- 1二次元好きの匿名さん23/01/11(水) 20:45:01
※画像をうまくアップロードできていなかったため、立て直しました。
このSSは以下の内容を含んでいます。気になる方はブラウザバックをお願いします。
※2023年1月のイベントの内容が前提となっています
※独自設定があります
※前作の後の話です。なお、前作を読まなくてもほぼ問題ない内容となっています
※恋愛要素はありませんが、少しウマウマのような部分があります。気になる人はご注意ください
前作:【SS注意】冬至にて【閲覧注意】|あにまん掲示板注意:このSSには、作品オリジナルのキャラクターが登場します。苦手な方はブラウザバックをお願いします。bbs.animanch.com - 21/1223/01/11(水) 20:48:00
─鏡開きとは
《「開き」は「割り」の忌み詞》正月11日(もと20日)に鏡餅 (かがみもち) を下ろし、雑煮や汁粉にして食べること。
武家では、男子は具足に、女子は鏡台に供えた鏡餅を手や槌 (つち) で割り砕いた。町家でもこの風習をまねて行うようになった。鏡割り。
引用 https://dictionary.goo.ne.jp/word/%E9%8F%A1%E9%96%8B%E3%81%8D
─
「カロカロ・カロミア~、おしゃれにな~れ!」
2人のウマ娘のセリフがピッタリとハモった。
「はい、OK」
カメラを構えていた男性スタッフが言うと、2人─サトノダイヤモンドとスイープトウショウ─は姿勢を崩した。
外の寒さとは無縁のスタジオの熱気で2人は汗を少しかいている。
「これで撮影終了です。2人ともお疲れさまでした」
撮影をしていた2人と入れ替わるように、スタジオ横にいたスーツ姿の男性が背景布の前にやってきて言った。
スタッフから手渡されたタオルで汗をぬぐいながら2人は男性─撮影の責任者─の話を聞いた。
「今回の撮影でスイープトウショウさんとサトノダイヤモンドさんはカロミアのイメージモデルから卒業します。
今までありがとうございました。」
男性がそう言うと、スタジオの入り口横に控えていたまだ幼い顔立ちのウマ娘たち─次の撮影モデルである─が色とりどり花束をもってスイープトウショウとサトノダイヤモンドの前にやってきた。
「お疲れさまでした!」学園に入学したばかりなのかまだ背丈の低いウマ娘たちがやや緊張した顔で花束を2人に差し出した。
「きれいな花束をありがとう」スイープトウショウは柔和な笑顔を浮かべて受け取った。
「これから2人とも頑張ってください」サトノダイヤモンドは手渡してくれた子に激励の言葉をかけて受け取った。
その後、2人はスタッフ達とあいさつを交わし、やがて時計を見て言った。
「大変申し訳ありません。この後予定がありますので、これで失礼させていただきます。今まで支えてくださりありがとうございます」
- 32/1223/01/11(水) 20:48:23
スタジオ前でタクシーを拾い2人は乗り込んだ。
目的地を伝えタクシーが走り出すと、サトノダイヤモンドは溜まっていたメッセージに返信し、その横でスイープトウショウはもらった花束を眺め始めた。
「ガーベラにアルストロメリア、あらストレチアまで入っているじゃない」
うっとりと花を見つめつぶやくスイープトウショウの姿は、冬の柔らかい日差しと陽気がもたらす長閑さに満ちているように見えた。
(スイープさん、なんかいつもと違って見える…)最後のメールに返信をしたサトノダイヤモンドはふと思った。
サトノダイヤモンドは、スイープトウショウとはすでに数年来の付き合いである。
同じCMに出ていたり、ともに併走や模擬レースも何度もしている。
そんな彼女には今のスイープトウショウは前と何か違って見えている。
(今回の件もそう…いつもならもっと荒れてもおかしくないのに)
カロミアの契約を更新しないと言われたのは数日前だった。
2人とも随分モデルを続けており、この仕事もそろそろ終いであることをうすうす感づいていた。
しかし、あまり急な契約の更新打ち切りの話にサトノダイヤモンドは内心怒りさえ感じていた。
しかしこの話をスイープトウショウが唯々諾々と従ったことは、サトノダイヤモンドにはより不可解に思えた。
いつもなら、手が付けられないような癇癪を起すしてもおかしくないのに、彼女は何も言わずに首を縦に振って終わったのだった。
「あの~、スイープさん?」サトノダイヤモンドは口を開いた。
何、と答えたスイープトウショウにサトノダイヤモンドは続けた。
「この仕事が終わって、寂しくないですか?」
「いろいろ思い出があるから寂しいわよ。でも、そろそろアタシもアンタも潮時だったんじゃない」
そんな姿にサトノダイヤモンドの困惑は深まった。沈黙に耐えられず、彼女はさらに会話を続けた。
「ところで今年でレースを引退する、っていう噂を聞いたのですが、本当ですか?」
「あら?ホントよ」スイープトウショウはにべもなく答えた。
息をのむサトノダイヤモンドに、続けて言った。
「ほら、もう神社に着くわよ」 - 43/1223/01/11(水) 20:48:53
タクシーを降り、狭い路地を進むと、2人は鳥居の前に立った。
「ここも変わっちゃったわね」スイープトウショウはつぶやいた。
最初に来たときはあばら家同然の神社だったのが、今では古めかしいながらも整った佇まいとなっている。
最近はテレビや雑誌に取り上げられることもたびたびあり、松の内も終わった平日というのに人がちらほらと参詣していた。
少しぼんやりと眺めていた2人は、鳥居をくぐって社務所の方へ向かった。
社務所の玄関にはすでになじみとなった老人の姿があった。
「お~い、2人とも忙しいのにようきてくれたのう」
神主がニコニコと笑いながら言った。
「もう、連れの子たちは来ているから、さっそく始めようかのぉ」
今日、2人がこの神社に来たのは2つの理由がある。
1つは例年の恒例行事となった『ウマ巫女参り』の反省会であり、もう1つは鏡開きという名の慰労会のためである。
いつもなら、神事を復活させた5人─スイープトウショウ、サトノダイヤモンド、キタサンブラック、スペシャルウィークにグラスワンダー─が集まって神主や氏子、神事の関係者とお汁粉を食べながら団らんするのが恒例となっている。
しかし、今年はこの2人しか来ていない。
グラスワンダーはアメリカに帰っており、スペシャルウィークは北海道、そしてキタサンブラックは慰労会の予定も明けられないくらいスケジュールが詰まっていた。
そして、今年はいつもと違うことがもう一つあった。 - 54/1223/01/11(水) 20:49:13
「…これが連絡先のリストになります。必ず1週間前までに連絡するようにしてください」サトノダイヤモンドは集まったウマ娘たちにリストを渡した。
神妙な面付きで頷く者、重要そうなところに線を引く者など様々なな生徒が10人くらい集まっている。
ただどのウマ娘も、真剣に聞いていることが頼もしく感じた。
(この子たちなら、安心して任せられる)サトノダイヤモンドはそう思いながら説明を続けた。
─去年スペシャルウィークとグラスワンダーが学園を去り、残った3人は今までのやり方を変えることにした。
それまで5人と神社の人のみで行っていたウマ巫女参りを手伝ってくれるウマ娘を新たに募集したのである。
幸い、後輩の中にもやってみたいという子が何人も集まった。
今日は彼女たちに運営の内容の共有を行う日でもあった。
「ここまでで何か質問ある子はいる?」スイープトウショウが聞いた。何人かが手を上げ質問し、それを2人は答えた。
やがて質問が止むと、サトノダイヤモンドは口を開いた。
「このイベントは私たちが今まで支えてきました。今後もより良くするため皆さんの考えを積極的に出してくれることを期待しています。
皆さんと作る来年のウマ巫女参りがどのようになるのか今から楽しみです」
ぺこりと頭を下げ、顔を上げたサトノダイヤモンドは微笑みながら言った。
「難しい話はここまでです。今からみんなでお汁粉を作りましょう!」 - 65/1223/01/11(水) 20:49:41
祭壇には一抱えもある鏡餅が備えられている。
神主と一同が祭壇に一礼したのち、ウマ娘の一人が鏡餅を持ち上げた。
そのまま、白布を敷いた台の上に丁寧に下ろすと、飾りを取り外した。
やがて飾りを取り外しおわると、鏡餅を中心に皆が円となり囲んだ。
「それじゃあ、今年もいつものヤツをやろうかのぉ」そう言うと、神主は今年のウマ巫女役をしたサトノダイヤモンドとスイープトウショウに、小さな木槌を手渡した。
「じゃあ、行くわよ。みんなでカウントうダウンしなさい」スイープトウショウがそう言うと周りのウマ娘たちが「10...9...」と数えだした。
「…3…2…1…ゼロ!」その声とともに木槌を持った3人は鏡餅に振り落とした。
木槌の当たった餅が砕けると、拍手が沸いた。ふぅ、と一息ついたサトノダイヤモンドは周りに言った。
「皆さん、ありがとうございます。そうしましたらお餅を厨房まで運びましょう」
調理が済むと、いよいよお汁粉が皆にふるまわれた。
湯気立つお汁粉と飲み物がいきわたったことを確認した神主が声を発した。
「みんな今回のウマ巫女参りお疲れ様。今年も成功したことに乾杯」そう言うと神主はグラスを上げた。
かんぱーい、と続き、皆がグラスを上げると、20人ほどいる参加者はお汁粉を食べ始めた。
食事が始まると、参加者は三々五々になって会話をし始めた。
中でも一番集まっていたのは、スイープトウショウであった。
「ウマ巫女参りで出す屋台なんですがこういうのはどうですか?」「イイじゃない!面白いアイデアよ。もっとよく聞かせてくれない?」
「最近はやっているトレーニング方法についてどう思いますか?」「あのトレーニングね。海外でも取り入れているウマ娘は増えているって聞くわよ。ただ…」
「私、この前のレースのことを相談したいです…」「レースの画像を見せてもらえる?…仕掛けるタイミングは完ぺきね。あとは…」
スイープトウショウは進んで質問に答えていた。
そんな様子をサトノダイヤモンドはお汁粉を食べながら見ていると神主が話しかけてきた。
「この前の有馬記念はみんなよく頑張ったのぉ」
「え、ええ」サトノダイヤモンドがあいまいに相槌を打つと、神主が少し首をかしげた。
「何か気になることでもあったのかの?」 - 76/1223/01/11(水) 20:50:14
─有馬記念は結果だけ見れば順当に終わった。
レースは当初から本命視されていたキタサンブラックが、危なげなく勝利した。
そんな中、サトノダイヤモンドは6着、スイープトウショウは10着であった。
サトノダイヤモンドはフランスからの遠征帰り、スイープトウショウは今まで走ったことのない距離であり、2人とも本命視されていなかったので順位も分相当なものであろう。
「…ただ、スイープさんのレースは今まで見たことのないものでした」サトノダイヤモンドは言った。
お変わりようのお汁粉を温めにサトノダイヤモンドと神主は厨房に来ている。
スイープトウショウの持ち味は、最終直線での彗星のような末脚による追込である。
それが、今回のレースでは初めから先行したのである。
「ここまでなら、作戦を変えたのか掛かってしまったのかとおもいました」サトノダイヤモンドが続けて言った。
作戦を変えることもレース中に掛かってしまうことも珍しいことではない。
「だけど、掛かってしまったとは思いませんでした」
レース中に見たスイープトウショウの姿は決して冷静さを欠いたものではなかった。
むしろ、不敵ささえサトノダイヤモンドは感じていた。
「…しかし、最後まで良いところなく終わったんじゃろ?」神主は言った。サトノダイヤモンドはそれに頷いた。
「儂はレースに詳しいわけではないが、詰まるところ冷静さを失っていたか、スイープちゃんに距離が合わなかったかじゃないのかのぉ?」
「私も最初は思いました。ですが、その前にスイープさんは京都大賞典に勝っています」
京都大賞典は2400mのレースである。単純な比較はできないものの有馬記念は決して走れない距離でない。
それに、サトノダイヤモンドはこの数か月スイープトウショウが体力をつけるトレーニングをしていたことを知っている。
「なによりも…」サトノダイヤモンドは一瞬ためらったが続けて言った。
「レースが終わった直後でした。スイープさん、怒るわけでもなく泣いてすらいませんでした」
ウィナーズサークルに立つキタサンブラックを信じられないものでも見るかのようにジッと見つめるスイープトウショウの形相は、サトノダイヤモンドの脳裏にまだ刻まれている。 - 87/1223/01/11(水) 20:50:43
デザートの柿を食べ終わると、会はお開きになった。
氏子や関係者たちは、次の酒の席へと向かっていった。
次いで片づけを終わらせたウマ娘たちを帰らせると、サトノダイヤモンドとスイープトウショウは最後の見回りを行った。
見回りが終わり、最後に厨房に来たサトノダイヤモンドは言った。
「スイープさん、もしよければ一緒に飲み物などいかがですか?」
「いいわよ。何を飲もうかしら?」スイープトウショウは答えた。
既に飲み物は空のものしか残っていない。空ではないジュースは先に帰ったウマ娘に持たせてしまった。
「そうだ!そうしたら」サトノダイヤモンドはポンと手を打った。
サトノダイヤモンドは神主に許可をもらうと、おいてあった鏡餅の飾りの橙をお椀へ絞った。
そのまま、絞った果汁に砂糖をたっぷりと入れ、その上にお湯を注いだ。
「はい、どうぞスイープさん」サトノダイヤモンドはスイープトウショウへ即席の橙ジュースを手渡した。
ありがとう、と言ってスイープトウショウは口をつけた。
「ニガくて酸っぱい」顔をしかめたスイープトウショウは砂糖に手を伸ばした。
「ふふふっ。これ、鏡開きの後によく作って飲みました、キタちゃんの家で」
そう言うと、ジュースを一口飲み、続けて言った。
「キタちゃんの家って、伝統とかしきたりとか大切にしているんですよ。このジュースも風邪予防って言われて毎年飲んでしました」
そう、とそっけなく答えていたがスイープトウショウの耳がピクピクと動くのをサトノダイヤモンドは見逃さなかった。
「スイープさん、本当に今年で引退するのですか?」サトノダイヤモンドは訊ねた。
しばらく沈黙が続き、やがてスイープトウショウは答えた。
「サトノ、なんでアタシが有馬記念に出たと思う?」
「キタちゃんと走りたかった、とかですか?」
スイープトウショウは一瞬間を取り、言った。
「そうよ。ただし、アタシはキタサンだけじゃなくてアンタとも走ってみたかったの。
サトノが日本にいるうちに、ね」 - 98/1223/01/11(水) 20:51:10
2人以外誰もいない台所に、沈黙が垂れこめた。
やがてサトノダイヤモンドは言った。
「そのことをどうして?」
「アタシも噂で知ったのよ。それでアンタのトレーナーに聞いたら本当だって答えてくれたわ」
まだ公表していないが、サトノダイヤモンドは今年から海外へ遠征することに決めている。
それも、以前のようにレースに出て帰ってくるわけではない。
「確実に勝ちに行くためしばらくは海外に移り住むなんて、スゴいじゃない!」
スイープトウショウは微笑んだ。そして続けて話した。
「アンタとはトレーニングや模擬レースは一緒にした。でも一度もおんなじレースには出たことがないじゃない」
サトノダイヤモンドは頷いた。
サトノダイヤモンドがシニア期になると入れ替わるようにスイープトウショウはマイル路線を進むようになった。
また、サトノダイヤモンドはここ最近海外のレースを見据えて出走している。そのため、2人が同じレースに出たことは一度もなかった。
「アンタの走り、すごかったわ!向こうでも楽しみにしているわよ」
笑いながら言うスイープトウショウに、サトノダイヤモンドは答えた。
「それと、スイープさんの引退に何のかかわりがあるんですか?」
「…レースは万全を尽くしたつもりだったわ。使い魔とも相談して、ゼッタイ勝てるような作成を立てたのしたのよ」
砂糖を多く入れたジュースを一口飲み、スイープトウショウは続けて言った。
「でも、届かなかった。サトノにも、キタサンにも。それに、ドリームトロフィーへの招待がこの前アタシにもとうとう来たの」
ドリームトロフィーは選ばれたウマ娘が参加できるレースである。
しかし、それは同時にすでにスイープトウショウの能力に衰えが来ていることも示唆していた。
「だったら、アタシはもうレースをやめるわ。
そしたら、新しい魔法を見つけに行くの」
フフっと笑うスイープトウショウに、サトノダイヤモンドは静かに言った。
「本当にそれだけですか?」
スイープトウショウの笑いが消えた。サトノダイヤモンドは続けた。
「私はスイープさんが満足しているように見えません。
…何かあったのではないですか?」 - 109/1223/01/11(水) 20:51:31
お湯を注いだジュースは、すっかり冷めている。
ジッと目をつむったスイープトウショウがやがて、言葉を選びながら言った。
「これはキタサンには、ナイショよ」サトノダイヤモンドが首を縦に振るとスイープトウショウが続けた。
「最近、キタサンとはロクに会えていない。話すことだってほとんどないの」
キタサンブラックは今や時代の寵児である。広告にURAの行事にテレビ出演さえこなしている。
多忙で寮に帰ってこない日も珍しくなかった。
「クラスに行ってもめったにいない。アタシの魔法のレンシューに付き合うこともなくなったわ」
スイープトウショウは耳を垂らし言った。
「だったら、同じレースに出ればまた話せると思った。でも…」
スイープトウショウはそこで言葉を詰まらせた。
そのまま残ったジュースをひと息に飲むと、やがてゆっくりと口を開いた。
「一言さえ話すことはできなかった。それどころか、アタシには目さえ合わせてくれなかったの」
サトノダイヤモンドはジッと聞いていた。
「同じレースに出ればまた前のようになる思っていた。でも、かえって何もわかんなくなっちゃって」
そう言うとスイープトウショウは何かを諦めたかのように肩をすくめた。その姿にはいつもの気丈さは失せていた。 - 1110/1223/01/11(水) 20:51:52
再び、部屋に沈黙が訪れた。
ふとサトノダイヤモンドのスマホが震えた。
サトノダイヤモンドがスマホを取り出し操作している姿を、スイープトウショウはぼんやりと見ていた。
スマホをしまうと、サトノダイヤモンドは優しく微笑み言った。
「私は、キタちゃんがスイープさんを見ていないなんて思いません。きっとスイープさんが何か勘違いしているだけだと思います」
その言葉に、何か言おうとしたスイープトウショウを遮って、サトノダイヤモンドは続けた。
「それと私も『木のウロ』ではありません。後は本人たちでよく話してください」
そういうこと、とスイープトウショウが言おうとしたとき、厨房の入口から声がした。
「スイープさん」
「…キタサン」
黒髪の友人の姿を見たサトノダイヤモンドはもう一度微笑み立ち上がると、スイープトウショウだけに聞こえるよう囁いた。
「いつかのお礼です。私が旅立つまでには元通りに戻っていて下さいね」
そしてお椀を置き席を立つと、厨房に入ってくるキタサンブラックと入れ替わるように出ていった。
出て行く時、サトノダイヤモンドはキタサンブラックと目を交わした。キタサンブラックはその目を一瞬だけ見つめ返し少し微笑むと、スイープトウショウの方へ向かっていった。
やがてキタサンブラックとスイープトウショウが言葉を交わし合っていたが、サトノダイヤモンドは聞くことはなく神主のいる部屋に挨拶しに向かった。 - 1211/1223/01/11(水) 20:52:13
─凍り付くかのような夜の中、1人で鳥居をぬけるウマ娘の影があった。
神主には、先に帰ること、2人がまだ少し残ることも伝えている。
「タクシーで帰ろうかな…」サトノダイヤモンドはブルッと身を震わせて言った。
先ほどはスイープトウショウにあんなことを言ったサトノダイヤモンドだが、時々隙間風のような不安が吹き込んでくることがある。
初めてウマ巫女参りをした時から随分経った。
─キタサンブラックは、誰もが知っているスターになった。キタサンブラック自身をテーマにした曲がまもなく発表されると聞いている。
─スイープトウショウは、初めて会ったときよりずいぶん背が伸び大人びてきた。彼女を慕い彼女と同じチームに入ろうとするウマ娘も少なくない。
─サトノダイヤモンドも海外で新たな栄光をつかむという新たな目標ができた。おそらく世界中を行き交うことになる。やがては実家の仕事も手伝っていくことになるだろう。
3人だけではない、みんな少しずつしかし確実に変わってきている。
行く道は離れては交わり、時にはぶつかり、あるいはすれ違うかもしれない。
次に再会したとき、相手は知らない誰かのようになっているかもしれない。
寮の部屋に1人きりで眠ろうとすると、時々そうした気持ちが押し寄せてくる。
だが、サトノダイヤモンドは知っている。
キタサンブラックもスイープトウショウも、一番大事な部分は何があっても変わらないことを。
そして、その部分こそサトノダイヤモンドが2人の一番好きなところであることを。
「今度は私も、ゆっくりとキタちゃんと話ししてみようかな」サトノダイヤモンドは口の中でつぶやいた。
、サトノダイヤモンドの帰り道を、満月からやや欠けた月が頼りなくとも煌々と照らしていた。
(了) - 1312/1223/01/11(水) 20:52:46
あとがき
お読みくださいまして誠にありがとうございます。
またもし前作を読んでくださった方がおりましたら、再び拙作品を読んでくださったこと重ねてお礼申し上げます。
前回、感想を欲しいといったにもかかわらず、返信ができなかったこと大変申し訳ございませんでした。
いただいたコメントやご指摘はすべて拝読し、参考にさせていただきました。
今回の正月イベントは3人が好きな自分にはとてもうれしいイベントであり、こうして再びSSを書かせていただきました。
また感想やご指摘をくださいますと嬉しく存じます。
最後にまだ寒さ厳しい折柄、皆様の健康をお祈りして筆を擱かせていただきます。