- 1二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 20:26:42
- 2二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 20:28:10
ええやん、続けて
- 3二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 20:29:31
あの細っこい体に打たれた痣とか首絞め跡とかくっきり付くのかぁ…
- 4二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 20:29:34
首絞めおせっせとかに目覚めそう
- 5二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 20:30:07
ボブ自身は終わった後でいくら自分を巻き込んだテロリスト相手とは言え幼い少女相手にやらかしたこと死ぬほど後悔してて欲しいよね
- 6二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 20:46:49
もしかしてパーメットスコアってとんでもなくスケベなのでは?(錯乱)
- 7二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 20:47:57
首締め苦しい…死にそう…でも、私生きてる!!
- 8二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 20:50:17
- 9二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 21:18:37
- 10二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 21:30:28
- 11二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 21:32:07
愛に飢えてるの好き
- 12二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 21:38:05
- 13二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 21:44:00
パメセクは危険だからダメです
- 14二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 22:03:09
「ねぇボブ…いや、「グエル・ジェターク」さんかぁ…w」
船を攻撃してきたMSを撃墜し、フォルドの夜明けを救ったグエルは回収され地球への「帰路」についていた。
「アンタのおかげで助かったよぉ、あのままだったらガチで危なかったもんね〜」
語りかけても、グエルはテロリストを救った功績を讃えて与えられた個室の片隅でただ黙っているだけであった。
「あはっ、もしかしてドーテーだった?!そりゃそっか、人を傷つけなくても食っていけるスペーシアン様は経験なんかないよね〜」
「……何の用だ」
「別にぃ?私たちを救ってくれた英雄様にお礼しておこうと思って。ついでにあのMSについての事情聴取」
喋りながらソフィはボブが座るベッドの隣に勢いよく腰を下ろした。
「まさかアンタがジェターク社の御曹司だったとはねえ…だからMSにも詳しかったんだ」
やはりグエルは黙っている。
「ねぇ、何とか言いなよ、せっかく私が楽しくお喋りしにきてるんだからさ。アンタの態度次第じゃ大事なお仲間の命も…」
グエルはやっとソフィを睨みつけることで反応を示した。
「おお、いい顔できんじゃん!やっとお話できそうだねえ」
状況に似つかわしくないほどソフィは無邪気に子供らしく笑う。
「アンタあのMSを撃墜した瞬間、緊急回線で語りかけてたよね、父さん、父さーんって。まさかとは思うけどさ、あれに乗ってたのって…ジェタークのCEO?」
グエルはそう言われて、先程までの顔とは別人のように怯え、頭を抱えた。
「お、俺は…違う、違うんだ……ただプラントクエタを……スレッタマーキュリーを守りたくて……」
「スレッタお姉ちゃんのこと知ってるの!さっすがエリートのスペーシアン様!顔が広くて羨ましいなあ…
てゆーかやっぱり図星なんだあ、そっかあジェタークのCEO、息子に殺されちゃったんだねwCEO自ら出撃して最期にはテロリスト側になった息子に殺られるなんて…ホントに哀れw」 - 15二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 22:07:02
続けてくれ
- 16二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 22:22:59
「おい…父さんを……ジェターク社のCEOを馬鹿にするな……!」
俯いていたグエルは気付けばまた怒りを取り戻していた。数分前と異なるのは両目から涙が流れ落ちていることだったが、グエル自身はそれには気づいていなかった。
「こっわーw、でもアンタには何もできないよ。アンタは捕虜で、しかもエリートのスペーシアン様。親を殺したぐらいでウジウジ泣いてるような人間に私は傷つけられない」
そう指摘されてグエルはやっと頬を流れる涙を腕で拭うことができた。
「私たちはアンタらスペーシアンの何倍も悲しんで、苦しんでんの。子供ってだけで優しくしてくれる宇宙のぬるま湯育ちとは違う。私のことをか弱くて、小さいガキだと思ってるんでしょ?
私はアンタより不味くて少ない飯しか食ってないけど、アンタよりよっぽど強いんだ。おい、言い返してみろよ、親殺しのクソエリートスペーシアンが」
ソフィが言い終わるころには、グエルは怒りに任せてソフィを押し倒していた。 - 17二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 23:03:58
「おい…離せよ」
腰に下げていた銃に伸ばした手をベッドに叩きつけられたソフィはつぶやいた。
「今ならまだ許してあげるけど?アンタに私を傷つける覚悟があるの?温室育ちのスペーシアンさん」
実際グエルはそのまま何もできないでいた。父親への思いも会社のプライドもズタズタにされて、なお目の前の10代の女の子に暴力を振るうことはできなかった。
「なーんだがっかり。結局何もできないんだ……そういえば私、スレッタお姉ちゃんに会ったよ」
何か思いついたようにソフィがスレッタのことを話し始めると、グエルは食いついた。
「本当か?!スレッタは…アイツは無事なのか?!」
あれだけ落ち込んでいたグエルの目に少しだけ光が戻ると、ソフィはますますスレッタ・マーキュリーという人物に興味を抱いたと同時に、それだけスレッタが誰かに思われていることに嫉妬した。
「……もういないよ」
グエルの顔から血の気が引いたのを見るとソフィは嬉しそうに嘘を並べた。
「襲撃を始めてすぐ、スレッタお姉ちゃんを見つけたんだ。でもエアリアルは近くになくて…勿体無いけど動かれても面倒だし、私があの世に送ってあげたの」
「おま、お前が、スレ、ッタを……」
グエルは父親を殺してまで守りたかったものが失われたことを知らされた。声というよりも音程を持った悲鳴をどうにか捻り出すのが精一杯だった。
「そうだよ〜、大丈夫、苦しまないようにサクッと片付けたから!今頃お父さんに挨拶してるって〜w」
グエルの目に映っているのはもはや子供ではなく、おぞましいテロリストで、思い人の仇だった。
「お前、お、前だけ、は…!!」
グエルは持てる力の全力をもってソフィの首を絞めた。 - 18二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 23:14:57
- 19二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 23:15:59
夜は寒いから履いとけ
- 20二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 23:17:53
- 21二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 23:18:46
わっふるわっるふ
- 22地球の魔女23/01/09(月) 23:30:15
- 23二次元好きの匿名さん23/01/09(月) 23:41:11
顔を真っ赤にしてジタバタと暴れているそれを、グエルは決して離さない。ソフィが獣のように暴れても、片手だけでも抑えられるほどの力しかなかった。
一分もするとソフィはまるで抵抗しなくなり、目は虚ろになり、涙を浮かべた。
グエルはついに手の力を緩めてしまった。
「…やめるの?」
数十秒程度の沈黙がグエルには数日にも感じられた。
「……クソスペーシアン!親殺し!女の子一人守れないで何が次期CEOだ!」
ついさっきまで首を絞められていたとは思えないほど、ソフィは大声で罵倒する。
「ほら、早く黙らせないと誰かが気づいちゃうよ?そしたらアンタも、アンタのお仲間も、みんな死ぬんだ!自分の命も守れずに無様に死ぬんだよ!」
首を掴んでいるグエルの腕に明らかに栄養が不足した細い腕が伸びる。本来絶対に動かせないほど太い腕を、ソフィは自分の胸に移動させた。
「殺せないなら、めちゃくちゃにしてみろよ!仇も討てない弱虫!スレッタを死なせたのは…お前だろ!」
俺がスレッタを殺した。父さんの機体を撃つのを躊躇ってたから。俺は父さんを殺しまでしたのに、スレッタもプラントクエタも俺自身も守れない。いっそせめて仇を討つこともできない。
俺は…… - 24二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 00:08:01
ソフィの白い服を力いっぱい引っ張ると、簡単に破けた。何度も着ているのか、伸びきっていて生地が薄くなっていた。
グエルが動き出すと、ソフィはまた抵抗を始めた。身を捩り、手を振り払い、叫んだ。
「や、めろ!助けて!助けてノレぁっ、んぐっ?!」
これ以上叫ばれてはまずい。グエルは体を押さえ付けている両腕を動かすわけにもいかず、唇を重ねた。
二人の舌と歯は絡み合うというよりも、相手を追い出そうと戦っていた。
「大人しくしろ…!」
子供相手にこんなことをしながら自分の口から出てくる言葉に驚きつつも、グエルはソフィのズボンを脱がせた。ソフィの腹や足には、古い痣がいくつも浮かんでいる。
ソフィの脳にはもう酸素が回っていなかった。首を絞められてから休めたのはグエルが戸惑った数十秒の間だけだったからだ。
「やめろ…やめて…」
口から出る声は少しずつ小さく、弱々しくなっていった。 - 25二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 00:09:16
(ソフィは無意識に痛みを求めているので、襲うよう仕向けはしますがそれはそれとして全力で抵抗します)
- 26二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 00:31:20
ノーマルスーツは着脱が大変そうに見えて、実際は思いのほか簡単に着脱することができる。非常時を想定してそう設計されているのだ。
だがこの場においては、ソフィに逃げる猶予を与えないことにしか役立たない。
グエルは彼のモノを乱暴にソフィに挿入した。
「ぐっ、ふぅっ!!やめ…やめ、て……痛い…」
歳は分からないが、少なくとも15歳にはなっていないであろうソフィの体をグエルは弄った。
なぜ自分はこんなことをしてしまっているのか。もちろんソフィのためでもなく、また自らの快楽のためでもなかった。それは仇を討つこともできない自分への、精神的な自傷なのではないかとすら思えた。
一方、ソフィにもはや抵抗する意志は残っていなかった。さんざん煽って結局力では勝てない屈辱を味わっていたし、単純にもう体力が残っていなかった。
「あ……あ……」
恐らく天井を見ているであろう目には光はなく、大粒の涙がこぼれ落ちる。
しかし同時に、息をできぬような苦しみを味わうことは彼女にとって最も生きていることを実感できる瞬間でもあった。組織に拾われる前に受けていた暴力も、ガンダムに乗っているときに感じる苦痛も、彼女にとっては生きている証なのだ。 - 27二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 00:59:29
ソフィの肉体は痛みで悲鳴をあげているのに、彼女の心はかつてないほど満たされていた。誰かによって痛みつけられると、まるでその人に生かしてもらっているかのように錯覚した。
グエルの背中に腕を回すと、痛みに耐えるように思い切り爪を立てた。爪に血が滲む。
「痛い……けど生きて、るんだ…生きてる!」
グエルは腰の動きを早めた。歳に似合わぬ責任感でこれまで必死に生きてきた彼はこのような経験をしたことはなく、長く我慢しようとか相手を気持ち良くしようとか、そういう知識はほぼなかった。
「ぐっ…はあ、はあ…」
「ねえ…首、絞めて……生きてるって、思いたい……」
ソフィはそう懇願しながら、いつのまにかまた力が抜けていたグエルの腕を首へ持っていき、強く握りしめた。
二人分の力で強く首を締め付けるとと、ソフィは喉の奥に血の味を感じた。
「もう……、ぐっ、ああ……」
ぐったりとしているソフィをよそに、グエルは絶頂した。 - 28二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 01:25:32
ことが終われば、グエルは自分のしたことの重大さに気づくことができた。たとえテロリストであっても、思い人の仇であっても、自分より小さな子供に手を出してしまった。
「すまない……ごめん……ごめんなさい……」
謝っているのは父親になのか、ソフィなのか、スレッタなのか、あるいは自分か。グエルには分からなかった。
「なんで…謝ってんの……私はアンタの、仇なのに……」
人が人を傷つけるのが当たり前の世界で生きてきたソフィにとって、グエルの葛藤を理解することはできなかった。新しく腕についた痣を眺めながら、少し満たされたような気になっていた。
「お前…たしかソフィっていったな……ごめん、二度とこんなことしないから……今日はもう、一人にしてくれ……」
は?
終わったら抵抗してやろう、煽ってやろう、あるいは何もできず死ぬまでここで弄ばれるのかとすら思っていたソフィは、不意打ちを喰らった。
グエルの言葉はソフィにとって受けた苦痛の否定、つまり生きることの否定のように思えた。
「なに…それ……さんざん好き勝手しておいて、私まで否定する気なの?!アンタがその気なら、こっちだって……!!」
ソフィはグエルに飛びかかり、首を絞めた。
グエルはすぐに払い除けられるはずなのに抵抗もせず、受け入れようとしているわけでもなかった。
そこにはただ首を絞めているという事実しかなかった。
「っ……!!なんなんだよお前!!グエル・ジェターク……!!この……!!」
それ以上、言葉が出てくることはなかった。
今まで感じたことのない気持ちに戸惑いながら、ソフィは部屋を出た。
とりあえずこんな感じだ - 29二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 01:31:32
何度も煽りにくるとは言ったが、何度もグエルが手を出すとは書いてないからね!このままソフィちゃんには屈辱と知らない感情への戸惑いを味わってもらうのもありかと思います!
- 30二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 01:36:56
- 31二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 01:38:27
最高
最後までスレッタを殺してないことを黙っていて欲しい - 32二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 03:16:47
最初は痛みだけだったんだけど、次第に快楽を感じてどっぷり嵌まって行ってほしい。
- 33二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 08:01:56
良きSSだ…
- 34二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 11:09:02
頼むから日課になっててくれ……
- 35二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 11:16:39
これは責められる口実としてもなんだけど、ソフィにとっては命に重さの違いなんて無くて、例えスレッタを殺してなくても他の人を殺している以上変わらないという考えを持っていて欲しいからですね
- 36二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 12:45:37
美しい…
- 37二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 15:05:50
暗い可哀想…でももっと見たい…
心がふたつある〜 - 38二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 21:48:30
ほしゅ
- 39二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 22:21:07
ノレアがこれ知った時も楽しみだな……
- 40二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 22:56:57
ソフィは痛みに慣れてそれが当然だと思ってるので、誰かを傷つけたらその分自分が傷付かなきゃいけないみたいな強迫観念を持っててほしい
今のグエルならそれが少し理解できるけど自分より年下の女の子に背負わせるには重すぎてどうしていいか分からなくなるんだ - 41二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 23:09:40
- 42二次元好きの匿名さん23/01/10(火) 23:16:04
痛くないのに生を強く感じるようになった瞬間なんだよな……痛くないのにドキドキするんだよな……
- 43二次元好きの匿名さん23/01/11(水) 00:11:06
地球についてから何度、何を言ってもグエルが手をあげることはなかった。声を荒げたかと思えば、すぐに風船が萎むように落ち込んでしまう。ソフィには意味が分からなかった。
グエルが捕虜として仕事を手伝わされているとき、ソフィは無邪気な笑顔を何度も見せた。しかし時々、ほとんど言いがかりのような理由で他の船員の命を盾に取ってグエルを痛みつけた。
その時ソフィはまるで「殴り返してみろ」と言わんばかりに挑発的な笑みを浮かべているのだった。
「ソフィ、アンタ最近アイツに入れ込みすぎ」
「うるさいな〜ノレア。別にどう扱ったっていいでしょ、ただのクソスペーシアンの捕虜なんだから」
「そうじゃなくて…アンタが最近おかしいって言ってんの」
「私は何も変わらないよ。ただのアーシアンのテロリスト!」 - 44二次元好きの匿名さん23/01/11(水) 00:16:12
コレ絶対、それを望んでる顔で付けられた傷や痕を撫でてるやつだぁ………!
- 45二次元好きの匿名さん23/01/11(水) 01:45:43
一日の仕事を終えて部屋に戻ろうとすると、ソフィに呼び止められた。ついてくるよう命令され、グエルは階段を登った。
フォルドの夜明けの拠点になっている廃校の屋上からは周りを一望できる。それは戦争で周りの建物が軒並み崩れ去っているからだったが、とにかくこの辺りで最も高い建物はこの校舎だった。
「ねぇ、綺麗でしょ♪私はここから見える夕日が一番好き!」
鋭い歯を覗かせながらソフィはにっこり笑った。こうしてみると、やはりとてもテロリストには見えなかった。
「……ああ、そうだな。地球から見る太陽がこんなにも綺麗だなんて、思わなかった」
「スペーシアンは知らないもんね〜、地球の美しさ!さんざん汚されたけど……まだこんなに綺麗なんだ!すごい星なんだよ!」
少女は自慢げに故郷を自慢してみせた。
「大変じゃない日はないけど…この夕日を見てると、許されてる気がするんだ。ホントはそんなことないのにね」
グエルのしばらく使っていなかった顔の筋肉が少し動いた。同時に、ソフィの最後の言葉がグエルの口から質問を吐き出させた。
「お前は…ソフィは、誰かに許してほしいのか?」
ソフィはその言葉にあからさまに不機嫌になった。考えたくないことを無理やり話題に出された気分になった。
「……別に。地球で生きてて罪のない人間なんていないし。生きるために……誰かを傷つけるのなんて当たり前だから」
(自分で書いといてなんだけど地球を自慢するところは泣いた) - 46二次元好きの匿名さん23/01/11(水) 10:12:24
ほしゅ
- 47二次元好きの匿名さん23/01/11(水) 11:23:08
故郷を大事に思ってる年相応な女の子してるの良い………
- 48二次元好きの匿名さん23/01/11(水) 18:58:50
善を探していきたいね
- 49二次元好きの匿名さん23/01/11(水) 19:28:21
ソフィはグエルに近づく。
「悪いことをしてるなんて思ったことはない。でも相手が苦しいってことは……私も苦しまなきゃいけないってことだから。じゃないと釣り合わないよ」
今のグエルにはそれが少し分かる気がした。父親を殺した罪人として生きながらえるなら、せめて苦しまなければならないと思えた。
違うのは少女はグエルより年下で、ずっと重いものをいくつも背負っていることだった。
「……なにその顔?私の話聞いてなかったの?私はテロリストで、アーシアンで、スレッタマーキュリーの仇。同情なんかするなよ」
グエルの立場を他人が見れば、たしかに同情してやる理由などなかった。だがグエルは何日もソフィと、フォルドの夜明けと過ごすうちに、一人一人の人間を見ていた。どんな人間にも信条があって、笑って、食べて、眠っていた。
「結局アンタも苦労したことないスペーシアンなんだ。明日生きられるかなんて今まで考えたこともなかったエリート様。同情するくらいなら、私を殴ってみなよ」
グエルはやはり俯くだけだった。
「やっぱ…こうしないと分かんないのかな」
ソフィは腰の拳銃を抜いて、グエルに突きつけた。 - 50二次元好きの匿名さん23/01/11(水) 19:57:28
骨董品の火薬式拳銃。それでも撃たれれば命に関わることは、たとえスペーシアンであっても簡単に理解できた。
「もう一回言うよ。殴り返せ。死にたくなかったら」
ソフィは指に力を入れた。このまま殴られなければ、引き金を引く。生きることは傷つけ傷つくこと。世界のルールに従わない奴を許しておくわけにはいかなかった。
「……俺は」
少女はグエルと同じだった。無論それはグエルの自惚であるかもしれない。父親相手とはいえ、たった一度手を汚しただけで少女の過去と釣り合うのだろうか。
だがそれでも、自分がこれから選ぶ道次第では少女のようになることは想像できた。
俺は……それでいいのか?父さんと戦って、殺して。生きるために何度も嫌な感触を味わうのが、運命なのか?
ソフィは俺を苦しめた。ソフィが苦しんでいるのは俺たちスペーシアンのせいだ。いつまでも続けることが、運命なのか?
進めば……二つだ - 51二次元好きの匿名さん23/01/11(水) 20:05:51
ソフィ、俺の拳より陣痛の方が痛いらしいぞ。今夜俺の部屋に来い
- 52二次元好きの匿名さん23/01/11(水) 20:33:13
銃声が響いた。この星では一発程度では気にかけるのは動物くらいだ。
銃口は何もない空を向いている。グエルはソフィを強く抱きしめていた。
「は?!」
またも予想していない反応が返ってきて、ソフィは驚愕した。
「……俺はお前のことなんて何も分かってない。苦労も知らない。同情なんてされても、ムカつくだけかもしれない。
でも、生きようとするだけで苦しまなきゃいけないなんて、そんなの間違ってる。間違ってると……思いたいんだ」
ソフィを思ってというよりは、自分に言い聞かせるようにグエルは語った。自分勝手な言い訳なのかもしれないとも思った。
「……生きることは苦しいんだよ。親を殺しても、まだ分かんないの?」
「そうだとしても……苦しみたいとか傷つきたいとか、そんなふうに思うな」
それでもソフィにとって「ただ生きている」ことを認めるような言葉は新鮮で、今まで聞いたことがなかった。
拳銃はいつのまにか、手から滑り落ちていた。
(いい話風ですが根本的解決はなにもできてないのでここのBGMは祝福アレンジです) - 53二次元好きの匿名さん23/01/11(水) 20:48:27
(グエルの性格と病み具合だと二人して苦しむルートもありかと思ったんですけどグエルにはアーシアンとスペーシアンの架け橋になってほしいのでこのルートとなりました)
- 54二次元好きの匿名さん23/01/11(水) 22:56:30
素晴らしいソフィの年相応な仕草がまた良い
- 55二次元好きの匿名さん23/01/12(木) 01:31:28
これはいいものだ
- 56二次元好きの匿名さん23/01/12(木) 12:38:41
ほ
- 57二次元好きの匿名さん23/01/12(木) 13:02:51
「アンタ、ソフィに何を吹き込んでるの?」
「俺は…別に何も」
「ならいいけど……あの子を変えようとか余計なことは考えないで。……何かを支えにすると、失った時後悔するから」
すれ違ったとき、ノレアはそれだけ伝えた。
かつて小学校だったらしいこの場所は、今では難民キャンプとなっていた。
こんな状態でも子供というのは活発で元気に走り回っている。その輪のなかでは、ソフィは姉だった。
「ここの人たちはお前たちが……テロリストだって、知ってるのか?」
「はっきり言ってるわけじゃないけどなんとなく分かってる人はいるよ。だからって他に頼るところもないんだ」
ソフィに連れ出されて子供の相手をさせられていたグエルは、日陰で休んでいた。
「……お前たち一人一人を憎むのは筋違いなのかもしれない。だけど俺はやっぱりお前たちのやってることは間違ってると思う」
「ふーん、まあいいんじゃない?別に私もそれは許してもらおうなんて思ってないしね」
あれ以来ソフィが挑発することは極端に減ったが、結局のところ二人の関係はテロリストとその捕虜だった。
グエルはソフィが人間であることに気づいたが、だからこそ同時に自らの立場や考えによって彼女らの味方にはならないと分かっていた。
それでも、少なくとも子供たちのために畑を耕すことは間違っていないとグエルは思うようになった。
「うわあ!!なんだこれ!!」
「スペーシアンはカナブンも知らないわけ〜w、大丈夫、刺したりしないよ」 - 58二次元好きの匿名さん23/01/12(木) 20:19:00
「アンタ、やっぱりソフィになんかしたでしょ」
グエルの部屋に入るなりノレアは問い詰めた。
「前も言ったろう、俺は何もしてない」
「嘘。最近ソフィはアンタの話ばっかり。これ以上あの子に関わらないで」
「俺は別に……」
「アンタのやってることはあの子から食い扶持を奪うことなの。綺麗事を言ってあの子がそれを真に受けたらどうする気?そのうち誰も殺せなくなってここにいられなくなる」
グエルは何も言えなかった。
「所詮アンタは捕虜なんだよ。仲間でもなんでもない。下手な同情するより生きることだけ考えな」 - 59二次元好きの匿名さん23/01/12(木) 20:20:57
地獄になってきたな
- 60二次元好きの匿名さん23/01/12(木) 21:27:01
いつも通りに畑仕事をしている時、グエルは話を切り出した。
「なあソフィ……お前たちのリーダー…ナジって言ったか?ソイツともう一度俺たちの解放について話し合いたい」
ソフィは手を止めた。
「……無理だよ、グエルたちは大事なカードだし。ジェタークの御曹司なんて手放すわけないじゃん。それにただでさえ人手が足りないんだから、捕虜だろうがこき使わないと」
「俺はいつまでもここにいられるわけじゃない。父さんも死んで、会社の連中は俺を必死に探してるはずだ。ここにいるのが分かれば、アイツらはアーシアンを巻き込むのを気にも留めないだろう。
そうなるくらいなら俺の方からジェターク社に戻る。畑仕事を手伝わせてここが見つかるリスクを負うくらいなら、とっとと放り出したほうがいいはずだ。帰ってから正直に話して、父さん殺しを裁かれるならそれまでだし、会社のことを任されるなら権力を握ってお前たちとも話をつけられるかもしれない。どれだけ時間がかかるかは分からないが……どっちにしろお前たちにデメリットはないはずだ」
「いやでも……だけど……」
ソフィはなぜか帰ってほしくないと思っていた。なぜなのかは全く分からないがまだ地球にいてほしかった。
「俺は所詮捕虜だ。お前たちの仲間にはなれないし、なる気もない。ならジェタークの、父さんの息子として……スペーシアンとして、少しでも殺しあわなくてすむ方法を探してみたいんだ」
グエルの覚悟も理解できた。確かにそれが最善なのかもしれなかった。
それでも、ソフィの感情がそれを許さなかった。 - 61二次元好きの匿名さん23/01/12(木) 21:29:46
- 62二次元好きの匿名さん23/01/12(木) 22:06:10
「……嫌だよ」
以前感じた知らない感情が強くなっている気がした。
「嫌。帰って無事で済むわけないじゃん。それにここが見つかるわけない。どっからどう見ても普通の難民キャンプだし…」
「ベネリットグループがどれだけ強大かお前が知らないわけじゃないだろ。俺は知ってる、学園でも親父のそばでも何度もそれを見せつけられてきた。本気になればいずれここも見つかる」
「でも、でも……」
口の中が渇いてソフィは言葉を発せなくなった。とにかくなぜか嫌だった。生きるために必要なことをしてきた彼女にとって、嫌だからというだけで何かをしないという選択をしたことはなかった。
彼女はまた拳銃を抜いた。
「おいよせ……!」
脅しにならない。ソフィはそう思った。もう何日もグエルを痛みつけることはなかった。それにグエルの覚悟は本物だった。銃口を向けられる程度では止まらない。
第一ソフィ自身が、グエルを撃ちたくなかった。
ソフィは自分の頭に拳銃を突きつけた。
「なっ……!」
「やっぱり、ね……グエルは自分が傷つくより誰かが傷つくのが耐えられないんだ……ずっとそうだった……自分が苦しいはずなのに、仲間とか誰かの心配ばっかりして……」
もっと早く気づくべきだった。最初からそうやってグエルを誘導していたはずなのに。
「私を死なせたくなかったらさ、馬鹿なこと考えるのはやめなよ。他人を優先する甘ちゃんが生き残れるわけない。ほら、とっとと仕事に戻って」
グエルはまた腰をかがめた。もう口を開くことはなかった。
(おかしい、いちゃいちゃさせるはずがグエルの責任感とソフィの湿度がそれを許さない……)
(そしてネタ切れなのでどしどし幻覚を書き込んでください) - 63二次元好きの匿名さん23/01/13(金) 05:11:53
水星世界とやたら親和性高い人も認める良スレ
- 64二次元好きの匿名さん23/01/13(金) 07:41:25
そろそろ性的暴力、いっとく?
- 65二次元好きの匿名さん23/01/13(金) 08:39:53
かまってくれなくて自傷行為に走るソフィと、それを止めたので責任をもって首絞めックスするグエルとか?
- 66二次元好きの匿名さん23/01/13(金) 13:24:13
スレッタへの嫉妬とか面白いかも?ね
- 67二次元好きの匿名さん23/01/13(金) 21:35:03
あれから二人が話すことは随分減った。
グエルには焦りだけが募っていった。ラウダたちのためにも会社のためにも難民たちのためにも早くここを離れなくてはいけない。だが離れるとなればソフィはまた同じことを繰り返すのではないか。
「何を考えてるんだソフィは…」
ソフィも焦っていた。確かにグエルはいつまでもここにはいないだろう。会えなくなるならせめてもっと話しておきたかった。
「嫌われちゃったのかな……何考えてんだろ、テロリストなんだから好かれるわけないじゃん」
「ガ〜ンダム〜、ガ〜ンダム〜」
相変わらず間抜けな映像だとソフィは思った。
スレッタマーキュリー。あの強さは本物だっだ。まだどこかで生きているのだろうか。
…グエルはまだスレッタのことを考えているのだろうか。
なぜグエルが出てくるのだろう。関係ない、スペーシアン同士の交友関係なんて。
そうは思いつつも足はグエルの部屋に向かっていた。
「ねぇ、グエル?スレッタお姉ちゃんの最期聞きたい?」
「突然なんだ……」
「聞きたいか、聞きたくないか?」
「…聞きたくない」
まだ心の準備ができていなかった。いずれ聞かねばならない。進むというのはきっとそういうことだ。
「…スレッタお姉ちゃんはね〜、窓際に立ってたんだ。私のガンダムを見ると驚いてね、じっとこっちを見てた」
構わずソフィは話し始めた。
「……やめろ」
「ちょっと痛ぶってやろうと思って周りを撃ってやると跳ね回っちゃってw、でももう隔壁が降りてどこにも逃げられなくなってた」
「……やめろ」
「いつまでもそうしてるわけにもいかないからね、逃げ場のなくなったお姉ちゃんに近づいて、銃口を向けると…」
「やめろ!!」
グエルはソフィを殴った。
「あっ…」
「…痛ったぁ……」
やはりそうだ。誰かを傷つけられないグエルが唯一傷つけてでも守ろうとする相手。それがスレッタマーキュリー。
……ずるい。グエルは私を認めてくれたのに、私だけを見ていない。 - 68二次元気好きの匿名さん23/01/13(金) 21:38:12
- 69二次元好きの匿名さん23/01/13(金) 21:51:28
- 70二次元気好きの匿名さん23/01/13(金) 22:06:26
確かに
- 71二次元好きの匿名さん23/01/14(土) 04:16:00
欲望に正直でよろしい
- 72二次元好きの匿名さん23/01/14(土) 06:32:00
- 73二次元好きの匿名さん23/01/14(土) 11:20:55
- 74二次元好きの匿名さん23/01/14(土) 18:28:12
- 75二次元好きの匿名さん23/01/14(土) 21:47:13
「それでね、グエルにスレッタお姉ちゃんの話をしたらさ…」
「いい加減にしてソフィ。アンタらの惚気話に興味ない」
ノレアはソフィの話を遮った。
「…一度抱かれたくらいで愛された気になってるわけ?」
「えっ…なんで知って……」
「やっぱり。分かるよ、アンタおかしかったから。
分からないの?アイツは所詮スペーシアンで私たちの敵なの。少し優しくされただけで絆されちゃって、そんなんで戦争なんかできるわけない」
「グエルは悪い奴じゃないよ!グエルはグエルなりに……」
「なに必死になってるの?じゃあ一緒にテロリストになるって言ってくれた?いつまでも地球で私たちと仲良しこよししてくれるって言ったの?」
「それは……」
「…ソフィ、アンタのためだよ。あんな奴放っておきな。アンタが死ぬところが見たいほど私は趣味悪くないから。今のアンタにスペーシアンは撃てない、違う?」
何も言えないソフィを残してノレアは寝床になっている教室を出た。
ソフィは困惑した。グエルはグエルでスペーシアンはスペーシアン。撃てるはずだ、この星を汚した連中なのだから。それでもソフィにはノレアの言葉が引っかかった。
例えばスレッタマーキュリーだって…グエルを奪うスレッタマーキュリーだって…
またグエルが思考の邪魔をした。なぜ出てくるのだろう?ノレアが言うにはソフィはグエルから「愛された気に」なっているらしかった。
恋とか愛とかいうものにソフィは全く関わらずに生きてきた。というよりもそんな余裕はなかった。
よく分からなくとも、「私だけを見ていてほしい」という気持ちだけは分かった。だがグエルは宇宙を、会社を、スレッタを見ていた。
「どうしてそんな大きくて手の届かないのばっかり見てるんだろう」
なんとしても私を見させなくてはならない。
どんな手を使ってでも。 - 76二次元好きの匿名さん23/01/15(日) 05:24:27
これは魔女ですわ…
- 77二次元好きの匿名さん23/01/15(日) 14:54:51
いっそボブが魔性なのでは…
- 78二次元気好きの匿名さん23/01/15(日) 15:02:28
魔女はボブだったのか…
- 79二次元好きの匿名さん23/01/15(日) 15:53:56
ベッドで眠っていると気配を感じグエルは目を覚ました。
「ソフィ?」
彼の上には馬乗りになっているソフィがいた。
「おはよ〜、思ってたより早く起きたね」
「…何してるんだ?」
「ねぇグエル、アンタは私のこと愛してる?」
「はあ!?」
唐突に訳の分からない質問が飛んできた。いきなり何を言い出すんだコイツは?寝ぼけた頭では余計分からなかった。
「…馬鹿なこと言ってないで寝たらどうだ」
馬鹿なこと。ソフィはその言葉から自身がグエルにとって眼中にもないことを突きつけられた。グエルの優しさはソフィを愛していたからではなく生来の彼が持っているものだった。
ソフィだけのものでは、なかった。
そして恐らく彼の愛が向かう先はスレッタマーキュリーかジェターク社か家族なのだ。
ソフィは自分がそれらに嫉妬していることを理解した。
グエルに特別に愛されたい、思われたい。
やはり「愛された気」でしかなかった。ソフィが「愛している」のだ。 - 80二次元好きの匿名さん23/01/15(日) 16:33:28
いいねえ…このソフィは自分が誰かを愛せているだけでも嬉しいけど、その愛を満たしてほしいと欲望を重ねるんだ…
- 81二次元好きの匿名さん23/01/15(日) 16:40:57
グエルの言っていたことは結局のところアーシアン全部とかテロリスト全部に向けた言葉なのだ。ソフィにはそう思えた。
目の前の、自分だけへの想いがもっと欲しい。欲張ったことはこれまであまりなかったが、際限なく欲が溢れ出した。
ソフィはナイフを取り出した。
「…!お前、何のつもりだ……!」
それが当然自分に向けられるものだと思ってグエルは警戒した。しかし先日のことを思い出すと、それがこちらに向かない可能性に気づいた。実際に刃先は向こうを向いた。
「またさ、私のことぐちゃぐちゃにしてよ。できないならここで死ぬから」
テロリストが死ぬと言って捕虜を脅すなど喜劇のようだ。この脅しはグエルに備わった優しさがなければ成立しなかった。
「本当に何を考えてるんだお前は!?言っただろ、自分から傷つこうとするな!!」
「聞こえなかったの?早くして」
刃先からは血が滴っている。
「どうしても無理なら、またスレッタお姉ちゃんのこと馬鹿にしてあげよっか?」
ソフィはグエルがそれを一番嫌がるであろうことを理解していた。愛する者への侮辱というのは辛いし、怒りが湧き上がる。今なら理解できた。 - 82二次元好きの匿名さん23/01/15(日) 19:25:37
「どうしてこんなことを…」
「なんでだろうね?ただグエルに抱かれたいからかな」
「お前は……俺のことが好きなのか?」
「さあね。でもスレッタお姉ちゃんのことを考えてると思うとめちゃくちゃムカつく。ねぇ教えてよ、これが恋なんでしょ?」
グエルにも正直分からなかった。感情というのは説明がつかない。考えても答えは出ず、ただスレッタが泣いていたとき頭より先に体が動いていたことを思い出した。
「……グエルもよく分かんないんだ。まぁいいや、早く」
命令されて躊躇いつつも服を脱ぐ。たくましい体があらわになると、グエルの性器が萎えているのが分かった。
「それ、どうにかしてよ。できないでしょ」
何分かグエルは自分の手でいじってみたが一向に大きくなる気配はない。
痺れを切らしてソフィは足でいじめはじめた。それでもグエルは萎れたままだった。
「困ったなあ、このままだと私死なないといけないじゃん」
「…もう諦めてくれ。そんな気分じゃない」
そんなグエルにはお構いなしにソフィはベッドに寝転がった。
「じゃあさ、私の首絞めてよ。手ぐらい動かせるでしょ?」
「なんでだ?意味が分からない。俺のことが好きだとして……そんなことされて何が良いんだ?」
「黙ってよ。私も何でかよく分かんないけど、そうして欲しいの。早くして」
ナイフをひらひらとちらつかせながらソフィは言った。
「俺はお前を……傷つけたくない」
傷ついてほしくないとは言えなかった。偉そうなことを言っておきながら、目の前の女はスレッタマーキュリーの仇であると思うと、どうしても苦しんでほしいという心がグエルには生まれてしまう。それにグエルの持ち合わせた優しさが反発し、心を真っ二つに引き裂いていた。
傷つけたくないというのは、そんな感情から出た自分の尊厳を守る最低限の搾かすのような言葉だった。
「傷つけたくないならさっさとやってよ。こうやってほっとかれると……傷つく」
だがこの場においては、ソフィの心か体かを傷つけなければ乗り切れそうになかった。
(ハッピーエンドが見えねぇな?長くなってきたので序盤と矛盾してるような描写があったらごめんね) - 83二次元好きの匿名さん23/01/15(日) 19:47:16
グエルはソフィの首に手を当てるとじわりと体重をかけた。気道が閉まり息が出来なくなる。
「っ、足り、ない…もっと」
ソフィは最初の夜のようにグエルの腕を掴んでもっと強くするよう要求した。力が込められる。
頭が真っ白で意識が途切れそうになる。今グエルの力はソフィを苦しめながら生かすという矛盾した目標にのみ集中していた。この瞬間は紛れもなくソフィだけを見ていた。
甘ったれの綺麗事ばかり言うスペーシアン。思い人の仇を殺せない弱虫。しかも同情までして抱きしめてしまう変人。これだけ苦しめても暴力に頼れない腑抜け。殺せるように仕向けてやっても手を下せない弱者。
それが私が生きるのを認めてくれた人。 - 84二次元好きの匿名さん23/01/15(日) 19:51:16
自分の存在を憎みながらも唯一認めてくれた人に近づきたいやつ!!!
願いが歪んでいってずっと一緒にいるためにどうしたらいいか迷走しだすやつ!! - 85二次元好きの匿名さん23/01/16(月) 00:23:05
苦痛や痛みはソフィにとって生きる実感だった。
生きてきたなかで自らを守るために無意識のうちに育ったその感覚はソフィを歪ませた。
しかしソフィはこれまで感じたどんな苦痛とも違う、幸せな感覚を感じていた。
グエルが私のために力を使っている。絶対に死ぬことはないと分かっているギリギリの幸せな苦痛。私を死なせないための優しい腕。
顔が紅潮し涙が流れる。呼吸ができないことによるだけの反応ではなかった。
「あっ……ひゃっ……」
酸素が回っていないのに加えて幸福感で何も考えられない。
プツっと意識の糸が途切れそうになった瞬間、グエルの腕が離れた。
「っはぁ……はぁ……♡」
ビリビリと脳みそが痺れる。空気を大きく吸い込むと心地よさと切なさが襲ってきた。
「だめっ、はなれないで…ぎゅーってして、すぐ」
親と呼べるような人間もいたことのないソフィは初めて甘えるということを行った。意図的にというよりも自然と体が求めた行動だった。
大きく上下するソフィの胸は覆いかぶさるグエルの胸から心音を感じ取っていた。
先程とはまた別種の快感が流れる。全身とろけるよな、優しくも激しい痺れ。
全身から力が抜けナイフを持っていられなくなる。ちょうど以前拳銃を落とした時のような、しかしもっと強烈な優しさにソフィは包まれていた。
これはやばい……もう抜け出せない……
グエルの体が離れるとソフィは少し冷静さを取り戻した。
「またしてもらうから。できれば今度はソレ、元気にしといてよね」
「…こんなことはもうやめろ。俺はお前の思いには応えてやれない」
「駄目。次そんなこと言ったら殺す。この時間だけは……私だけ見てて。
まあでも……スレッタお姉ちゃんのこと忘れて一生地球に住むなら、やめてあげても良いよ?」
呼吸を整えるとソフィは自室に戻った。
(加古川ボブは程度の差はあれ、どのスレでも必ずグエルが煽られて無理やり攻めさせられてんな…
やはりグエルを研究すると世界は収束するのか?) - 86二次元好きの匿名さん23/01/16(月) 09:07:20
どの世界線のボブの揺らぎも結果ボブ襲い逆レ展開へと収束するのだ…
- 87二次元好きの匿名さん23/01/16(月) 09:14:39
まあ逆レからはじまる純愛も共依存もあるしな…
……逆レを経由しない世界線はないんですか? - 88二次元好きの匿名さん23/01/16(月) 13:52:52
お、お見合いからとかならワンチャン・・・・・・
- 89二次元好きの匿名さん23/01/16(月) 14:58:02
別スレでボブ=グエルは本質的に父性愛の男と言われてたのが興味深い
- 90二次元好きの匿名さん23/01/16(月) 15:36:20
- 91二次元好きの匿名さん23/01/16(月) 23:01:01
ずっと父親からの承認を求めていてそれを得る機会を永遠に失ってしまった青年が、それでも誰かを受け止めて守る側に立たなきゃならないというのもお辛くていいよね
- 92二次元好きの匿名さん23/01/16(月) 23:42:25
フォルドの夜明けの実力部隊は宇宙にいた。
クエタの一件に限らず、彼らは日常的に物資調達と示威のためにスペーシアン資本の輸送船を襲っている。今日もその「通常業務」だった。
「ソフィ、ノレア、準備しろ。まもなく目標に接触する」
「了解。ソフィプロネ、ルブリスウル」
「ノレアデュノク、ルブリスソーン」
「「行動を開始する」」
魔女の駆るガンダム2機とデスルター数機が輸送船に近づく。警告を発し、大人しく降伏すれば物資を奪い、逃げれば撃ち落とす。それが任務だ。
ソフィが発光信号で停船を促す。
その時だった。輸送船から十数機のハインドリーシュトゥルムが飛び出してきた。
「えっ!?モビルスーツ!?しかもこんなに…」
強盗からの自衛のために1、2機のMSを搭載する輸送船は景気のいい会社なら珍しくはない。その程度ならソフィたちの戦力であれば赤子の手をひねるようなものだ。しかし目の前にいるのはグラスレー製の一級品軍用MS、しかも部隊規模で統率のとれた行動をとっている。
つまりこれは……
「オルコット!」
「……やられたな。我々の母船にも数隻の輸送船が接近してる。退路を断たれた」
「ふ〜ん、けどこっちはガンダムだよ?それも2機!少しは楽しませてくれるか、見せてよ!」
「ケナンジ艦長。奴らが網にかかりました」
「よし、よくやった。囮部隊が壊滅する前に救援に向かうぞ。全速で現場へ向かえ」
「了解」
プラントクエタ襲撃以来、ケナンジは何度かテロリストの掃討を上申したが毎度却下されていた。今回は半ばケナンジの独断で、通常のパトロール任務を利用し罠を張り巡らせ待ち構えていたのだった。
「……お上も信用ならん、か」
針路を変更し、ドミニコス隊は目標の宙域へと向かった。 - 93二次元好きの匿名さん23/01/17(火) 00:27:56
手練のパイロット揃いのフォルドの夜明けではあったが、数的不利と軍事訓練を受けたドミニコス隊のMSの前とあっては一方的戦いとはいかなかった。むしろ劣勢とまではいかない程度の状況を作り出せていることが異常とも言えた。
ソフィの言う通り、やはりガンダム2機が戦力であることが最大の理由であった。ウルとソーンが突撃し、連携が乱れたところをデスルターが援護し仕留める。気づけば敵の数は接敵時から半分ほどになっていた。
「クソっ!本隊はまだか!」
ハインドリーシュトルムのパイロットはガンダムの機動に翻弄されていた。これほどの高機動を行うMSを彼は見たことがない。シュミレーターで教官に嫌と言うほど叩き込まれた偏差射撃がまるで通用しなかった。
「畜生!4番機応答しろ!どうした4番機!……っ!」
四散した4番機の陰からウルが接近する。
「じゃあね、ドミニコスのエリートさん」
いつも通り楽しむように接射しようとガトリング砲が回転を始める。
やっぱりお前たちのやってることは間違ってると思う。
ソフィの脳裏にグエルの言葉が不意に思い出された。
「えっ……」
一瞬の動揺、それによってトリガーに入る力が弱まる。
「情けのつもりか!?ドミニコス隊を舐めるなぁ!!」
ハインドリーシュトルムのビームライフルがウルに向いた。
「あ」
今にもビームが放たれようと言う時、ソフィの目に爆発が映った。ソーンが駆けつけ、代わりに撃墜したのだ。
「なにしてるのソフィ。こいつらはあいつと違って価値はない。捕虜は取らないよ」
「え……うん、分かってる。分かってるって!」
2機は分かれ、また戦闘に復帰した。
(こちら脳内BGMとなっております)
Gundam The Witch from Mercury Episode 12 OST - Counterattack (HQ Cover) | ガンダム 水星の魔女 BGM
- 94二次元好きの匿名さん23/01/17(火) 07:44:06
数十分の戦闘で囮部隊の戦力は3機にまで減っていた。
「ふぅ、これだけ相手するのは流石に疲れるね〜」
「気抜かないで。まだ終わったわけじゃない」
「……どうやらそのようだ。新たに敵モビルスーツ。多いな、20機はいるぞ」
「ベギルペンデ隊、敵と接触」
「囮部隊は?」
「3機を残してあとは……」
「そうか」
囮というのはある程度の犠牲を許容しなくてはならない。魔女を炙り出すためとはいえ味方を死なせたことがケナンジには心苦しかった。
「ベギルペンデ隊、油断するな。クエタの戦闘ではアンチドートを使っても奴らは動き続けたそうだ。機体を過信せず連携して仕留めろ」
ベギルペンデを運用する部隊は対GUND-Format部隊として特別な選抜を受けている。かつてのケナンジがそうだったようにドミニコスのなかでもさらに最精鋭の者しか乗ることは許されない。ケナンジの命令通り、ベギルペンデ隊は完璧な連携を見せた。
「あれ、この前のモビルスーツだ!」
「アンチドートか……ソフィ、ノレア、これ以上の継戦は不可能だ。俺たちで後方の敵を叩いて退路を開く。それまで奴らを足止めしろ」
最精鋭と予想される敵にぶつけるにはガンダムしかない。しかしそれはアンチドートを無効化するためにパーメットスコアを上げるよう強制することを意味した。オルコットはそれを理解した上で二人に命令した。
「……コピー。…………パーメットスコア4」 - 95二次元好きの匿名さん23/01/17(火) 14:48:54
ワクワクしてきたぜ!
- 96二次元好きの匿名さん23/01/17(火) 19:16:24
ウルとソーンのバックパックが展開し、パーメットスコアが上昇する。ソフィとノレアに大量のデータストームが流れ込んだ。
「ぐっ……ゔふぇっ!」
全身から汗が吹き出し胃液が逆流する。脳みそをかき回され、全身をもがれるような感覚が二人を襲う。
心臓が張り裂けそうなほどに脈打っている。全力疾走してもなお無理やり走らされているような感覚。
「くっ、はぁ、はぁ……ソフィ、どうにか食い止めるよ……」
「分かってる……手早く片付けないと、やばいね」
2機のガンダムの閃光が無数の点を追いかけていく。アンチドートは通じず、油断すればベギルペンデ隊すら「狩られる側」に転じかねない。それを一番分かっているのはドミニコス側だった。
「1番機から各機、まず撃墜されないことを意識しろ。時間は我々の味方だ。逃げ切ることが勝ち筋になる」 - 97二次元好きの匿名さん23/01/17(火) 20:50:49
時間が経つほどソフィたちは不利になっていく。パーメットスコア4はアンチドートが効かない。逆に言えば「敵を倒し切るまでスコア4を維持しなければならない」ということだった。
短期決戦しかない。そのためには積極的に敵を狩らねばならないが、敵は生存を優先し、数も圧倒的だった。そもそもクエタの時と違い敵はこちらを先に察知し、アンチドートが効かないことも知っている。魔女たちにかかる負担は凄まじいものであったが、それでもそれぞれ数機の敵を墜とした。
「ふっ、ふっ、ぐぉえ……これで、3、機目……」
ソフィの目は充血し涙がダラダラと流れ、汗と混ざり合いヘルメットのなかはびちゃびちゃになっていた。
苦しい。辛い。痛い。
……なのに生きた気がしなかった。
この程度の痛みは搭乗訓練で何度も味合わされ、慣らされてきたはずなのに、今はやめてしまいたかった。
どうして。クエタではむしろ楽しくて仕方がなかったはずなのに。あの時と何が違う?
その痛みは冷たく、優しさのかけらもなかった。もう家に帰りたい。早く暖かい日差しを浴びて草の上で寝てしまいたい。地球でしか嗅げない自然な土の匂い。
泣きながらグエルに甘えたい。今の自分を見れば、少しはグエルは心配してくれるのだろうか。
……まだ死にたくない。
「ははっ……私が命を、惜しむ、なんて……どうしちゃったんだろ……」 - 98二次元好きの匿名さん23/01/17(火) 20:58:36
しっとりしてきた…
なんか本編でもソフィノレはスレッタじゃなくドミニコス隊に落とされそうな予感してきた… - 99二次元好きの匿名さん23/01/17(火) 21:37:40
「魔女の動きが鈍っています」
「思った通りだな」
なぜアンチドートが効かなかったのかは分からない。だがあれがガンダムであるなら多量のデータストームが流れているはず。なんであれ長くは戦えないというのがケナンジの読みであった。
「はっ、はっ、はっ、はっ」
二人の思考は鈍り、身体は限界をとうに超えていた。目からは血が流れ手足の震えが止まらない。
さらにソフィが抱いた気持ちは、ソーンと比べてウルの機動をより鈍らせる結果を生んでいた。ベギルペンデ隊はそれを見逃さない。
「1番機よりブラボー、デルタ分隊へ、緑の方を囲め。魔女の首を持ち帰るぞ」
攻撃がウルに集中しはじめた。ノレアが援護に向かおうとするも足止めされてしまう。
「ソフィ!!」
「クソっ!」 - 100二次元好きの匿名さん23/01/17(火) 22:07:41
ついに魔女が劣勢となり、ソフィは逃げに徹した。勝敗が決した。このまま焦らず確実に攻めればドミニコス隊の勝利は確実だ。
「はぁ、はぁ……弾切れ……!?ちょっとっ」
今回の任務は長期戦を想定していない。元々エネルギー消費量の多いガトリング砲を使って一機だけで戦うのは不可能だった。
「まって…やだ……こんなさむいところで、……あっ、ひっ、あ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!」
データストームの流入量のせいか、死を恐れたせいか、ソフィは何もできなくなってしまった。コックピットのなかで駄々をこねるように暴れまわり、外に出ようとハッチを開ける。
ウルは完全に動きを止め、墜とされるのを待つだけだった。
「ソフィ!しっかりして!ソフィ!!」 - 101二次元好きの匿名さん23/01/17(火) 23:11:06
- 102二次元好きの匿名さん23/01/17(火) 23:54:09
「魔女が撤退していきます。どうしますか?」
「ま、ここまでだろうな。これ以上犠牲を出すのはパトロールの範疇を越えるだろ」
「……あと一歩でしたね」
「なに、合格点だよ。ここまでできれば十分だ。追跡できるところまで奴らを追跡しておけ。後のためにな」
魔女にも備えさえあれば勝てる。それが分かっただけでも十分だった。それにドミニコス隊を攻撃したとなれば上層部へより強く進言もできるだろう。
「お疲れさん。部隊を収容しろ。遺体もな、出来るだけでいいから。その後はしばらく休息だ。問題があれば仮眠室にいる」
そう言い残してケナンジはブリッジを去った。
「しかし、本当に網にかかるとはね」
今回の作戦を行うきっかけになったのはジェターク社の次男がもたらした情報だった。ラウダというその青年は、行方不明の兄の足取りを追っていた。
執念ともいえる捜索の過程でついに掴んだ足取りはプラントクエタ襲撃の日に途切れた。兄が乗っていたと思われる船の運航データからテロリストがやってきたと思われる地点をいくつか割り出し、それをカテドラルに伝えたらしい。
それが下達されることはなかったが、ケナンジは直接ラウダに接触し情報を得ていた。
「いやはや、家族愛ってのはすごいなぁ」
仮眠室に着くなり、ケナンジは浅い眠りに入った。 - 103二次元好きの匿名さん23/01/18(水) 00:06:02
ケナンジ艦長優秀過ぎる
- 104二次元好きの匿名さん23/01/18(水) 00:06:56
ラウダvsソフィか…趣深いですね
- 105二次元好きの匿名さん23/01/18(水) 00:12:54
(正直ケナンジがどこまで有能なのかは未知数だけどベギルペンデを活躍させたかったので頑張ってもらった。ごめんなソフィ!)
- 106二次元好きの匿名さん23/01/18(水) 11:03:51
ほしゅ
- 107二次元好きの匿名さん23/01/18(水) 12:14:21
(おまけのラウダサイド)
「そうですか…いえ、ありがとうございました」
ラウダは電話を切った。
「ラウダ先輩…どうでしたか?」
「……テロリストどもと戦闘したが逃げられた。追跡はしたが直接の手がかりはなしだ」
父もMSで出撃したと知らされてから行方不明となり、ラウダはますます思い詰めていた。授業にも出ず寝る間も惜しんでグエルを捜索していた。
恐らくヴィムジェタークは死んだ。会社は大混乱で創業以来の経営危機に見舞われている。ラウダはグエルまで失ってしまうのではないかと思うと世界にただ一人取り残された気分になった。
「きっと大丈夫っすよ!そのうちフラッと帰ってきてまた逆らってくる奴はけちょんけちょんっす!」
「ちょっとフェルシー……」
「だから……ラウダ先輩も元気出してください……ご飯食べてぐっすり寝ないとグエル先輩も心配するっす」
兄さんが一人で戦っているのに眠ってなどいられるものか。
「黙っててくれ!!」
取り巻き二人の肩がビクッと跳ねた。ラウダはこの二人に当たってしまうほど自分に余裕がなくなっていることを恨んだ。きっと二人ともラウダ以上にラウダを案じているはずだ。
「……悪かった。すまない。二人が心配してくれるのは分かってるから。ごめん、今はとにかく協力してくれ」
「大丈夫っす、でも私たちがついてること忘れないでください。グエル先輩もラウダ先輩も、大事な友達っす!」
「お弁当買ってきました。久しぶりに三人で食べましょ!」
兄がいる間は家族と会社のことばかり考えていた。それを失ってみて、改めてラウダはこの二人が兄弟にとってとても大きい存在だったことに気づいた。いつも難しい顔をしていると二人がなにかくだらないトラブルを持ち込んで、肩の力が抜けたものだった。
まだ兄さんは生きている。それにフェルシーもペトラもいる。
「そうだね、ありがとう。少なくとも一歩前進したのに違いはない。お祝いしようか」
今日はしっかり寝よう。心を落ち着けるため髪をいじると、ラウダはテーブルに向かった。 - 108二次元好きの匿名さん23/01/18(水) 15:25:58
ここ数日ソフィを見かけない。グエルはいつも通り一日を終えて、部屋に戻った。
寝ようとすると扉が開き、ノレアが立っていた。
「なんだ?」
「……気に食わないし本当はやめるべきだと思うけど、他に方法がないから。ソフィ」
呼びかけるとボロボロになったソフィが現れた。ノレアに支えられたソフィは窶れ、全身にはかきむしった痕があった。生意気なソフィの面影はどこにもない。
「どうしたんだ!?何があった!」
「詳しくは言えない。何を言ってもアンタの名前を呼ぶばっかりで。アンタのせいでこうなったんだから、責任とって」
ソフィはよろよろとグエルに近づき、目の前で倒れた。
「お、おい……」
「あとで迎えに来る。それじゃ」
ノレアはそれだけ言うと扉を閉めどこかに行ってしまった。 - 109二次元好きの匿名さん23/01/18(水) 15:29:30
「グエル、なの?」
「お前……見えてないのか?」
「うまくみえない。ストレスとデータストームのせいだって……」
長時間のスコア4での戦闘は体に尋常ではない負担をかけた。不可逆的な視力の低下に加えて、ストレスが消えず視野が狭窄していた。
不可逆的と言ってもこの時代に治せない病気はほとんどない。だがそれは金さえあればという条件付きで、アーシアンは病気になれば衰弱し死んでいく場合がほとんどだ。
ノレアよりも精神的負担が重かったソフィはデータストームの流入をもろに受け、より重症だった。
「私さ……もう内臓もボロボロなんだって。この前の戦闘で寿命が10年は縮んだって……」
すがるように声のする方へソフィは這う。グエルは立ち上がり、ソフィの体を支え起き上がらせてやった。
「グエルの体、あったかい……」
ソフィはグエルを抱きしめた。体には力が入らず、手を離せば今にも倒れてしまいそうだった。
「きっと私処分される……もう戦えないから……なんの役にも立たないゴミになっちゃったから……」
泣いているが涙は出ない。水も食料も口に入れると吐き出してしまっていた。
「私何も分かってなかった……会いたい人に会えなくなるのがこんなに怖いって、知らなかった……これまで私が殺した人たちも、そうだったの……?」
ソフィの顔は絶望に歪んでいた。自分の未来と、これまでの所業がソフィを苦しめた。
「ごめ、んなさい……ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ……」
グエルはただ支えることしかできなかった。何をしてやれるのか全く分からない。奪われた命を返してやることはできない。傷ついた体を治してやることもできない。
「ねぇグエル、助けて……グエルのせいで私おかしくなっちゃったよぉ……責任とってよぉ……怖いよぉ……」
ノレアの言っていた言葉の意味を実感した。中途半端に関わればいずれこうなることは明らかだった。それでもグエルの責任感と正義感はただ虜囚の身となって助けを待っていることには耐えられなかったのだから、仕方がなかった。
それでも、いくら悪事の片棒を担いでいたとはいえ、そしてソフィを変えることができたとはいえ、一人の少女の未来を壊してしまったのは事実だった。
「お願いグエル、キスして……どこにもいかないで……」
今グエルに思いつくのはその願いに応えることだけだった。 - 110二次元好きの匿名さん23/01/18(水) 17:07:53
目からパーメットが…
- 111二次元好きの匿名さん23/01/18(水) 19:29:01
「ねぇ」
グエルが目を覚ますとノレアが立っていた。隣を見るとソフィが寝息を立てている。グエルの腕に細い腕が巻き付いていた。
「驚いた。帰還してからまともに寝てなかったのに」
「そうなのか?」
「ずっとうなされて5分も寝られてなかった。何も食べないし。このままだと本当に死ぬとこだった」
こんなにも安心した寝顔のソフィをノレアは見たことがなかった。
「……その子、多分処分されるよ」
「お前たち仲間なんだろ!?味方まで殺すのか!」
「私たちは厳密にはここの人間じゃない。他の組織から派遣されてる。あそこのほうがよっぽど酷いよ。
そのうち出頭命令が出て、良くて再調整、最悪処分。ここの人たちや私が口出しできることじゃない」
どうにもならないよ、とノレアは言った。
「だからさ、せめて一緒にいてやりなよ。もう助からないし、アンタのせいなんだから」
ノレアはそれだけ言うとソフィを連れて部屋を出ようとしたが、ソフィはグエルの手を全く離さなかった。
仕方なく起きるまではこの部屋で寝かせてやることにした。
出て行こうとしたノレアが、扉の前で立ち止まった。
「近々拠点を移す。もうすぐここがバレるらしいから。それが終われば多分ソフィは送り返される。
それまではその子の居場所、聞かれれば教える」 - 112二次元好きの匿名さん23/01/18(水) 21:19:40
拠点の移動が始まった。物資を引き上げ、難民キャンプの運営を民間人に移管する。捕虜たちもその手伝いをさせられていた。
グエルはソフィが移された部屋にいた。たしか「保健室」というような形の文字が書かれていた。ノレアの計らいで、ノレアが付いている間は単独行動が許された。
「ほらソフィ、食え」
スプーンでペーストを運んでやるとソフィは口に含んだ。
「美味いか?」
「……うん」
ここ何日かはこうして世話をしてやるのがグエルの日課だった。ソフィは少しずつ回復し、食事できるようになり目も少し見えるようになった。
「グエルはさ、どうして人に優しくできるの?」
「そうだな……きっとお前より恵まれてたからなんだろうな」
生まれた場所、環境、運。それが変われば自分もきっとソフィと同じだった。この歳まで生きられたかも怪しい。
「俺はお前より美味いものを食って……友達もいた。父さんも、本当は俺のこと愛してくれてたんだ。
ごめんな、嫌味みたいで。でもきっと、それが理由なんだ」
「ううん、いいよ。正直じゃないのはグエルじゃないから」
ソフィはどうやってもグエルには近づけないのだと思った。今まで生きてきた道が違いすぎる。きっとソフィは処分されて、グエルはいつか宇宙に帰るのだろう。
「もっと早くさ、グエルみたいな優しい人が周りにいたら……私、違ったのかな?」
「……遅くなんかない。今変われただけで、お前はすごい」 - 113二次元好きの匿名さん23/01/19(木) 01:19:45
「あのね、グエル。スレッタお姉ちゃんのことなんだけど……」
いつまでも私にグエルを縛ってはいけない。ソフィは覚悟を決めた。
「ほんとはね、殺してないんだ。見つけたのはほんとだけど……エアリアルに乗って戦ってた。私たちじゃ勝てなくて、それで逃げてきた」
「それは本当か!?そうか……良かった……」
今までソフィと過ごした時間のなかでグエルは1番の笑顔を見せた。もう死ぬのだからと覚悟を決めたはずなのに、ソフィの胸は苦しかった。
「あの時の私は、痛いと生きてる気がしたんだ。だからグエルに乱暴されようとして、わざとあんなこと言っんだと思う。本当にごめん」
「いいんだ。アイツが無事ならそれでいい。ありがとうな、正直に話してくれて」
グエルはソフィの頭を撫でた。
「だからさ、グエルはもう私のことなんか放っておいていいんだよ。スレッタお姉ちゃんに会いたいでしょ?こんなところにいないで……帰る、ために……」
涙が止まらなかった。グエルのおかげで流れるようになった涙。もう忘れてもらわなければならないのに、それだけは言えなかった。
「でも……私のこと、忘れ、ないで……甘えて、ばっかりで、ごめんね……ごめんなさい……」
「ソフィ……」
窓を見ると日差しが差していた。地球の日差しは暖かい。スペーシアンが絶対にアーシアンに劣るのは地球の暖かさを知らないことだとグエルは思った。土も空気も風も空も、全てが誰かが作ったものではなくて、誰もを平等に包んでいた。
グエルの部屋とは違って窓には格子がなく、それが良く分かった。
……格子がない? - 114二次元好きの匿名さん23/01/19(木) 07:44:23
最初から読んできたけど退廃的な雰囲気が良くてめちゃくちゃ続きが気になる
あにまんでこんな良質SSが読めるとは…感謝 - 115二次元好きの匿名さん23/01/19(木) 12:01:38
この一週間少しづつ進むお話をドキドキしながら読むのが楽しみになってるここまで膨らむのすごい。
- 116二次元好きの匿名さん23/01/19(木) 13:45:48
加古川組は地球寮組と比べて生い立ちや設定が湿度高い感じするからそこに曇ってるボブを放り込むことで乾かすことも湿らすこともできる自由度高くて続きが気になるSSが生まれやすい気がする
ボブが御曹司かつスペーシアンなのもポイント高い - 117二次元好きの匿名さん23/01/19(木) 14:05:48
今しかない。自らとソフィ、両方を救う道は今しか取れない。グエルは決めた。進めば二つだ。
「ソフィ、もしもまだ生きていたいと思えるなら……俺を信じてくれるか?」
グエルはソフィの肩を掴んだ。これまでの人生で最も力強く、誰かを見つめた。
「どうしたの、急に……駄目だよ、グエルは生きなきゃ。私と一緒に死んだりしちゃ駄目」
ソフィはグエルのしようとしていることが分かった。そんなことをされては覚悟が無駄になってしまう。スレッタマーキュリーと再会して、幸せに生きてもらわなければ困る。
「俺はここでお前を見捨てたら、生きていたくない。もう誰かが死ぬのを黙って見ているのは嫌だ。俺に生きていてほしいなら、俺を信じてくれないか?」
卑怯な手だが、ソフィが使った手をそのままやり返してやっただけだった。やっと仕返しができた。
「酷いね、そんなこと言われたら……信じるしか、ないじゃん。だけど無理しちゃ嫌だよ。危なくなったら、私を見捨てて」
グエルは微笑みかけると、ソフィをおぶった。
「何してるの?」
振り返るとノレアがいた。
「……ここから逃げる。どうか見逃してくれ」
「逃すと思うの?アンタはここのことを知りすぎてる。それに、アンタはともかくソフィを逃したら、今度は私が処分される」
ノレアは銃を抜いた。
「グエル、やっぱり駄目だよ。ノレアに迷惑かけちゃうから。ノレアはね、悪い子じゃないんだ」
ソフィは途切れそうな細い声でそう言うと背中から降りようとするが、グエルが離さない。
「コイツのことを少しでも……友達とか家族とか思ったことがあるなら、見逃してやってくれ」
「このまま私がここに残ったらどうなる?どう説明すればいいの?私が生き残れるプランがあるなら見逃してあげてもいい」
グエルは何も言えない。ここでノレアを傷つけて逃げ出したとしても、救いはない。いつまでもグエルにもソフィにも立ち直れない傷が残る。
「……第一アンタにソフィを任せても逃げ切れるわけない。地球のこと何も知らないくせに、勢いだけで言わないで」
ノレアは銃をしまった。
「待ってて」 - 118二次元好きの匿名さん23/01/19(木) 19:34:09
けたたましいベルの音が校舎中に響いた。
「なんだか騒がしいな」
作業を手伝わされていたカシタンカのクルーたちは異変に気づいた。テロリストたちは慌ただしくなり、見張りの数も減った。
「船長、今がチャンスじゃないっすか!?」
「早く逃げましょう!作業が終わったら殺されちまいますよ!」
「けどよぉ…ボブを置いてくわけには……」
ひそひそと言い合っていると、窓が開いた。誰もいないのにひとりでにであった。
「はあ?」
部屋には見張りが二人。一人が窓を見にいくと、突然、グエルが部屋に入り飛びかかった。
「うわ……」
言葉を発する前に口を押さえ、拘束する。もう一人の見張りが突然の状況に驚きつつもグエルに銃を向けた。
「このやろぉ!!」
引き金を引くより早く、船長が体当たりした。
「船長!?」
「馬鹿ども、何やってんだ!とっととコイツをとっ捕まえろ!」
「う、うす!」
見張り二人はガムテープでぐるぐる巻きにされた。
それを確認すると、グエルはクルーたちに声をかけた。
「みなさん大丈夫ですか!?早く逃げましょう!」
「お、おい、ボブ。お前どうやって……」
「話は後です!今はとにかくここを離れないと!」
ドタドタと廊下から音が聞こえる。一刻の猶予もない。
「ボブ」とクルーたちは窓から逃げ出した。 - 119二次元好きの匿名さん23/01/19(木) 20:12:19
「あ、やっと戻ってきた」
学校から離れた腰ほどの高さの茂みのなかに、ソフィとノレアはいた。グエルがカシタンカのクルーたちを助けてくるまでここで待つ手筈だった。
「私が居場所を知ってて、しかも一階にいたから良かったけど……なんかあったらソフィを一人にする気だったわけ?」
「すまない。でもあの人たちを見捨てることは、絶対できない」
「まあ、帰ってきたなら何も言わない。「火災報知器」ってやつ、少しは効果あった?」
「ああ、だが火はやりすぎじゃないか?」
「あのくらいならすぐ消せる」
少し遅れてクルーたちが走ってくる。
「おい……待ってくれよボブ……年寄りにはきついって……ただでさえ地球の重力は重いのによぉ……」 - 120二次元好きの匿名さん23/01/19(木) 20:25:56
宇宙育ちのおっちゃんが地球のしかも学校で走らされてるの可愛い
- 121二次元好きの匿名さん23/01/19(木) 21:02:46
あてもなく逃げるわけにはいかず、ノレアの情報でとりあえずは東を目指すこととなった。人間の足というのはMSよりもよっぽど遅く、休まず歩き続けても夜になってしまった。
「なあ、ノレア……どうしてお前はついてきてくれたんだ?」
躊躇いつつも名前を呼ぶと、意外にも大した反応もなく会話が続いた。
「言ったでしょ、あのままいたって私は死ぬだけだし。少しでも生き残る方に賭けてるだけ」
「だが……俺を撃つことだってできただろ」
「……それはできない。ソフィが悲しむ。それに私も、ソフィには死んでほしくないから。
ソフィにとっての支えがグエルになったなら、私の支えはずっとソフィだった。前は偉そうなこと言ったけど……何も知らないか、何かのためかじゃないと、人なんか殺せない。だから逃げ出すことぐらい、全然苦じゃない。文句言ったのも、ソフィが変わって苦しむのを見るのが怖かったんだと思う」
「……そうか」
背中のソフィは何も知らず、眠っていた。
思いにふけっていると、後ろから息の上がったクルーたちが声をかけてきた。
「お、お二人さんよぉ……いい雰囲気のところ申し訳ないがね……俺たちはそろそろ限界だよ!!いい加減休もうぜ!!」
「あ、ああすみません!そうですね、休憩しましょう!」 - 122二次元好きの匿名さん23/01/19(木) 21:51:22
かつての文明の跡と化した建物がこの辺りにはいくらでもある。そのなかの程度のいいものの一つに一行は入った。そこでグエルはクルーたちに、ことの顛末を説明した。
「ジェターク社の息子!?ボブが!?いやグエル…さんが!?」
「冗談はやめてくださいよ船長ぉ……俺は船長と働けて、後悔してません。そんな風に呼ばないでください」
「が、がはは……いやな、あまりにも驚いちまって……道理でイケメンなわけだよ、俺たちみてぇな平民とは格が違うんだなぁ」
「いや顔は関係ないじゃないですか!」
真実を話してもクルーたちは態度を変えずに接した。呼び方も「しっくりこないから」という理由でボブのままだった。
「じゃあプラントクエタは災難だったな。お前にとっちゃ、家が燃えたようなもんだ。親父さんは無事なのか?」
グエルは黙り込んだ。自分の手で殺した。説明しなければならないが、それを言うのは気が重かった。
「……まあ話せないこともあるさ。コイツらだって全員そんなようなことを一つは抱えてるもんだ。言いたくなったら言ってくれ。
けどな、ボブ。お前が誰であれ、俺たちにとっては「ボブ」だ。困ったことがあったらなんでも言えよ。なんなら俺が親父になってやってもいい!グエルじゃなくボブのな!まあジェタークの息子のグエルさんには、俺が助けてもらいたいぐらいだけどよ!」
「……ありがとう、ございます…船長ぉ……」
「おいおい男が泣くもんじゃねぇよ!」 - 123二次元好きの匿名さん23/01/20(金) 05:44:19
進んだ事でソフィ達と船長達の2つを取った訳か
果たしてどうなるのか…期待してる - 124二次元好きの匿名さん23/01/20(金) 06:58:46
「それで?あの子たちはなんなんだよ?今はまだ小せえが…俺には分かる、ありゃすぐに美人さんになるぞ」
「べ、別に俺は……それに俺にはもう」
「ほう?いるのか?恋人か?片思いか?」
グエルがクルーたちから拷問を受けていると、遠くの方からMSの駆動音が聞こえた。一行が元いた方角からだ。
「グエル、追手だよ。とっとと移動しよう。アンタらも早く立って」
ノレアがそう伝えると、全員疲れた体をどうにか起こした。やっと眠れると思った船長はとても落ち込んだ。
「ソフィ、行くぞ。ほら、立てるか?」
「うん……ごめん、グエル」
ソフィを背負うとグエルは歩き出した。駆動音はどんどん大きくなり、はっきり聞こえる距離になると慌ただしい声が響きだした。
地球の重力に慣れていないクルーとグエルは段々と足が鈍ってきた。グエルはソフィを抱えていることもあって、さらに疲労が蓄積していた。
「おいボブ、大丈夫か?」
「大丈夫です…!このくらい!」
言葉とは裏腹に足取りは重い。後ろから声が近づいている。大人しく投降すればまだ助かるだろうか。だがそれではソフィの運命は変わらない。
「……この馬鹿アーシアンどもおおおお!!!かかってこおおおい、泥臭えぞおおおおお!!!!」
突然船長は叫んだ。
「船長!?何してるんですか!」
「早く行けボブ、ここは俺が時間を稼ぐから」
「何言ってるんですか、船長を見捨てるわけないでしょ!」
「このままじゃ全員犬死だろうが!なに、この程度の修羅場生きてりゃ何度かあるもんだ。たまには腕を振るわねぇと鈍っちまうよ」
船長は笑って、グエルの肩を叩いた。
「船長が残るなら俺たちも……」
「馬鹿ども!ボブが疲れてるのが見えねえのか!交代でその子を背負って逃げろ!早く!」
戸惑っているとノレアが言葉を発した。
「残るのは勝手だけど私はソフィを死なせたくない。一人で背負ってでも行くけど?」
すみません船長。口々にそう言いながら、クルーたちはその場を後にした。
(今日か明日には完結すると思います) - 125二次元好きの匿名さん23/01/20(金) 07:32:27
「逃げ出した連中、一人は捕まったそうだ」
オルコットはナジに追跡部隊からの報告を伝えると、ナジは話し始めた。
「……例の「派遣元」がな、ソフィとノレアを返せとさ。再検査、だそうだ」
暗にソフィたちの居場所を突き止めるよう命令している。オルコットはそれが分かって、意見した。
「ソフィはもう使えない。恐らくノレアも裏切った。栄養失調で死んだか、こちらで処理したことにしてしまえばいい。まだ「部品」はある。機体を返却すれば何も言われまい」
「信用を失う。ガンダムがなければ俺たちはスペーシアンと渡り合えない。クエタの作戦もガンダムありきだった。今更手放すことはできん」
ナジは眼鏡を直しながら言った。
「ナジ、俺たちの理想はガキどもを死なない程度に食わせてやることだったはずだ。そのためにガキを利用するのは筋が通ってないんじゃないか」
珍しくオルコットはナジの命令に反発した。
「今更綺麗事とはな。お前らしくもない。ここまで手を汚したら後戻りはできないぞ」
「分かってるさ。けどな、アイツらはもう戦えないし、ここももうすぐ引き払う。去る者を追う理由も別にないんじゃないか。デスルターだけでも十分やれるさ」
「……歪なもんだな、俺達は」
その言葉の意図をオルコットは理解した。部屋から出ようとするとナジが声をかけた。
「その捕まえた奴だがな、ここに置いていくことにする。連れて行っても俺たちの飯が減るだけだ。
御曹司がいなくなれば価値はないし、わざわざ殺すのも趣味が悪い。難民たちも腕っぷしが強いのがいると助かるだろ」 - 126二次元好きの匿名さん23/01/20(金) 11:04:56
逃げ出して以来、何も食べていない。急いで出てきたので当然食料も用意していなかった。
スペーシアン組は疲労と空腹でほぼ限界だった。ソフィにいざとなったら見捨てろと言われたが、このままではグエル達が脱落しかねない。
空腹に慣れているのかノレアは全く平気そうだった。
「グエル、大丈夫?」
背中からソフィが声をかけた。今ではグエルの方が側から見れば元気がなかった。
「……あ!ノレア、川だよ!」
ソフィが指差した方には煌めく水の流れがあった。
「分かってる。良かったねグエル、これでアンタを見捨てなくてすむ」
川の方へ向かうとノレアは水に入った。
「よっ」
慣れた手つきで水から手を出すと、ピチピチ跳ねる生き物が捕まっていた。
「うぉっ!?」
スペーシアンたちはグロテスクにパクパクと口を動かすそれに度肝を抜かれた。
「……スペーシアンって生きた魚見たことないわけ?」
「さ、魚!?いや知ってはいるが……触ったことはない」
「なんでもいいけど。これ焼いて食べるよ。ビビってないでアンタらも手伝って」
「焼くったって……嬢ちゃん火起こせるのかよ?」
「……スペーシアンってライターも持ってないの?」 - 127二次元好きの匿名さん23/01/20(金) 13:21:42
お疲れ様です、待ってますー
- 128二次元好きの匿名さん23/01/20(金) 17:58:48
カルチャーショックを受けながらもスペーシアンたちはノレアを手伝った。自分の食べる分くらいは確保しろと言われたが、結局ノレアがほとんど捕まえた。
手間取っていたので夕方になっていたが、空腹と眠気はどうにも克服できないので今日はここで野宿ということになった。
「その、ライターっての……危なくないか?」
コロニー内では火器は基本的に厳禁だ。誰でもどこでも取り扱えるわけではない。しかも指一本で火を起こせる道具など、宇宙ではテロリストしか持っていないだろう。最もここにいる二名は昨日までそうだったのだが。
「危ないよ。だから使い方を身につける」
ノレアはそれだけ言うととっとと寝てしまった。
「グエル」
ソフィが寝転がりながら声をかけてきた。
「どうした?」
「眠れないや。手、繋いで?」
隣に寝るとグエルは手を握った。
「魚ってね、昔は今より少なかったんだって。でも人がいなくなったら段々増えたんだよ」
「ソフィは歴史が好きなのか?」
「勉強なんて出来ないよ。前、ナジが教えてくれた。生き物は人がいない方がいいんだってさ。
人って生きてるだけで……何かを傷つけちゃうのかな?」
「どうなんだろうな……俺は出来るだけ、誰も傷つけたくない。でも宇宙で生きてるだけでアーシアンを傷つけてるのかもしれない」
「でもそれって、グエルのせいじゃないよ。グエルは宇宙に生まれたくて生まれたんじゃないでしょ?」
「そうだな。きっと大事なのは……傷ついている人を見つけたら助けてやることなんじゃないか?動物でもそうだ。自分のせいでも、そうじゃなくても」
「そうなの?」
「俺も分からん。俺は……そうしたいと思うようになった」
「やっぱり優しいね、グエルは」
それからしばらくしてソフィは眠った。
一人空を見上げながらグエルは考えた。アーシアンとスペーシアン、地球と宇宙、自然と人間……
少なくともグエルは土の匂いが以前よりも好きになっていた。
「土いじりも案外悪くないかもな」 - 129二次元好きの匿名さん23/01/20(金) 18:01:45
- 130二次元好きの匿名さん23/01/20(金) 19:19:12
何日か歩き続けて、グエルたちは目的地に着いた。あれから追手は来なくなった。不思議だったが追われる身としてはありがたいというほかなかった。
「見えてきた。あの橋を渡った先の人工島が宇宙港」
ノレアが指差した先には慌ただしくシャトルが発着していた。
「ねぇグエル……ほんとに宇宙へ行くの?」
「不安か?」
「そりゃ不安だし……私この星のこと、好きだからさ」
名残惜しそうにソフィは言った。
「やっぱり地球に残るか?」
「うーん……地球は好きだけど、グエルのことも好き。今はしばらく、近くにいたい」
「そうか。ま、生きていればまた帰って来られるさ。俺も絶対また地球に来る。その時は一緒だ。それに宇宙もそんなに悪くないぞ、宇宙は嫌いか?」
「ううん、前は大嫌いだったけど……グエルとなら怖くないよ」
グエルとソフィは笑った。ノレアも笑っていたが、それは誰にも気づかれることはなかった。
「さぁソフィ嬢ちゃん、そろそろ俺の背中に!」
「馬鹿!お前もうすぐ宇宙に着くからってボブに媚びてんじゃねぇ!それはそうとボブ、やっぱり俺が代わろうか?」
「やめてくださいよぉ先輩……」 - 131二次元好きの匿名さん23/01/20(金) 20:02:16
「……私はやっぱり残るよ」
橋を渡り終えるとノレアは言った。
「別に残りたいなら止めないが、危険じゃないか?」
「私の代わりのパイロットは探せばいるだろうし、きっともう追ってこない。身分を偽装する方法もいくらでもある。
それに……やっぱり私は宇宙で暮らしたくない。グエルみたいな奴もいるって分かったけど、それでも私はアーシアンだから。スペーシアンとは違う。今でも搾取するスペーシアンのことは憎んでる」
「そうか。もし何かあったら言ってくれ。お前がいなければここまで来れなかった、ありがとうな」
「そう簡単にジェターク社の御曹司と連絡できるとは思えないけど。まあいいや、覚えとく」
背を向け歩き出したノレアにソフィは声をかけた。
「待ってノレア!」
「何?」
「私……もうちょっとノレアと一緒にいたい。ここまで助けてくれて、ノレアも私のこと大事にしてくれてたって分かったから。だからわがままだけど……一緒に宇宙に来て?」
「大丈夫、ソフィにはもうグエルがいる。私も寂しいけど、私の家はやっぱりこの星だから。だから、ごめんね」
ノレアの口角が少し上がった。ふんわりとした柔らかい笑顔だった。
「……なあノレア。俺はここに来てからお前たちの苦労を少しは分かったつもりだ。だから俺は……スペーシアンを変えてみようと思う。
時間がかかるかもしれないし、何も変えられないかもしれない。だけどお前がもし俺に可能性を見出してくれるなら、ソフィともう少し一緒にいてやってくれ。もし失望したらいつでも地球に帰ればいい」
「グエルはやっぱり甘い。何年も続いて、誰にも変えられなかったのに」
「変わらないものなんてない。お前は俺のことを、スペーシアンじゃなくて人間だと思い直したんだろ?」
確かにノレアのなかで、気持ちは変化していた。
かつて人が地球にしか住んでいなかったころですら争いは絶えなかった。それでも人と人は時には協力し、時には対立し、変化しながら宇宙にまで住処を広げた。それが正しいかはともかく、変わらないものなどこの世にはない。
「それなら、もうしばらく様子を見る。ソフィがアンタに惚れた理由、少し分かった気がする」
ノレアが戻ってくると、ソフィは笑った。 - 132二次元好きの匿名さん23/01/20(金) 20:06:50
- 133二次元好きの匿名さん23/01/20(金) 20:36:51
「ラウダ先輩!大変っす!」
大変なことなどあるものか。なにしろ父は死に、兄は行方不明なのだから。
「グエル先輩が見つかったって!もうすぐ帰ってくるそうです!」
そう、それこそ兄さんが見つかるくらいでなければ大変とは……
「おっえぇ!???兄さんが!!!???ほ、本当に!!!???」
「ホントっすよ!早く入港ゲートに行きましょう!」
そんなに走れたのかとフェルシーとペトラが驚くくらいラウダは走っていた。数km走って疲れてやっと止まると、二人が追いついた。
「何してんすかラウダ先輩!乗り物に乗らなきゃいつまで経っても着かないっすよ!」
「ぐっふぉ……そ、そうだね……用意、してきてほしい……」
「もう乗ってます!早く乗って!」 - 134二次元好きの匿名さん23/01/20(金) 21:25:18
髪いじりが止まらない。いつまで経っても兄さんは降りてこないじゃないか。まったく情報は本当なのだろうか。あの二人のことだ、何かの勘違いかもしれない。勘違いだったら流石に怒鳴りつけてやる、ことがことだ。
その時、ちょうど到着した便の乗客たちが降りてきた。
「ラウダ」
聞き覚えのある声だ。
「兄さん……?兄さんなんだね!兄さん!兄さん!」
ラウダはグエルに駆け寄った。
「お、おい……お前そんなだったか?」
「何言ってるんだ!兄さんが生きてて嬉しくないわけないじゃないか!」
フェルシーたちも涙なしには見られない。
「ラウダ先輩、うれしそう……ゔう……」
「良かったねフェルシー……」
感動の再会をしているとグエルの同伴者たちがゾロゾロと降りてきた。
「グエル、この人は?」
「ゔぇ!?兄さん、その子たちは????」
「コイツらは元テロリストで、身元引き受け人がいないからしばらくここに住むことになった。テロリストとはいえ子供だからな、どうにか保護観察処分で済んだ。おいお前ら、ラウダに挨拶してやってくれ」
「よろしく、お願い、しま、す。ラウダ……さん?」
「よろしく、私はノレア、こっちがソフィ」
ラウダはとても混乱していた。ただでさえ兄に会えて脳みそが爆発しそうなのに、まさか連れ子まで引き連れてくるとは。
「えっ、ああ、う、うん、よろしく?????
と、とにかく兄さん、寮に帰ろう。問題が山積みだ。とても一人じゃ片付けきれなくて……」
「ああ、そうだなラウダ。お前とは……話さなきゃならないことが山ほどある。これまでよく頑張ってくれたな。どうか、俺を見捨てないでほしい」
「兄さん、兄、さん……う、うお゛お゛お゛お゛!!見゛捨゛て゛る゛わ゛け゛な゛い゛よ゛お゛お゛お゛!!た゛っ゛た゛一゛人゛の゛家゛族゛だ゛ろ゛お゛お゛お゛!!!!」
「おいお前本当にラウダか!?」 - 135二次元好きの匿名さん23/01/20(金) 21:50:44
2期が放送されるまでの間に退廃ソフィボブ本を誰か描いてくれませんかね
- 136二次元好きの匿名さん23/01/20(金) 21:58:50
「似合ってるよ、ソフィちゃん!」
「そ、そう?」
プレゼントされた眼鏡をかけてソフィは照れ臭そうに言った。
目は手術すれば回復するのだが自分のしてきたことの反省として、手術費用は自分で稼ぎたいとソフィが言うので、代わりに眼鏡を四人からプレゼントした。
実は宇宙ではもはや眼鏡は嗜好品でそれなりに高価なのだが、それは内緒だった。
貰った当人曰く「コンタクトは怖いから嫌」らしい。
ソフィとノレアがやってきてから数週間が過ぎた。テロリストとして生きてきた彼女らと暮らすのは簡単ではなかった。特にソフィはすぐに癇癪は起こすし、物に当たるので苦労した。
それでもノレアの助けもあり、最近は落ち着いて生活できるようになってきた。意外だったのはフェルシーがソフィを気に入り、すっかり姉のようになったことだった。
「さぁ!目が見えるようになったら次は勉強!ソフィちゃんには特待生として学園に入ってもらうから!」
「え、いいよ勉強は……」
「駄目だよソフィ。勉強できて損することないから」
ノレアの方はペトラを気に入ったらしく、一緒にくつろいでいた。
「ええ、でもぉ……」
ソフィはキッチンにいるグエルを見つけるとそちらへ駆け出した。 - 137二次元好きの匿名さん23/01/20(金) 22:00:50
「勉強しなくていいの!私は将来グエルと結婚するんだから!グエルは学がなくたって私を愛してくれるもん!」
「お、おい……」
フェルシーは両手で口を押さえて笑っていた。
様子を見ていたラウダが口を開く。
「ソフィ、ジェタークの息子に嫁ぎたいなら尚更勉強するんだ。学のない者に兄さんの妻が勤まるわけないだろ。会社の経営を助けるような人でないと、(一人称)は認めないよ」
「おいラウダまで……」
「う〜ん、それなら勉強しよっかな♪グエル、私まだ諦めてないからね!スレッタお姉ちゃんに負けないよ!
まあグエルはスレッタお姉ちゃんに何もアタックできてないけどね〜w」
「お前なぁ!」
……スレッタマーキュリー。帰ってきてから聞いた話では、プラントクエタで何かあったらしい。ミオリネも塞ぎこんで、株式会社ガンダムは危機にある。
俺にできることをしよう。それに、スレッタは俺の惚れた女だ。会いたい人にはたくさん会っておくべきだ。
それでも受け入れてもらえない時は……
「ほらグエル!早くご飯作ってよ!お腹すいた!」
……いや、考えるにはまだ早いな。
終わり
(エンディング)
- 138二次元好きの匿名さん23/01/20(金) 22:04:41
- 139二次元好きの匿名さん23/01/20(金) 22:05:27
いいSSだった。掛け値なしに
- 140二次元好きの匿名さん23/01/20(金) 22:05:33
- 141二次元好きの匿名さん23/01/20(金) 22:31:49
最後まで読み終えて一つ長い旅路が終わったかのような気分になりました
このお話を最後まで見届けれて良かったありがとうございます。 - 142二次元好きの匿名さん23/01/21(土) 05:33:49
完結したのか…面白かった、可能性に満ちたSSだった
乙! - 143二次元好きの匿名さん23/01/21(土) 07:44:41
読み終わったが滅茶苦茶面白かった
加古川ボブは2期が始まるまでの儚い幻覚だけどそれでも掛け値なしにいいお話だった
スレ主とSS書いてくれた人に感謝 - 144二次元好きの匿名さん23/01/21(土) 10:47:42
この作品に逢えてよかった
ありがとう - 145二次元好きの匿名さん23/01/21(土) 12:29:44
- 146二次元好きの匿名さん23/01/21(土) 14:23:27
- 147二次元好きの匿名さん23/01/21(土) 15:49:40
完結お疲れ様でした!
加古川ボブが地球の魔女(ニカソフィノレア)を救うSSは面白いのが多いですね - 148二次元好きの匿名さん23/01/22(日) 01:14:11
乙!やはりボブは主人公