たづな「すみません、こちら生徒会宛のお届け物なのですけど…」

  • 1二次元好きの匿名さん21/11/07(日) 02:19:23

    ある日、生徒会室に1つのダンボールが届いた。
    「こちら、生徒会宛のお荷物の様なんですけれど、中身が何か記載されていなかったので…お届けするか迷ったのですが」
    そう言ってこれを持ってきたのは駿川たづな。トレセン学園の理事長秘書だ。
    彼女はこの箱を受け取るかどうかの判断を求めに来たらしい。しかしこのダンボール、今朝いつの間にか、練習場のそばに置かれていたらしいのだ。そのうえ送り主の名前まで無いと来た。普通ならば不審物扱いされてもおかしくないのだが……。

  • 2二次元好きの匿名さん21/11/07(日) 02:25:49

    瞬き程の逡巡の後、生徒会長たるシンボリルドルフが
    「開けてみようか?」と言った。すると、隣にいた副会長であるエアグルーヴから待ったが掛かる。
    「ですが会長、中身も送り主も不明なものを不用意に空けるのは…」
    「軽いな」
    いつの間にか、ナリタブライアンがダンボールをひょいと片手で持ち上げていた。ウマ娘の膂力は人間のそれとは一線を画する物ではあるが、それにしても彼女の反応からすると、やはりそこまで重いものは入っていないのだろう。
    「おいブライアン、丁重に扱え!中身に傷が付いたらどうするんだ!万一の場合、送り返す事も出来んだろう!」
    「この程度で傷付くような梱包などするか」
    そのやり取りを見て、「まぁ良いじゃないか」苦笑しながら2人を宥めるシンボリルドルフ。
    「進退維谷。まず中身を確認しないことには、何も始まらないよ。それに、余りにも怪しければ、たづなさんもここまでは持って来ないだろう?」

  • 3二次元好きの匿名さん21/11/07(日) 02:34:58

    「……わかりました。では私が確認致します。」
    話がまとまった所で、何かあれば連絡するとしてたづなには一旦退室して貰い、エアグルーヴがダンボールを持ち上げて開封しにかかる。蓋を開けると中には緩衝材と共に紙袋が入っていた。それを取り出せば中からはさらに緩衝シートで包まれた物体が見えた。それは─
    「ビデオテープの様ですね」
    3つのビデオテープが出てきた。所々に擦り跡の様なものが見られ、新品では無い事が伺える。側面のラベルには、日付もタイトルも何も記載されてはいなかった。

  • 4二次元好きの匿名さん21/11/07(日) 02:35:55

    期待

  • 5二次元好きの匿名さん21/11/07(日) 02:36:31

    おっ、やべぇ暴露者だな!

  • 6二次元好きの匿名さん21/11/07(日) 02:46:11

    「再生できるのか?」
    ナリタブライアンが疑問を口にする。見た所、フィルムには問題が無さそうに見えるし、問題は無さそうだ。まあそもそもが、再生出来ないビデオテープをここまで丁寧に包装して誰かに送り付ける事などは無いだろうが。
    「確か、資料室に長い間使われていないテレビがある。それならば、ビデオテープを再生出来た筈だ。」
    シンボリルドルフの言葉の後、10分としないうちに準備が整った。
    「それでは、再生します。」

  • 7二次元好きの匿名さん21/11/07(日) 02:53:50

    今の時代、古い記憶媒体は再生が大変だ

  • 8二次元好きの匿名さん21/11/07(日) 02:56:11

    マルゼンさんちなら再生出来るから

  • 9二次元好きの匿名さん21/11/07(日) 02:56:37

    なおこのテープは再生十秒後に消去のため爆破する

  • 10二次元好きの匿名さん21/11/07(日) 02:57:51

    映像が流れ始めた。最初の数秒は砂嵐が続いたが、徐々に何かが見えてきた。まず真っ先に映ったもの…これは…ターフだろうか。ノイズが強く、細部まではよく見えない。そしてそのターフの上をゆっくりと動く、大きな「何か」が見えた。
    そしてその「何か」の上に、人が、乗っている…?
    「なんだ、コイツらは」
    「牛…いや、鹿か…?それにしては角が無いようだが」
    確かに、そう見えなくもない。4即歩行で、牛や鹿ににた体型でありながら、そのどちらとも違う特徴を持った動物が、人を乗せて歩いている様だ。
    そしてそのすぐ側に、見慣れた形が現れた。金属の様で、横一列に数字が並んだ柵の様なもの。
    「ふむ…これはスターティングゲートか」

  • 11二次元好きの匿名さん21/11/07(日) 03:02:52

    あっ…

  • 12二次元好きの匿名さん21/11/07(日) 03:05:10

    ウワーッ!

  • 13二次元好きの匿名さん21/11/07(日) 03:09:59

    「つまり…これはレースという事でしょうか?」
    「恐らくそうだろう。ただ、我々の知るものとは些か趣の異なるものの様だね。」

    しばらくして、動物達がゆっくりとゲートインしていく。
    先程まで鳴っていたバチバチとした音が心做しか静かになった気がする。あれは、もしや観客の声援だったのだろうか。それとも実況か?残念ながら音質もかなり劣悪なため、断定は出来ない。だがもしこれがレースだとするならば、有り得る話だ。

    そして、一瞬の静寂の後、動物達が一斉に出走した。
    それに合わせて、再びバチバチとノイズが鳴り響く。だが、先程までより、明確に聞き取れる声がある。
    「15………白…シャ……イア……」
    やはりこれは実況だ。この動物達の識別名を呼んでいるという事だろうか。

  • 14二次元好きの匿名さん21/11/07(日) 03:12:14

    なん...だと...

  • 15二次元好きの匿名さん21/11/07(日) 03:15:15

    これは流したら未来がわかるやばいやつ

  • 16二次元好きの匿名さん21/11/07(日) 03:16:12

    うわ、すきかも

  • 17二次元好きの匿名さん21/11/07(日) 03:31:05

    少しして、走る集団から1頭、圧倒的な速度で先頭に躍り出た。
    「5ば…………ルキ……あり」
    逃げの作戦なのだろう、後続の集団にぐんぐん差を付けていく。
    だが、これが我々の知るレースと近しい物であるならば、決着を判断するのはまだ早い。その考えを裏付けるかのように、終盤、第4コーナーにかけて、先頭と後方との差はいつの間にか縮まっていた。
    最終直線に入る頃には、先程まで先頭を独走していたものは後方に沈んでいき、外側から驚くべき速度で何頭かが前に躍り出た。

    筈だった。

    刹那、この3頭の争いになるかと思われた直線は、その内の1頭によって覆される。漆黒の毛並みに、白い装具を鼻先に付けたその個体は、文字通り圧倒的な速度で他の個体を突き放していく。
    「……とう……じょ…だ!」「……うと……ぶだ!」
    実況の声さえも興奮しているのが伝わってくる。

  • 18二次元好きの匿名さん21/11/07(日) 03:36:23

    ブライアンのレースか?

  • 19二次元好きの匿名さん21/11/07(日) 03:37:49

    もしかして残りはルドルフのダービーやエアグルーヴの桜花賞?

  • 20二次元好きの匿名さん21/11/07(日) 03:49:43

    決着は着いた。
    「…じょうご…んかん…」「じゅう……ぶり…」
    まるで地響きのような大歓声に包まれ、堂々たる姿を見せつけた騎手と動物の姿を最後に、映像はプツンと途切れた。

    数秒、誰も口を開くことは無かった。だが、皆それがどういう沈黙なのか、互いに理解していただろう。
    興奮した。熱狂した。血が滾るような思いが、心の底から湧き上がってきた。
    ふと、ナリタブライアンに目をやると、彼女は自らの胸にギュッと手を当てていた。押し殺すような、それでも溢れ出しそうな強い思いが、その手の震えから感じ取れた。

    ガタッ!

    「おいブライアン、何処へ行く?」
    「…どうせ残りも同じ様な映像だろう、ならもうチンたら眺める意味は無い。私はトレーニングに行く」
    エアグルーヴの制止に聞く耳持たず、ナリタブライアンは足早に生徒会室を去っていった。
    「待たんか!ブライアン!……全くあいつめ…」
    「行かせてやろう、エアグルーヴ。彼女の気持ちはよく分かる。正直な所、私とて今すぐ走り出したい程だよ。」

  • 21二次元好きの匿名さん21/11/07(日) 04:15:52

    「それは…確かに私も多少、感じ入るものはありましたが…」
    「それに、先程勝利した個体だが、どことなく彼女に似ている様な気がしないか?」
    沈黙するエアグルーヴ。確かに、「アレ」からはナリタブライアンににた雰囲気を感じた。強烈な刺し足、アグレッシブさに溢れつつも、安定感のある姿勢。比べれば比べる程、似ても似つかぬ2つの影が重なっていく。恐らく、それはナリタブライアン本人が最もよく分かっていた筈だ。
    「それで会長…他の2本も確認致しますか?」
    「……いや、止めておこう。」
    「…承知しました。」
    直感が告げている。もしこのままあのレースを見続ければ、きっと本能を抑えきれなくなると。
    そうして、3つのビデオテープは資料室に厳重に保管される事となった。

  • 22二次元好きの匿名さん21/11/07(日) 04:18:15

    まだ少し続きますが、流石に眠くなってきたので
    一旦キリのいい所で停止します。

    お昼前には書き上げようと思います。

  • 23二次元好きの匿名さん21/11/07(日) 04:28:33

    続き楽しみにしてます

  • 24二次元好きの匿名さん21/11/07(日) 04:41:21

    世界観設定的に考えると「同じ魂」なんだよな

  • 25二次元好きの匿名さん21/11/07(日) 04:50:11

    前に別の所でジョッキーからのメッセージが届いてトレセン学園が阿鼻叫喚になったネタを見たけど
    やはりこちらの世界とウマ娘世界がクロスするのはワクワクする

  • 26二次元好きの匿名さん21/11/07(日) 06:47:10

    良かった……SAN値直葬じゃなくてほんとによかった…

  • 27二次元好きの匿名さん21/11/07(日) 08:02:03

    うわ…すごく続き気になる…

  • 28二次元好きの匿名さん21/11/07(日) 10:26:26

    おはようございます。
    あと少しではありますが、続きを書いていこうと思います。

  • 29二次元好きの匿名さん21/11/07(日) 10:31:03

    1ヶ月後、ナリタブライアンは菊花賞に出走し7バ身差で圧勝、史上5人目の三冠ウマ娘となった。
    「あのレース」と同じ、外から差し切っての勝利。いや、差し切るというよりもはや、最後の数百mは彼女が逃げる形となっていた。「ぶち抜く」という表現が似合うだろうか。兎角凄まじい走りを見せ付けた彼女は、レース後のインタビューこそいつも通りのクールさを保っていたものの、その瞳には未だ煌々と燃え盛る本能が垣間見えた。

    だが、年末の有馬記念を前に小さな異変が起こる。あのビデオテープが、忽然と消え去ってしまったのだ。
    誰かに盗まれたわけでもなく、ある日突然、ビデオテープが置かれていた場所が空きスペースとなっていたのだった。

  • 30二次元好きの匿名さん21/11/07(日) 11:07:59

    その後、新年早々にナリタブライアンが宣戦布告。
    年度代表ウマ娘としての会見の場で、そこに集った歴戦の猛者たちと、頂点を賭け競い合おうと挑発して見せたのだ。

    シンボリルドルフは考える。あの日、もし残った2つのテープを見ていたら。そしてそこに映るものがもし、自分と似ていたとしたら…
    だが、既にそれを確認する術はない。その感覚を知っているのは、ナリタブライアンただ一人だけだ。
    「ふふっ、今思えば、とても惜しい事をしてしまったのかもしれないな。」
    「? 会長、何か仰いましたか?」
    「いや、何でもないよ。会議を続けよう。」
    今となっては知る由もないテープの中身。だが、あのレースを見て溢れ出した高揚感を、命を燃やす感覚を体感することは出来るはずだ。今の彼女とのレースなら。
    「エアグルーヴ。私は今年のジャパンカップに出走しようと思うんだ。」
    定例会議後に、シンボリルドルフは告白する。
    「…ブライアンですか」
    「先日の天皇賞・春は素晴らしいレースだった。メジロマックイーン、そしてミホノブルボン。これまでにもレースの世界を盛り上げてきた勇士達が、英姿颯爽たるナリタブライアンに呼応して再びウマ娘達に情熱と夢を与えている。私も既に、最前線からは一度退いた身だ。だが、今の彼女とのレースから私も何かを得られそうな気がしてね。…それに、以前約束をしたんだ。『時が来たら』と。」

  • 31二次元好きの匿名さん21/11/07(日) 11:56:19

    「では秋に向けて、先に終わらせられる業務は片付けなければなりませんね。」
    「すまないな、無理を言ってしまって。」
    「いえ、これも副会長として当然の事です。」
    2人は微笑み合いながら、次の仕事へと取り掛かった。

    そして秋。遂に迎えたジャパンカップ当日。
    天皇賞・秋でのオグリキャップとの対決から始まった、ナリタブライアンの秋シニア三冠への挑戦。その2つ目の壁として、シンボリルドルフが立ち塞がる形となる。
    ルドルフが出走を表明して以来、世間は大賑わいだった。何せあの「皇帝」が再びターフを駆ける姿を拝めるのだから。

    1度は全線を退いた身とはいえ、その実力にいささかの衰えも無い。寧ろ、「ナリタブライアン」という新たなスターを前にして、更に存在感を増す彼女であった。
    世界各国から集まる選りすぐりの強者たちを尻目に、会場の注目はパドックの2人に集まる。
    「…ブライアン。」
    「何だ。」
    「……ふっ、いや、何でもないよ…良いレースを。」
    「……」

  • 32二次元好きの匿名さん21/11/07(日) 12:14:11

    あの日、魂を揺さぶられた。夢のために抑えてきた衝動が、解き放たれようと理性の檻に牙を突き立てた。
    これから私は、「皇帝」としてではなく、ただ1人のウマ娘として勝ちに行く。「あのレース」の様に。
    それが、見るもの全てにあの興奮を与えられるのならば。
    それが、全てのウマ娘の幸福に繋がるのならば。
    喜んでこの身を衝動に委ねよう。

    ゲートインが完了する。鼓動が速い。
    まるで「早く走りたい」と身体が訴えているようだ。
    いよいよ出走だ。
    静寂が訪れる。
    息が止まる。
    そして今───



    その日は、間違いなくレース史に刻まれる1ページとなった。
    観客は、皆一様に心を奪われただろう。
    こうしてターフを駆けるウマ娘達の魂は、時間も空間も飛び越えて、またそれを見る次の世代へと受け継がれていくのだ。

  • 33二次元好きの匿名さん21/11/07(日) 12:16:44

    以上で終了となります。
    見て下さった方は、お付き合い下さりありがとうございました。
    拙い文ではありますが、ひとまずは書けて楽しかったです。

  • 34二次元好きの匿名さん21/11/07(日) 13:32:45


    ルドルフの威厳ある姿、やっぱカッケェ

  • 35二次元好きの匿名さん21/11/07(日) 16:25:25

    面白かった

  • 36二次元好きの匿名さん21/11/07(日) 23:10:35

    馬ブライアンを見て興奮を抑えきれず、でもそれを言葉にせず黙って出ていくウマブライアンにエロスを感じた

オススメ

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