え゛っっ! たきなの京都時代の友達?!

  • 1二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 21:34:34

    SSスレだよ~

    注意

    ・オリキャラが出るよ
    ・13話の後、日本帰国後もリコリスやってるよ
    ・割とひどい目に遭うよ

  • 2二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 21:35:22

    「京都支部?」
    「ここは東京だよ? なんでったって関東の方に要請が来るのさ」

     リコリコの扉に揺れるClosedの文字。DAからの仕事内容を説明される際はいつもこうだ。
    まだ日が高いうちにこうなるとは、ちょっと厄介な仕事の雰囲気が二人の間に流れる。
     いつもの珈琲の香りに加えて整備油のものが辺りに混じっているかのようだ。
    「先方のご指名だ」
     ミカも釈然としない様子で端末の画面をいじる。ほぼ一方通行めいた下命のための回線につながる
    それには、確かに「井ノ上たきな」を指名していた。
    「マジで? なんで?」
     文章で直接示されたたきなよりも早く千束は訊く。

  • 3二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 21:38:50

    >>2

    「これ以上は教えてはもらえなかった。いつもの――」

    「機密ですね」

     たきなは物分かりがよい。依頼をその通り請ける。

     DAは支部に流す情報を多くの場合制限している。恐らくこれもそれのうちだろう。

     上層部からすれば駒には何も知らないで命令通りに動いてもらえればよいものなのだが、

    動く方としては意図が分かってからの方が柔軟に、かつ命令に備えられるのだが

    Neet-to-knowの原則がそれの邪魔をする。


    「クルミに頼んで経緯を探ってもらおうか、たきな」

     いくらなんでも怪しいだろうと千束は考え、ちらと奥座敷を見遣る。

     いつものようにゴーグルで視界を覆いながらゴロゴロとしているリスに頼めばおそらく文字通り、光の速さでサーバーにたどり着き、この計画書を気づかれずに盗み見ることはできるだろう。


    「私も、いくらたきなの古巣が京都だからとはいえ、直々にご指名なのは気になってな、千束も同行させることは了承させた。なに、依頼自体は簡単なものだ。京都に行って、指定の場所である荷物を受け取り、それを京都支部まで届けてくれればいいとのことだ」

  • 4二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 21:41:09

    >>3

    「やったー! 京都旅行だ~!!」

     その明るい千束の声は努めて出したものか、それともいつものものか。

    「嬉しいね、たきな!」

     千束の声に、たきなは

    「ええ、それにわざわざ指名されるなんて、わたしが必要とされているみたいでとっても嬉しいです」

    「もー、仕事の話かよ」

     バシっと千束はたきなの背中を叩いた。

     

     お泊りセットと千束が呼ぶものは常時リコリコ内に装備されているからすぐに出発できた。

    「千束、毎回大荷物ですよね? どうしてですか?」

     スーツケース一つだけを引きずるたきなに問われ、千束は胸を張って答える。

    「あのね? 乙女の旅行にはたくさんの洋服、化粧品、靴が必要なのよ? おわかり、たきなさん?」

     スーツケースを引きずるのは同じだが、左肩には大きなボストンバッグが提げられている千束。

    「でも任務は三日ですよね? 一日目が今日。現地合流、そこから支部へ受け渡し、三、四日目は休暇にしてよいとのことですから、私服なのはせいぜい三から四日目だけなのではないですか。ですから多く見積もっても、三着ほどあれば足りるかと」

     まあわたしは三日目以降も制服のつもりですけど――とたきなは付け加える。

    「えー寂しいじゃーん! せっかくの遠出だよ? 私なんて新幹線乗るのなんてほっとんど初めてなんだよ? ずっとDA本部にいたし、あとはずっとリコリコだから」


    「はいはい、最初から優秀なリコリス様はちがいますねっ……と」

    「あー! ったく言うようになったねぇたきな」

     言葉は文字面だけでなく、どのように言うかにも意味が乗る。今回のたきなの「それ」はとても柔らかで色鮮やかだった。

     二人はひそかに笑い、人ごみの多い駅を歩く。こうしていると本当にただの旅行を楽しむ女子高生のようにしか見えない。

     その引きずられたスーツケースの中に大量の弾丸と銃とが入っていると、だれが予想するだろうか?

  • 5二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 21:43:38

    >>4

     季節は夏。雲の輪郭がくっきり激しく、蝉の鳴き声が非常に煩い。

     そんな中で新幹線に乗るとより一層、天国のように感ぜられる。そんな風にたきなは思いながら窓の外を見る。未だ発車せざる新幹線の窓の外には駅があり、もっと奥を見るとこれから売り子でもやるつもりか? と尋ねる程に駅弁を抱え込んだ千束がいた。


     よたよたと足元を確認しながら、乗り込んできた千束は、よっしょ! と発して座席に駅弁を置いた。

     予めスーツケースとボストンバッグを車内に置いておいてよかったと嘆息しながらたきなの隣に座る。

    「またですか、千束。任務前に大量に食べると動けなくなりますよ?」

    「だいじょーぶ! これはたきなの分もあるから!」

     どさどさと五個分をテーブルを展開しながら並べる。


    「私は食べても一個ですよ。まったく……駅弁はそこらのコンビニ弁当よりも不合理に高くないですか?」

    「いーや、たきな君、駅弁ってのはだね、基本的に常温保存なのさ! だから消費期限が早い! だから廃棄率が高い! なので採算をとるためにちょっと高いのだ! つまり新鮮ってことなんだよ! 新鮮はおいしいでしょ?」

    「なる……ほど」

  • 6二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 21:46:03

    >>5

    千束にしてはしっかりとした理屈を用いて説得しようとしていることにたきなは少々戸惑う。

     てっきり、「おいしーからいーじゃん!」ぐらいの感覚で返してくるとは思っていたのだが。

     たきなはせっかくだからと、少々ブサイクな鳥の絵が描かれた赤い色の弁当を手に取る。それをくれた人物の色合いが赤色であることは――おそらく関係がない。


    「お! たきな、チキン弁当を取るとはやるね!」

    「有名なんですか?」

    「うん! 駅弁と言ったらこれだよね! 七十年ぐらい前からあるんだ! なんでも天皇も好きだったとかいうやつ~」

    「そうなんですね、唐揚げとチキンライスですからもうちょっと最近かと」

    「そー。でも意外だね、もうちょっと栄養バランスが整ったやつを選ぶかと思ってたけど」

    「……。揚げ物なのでよく火が通っていますから食中毒の危険性もないでしょうと思って」

     大粒のいくらが載った海鮮弁当を掻っ込む千束を前にしてそういうことを言ってしまうのがたきなである。

  • 7二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 21:53:01

    このレスは削除されています

  • 8二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 21:55:49

    >>6

    東京から京都へはだいたい二時間程度の旅だ。

    二人とも窓側の席に座って相対している。が、今起きているのはたきなだけ。

    窓枠に頬杖をついて、後ろに滑り落ちていく景色を眺めているだけ。


    たきなは、支部にいたころには東京は果てしなく遠く、そしてキラキラとした場所だと思っていた。

    今ではちょっと切符を買って静かにしていれば辿り着けるような、なんでもないとこだなと感慨に浸る。

    いかに自分の世界が狭かったかと、昔を思い出して苦笑する。


     たきなの正面に座る千束は早々に食べ終え、窓に寄りかかるようにして寝ていた。

     リコリスが電車移動する際には、二人であったとしても四人分は確保する習慣がある。

     正面に座った者が敵対者であるかもしれないのと、単純に荷物が多いからである。

     銃の入ったサッチェルバッグを前に抱えてぐっすりと眠っている千束をたきなはちらっと見る。

    「今撃ったら……流石に中るでしょうか?」

     そんなことを走行中の電車内でやる訳ないが、ふとそう考えて千束が放置していた駅弁のゴミから輪ゴムを一本取り出して、くるりと指鉄砲に装填した。

    「起きないと……撃っちゃいますよ?」

     千束の頬に触れる寸前で指を構える。

     輪ゴムを押さえる小指をじりじりと浮かして、輪ゴムが発射されるその瞬間、グラリと車内が揺れた。

  • 9二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 21:57:20

    >>8

     キキィィィと鉄と鉄が互いに削れ合う音が響く。

     たきなは咄嗟に前の座席に手をつく。

     短い悲鳴や呻き声が辺りから一斉に聞こえる。

    「ん……どしたのたきにゃ……」

     じゅるる、と涎を啜りながら千束がようやく目覚める。

     寝ぼけながらもサッチェルバッグの側面に手をやっているところは流石リコリスだ。

    「電車がいきなり停止してしまいました。妨害でしょうか?」

    「ぼーがい? マジ? なんで」

     千束は目をパチリと開けるが……。少し困ったように身じろぐ。


    「あと……ごめんたきな、近い」

    「あ、ご、ごめんなさい」

     さっき咄嗟に前面にある座席の背もたれに手をついてしまったので、千束との顔の距離が近くなる。

    確かに邪魔だろうと思ってたきなは引っ込む。

  • 10二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 21:58:32

    >>9

    千束とたきなを含む乗客が車内を見回している間に車内放送が響く。いささか焦った様子の運転手の早口だ。

     線路内に人が立ち入って、非常停止ボタンが扱われた、とのこと。暫く点検のため停車せざるを得ないことなどが続けて放送される。

     続けて待っていると、車掌が巡回してきて、乗客に説明をしながらけが人を探している。幸い二人が見る範囲には誰一人転倒した者すらいないようだ。


    「なんだー。ただの事故かー。よかったー爆弾とかじゃなくてね」

    「そうですね、まったく……時間通りにつかないといけないのに」

     たきなは少しイラっとしながら時間を確認する。

     こういう任務は時間厳守だ。引き渡される物が貴重品であれば、依頼人としては一秒でも早く自分の手元から離したいと願うものなのだ。

     千束はミカに状況を連絡する――正確には千束の横で書くべき内容をたきなが喋っているのだが。

     結局、ミカ経由で遅刻を依頼人に伝えることになった。すぐに先方からの回答が来たようで、それでも構わないそうだ。

    「ま、こんなに長く閉じ込められるのが分かってたらもっとお弁当買っとくんだったなー」

     かれこれ三十分は待たされているだろうか? どんなに焦っても文句を言っても走らないものは仕方がない。千束はもはや観念してもう一寝入りするつもりで目を閉じる。

    「暢気ですね……」

     数秒でぐっすり寝落ちられるのは戦闘員として非常に優れた資質であることは理解しているが、それでもたきなは基本的に起きて周囲を警戒する方だ。

     ようやく、一時間経ったころに運転が再開される。

     ぐっと背中に重さを感じる。ビルや民家が後ろに吸い込まれていく。

  • 11二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 22:07:20

    とりあえず10まで!

  • 12二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 22:09:36

    >>1

    >わりとひどい目に合うよ

    誰が!?

  • 13二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 22:10:21

    >>12

    まあ、そこはワクワクしながら見ようや

    続き待ってる

  • 14二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 22:30:15

    楽しみにしてるで

  • 15二次元好きの匿名さん23/01/07(土) 22:45:22

    みんな楽しみにしてくれて嬉しいな~

    >>10

    「京都だよたきな!!! 京都どすえ!!」

     さっきまであんなに静かに眠っていたと思ったらもう元気十分な千束は駅に着く早々ハシャギ回っている。

     うわーあれなにー? などと取り留めのない質問をたきなに投げるが、あまり返ってくることはない。

    「はいはい、京都ですよ」

     依頼先のメモを見ながらタクシー乗り場を探すたきな。

    「あれが京都タワーってやつ? うひょー! 旧電波塔や延空木よりは高くないね」

     駅から見えるそれは、真っ白で真っすぐ。途中から折れたり曲がったり、歪んだりはしていない。

     それだけでこの地域の治安は比較的に良いことが推察される。尤も、東京のそれが最悪なだけなのだろうが。

    「千束、タクシー来ましたよ」

    「あっ、お土産買ってるのにーっ」

     たきなが目を離している隙に、千束はいつの間にか紙袋を増やしている。

    「はぁ……お土産なら後ででもいいじゃないですか、ほら指定の場所に行かないと」

    「うぅーーわかったよーー、あ、ありがとねおばちゃん! また来る!」

     ちゃっかりおまけを貰っているようで、それもいそいそと紙袋に仕舞い、その紙袋自体もぐるりと巻いて、ボストンバッグに放り込む。

  • 16二次元好きの匿名さん23/01/08(日) 00:09:34

    ワクワクしながら待っとるわ

  • 17二次元好きの匿名さん23/01/08(日) 08:26:21

    楽しみに待ってるよー

  • 18二次元好きの匿名さん23/01/08(日) 09:08:29

    >>15

    タクシーに乗り込むとたきなは画面を千束に示しながらこれからの予定を話す――が、このタクシーは八咫烏印ではないから詳細は詰められない。そのことに若干不便さを感じる。

    「取り敢えず一旦ホテルに寄って、荷物を置いていきましょう」

    「はーい」

    「もう食べてるんですね……」

    「たきなも食べるぅ?」

    「後で頂きますね、ほらもう着きますよ」

    「えっ、早っっ」

    「わたしの説明何も聞いてないじゃないですか……」

    「いやっっ? えっ二人でホテルに行くってのはきいてた!」

     とても誤解を呼びそうなセリフ。たきなは特に気にはしない。

    「合ってますね。詳しくはそこで話しましょう」


    「あ、たきな、ちょっと銃の調子見てっていい?」

    「どうしたんですか? 千束。珍しいですね?」

    「んーなんか初めて来る所だからね。ちょぃっと心配なのさー」

     スーツケースを部屋に入れて、弾薬を多めに鞄に詰め込んでさっさと出ていこうとするたきなを制する千束。たきなはちらっと腕時計を見て「あまり遅れないでくださいよ」と部屋の中に放つ。

     一時間半も予定がずれているのだ、五分程度はもう誤差の範囲だろうとは思いつつ、きちんと制しておかないと昼寝し始めてしまいそうだと、たきなの経験則が告げている。

    「よっしょ、よっしょ、流石に電車内では出せないもんね」

     特徴的な、棘のある制退器を銃口に着けた千束の半身とも言っていいそれは、手早くバラされ点検される。バリや歪み、焦げや焼き付きなどもないことが確認される。

    弾倉に装填されている――彼女の目と同じ色の特製の弾丸。彼女が彼女たるを示すそれにも特に異常は見られない。

    「よしっ! いいでしょう! 待たせてごめんね、たきな」

     パチンパチンと嵌合され摺動され元の姿に戻り、安全装置が掛けられ、鞄に仕舞われる。

  • 19二次元好きの匿名さん23/01/08(日) 09:09:34

    >>18

    「かなり普通でしたね、廃ビルかと思ってましたが」

    「まあ怪しい依頼主じゃなくてよかったじゃないの」

    「そうですね、なんかお土産ももらっちゃいましたし、リコリスを動員するの結構慣れてるんですかね」


     依頼主とはかなり綺麗な京都のホテルのロビーで相対した。上品な身なりをした貴婦人――と言ってもいい女性が恭しくも親しみやすい様子で礼をしてきて、二人は一瞬困惑した。

     人目のある場所での取引は一見、危険かと思われるかもしれないが、警備の行き届いている場所であるので案外頼りにされているものなのだ。ただ、リコリスを使うようなものだと珍しい。

    「ウォール」

    「ナット」

     ふざけたような会話が最初口頭でなされる。

     これは合言葉、取引を行う相手だと同定するためのセキュリティ。

     適合すると、女性は満足そうに微笑み段ボールを指で示す。

    「ぱ、パソコンですか?」

     パソコンの絵が表面に印刷されている取っ手付きの薄型段ボールが今回の品物らしい。

     思わず千束は口に出してしまうが、女性はふふ、と笑って一番上のふたを開ける。

    「なるほど、カバー(偽装)ですね」

     中身は黒革のアタッシュケースだ。

     そのまま貴婦人の隣の執事といった風情の男性から受け取る。見た目に反して非常に重量感がある。革で包まれてはいるが、中身は強化金属かプラスチックだろう。丁度リコリスの背負わされている鞄と同じような意味合いだ。

    「申し訳ないが、腕にこれで巻いて頂きたい」

     よく見ると、アタッシュケースの取っ手に金属のワイヤが巻かれていた。それを運搬者の手首に巻いてほしいのだろう。

     二人は一瞬顔を見合わせるが、たきながその責を負うことにした。

     千束は荷物の護衛の任務に就かせた方が都合がよい。両手を自由にしながら戦う方が二人の真価は発揮されるというもの。

     車を用意してくれるとのことで非常に便利極まりない。

     ――そんなにしてくれるなら、自分で行けばいいのでは? と疑念を抱かないではなかったが、あちら側にも事情はあるのだ。

  • 20二次元好きの匿名さん23/01/08(日) 10:53:50

    >>19

     こういう車は黒の高級車が相場――ではあるのだが予想に相反して京都市内をよく走っている普通のタクシーだった。

    「かーなーり徹底してるね」

    「ええ、なんなのかは知らされていないですが、私たちリコリコに頼まれる物の中ではわりと……」

    「すぅぱぁかぁーがよかったなあ~」

     タクシーん運転手も十中八九あの女性の仲間だろうと踏んではいたが、それでもあまり外で依頼内容などについて話すべきではない。

     たきなはぎゅっと預かったケースの取っ手を握る。

     

     タクシーから眺める景色は次第にたきなの見覚えがあるようなものに変わっていく。

     千束も後部座席に並んで座っているが、たきなに話しかけない。それは彼女の気持ちを慮ってかどうかは……わからないが。

    「山道だねぇ」

     やっとのことで絞り出したかのように千束が言う。

    「そう……ですね」

     もう一時間以上は経っている。ビル群は消え、辺りは森林へと姿を変える。

    「鹿とか出るんでしょ?」

    「それは奈良です」

    「ほえっ、そうだっけ?」

     ぽつぽつと雨がタクシーの窓を叩き始める。

     ざぁぁぁという音に変っていくが、また十分もしないうちに雨も上がっていく。季節は夏、不安定な天気で足止めも食らう。

  • 21二次元好きの匿名さん23/01/08(日) 10:59:53

    >>20

     やたらと大きな山門が見えてきた。苔とか生えてるけど大丈夫かな? と千束は内心疑義を抱く。

     分厚い板と、人の胴体程ある柱が意外なほど軽快に自動で開き、車を迎え入れる。

    「うーわ、すげえ」

      門の中に入ったのにも関わらず速度を余り落とさない車、建物はもっと向こうにあるようだ。

    「行きますよ、千束」

    「え、おお」


     停車する数秒前にたきなが予告する。

     まだ何も建物は見えてない場所で降ろされる。

     少し開けただけの野原だ。

     夕方になったとはいえ、こんなに見通しが悪いものだろうか? いや、霧だ。霧のせいなのだろう。

     さっきまで雨が降っていたからなおさらだ。

     

     千束が感じたのは空気の清浄さだ。肌を囲む外気が降雨があったのにもかかわらず湿っぽくなく、臭くもなく自分の感覚を鋭敏にしてくれるようなそんな錯覚を抱く。

     東京にも緑はあるが、こんなに背の高い木々に囲まれた経験はそうそうあるわけでもない。


    「たきな、ひさしぶりやなぁ」

     いつの間にか、それはいた。感覚鋭敏な千束が、そして先ほどまでそれが研ぎ澄まされているような予感に浸っていた千束が気付かないぐらいの唐突な現れ方だった。

     ただ、敵ではない。その声の主もリコリスの、2ndの服を着ていたからだ。

     千束は咄嗟に鞄に掛けた右手を気づかれないように下げる。

    「気配を消さないで下さいといつも言っているでしょう?」

    「ごめんなぁ、クセになってんだ、気配殺して動くの」

    「クラ……ピカ?」


    「おっ、そちらのファーストさんは分かってくれはるんか。こんにちは、私、たきなの彼女の滝川はやせです、よろしぅおねがいします」

     にこっと泣き黒子がついた目尻を下げるように笑い、右手を差し出してくる。――武器の不携帯。少なくとも今すぐには殺さないという意思を端的に伝えるその儀礼。


    「な……! なにっ」

     しかし、千束の表情は固まる、目は見開かれ、差し出された右手に返礼をすることもできない。

  • 22二次元好きの匿名さん23/01/08(日) 11:43:31

    なん…だと…

  • 23二次元好きの匿名さん23/01/08(日) 12:25:58

    >>21

    「千束、冗談です。はやせ、そういうこと言うのはやめてっていってるでしょう?」

    「えー? たきなはいけずやなぁ、あの熱い夜のこと忘れてしもたん? 私に飽きてしもたん?」

     少しばかりたきなより低い身長を生かして覗き込むように上目遣いで蠱惑的な台詞を吐く。

    「どのことを言ぅとるんかわからんな。あと飽きたとかやないやろ」

     それに反応しないように目を横に逸らして精一杯冷たい声を出すたきな。


     どのこと……? え、たきな、思い当たる節がたくさんあるってことなの?

     と千束は固まる、というかさっきから解れてはいない。

    「えーへへ、ごめんなぁ、この人絶対たきなのこと好きやと思って、また誑し込んだんかと。なに新しい相棒?」

     千束の表情を見てケラケラと笑いながらはやせは謝っている。

    「そうや、今日はなんかご指名でこちらに来ただけなのですぐに戻りますが」

    「あら残念やなぁ、ここから出て東京に行ったと思ったら左遷させたちゅうふうに聞いてびっくりしたんえ? したら東京でリコリスの存在がバラされてしもて、まあどうなるやらと思ぅとったんや。こんなふうに元気してる姿見られて私は果報者や、君影草の連中が出よってからに、一時はどうなることかと」


    「千束……あのちょっと待っててください」

     たきなは千束をその場に取り残し、はやせと共にその場を離れる。

     正確にははやせの襟首を掴んで引きずり往ったという方が近い。

    「んまぁ、たきなったら強ぅ引~」

     引きずられながらもニヤニヤとした表情を忘れない。

     離れるといっても、十歩程度離れたところでしかないが。

    「……彼女……かぁ」

     千束は先ほどの冗談を口に戻して呟く。

     凄い親しげだったし、たきなも嫌がってなかったし、というか、彼女って言ってた……。それに……ここはたきなの故郷だ。私より付き合いが長い人が一杯いるんだ……。

     たきなが服を掴むなんて乱暴な真似をするなんて、私だってそんなことされたこと……。

     そういう言葉が脳内をぐるぐると巡回してそのたびに膨れていく。

  • 24二次元好きの匿名さん23/01/08(日) 12:51:47

    なんや不穏

  • 25二次元好きの匿名さん23/01/08(日) 14:23:06

    8話で後ろ首掴まれてた千束さん
    とはいえ他の人にはしてほしくないよね

  • 26二次元好きの匿名さん23/01/08(日) 19:18:24

    >>23

    「千束、いきますよ」

    「あ、うん! 待って!」

     たきなを追いかけてその霧の中を進んでいく。

    「ここ、危険ですから離れないでください」

     不意にたきなに手を握られる。それがまた千束の気持ちをモヤつかせるものだと、たきなは気づかない。

    「ここなぁ、改めて思うと不便極まりないなぁ、いちいち迎えが必要なんやから」

     よいしょ、よいしょと石段を登っていく。深い霧の所為で数歩先すら覚束ない。

    「助かりました。まさかはやせが来るとは思いませんでしたけどね」

    「いや、私が志願したんえ、そら久しぶりに会えると思たらね」

    「ありがとうございます」


     支部の中でも生体認証でよいとは、千束にとってはちょっとした感動であった。

     自分のデータが少なくともDAの中では共通して保存されているということ、つまり疑似的な「戸籍」のようなものが自分にもあるんだ、という感動である。

     千束はよく把握していないが、確かに彼女らの登録情報は「花籍」とも呼ばれているからあながち間違いではない。

  • 27二次元好きの匿名さん23/01/08(日) 19:20:39

    >>26

    「京都支部、流石京都って感じだ! 床とか木だよ!」

     広々とした空間は役所然とはしていない。木造建築に奥の方には日本庭園風の何かが見える。

     写真撮りたいけど、機密だしなあと千束は悶える。後で観光に行ったときに発散しようと決める。

    「あら、東京の方は違うん?」

    「つまらないコンクリートだよ、あ、そういえば結局自己紹介がまだだったね! 私はたきなの相棒の錦木千束でぇす! 齢は18! 君は?」

     相棒の! というところを目いっぱい強調して主張する。

    「私は滝川はやせ、ってさっき言ったか。ここの2ndで、年齢は16。たきなの相棒にして妹なの、よろしくね?」

     が、微笑まれながら流されるように見える。さらには「妹」というある意味相棒よりも強い絆や縁を彷彿とさせる単語で返してくるはやせに一瞬千束でさえもたじろぐ。


    「うぉーー妹……確かに見える。16で2ndなの優秀なんだね! たきなもそうだった!」

     さっき彼女って言ってたのに今度は妹か。

     まあ、リコリスは基本的に肉親などいないから「妹分」を名乗ってるんだなと千束は受け取る。

     ただ、張り合っているようでも、あまり不快感を与えないはやせに好感を抱いてしまう。

     たきなに対しての純粋な好意。それを共有している人間として好ましく思えた。

  • 28二次元好きの匿名さん23/01/08(日) 19:22:01

    >>27

    「7歳から1stやってる方に言われるなんて皮肉っぽいですわ~もしかして千束さんも京のお人?」

    「うぉ、そういう意味じゃないよ! 私のことは千束でいいからね!」

    「ありがとうごさいます、千束。あ、千束お姉ちゃんの方がいいかしらね?」

    「うぉっ、それも捨てがたい……!」

     そしてこのような当意即妙な会話というのにも千束はある種の心地よさを感じる。

    元々千束の好んでいる映画もこういったチクチク突き合うような応酬が良くされていて、少し憧れてはいたものの、周囲にそれが出来る人がおらず、出来ることにある意味感動を覚えていた。


     はやせの特徴はその綺麗な黒髪である。たきなのような長いものではなく、顎ぐらいまでのふんわりとした短髪。

    身長も少しばかりたきなより低い。肌の色も透き通るように白くきめ細やか。

    並べてみると確かに姉妹のように見える。

    「はいはい……二人ともそこまでにして」

     たきなは一人で受付に向かう。

  • 29二次元好きの匿名さん23/01/08(日) 19:45:25

    いいテンポで続きが楽しみだがひどい目にあうのが怖い…

  • 30二次元好きの匿名さん23/01/08(日) 21:39:07

    >>28

    ――……


    「たきなぁ……うー」

     千束とたきなは別室で囚われている。後ろ手に手錠が掛けられ、冷たい床に寝転がらされている。

     先ほどまで、東京から来た優秀なリコリスとして扱われていたはずなのに、今じゃただの囚人のようだ。

    「尋問しますか? 仮にもリコリスですよ」

     事務官らしき女性が檻の外で千束を見下ろしながらどこかに電話を掛けている。二言、三言、言葉が交わされると女性は通話を切って再び千束に訊ねる。


    「本当にただ受け取っただけなんですね?」

    「そうだって言ってるじゃんかー!! もう放してよー! たきなはどうしてんだよー!」

    「……わかりました。錦木千束。しばらくはここにいてもらいます。たきなからも別室で事情を聞いているところですが」

    「たきなだって何も知らないよ!! ここに持ってきただけなんだから!」

    「また来ますからね」

     事務官は答えず、千束の前から姿を消した。

  • 31二次元好きの匿名さん23/01/08(日) 21:47:08

    このレスは削除されています

  • 32二次元好きの匿名さん23/01/08(日) 21:48:53

    >>30

    「井ノ上たきな、久しぶりに会ったと思えば、こんなふざけた真似をしてくれるとはな」

    「わたしは何も知りません。ただ京都の命令に従っただけです」

    「東京のDAは知らんが、京都には自殺願望なんかない」

     冷たい鉄のような声がたきなに降る。たきなは千束とは違って椅子に縛り付けられていた。

     椅子は厚い鉄の部品にてコンクリートの床にねじ込められていて、びくともしなさそうだ。

    「このケースを持ってきたのはお前だな? これをその『依頼人』から受け取ったと」

    「そうです! あの依頼人からケーブルワイヤーを手首に繋がれて以降、わたしが目を離すことなんてありえません!」

    「つまり荷物に関しては全責任はお前にあるということだな? 井ノ上たきな」

    「――っ! クソ、卑怯者!」

    「仮にもお前の上層部に対してなんという口のきき方だ。東はやはり野蛮さが抜けないかね」

     フン、と鼻に抜けるような声を出して尋問者は天井を仰ぐ。

     灰色のコンクリートに寒々しい蛍光灯。先ほどの地上階とは大違いだ。


    「それにしても大それたことをしてくれたよ、ここに爆弾を持ってくるとはね」

  • 33二次元好きの匿名さん23/01/08(日) 21:53:04

    東西の内輪揉めに巻き込まれてて可哀想...
    嵌められましたねこれは

  • 34二次元好きの匿名さん23/01/08(日) 21:53:59

    これこのあと京都支部壊滅させられない?殺しの天才とウォールナットの手で

  • 35二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 01:15:09

    >>32

    「……っ千束、大丈夫?」

    「たきな? あ、はやせか……」

    「がっかりさせてごめんね? 私もここそんな長く居れん」

     囁くような声。千束の閉じ込められている檻というか牢の前には監視カメラが付けられていてあまり近寄るとはやせまで写ってしまう。少し遠くからの会話になる。

    「私もこれはなんかの間違いやと思う。まさかたきながここを爆破させようなんて考えるわけないもん」

    「だよね……! よかった、中にも味方がいてー」

    「んー。私はたきなを信じてる。勿論、たきなの相棒も悪い奴なんかおらんと思ってるから」

    「ありがとぉ……はやせぇ……」

    地獄で仏を見た気分だ、と千束は少しばかり安堵する。


    「でもな、ちょっと私はもう二人の処遇についてどうすることもできひん。上層部には逆らえんよ……」

     ぽつりぽつりと申し訳なさそうに言う。千束だってはやせに抗弁してもどうしようもないことぐらいわかってる。

    「そーだよねえ……」

     とだけ言ってこの場を収める。激高したって話相手や味方が減るだけだ。

    「二人は依頼された荷物をここに持ってきただけなんよね?」

    「そうそう。ホテルでね。別人じゃないと思う。合言葉はちゃんと言ってた。んで、荷物からも一回も離れてない。手首に繋いでたし」

    「手首に繋いでたのは見た。そか、じゃあ二人がすり替えるタイミングなんかないわな」

    「でしょ? それに、なんでたきなと私が離れ離れにならなきゃいけないんだよー」

    「尋問はバラバラでしょ? 常識やん」

    「そうだけどさぁー!」

    「上層部はたきなが荷物をすり替えて、機密情報を第三者に引き渡したばかりか、あろうことか京都DAを攻撃しようとした極悪大罪人としてみてるんや。んで、千束はその共犯」

    「なんで……? いやマジで理解できない。たきながそんなことする動機なんかないじゃん。しかも今回の仕事は京都DAからの直接のなんだよ?」

    「仕事に乗じて……みたいな風に『作ってる』んだと思う。動機は……わからん。東京へは栄転やったはずやろ? 京都に恨みも思い入れもなんもないわ」

     寂しいけどね? とはやせは付け足す。

  • 36二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 06:26:16

  • 37二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 12:15:53

    >>35

    「作ってって……クソ」

     不都合な事件にカバーを掛ける。そんな組織の一員だと千束は自覚してしまい、吐き気を催す。

    「たきなの様子、見に行きたいんやけど、もっと厳重なところに行ってるみたいや。私じゃ入れんよ」

    「ごめんね、はやせ。一人でも味方がいてくれるの、とっても心強い」

    「いいんや、もうそろ戻らなきゃ。何かわかったらまた来る」

     はやせは周囲を伺いながら、トトトと階段を上がっていく。

     

     リコリスの階級は、触れられる情報にも適用される。3rdまでは取り扱い注意のものに、2ndからは機密。1stなれば特別機密といった風に。尤も、リコリスの存在自体が公開されてはいけないものなのだから大して意味はない。そして、現場要員のリコリスである限り、司令室の情報はほぼ触れられない。

     たきなはその司令室に閉じ込められているらしい。

    「2ndのはやせが触れられないところにある……ってことは司令室か、こりゃ大ごとだ……まあそんなの最初から分かってたけどな」

     千束は目を閉じる。「分からない」という情報によって分かる事柄があるのだ。

  • 38二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 12:18:01

    >>37

    「たきな大丈夫かなあ……」

     頭から血を流しながらも格闘して相手を圧倒できるたきななのだ、ちょっとやそっとのごうも……尋問ではびくともしないはずだという無邪気な信頼はあるが、それでも気になる。

    「拷問官の方が死んでたりして……なーんちゃって」

     ごろり、と天井を向く。手錠ぐらい外してくれねえかなぁと不満に思いながらも寝方を探る。それぐらいしかやることはない。


    ――……


     遡ること一時間前、京都DAの司令直々に会いたい、荷物を受け取りたいとの申し出に、千束とたきなは部屋に通された。

     楠木司令のものとはどこか違う、モダンな部屋に大きな机。窓際には一輪挿しに花が揺れている。

    「久しぶりやなぁ、たきな。元気しとるか。東京の方ではリコリスの存在が危うく公になってしまうところやったな」

     五十代、とは聞いていたがどう見ても三十代程度で姿かたちが変わっていないその司令はたきなと千束を交互に見て微笑む。管理職にありがちな「硬さ」や「武張った威厳」というのが殆ど仕舞われている。

    「はい、私は元気です。司令もお変わりないようで何よりです」

    「自分、丸ぅなったなあ」

     司令にそう指摘されてキョトンとするたきな。

    「前やったら、『そっちもお変わりなくて~』なんて言わんかったやろ」

     ニコニコしながらソファを勧め、「あ、ちょっと待ってな」とパタパタと部屋の隅に向かう。

     紅茶を淹れるのが趣味なようで、様々な道具を慣れた手つきで使い、二人に振舞う。

     広い執務室内に温かな紅茶の香りが広がる。普段は珈琲ばかりの二人にはとても新鮮なものだ。

  • 39二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 14:06:28

    >>38

    「で、こちらがたきなのイマカノかいね」

    「ブッッ」

     千束は口に含んだ紅茶を思わず吹く。

    「まったく、冗談ばっかり言いますね、ふふっ」

    「たきなを笑わせられるようになったっちゅーことは私の腕も上がったってことでよろしいかな? それとも、千束のお陰かな?」

     ちら、とたきなの横に座る千束に視線を移す。思わず吹いてしまった紅茶をハンカチで焦って拭っている。

    「そうです。わたしを変えてくれたのは千束です。千束のお陰です」

    「そかそか、いい出会いがあったんやな、東京に赴任早々左遷されるぅ聞いて、どうしたんかと心配してたんえ」

    「まあ……あれは少し行き違いで……。現場指揮官とも仲直りできましたし」

    「ん、てことはDAに戻ったんか?」

    「いえ、まだリコリコで学んでいる最中です」

     ん? という疑問が司令の頭に浮かんだんだろう。しかし、それもまた彼女は吹き消した。


    「よかった。で、届けてくれたんやろ、重かったやろ」

    「ええ、中身は確認せよとも言われてませんし、そもそも何なのかも……」

    「それでええ、知らなくてもいいことはいっぱいあるもんや」

     先ほどの柔らかい雰囲気が一瞬消えた。

     たきなもいすまいを整える。指定された番号で腕のケーブルを取り去り、ケースを司令に渡す。

     ありがとうな、と司令は言い。ケースを持って奥に引っ込む。

  • 40二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 14:10:13

    >>39

    司令室は二つに分かれていて、先ほど通されて紅茶を飲んでいた前室、そして奥にある資料室。

     奥に引っ込むとなると、その資料室になる。恐らく中身は特別機密の書類で――ハッカーの影響を受けることを嫌って和紙に機械式のタイプライターで文字を刻んだ物で、手渡しにされるようなものなのだろうとたきなは予想しながら紅茶を飲む。


    ジリリリリリリ!!!! 

     けたたましいサイレンが鳴る。

     暢気に紅茶を啜っていた千束もあわててカップを置き、銃を出して構える。

    「なにっなにっ? なにっ?」

    「私にもわかりません、その前に司令が!」

     銃を構えながら脱兎のごとく資料室に駆け出し、扉を蹴破る。

    「大丈夫ですか!!!」

    「たきな! 来るな!! 来たらあかん!!」

    「何を!」

     たきなは目を疑う。今しがた自分が届けたケースが開かれている。その中には小型の包みと箱。

    「C4や!」


     司令は入口近くのたきなにタックルをかまし、外に吹っ飛ばす。自身も外に転がり出ると鈍重な扉を乱暴に叩き閉めて三人とも司令室から退避する。

     司令は携帯電話で爆発物処理班を呼ぶ。その間に二人はその階にある部屋の扉を片っ端から叩き避難を指示。一時すべてのリコリス、職員が外に避難する。避難を呼びかけて回った二人は、一番最後に近いぐらいに建物の外に出る。

    「そっちはいまどうや? あ、止まったか、よかった。ん、凍らせておいて分析班に、ん、わかった。ほなな」

     冷静に建物内と交信している司令。片耳で盗むとどうやら大事ないようではある。

    「たきなぁ……なんなのこれ一体……」

    「わたしにもわかりませんよ……あ、そうだ店長に連絡しないと、変ですよこれ」

    「あ、そうだよね。先生がこんなことお願いするわけないじゃん。何かの間違いだよ」

     たきなが千束から携帯を受け取ろうとするその瞬間。銃を抜いた複数の職員に取り囲まれる。

    「錦木千束、井ノ上たきな。両名は司令殺害未遂にて話を聞かせてもらう」

     千束はムっとしながらも両手を挙げた。ここで職員を全員ボコボコにするのは容易いが……。

     外に集まっているリコリスの大群には流石に勝てそうもない。いつの間にか全員の手には銃が握られ、千束の圧倒的な視力によって、安全装置がすべて外されていることがわかる。そしてそれを握る全員目が殺気立っていることも。

  • 41二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 15:34:46

    誰が何のために…

  • 42二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 19:56:19

    >>40

    ――……


    「よっす、千束」

    「んぁーはやせー。また来てくれたのぉ」

     出会って数時間も経っていないのに二人の間は気安い会話が交わされる。

     転がされた千束はクルりと檻の方を向く。


    「ご飯ぐらいは出してもいいってことやし。ゆっくり食べてください」

     配膳係を買って出たようで、檻の下の差込口から膳を入れる。

     ……スプーンが用意されてはいるが、千束はまだ後ろ手を手錠で拘束されたままだ。

     虜囚に対しても米、主菜、副菜、汁物、香の物、そして茶が用意されるのは流石京都というものか、しかし、拘束された人間にはむしろパンの方がありがたいともいえる。這いつくばって食べるには。

     これは、むしろ一流の嫌がらせのように千束の目にはうつる。


    「……無理っぽいな。ちょっと待ってて」

     はやせは入口の方に駆けていき、一言二言看守と会話すると……。

    「ごめん、千束。手錠の鍵は貰えんかった。その代わり私が食わせてもいいっちゅうことになったんやけど……」

    「うへぇ……マジかよ」

     なんでそんなに厳重なんだよ、と不満を抱かざるを得ない。

     でも背に腹は代えられないというか、なんというか。冷たい床で転がっていると体力も奪われる。

    ここははやせに頼るしかないだろう。

  • 43二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 20:00:04

    場合によってはキレた狂犬と最強のリコリスと元教官とウォールナットと元情報部が京都支部に襲いかかるのか...ひえ

  • 44二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 20:01:35

    たきなは…たきなは無事なんですよね?

  • 45二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 20:03:19

    >>42

    「うー。たきなの様子はやっぱりまだ見られない?」

    「まだ……解放されてへんのよ。司令室の階にはまだ許可されてない人は誰も入れん……はいあーん」

     黙って首を横に振りながら、木の匙を千束の口に運ぶ。


    「うー! たきなは無実なのに!」

     猛抗議をしながらもしっかりと汁を啜る。あ、本当に薄いんだ、などと間の抜けた感想を抱く。

    「あれはリリベル送りになる……かもしれん……」

    「は? だから無実だって言ってんじゃん!」


     千束は、はやせの悲痛な顔に気づく。

    「……ごめん、はやせは何も悪くないのに」

     何も悪くない人間に酷いことをする人間に対して怒っていた自分も、今同じことをしてしまった。

     ぐっと口の奥がつるように痛む。

    「きにせんで……。司令もたきなはそんなことするような奴じゃないってわかってるはず。今は、他のリコリスから遠ざけてる……んだと思う」

    「遠ざけてる?」

    「ここの司令は優しいからな、お母ちゃんみたいにみんなに慕われてんねん、だから……それを傷つけるような奴は許されへんの」

     ああ、と先ほど感じた殺気を思い出す。あれか。一つの支部には百名以上のリコリスがいる。あれが一斉に同じような殺意を抱くのは最強の名を欲しいままにしている千束でさえ生命の危機を感じた。

     今でも思い出すとゾクっと身震いする。


    「司令は……優しいんや。こんなとこでこんな仕事してるのがおかしいぐらいにな。任務で死んだリコリスの名前をみんな覚えてはる。仲間大事にっちゅうてな。毎日慰霊碑にお花あげてるのも知ってる。――司令は隠すけどな」

    「……そんな人に弁護されてるなら、みんな分かってくれるはずだよね……すぐに解放されるよね?」

    「司令はそうしたいんやと思う。でも実際爆弾出てきてしもたんでしょ? これがもうどうしようもない証拠になってしまう」

    「それは……そうだけど。それは! あの取引した人がそもそもそういう目的で私たちを使ったんだよ! 

    うちに優秀なハッカーがいるの! 調べてもらえば足取りが分かるって!」

    「それは有益な情報なんやけど、こればっかりは私には……でも言えるタイミングあったら絶対言うから!」

    「ううう……ここから早く出してほしい。つーか取り調べもう一度受けたい。先生と連絡させてほしい」

    「私たちには弁護士をつける権利もないもんなぁ」

     はぁ……と二人してため息を吐く。

  • 46二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 20:07:31

    しれっとクルミの存在バラされかけてて草

  • 47二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 20:18:52

    >>45

    「いい加減吐いたらどうだ?」

     口に太いホースが突っ込まれ、延々と冷たい水道水が喉を通って直接胃に流し込まれる。

     むせることすら、今のたきなにはできない。

     頭を押さえて水槽に突っ込むよりも拷問官に疲労が溜まらない、非常に合理的な方法。嘗てのたきなが好んで犯罪者にやっていたこと。

     体を丈夫な肘掛椅子に固定され、その椅子自体も床に釘付けにされている現状ではもう逃げ場はない。

    「違う! 違う!」

     吐け、とは彼らが期待した言葉だろうか? それとも胃の中身だろうか? 後者はもう既に床に、制服にぶちまけられていた。

    ケチャップライスの赤色が彼女の白い襟に薄く残る。午前中に千束と向かい合って食べたそれらはもう、彼女の中にはない。


    「どこですり替えた? どこに売った? すり替えるだけならまだしも、なぜ司令を、DAを爆破しようとした」

    「何もしてない! 本当や!」

     たきなの長い髪は濡れて彼女の顔を隠す。目に掛る髪を払う自由すら彼女にはない。

    「正直に言え」

    「知らん!」

     いつもの冷静さは水に溶けて流れて行ったのか、もはやホースの先を見せつけられるだけで表情が歪む。

    「……なら仕方ないな、もう一人の方に訊くしかない。最強のリコリスといえど、尋問された経験はないはずだ」

    「千束は何もしらない! 京都に何も縁もゆかりもないから!」 

     しわがれた、掠れた声で猛然と抗議するが、それも拷問官の罠。

    「千束『は』何もしらないか、ならお前は何か知っているということだな、井ノ上たきな」

    「そんな!」

  • 48二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 20:19:22

    >>47

    こんなものはただの詭弁だ。しかし今の彼女に対抗する術はない。

     再び水圧を高められ、たきなは陸上で溺死の感覚を味わう。吐くたびに胃液が流れたが、もはやそれらは出尽くし、ほぼ水しか返ってこない。

     焦れた拷問官はたきなの細く整った鼻を指で抓んで押さえつけホースを口に咥えさせながら水圧を徐々に上げていく。吐瀉物が口から外に出ていくことも出来ずに食道をぐるぐると巡る。

     唯一呼吸口となっていた鼻が閉じられては最早涙しか出てくることはない。


    「わたしは……なにもやってないんです……信じて……」

     狂犬と恐れられたたきながここまで涙を流しながら弱弱しく否定するほどの威力を持ちながら体にまったく傷跡を残さない優れた方法。特別な道具も要らず、体力も使わず、情報だけを手に入れられる。が、それは相手が真犯人の場合のみだが。

     ピピ、とタイマーが鳴る。拷問官はホースを仕舞うと部屋から出ていく。

     脇に控えていた助手がすぐさまたきなの顔を乾いたふかふかのタオルで拭う。

    「いい警官と悪い警官ですか……舐めた真似を」

     吐き捨てるようにたきなは言う。助手は何も言わずにたきなの全身を拭くと消えた。窓のない部屋でもう何時間こうされているのか分からない。溺死寸前の、酸素の足りない頭ではもう何も考えられない。

     外で何か操作したようで、部屋の中が暖かくなる。着替えさせてはくれないようだ。

  • 49二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 20:21:16

    あっ...やってしまいましたなあ
    京都支部壊滅のお知らせ

  • 50二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 20:29:17

    思ったよりガチなひどい目で心が痛む
    続きを...優しい展開を...

  • 51二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 20:29:22

    京都の司令は何やってんだ

  • 52二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 20:31:04

    これ相当なしっぺ返ししないと溜飲下がらなくない?大丈夫?

  • 53二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 20:38:52

    本気のミカが現れそう

  • 54二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 20:44:51

    読んでるだけで胃が苦しい

  • 55二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 23:59:40

    >>48

    千束は何も知らないの、だから何もしないで! と何度も懇願したがあの冷血な拷問官がその願いを聞き入れてくれるかどうかなんてわからない。とたきなはあまり働かない頭で考える。

     DAはそんなに優しい組織ではない。そんなことはよく知っていた。それなのに千束のことばかり考えてしまう。わたしはいつからこんな人間になってしまったんだろう。と自分の意識を恥じる。

     いくら弾を避けるのが上手くたってこんな風にされたら、千束も死んでしまうかもしれない。わたしはまだ強い容疑があるから生かされている。でも……本当に何も知らない千束には用がないと言ってもいい。わたしの口を割らせるためならきっと千束の命を奪うことすら……。

     身震いをするのは何も寒いからというわけでもない。


    ――……


     暗い海が眼前に広がる。

     風が生暖かく身体を溶かす。

     背の高い、痩せた身体を持つそれは、不満げな目をして船に乗り込む。

     その船は大して装飾がされていない貨物船のようだ。暗い躯体が時折当たる灯台の光に照らされてぼやりと映る。

     何百人も、大きな荷物何千箱も載せられるようなその船は、その大きさに反して酷く静かに動き出した。


    「なんだあの船は……予定にない」

     あらゆる船の航行は予め既定の範囲内で行われる。監視の役目はそれが守れらていることを確認すること。異常があった場合はその船と交信を図り、場合によっては救助を差し向けることだ。

    「だめです、何ら応答がありません。というか最低限の灯りすら」

    「北からか?」

    「いいえ、それが……最近あまり見ないのですが、日本からなんですよ」

    「は?」

  • 56二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 00:32:28

    なんか本格派な展開になりそうな気配

  • 57二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 08:47:20

    京都DAの残酷さ、流石たきなの古巣感はある

  • 58二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 08:49:36

    司令の評判から考えると一部のリコリスの暴走じゃない?

  • 59二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 08:54:30

    というか水責め拷問とかの訓練は受ける側としても既にしてそうだな

  • 60二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 12:04:17

    >>58

    自分もそう思ってたけど>>55の最後見るともっと大きな話だったり?

  • 61二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 20:37:46

    >>55

    「たきながかっ?」

     ミカが受話器を壊してしまうような音声で反応した。

     押入れの中に潜み、ヘッドホンをしているクルミですら聞き取れる程の音量だ。

    「ど、どうしたよ」

     ガラっと引き戸を開けてミカの許へ、ミズキもいた。二人は目配せして

     客が全くいない時間でよかったと思い、急いでドアの看板をclosedに回す。

    「おい、そんな!」

     なおもミカは追撃するが、殆ど必要な情報が得られないようだ。

     腹立たしさを解消するかのように受話器を乱雑に受け口に叩き戻す。


    「たきなと千束が……京都DAを爆破しようとした容疑でDA内に捕らわれている、と京都からの連絡があった」

     イガイガしたものを吐き出すかのよう、目は「信じられない」と訴える。

    「ハァ?」

    「なんだよそれは」

    「説明はそれで打ち切られてしまった、クルミ、頼めるか」

    「ちょっとそっちの映像映すぞ」

     細かい雨が地面を叩くような音とともにキーボードが操られて、明日の天気予報を調べるかのような気軽さで京都DA内のサーバーに侵入する。

  • 62二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 20:41:33

    >>61

    「これか、千束たちは入場の時には別に手錠も何も掛けられてないな」

    「ちょっと、この手に持っているのが爆弾ってこと?」

    「ちょっとミズキ近いぃ……っ。たきなが持ってる奴だろ? もちょっと遡るか。公共交通機関を使ってんなら簡単だ」

    「つーか今回の依頼は京都DAからでしょ? なんでこんなことになってのさ」

     この場で、この依頼を受けた責任者(accountable)に対して冷たい目を向ける。

     ミカも本当に何も分かってないようで、珍しく動揺しかしていない。

    「そうなんだが、まだ情報が錯綜していてな連絡待ちなんだ。二人は単に拘束されているだけだそうだ」

    「DAってのは証拠不十分でもこんなことすんのかよ」

     クルミが示した画面には、薄暗い牢獄と寝かされている千束が映っていた。


    「……よかったわ、確かにただ捕まってるだけみたいね」

     DAの素行を知っているミズキからするとこれはまだ「よかった」範疇に分類される。

     クルミ、ミズキ、ミカの三人はまだ知らぬところであるが、たきなは既に水責めの拷問を受けているのだから。

    「たきなは……クソ、監視カメラのない場所に閉じ込められたみたいだ。これじゃ安否確認できないな」

     よいしょ、と押入れから予備の画面を三台持ってくると監視カメラの像を解析する。

     最初にたきなの顔写真をコンソールに叩き込むと、その顔を持つ人物の移動経路がカメラに映った順に描画されていく。

     最初は千束と共に京都DAの入り口から入り、受付を済ませて廊下を歩く。そこから立派な扉のついた部屋に入る。そして早送り、三人が慌てて転がり出るように部屋から脱出し、二人は全部の部屋をノックしながら外に避難。

    「相変わらずキモい捜査能力ね」

     ミズキの評に、クルミは少しニヤっとしてこれから思いついたことを見せたらもっとキモがるぞ、と一人ほくそ笑む。

  • 63二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 20:54:45

    京都支部壊滅へのカウントダウン

  • 64二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 20:56:09

    >>62

    「音を再現する。見ててくれ」

     音というのは波である。口から発せられた波は周囲の空気を揺らして相手方の耳に伝わる。

     その時の波はあらゆる物にぶつかって震えさせるものなのだ。その微弱な震えをカメラで捉え、音に変換する。

    「うえっ! ほんとに聞こえて来た!! え、なにC4ォ? 嘘でしょ」

     ほんとにミズキは反応がいいな、などと考えながらさらに情報を探す。

     そしてクルミの指がいったん止まる。

    「おいこれ……」

     十人以上の武装した職員に銃を突きつけられ、両手を挙げる千束とたきなの姿がそこにはあった。

     三人は息を失う。職員とリコリスとの違いはあるとはいえど、仮にも仲間同士である。こんな風にされることは異常事態だ。


    「とりあえずたきなはまだDAの建物の中にいる。あらゆる出口から出た様子がないからだ」

     クルミが言えることはここまでだった。監視カメラを乗っ取るという手法を使う以上、それに写っていなければなにもできない。お手上げだ、と文字通り手をげながらミカを見る。

    「この件、楠木に話した方がいいだろ、場合によっては京都と東京の戦争みたいになる」

    「ああ、今電話かけようと――」

     と、話している間に電話が鳴る。ピとミズキがスピーカーにする。

    「ミカ、たきなの件についてですが、聞いていますか」

    「京都で拘留されているとは」

    「はい。状況としては、たきなが京都に持ち込んだケースの中から偽の書類とプラスチック爆弾と起爆装置が出てきた。ケースを開けてから五分後に静かに起動する仕組みのようでしたが、その前に凍結され、現在分析中です。恐らく、書類を検分している間に爆発させる仕組みかと」

    「それだけか?」

    「二人には捜査に『協力』願っているはずです」

     ミカは頭を振る。DAの放つ「協力」という言葉の意味をミカはよく知っている。

     生け捕りにした容疑者に『ご協力』願った事も何度もある。

    「楠木、京都からは連絡が切られてしまったんだ。今回の件についてもう少し整理させてくれないか」

     たっぷり五秒の沈黙があっただろう。

    「わかりました」

  • 65二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 21:35:20

    誰かによるDA潰し合わせる作戦?
    それとも京都になんかのスパイがとか?
    なんだろう

  • 66二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 22:29:05

    >>64

     今回の依頼は京都の司令からであるということは共通の認識であった。

     京都から本部、楠木に依頼があり、それを了承した。

    「なんでったってご指名があったのか?」

     ミズキの呟きをミカが拾って楠木に伝える。

    「聞いた話によると、単純な親睦というか昔を懐かしみたいぐらいで特に急を要したり必然性のあるような要件ではない」

    「京都は暢気なもんだな、こんな目に遭わせておいて」

     久々にミカの怒気を孕んだ声を聴く。

    「上層部……の決定ですから。京都側もいかんともしがたいようです」

    「わかった。とりあえず無事なんだな」

    「そのように聞いております。続報が着次第また連絡します」


    「はやせ~」

    「はいはい居ますよ」

     もう何日たっただろうか、冷たい牢獄に転がされて。

     コンクリートは体温を奪う。身をよじって別の体勢にするとそれだけでひんやりしてしまうので

    ずっと千束は同じ格好で居続けた。

    けれども、はやせが来るとその方針を捨てて、ごろりんと牢獄の柵の方に身体を向けた。

     いつもは表情を見られたくなくて、入り口には背を向けているけど。

  • 67二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 22:29:53

    >>66

     この頃のもっぱら話し相手ははやせだけだ。たきなの情報をどうにかして手に入れようとするその執念を好意的に思ったのだ。

    「今日はどうだった?」

    「……見張りが増えてる」

    「マジかよ」

    「いよいよマズイな、どうする? 奪還するやろ?」

    「ったりめえだろ、ただ、どうやってるやるかだけど……」

    「私、DA辞めてもええ、辞めるとかじゃないけど、三人で逃げようや、な?」

    「……巻き込めないよ」

     ギリギリ監視カメラに写らないよう情報提供をされているだけの関係の人間に

    ここまで命を懸けさせていいものか? いや、よくない。

    少なくとも私はファーストで、彼女は二個下のセカンドなんだ。

    危ない真似をさせるわけにはいかない。少なくとも何も情報が揃っていない今は。

    と千束は冷静さを取り戻そうと苦心する。

  • 68二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 22:48:16

    現時点でこの怒りようだといよいよもって京都司令の首が危ういな

  • 69二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 22:52:48

    誰の陰謀なんだ…?爆弾と言えばやはり真島?!

  • 70二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 22:57:25

    百合的なあれこれだとはやせちゃんがクレイジーサイコだとある程度は納得がいったりするかなぁ?
    禁じ手だけど誰かが変装してるとか?

  • 71二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 23:01:31

    >>59

    アメリカのCIAとか水責めの拷問を受ける側になる訓練あるけど脱落者(両方の意味で)が多いのよね

    単純な洗面器に顔を突っ込むタイプと仰向けに拘束して首を逸らせて口にじゃぶじゃぶ水を流すタイプ、まぶたや眼球に一定間隔で雫を垂らすとか結構様々

    お手軽だけど、最効率でただ痛めつけるより苦痛を与えられるらしい

  • 72二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 23:04:30

    正直ここまでひどい事すると知ってたなら見なかったかもしれないけど見てしまった以上最後まで見届けなければ気が済まない...
    まあ二次創作だしって割り切りも要るよね(割とガチで心にダメージを受けた人)

  • 73二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 23:07:23

    >>72

    そもそも1に割と酷い目にあうと書いてあったしな、ドンマイだ切り替えてけ

  • 74二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 23:10:07

    >>72

    オリキャラとして見たほうが精神安定するよ

  • 75二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 23:12:29

    >>73

    せやね

    冷たい牢屋くらいで止まると思ってたので...文章力高いから余計ね

    でも続きは気になっちゃう辺り作者さんの思うツボなんだなあって感嘆するわ

  • 76二次元好きの匿名さん23/01/11(水) 00:17:12

    もしかしてたきなと真島が組むSSの人?
    あっちも本格派で描写力っていうかいろいろすごかったから

  • 77二次元好きの匿名さん23/01/11(水) 08:12:11

    千束でも100人のリコリスには勝てないんやな

  • 78二次元好きの匿名さん23/01/11(水) 12:57:02

    保守

  • 79二次元好きの匿名さん23/01/11(水) 13:08:09

    >>77

    どうだろ

    この次元だと出来ないってだけで電波塔事件を一人で解決出来る千束ならやれる気がする

  • 80二次元好きの匿名さん23/01/11(水) 13:48:55

    >>79

    旧電波塔の真島チーム100人もいないだろ

  • 81二次元好きの匿名さん23/01/11(水) 13:59:14

    >>79

    電波塔事件みたく1人対数人なら100人抜きできるだろうけど一気に1人対100人なら無理だと思う

  • 82二次元好きの匿名さん23/01/11(水) 14:04:53

    >>81

    そだね

    順番に少しずつ攻めてきてねーってわけにいかないからね

    それにリコリスだと同士撃ちの危険避けるより敵の殲滅を優先しかねないしね

  • 83二次元好きの匿名さん23/01/11(水) 14:23:37

    まあ本編でもたきなはいなかったら3回は死んでるし最強リコリスではあるけどある条件の元ならって感じで無敵ではないからな

  • 84二次元好きの匿名さん23/01/11(水) 14:26:08

    千束の弾避けの性質上相手を見てないといけないから多対一は基本的に不利なんだよね、避け場もないレベルの弾幕つくられたら終わりだし
    …おいなんで普通にリコリス数人に勝ってる

  • 85二次元好きの匿名さん23/01/11(水) 14:29:58

    まぁまぁ強さ議論は一旦置いといてssを待ちましょう
    そもそも二次創作は何でもありだしスレ埋まるし

  • 86二次元好きの匿名さん23/01/11(水) 19:13:16

    >>84

    ちび千束に対して円形の布陣で千束は弾よけるから同士うちになりやすい

    それで向こうも一斉射撃できないから勝てたのでは

  • 87二次元好きの匿名さん23/01/11(水) 19:29:39

    >>86

    見ててなんであんなポジション取りなのかと思ってた。同志撃ち上等じゃないと撃てないじゃんね。

    それはともあれ続きに期待

  • 88二次元好きの匿名さん23/01/11(水) 20:35:16

    こんなにウケてて草。いや、すまんな、ありがとう

    >>67

    「……私たちの無実はじきに証明される。だってマジで何も知らないんだもん。先生や楠木さん、本部の司令なんだけどね、が証明してくれるって。でも脱走は普通にリリベルが来るからさ」

    「あんなやつらぶっ殺してやればええ」

    「ダメだって、命大事にだよ。それに、あいつらだって強いよ~?」

    「大丈夫、あいつら直線的だから」

     はやせの嫌に実感の籠った台詞に千束は違和感を抱く。そもそも、たきなが知らなかったリリベルについて、なぜこの子は知ってるのだろう? 

    たきなが特別疎いだけか? いや、任務で必要な事柄ならたきなが知らない訳がない。あんなに真面目で勤勉な彼女なんだから。


    ――……


    「おいおい、どうなってんだよ……」

     クルミが調べていた先、どのような軍事国家でも持てないような強固なセキュリティのその遥か先。

    一か所のミスでさえも逆探知されて特殊部隊が送り込まれてくるようなその先には。

    「何も書いてない……どうすんだこれは」

     一個のフォルダがぽつんと置いてあって、揚々と開けたクルミの目にはただ、empty file の文字だけが映る。

    「なんかわかった?」

     隣でタブレットをいじっていたミズキが訊ねるが、クルミは首を横に振るだけ。

    「いやぁ……ただの正規の計画書しかない。例のアタッシュケースの差出人は普通に丹波にあるDAの出張所だった。正規の職員で、京都DA本部から依頼された報告書を提出しただけみたいだ。んで、どうせならと京都司令がその護衛にたきなをつけて、おまけで千束がついた。――ボクたちが聞いていた話とおなじだな」

    「んー。じゃあその人も尋問されてるわけ?」

     尤もな質問だ。というか、この提出者が真っ先に疑われるべきではないか?

  • 89二次元好きの匿名さん23/01/11(水) 20:47:43

    >>88

    「それはそうなんだが、あいつらの書類やデータがマジで見つからん」

    「天下のウォールナット様でも分からないことがあるんだ?」

    「まず、所内に監視カメラがほとんどない。出入り口やら、庭と地下牢ぐらいなもんだ。東京のDAは腐るほどつけてるのにな、地方だから金がないのか?」

    「バカねえ、リコリスの本場は京都よ? まず最初に京都と東京が予算の半分をとってくぐらいの運用だったはず。正直、北海道とか福岡、沖縄に予算上げたほうがいいと思うけどね……っとまあこれは秘密ね」

    「マジかよ、それでこれか……?」

     共有フォルダの中には殆ど碌な資料もなく、あったとしても断片だけだ。

    職員のリストも名前だけで顔写真もない。流石に名前だけでは探すのも苦労が増える。


    「もしかして……」

     クルミは絶望的な考えが頭に浮かんで更にキーボードを叩く。


    ――……


     カシャン、カシャンとタイプライタの音が執務室に響く。

     井ノ上たきなの処遇をどうするか、という事務的な書類である。

     それから、一緒についてきた錦木千束についてもだ。

    チーンと改行を促すベルが鳴った。

     こういった書類は基本的にすべて助手がやってくれるものなのだが、今回ばかりは

    自らの手でそれをしたかったというものである。

    「はぁ……」

     と司令はさっきまでの親しみやすい表情が嘘のように冷徹だ。

     紅茶で一息ついて次に打つべき単語の頭文字に指を置く。


     ごく短い文章を打ち、紙を吐き出す。


     そして、それが正式な文書であることを示す花押を書き、封筒に仕舞う。

    「たきなの……好きな花はなんやったかなぁ……あいつはそういうのに興味ないか」 


    ――……

  • 90二次元好きの匿名さん23/01/11(水) 23:00:34

    花……

  • 91二次元好きの匿名さん23/01/12(木) 00:20:13

    なんか司令もはやせもよくわからなくなってきた
    2人をはめたのは誰なんだ

  • 92二次元好きの匿名さん23/01/12(木) 08:18:56

    込み入ってきた

  • 93二次元好きの匿名さん23/01/12(木) 16:40:36

    しばらく登場してないたきなさんが心配です

  • 94二次元好きの匿名さん23/01/12(木) 21:14:37

    >>89

    ――……


    「ミカ、ボクからわかることは……」

     クルミの報告によってミカも顔色を失う。

     ごく短い事柄だ。


    「まず、受け渡しに来た者は正規の職員だ。カメラの映像を辿ったけどちゃんと京都の丹波出張所から出てきてる。で、その職員も職員寮に住んでて……恐らく名前も」


    ・小畑花子


    と出る。

    「じゃあこの小畑ってやつを尋問すればわかるってことでしょ?」

     ミズキの言葉におう、とクルミは頷く。というかこれしか方法がない。ただ歯切れが悪い。

    「だが……この小畑宛へ何か爆弾の原材料となる郵便物が来たかと家と職場とを調べたが、全くないようだ」

     ひゅわん、と彼女の購入履歴を洗い出すが、日用品や毒にも薬にもならない本などが出てくるばかりだ。

    「マジでこの女もシロだと思う」

    「ともかく、この小畑という女に話を聞くように伝えよう」

     ミカはそう言う他ない。


    「まさかな……」

     クルミは電脳とは言っても裏社会の住人でもある。こんな「完璧」すぎる白い人間には却って怪しさを感じるのだ。


    ――……

  • 95二次元好きの匿名さん23/01/12(木) 23:48:34

    名前も偽名くさいな

  • 96二次元好きの匿名さん23/01/13(金) 00:37:38

    >>94

    ――……


    「わたしは無実はどうやったら満足してくれんる……のか?」

     統語として滅茶苦茶な言葉。

     文章としておかしい。

     しかし、たきなはそれを吐くのが精いっぱいだ。

     口に入るのは冷たい水だけという状況がもう三日は経っている。

     そんな体でもウトウトと睡魔が襲ってくることがあるがそのたびに水を掛けられて目覚めさせられる。

     キン、と心臓が張り詰めるような感覚に襲われて咳き込む。

    「お前が吐くまでだが?」

     息も絶え絶えのたきなとは相反して、冷静な拷問官の声。

    「しらないよ……」

     

    「お前は強い。もうお前に訊いても無駄かもしれないな」

    「そうや、やって知らんし……」

     そもそも知らんことを訊き出そうなんてアホちゃうか、とたきなは脳内で毒づく。

    怖いから言えないのではなく、言う体力が最早ない

    「ところで、お前の相棒であるところの錦木千束だが」

    「その名を呼ぶなや……」

    「口を割ったぞ? 『たきなとずっと一緒にいたわけじゃないからその隙に入れ替えたのかもしれない』と。まあ頑固だったけどな」

    「は……?」 

     目の前の男がその名を口に出したことにすら嫌悪感があるというのに、これと同じことをあの愛しい人にしたというのか。朦朧としていた意識が急に色を帯びる。

     それに、そんなこと千束が言うわけない。全部嘘なんだ。でも、千束は確かにわたしから離れてお弁当やお土産を買いに行ってた瞬間がないとは言えない。そのことについて言ったのかもしれない。

    でも、千束がわたしの容疑が強くなるようなことなんか言うわけない……。

  • 97二次元好きの匿名さん23/01/13(金) 08:02:55

    保守

  • 98二次元好きの匿名さん23/01/13(金) 12:41:05

    たき虐つらい

  • 99二次元好きの匿名さん23/01/13(金) 20:31:51

    保守

  • 100二次元好きの匿名さん23/01/13(金) 21:19:58

    >>96

    でも、千束には普通の人間にはない弱点がある……。そこを脅されたとしたら……いや、そんなわけない。千束がわたしを見捨てるはずが……。いや、もう見捨てられことがあるじゃないか。


    「やめろ!」

     その絶叫は自分に対してなのか、眼前の拷問官になのか。

    「では、『自分がやった』と言え」

    「千束に何した!」

    「同じことだ。飲まず食わず眠らず。電波塔の英雄もやはり人間らしいな」

     お前よりは弱くて正直拍子抜けだ、とまで続けた。

    「ふざけんな……お前……ころすぞ」

     ガタガタと身体を揺らして拘束を解こうとするがびくともしない。

     だたここの拘束はちゃちなテロリストのものではなく、DAが公式に提供する器具だ。

    たきなの力では傷一つ付かない。


    「それよりこれを見ろよ、お前を売った錦木千束は美味しそうに飯を食ってるぞ」

     タブレットに映し出される千束がもぐもぐと寮のご飯を食べている姿。お粥だろうか?

    ふーふーと唇を尖らせてスプーンで口に流している。

     いつもは自分の目の前でされている幸福な光景。食器や料理は見慣れた、京都支部のものだ。

    黒い漆塗りに八咫烏の蒔絵。それを美味しそうに食べる千束の映像。

  • 101二次元好きの匿名さん23/01/13(金) 21:33:10

    >>100

    「偽映像つくんじゃねえよ……」

    「まあ信じないのは勝手だ。錦木千束はお前を売った、それだけだ」

    「じゃあ聞く、なぜわたしを殺さない」

    「お前には爆弾の入手ルートと動機を聞く必要がある」

    「C4やろ? 大した爆弾じゃない。そんなん訊いてなにんなるんや」

     基本的にDA周辺の人間は爆発物に関する知識や技能があり、入手が難しいとされる雷管なども一般人よりは容易に入手できる。確かにたきなの疑問は尤もなものなのだ。

    「反抗的だな」

    「元からやろ、知らんかったんかクソが」

     千束をダシに使われて感情を制御することが難しくなっているたきな。


    「……わかった。君の大事な相棒錦木千束と、そうだ滝川はやせってお前の元相棒だったろ」

    「千束とはやせの名前を口にすんなドアホォ」

     精一杯の眼力で睨みつけるも、拷問官はどこ吹く風だ。

    「あいつらの安全は保障しよう。その代わり、捜査に協力しろ」

    「は?……」

  • 102二次元好きの匿名さん23/01/14(土) 00:12:01

    保守

  • 103二次元好きの匿名さん23/01/14(土) 09:36:04

    >>101

    ――……


    「井ノ上たきなの処遇ですが、本当にこんなものでよいのですか?」

     さっきまでたきなに水を飲ませていた男はDAの職員の制服をきっちりと着こなし、

    緊張した面持ちで封筒を開けて書類を読む。

     ここに書かれた処分は、異例の物だ。ほぼすべてのリコリスはこういった行為をした際には

    大抵の場合、情報の取得後、射殺そして焼却だ。

    射殺後、寮に残っていた私物や今日のゴミとともに大型の焼却炉に入れて空気中の塵に帰る。

    その者の生きた痕跡など何一つ残らない。


    「ああ、あいつは無実を訴えとるからな、あと。錦木千束と滝川はやせを人質に取ってる。下手なことはでけんって」

    「ですが、彼女は裏切り者ですよ? 裏切り者が他のリコリスに頓着するとは……」

    「せやな。居なくなられたら困るっちゅうのはわかる。だからこれを付けたる」

     これ、と示したもの。緑色のチョーカーだ。首元に黒い石が嵌った洒落たようなものにも見える。

    「GPSですか?」

    「まぁ、そんなところや」

  • 104二次元好きの匿名さん23/01/14(土) 18:12:36

    このレスは削除されています

  • 105二次元好きの匿名さん23/01/14(土) 18:12:58

    >>103

    ――……


    「千束、起きてください」

     千束は愛しい人の声を聞いて夢の世界から脱した。

    いままでずっと聞きたくて聞きたくて仕方がなかったその人の声だ。

    「だ! たきな!」

     ガバっと上体を起こしてその声の方を向く。

     ああ、たきなだ、たきなに違いない! 夢ではないのだ。

     あの記憶の中のたきなが寸分違わずにいるのだ。


     アクリル板の外であるが。


    「たきな! 大丈夫だった?! 殴られたりしてない? 大丈夫?! たきなに酷いことした奴がいたら私にちゃんと言うんだよ?! ね?! 顔見せて?」


     よいしょ、と千束は立ち上がりアクリル板にあけられている穴の隙間に顔がめり込むのではないかというぐらい近づく。

    そして、板の外に立っているたきなを、特にその綺麗な顔を食い入るように見つめる。


    「大丈夫ですよ千束。全然殴られてなんかいません。ほら、痕なんてなんにもないでしょう?」

     たきなは微笑んで顔を左右に振る。たしかにシミの一つも出来てない。

    「そりゃ、そうだけどさぁ……」

     千束はほっと安堵する。

    「ちょっと話を聞かれただけです。千束の方が檻に入れられて可哀そうです……と思ったけど、なんかいい部屋ですねそこ」

     そう、千束はあの薄暗い地下牢から採光の良いソファー付きのワンルームマンションのような

    部屋に移動させられている。

     千束のお気に入りのセーフハウスよりは断然狭いが、テレビ、テーブル、ベッドにソファが備えられており、勿論手錠などもされていない。

     さっきまでソファでうたた寝をしていた……。そういう自由が千束には与えられていた。

  • 106二次元好きの匿名さん23/01/14(土) 18:13:47

    >>105

     ただ扉は鉄製で、アクリル板が顔の高さに嵌められており、鉄格子もかかっている。そこから室内が伺われるようになっていたが。

    「いや……ちょっと前に移ってきてね……たきなは牢に入れられてないの?」

     

     たきなは千束がここに移動してきた、と聞いてもしかして、と思う。

    ――わたしに鞄をすり替えるタイミングがあったかもって言ったからご褒美でここに移ってきんですか?

     でも、そんなことは訊けない。

     ちら、と千束の肩越しに、漆塗りの食器セットがテーブルに置かれているのが見える。

     ……この前拷問されていた時に見せられた映像のものじゃないのか?

     美味しそうにご飯を食べていた千束。わたしは……もう何日も満足に食べてないのに。

  • 107二次元好きの匿名さん23/01/15(日) 00:22:36

    >>106

    「ええ、単に取調室ってだけですよ。機微情報なので、誰も入れないようになっていましたけど」

    「そうなの? うーん……あ、たきな指見せて」

     千束は疑念がぬぐえない。そして指を見せろとお願いする。

    「……ないね」

     指に対しての拷問はかなりポピュラーだ。親指を万力で潰すような簡単なものから文字通り逆に曲げるようなものまで。

    しかし、たきなのその白い指はいつも通りだった。

    「まったく、千束は心配性ですね……。わたしだって仮にもリコリスなんですから、拷問なんかうけませんよ」

    「だよねー。いやー千束さん心配しちゃった」

    「心配させてごめんなさい。もう誤解は解けてますから、千束ももうすぐ放されるとおもいますよ」


    それから……。とちらっとたきなは後ろを振り返る。誰もいない――約束通りだ


    「酷いことされてないですか?」


    「まあまあだね」

     手錠で拘束されて本当につらかったなあと千束は思う。


    そう、千束が答えている間に、千束の身体をじっと見まわす。


    わたしと同じことされたなら傷を探しても無駄か、とは思案するが、そうだ、ひとつ聞き方を変えてみよう。

    「また海にでも行きましょう」

     たきなは、自分と同じことをされたのなら水が怖くて、そうでなくても倦んでいるはずだと踏んだ。

    「あーまあ海は当分いいかな」

     千束の返答にたきなは、やっぱり水が怖いんだ。と理解する。すると千束もああされたんだ。

  • 108二次元好きの匿名さん23/01/15(日) 08:07:50

    保守

  • 109二次元好きの匿名さん23/01/15(日) 11:45:17

    複数の拷問を行う手口に捕虜で結託されないように離した上で待遇に差をつけるってのは有名な手口よな

  • 110二次元好きの匿名さん23/01/15(日) 14:38:29

    >>109

    リコリスならその辺も学んでそうだが果たして…

  • 111二次元好きの匿名さん23/01/15(日) 20:47:47

    >>107

    こういう拷問は隔離して、それで向こうの方が優しくて貰ってるぞと言って動揺を誘う。

    わたしが京都にいた時にはよくやってたことだ。千束だって同じようにされたはずだ。

    わたしに傷がないことで、千束の中に「たきなだけ特別待遇なのズルい」って思わせてる。

    きっとわたしが食事をしている偽映像も見せられたんでしょう。


    千束は早くにDAを離れたはず、だからこういうことを知らない。


    わたしを叱ってくれればどんなに楽か。「たきなの所為で私すごく辛い目に遭った」とか

    「京都DAなんかクソだ」とか。


    ……千束はそんなことおくびにも出さないですが、千束は辛くたってわたしに何も言わない。

    言ってくれない……そういう人だ。


    だから、わたしと少し離れたことをちょっと漏らしてしまったとしても……仕方がない。


    ――……


    「……てかなんで私は拘束されたままなの?」

    「それは……わたしには分からないです、すみません」

     ペコリと頭を下げられるが、そんなことは千束は望んでいない。

     こうやってはやせにも謝らせてしまったな……と罪悪感を抱く。

     千束は早くにDAを離れたこともあり、こういう、組織の論理にはどっぷりとは浸かってはおらず、

    権限を越えた質問もうっかりしてしまうことがある。そして、標準的な2nd以下を困らせてしまう。

    千束も自覚があったけれど、今回はちょっと仕方ないと思ってもらうことにした。

  • 112二次元好きの匿名さん23/01/15(日) 20:51:33

    >>111

    「あ、千束。わたしちょっとここの3rdたちとちょっとした作戦に行くことになったんで、待っててくださいね。

    久しぶりに東京で武者修行した成果を見せて欲しいそうで」

     照れくさそうに笑う、そんな彼女の仕草はいつもと変りない。

     千束の警戒心も次第に解けていく。

     そりゃあそうだろう、私たちは無実だと固く信じている。行き違いがあってそれが証明されただけだと千束は思う。


     それにたきなの身体にまったく傷もないのだ、聞き取り調査だけがされたのだろうと思って当然。

    「え? マジで? 私も行きたい~。たきながリーダー役やるところ見たい~」

     だから、こうやっていつものようにおどける。

    「もう、ファーストの千束がいたら、千束がリーダーになっちゃうでしょ? あと数日かな? 待っててくださいよ。テレビもあるんでしょう?」

     そして、いつも通りの反応が来ることに安心する。

     それでもなお、千束は心の端に残る違和感を拭うように、たきなに念を押す。

    「ぐぅ……長い。でもたきな、わかってる? いのちだいじに、だからね?」

    「わかってますよ、急所は狙いません」

     ちがう、君の命もなんだ、とついぞたきなに言い出せなかった。

     そんなこと、わかってるだろうし……。


    ――……


    「これでいいんですよね」

    「ああ、演技も上手くなったんだな。東京で学んだか」

    「……関係ないでしょう」

    「二人っきりにしろというお願いは聞いてやったんだ、こんどはこっち側だろ?」


     たきなとDAの職員の会話は誰にも聞かれてはない。

  • 113二次元好きの匿名さん23/01/16(月) 01:00:55

    保守

  • 114二次元好きの匿名さん23/01/16(月) 08:31:08

    保守

  • 115二次元好きの匿名さん23/01/16(月) 12:43:15

    京都DAの戦い方ってどんなんやろ

  • 116二次元好きの匿名さん23/01/16(月) 21:32:57

    >>112

    ――……


    「こちらアルファ1、オールグリーン」

    「こちらもブラボー1、オールグリーン。全員逃げましたかね」

     たきなをリーダーとする一団が港を駆けまわる。

    辺りは夕闇。よく知られている事実として、黒い服より紺色の方が夜の暗さに近くてよく紛れ込めるという。

    この2ndの集団はそれに最適なように作られていた。

     たきなはこの紺色が心地よかった。3rdの服は暗闇でよく目立ってしまうし、まだ着たことのない1stもまた遠くから人目を惹く。

     いつもと同じ、という気安さも手伝ってか、倉庫を背にして動いている時もリラックスできた。

     

    「仲間殺し(未遂)のたきなと隊を組め」

    という命令は多くのリコリスをして憤慨せしめるものであったが、司令直々に

    「これはなんかの間違いやってん」と説明されると「まあ……それならええか」という

    雰囲気に一転してなる。

     しかしながら、心に蟠りを抱えない訳もなく、作戦の途中のちょっとした隙間時間に

    たきなを睨む視線があることを、自分自身で感じる。


    「たきな、自分んー東京でも仲間殺したんやろ」

    「まったそんなデマ信じとんか、シバくぞタコ」

     たきなは冷静な顔で物騒な返しをする。

     愛銃の安全装置を外して、すぐさま撃てるように、しかし慎重に構える。


    「左遷されたんはほんとやろ」

     たきなを揶揄う2ndリコリスは口調こそ荒いが、別に本当には怒ってはいない。

    東京へ転属することは、色々言われもするが、実力を認められている印であることは間違いないし、

    その中でも有名な錦木千束と相棒をやって生き残っていることから、左遷なんて言葉が似合わないことは百も承知だ。

  • 117二次元好きの匿名さん23/01/16(月) 21:33:41

    >>116

    「ほんとや、あんなクソなところ誰もいかん方がええで」

     リコリコのことを「左遷先」なんて言われて内心憤懣やるかたないが、

    あそこは悪いところだ、という風に思わせておけば妬まれたり攻撃されたりもしないかと思って敢えて貶める。

    「電波塔さんのことはやっぱ殺せんか」

    「無駄口たたいとらんで敵の方みんかいアホタレ……みんな『意図』は分かってる?」

     たきなはリーダーらしく、みんなに問う。


    「廃船内に不審人物と不審な貨物が出入りしているとの情報あり。我々はその内部を調査して最小的にこれが犯罪と関係があるかどうかを特定する。もし犯罪であった場合は最低二人は生存させ個別に尋問する」


    「『状況』は?」

    「周囲三十メートル以内、人影無し。DAの規制線あり。はやせからの報告によると半グレを足止め完了だそうだ」


    「わたしたちがすべきことは?」

    「船内をまず出入り口両方から入り、中央で落ち合うように潜入。発砲は可」


     たきなはそれぞれが答えたものに満足して。先に姿勢を低くし、他の2ndたちを率い、廃倉庫に忍び寄る。

  • 118二次元好きの匿名さん23/01/17(火) 07:59:43

    ぬう、あ、あれが世に聞く訓令戦術

  • 119二次元好きの匿名さん23/01/17(火) 11:35:11

    治安悪い喋りのたきなカッコええな

  • 120二次元好きの匿名さん23/01/17(火) 12:35:09

    舞台で3rd引き連れて指揮取ってたたきなさんを見て、お前そんなことできたんか…となった

  • 121二次元好きの匿名さん23/01/17(火) 20:15:27

    >>117

     まずは倉庫内に陣を張るのが彼女たちの常道だった。

    ここに連絡係を二人、内部に残す。見張りを一人。そして六人で船の入り口側に入ることになる。

    たきなはブラボー1の九人を率いているため、何かあったら連絡係が本部へと報告する形だ。

    「……怖いですか?」

    「いいえ、問題ありません」

     3rdの子とちょっとした作戦に行く、と千束に言ったのは嘘ではない。


    ただ、千束の想像だと3rd水準のリコリスを4,5人引き連れていくような

    ごくごく軽い、例えば麻薬取引の制圧ぐらいのものだと考えているんだろう。

    本部のラジアータが捉えていて、内偵もあらかた済んでいて、証拠物件を押収することが

    主たる目的のような。


    ここにいる3rdは一人だけだ。しかも連絡係として内部に残すための。

    たきなは余り他のリコリスに目を掛けない。

    途轍もない技能を持っているとか、珍しい武器を使うとかそういうことぐらいでしか

    彼女の気を惹くことはできない。


    それなのに、たきなはその3rdに対してだけは、このようにたびたび声をかける。

    「わたしたちは二分おきに連絡します。途絶えたら三回、こちらに信号を送ってください。それでも返事が来なかった場合、もう一度だけ送ってください。それを以て司令への緊急報告を送る合図としてください」

  • 122二次元好きの匿名さん23/01/17(火) 20:16:32

    >>121

    「はい……それにしても結構頻繁に連絡しはるんですね?」

    怪訝に思った様子の3rdを見て、たきなは少し腰を屈めて彼女と同じ方向を見る。

    「あの船、見えますか?」

    「はい」

    「およそ総トン数500トンで居室がまだあります。公式の持ち主の会社が解散してしまってすぐですからまだ綺麗ですが、正体不明ですので、念には念を入れて」

    「……なるほど。司令は毎回、『……まあ色々言うたけど。うまいことやってみなはれ。報告はすること』としか言わはらんので、こういうのは初めてです」

    「……まあ、そうですよね。今回はわたしが指揮権を貰ってるので、なるべく合理的な方法を取りたかっただけです」


     相手方が10人いた場合、最低でも100発の銃弾が使われる。相手の技術にもよるが、やたらめったら撃つのなら撃ち尽くすまで約二分。六人のうちで二人は被弾するか、あるいは死ぬだろう、その間に報告が行ければ、増援も期待できる。

  • 123二次元好きの匿名さん23/01/17(火) 20:26:07

    3コール1切りルールがここにも…
    それにしてもシビアな…

  • 124二次元好きの匿名さん23/01/18(水) 07:22:44

    保守

  • 125二次元好きの匿名さん23/01/18(水) 10:00:28

    頻繁連絡にうらはないのかな

  • 126二次元好きの匿名さん23/01/18(水) 12:45:02

    命令が明確、指揮官の鏡だよたきな!

  • 127二次元好きの匿名さん23/01/18(水) 18:28:36

    推理小説読んでるみたいで楽しい

  • 128二次元好きの匿名さん23/01/18(水) 21:12:32

    >>122

    ところで、リコリスがやる「足止め」は簡単に言えば殺傷である。

    いいや、殺害の方が例が多い。殺さないで足止めすることは非常に困難が伴うからだ。


    しかしながら非常識なリコリスは好んで生け捕りを実行する。それは東に一人、そして西にも一人。


    「あ、おにぃさん、赤坂さんのお友達ぃ?」

     女子高生の制服を纏った黒髪ショートが、左手に持ったビニール袋をがさっと掲げる。

     

     治安が悪い連中は好んで港の、廃倉庫や廃船に屯する。

    大体の場合広くて、そして暗い。そういうところを好んで根城にしているのだ。

    今回の半グレの連中もそう。港の、ほぼ直ぐそばに船が係留されているようなところに、

    10人程度が何をするでもなく輪になって駄弁ったりスマホをいじったりと時間を空費している。

     どこからか拾ってきた一斗缶にゴミを入れて焚火をしていながらも大してそれに

    眼もくれない。失火の原因になるだろうに、火をつけただけで満足してしまうような、

    そういう連中。


    「ン、順なら今はおらんな、お前は?」

     見慣れない女子高生が無警戒にトコトコとやってきたことに対して少しの警戒心と

    仲間の名前を出したことによる、安心感とがその場の全員に混ざる。


    「赤坂さんに誘われてな? みんなたのしそうにしてるー聞いて、ウチも混ざろかなーって?」

     手元に持った袋にはたくさんの酒類がある。

     男たちの取る選択肢はそう多くなかった。


     ドサドサと次から次へと缶や瓶を空にしていく参加者たち、女子高生もそれに混ざって

    何かを飲み、火を囲んで歌い、踊る。

     いつの間にか音楽が鳴る。どこからか持ってこられていたスピーカーから流れているようだ。


    その中で、一番酔った男に近づいた。さっきすぐに言葉を発した男だ。この輪の中で最も「偉そうな」奴。

  • 129二次元好きの匿名さん23/01/18(水) 21:13:46

    >>128

    「あれ、もうやめるん? 洋ちゃんお酒好きぃ聞いたんやけど?」

     地面に両手を後ろにつかせ、足を延ばして座っているその、洋と呼ばれた男の隣に移動して殆ど肩と肩とを触れ合わせて誘う。手にはよく冷えたスミノフ。

    「んぉ、ええやん……あ、そうだ。飲ませてぇな?」

     と真っ赤な顔と酒臭い息を見せながら甘える。


     にっこりと笑って瓶の口をその男に当ててコキュコキュと喉を鳴らしめる。

    半分ほど飲ませた頃だろうか? 瓶の口を締めて、その洋と呼ばれた男の胸に自身の頭を寄り添わせる。


    「そういやぁ、この辺最近物騒でなぁ、ウチもここにくるのちょっと怖くてなあ」

    「なぁに、そんな時は俺がぶっ飛ばしてやる」

     と、彼は粋がって、ポケットから取り出す。

     

     ナイフか? 違う。

     警棒? 違う。


     拳銃を。銃自体はよくある、スライド式の拳銃で見たところよく使われていることから

    中古なのだろう。しかし、銃の携帯を許されていない場所ではどんなものでも存在することが異様だ


     しらっとした目でそれを取り出した男を見る。

    「へぇ? それおもちゃ? どっからパクってきたん? 万引きは犯罪やんな?」

    「違うわアホ、最近この辺りにいりゃ買えんだよ」

    「でもお高いんでしょう?」

    「五万ぐらいだな。あーでも弾はハズレかもしれんけど」

    「やっぱおもちゃやんな?」

    「違うわボケ」

    「じゃあ一発だけ弾頂戴? 洋ちゃんとの記念~」

    「しぁあねぇなぁ……」

     

     と男はモタついた手つきで弾倉を引き抜いて一発、手渡す。ありがとぉ、と言ってそれをポケットに仕舞った。

  • 130二次元好きの匿名さん23/01/18(水) 21:16:57

    >>129

    「他に持ってる人おらんのこの中で」

    「んにゃ、俺だけだ」

     どうだ、凄いだろう? というような様相で見るが、あまり興味がない様子だ。

     眉毛も泣き黒子も動いた様子がない。

    「そうなんや……ほらもっと飲んで飲んで」

     瓶のもう半分を飲ませ切る。この男は断るということを知らないのか?


    「ねえ、ウチ、船乗ってみたいねん、ああいうの。運転できる? 中でかいほーしてあげようか?」

     暗い海を指さす。漁船といったところだろうか? ふわふわとそれは揺れていて

     港の岸にもう少しで触れそうなほど近い。だからだろうか?

    「お、乗ったれ乗ったれ」と誰ともなしに言い始め、勝手に上がり込んでしまう。

     一人が上がれば、一人、また一人とどんどんと仲間を追って甲板に上がり込んでしまう。

    「あ、ウチもいくー!」

     と女子高生もウキウキしたような声を出して飛び乗る。

     乗り込んだ多くは甲板で寝そべって呻いたり、車座になってまだ酒を酌み交わしていて

    その女が何をしているかは追っている者はいない。


    「さぁて、お楽しみの時間ですわ」

     船室の鍵を壊すと、操舵室に入り、無理やりエンジンを掛ける。いいや、鮮やかすぎて

    さながら持ち主のようだ。ドゥルルと機関が動く。

     がちゃんかちゃんと手慣れた様子で舵輪やボタンに様々な細工を施す。

     ワイヤで縛り、消しゴムを詰めてボタンを押しっぱなしにしたりと。

     全ての準備が終わり、身軽に地上へと飛び移り、そして船と岸とをつなぐものを取り外す


    「じゃあいってらっしゃいませ~Bon voyage~や~」


     離岸する瞬間、その制服から携帯を取り出す。


    「もしもし海保メン?」

  • 131二次元好きの匿名さん23/01/19(木) 07:26:48

    保守

  • 132二次元好きの匿名さん23/01/19(木) 12:29:07

    保守

  • 133二次元好きの匿名さん23/01/19(木) 21:06:51

    今日はまだこないかな?

  • 134二次元好きの匿名さん23/01/19(木) 23:13:04

    初めての感情知ってしまった

  • 135二次元好きの匿名さん23/01/20(金) 02:00:35

    >>130

    ――……


    「たきな、誰かおるで!」

     暗く、懐中電灯しか頼れるもののない船内に鳴る靴音。

    その中で聞き覚えのないものがいくつか混ざる。

     仲間のローファーの音は早々忘れるものではない。

     十歳に満たないころからあらゆる場面で聞くのだから。

     それに、その足音は「重い」のだ。

     ゴツゴツした軍用のブーツに成人男性の体重が載っているようなそんな音。


    「こちらブラボー1、リコリス以外の足音を認めます。接敵用意」

     たきなのインカムから瞬時に反対側の隊にも伝わる。上手くいけば挟み撃ちにできるかもしれない。

     甲板から下って船内に入り込む。クリアリングを済ませながらたきなは先頭に立ち

    銀色の銃身を暗闇に刺す。

    階段を降りると、目の前は殆ど壁で、そこから少しずれた前方に向かって廊下が伸びていた。

    「こんな暗いんじゃな……」

     と一瞬、角で六人は待機する。もしも奥に敵が銃を持ちながら潜んでいた場合、

    懐中電灯の光は獲物の位置を教える光となって的になることは必至。

    かといって、何も点灯しないで突っ込むのも危険。

     狭い一室に押し入るのならば、暗かろうがどうしようが関係ないが長い廊下と

    複数の居室がある船なのだ。どこに何が潜んでいるかは分からない。

    さてどうするか? それはたきなが考えなければならない事柄だ。


     ……いのちだいじに、って運用、わたし一人だと中々難しいんですよね。

    千束ならこんな状況の時にどうするでしょうか?

     でも千束はとっても目がよくて、暗い場所でも僅かな銃口の反射、装備のチラつきで

    人の姿が真昼のように見えるのでしょう。

    でもわたしは……違う。いや、相手だって違うはずだ。相手だってわたしたちのことは見えない。

  • 136二次元好きの匿名さん23/01/20(金) 02:00:50

    >>135

     時間にして十秒も掛からないでたきなは結論付ける。


    「アルファ1 聞こえますか」

    「良好。こちらアルファ1。どうぞ」

    「出来るだけ生け捕りとは聞いているので、こちらも――」

     たきなの言葉が終わらないうちに向こう側で発砲音が聞こえる。

    しかもかなりの近距離だ。インカムから響く音と、空間で響く音とが二重に聞こえる。

     アサルトライフルかよ、だるいわ、とたきなは判断して、ブラボー1を物陰に隠れさせる。


    「アルファ1、現在どこですか!」

    「船尾から侵入してほぼ五メートル程度の場所で接敵、敵は五人です、全員武装!」

  • 137二次元好きの匿名さん23/01/20(金) 08:55:52

    保守

  • 138二次元好きの匿名さん23/01/20(金) 12:45:12

    保守ぅ

  • 139二次元好きの匿名さん23/01/20(金) 23:11:20

    意図せぬ銃撃戦だ

  • 140二次元好きの匿名さん23/01/21(土) 10:46:22

    >>136

    「ちっ……。挟み撃ちは同士討ちになるな……まあええか、リコリスやし、いや……うーん」

     たきなは一瞬判断を留保し、アルファ1の指揮官に訊く。

    「今どこですか?」

    「第一船室や、袋のネズミにしてるはず! 至急応援乞う」

    「扉の位置にリコリスをつけてください。扉は二つありますよね!」

    「ダメや! 全員で突入した!」

    「……っわかりました!」

     ったく、なんで全員で即突入するんや……アホちゃうか?

     相手を追い詰めたと思っても、続々相手側が到着したら逆に挟み撃ちにされるやろ……。

     まあ、何はともあれ敵さんをひっとらえられりゃあ意図に沿ってる。特に咎めることもあらへんか。

     そのようにたきなは考え、自部隊に言う。


    「こちらブラボー1、船室の周囲を周回、逃げた敵がいたら確保します」

     あっちが追い立ててるのなら、どこかで逃げてる奴がいるはずなのだ。

    こんなやたらめったら交戦中なら生け捕りもクソももありやしませんのや……。

  • 141二次元好きの匿名さん23/01/21(土) 10:46:52

    >>140

    「救援を乞います!」

     しかしあちら側は悲痛な叫びで救援を呼んでる。

     それもインカム越しにたきなの隊に強烈に共有されている。

     ……たきなは後方をちらっと見る。その隊員の顔は渋く、たきなには、助けに行けと

    暗に要求している。


    「……わかりました。つばきと……サラを向かわせます。つばき、サラ、行けますか? 体格に優れたあなたたちなら強襲に向くと思います。ただ向こう側の装備が不明です。続く発射音から恐らく――」

     たきなが言い終わらないうちにその二人は笑いながらそちらに駆けてゆく。

    「応援到着までおよそ30秒。なんとか持ちこたえてください」

     とは言ったものの、4人で周回するのは危険。切り詰めて6人だったのにな。さてどうするか。

  • 142二次元好きの匿名さん23/01/21(土) 13:07:31

    >>141

    「増援しました。彼らの無事は祈りましょう」

     ここで増援しなければ彼女らの不興を買い、士気も下がるし指揮系統が乱れる。

    それは今後の作戦に差し障りがある。やりたくはなかったが致し方あるまい……。と

    千束に心の中で詫びる。敵方の詳細が分からないうちに仲間を飛び込ませた。

    こんなんじゃクソ指揮官ですよと。

     

    「わたしたちは、まだ他にも潜んでいないか、逃げていないかを確認しましょう。

    四人ですので、深追いは無用です。わたしが精密射撃できるので肩や脚などを狙います。

    みなさんは出来るだけ索敵に集中してください」

    「了解」

     残ってくれた四人は静かに答えてくれる。

     旅客船としてはそこそこの規模の船だ。船室は幾つもあり、事前に入手した地図に従って

    効率よく巡回しても三十分はかかるだろう。

    それに、後方では今まさに銃撃戦の真っ最中だ。……というか帯銃、発砲ある時点で

    犯罪に関わっている証拠でしかないのだ。たきなはさっさとけりをつけて戻りたかった。


    「いたで、たきな」

     こそ、と教えてくれる同僚。ちょいちょいと、こっそり耳打ちしてくれるのは助かる。

    こんなところで賑やかに喋るのは千束ぐらいだし、あれは正直毎回肝が冷える。

    「……!」

     たきなたちの視界の十メートルは先だろうか? そこに黒っぽい服を着た男が一人。

    ああ、足元がブーツだ。あの足音の正体のうちの一人だろう。

     冷静に照準、照星をその者の肩に向け、空気の絞れる音とともに彼を倒す。

    「流石やな」

    「確保お願い」

     たきなはその男の拘束を任せると更に先へ急ぐ。たきなに付き従う者は残り二人。

  • 143二次元好きの匿名さん23/01/21(土) 21:23:08

    保守

  • 144二次元好きの匿名さん23/01/22(日) 00:34:29

    保守

  • 145二次元好きの匿名さん23/01/22(日) 10:54:58

  • 146二次元好きの匿名さん23/01/22(日) 13:29:14

    >>142

     暗いな……でも、放置されて一年も経ってへんからか、足元は大体良好なのは助かるわ。

    とたきなは思いながら、船室を一つ一つ調べる。室内調度は割と綺麗なままで、他の隊が

    言わなかったら敵が潜んでいることすら気づかなかっただろう。


     ズン! と船体が揺れた。

     波の返す動きではない。腹に響くようなそんな音がたきなと、その仲間たちにも共有される。

    「今の何……?」

    「知らん、爆発か? だとしても小規模やな」

     爆発。たきなにはうんざりした概念だ。

     そんな爆弾の所為でこちとら飯抜き、睡眠不足、水責めで千束にも会えないやけど? と

    歯ぎしりする。


    「たきな! こっち側に入電!」

     同僚の一人が自身のインカムに何か来たことを伝える。

    「嘘でしょ? えっ? そんな!」

     その狼狽えよう。そうか、たきなのインカムに標準で来るのは向こうの指揮官からの通信だ。

    わざわざ一般隊員に連絡が来るということは。

    「……たきな」

     その悲痛そうな声に、たきなは敢えて無関心を装う。

     チャンネルを切り替え、そちら側に繋ぐ。

    「こちらブラボー1、彼我の損害数を乞う」

     一人を拘束してもらった後、定時連絡を味方にするたきな。

    「こちらアルファ1、敵方殲滅。こちらも……指揮官である浅羽木蓮、負傷中。その他リコリス多数」

  • 147二次元好きの匿名さん23/01/22(日) 13:29:35

    >>146

    「は……?」

     リコリスが死んだり怪我すんのはまあしゃあないとして、敵方を殲滅させた? お前ら話聞いてたんか?

     こっちにゃ通信障害もなんも起きとらんかったやろが! 


    「わ……っかりました。救護を呼びます――こちらブラボー1。アルファから負傷者発生。至急救護の手配をお願いします」

     倉庫内で待機している例の3rdに手早く連絡。

    「こちらブラボー1。これ以上の交戦は無意味と判断し撤退します。アルファも撤退してください。我が隊は一名、武装グループの一人と思しき者を拘束、DAに送致します」

  • 148二次元好きの匿名さん23/01/22(日) 19:39:02

    >>147

    「最低二人の拘束、という目標は達成できませんでしたね……」

     たきなは肩を落として船から隊員を外に出させる。現場リーダーとしての最後の方の仕事。

    このまま隊員をDAに戻すまでが自分の仕事なんだ。一つ失敗しているのに、もう一つ失敗したら

    もう千束に顔向けできないし、それに……。

    と自らの首に、シャツの下についているそれをそっと触る。

    司令から着けされられた発信機。きっとただの発信装置なわけはない。失敗したら

    自分を殺す機能でもついているんじゃないか? とたきなは自嘲する。


    わたしは、やはり使い物にならないリコリスだ。フキさんが言ってたことは

    何一つ間違ってなかった。


    千束を助けられたのも運でしかない。心臓の手がかりを見つけられたのはクルミのおかげ

    色々やってくれたのは店長。エアバッグを開いてくれたのはフキさん。

    真島を叩きのめしたのは千束。

    わたしなんて最後に引っ張り上げたぐらいですよ。

    あれだってギリギリ間に合うかどうかのやつですし。


    がさ、とたきなは足元にゴミが落ちていることに気づく。

    普段なら気にも留めないだろうが、今回はそれを拾い上げる。

    コンビニおにぎりの包みだった。


    「消費期限が昨日……」

     こんなゴミを残していくような、痕跡を消すことができないような奴らに

    作戦を失敗させられたのか、わたしたちは。

    これも、昨日からここに潜んでいた者がいるという証拠になる。

    一応とっておこうと判断し、ポケットにそれをいれた。

  • 149二次元好きの匿名さん23/01/22(日) 19:39:48

    >>148

    ――……


    DA内。針の筵という言葉相応しい。

    たきなは部下を上手く統制できなかった責任を問われていた。


    「残念やけど、一人だけだと話がホンマかどうかわからんのよなあ?」

     内部のリコリスにそのように言われる。彼女は、アルファ1にいた者だ。

    自分側の指揮官を負傷させられてイラ立っているいるのだろう。


    また、司令の下にいるリコリスを統括する係の者にも同様に責められる。


     たきなは反論したかったが、実際にその通りだから何も言い返すことはできない。

     それに、自身が爆弾魔であるという容疑も未だ晴れていない状況であることも

    それを手伝っているであろうことは重々理解している。

     

    「……相手方を殲滅させてしまったのはわたしの判断ミスです」

    「たきなの判断ミス? どのようなミスか説明してほしいな? ちょっと離れてたんだからミスもないかと思うんやけど」


     同僚であるはずのリコリスは今や、たきなをいたぶることを楽しんでいた。

     明るい会議室にたきな、その同僚と係官の三人で座っていて、たきなは空調が直に当たる所に座るように促されてそこに座っている。ずっとこのままだと寒くて仕方がない。

  • 150二次元好きの匿名さん23/01/22(日) 19:40:01

    >>149

    「部屋に入る際は、見張りを二名程度部屋の入口に置かせれば、相手方を刺激せずに

    大規模な戦闘行動にはならなかったのではないかと考えます」

     アルファ1の状況を聞いていると、彼女らは直ぐに全員突入してやたらめったら撃ったらしい。

    取り敢えず戦意を削ぐのにはいいかもしれないが、相手方がアサルトライフルで

    武装してたことは想定外だったらしい。

     それはたきなとしてもそうだ。どれだけ想定しても、精々拳銃程度なのだろうと。

    あれも真島が撒いた銃の残りなのだろうか?

     だとしたら厄介な置き土産を残して逝きやがってと、机の下で拳を握る。


    「ほうか……。そこまで責任を痛感してはるんか……気の毒や」

     係官の方は同情的な台詞を吐く。

     たきなとは初対面だったからある意味、先入観は少ないのだろうか?

     と、ほんの少し安堵するが、そうでもなかった。

  • 151二次元好きの匿名さん23/01/23(月) 00:06:03

    一応保守

  • 152二次元好きの匿名さん23/01/23(月) 07:03:02

    保守

  • 153二次元好きの匿名さん23/01/23(月) 12:14:56

  • 154二次元好きの匿名さん23/01/23(月) 12:25:20

    自己評価が低過ぎるたきなさん…
    完全に萎縮してる…

  • 155二次元好きの匿名さん23/01/23(月) 22:20:33

    千束を助けられたのは他のみんなのおかげとはナチュラルに思ってそう

  • 156二次元好きの匿名さん23/01/24(火) 07:48:01

    >>150

    「ほなら、今回の責任を取って本作戦が解決するまで身柄を京都に移させてもらいましょか」

    「……! それは!」

     たきなは伏し目がちにしていた目をパカっという音がするぐらいの勢いで開ける。

    「まあ古巣に戻るだけやろ? 嬉しゅうないんか?」

    「……いえ、わたしは東京でまだやり残していることが。それに、今いる支部は二人しかないんです。抜けられません」

    「ほうか、でもまた補充頼めばよろしいと思いますわ」

    「いえ……。あ、まぁ……そうですよね」

     千束はわたしでなくてもいいんだろうか? とたきなは逡巡する。

     別に、わたしじゃなくても千束は上手くやれるよな、とも。

     リコリコの経営は大分上向きになってきたし、そのまま続けてもらえば問題はないだろう。

     DAからまた新しい人員を補充しようとすればできるはずだし。


     それに、わたしが協力するなら、千束とはやせの安全は保障するという約束だ。

    これに反抗するようなことをしたら、二人がどんな目に遭うのか想像もしたくない。

  • 157二次元好きの匿名さん23/01/24(火) 08:57:53

    DAってやっぱりヤーさんなのでは……?

  • 158二次元好きの匿名さん23/01/24(火) 12:26:13

    これ断ったら

    千束、はやせに身の危険
    自分は養成所戻し(東京との力関係によるが)
    または自分は爆弾犯として処分

    なので詰み

  • 159二次元好きの匿名さん23/01/24(火) 22:32:35

    >>156

    「分かりました。わたしでお役に立てるなら」


     嫌で嫌で仕方がないが、千束は……まあ大丈夫かもしれない。

     下手な執行官が手を出そうものならボッコボコにするだろうから。

     問題ははやせの方だ……。


     たきなはこう思って頭を下げた。


    「ただ、わたしはあくまでも東京のDAの所属です。楠木司令にお話を通していただかないと……それから今の支部の管理者にも」

     

    楠木司令も……わたしのことを追い出した張本人だから、二つ返事で許可するんだろう。

    店長は少しは悲しんでくれるだろうか? いや、あくまでも自分の手が足りなくなったことに対して

    謝らなければならないな、と。


    「そんなん心配あらへんよ」

    「それから……あの、千束はどうなるんですか? まさかずっと囚われてるわけにはいかないですよね、千束もこっちで働くんですか」


    「それはまだ決めかねてるんやが、まあ重要参考人には違いあらへんからな」

    「千束を放してください、お願いです。あんなところに閉じ込めておくなんて酷過ぎます」

    「まあ、考えとくわ」

    「お願いです! わたしはここで働きますから……!」

    「たきなの働き次第やな」

    「……せめて会いに行かせてください」

    「それはダメや。そんなホイホイ会いに行かせるかいな。あ、そうや。牢獄に行きたいなら行かせたるで?」

  • 160二次元好きの匿名さん23/01/24(火) 22:32:59

    >>159

     それは別にたきなの収監を意味しない。


    「で、その銃は何処から手に入れたんだ?」

    「言っただろうが……呼ばれただけだ」

    「誰にだ?」

     先ほど捕らえた武装犯の取り調べ中だ。取り調べというのは微妙な表現だが、先だって

    たきなが受けたものに近い。

     別にリコリスがやっても、やらなくてもよいので、たきなが来る必要もなかった。

     こういう拷問はよく男の職員がやる。


     絶賛取り調べ中の男が吐く言葉を牢の外でたきなは聞く。


    「知らねえよ……」

     ここまで知らない、と言えるのは本当に知らないのではないか?

     という推測が立てられるのは、自分自身の経験が生きたからだ。

     ぐっ、と喉の奥が痛くなる。


     そうだ。と一つ思い浮かんだものを彼に問う。

    「『マジマ』という名前に聞き覚えはないですか?」

    「マジマ……?」

  • 161二次元好きの匿名さん23/01/25(水) 01:10:07

    真島……?

  • 162二次元好きの匿名さん23/01/25(水) 07:36:32

    保守

  • 163二次元好きの匿名さん23/01/25(水) 11:01:49

    そういえば銃ばら撒いてたな……
    関西にもばら撒いたのか?

  • 164二次元好きの匿名さん23/01/25(水) 12:26:42

    性懲りもなく撒いてそう

  • 165二次元好きの匿名さん23/01/25(水) 23:04:19

    >>160

     まあ、もし真島が生きてたらですよ? わたしの肩の傷なんて付き損? ですよ。

    あんな高さから落ちても生きてられるようでしたらね。

     冷静になると、あんなお椀みたいなところを良く走れたよなあ……わたし。

     少し間違えたら自分もガラス割って落ちちゃうとこやったわ。

     ……まあええわ、


    「マジマ……なんかそんな言葉言ってたかも」

     ようやく、絞り出すような声で、その男はなんとたきなの台詞に肯定の意を返した。

    「?! 本当ですか?! そいつは背が高くて痩せてて、頭がぼさぼさの男ではなかったですか?!」


     檻に掴みかかってその男に一寸でも近づこうとする。

     拷問官はその間は、たきなの気迫に圧されてその手を止める。


    「いや……違う。と思う。背は高くない」

    「180cm近くはないということですか?」


     たきなはもどかしく、携帯を操作する。以前の作戦で使った真島の画像を呼び出し

    その男に見せる。

    忌々しいからさっさと削除しようと思ってたけど、生死不明だから

    一応……と残しておいたのが功を奏した。


    以前描いた似顔絵よりはまあ、似ているだろう。


    「ほら、見てください。これですか?」

    「……違うな」

     チラ、と見て否定する。

    「? いや、もちょっとよく見てください。ほら!」

    「違ぇよ! こいつじゃない」 

  • 166二次元好きの匿名さん23/01/26(木) 07:02:15

    違うのか?

  • 167二次元好きの匿名さん23/01/26(木) 12:09:41

    めっちゃ必死や

  • 168二次元好きの匿名さん23/01/26(木) 22:54:16

    保守

  • 169二次元好きの匿名さん23/01/27(金) 00:20:04

    >>165

    そうか……。真島じゃないのか。

    と、たきなは少し落胆にも似た安堵を感じる。

    もし真島が絡んでいたのなら、少し自分の中でも経験もあるし

    なによりDAが保持している情報が使えるかもしれない。

    そうでないとしたら面倒だ。


    安堵は、ああやっぱり死んでるんだな。というような気持ちだ。


    でも、確かにこの武装犯は「マジマ」という単語には聞き覚えがあるという。

    それはいったい何だろうか? 同姓? まあそんなに珍しくもない名前だから

    可笑しくもないのか。


    「……真島という名前をどうやって聞いたんですか」

     銃取引に直接来ないということもあり得る。

     部下に指示をして、取りに来させて、その際に出た言葉かもしれない。


    「取引相手が言ってたんだよ」

     なるほど、残党か。それじゃ仕方ない。

    「ありがとうございました」

     たきなは礼を述べてその場から離れる。

  • 170二次元好きの匿名さん23/01/27(金) 00:20:17

    >>169

    ――……

    「すべては真島様の為に」

     高い声がその空間に響く。

     真島様、とそれは言ったが返してはくれまい。

     

     薄暗い空間に一人の人間がいて、ソファに座り銃を愛でている。

     几帳面そうなその手入れ。壁に貼られた計画表にも丁寧な文字が踊る。


     この口ぶりからするとテロリストの一味ではあるようだが、

    丁寧な計画と文字とでは一見してそのテロの粗野さとは結び付け難く

    感ぜられるものだ。

    しかし本来テロは「革命」を期して行われる物で、

    革命終了後には行政や立法、司法を牛耳らなければならず、

    非常に計画性を要するものなのである。


    そう言った意味では、テロリストにふさわしい計画だった。

  • 171二次元好きの匿名さん23/01/27(金) 07:29:44

    保守

  • 172二次元好きの匿名さん23/01/27(金) 12:19:32

    千束は…?

  • 173二次元好きの匿名さん23/01/27(金) 23:23:03

    >>170

    「計画は進んでいる?」

     その声は何処かしら弾んでいる。訊ねてはいるが、その実、様子をよく知っていて、

    愉しみの為に何度も聞いているのだろう。


    「はい。順調です。銃もまだ残りがございますし」

     そう答える部下は籠一杯の銃弾、銃器をちらりと見る。

     先ほどまでずっと外に出ずっぱりで、汗だらけになっていて不快だった。

    そんな部下の労に報いるためにちゃんと乾いたふかふかのタオルと

    よく冷えたペットボトルを渡してやる。

     その奇妙な気遣いと、やっていることの重大さとが釣り合ってない。


    「ただ、集めていたうちの民間人のうち十人ほどが海保に捕まりまして」


    「海保? 警察じゃなくて?」

     意外に頓狂な声を挙げる、このテロリスト。

     半グレ連中なら確かに警察の御厄介になることはあるだろうが、

    どうしてまたそんなところへ? という疑問が目に浮かんでいる。

    「はい、海上保安庁です」

     それでも、訂正がされないことにふぅんとため息を一つ。

    「……不思議ね。調べて欲しいな」

    「分かりました。何とかします」

  • 174二次元好きの匿名さん23/01/27(金) 23:24:01

    >>173

    ――……

    「たきな、元気ないな」

    「……はやせ、ですか」

     京都DAの中の裏庭、あまり陽が当たらないそこは、今のたきなを他のリコリスから

    隠す絶好の場所だったはずなのに、はやせには早々に見破られる。

     ベンチで一人項垂れているところを見られて、少し恥ずかしく思った。

     作戦失敗から一夜明けて、日が高くなった今日。どこにいても噂話の的になってしまっていた

    たきなは、一人こうして殆ど人の来ないベンチに座って、仕事が入るのを待っていた。


    「隣ええ?」

    「ええよ」

     断ることはないと知りながら、はやせは一応気を遣う。

     たきなが今どんな気持ちだろうかは、ここに来るまでの噂話を総合すれば分かり切ったことだった。

    「たきな飯食うた?」

    「あ……いや、まだやった」

     昨日の作戦失敗。夜遅くの会議。そして今日は特に何かあるわけでもなかったが

    寮の朝食を食べる気にもなれなかった。

    「あ、そか、私も。ほら、好きやったろこれ?」

     はやせは、ん、と言いながらゼリーのパックを一つ渡した。

     そして自分も開けて飲む。

     一つしか持ってこなかったのなら、たきなは固辞するだろうことは、はやせにはお見通しなのだ。

    「ゼリーや。ありがとう」

     ちゅう、と啜る。

     ああ、千束と一緒にいるようになってからはこういう食事も久しぶりだな、なんて

    今はこの建物に囚われている相棒を思い出す。


    「はやせは、足止めできたんですよね」

     船から降りる際にちょうど聞こえて来た、はやせからの「こちらは終了」という無線。

    たった一人で十人以上の人間を足止めするなんて本当にあの、はやせか? と申し訳ないが耳を疑ったのは事実だ。

  • 175二次元好きの匿名さん23/01/27(金) 23:24:48

    >>174

    「あ、うん。褒めてくれるん?」

     小悪魔のような表情で歯を晒して笑う。


    「DAに引き渡されないからって管理官が喚いてましたよ」

    「あちゃぁ、失敗やな。たきなの真似したのに……上手くできんかった」

     バツが悪いと頭を掻く、そんな癖も変わっていない。

     技能だけが抜群に向上しているだけ。それにしても気になる台詞を吐くものだ。

     

    「わたしの真似?」

     今日やっと、たきなは、はやせの方を向いた。

     地面でも、自分の膝でもなく、はやせを視界に捉える。

     はやせは、その視線を正面から受け止めて、うん、と顔を縦に振った。

    「たきなも最近殺さないで処理してるんやろ? 千束の影響で」

    「え、あ、はい」


    「私な、たきなみたいにうまい銃の腕があるわけでもなし、勿論千束みたいに凄いことができるわけでも……。自分なりにやってみただけや」

     はにかみながら、たきなの肩にはやせは頭を乗せる。黒い髪同士が縺れて絡まって一つになる。


    「昔組んでた時に比べて、はやせは優しくなったんですね」

     昔を懐かしむたきなの声もまた、先ほどよりだいぶ穏やかになった。

    「私は昔から優しいで」

    「そうやったっけ?」

  • 176二次元好きの匿名さん23/01/28(土) 07:36:20

    気安い会話ができる仲だったんだね

オススメ

このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています