- 1二次元好きの匿名さん21/11/06(土) 23:26:20
月曜日。
トレーナーが仕事を辞めて、早くも1ヶ月が過ぎた。
相棒のいないターフに魅力を感じなくなった私は競技生活にケリをつけ、現在は今後の進路について考えている。
尤も、実情は遊戯や談笑に明け暮れる気ままな放蕩者そのものなのだが。
持て余した時間で昼寝などをしていると、これまで自分がいかに熱く濃密な時間を過ごしていたのか考えさせられる。
戻れるならば戻りたい。あの激動の青春へ。
「……何寝ぼけてんだ、私」
自室のベッドで寝転がりながら、私は頭に浮かんできた後ろ向きな考えを噛み潰すように舌打ちする。
運動不足気味の体は重たいくせに寝苦しい。
どうせ今眠ったところで、頭痛に苛まれるのがオチだろう。
そう考えた私は気力を振り絞って立ち上がり、ある場所へ向かう。
○○総合病院。
相棒のいるところ。 - 2二次元好きの匿名さん21/11/06(土) 23:46:56
続き物っぽいし楽しみ!
- 3121/11/06(土) 23:51:56
入り口で受付を済ませると、私はトレーナーのいる病室まで案内される。
目が覚めるほどに白く清潔な部屋の中で、男が一人、ベッドに横たわっていた。
生気の無い瞳でどこか遠くを見つめる、痩せこけた体躯。
そこに点滴のチューブを幾つも繋がれたこの男こそが、他でもない私のトレーナーだった。
「トレーナー、来たぞ」
返事は帰ってこない。彼はもう会話すらままならない状態にあるのだ。
だから私は彼の反応を待たず、早口で続ける。
「そっちは相変わらずだな。私はもうすっかり腑抜けちまってるよ。アンタは病気と必死で戦ってるってのに、情けねえ話だよなぁ」
「……」
「でもさ、やりたい事が無いんだよ。どこで何をやるにせよ、アンタがいないってだけで一気につまらなくなっちまう。それくらい、アンタと過ごした3年間は強烈だったんだ。……私は、どうすればいいんだろうな」
私はそこで、近況報告のつもりがいつの間にか愚痴になってしまっている事に気がついた。
これではいけない。本当に辛いのは相棒の方なのに。
私はどうにか話題を変えようとするが、今の自分に彼を楽しませられるような話など出来る筈もなく、結局は口をもぞもぞと動かすだけになってしまう。
「いや、何でもない。じゃあ、また明日来るからな」
- 4121/11/07(日) 00:17:02
私はそう言って逃げるように病室を出た。
廊下を渡る途中で、ある女性とすれ違う。
「あら、ナカヤマちゃん。久しぶりね」
「……久しぶり、っすね」
馴れ馴れしく声を掛けてきた女性にぎこちない返事を返してその場を去ろうとすると、女性は心配そうに聞いてきた。
「あの子の様子、どうだった?」
まあ無理もない。彼女こそトレーナーの母親なのだから。
優しげな目元が相棒によく似ている。いや、正確には相葉が母親に似ているのだが、それはこの際どうでもいい。
「どうだった、と言われても」
「まあ、そうよね」
母親はバカな質問をしたと思ったのか、そそくさとトレーナーの眠る病室に入っていく。
私はその背中を見送ると、トレセン学園の寮に帰っていった。
- 5121/11/07(日) 00:17:37
「おう、おかえり」
「ただいま……っておい」
同室のシリウスシンボリが声をかけてくる。
私は挨拶もそこそこに、この部屋に起きたとある異変に気がついた。
普段私の寝ているベッドに我が物顔で鎮座する、本来いる筈のない生き物。
ゆらゆらと揺れる尻尾、黒い毛並み、少し濁った瞳。
そして、にゃーという鳴き声。
「それ、野良猫だよな。どう見ても」
「なんか気付いたらここにいたんだよ。追い出そうとしてもテコでも動かねえし、困ってたんだ」
「そうかい、そんなら私が……」
外に出してやる。そう言いかけて手を伸ばすと、黒猫は驚くべき瞬発力で私の胸に飛び込んできた。
慌てて受け止めると、そいつは心から安堵した様子で私の顔を舐め始める。
「随分懐かれてるじゃねえか。餌でもやったのか?」
「知るか、こんな野良猫」
揶揄ってくるシリウスが鬱陶しい。結局私はこの野良猫を追い出す事が出来ず、その日はこいつと夜を明かしたのだった。
- 6121/11/07(日) 00:18:14
続きは明日書きます
- 7二次元好きの匿名さん21/11/07(日) 00:29:48
たのしみに待つぜ
- 8二次元好きの匿名さん21/11/07(日) 06:18:58
これはいい…待ってます