- 1もうちっとだけ続くんじゃ23/01/08(日) 20:35:30
お兄ちゃんは———久しぶりに風邪をひいた
あまりに体が重く長らく使っていない体温計をあちこちの収納をひっくり返して探すなど不可能で熱がどれほどかは分からない。まあ電話越しに声を聞いてるだけのたづなさんがとにかく休めと勧めてくるくらいだからよほど酷い熱に違いないのだろう。
「病院行かなきゃなあ……無理か」
せめてもう少し熱が下がってくれないととても病院へなど行けそうにない。そう思って床に伏せっていたらもう夕刻である。
「弱ったなぁ飯どうにかしなきゃ」
弱々しくそう呟きながらお兄ちゃんはスマホを開いた。メールやLAENを見ると昼頃に同僚達が送ってきた応援メッセージが表示される。エアグルーヴのとこやルドルフ会長のとこや桐生院さんもちろんお姉ちゃんこと自分の相方、果ては理事長まで同僚達の励ましを見ているとカップ麺くらいなら作れそうな元気が湧いてきた。
「……ホント何やってんだこの人たち」
相変わらず担当の人体実験のせいで光り輝くタキオンのとこのトレーナーの自撮りを見て思わず脱力する。まぁいつも通りの日常ほど見てて元気になるものはないのでこれはこれでありがたい。光りすぎてて何を写してるんだか分からなくなっているが。 - 2もうちっとだけ続くんじゃ23/01/08(日) 20:35:56
立ちあがろうとした時インターホンが鳴った。応答をするがドアの向こうに聞こえるほどの声量とはとても思えない声しか出なかった。しばらくすると焦ったように鍵が開けられた。どうやら合鍵を使ったらしい。
「大丈夫なのお兄ちゃん!?」
入ってきたのはカレンチャン、つまり自分の担当だった。
『なんでここに!?感染ると危ないからはやく』
「こんな弱々しい思念しか送れないような重症なんだから寝てなきゃ!!ちょっと台所借りるねお粥作るから」
なけなしの気力でもって帰るよう思念を飛ばしてみたが逆効果だったらしい。カレンが室内に入り米を研ぎ始める。
「冷えピタも風邪薬もないみたいだしちょっと買ってくるね。絶対安静だよお兄ちゃん」
炊飯器のスイッチを入れたカレンが彼女にしては珍しいかなり厳しめの声音でそう告げ慌ただしく部屋を出て行く。
「……情けないなぁ俺」
年下のしかも散々自己管理がどうこうと教えてきた担当にこうも世話を焼かれるようではトレーナー失格だ。 - 3もうちっとだけ続くんじゃ23/01/08(日) 20:36:36
しばらくして店から戻ってきたカレンが枕元に座る。流石に情けないので自分でやると言っても彼女は聞かずに冷えピタを貼ったり薬を飲ませたりと色々世話を焼いてくれた。
「……さっきお米を炊こうとしたら水銀って書かれてた段ボール見かけたんだけどアレっていったいなんなのかな?」
「この間知り合った仙人が送ってくれたんだ。結構美味しいけど危ないから食べないでね」
「たぶんアレの封を開けても無事でいられるのはお兄ちゃんとお姉ちゃんくらいだと思うなぁ……」
水銀の毒性は知っているが超人だらけの同僚達を思い返すと割とへっちゃらな気がするのは風邪のせいでまともな思考力が吹き飛んでいるからだろうか?ともかくそんな感じで他愛もない話をしたり今日一日の話をしたりして米が炊けるのを待っていた。どうやら今日の分の仕事はお姉ちゃんが代わりにやってくれてたらしい。アイツって大量の安酒と一本の高級酒ならどっちの方が好みだろう?
炊飯器がピーピーと音を立てるとカレンが台所へと向かう。何十分か前に帰れと言ったばかりだが慌ただしさが去ったからかちょっと離れられるだけなのにひどく心細い。
「アヤベさんに『今回は相手の健康を想うならカワイイは無し!』みたいなことを必死の形相で言われたんだ。だからシンプルなお粥にしてみたけどお口に合うかな?」
ありがとうアドマイヤベガ!今度最高の天体観測スポットを教えてあげよう。そんなことを考えているとカレンに上体を起こされた。なんとなくイヤな予感がする
「……ありがとうカレン。えっと器とスプーンをもらえるかな?」
「ダメだよお兄ちゃん。カレンが食べさせてあげる」
「いやでも」
「ダメ」
「……はい」
観念するしかないらしい。スプーンで掬われたお粥がふーふーとカレンに冷まされ自分の口に運ばれる。俗に言うあーんというやつである。それはまぁ自分とて男だしカレンにこういうことをしてもらえて嬉しくないといったら嘘になるけどねだからといって大の大人がというのはちょっとねそれにこういうのはちゃんと結ばれるかせめて恋人同士になってか……
「……滝行したい」
「さすがに怒るよお兄ちゃん」 - 4もうちっとだけ続くんじゃ23/01/08(日) 20:37:09
「お粥ありがとうね。美味しかったよご馳走様」
「食欲があったみたいで安心したよお兄ちゃん」
なんでもちょっと多めに作ってくれていたらしいお粥をすっかり平らげてしまったようで自分でも驚いている。まぁ、当然ではあるか
「好きな人が作ってくれたものだし」
「えっ」
「………あっ」
多少元気にはなったが未だに熱で頭がぼーっとしているせいで心の中だけのつもりが口に出てしまったらしい。そのことに気づいた途端病気由来のそれとは全く別の熱で顔が熱くなる。それはカレンも同様らしくお互い言葉にならない声を出すしあいながらしばらくして顔を逸らす。相手の顔を見ていられない。
「ああ……その、えっと……そうだ食器!ちょっとカレン食器洗ってくるね!」
「そうか、助かるよありがとう。いや本当助かるなぁうん助かる」
本来ならそこまでやる必要はない、明日自分でやるから水につけといてとか言うのだがこの気まずい空気を打ち破るためにここは甘えてしまおう。食器が洗われる音だけが部屋に響く。そんなやけに長く感じる時間が過ぎるうちお互いさっきの発言は忘れることにするという暗黙の了解が成立した。 - 5もうちっとだけ続くんじゃ23/01/08(日) 20:38:00
「そろそろ寝るか」
時刻はまだ21時にもなっていないが今の体調ならどうにかなるだろう。カレンに甘えっぱなしだったのに寮まで送り届けられないのが情けない。
「アイツに頼んでみるか」
『お姉ちゃん』に仕事もカバーしてもらってることもあって申し訳ないが……
ガチャリ
「は?」
突然響いた音に思わず間抜けな声が出る。音の発生源を見るとドアを施錠しチェーンまでかけているカレンがいた。彼女が再び自分の布団の方に来て座る。顔は上げていない
「あのカレンさん?何を……」
そこからはあっという間だった。何か柔らかいものに包まれたと思うと次の瞬間には上半身を倒されていた。次第に状況が掴めてくる。どうも自分は今全身をすっぽりと布団に覆われている状態で
「息とか苦しくないかな?お兄ちゃん」
教え子に抱きしめられているらしい。状況は掴めたがまるで意味がわからない。そんな動揺が伝わったのかカレンが続ける。
「今日さお姉ちゃんが言ってたんだ『風邪は感染せば治る』って 」
何言ってやがんだアイツ!それは迷信だろうがおたんこニンジン!!
「まぁお姉ちゃんは迷信だって言ってたけどね。……それでもちょっとでも早くお兄ちゃんに元気になって欲しくてついこんなことしちゃった。ごめんね」 - 6おしまい23/01/08(日) 20:38:38
そう言われると弱いが、風邪を感染すようなことがあってはならない。なんとか脱出して寮に帰さないと。とはいえ多少良くなったとはいえまだ結構な熱が出ているのもあってまともに払い除けることもできそうになかった。
「お兄ちゃん、いい匂い」
頭を撫でられながらそんなことを言われる。今日はシャワーすら浴びられてないのでそう感じて貰えるならよかった、のか?
「そういえば誰かが『いい匂いのする人は相性がいい』って言ってたなあ……お兄ちゃん、カレンの匂いはどう、かな?」
ああ、ダメだ安心感と暖かさとカレンのいい香りとでもう意識……が……
お兄ちゃんは——眠りに落ちた
次の日目が覚めるとお兄ちゃんの風邪はすっかり完治していた。が、勘のいい人たちになんとも生暖かい目を向けられ風邪以上にしんどい一日になったのはまた別の話である。 - 7二次元好きの匿名さん23/01/08(日) 20:44:43
寝たのか?眠ったのか?私、気になります!
あとなんで思念送れるのがデフォになってるんですかねえ… - 8二次元好きの匿名さん23/01/08(日) 20:44:49
看護シチュ書きてえ〜けどここ数年風邪もひいてねぇ〜とか思ってたらマジで正月の終わりに6、7年ぶりに38度超えの熱出したのでこれはもう天啓だろと書いてみた(今は多少喉の痛みと咳があるくらい)ちなみに本文の大半は7度5分〜8度5分の狭間で出力したものなので多少のアラは許して❤️
薬飲んでしっかり睡眠とっても下がらなかったのに(その日の朝改めて薬飲んだとはいえ)SS書いてたら熱がちょっと下がったつまり推しのSSは風邪に効く - 9二次元好きの匿名さん23/01/08(日) 20:49:29
- 10二次元好きの匿名さん23/01/08(日) 20:53:21
イチャラブ助かる(一部シーンから目を反らしながら)
読みやすい文量で良かったです!