誰も言わなかったという。
「いちばんはレースで勝つところを見せることなんですけれどね、それだけでは素っ気ないだろうと思いまして……」
「だってファンアートもぬいぐるみやお守りも、僕らにと贈られたこれらも、すべてファンの方が時間を費やしてつくってくれたんだから。だから僕らもそれに応えないといけないじゃないですか」
……さて、天皇賞・秋を制した“彼女”は今年はこのまま中央で走ることになり、距離を伸ばしてジャパンカップを次走に考えていたが。……凱旋門賞を2着の大健闘で終え帰国したオルフェーヴルが参戦を表明したこともあり、足を休ませるために放牧へと出された。
そして、次走を有馬記念とすることが正式に発表された。
「距離は長くなりますけれど、この間の天皇賞を見て持つだろうと判断して決めました」
最長で2400のレースを走って勝っていることも理由のひとつではあったらしい。
ただ、そもそもが短距離中心だったハルウララはおろか母父ニッポーテイオーも勝ち鞍の最長は2200、父系も勝ち鞍はマイルに留まり、長距離の勝ちは見かけない。つまり、長距離はまったくの未知数である。
しかし、外野の喧騒を他所に、陣営は相変わらずの様子を見せる“彼女”の勝ちを確信していた。
「なんででしょうね。どれだけマイナスに考えようとしても、“彼女”が勝つ未来しか浮かばないんですよ……」
有馬記念ファン投票結果:dice1d10=5 (5)
- 94◆6aKqgv9Ekg23/01/11(水) 01:02:13
ファン投票の最終順位は5位。可もなく不可もなく、となかなか評価に困る順位であった。
しかし、芝戦は僅か2戦1勝な上、他にも有力な競走馬がいる中での5位はむしろよく票を集めたと褒められるべきことであろう。
放牧を挟みリフレッシュできたのか、天皇賞・秋ぶりにファンの前に姿を現した“彼女”は、有力馬の1頭ゴールドシップに馬っけを出されながらも軽くあしらい、大人しく⚪︎添氏を背中に乗せたが。本馬場入場の際、事件が起きた。
一言で言えばエイシンフラッシュが“彼女”に喧嘩を売り、それに対して激怒した“彼女”が馬らしかぬ咆哮を上げて買おうとしてしまったのだ。
「正直、敵意がフラッシュに向けられているのは分かっていましたが、“彼女”にやられるんじゃないかと怖かったです」
この時エイシンフラッシュの騎手を務めたミュラー氏はそう語った。
……エイシンフラッシュはよほど前回僅差負けしたのが悔しかったのだろうか。パドックでは離れていたため、本馬場入場まで気づかなかったらしい。
幸いすぐに引き離されたものの、エイシンフラッシュと“彼女”の両馬は親の仇でも見るかのような敵意に滲んだ目でゲートインするまで睨み合っていたのが、当時のパトロールビデオ等に残っている。
と、ハプニングこそあったものの、ゲートでは「いっそ不気味なくらい」落ち着いていた“彼女”。
枠が隣となったゴールドシップにちょっかいをかけられていたものの、歯牙にも掛けないその様子に⚪︎添氏は絶対に何かをやらかすと予感したと言う。
それがある意味現実になるとはまだ分からず。誰かの夢をたくさん乗せて、有馬記念が始まった。
有馬記念:dice1d100=34 (34)
1以上で勝利。以降10増えるごとに2着との差が1馬身ずつ増えます!
- 95二次元好きの匿名さん23/01/11(水) 01:20:32
ざっくり三馬身半か
- 96二次元好きの匿名さん23/01/11(水) 06:02:55
この世界のXデーは201X年になるのか
- 97◆6aKqgv9Ekg23/01/11(水) 10:27:23
“彼女”のベストレースは何か、と問われた際に必ず挙げられるのが有馬記念だ。
大差勝ちしたレースはいくつもあるが、それまでダートを走り、屈腱炎と戦って泣いて栄光が遠かった頃に全く違う中央芝に転向し、前走を歴史に残る名レースにした“仕上げ”のレースとして一定の評を得ている。
事実、この年の有馬記念は先に挙げたエイシンフラッシュにオーシャンブルー、ルーラーシップ、ゴールドシップ、ジャスタウェイ、ローズキングダムなどの有力馬が多数出走しており、“彼女”はスタート直後に躓いてルーラーシップともども出遅れるアクシデントに見舞われたものの、その後は後陣で脚を貯め、第四コーナーを回った辺りで馬群のど真ん中を力強く駆け上がり、外から猛進していたゴールドシップを3馬身半抜き去る脅威の末脚を披露している。
レース後ウイニングランを始めた⚪︎添氏を再び内ラチにぶつけようとしなければ、満場一致で年度代表馬に選出されていただろう。
「“彼女”、僕の怪我しているところを的確に狙っていましたからね。……検量室で鼻で笑われたので、わかっててやったんだと確信しています。天皇賞と有馬記念を勝たせてもらった恩はありますが、最後まで“彼女”は僕を見下していましたからね。だから嫌いです」
……⚪︎添氏に鞍上に決まった際も「帝王」を求めて暴れ回り、まともに乗ることを許されたのは毎日王冠の1週間だった。
レース中はおろか馬場入場やパドックですら気に入らなければ暴れ、アヒルのおもちゃで鎮められる姿は一種の風物詩。
尾花栗毛の美しい見た目とは裏腹に「セントサイモンの再来」と恐れられた気性難の塊の“彼女”は口取写真撮影でもロデオの如く暴れ、最後まで周りを振り回して5歳シーズンを終えた。
年明け6歳も現役続行を発表し、初戦は大井から始めると発表。
機会があればまた中央を走ると馬主は力強く言い切り、ファン達を歓喜させた。
しかし。結論を言えば、この有馬記念が中央で走った最後のレースとなってしまったのである…… - 98二次元好きの匿名さん23/01/11(水) 10:49:19
東京ダービー勝って天皇賞勝って売られた喧嘩は買って有馬で3馬身差勝利とかゴリウーが過ぎる
- 99◆6aKqgv9Ekg23/01/11(水) 15:02:06
6歳となっても“彼女”は変わらなかった。
久しぶりの大井競馬場に現れただけで他の馬を萎縮させ、詰めかけたファンを歓喜させた。
艶やかな尾花栗毛を風に靡かせ、鞍上には最愛の「帝王」を乗せた“彼女”は、どことなく嬉しそうに、軽やかにステップを踏みながら本馬場に現れ、アヒルのおもちゃの鳴き声をお供にゲートに収まった。
6歳初戦は根岸ステークス。鞍上の「帝王」は、また“彼女”と走れる喜びに震えながら優しく首を撫でる。
「行こう」
ぶるる、と“彼女”が一声嘶いた。
根岸ステークス:dice1d4=1 (1)
1:勝ち
2:掲示板内
3:6〜9
4:10〜最下位
- 100二次元好きの匿名さん23/01/11(水) 15:03:31
風格が出てきたな
- 101◆6aKqgv9Ekg23/01/11(水) 15:40:12
昨年の復活で完全に“勝ち方”を思い出したのだろう。
もはや敵無し。そう思える完璧なレースであった。
屈腱炎に泣き、哀れなほどボロボロになっていた“彼女”はもういない。
そこにいたのは“女王”と呼ばれるに相応しい、1頭の名馬だった。
「見違えるほど“いい子”になったね」
レース後、インタビューにて「帝王」はそう答えた。
「やっぱり年齢を重ねて、挫折を知って、畑のまったく違うレースを勝ったのが良かったんだ。……復活させたのが僕じゃないというのが悔しいけれど」
ハルウララに似た小柄な馬体ながらも漂う風格は、存在感は牡馬にも負けない。
どれも大井にいた頃は中途半端なもので、だからこそ「帝王」はそれを成してくれた⚪︎添氏に感謝すると同時に嫉妬の気持ちを隠せないのだと話す。
その⚪︎添氏は散々な目に遭わされていたが、「帝王」にとっては可愛いものなのだろうというのがなんとなく伝わってきた気がした。
さて、根岸ステークスを快勝した彼女の次走は1ヶ月空いてエンプレス杯に決まった。
そこから5月のJPNⅠレースのかしわ記念へ挑戦し、早めの長い夏期放牧を行なって9月から中央を走るというプランである。
……エンプレス杯は、やたらと落ち着かない“彼女”を終始宥める「帝王」がいた。
物見が激しく、近づいた他の馬を激しく威嚇する様は、どことなく様子がおかしかった。明らかに普段暴れ回っている姿とは違う暴れ方に不安になった「帝王」は、とにかくレースを無事に走らせることを優先させ、勝ちは二の次にすることを密かに決めていたという。
エンプレス杯:dice1d4=1 (1)
1:勝ち
2:掲示板内
3:6〜9
4:10〜最下位
- 102二次元好きの匿名さん23/01/11(水) 15:42:30
でも勝っちゃうんだなあこれが
- 103◆6aKqgv9Ekg23/01/11(水) 15:52:22
様子がおかしくても“彼女”は王者であった。
しかし、まったく違うレース内容であった。
なんと“彼女”は大逃げを決行。鞍上の指示をも無視して大暴走。
結果dice3d5=2 3 3 (8)
馬身(合計値)もの差をつけての入線だった。
パトロールビデオを見返しても、スタート直後からかかっているように見え、「帝王」が必死に手綱を引いたり鞭を入れたりしているが、それを無視してひたすら前へ前へと突進している様子が映っている。
そうしてゴールを通過した後は勝手に減速し、……後続の馬が来ない場所まで歩いて止まると同時に、「帝王」は飛び降りた。
何が何だか状況が理解できない場内を他所に「帝王」は“彼女”の前脚を覗き込んで、……慌てて右前脚を抱えるように支え始めた。
「はやく来てくれ!!!」
焦りを滲ませた絶叫に、関係者が“彼女”と「帝王」に駆け寄っていく。
馬運車が来て、彼らの周りにテントのような幕が張られた。
……場内が悲鳴に包まれた。
“彼女”は右前脚から血を流しながら、静かに「帝王」を見つめていた。
- 104二次元好きの匿名さん23/01/12(木) 00:26:27
保守
- 105二次元好きの匿名さん23/01/12(木) 00:32:47
待て
待て - 106二次元好きの匿名さん23/01/12(木) 00:54:45
確かアメリカだったか?競走中に故障発生した馬の脚を、飛び降りた騎手が咄嗟に支えてそれ以上の悪化を防いだのは。
- 107二次元好きの匿名さん23/01/12(木) 10:29:00
- 108二次元好きの匿名さん23/01/12(木) 18:50:48
FON!!!ふおん!!
- 109二次元好きの匿名さん23/01/12(木) 19:56:24
頼む、せめてもの大袈裟に血が出ているだけであってくれ・・・頼むよお神様・・・
- 110二次元好きの匿名さん23/01/13(金) 03:42:26
朝方のほしゅ!
- 111◆6aKqgv9Ekg23/01/13(金) 04:28:12
右前脚開放骨折。それが“彼女”に下された診断だった。
遠くから取られたパトロールビデオでも、右前脚から血を流し、それを抱え込んで支える「帝王」の勝負服を汚す姿がハッキリと確認できる。
……「帝王」が傷病箇所を支えたおかげで、それ以上悪化することなく馬運車に乗せることが出来、“彼女”は阿鼻叫喚の競馬場を去ることができた。
しかし。
「屈腱炎から回復できたから、と走らせすぎました……」
翌日行われた記者会見にて、現実でもネットでも散々非難された馬主はそう言って頭を下げた。
毎日王冠、天皇賞・秋、有馬記念、根岸ステークス、エンプレス杯。骨折するまで走ったのは計5戦。しかも有馬記念までの3戦は芝レース。レース内容も接戦であったり激闘であったりしたこともあり、見えない形で疲労が溜まっていたのだろう、というのが診断した獣医師の判断であった。
……骨折した箇所が、最後に屈腱炎を発症していた脚だったというのが、余計にそれを裏付ける。
「彼女は、どうするんですか」
厳しい色が乗った質問だった。
……馬は4本の足で平均450〜500キロの馬体と心肺機能を支えている。1本でも脚が駄目になってしまうと、それが文字通り致命傷になる。
そして、仮に治療を施しても莫大な費用がかかる上、馬はストレスに弱く、治療生活に耐え切れず衰弱死……の可能性も十二分にある。
最もな例がファンに生きることを願われ、結果それがより追い詰める一因となってしまった競走馬「テンポイント」だろう。
かの競走馬は非常に雄大な馬体を持つ美しい馬であったが、海外遠征を視野に入れた前哨戦のレースで骨折。その後馬主やファンからの嘆願があり医師団を組まれて治療に当たったものの、最終的に蹄葉炎を発症し死亡。その亡骸は500キロはあったはずが400を大きく切るほど痩せ衰えていたという。
“彼女”も、開放骨折である。テンポイントと同じ、症例だ。
……同じ轍を踏むのか、否か。馬主はゆっくりと口を開き……
「治療して、引退させます」 - 112二次元好きの匿名さん23/01/13(金) 14:50:49
ほ
し
ゅ
! - 113二次元好きの匿名さん23/01/13(金) 19:13:41
これもう、ファンは京都のライスシャワー碑とかに無事を祈りに殺到してるだろ・・・
高知競馬場の馬頭観音像とかお百度参りの行列できてるかもしれん。 - 114二次元好きの匿名さん23/01/14(土) 03:55:28
あさのほしゅ
- 115二次元好きの匿名さん23/01/14(土) 09:24:13
頑張れ!
- 116二次元好きの匿名さん23/01/14(土) 19:53:28
もうそろそろ終盤かぁ……
- 117二次元好きの匿名さん23/01/15(日) 00:16:58
保守
- 118◆6aKqgv9Ekg23/01/15(日) 00:30:21
世間の阿鼻叫喚を知らずに、“彼女”は広い馬房の中でいつものように暴れ回ることもなく、大人しく人間たちが甲斐甲斐しく世話を焼いてくれている様を静かに見つめていた。
「……お前は本当に愛されているなぁ…」
ほろほろと涙を流しながら“彼女”の尾を整えるのは担当厩務員の⚪︎⚪︎氏。
……故障が報じられた直後から、“彼女”の元にはファンからの山のような手紙やお守り、治療の足しにしてほしいとお金を送ってくる者もいた。手紙の内容は応援や励ましの言葉、そして“彼女”の助命嘆願がほとんど。
“彼女”がどれだけ愛されているのかが分かると同時に、怪我の重さが“彼女”の先行きに暗雲をもたらしているのがわかり、どうすれば“彼女”の最適解になるのか……厳しい現実を知っているからこそ陣営は当時言葉にできぬ感情に苛まれたと言う。
「いちばん記憶に残っている手紙は、かつてテンポイントの助命嘆願の手紙を出して、その悲惨な最期にトラウマを持ったという方の手紙でしたね……」
━━私は、テンポイントのファンでした。だから助かる見込みがあるのなら救ってほしいとの旨を書いた手紙を出しました。
それが結果的に愛馬を地獄のような苦しみの中に追い込んだことを、20年以上経った今でも後悔し、あんなことを言わなければ、とテンポイントに申し訳ない気持ちでいっぱいです。
━━それを、その気持ちを、後悔を持っていながら、私はまた同じことを繰り返します。どうか、どうか、“彼女”に助かる見込みがあるのなら、安楽死はさせないでください。残酷なことを、と思われるかもしれませんが、彼女を苦しめるだけになるかもしれませんが、どうか。どうかお許しいただけると……
その手紙を出した人物は、便箋5枚にもなる手紙とdice6d300=233 70 203 52 254 277 (1089)
万円もの現金を送ってきたという。
また“彼女”の母ハルウララが現役を過ごした高知競馬場と“彼女”が所属する大井競馬場でも有志のファンによるクラウドファンディングが行われ、実に億を超える寄付金が集まり、それらは全て“彼女”に送られた。
「奇跡というのは、本当にあるんです……」
お金があっても治るかは未知数。
だけど、お金があったから出来うる限りの最高の治療を“彼女”に施すことが出来た。
━━故障発症から2年後。“彼女”は無事に治療を終え、元気な姿を某動画サイトにて見せた。
奇跡が、起こったのだ。
- 119二次元好きの匿名さん23/01/15(日) 00:34:38
バーバロ「君も治ったんだね!僕ももうすぐ治るってオーナー達が言っているんだ!」
- 120二次元好きの匿名さん23/01/15(日) 00:45:37
キミも頼むからやめてくれ...(泣)
- 121二次元好きの匿名さん23/01/15(日) 11:08:36
この世界のあにまんとSNSは、“彼女”の治療成功に狂喜乱舞してそうだな……。
ikzeも引リツして一言添えてそう……。 - 122二次元好きの匿名さん23/01/15(日) 20:21:26
保守
- 123◆6aKqgv9Ekg23/01/15(日) 21:06:20
故障した脚にはボルトが6本と、骨を支えるための棒が3本。
競歩程度には走れるが、“競走馬”としては2度と走れなくなってしまった。
それでも、生きている。“彼女”は生きて、再びその姿を公の場に見せてくれた。
「残念なのは、怪我以降すっかり丸くなってしまったのと、“彼女”の子供には乗れないことくらいですよ。
……でも、こればかりは仕方ないです。生きているだけで丸儲け、ですからね」
毎週治療に臨む“彼女”に会いに行き、治療の辛さと襲いくる痛みに暴れそうになる“彼女”を夜通し宥めていた「帝王」は、ファンの嘆願で開かれた“彼女”の引退式で、涙を流しながら話し始めた。
“彼女”を慮り鞍などは付けずにメンコや手綱のみを付けて引退式が行われた大井競馬場に、「帝王」と担当厩務員と共に実に2年6ヶ月ぶりに姿を見せた“彼女”に、集まったファンは暖かい拍手と「おかえり」の声で出迎えた。
もしかしたら、景気付けのように暴れることを期待したファンもいたのかもしれないが。……すっかり毒気を抜かれてしまったように、“彼女”は時折首を振ったり「帝王」に甘えるように顔を寄せたりする程度で、まるで別の馬になってしまったように大人しくしていた。
これからの進退は、との質問に馬主は。
「“彼女”はこのまま、“彼女”の母が……ハルウララがいるマーサファームにて第2の生を歩んでもらう予定です」
最初はリードホースや繁殖を予定していたが、やはりボルトに支え棒まで入れている“彼女”にこれ以上の負担はかけたくないと馬主が決断。ちょうどそのタイミングでマーサファームから声がかかったことで、そちらに預けることが決まったのだ。
「私のせいで“彼女”には多大な迷惑をかけてしまいましたから、これからは平穏な生活を送ってもらいたいんです」
どうか引退後も“彼女”をよろしくお願いします。
そう馬主達陣営が頭を下げた時。それはおきた。
「━━━━━━━ッッッ!!!!」
突然“彼女”が空に向けて咆哮を上げた。
まるでもう2度と来ることのない大井競馬場とファンに別れを告げるように。
20xx年。ロマンから生まれ、芝とダートの2つの戦場を駆け抜けた牝馬は、惜しまれながらもターフを去っていったのだった。 - 124◆6aKqgv9Ekg23/01/15(日) 21:58:05
━━引退後、マーサファームで当歳馬以降振りに再会した母子は、娘に威嚇された母が威嚇し返すという一面があったものの、すぐに仲良くなったようで、何かと世話を焼こうとするハルウララに“彼女”がされるがままにされている様子が某動画サイトによく上げられている。
その動画には時折「帝王」も登場し、ベタベタに「帝王」に甘える姿にファンは「もはや恋人」と騒ぐ。
⚪︎添氏は「二度と会わない」と宣言していたものの、マーサファームに多額の寄付をしたり実はこっそり会いに行っていたりしたようで、偶然⚪︎添氏が来ていることに気づいた“彼女”に服を盛大に破られた様子がたまたま見学に来ていた者達によって某⚪︎witterに上げられ、盛大に“バズった”。
現役中と引退後のあまりのギャップにますますファンが増え、“彼女”がこれから穏やかに過ごせるよう、誰もが祈っていた。
しかし、……
引退してからdice1d10=6 (6)
年後のことだった。
“彼女”は母ハルウララよりも早く、空へ旅立っていった。
それは、年明けすぐの寒い朝のことだった。
- 125二次元好きの匿名さん23/01/15(日) 23:01:32
お前……!早すぎるって……!!おい……!!おい……!!!!
- 126二次元好きの匿名さん23/01/15(日) 23:08:50
>残念なのは、怪我以降すっかり丸くなってしまったのと
の、脳を焼かされている・・・
- 127◆6aKqgv9Ekg23/01/16(月) 00:02:15
「前日もそんな兆候は全然無かったです。いつものようにご飯を食べて、人参をうーちゃん(※ハルウララ号)と取り合っていて。……次の日の早朝、うーちゃんの悲痛な鳴き声を聞いて駆けつけたら、もう冷たくなっていたんです」
マーサファームの代表⚪︎⚪︎氏はそう語った。
「本当に元気そのものでした。うーちゃんやアミちゃん(※マーキュリー号、日本スポーツホース種)と一緒にソフト競馬に参加して、見学客の方に愛想を振り撒いて。いつも通りの日常をこなして、虹の向こうに逝ってしまったんです。
もちろん、悲しいですよ。まだ“彼女”は若い子なのに……。
うーちゃんも、娘を亡くしてからすっかり気落ちしてしまって。アミちゃんが必死に寄り添ってくれているので、なんとか持っている感じですね……」
ハルウララ号の左隣の馬房は今でも空いており、毎日誰も食べるものがいない飼い葉桶には新鮮な食事が入れられている。
そこは、かつて娘がいた馬房だった。
娘がいなくなってからめっきり老け込んだというハルウララ号は、毎日のルーティンとして自身の馬房から顔を出し、誰もいない左隣の馬房に優しく鳴き声をかけているという。
「以前、別の子をその馬房に入れたら、うーちゃんがものすごく怒ったんです。“そこはあの子の居場所だ”って言っているように思えて。だから今は空きにして、餌も置いてあるんです。餌が無いとうーちゃんが訴えてくるんですよ。“あの子のご飯が無いよ”って」
我々が取材に向かった時も、ハルウララ号は馬房から首を伸ばし、誰もいない左隣の馬房に向かって優しく嘶いていた。
まるで母親が寝坊した我が子を起こすような、そんな気持ちにさせる鳴き声。
そして、そんなハルウララ号を他のマーサファーム所属の馬達が気遣わしげに見つめている。ある意味異様な光景であった。
「あの子のお墓はこちらです」
マーサファームの敷地内に植えられた桜の木の下。そこに真新しい墓があった。
━━その桜は、咲く場所を選ばない。
“彼女”のヒーロー列伝にも書かれた言葉と馬名だけが刻まれたシンプルな墓。
一見静かに思えて、その実馬房までさほど離れていないため、嗎きや喧騒がよく聞こえてくる場所だ。 - 128二次元好きの匿名さん23/01/16(月) 08:19:42
ほしゅ
- 129二次元好きの匿名さん23/01/16(月) 11:02:29
もうすぐ終わりそうだな
- 130◆6aKqgv9Ekg23/01/16(月) 20:22:21
その墓に供えられた、綺麗な白い花束。
“彼女”が現役時代に付けていたメンコと同色のリボンが巻かれたその花束には、「帝王」の名前が書かれたメッセージカードが。
「つい昨日、いらっしゃったんですよ」
“ありがとうございました。空の上でも好きなだけ暴れてください”
「帝王」らしい言葉が書かれたその文字が、少しだけ滲んでいたのは気のせいではないだろう。
花束の他にも、人参や林檎、ガラスケースの中にはファンレターがぎっしりと納められており。……“彼女”がどれだけ愛されていたのかがよく分かる光景だった。
「最初は全然うーちゃんに似ていないって思っていたんですけどね。やっぱり一緒に暮らしていくうちに、ちょっとした仕草とか人参大好きなところとかがすごく似ていて、やっぱり親子なんだなぁ、って思いましたね」
━━そうかしら?母さんは「あの男に似てる」って言っていたけれど。
後ろから若い女の声が聞こえてきて、振り返る。
そこには誰もいない。馬房から出されたらしいハルウララ号が、我々の方を……否、娘が眠る墓を静かに見つめている。
……確かに、娘が存命であった頃に比べれば老け込んいると分かる。
━━あのおじいちゃんと笑顔が気に食わない人間に「無理はするな」って伝えておいてよね。
それが仕事なんでしょ、あんた達。
今度は正面から同じ声。
墓の方を向くと、……一瞬だけ気の強そうなピンクの髪を夜会巻きにしたウマ娘が見えた気がした。
持参した人参の籠盛りと花束を墓前に添え、⚪︎⚪︎氏に先導され、再び馬房の方へ向かう我々の背中に、また。
━━あら、気が利くじゃない。ありがと。
その声は我々の側を通り、強く吹いた風と共に空へと溶けていった。
おわり - 131◆6aKqgv9Ekg23/01/16(月) 20:23:43
という訳でラスト端折って無理矢理になりましたがやっと完結……!!
読んでいただいた方々、保守していただいた方、レスをくれた方、本当にありがとうございます!!! - 132二次元好きの匿名さん23/01/16(月) 20:32:23
完結お疲れ様でした
- 133◆6aKqgv9Ekg23/01/16(月) 21:09:43
この話の元は「ハルウララ有馬チャレンジにウララシナリオの出来事以外の理由があったら」と「ハルウララ唯一の娘がアグネスデジタルしたら面白くない?」と「メイセイオペラみたいな地方所属のまま中央勝ってほしい!」という脳内ネタでした。
安価・ダイスもそうですが、話の大まかな流れを決めるルーレットがこれまた鬼畜……ラストは幸せに母子で暮らしてるルートで下書きしていたので、まさかの早逝ルートに愕然としました…… - 134◆6aKqgv9Ekg23/01/16(月) 21:17:29
彼女の気性ダイスで100を当ててセントサイモンにしてしまったので見る影も無いですが、イメージしていた馬はニッポーテイオーやタマモクロスなどです。
母父繋がりで秋天、アプリのハルウララ繋がりで有馬を勝たせるのは予定していましたが、思いの外大井競馬場で頑張ってくれたのでいつ中央殴り込みができるのかとスレ主本人も焦りましたw
地方所属の時の主戦は「大井の帝王」で決まっており、中央もikze氏かユーガ氏で悩んでikze氏になりました。
口では嫌い嫌い言っていますし実際半分くらいは本気で嫌っていましたが、なんだかんだ盾をくれた“彼女”にikze氏は感謝しています。一生言わなさそうですけど。
「帝王」は完全におじいちゃんの気分で“彼女”に接していました。マーサファームで暮らすようになってからも暇を見ては遊びに行きましたし、亡くなった日も知らされてすぐ飛んで行って静かに“彼女”の顔や首を撫でていました。
“彼女”のお墓を建てたのも「帝王」です。 - 135◆6aKqgv9Ekg23/01/16(月) 21:28:20
また、“彼女”は気性セントサイモンの割にはファンが多かった設定です。というか周りがガンギマリクソデカ感情持ちが多すぎる……
引退後功労馬になったのは、怪我もありますが単に繁殖牝馬としてやっていけるか非常に怪しかったのも理由です。
なんせ父は骨董品通り越した化石血統、母ハルウララは良血ではありますが本人未勝利ですので……
実は父の関係者が「せめて一頭だけでも……」と粘って猛反発食らったという裏設定がありますw話の流れ上カットしましたが。
彼らもまた執念で父の血を繋いできたのですが、残念ながら“彼女”の引退直後に父死亡、後継者無しで血筋は断絶してしまいました。 - 136◆6aKqgv9Ekg23/01/16(月) 21:32:19
ハルウララ号は“彼女”をきちんと娘だと理解し、何かと世話をしたがりました。“彼女”は嫌がっていましたが次第に慣れたのか諦めたのか、最後の方は寧ろ母を顎で使っていた節があったようです。
この後のハルウララ号はアミちゃん達に支えられてなんとか生きていきます。
でも空っぽの左隣の馬房に挨拶しますしお水やご飯が置いてないとブチ切れますし外に出された時はずっと娘の墓が見える場所にいます。
最後に。こんな駄文スレを最後まで読んでいただきありがとうございます。
次はいつになるかわかりませんが、なんかネタがあれば遠慮なく投げてくださいw - 137二次元好きの匿名さん23/01/16(月) 21:50:17
お疲れ様です
現実小説が当て馬からオークス馬とかフラウンス配合G1とか白い砲弾とかやらかすせいで
こんな奇跡も通用しそうな気がするあたり競馬はロマンですね - 138二次元好きの匿名さん23/01/16(月) 21:52:47
おお・・・ブラヴォー・・・おおブラヴォー・・・ダイス神は悪い文明・・・